イノベーションは世の中を変えます。もちろん世の中の変化をもたらすのはイノベーションだけではありませんが、世の中の変化が次のイノベーションの種になることもあり、イノベーションと世の中の変化の関係を考えることは重要でしょう。しかし、最先端のイノベーションが社会に与える影響は直ちにはわからないことが多いものです。例えば、IT技術の進歩についても、人間の生活が快適に便利になるという明るい未来を強調する考え方から、機械が雇用を奪い、果ては人間が機械に支配されるようになるという不安をあおるような考え方まで、様々な予測がなされてきました。もちろん、技術が登場した直後はそれが当然かもしれませんが、ある程度変化への影響が目に見えるようになってきた段階では、徐々にどのような変化が起こりそうかが見えてくるのではないかと思います。

今回とりあげるトーマス・フリードマン著「遅刻してくれてありがとう 常識が通じない時代の生き方」[文献1]では、近年の世の中の変化がどうなっているのか、そしてどのように対処すべきかが様々な取材に基づいて考察されています。著書の表題は、変化の速い時代にこそ立ち止まってよく考えてみよう、誰かが遅刻することでその時間ができるのもよいことだろうし、自分が「そのために遅刻しても、心配することはない[下p.372]という著者の意図を表したものと思われますが、本書の議論は内容豊富で様々な読み方が可能だと思います。以下、特に興味深く感じた点を中心に内容をご紹介させていただきたいと思います。

Part1、熟考(Reflecting

1、遅刻してくれて、ありがとうThank You for Being Late
・「現在、多くの人々が恐怖をおぼえ、拠り所を失っていると感じているのは、意外ではない。私は本書で、いまの私たちが歴史的にも大きな転換点となる時期をくぐり抜けていることについて述べたい。[上p.12]」「地球上の3つの大きな力――テクノロジー、グローバリゼーション、気候変動――が、いまはすべて同時に加速している。・・・多くの分野で変化の速度が一気に変わると、私たちはそれらに圧倒されてしまう。・・・そういうときには、パニックを起こしたり、現実から逃れてひきこもったりせずに、立ちどまってじっくり考える必要がある。[上p.13]」
・作家のウィーゼルタイアーによれば、「『昔の人々は、忍耐には知恵が宿り、知恵は忍耐から生まれると信じていました。・・・忍耐は、早さが欠けているというだけのことではなかった。内省と思考の時間だったのです』・・・現在、私たちはいまだかつてなかったほど豊富な情報と知識を生み出している。『しかし、知識が役立つのは、それについてじっくりと考えたときだけです』・・・立ちどまることによって改善されるのは、知識だけではない。信頼を築く力も改善される。『それによって、その場限りではない、深くたしかな結びつきが、他の人々とのあいだに形作られる』[上p.17]」
・「これほど変化の速い世界で、実証済の決まりきった手順や、独断主義に退化すると、トラブルを招くことになる。しかも、世界は相互依存が強まり、複雑になっているから、間口をひろげ、多くの視点を総合することが、これまでになく重要になっている。[上p.31]」

Part
2、加速Accelerating
2、2007年にいったいなにが起きたのかWhat the Hell Happened in 2007?
・「2007年には、iPhoneが登場しただけではなかった。その年には、あらゆる業種の会社が多数出現した。そういった新規企業とイノベーションが、人間と機械のコミュニケーション、創造、共同作業、思考の手順を作り変えた。[上p.39]」「2007年はグリーンパワー革命のはじまりでもあった[上p.43]」
3,ムーアの法則Moor’s Law
・「人間の意識が理解するのがもっとも難しいものの1つは、幾何級数的な成長の力だろう[上p.68]」。
・1965年の「記事で、ムーアは述べた。『素子当たりのコストを最低限に抑えるために、集積度が毎年ずっとほぼ2倍に増してきた。・・・これから先、すくなくとも10年間、それがほぼ一定のままでないと考えるべき理由はなにもない』・・・カーバー・ミードが、のちにそれをムーアの法則と名付けた。[上p.72]」
・「テクノロジーすべてが、幾何級数的な速さで加速しつづけているのは、クラウドと呼ばれるものにすべてが融合しはじめていることが、大きな誘因になっている。[上p.145]」「本書ではこれ以降、このクリエイティブなエネルギー源をクラウドとは呼ばずに、・・・超新星(スーパーノバ)と呼ぶことにする[上p152-153]」
4、スーパーノバThe Supernova
・「2007年にスーパーノバの登場とともに起きたことは、新しいプラットフォームへのさらなる飛躍だったと、私は思う。・・・ハードウェアとソフトウェアのあらゆる進歩が融合して、スーパーノバとなり、データのデジタル化と保存の速度と規模が大幅に向上・拡大した。また、そのデータを分析して知識に変える速度、コンピュータかモバイル機器を持っている人間がどこにいても、その知識をスーパーノバから引き出せる速度も速まった。その結果、複雑度が不意に、より速くなり、制約がなくなり、使いやすくなって、存在が見えなくなった。[上p.165]」
5、市場The Market
・「グローバリゼーション――本書では、市場という包括的な言葉を使うことにする――も現在、加速している[上p.214]」
・「世界中の人々がスーパーノバのテクノロジー・ツールボックスを利用でき、創造者(メイカー)と破壊者(ブレイカー)のどちらにもなれるようになった。金融面で世界は相互依存が強まり、どの国も外国の経済の影響を受けやすくなった。見知らぬ人間同士の接触が、前代未聞の速さと規模を示すようになり、悪い思想といい思想が敵対し、あっという間に偏見を消滅させたり、逆に生み出したりするようになって、すべての指導者が姿をさらけ出し、透明性が高まった[上p.217-218]」
・「ジョン・ヘーゲル3世、ジョン・シーリー・ブラウン、ラング・デービソン・・・の唱えるビッグシフトは、ストックが富の尺度であり成長の原動力でもあった長い時代――想像できるあらゆる資源をどれほど蓄積し、引き出し、利用するかが重要だった時代――から、会社やコミュニティを通過するフローがどれほど豊かで数が多いかが、競争力で優位に立つのにもっとも有効な資源である世界に、私たちが移りつつあることを示している。[上p.229]」
・「もっと安定していた時期には、貴重なことを学べば、その知識から無期限に価値を生み出すことができると安心し、のんびりすることができた。いまはそうはいかない。いま成功するには、新しい知識の適切なフローに加わり、知識のストックをたえずあらたなものに更新しなければならない。ビッグシフトは私たちに、労働力である限り学びつづけることを要求する。[上p.232]」
6、母なる自然Mother Nature
・「現在、正常な状態とまったくかけ離れた気象・気候の数値が積み重なっていることには驚愕する。気候変動、生物多様性の消滅、人口増加が、ことに脆弱な国で起きたときには、母なる自然がムーアの法則や市場とおなじようにチェス盤の後半にはいるということを、これらの数値が甲高い声で警告している。そして母なる自然は、テクノロジーとグローバリゼーションにおけるさまざまな出来事の加速に衝き動かされている。地球上に住む人々が増え、1人の人間が持つ影響力が増幅したとき、正しい目的に活用するようにすれば、多数の力は途方もなく建設的になる。しかし、自然保護の倫理による抑制や調整が行なわれなかったら、途方もなく破壊的な力になる。[上p.288]」
・「母なる自然のプラネタリー・バウンダリーを超えたら、再建できないものが数多く残される。・・・したがって、重なり合っているこれらの脅威が一気に悪化する前にこれと対決する唯一の方法は、正しい行動規範と積極的な意志を重ね合わせて共同で行動し、積極的な姿勢で、クリーンエネルギー生産とより効率的な消費に関する研究と投資を強化することだ。[上p.325]」
7、とにかく速すぎるJust Too Damned Fast
・ベインホッカーによれば、「物理的テクノロジーは、科学の速度で進化します――高速で、幾何級数的に加速します。いっぽう、社会的テクノロジーは、人間が買われる範囲内の速度で深化するので、ずっと遅いのです。物理的テクノロジーの変化は、驚異的な新しいもの、新しいガジェット、より優れた薬品を創り出します。社会的テクノロジーの変化は、しばしば巨大な社会のストレスや騒乱を生み出します。・・・核の拡散、バイオ・テロリズム、サイバー犯罪といったことが、いま現在、私たちの周囲で起きています。ムーアの法則が打ち勝ち、私たちの物理的テクノロジーは、減速しないでしょう。だから私たちは、社会的テクノロジーがそれを追いかける競争の渦中にあります。個人の真理、組織、機構、社会の仕組みをもっと深く理解して、社会的テクノロジーの順応の進化を加速させる方法を見つけなければなりません。[上p.352]」「2007年にあらゆる加速するテクノロジーが一式生まれた直後――に、アメリカは深刻な景気後退に陥り、政府の機能不全が引き起こされた。その結果、物理的テクノロジーの多くが驀進するいっぽうで、社会的テクノロジー――加速に追いついてそこから大きな利益を得るのに必要な学習、統治、規制システム――が失速した。・・・現在では、・・・変化の力をハンマーで打ち砕くような人間を――あるいは不安を解消する単純な答えを聞かせてくれる人間を――多くの人々が望んでいるように見受けられる。その不安な空隙を創造力とイノベーションで埋める努力を倍加する時期が来ている。[上p.353-354]」
8、AIIAに変えるTurning AI into IA
・「1990年代初頭、ビル・クリントン大統領とその後継者たちは、アメリカ国民に、おなじ古い話をくりかえしていた。一所懸命働いて、ルールを守れば、アメリカのシステムが人並みのミドルクラスに引き上げてくれるし、子供たちはもっといい暮らしができる、と。一時期はそれが事実だった。・・・もう、それらすべてとはお別れだ。[上p.356]」「高給で高スキルの仕事はいまもある。中程度の賃金で中スキルの仕事もある。だが、高給で中スキルの仕事はもはや存在しない。並みという概念は、正式に終わりを告げた。・・・たえず自分を創り直し、なんらかのかたちの高等教育を受け、生涯学習に邁進し、新しいルールに従い、なおかつ新しいルールを作り直して、いっそう努力しなければならない。そうすれば、ミドルクラスにいられる。[上p.358]」
・「新テクノロジーのツールが、この真剣な努力を手助けしてくれる。・・・ネスト・ラボの創設者トニー・ファデルの言葉を借りれば、”AIIAに変える方法――を発見すれば、一段と実行しやすくなる。私の解釈では、それはAIを知的支援(インテリジェント・アシスタンス)、知的補佐(インテリジェント・アシスタント)、知的なアルゴリズム(いずれも頭文字はIA)に変えることであるはずだ。知的支援とは・・・すべての労働者が自分の時間を使って生涯学習に専念するのを可能にし、・・・知的補佐はAIを使用して人間とツールやソフトウェアのインターフェイスを改善し、・・・最後に、私たちはAIを駆使して、もっと知的アルゴリズムを創出しなければならない。[上p.371]」
・「要するに、9時から5時までという古い労働の時代を懐かしんで嘆いてはいけない。それは去り、二度と戻らない。・・・新しいものであるAIと、つねに変わらず、これからも変わらないよいもの――セルフ・モチベーション、思いやりのある大人や指導者、興味をおぼえたり野心を抱いたりした分野での練習――をうまく組み合わせることができれば、その先にはもっといい公平な職場がある可能性が高いと、私は確信している。[上p.434]」

Part
3、イノベーティングInnovating
9、制御対混沌Control vs. Kaos
・「キッシンジャーは・・・述べている。『歴史的には、平和に問題を引き起こすのは力の蓄積だった――つまり近隣諸国の安全保障を脅かし、圧倒的に優勢になる可能性のある国の登場だ。私たちの時代の平和を脅かすのは、しばしば力の崩壊である――つまり権力機構が崩れて、無統治空間ができ、そこから武力衝突が国境や地域を越えてひろがることだ』[下p.17-18]」
・「ソーシャル・メディアは、意見の共有にうってつけだが、共同で打ち立てるのには向かない。共同で破壊するのは得意だが、共同で建設するのは苦手かもしれない。[下p.51]」「ビッグデータとスーパーノバのおかげで、乾草の山から針を探すのが、きわめて簡単になった。それと同時に、超強力になった破壊者が、その針で私たちをきわめて強い力で正確に刺せるようになった。[下p.66]」
10、政治のメンターとしての母なる自然Mother Nature as Political Mentor
・「環境や気候が変動するとき、市民や社会にとってなにが望ましいだろうか。確実に望ましいことが2つある。レジリエンスと推進力だ。市民と社会が衝撃を吸収することが望ましい[下p.105]」「母なる自然は、環境変化を探知するシステムとしてフィードバック・ループを使い、最大のレジリエンスと推進力でその変化に対応している植物や動物を見極めて、次世代の植物や動物にとってもっとも望ましい特質(すなわち遺伝子)を普及させている。それはすべて、試行錯誤を通じてまったく自然に起きている。[下p.108]」「母なる自然のもう1つのキラー・アプリは、多様性によって反映する能力だ。・・・もっとも理想的な状況を進化させ、促進するには、あらゆる種を大量に溜めておき、どれがどの生息場所に適応できて全体の役に立つかを見極めるのが最善の方法だということを、母なる自然は理解している。つまり、多元的共存の傾向が強い。[下p.111]」「母なる自然がレジリエンスを強化するもう1つの方法は、連邦制度に似た自己組織化を行なうことだ。母なる自然は自分の複数のコミュニティを入れ子状に重ね・・・それを包含する枠組みが柔軟なので、単なる寄せ集めではないものができあがる。[下p.112]」
・「私たちは母なる自然のキラー・アプリを、熟慮のうえで、意識的に、できれば合意に基づいて、できるだけ迅速に、人間の政治に置き換えなければならない。・・・現在の統治にすぐに適用できるキラー・アプリのうち、5つに的を絞りたい。(1)経済と軍事で優位なよそ者と対峙したときに、屈辱に苦しむことなく適応する能力。(2)多様性を受け入れる能力。(3)未来と自分たちの問題に、当事者として責任を引き受ける能力。(4)連邦と地方の適切なバランスを保つ能力・・・(5)加速の時代の政治と問題解決に対して、起業家精神にあふれ、ハイブリッドで、異説を受け入れ、独善的にならない態度で望む能力――つまり、レジリエンスと推進力を高めるために、どちらのから生まれたかに関係なく理想や思想を混合し、共進化させることだ。[下p.120-121]」
・「繁栄する生体システムすべてに、1つの共通点があると、エイモリー・ロビンスは指摘する。『すべてきわめて適応力が高い――あとはすべて瑣末なことだ』[下p.166]」
11、サイバースペースに神はいるか?Is God in cyberspace?
・「現在の世界では、サイバースペースほど神が人間に選択の自由をあたえている場所はない。すべての人間が結びついているのに、司っている人間が1人もいない。[下p.170]」
・「私たちはこれまできたことがなかった道徳の分かれ道に立っていると、私は力説する。1人がすべての人間を殺すことができ、すべての人間が本気でやろうと思えば、なんでも解決できる分岐点に、私たちは到達したのだ。したがって、私たちの世代のみが手にした力を適切に行使するには、一定の道徳のイノベーションが必要だが、アメリカでも世界でもまだそれに着手していないし、一定の倫理に根ざす必要もあるが、ほとんどの指導者にはそれが欠けている。[下p.176-177]」
・「新しい領域を新しいやり方で統治し、古い領域を新しいやり方で統治することを学ばずに、加速の時代に種として生き延びられると考えるのは、あまりにも浅はかだ。・・・いったいどこから手をつければいいのか?・・・健全なコミュニティにできるだけ多くの人々を定着させることからはじめるのが、実際的だろう。法律、警察、法廷を除けば、強力なコミュニティはもっとも好都合な拘束力だ。・・・コミュニティも二重の任務を果たす。黄金律の根底になければならない信頼を生み出す帰属意識を創出すると同時に、それでも許容範囲を超えることを考えている人間を抑制する。[下p.189-190]」「超強力な個人がいる世界で私たちは、倫理的な環境を創出し、移民やよそ者や一匹狼を受け入れる健全な相互依存を編みあげて、もっと多くの地域で、もっと多くの人々が、物事を打ち壊すのではなく造りたいと思うように仕向ける努力を、できるだけ多くの方策で倍加しなければならない。家族や友人が自分のやることを嫌ったり蔑んだりするだろうと思うと、なによりも強い抑制が働く――そして、それはコミュニティによってのみ生まれる。[下p.191-192]」
12、いつの日もミネソタを探してAlways Looking for Minnesota
・「加速の時代にレジリエンスと推進力を生み出す理想的な政治単位は、健全なコミュニティだ。コミュニティのレベルのほうが信頼を生み出しやすいし、信頼は柔軟性と実験を強化するからだ。[下p.211]」
・「絶頂期のころのセントルイスパークとミネソタは、からみあった小さな集団のネットワークに属する機会を、多くの市民に提供した。その信頼のコミュニティが、帰属意識、市民中心の理想主義、異なる人々でも帰属できるし帰属すべきだという信念を形成した。現在の世界は、ひきこもって結びつかずにいる理由とツールを私たちに数多くあたえている。セントルイスパークとミネソタは、そこで育った私たちの多くに、それとはまったく反対のもの――私たちは結びついて協力できるし、そうすべきだと信じる理由をあたえてくれた。そういった多元的共存は可能だし、2足す2は4以上になる場合が多いと、私たちは信じるに至った。[下p.300]」
13,故郷にふたたび帰れる(それに帰るべきだ)(You Can Go Home Again (and You Should!)
・「ミネソタも私も、ヨーロッパで横行しているような世界主義者の多文化主義のたぐいには、強い反感がある。放任され、だれもが自分の好きなやり方を通すうちに、ある日目覚めたら、坩堝は壊れて、きちんとしたコミュニティがなくなっている。ミネソタ流では、だれもが自分の習慣を守ってよいが、その根底にある特定の価値観――女性、法の支配、さまざまな宗教、公的機関、コミュニティの空間をどう扱うかに関するもの――をゆるがせにしてはならない。[下p.350]」
・社会心理学者ジョナサン・ハイトによれば「『アイデンティティ、規範、歴史を共有することは、一般的に信頼を促進する。・・・高い信頼もしくは高度の社会関係資本がある社会は、その市民に数多くの有益な結果をもたらす。犯罪率の低下、企業の取引コスト削減、高レベルの好況、寛容な傾向など、数々挙げられる。・・・秘訣は、自分のコミュニティが保持できるかどうかについての合理的な懸念と、よそ者、ことに困窮している異国の民を歓迎する義務とのバランスをどうとるかを考量することだ』[下p.350]」

Part
4、根をおろすAnchoring
14,ミネソタから世界へ、そして帰ってくる(From Minnesota to the World and Back
・「中東で送った日々に私は悟った。少数の例外を除けば、そこの支配的な政治思想は、私は弱者だから妥協できるわけがない。私は強者だから妥協すべきではないというものだった・・・私たちが妥協の目的や基盤にしている、公益中道は、彼らの辞書には載っていない。[下p.362]」「しかし、ワシントンDCで30年近く取材してきて目にしたものは、アメリカの政治が年を追うごとに、私があとにした中東に似つつあるという状況だ。・・・それが国力を衰えさせている。[下p.363]」「私が学んだ最大の政治的な教訓は、セントルイスパークとミネソタを、より多様性を受け入れる場所にするために行なわれてきた努力が、そこの住民だけではなく現在のアメリカのすべてのコミュニティにとって、きわめて重要であるということだった。[下p.363]」

〈その後〉それでも楽観主義者でいられるAfterword: Still an Optimist
・「強権をふるう男ではなく、強力なコミュニティのみが、アメリカをふたたび偉大にする。そして、そういうコミュニティが数多くあり、さらに増えるはずだという事実が、私がいまなお楽観主義者でいられる理由なのだ。[下p.401]」
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本書でとりあげられている急速な社会の変化は現在も進行中ですので、著者の見解が正解かどうかはもちろんわかりません。ただ、ひとつの観点としてかなり説得力があるように思われました。特に、コミュニティ、当事者意識、信頼の重要性についての指摘は、社会問題への対応だけでなく、個々の研究開発にも有効なように思います。おそらくそう思えるのは、それらの要因が人間の心の基本的な性質と結びついているためではないか、と思います。世の中が変われば、本来、人間の考え方も行動もそれに適応しなければならないでしょう。そうした適用のヒントとして本書の示唆は価値のあるもののように思います。


文献1:Thomas L. Friedman, 2016、トーマス・フリードマン著、伏見威蕃訳、「遅刻してくれてありがとう 常識が通じない時代の生き方」、日本経済新聞出版社、2018.
原著表題:Thank You for Being Late: An Optimist's Guide to Thriving in the Age of Accelerations