ロボットやAIの発達とともに、インテリジェントな機械と人間が一緒に働く状況は増えていくでしょう。しかし、そうした変化の常として、よいことばかりが起こるとは限りません。では、どのようなことに注意する必要があるのか。今回は、機械の導入による人間の学習の問題を考察したHBR誌の記事、Beane著「Learning to Work with Intelligent Machines」[文献1]をご紹介したいと思います。

著者は、ロボットやインテリジェントな機械とともに働く場合、仕事のやり方をどう学ぶかが従来とは変わってくることを指摘しています。従来であれば、on-the-job learningOJL)で仕事のやり方が学べたものが、それが難しくなる場合があり、その結果、機械をうまく使えなかったり、人が重要なスキルを学び損なったりすることが起きるといいます。著者はこうした状況を調査した結果、著者が「シャドウ学習」(shadow learning)と呼ぶ、非公式な(機械導入時に想定していない)学習形態が採用されることを見いだし、そうした学習の形から機械との働き方を学ぶヒントが得られると考えているようです。以下、記事の中から興味深く感じた点をまとめておきたいと思います。

OJL
とシャドウ学習
・「数十年にわたる研究は、雇用者が提供する訓練は重要ではあるが、特定の仕事を高い信頼性で行なうのに必要なスキルの大部分は、やってみることによってのみ学ぶことができることを明らかにしている。」
・「今日、OJLは危機にさらされている。複雑な分析やAI、ロボットを様々な仕事にむやみに導入することは、この由緒ある効率的なアプローチを基本的に破壊している。・・・私たちは、訓練を受ける人たちから学習の機会を奪い、専門家を実行の現場から遠ざけ、両者に古い方法と新しい方法を同時に学ぶことを義務づけて過負荷が生じていることを発見した。」
・「では、従業員はこうした機械のそばで、どのように仕事を覚えるのか。ヒントは、基準に異議を唱えるような実務を、陰に隠れてそれによってもたらされる結果を大目に見てもらえるようなやり方で行なっている人々を観察することから得られる。このような広く存在する非公式なプロセスを私はシャドウ学習と呼んでいる。」

学習の障害Obstacles to Learning
・「私は、必要なスキルを身につける上で広く見られる4つの障害を明らかにした。これらの障害がシャドウ学習を促している。」
1、訓練を受ける人が「学びの場」(learning edge)から遠ざけられている。
・「どんな仕事でも人々を訓練するにはコストがかかり、質の低下を伴う。これは、初心者は仕事が遅く、ミスをするからだ。組織がインテリジェントな機械を導入するとき、訓練を受ける人をハイリスクで複雑な仕事から遠ざけることで問題をなんとかしようとする・・・。そのため、訓練を受ける人は、新しいスキルを学ぶのに必要な、彼らの能力の限界近くで頑張ったり、限られた助けを頼りにミスを克服したりする状況から遠ざけられてしまう。」
2、専門家も仕事から遠ざけられる。
・「時には、インテリジェントな機械は、専門家が現場の重要な仕事をしなくなるように配置されることがある。」
3、学習者は、古い方法と新しい方法の両方をマスターするよう期待されている。
・「カリキュラムに、新旧両方の方法を徹底的に学ぶための十分な時間が確保されていないと、しばしば、どちらもマスターできないという最悪の結果となる。私はこの問題を方法論的過負荷(methodological overload)と呼んでいる。」
4,標準的な学習方法は有効であると思われている。
・例えばロボットを用いる外科手術では、「ロボット手術のために新たな学習方法が必要であることが明らかであるにもかかわらず、確立された学習方法に頼ろうとする圧力はとても強く、手術訓練の研究、標準的方法、政策、幹部外科医はみな、従来の学習アプローチを重視しつづけている。」

シャドウ学習による対応(Shadow Learning Responses
・「このような障害に直面してシャドウ学習者は、必要な知識と経験を得るためにルールを曲げたり破ったりする。・・・彼らのアプローチはしばしば独創的で効果的だが、個人的あるいは組織としての犠牲を払っている。シャドウ学習者は罰せられるかもしれないし(例えば、練習の機会や地位を失うかもしれない)、無駄になったり害を引き起こしたりする。しかし、確立された手段がうまく機能せず、彼らの学習方法がうまくいくため、人々は繰り返しこうしたリスクを取る。こうしたルールから逸脱した実践を無批判に受け入れることはほとんどの場合悪い考えだが、組織は彼らから学ぶ必要がある。シャドウ学習では以下のことが、実際に行なわれていることがわかった。」
苦労して進む方法を探す(Seeking struggle
・「シャドウ学習者は、緩い監視の下、彼らの能力の限界近くで実行する機会を探す。」(実行の機会を得るために、実行させてくれる環境を求める。)
最前線のノウハウを活用する(Tapping frontline know-how
・指導者をバイパスして最先端から直接学ぶ。
役割を再設計する(Redesigning roles
・「人々は、組織が公式に認めなくても、仕事により適合した新しい役割を、戦略的に選んだり開発したりする。」
解決手段をキュレーションする(Curating solutions
・専門家のやり方を細かく記録し注釈をつることで学習し、結果をシェアする。

シャドウ学習者から学ぶ
・「シャドウ学習は、対処すべき問題に対する理想的な解決法ではない。仕事を覚えるために解雇されるリスクを負うようなことはあってはならない。このような実践手段は、専門性を獲得するのがより難しく、重要になっている世界で、苦労して得られ、試されたものだ。」
・「シャドウ学習者が提供してくれる教訓を活用するには、技術者、マネジャー、専門家、ワーカーは次の事をしなければならない。」「学習者が彼らの能力の限界の近くで、実際に奮闘し(シミュレーションではなく)失敗を克服する機会を確保する。」「優秀な最前線のワーカーがインストラクターやコーチとして働けるような明確な仕組みを育む。」「学習者がインテリジェントな機械とともに働く新たなやり方をマスターするために、役割とインセンティブを再構築する」「学習者が利用でき、必要に応じて貢献もできるような、検索可能で、注釈がつけられた、ツールと専門家のガイダンスを含むクラウド上の『スキル保管庫』を築く」

3つの組織戦略
・「我々の研究から、シャドウ学習者からの学びをより効果的にするさらに広い3つの組織上の戦略を導くことができる。」
1、学びを続ける(Keep studying it
・「インテリジェントテクノロジーの能力が向上するにつれ、シャドウ学習は急速に進化している。時間とともに新しい形が現れ、新しいレッスンがもたらされている。・・・シャドウ学習者は彼らの行動が逸脱していて罰せられる可能性があることをしばしばわかっている。」「よい解決方法としては、さまざまなケースの実践を比較しながら匿名性を維持できるような中立的なサードパーティーを導入することだ。」
2,あなたが見つけたシャドウ学習の実践を、組織設計、仕事、技術に適用する
3,インテリジェントな機械をソリューションの一部にする
・「努力している学習者をコーチし、メンターシップに関して専門家をコーチし、この2つのグループをスマートに結びつけるようなAIを構築することが可能だ。」

結論
・「何千年もの間、技術の進歩は仕事のプロセスの再設計を促し、見習いはメンターから必要な新しいスキルを学んできた。しかし、ここで見たように、生産性の名の下、インテリジェントな機械は、見習いを親方から引き離し、親方を仕事から引き離している。組織は意図せずに、よく考えられた人間の関与よりも生産性を選んでしまうことがある。その結果、仕事を通じた学び(OJL)はより難しくなってしまう。にもかかわらず、シャドウ学習者は、学ぶために、リスキーで規則に従わないやり方を見つけている。インテリジェントな機械がますます満ちあふれる世界で競争することを望む組織は、こうした『逸脱者』に注意を向けるべきだ。彼らの行動は、専門家と見習いとインテリジェントな機械が共に働き、共に学ぶ未来で、どうしたらベストな働き方ができるかの洞察を与えてくれる。」
---

人材育成は短期的には非効率なものです。しかし優れた人材の育成なしには、長期的な繁栄は望めないでしょう。もちろん、組織や仕事の特性によって、短期的効率性の追求と、人材育成の重要度のバランスは異なるでしょうが、どちらもが組織の発展にとって不可欠であることは多くの方が認めるところではないでしょうか。

そんな中で、AIやロボットといったインテリジェントな機械の登場は、効率性追求や人材育成のやり方、考え方に大きな影響を与えつつあることはよく認識しておくべきでしょう。AIの導入や自動化が人の学習プロセスに与える悪影響については、本ブログ別稿(「オートメーション・バカ」など)でもご紹介しましたが、今回取り上げた記事の特に興味深い点は、困難な状況でもなんとかして学習をしようと苦闘するシャドウ学習者に注目したことでしょう。そうした人々から引き出したノウハウは新しい学習方法を生み出すヒントとなり、さらにはAIなどと人間との望ましい関わり方に関する示唆も与えてくれるように思います。

AI
がさらに発達すれば、人間の学習が必要なくなり、すべてを機械に任せられる時代がくるのかもしれません。そう考えると、現在は過渡期だということになるかもしれませんが、科学技術の進歩とともに、人が学習すべきことは何で、機械に任せてもよいものは何なのかを改めて考える必要があるように思います。これは世の中に影響を与えるようなイノベーションを起こそうとする者すべての責務なのではないでしょうか。


文献1: Matt Beane, “Learning to Work with Intelligent Machines”, Harvard Business Review, September-October, 2019.
https://hbr.org/2019/09/learning-to-work-with-intelligent-machines