これからの時代のイノベーションを考える上で、AIの活用は無視できない要素のひとつと言えるでしょう。その検討に研究部隊が関わることも多いと思いますが、AIの活用、適用のしかたによって得られる成果は大きく異なるのではないかと思います。このような状況は、何もAI技術に限ったことではなく技術全般について言えることではありますが、AIの場合は、その影響の範囲が意思決定や働き方、サービス、マーケティングといった、従来一般に「事務系」と言われてきた仕事にも大きく広がっていることもあって、マネジメントの分野でも大きな注目を集めているように思います。

今回は、そうしたAI活用のマネジメントについて議論したHBR誌記事Fountaine, McCarthy, Saleh著「Building the AI-Powered Organization」[文献1]を取り上げたいと思います。この記事では、AIをうまく活用できる組織はどのようなもので、そうした組織をどう作っていけばよいのかが主に議論されており、その指摘には、技術の活用全般についても役立つ点が多いのではないかと感じました。以下、興味深く感じた点を中心に内容をご紹介したいと思います。

著者はまず、「AIが大きな可能性を持っているにもかかわらず、多くの組織で取り組みが不足している。」と指摘しています。その結果、「著者らの調査と、何百ものクライアントとの仕事において、AIへの取り組みが大きな文化的、組織的障害に直面していることを見てきた。」と述べています。以下、そうした障害とその克服のためにはどうすればよいのかについての著者の主張を見ていきたいと思います。

変革するMaking the Shift
・「リーダーが犯す最大の過ちの1つは、すぐに利益が得られるプラグアンドプレイ技術のようにAIを捉えてしまうことだ。」とし、さらに「リーダーは、AIに必要とされるものを狭く考えすぎてしまうことがある。最先端の技術と才能が確かに必要ではあるが、同様に、企業文化、構造、働き方を連携させることが、幅広いAIの適用をサポートするのには必要だ。」と述べています。そして、「AIをスケールアップするには、次の3つの変化が必要」としています。
細分化された仕事から分野を越えた協働へFrom siloed work to interdisciplinary collaboration
・「AIは、異なるスキルと視点を持つ機能横断型のチームによって開発される場合に、最も大きなインパクトを与える。ビジネスやオペレーションを担当する人々と分析の専門家が手を携えることで、単に狭い範囲の業務の課題だけでなく、幅広い組織の優先事項の解決に向けた取り組みが確実なものとなる。」
経験に基づくリーダー主導の意思決定から、データに基づく最前線での意思決定へFrom experience-based, leader-driven decision making to data-driven decision making at the front line
・「AIが広く適用されている場合、従業員は職階の上下を問わず自身の判断や直感を、アルゴリズムによる提案によって強化することで、人単独、機械単独で得られるものよりもよい答えを導くことができる。しかし、このような仕事の方法は、すべての階層の人々がアルゴリズムによる助言を信じ、意思決定における権限を与えられていると感じている必要がある――ということは、伝統的なトップダウンアプローチを放棄することを意味している。もし、従業員が行動を起こす際に上司に相談しなければならないとすれば、AIの使用を妨げてしまうことになる。」
固定的でリスク回避的なものから、機敏で、実験的、融通のきくものへFrom rigid and risk-averse to agile, experimental, and adaptable
・「組織は、実適用の前に、アイデアを十分に検討しなければならないとか、周辺機能も完備していなければならないといった考え方を捨てなければならない。AIアプリケーションが最初からすべての必要な機能を持っていることはほとんどない。試行から学習するという考え方により、発見の源として失敗を捉えることを促し、失敗の可能性を減らすのだ。」

成功の仕組みをつくるSetting Up for Success
・「従業員を巻き込み、うまくいくAIをスムーズに立ち上げるために、リーダーは早い段階からいくつかの注意を払わなければならない」

理由を説明するExplaining why
・「リーダーはすべての人を共通の目標の周りに集めるようなビジョンを準備しなければならない。なぜAIがビジネスに必要なのか、どうすれば新しいAI志向の文化に適応できるのかを労働者は理解しなければならない。とりわけ、AIが彼らの役割を減らしたりなくしたりするのではなく、強化するものであることをあらためて確認する必要がある。」
変化に対する個別の障害を予測するAnticipating unique barriers to change
・「障害の中には、労働者が時代遅れになってしまうというような組織内部で共通する恐れもある。しかし組織には、抵抗の原因となる個別特有の文化もある。例えば、・・・機械より顧客のことがよくわかっているというようなマネジャーのプライドや、・・・自分が管理する人の数がステータスの象徴になっている人がAIのもたらす権限委譲に反対する場合などだ。」「また、分野に細分化されたプロセスがAIの広範な採用の障害となることがある。例えば、予算を分野や部署に割り当てる組織では、アジャイルな組織横断的チームの形成に苦労することがある。」
技術と同じぐらいの(それ以上でないとしても)予算を統合と適用のために確保するBudgeting as much for integration and adoption as for technology (if not more)
・「著者らの調査によれば、拡大がうまくいった企業の約90%が、分析のための予算の半分以上を、ワークフローの修正、コミュニケーション、トレーニングといった、適用を促す活動に費やしていた。」
実行可能性、時間的投資、価値のバランスをとるBalancing feasibility, time investment, and value
・「AIによる不正検出など、人の介入を必要としない自動化プロセスは、数ヵ月で効果を得ることもできるが、AI支援カスタマーサービスのような人が含まれるプロジェクトではもっと長い時間がかかってしまいやすい。」

拡大のための組織をつくるOrganizing for Scale
・「AIと分析の機能を組織のどこに置くべきかについては議論がある。多くの場合、AIと分析の大部分を中央の『ハブ』に強化するか・・・ほとんどをビジネスユニット(『スポーク』)に分散して埋め込むか、・・・両方に分散させるハイブリッド(『ハブアンドスポーク』)にするかだ。」
ハブ
・「いくつかの責任はハブが持つことが好ましく、最高分析責任者や最高データ責任者によって率いられる。データの管理、採用とトレーニング戦略、サードパーティのプロバイダやAIサービス、ソフトウェアなどが対象となる。AIタレントの育成、AI専門家がベストプラクティスを共有するコミュニティづくり、組織全体でのAI開発のプロセス作成なども含む。」「ハブはAIのシステムと標準にも責任を持つべきだ。」
スポーク
・「いくつかの責任はAIシステムを使う人々に最も近いスポークが負うべきだ。エンドユーザーのトレーニング、ワークフローの再設計、インセンティブプログラム、パフォーマンス管理や影響の追跡などの業務だ。」
グレーの領域
・「AIに移行するための多くの仕事の責任はグレーの領域に分類される。AIプロジェクトの方向づけ、解決すべき問題の分析、アルゴリズム構築、ツールのデザイン、エンドユーザーとのテスト、変化の管理、支援のためのITインフラ構築などはハブとスポークのどちらでも可能だ。・・・組織のどちらが責任を持つかを決めるのは次の3つの要因による。」
AI
能力の成熟度The maturity of AI capabilities
・「企業がAI化の初期段階にある場合、分析のエグゼクティブ、データサイエンティスト、データエンジニア、ユーザーインターフェースデザイナー、分析結果を図示して解釈するビジュアリゼーションスペシャリストはハブに配置して、必要に応じてスポークに配置するようにする。」
ビジネスモデルの複雑さBusiness model complexity
・「ビジネス機能やライン、AIがサポートすべき地域の数が多くなるほど、AI専門家(データサイエンティストやデザイナー)の共同体を築く必要が増える。複雑なビジネスを行う企業はこの共同体をハブに設け、必要に応じて、ビジネスユニット、機能分野、地域に割り当てる。」
必要な技術的イノベーションのペースとレベルThe pace and level of technical innovation required
・「迅速なイノベーションが必要な場合、グレーの領域の機能と能力構築をハブに設置し、業界と技術変化をよりよくモニターし、競争を避けるために素早くAI資源を配置する。」
管理と実行Oversight and execution
・「AIの普及と分析の責任は組織ごとに異なるが、AIをスケールアップする組織には2つの共通点がある。」
ビジネス、IT、分析リーダーの連携の管理Governing coalition of business, IT, and analytics leaders
・「AIの完全な統合には時間がかかる。その管理のためのタスクフォースを作れば、どのように役割と責任が分割されていても、3つの機能の協力と、説明責任の分担が確実になる。」
任務に基づく実行チームAssignment-based execution teams
・「AIをスケールアップできる組織は、スポークに分野横断的なチームを設置している割合が2倍になっている。このようなチームは、多様な観点を集め、新たなAIを構築し、配置し、モニターする際に第一線のスタッフからのインプットを求める。」

すべての人を教育するEducating Everyone
・「AIの適用を確実にするためには、企業はトップ以下すべての人を教育する必要がある。この目的のため、いくつかの組織ではAIアカデミーを立ち上げている。」「アカデミーは様々だが、ほとんどは4種類の指導を行う。」
リーダーシップ
・「ほとんどのアカデミーは、上級エグゼクティブと事業部のリーダーが、AIの機能とAIのもたらす機会の特定と優先順位づけについての深い理解ができるよう努力している。」
分析Analytics
・「データサイエンティスト、エンジニア、設計者、データ分析や管理AIソリューションを行う他の従業員、のハード、ソフトスキルを定常的に磨くことを狙う。」
翻訳者Translator
・「翻訳者はビジネススタッフから派遣されることが多く、例えば、分析的アプローチをビジネスの問題やAIケースに適用する方法について基礎的な技術トレーニングを受ける必要がある。」
エンドユーザー
・「現場の労働者は、新しいAIツールについての一般的な紹介と、使い方のOJTとコーチングのみが必要。」

変化を強化するReinforcing the Change
・「ほとんどのAI変革は18~36ヶ月かかり、5年以上かかるものもある。その間、勢いを失わないように、リーダーは次の4つのことを行う必要がある。」
有言実行Walk the talk
・「ロールモデルは不可欠だ。まず最初にリーダーはアカデミーのトレーニングに参加してAIへのコミットメントを示すことができる。そして新しい働き方を積極的に奨励する必要がある。」「最も効果的なロールモデルは謙虚であることだ。」
責任をもつMake business accountable
・「分析は単にビジネス上の問題を解決するための手段なので、プロジェクトをリードし、その成功について責任を持つのはビジネスユニットだ。」「すべてのステークホルダーのプロジェクトに関するパフォーマンスの数値指標をまとめるスコアカードは、分析とビジネスチームの目標を一致させるよい方法だ。」
適用状況を追跡し促すTrack and facilitate adoption
・「AIを使って出した決断と、使わない決断の結果を比較すると、従業員にその使用を促すことができる。」
変化に対するインセンティブを与えるProvide incentives for change
・「承認は、長期にわたり従業員を鼓舞する。」「企業は、従業員へのインセンティブがAIの使用と本当に一致しているかをチェックする必要がある。」

AI
プログラムが失敗する原因
1,先進的分析を明確に理解していない。先進的分析と従来の分析がどう違うかを理解せずに、データサイエンティストやエンジニアなどのキープレーヤーを集めてしまう。
2,実行可能性、ビジネス上の価値、時間的展望を評価せず、最初の年の短期的利益と、長期的利益のバランスを考えずに始めてしまう。
3,わずかな事例以上の戦略を持たず、AIが業界にもたらす機会と脅威についての全体像を考慮せずにその場限りの方法でAIに挑む。
4,強力なAIプログラムが必要とするスキルセットとタスクの複雑さを理解していないため、カギとなる役割を明確に定義していない。
5,有望な使い方を明らかにし、ビジネスニーズと技術の専門家のコミュニケーションをとり、ユーザーの賛同を得ることによって、ビジネスと分析部門の橋渡しをする「通訳者」や専門家が欠けている。
6,分析とビジネスを切り離し、柔軟性なしに分析を集中化したりうまく調整されていないサイロに閉じ込めることによって、分析とビジネスの専門家が密に連携して働けなくしてしまう。
7、データの整理統合とクリーンアップを最も価値のあるケースに合わせるかわりに、全社的にデータのクリーニングに時間とお金を浪費してしまう。
8,ビジネスケースを特定せずにフル装備の分析プラットフォームを作り、必要かどうかもわからないデータレイクや不要な過去のシステムとの統合をしてしまう。
9、それぞれの活動に取り組むための明確な指標によるパフォーマンス管理の枠組みを持たずに、収益への定量的なインパクトを無視してしまう。
10、データ収集や使用、アルゴリズムのバイアス、その他のリスク、社会的法的結果について、可能性のある脆弱性を放置して、倫理的、社会的、規制上の影響を軽視してしまう。

結論
・「AI活用を大規模に進めることは好循環をもたらす。」「AIツールが組織全体に広がるにつれ、現場に最も近い人が、かつては上層部が行っていた決断を行うことがますます可能になり、組織の階層をフラット化する。その結果、協力とより大きな思考を促進する。」
・「AIの活用を組織全体で進めることに秀でた企業は、人と機械が協働することで人や機械単独の場合より優れた成果をあげるという大きな利点を持つことに気づくだろう。」
---

AI
活用の大きな可能性については、様々なところで言われています。しかし、それが今までの仕事のやり方、意思決定のしかたの変革を迫り、そのためそれがAI導入の妨げになりうることは注意が必要でしょう。そうした点のしっかりとしたマネジメントができなければ有効なAIの導入は難しいのかもしれません。

実はこうした導入の難しさはAIに限らず、技術開発の様々な場面で経験することがあります。AIの場合、その活用の効果が人間の意思決定の場面で強く現れてくる点が特徴的であり、そのため、技術の適用や普及における課題がより浮き彫りになっているところがあると思います。そう考えると著者の指摘は、技術で何かを変えようとするあらゆる技術者にとって、貴重な考える材料を提供してくれているのではないでしょうか。AIに限らず、新技術を有効に活用できるかどうかは企業にとって重要です。AI技術がどう世の中を変えるかとともに、どうやって世の中に受け入れられていくのかにも注目していくべきなのかもしれません。


文献1: Tim Fountaine, Brian McCarthy, Tamim Saleh, “”, Harvard Business Review, July-August, 2019, p.62.
https://hbr.org/2019/07/building-the-ai-powered-organization