研究開発を行なうことと新規事業を興すことはまったく同じではありませんが、研究開発の成果を事業化する際には、新規事業の立ち上げと同じようなことをしなければならない場合が多くあります。研究のアイデア出しの次に来るこのプロセスは「(研究の)実行」の段階と呼ばれることもあり、その重要性と難しさが近年議論されるようになってきましたが(例えば、本ブログ別記事「イノベーションを実行する」)、具体的にどのようなことに注意すればよいのかはまだ明確に確立されていないように思います。

そこで今回は、新規事業の立ち上げに伴う人の問題を調査、議論した田中聡、中原淳著、「『事業を創る人』の大研究」[文献1]を取り上げます。本書の特徴は、「既存事業を複数展開している中堅・大企業において(創業・起業は対象外)[p.35]」新規事業の担当となった「人」に焦点を当てている点でしょう。この視点から考えることにより、既存企業の抱える問題点のうち、特に人材マネジメントと組織運営の課題が明らかになっていると思います。研究開発や新規事業といっても、それを実行するのは人であることを考えると、研究をうまく行なう方法を考えることは、研究を行なう人の能力をうまく発揮させることと通じているはずです。以下、本書の内容から興味深く感じた点をまとめます。

序章、事業創造の実態を探る
・「本書は、徹頭徹尾、『人と組織』という観点から『事業を創ること』を考察した一冊です。[p.22]」
・「机上ではうまくいくと思われる理論も、現場でそれを形にするのは『人』。決して、戦略がそのまま事業を形づくるわけではないのです。・・・かくして、私たちは、あえて、これまで注目されてこなかった視点――すなわち『人』の側面から新規事業を語ることにします。[p.24]」
・「誤解を恐れずに言えば、『新規事業を成功に導く原理原則など存在しない』ということを私たちは確信しているのです。先行研究の知見によれば、新規性・革新性の高い事業であればあるほど、事業の成否を事前に見通すことが難しいということがすでに明らかになっています。・・・新規事業は『数』の勝負です。新規事業の成功確率を高めることに限界がある以上、成功を収めるには数の勝負しかありません。すなわち、新規事業に挑戦する機会の総数として挑戦母数を増やす必要があります。[p.26]」「新規事業の出発点は『人』です。よって、挑戦母数を増やすには新規事業へのチャレンジを志す人を増やさなければなりません。そのためには、会社として事業創出に適した人材を見極め、サポートし、創る人が活躍できる組織を整える必要があります。[p.27]」
・新規事業担当者が戦っている3つの障害:ノープラン風見鶏上司(「新規事業へコミットする覚悟や情熱、事業についての具体的な見通しがなく、経営陣からの要望や既存事業の意向によって新規事業の戦略や方針がコロコロ変わる上司[p.30]」)、無責任なありがた迷惑ノイズ(「新規事業のアイデアや事業計画に対して『俺ならもっとこうするけど』『この観点も盛り込んだほうがいいんじゃない?』など、無責任なアドバイスが関係各所から寄せられること。[p.30]」)、同じ釜の飯を食った敵(「新規事業に異動する前の部署の同僚からも、新規事業に対して容赦ない批判や指摘を受けること。[p.30]」)
・「不確実性の高い新規事業に対して資源動員の意思決定をしなければならないという新規事業特有の矛盾が、社内からの批判や部門間の軋轢を一層助長しているわけです。[p.32]」
・「新規事業を任せるとは『権限を付与し、新規事業を創るプロセスを伴奏しながら支援し、結果に対する責任を共有する』ということです。[p.33]」
・「新規事業の成功を左右するのは『人』ですが、ここで言う『人』とは、新規事業担当者だけを指すものではありません。創る人にフィードバックやサポートをする経営・マネジメント層も含みます。さらに、創る人と新規事業が育つ土台となる組織のあり方も重要になります。本書では、新規事業担当者を『創る人』、新規事業担当者を支援する経営・マネジメント層を『支える人』、そして土台となる組織を『育てる組織』と呼びます。本書を通じて、まず創る人にお伝えしたいことは、・・・障害を前に立ちすくんでしまうのではなく、本書を頼りに『何が起きるかはだいたいわかっているんだ』と安心して一歩前に進んでほしい、ということです。そして、支える人に対しては、新規事業に挑戦する人が身を置く状況や直面する課題を正しく理解し、必要に応じてサポートやフィードバックをして欲しいと思います。[p.34]」

第1章、新規事業は「人」で決まる
・「本書では、事業を創る活動(新規事業創造)を『既存事業を通じて蓄積された資産、市場、能力を活用しつつ、既存事業とは一線を画した新規ビジネスを創出する活動』と定義します。[p.40]」
・「一口に『新規事業』と言っても、大きく分けて①市場開発、②新製品・サービス開発、③多角化という3つのカテゴリーに整理することができます。[p.42]」
・「新規事業担当者500名を対象にした独自調査の結果、『新規事業で苦労した経験は何か』という設問に対して、・・・最も多かった回答が『既存事業から必要な支援・協力を得るのに苦労した経験』(38.4%)だったのです。[p.56]」「つまり、新規事業の推進を妨げているのは、アイデアの創出ではなく『社内の理解・巻き込みに苦戦している』ということなのです。[p.57]」
・「多数の新規事業を手がけることで有名なサイバーエージェントは、2004年から2014年までの10年間、『ジギョつく』という手上げ式の社内事業プランコンテストを年2回実施していました。・・・しかし、同社の藤田晋社長によれば、10年の間に『本当に会社の将来に必要だと思える新規事業』が『ジギョつく』の中から生まれることはなく、・・・20146月に『ジギョつく』の廃止を決めます。[p.58]」「新規事業プランコンテストや社内異動希望申請といった仕組みそのものが必ずしも意味を持たないということではありません。そうではなく、事業を実行する段階で社内調整に苦戦した結果、思ったような業績を出せていない可能性が高いということを物語っているのです。つまり、新規事業促進施策で重視すべきは、アイデアの良し悪しだけではなく、プラン採用後に資金や人員を動かせることを保証するメカニズムの有無なのです。[p.60]」「サイバーエージェントは・・・『あした会議』という新たな仕組みを導入しました。『あした会議』とは、役員がチームリーダーとなって社員とチームを組み、サイバーエージェントのあしたをつくる新規事業案や課題解決案などを提案する1泊2日の合宿会議です。『あした会議』から生み出された新規事業は・・・成果を上げています。・・・『経営陣による率先垂範型プロジェクト』のほうが未来につながる新規事業が生まれるということです。[p.60]」「『事業を創る』には、いいアイデアを出せるかどうかではなく、出したアイデアを形にするために必要な資源やサポートが供給される構造が、組織内にあるかに尽きるのです。[p.61]」
・「なぜ新規事業は社内の理解・巻き込みに苦戦するのでしょうか。そこには、成熟した組織が抱える構造上の問題が見てとれます。ここでいう『構造』とは、創る人や新規事業を取り巻く環境のことを指します。例えば、既存事業にとって新規事業は限られた会社の経営資源を奪い合うライバルと位置づけられるため、新規事業への風当たりは当然きついものになります。また、新規事業は成功確率が見えない博打的要素が強いため、周囲からの批判を買いやすく、資源の動員に難色を示されることも少なくありません。[p.62]」
・「障害に立ち向かって乗り越える新規事業担当者(創る人)、担当者の進む道を妨げるものを取り除きながら伴走する経営層や上司(支える人)、そして新規事業担当者とその部門を見守り、人と事業が育つ土台となる会社組織(育てる組織)の三位一体改革が重要となります。このうちのひとつでも欠けてしまえば、新規事業は成り立ちません。[p.69]」

第2章、データで見る、創る人の実像
・「データから言えることは、創る人は学生時代から積極的にビジネスに関連する場に参加するだけでなく、その場で意欲的にリーダーとしての役割を担う傾向が見られるということです。[p.74]」
・「一般的に、人は同じ組織集団の中に長くいると『過剰適応の罠』や『能動的惰性』にとらわれる可能性が高くなると言われています。過剰適応とは、組織特異の慣行やルールに慣れて盲目的に適応してしまうことで生じるデメリットのことを指します。[p.82]」「能動的惰性とは、過去の成功体験に固執し、それを永遠に繰り返そうとする個人の状態を意味します。[p.83]」
・「成功するかどうかの予測が立たない新規事業に対して資源を動員するメリットを伝えて関係者を説得することは大変難しいことです。それでも、ひとまずは関係者の共感を呼ぶ『固有の理由』をひねり出し、自らそれを信じて周囲を説得する行動が、創る人には求められるのです。・・・要するに、事業を創って成果を出すのは『単なるアイデアマン』ではなく『優れた交渉人』であり『巧みな理由づくり職人』なのです。[p.86
・「インドの経済学者サラス・サラスパシーは、一般のオペレーションビジネスは大概『コーゼーション(Causation)』という思考モデルに基づいているが、起業家においてはそうではなく、『エフェクチュエーション(Effectuation)』という思考モデルに基づいている場合が多いという研究結果を発表しています。コーゼーションとは、まずは決定要因の秩序を理解してから実行するという段階を踏む思考様式です。典型的な例としては、『PDCA』のような『何かを計画し、準備し、実施し、評価する』といった考え方があります。いわば因果に基づいた“お膳立てモデル”とでも言うべき思考様式です。・・・その対極にある考え方がエフェクチュエーションです。こちらは、まずは実行してから決定要因の秩序を理解するという段階を踏みます。行動ありきの、いってしまえば『ゴールイメージがなくても、とりあえずありものを合わせてなんとかやってみる』という“あり合わせモデル”です。[p.86-87]」「サラスパシー自身が指摘しているように、新規事業はすべて『あり合わせ料理』型エフェクチュエーションモデルで進めたほうがうまくいくかというと、必ずしもそういうわけではありません。・・・結局のところ、特に既存企業における新規事業においては、コーゼーションもエフェクチュエーション、どちらも必要な思考法であり、状況に応じて使い分けていく必要があります。[p.88]」

第3章、創る人を発掘し、任せる
・「これまでの先行研究から、仕事に対する目標指向性は、『業績志向』と『成長志向』の2タイプに分けられることがわかっています。業績志向人材の特徴は、周囲から自分自身の能力を高く評価されることに重きを置き、業績を上げることに意欲を燃やす特徴があります。一方、成長志向人材の特徴は、業績志向とは違って周囲からの評価は気にせず、自分自身の知識・能力を高めることに重きを置くタイプです。[p.95-96]」「業績志向は新規事業の業績に影響しないのに対し、成長志向は新規事業の業績を高める影響がある[p.96]」「つまり、成長指向性の高い人が新規事業の担い手として適任であると言えます。[p.97]」
・「日本企業の多くの新規事業部門でよく見られるのが『獅子の子落としモデル』です。[p.100]」「這い上がって来た人だけが、出世のチャンスを手にできる」というような「獅子の子落としモデルが機能するのは、ある程度、事業の見通しが立っている既存事業や失敗したときのセーフティネットが用意されている場合です。[p.101]」「だからこそ、最初の任せ方が肝心なのです。新規事業を任せる段階で、これまでの仕事の進め方とどれほど異なるのかを可能な限り伝え、理解してもらう必要があります。失敗する要因を事前に伝えてその数を減らしていくことが、険しい道のりを少しでも見通しよく歩くための重要な備えになるのです。[p.101-102]」「新規事業においては『指示どおりに正解を積み上げる』のではなく、『ゼロから試行錯誤しながら形づくる』というルールであることを伝え、マインドセットの転換を図ることが求められます。[p.103]」
・「RJPとは、Realistic Job Previewの略で、日本語では『現実的職務予告』とも言われます。現実的職務予告には、個人がある組織に入る前に抱く非現実的に高い期待を抑え、組織に参入したあとに経験する『幻滅』をできる限り抑制する狙いがあります。具体的には、その仕事の内容のよい面ばかりでなく、ネガティブ面も含めてしっかりと事前に伝えておくことが、その後の職務適応を促したり、離職を防ぐ効果があることがこれまでの研究で明らかになっています。[p.104]」「創る人に新規事業を任せる場合には、RJPとセットでジレンマの予告が必要なのです。これを私たちはRDP(現実的葛藤予告:Realistic Dilemma Preview)と名付けることにしました。『どういう職務になるか』『どんなジレンマを乗り越えなければならないのか』という2つの事前予告をしておくことで、・・・自分がたどっていく道筋をしっかりイメージしてもらいます。[p.104-105]」
・「事業を開始する前に事業の出口を見据えておくことも重要です。具体的には、事業低迷時の撤退基準と事業好調時のインセンティブプランを明確にし、創る人と会社の間で合意しておくということです。[p.108]」
・「事業を創る人を任命するということは、その後の新規事業の成果に対しても責任を持つということです。・・・新規事業が軌道に乗るまで伴奏する覚悟を持ち、『任せた!』ではなく『一緒に乗り切ろう!』と表明することが『任せる』ということです。[p.111]」

4章、創る人を支える
・「『事業を創る』という経験を通して創る人が直面する苦境には、共通して4つのジレンマがあることが明らかとなりました。・・・新規事業の前に立ちはだかる敵は社内にいます。その対峙しなければならない相手とは、『既存事業部門』『経営層・上司』『部下』、そしてもっとも手強く、思いもしなかった敵こそが『自己』なのです。創る人は、これまで所属していた既存事業では到底考えられないような理不尽な状況に身を置くことになります。4つのジレンマを通して創る人はさまざまな11の問題に直面し、葛藤の経験から学びを得ることになります。[p.117]」
・既存事業部門との間で生じるジレンマには、主に次の2つの問題が見られます。・・・①既存事業部門とのミスコミュニケーション・・・②既存事業部門からの批判[p.119]」。「ミスコミュニケーションは、組織力学を理解できていないことから生じる問題・・・。それに対し、・・・批判は、企業内で事業を創るという構造ゆえに起こるジレンマです。[p.120]」「『減量経営』という名のもとで徹底的に無駄を排除し、生産性と効率性を追い求めてきた既存事業部門から見れば、新規事業部門は自分たちの儲けた利益を食い潰して楽しく“すき焼き”を食べているかのように見えるものです。こうした“スキヤキ・シンキング”は既存事業にとって新規事業がよく見えないという構造上の問題によって生じています。[p.120-121]」
・「経営層や上司・・・のジレンマとしては、特に③経営陣の反対、④上司による場当たり的なマネジメント、⑤上司による必勝前提マネジメントという3つの問題が見られます。[p.121]」
・「部下との間にも⑥戦力人材を確保できない状況下でのマネジメント、⑦後手に回る部下の育成、⑧モチベーションの低い部下のマネジメントといった3つの問題が生じます。[p.123]」
・「創る人は他人に悩まされるだけでなく事業を創れずにいる自分に対してもジレンマを抱えます。事業構想の段階から実際に事業化する段階まで、⑨新規事業プランを生み出せないジレンマ、⑩過去の成功体験に基づく思考体系の適用と失敗、⑪新規事業部門の解散または解散の危機という3つの問題に向き合うことになります。[p.125]」
・「経営層としては、創る人に対し、一発必中型スタンスで厳しく成果を追求していくべきか、あるいは、多産多死型スタンスで寛容に成長を見守るべきかという姿勢の問題があります。[p.136]」「この2つのスタンスと新規事業の業績の関連を重回帰した結果・・・経営層が新規事業に対して多産多死型スタンスを持っているほど、新規事業の業績は低くなるという結果を示しています。・・・新規事業の立ち上げ段階から経営層が失敗に寛容であることを提示していては、創る人の甘えを生んでしまい、新規事業の茨の道を歩んで障害を乗り越える力にはつながらないということを示唆していると考えられます。ここで注意が必要なのは、この結果が示唆することは、決して既存事業における成果主義を持ち込むということでも、失敗を責めるということでもなく、『やるからには成功させよう』という一意専心の覚悟が一つひとつの新規事業において必要だということです。経営層には常に成功させるという強いコミットメントで新規事業と関わる姿勢が求められ、安易な多産多死型スタンスはかえって事業の成功を阻害する可能性があるということです。[p.137-138]」
・「欧米では、新規事業がうまくいっている会社の特徴として『既存事業と新規事業では、トップのコミットメントが明確に違う』と言われます。既存事業に関しては優れたリーダーに完全に権限を委譲し、『トップの役割は新規事業を自ら生み出すこと』だと明確に定義しているのです。[p.138
・「社外との関係性を持つことによって得られる効果は次の6つに整理されます。・・・①知の探索による外部資源の獲得・・・②事業アイデアに対する客観的評価の獲得・・・③著名効果(社内政治効果)の活用・・・④置かれた境遇の相対化・・・⑤自己の市場価値の認識(自己効力感の増大)・・・⑥自組織に対するエンゲージメント効果[p.142-145]」

第5章、創る人と事業を育てる組織
・「新規事業部門と既存事業部門との距離関係は、近すぎると無用な軋轢を生み、遠すぎると貴重な経営資源を活用できない、という二律背反の関係にあるのです。[p.149]」「新規事業と既存事業は、会社の経営資源を獲得する上で競争関係にあるため、適度な距離感を保って関わる必要があります。そして、既存事業からのネガティブな影響はなるべく受けずに、資源を活用することが求められます。そのためには遮断するもの接続するもののバランスをとることが重要になります。[p.153]」「まず、遮断するべきは事業マネジメントの方法です。・・・また財務管理の方法も遮断すべきでしょう。・・・一方、既存事業の持つ人材や技術・顧客・販売チャネルなどの経営資源については共有できるように接続しておく仕組みを用意する必要があります。[p.153-154]」
・新規事業に対する前向きな風土づくりのためのヒント:「①会社の本気をトップ自らが示す・・・②創る人が損をしない仕組みをつくる・・・③全員が創る人になる仕掛けを用意する・・・④新規事業を全社で育てる『育成事業』ととらえる[p.158-160]」

第6章、事業を創る先進企業の最前線
・サイバーエージェント曽山哲人氏、東レ経営研究所手計仁志氏とのインタビュー。

特別付録、新規事業は「人を育てる」――創る人の成長プロセス
・定性的調査から明らかになった成長の軌跡:①他責思考期(「初期段階でまず見られる・・・他責思考とは、責任の所在を他者に向けた思考・態度のこと。[p.213]」)。②現実受容期(「働く理由、事業の価値を考え直し、やがて鳥瞰的視点での現状認識を持ち、現実を受け入れるようになります。[p.214]」)、③反省的思考期(「孤立感が消え、他者からの支援を感じられると不条理な現実を自分の問題としてとらえるようになる『反省的思考期』に入ります。他責思考とは反対に自責思考が生まれます。自己本位だったことを反省し、やがてリーダーとして自分には何が不十分であるかを自問するように変化していきます。[p.217]」)。④視座変容期(「新規事業に対する視点が『一社員(管理職)の視点』から『経営リーダーの視点』へと変わるのが最後の『視座変容期』[p.219]」)
・「事業を創る経験を通じた成長プロセスとは、単に新しい知識やスキルを得た程度のものではなく、ビジネスパーソンから経営リーダーへと大きく成長を遂げるものであることがおわかりいただけたのではないでしょうか。[p.222]」
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本書の分析を通じてまず言えることは、新規事業のやり方には明らかに巧拙があるということでしょう。もちろん、100%成功するなどということは期待できませんが、上手くやれば成功確率が上がり、やり方がまずければ成功の確率が下がる、そして、成功確率を上げるためのヒントを得るうえで新規事業を担当する「人」の視点で新規事業、研究開発のやり方を見直してみることが有効かもしれない、という点が本書で最も興味深く感じた点でした。本書のような視点で「人」に注目することで、従来の方法論を進歩させることができ、研究開発に関わる人々のモチベーションの理解も深まるのではないかと思います。そう考えると「人」や人の成長、学習に注目する視点は、従来の研究開発マネジメントの考え方、方法論を一段進歩させるきっかけになるのかもしれない、と思いました。

考えさせられたのは研究部隊の役割についてです。企業の研究部隊は、新規事業に専念する場合もありますが、既存事業の仕事と新規事業の仕事の両方を同時に行なうことがあります。そのような場合、両者の仕事をどのようなバランスで行なうべきかが悩ましく感じられることがあります。新規事業への貢献を重視すれば、担当者は本書で指摘されたような悩みを抱える可能性がありますし、既存事業に注力すれば、研究部隊本来の役目を果たせていないのではないか、という悩みも出てきてしまいます。結論としては両方のバランスをうまくとりながら仕事を進める、ということになるのですが、その時の判断の材料として、本書に述べられた様々な要因を考慮することで、バランスよく両者に貢献できるようになる可能性があるかもしれません。

他にも本書のような新しい視点からの新規事業やイノベーションプロセスについて研究、考察から得られる示唆は多くあるのではないかと思います。今後の発展に注目していきたいと思います。


文献1:田中聡、中原淳、「『事業を創る人』の大研究」、クロスメディア・パブリッシング、2018.