研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

ノート:研究マネジャー基礎知識

研究開発マネジメントノートIV第4回:1.1.4)イノベーションと技術

「研究開発マネジメントの知識と不確実性に基づく研究マネジメント」
はじめに
第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと
1.1
、研究開発とは? 1)研究開発とは?:シンプルな理解
2)研究開発とは何かを考える第2回
3)
研究とイノベーションをめぐる様々な考え方第3

4)
イノベーションと技術
前回(第3)では、Schumpeterの考え方を中心に、イノベーションはどのようなものとして捉えられているかを概観しました。その中ではイノベーションと「技術」との関わりについてはあまり議論しませんでしたが、イノベーションに新技術が深く関わる場合があるのは事実でしょう。また、技術部門、研究開発部門にイノベーションの推進が任される場合もあるでしょう。本シリーズは、研究マネジャーにとって役に立ちそうな知識の整理も想定して書いていますので、今回はイノベーションと技術の関わりについての考え方を整理しておきたいと思います。

イノベーションにおいて技術はどの程度重要だと考えられているのでしょうか。イノベーションに関する論考をみると、技術の役割については重視するかしないかに多少幅があるようです。もちろん、どういう文脈でイノベーションという言葉が使われるか次第のところもありますが、まずイノベーションの定義において、技術の役割を比較的重視する考え方をあげてみます。

イノベーションにおける技術の役割を重視する考え方
・伊丹敬之氏は、次のように述べています。「イノベーションとは、『技術革新の結果として、新しい製品やサービスを作り出すことによって人間の社会生活を大きく改変すること』[文献1、p.22]」。「イノベーションという言葉の定義としては、『素晴らしい技術を使って我々の生活を変えるような物やサービスが提供されること』。それをイノベーションという。・・・イノベーションとわざわざ名前を付けるんだったら、大きな変化が起きて欲しい。[文献2、p.16]」「イノベーションとは、素晴らしい技術をベースに、多くの人の生活を大きく変えるもの。[文献2、p.31]」、「思いつきだけでイノベーションって言っちゃいけない。『いわゆる技術革新』という話で終わっちゃう危険が高い。・・・『いわゆる技術革新』という人は、技術だけが新しくなるとそれでイノベーションと言いたがるんだよね。技術者には特に多い。[文献2、p.27]」
・三品和広氏は、次のようなイノベーションの定義を述べています。「過去の競争の中で定められたパラメーター上で、技術的なブレークスルーにより、漸進的あるいは飛躍的な性能の向上、または多機能化を実現すること」[文献3、p.71-72]。

イノベーションにおける技術の役割をあまり重視しない考え方
・後藤晃氏は「イノベーションとは『新しい製品や生産の方法を成功裏に導入すること』を意味している」とし、「技術開発はそのなかの(重要な)一部分」とした上で、さらに「イノベーションには(中略)組織革新なども含まれる場合がある」「(上述の『製品』には)液晶ディスプレイのような財と、宅急便のようなサービスの両方が含まれる」と述べています[文献4、p.22]
CarlsonWilmotは、「イノベーションというのは、『技術的に優れたガジェットの発明』などではない。『発明』だけでは不十分だ。『発明を世に出すこと』に成功して初めて、イノベーションは成立する」と述べ、『市場に新しい顧客価値をもたらすこと』こそが『イノベーション』なのである」[文献5、p.4]と述べています。
・野中郁次郎氏、紺野登氏は、次のように述べています。「技術は重要だが、科学的技術知に市場・顧客の知、組織の知を組み合わせなければイノベーションにはならない。[文献6、p.239]」、「イノベーションとは、革新的な技術あるいは革新的な方法による技術の活用と、提供者のシステム、ユーザーの利用や消費の形態(行為や行動)の革新を通じて、顧客の問題の解決や新たな創造的な社会的関係性を創出することである。イノベーションの実現のためには、顧客の現場からの洞察や顧客との協調・協働が基礎となるだろう。[文献6、p.243]
・デザイン思考で名高いIDEOKelleyは、イノベーションの3つの要因として、1、技術的要因(技術的な実現性、「画期的な技術だけでは十分とはいえない」)。2、経済的実現性(ビジネス要因、「技術は機能するだけでなく、経済的に実現可能な方法で生産・販売できなければならない」)。3、人的要因(人間のニーズを深く理解すること)をあげ、「技術、ビジネス、人間という3つの要因の交わる点を見つけることが重要」と述べています。[文献7、p.37-39

技術の役割を重要視しすぎない理由
以上のように、技術だけが重要ではない、という考え方が近年は増えてきているように思います。しかし、真に重要なのは、言葉の定義ではなくそうなる理由でしょう。なぜ、技術だけではイノベーションにならないのか。様々な理由があげられていますので、その例をいくつか見てみましょう。
Christensenらは、業界をリードしていた優良な企業がある種の市場や技術の変化に直面したとき、特段の経営上の失敗もないのにその地位を守ることに失敗した例の分析を通じて、「刺激的な成長事業に乗り出そうと奮闘する企業にとっての根本的な問題が、優れたアイデアの不足であることはほとんどない」[文献8、p.19]、「成長を維持できなくなる恐れのある企業にとって、刺激的な成長を生み出すアイデアが不足していることが問題なのではない」[文献8、p.338]と述べています。特に興味深い指摘は、技術の進歩の速度が、顧客の要求が高度化する速度を上回ってしまいやすいことでしょう。その結果、技術がオーバースペックの状態になり、既存企業が技術の向上を追い求めるほど、より簡素な技術を武器に市場に参入したり、あまり洗練されていない技術で新市場を開拓したりする破壊的イノベーターにその地位を脅かされてしまう現象が発生することになります。この現象をChristensenらは「イノベーターのジレンマ」と呼んでおり、それが技術だけではイノベーションが起こせないことの根拠のひとつになっていると考えられます。
Collinsは、良い企業が偉大な企業に飛躍する過程を分析した結果に基づき、「技術そのものが偉大な企業への飛躍や企業の没落の主因になることはない」[文献9、p.253]と述べ、さらに、不確実なできごとに遭遇しても躍進しつづける企業の分析においても、「どんな環境下でも、脱落せずに競争し続けるために最低限達成しなければならない『イノベーションの閾値』がある。閾値が低い業界もあれば、閾値が高い業界もある。だが、いったん閾値を超えれば、それ以上のイノベーションにこだわってもあまり意味がない[文献10、p.179」と述べています。
Berkunは、「素晴らしいアイデアというものは、真のイノベーションというプロセスのごく一部」「(ひらめきは)コントロールすることなどできない」「素晴らしいアイデアを見つけ出すには努力が必要ですが、そのアイデアをうまく利用して世の中を良くするためにはさらに大きな努力が必要」[文献11、15-17]と述べています。
Griffinらは、「技術主導型からイノベーションを行おうとして失敗する場合、そこにはまったく異なる2つの理由がある。1つは、技術主導型の多くが技術の有効な応用の仕方を探し出せず、またすぐには企業に利益をもたらさない『打つ釘がない金槌』をつくっているからだ。・・・2つ目の理由は、技術組織から生まれたブレークスルー・イノベーションが、いわゆる『死の谷』を越えられないために事業化されないというものだ。・・・『死の谷』とは、技術開発と事業化における人材と組織構造の間に存在するギャップのことである。製品を事業化するには、マーケティング、営業、製造、流通などの人材を必要とする。だが、彼らは新技術の開発に必要な人材とは異なり、また両者は分断されているため、もっとも重要なブレークスルーも両者の間にある死の谷に落ちてしまい、事業化されないのだ。[文献12、p.59-60]」と述べています。
・池田信夫氏も、「重要なのは技術ではなくビジネスモデルである。」、「新しい事業を起こそうとする場合、まず何を売ればもうかるかというアイディアがあり、その上で収益を上げる方法を考え、技術はそれに適したものを選ぶ(あるいは開発する)。イノベーションの本質は技術ではなく、このビジネスモデルにある。」[文献13、p.15-17]として、ビジネスモデルの重要性を指摘しています。
・伊丹敬之氏、宮永博史氏は、技術者はどこで間違いやすいか、について次のように述べています。「『間違い』の共通キーワードは、『視野の狭さ』である[文献14、p.228]」。技術者が陥りがちな思いこみには、1)技術がよければ売れるという思い込み、2)自社技術だけが進歩するという思い込み、3)社内では新技術、世間では二番煎じ[文献14、p.192-198]がある。構想なき繁忙に陥る要因には、1)目の前の問題だけを解決しようとする(例:人海戦術に頼る)、2)意味のある問いを発することができない(正しい問題の設定ができない)、3)上位概念を構築できない[文献14、p.203-213]。技術の世界に引きこもる(タコツボ化)。その上で、イノベーションを経営するために必要な2つのジャンプとして、1)「自然の『理』の理解に加えて、人間社会の『情と理』の理解[文献14、p.229]」、2)他人の学習プロセスを導くのに必要な教育者の視点(「技術者・研究者の本質の一つである『他人を疑う』ことから、教育者の本質の一つである『他人を信じる』ことへ[文献14、p.235]」の視点の転換)、をあげています。

技術以外の要因が重要になる時代背景
上述のような指摘は、実際に成功したイノベーションの多くが技術だけに依存していないことや、技術だけに依存した試みが失敗しているという観察結果に基づいているように思われます。しかし、過去には技術主導で成功した事例がありますし、現在でもそういう事例は(少ないかもしれませんが)あるように思います。なぜ、技術の役割が小さくなっているのでしょうか。この点に関しては以下のAnthonyの指摘が興味深く思われます。
Anthonyは、イノベーションの歴史的変遷について、以下の4つの時期に分けて考察し、技術の意味が変わってきていると指摘しています。
第1期:発明家が単独で発明する時代(1915年以前)
第2期:企業内研究所の発明者が活躍する時代(1970年ごろまで)「イノベーションが複雑化しコストがかさむようになると個人では手に負えなくなり、企業主導の取り組みが進められるようになった。・・・第2期の英雄たちは企業内研究所で働き、企業はイノベーションを利用する存在から生み出す存在へと進化した。」
第3期:企業から離れたベンチャーが活躍する時代(1950年代末から60年代に種が蒔かれ最盛期は70年代、その後最近まで)「企業の大規模化と官僚化が進み、主流を外れた研究に取り組みにくくなり・・・イノベーターは会社を去り、志を同じくする『反逆児』たちと手を結んで、新しい会社を設立するようになった。・・・ベンチャー・キャピタルの支援を受けたスタートアップ企業が登場・・・資本市場が短期的な業績への期待を高めていくにつれ、大企業内のイノベーターは生きるのがますます難しくなった。この時代に生まれたテクノロジーと世界市場のグローバル化によって、変化のスピードは劇的に加速してきた。ある指標によると、過去50年間に企業の寿命は半分ほどになった。」
第4期:それ以後。「イノベーションの容易さとスピードがいまや起業家の助けとなるのと同時に、妨げにもなりうる。・・・現在、若い企業が成功を謳歌するのは驚くほど短期間であり、その後は模倣者よりも多くの資金を投じて、人材獲得競争を始めなければならない。・・・苛烈な競争環境の上に開発サイクルの短期化が重なり、スタートアップ企業が長続きする競争優位をつくり出すことはこれまでになく困難になっている。つまり、大企業を悩ませている資本市場の圧力を、同じように受けやすくなっているのだ。」

その上で、「第1期から第3期を代表する発明は技術的なブレークスルーが(すべてではないが)一般的だったが、第4期のイノベーションはビジネスモデルに関連している可能性が高い。」と述べています。[文献15]つまり、技術以外の要素に着目する必要性が高くなってきたことには、技術と時代の変化が背景にある、ということかもしれません。

技術以外に注目すべき点は何か
技術だけでイノベーションを成功に導くことが難しくなっているとすれば、他にどのような点に注意する必要があるのでしょうか。上記の指摘の中で特に重要だと思われるのが、「ニーズ」と「ビジネスモデル」ではないでしょうか。ニーズのない技術(打つ釘がない金槌)は、オーバースペックの技術、技術者の視野の狭さについての指摘とも関連して重要なポイントのひとつと思われます。また、ビジネスモデル、市場での競争も、収益化(マネタイズ)という観点で重要なポイントになると思われます。

本シリーズでは、研究開発を、新しいことを対象にした情報を得る活動と考えたいと思います。そして、新しいことに付随する「不確実性」をどう処理するかをポイントに研究開発マネジメントの方法を考えていきたいと思います(第2回)。では、どのような不確実性に注目すべきなのでしょうか。今回引用したような様々な考え方から、注目すべきポイントは大きく3つ、すなわち、技術、ニーズ、ビジネスモデル(収益化)に分けられるように思います。この点について次回以降、詳細に検討していきます。

技術者(イノベーター)にとっての研究開発、イノベーションの意義
もう一点指摘しておきたいこととして、イノベーションを起こす人(イノベーター、研究者、技術者など)にとってのイノベーションの意義があります。いくら企業や社会にとって意義のあることでも、それを推進する人のモチベーションが得られなければ成功は難しいでしょう。この点に関して、以下のような興味深い指摘があります。
MillerWedell-Wedellsborgは、次のように指摘しています。「真の質問は『なぜ組織にとってイノベーションは重要なのか』ではなく、『なぜ彼ら(部下)にとってイノベーションは重要なのか』[文献16、p.222]」とし、「日常のイノベーションを追求するべき個人的な理由は、少なくとも4つある。[文献16、p.222-225]」としています。その4つとは、以下のとおりです。
1、イノベーションは、目標を達成し、さらには超えるのを助ける。
2、イノベーションは、仕事に対する満足度を高める。
3、イノベーションを主導する能力は、人事考課において重要性を増しつつある。
4、イノベーションは、世界をより良い場所にする。

イノベーターにとって、イノベーションを起こすことの意味は様々かもしれませんが、イノベーションに関わる人(の動機)の問題は、イノベーションをうまく進める上で重要だと思います。本シリーズではそうした観点も念頭に置きながら、研究開発マネジメントについて考えていきたいと思います。


文献1:伊丹敬之・東京理科大学MOT研究会編著、「教科書を超えた技術経営」、日本経済新聞社、2015.本ブログ紹介記事
文献2:伊丹敬之、「先生、イノベーションって何ですか?」、PHP研究所、2015.ブログ紹介記事
文献3:三品和広+三品ゼミ著、「リ・インベンション 概念のブレークスルーをどう生み出すか」、東洋経済新報社、2013.本ブログ紹介記事
文献4:後藤晃、「イノベーションと日本経済」、岩波書店、2000.
文献5:Carlson, Curtis R., Wilmot, William W., 2006、カーティス・M・カールソン、ウィリアム・W・ウィルモット著、電通イノベーションプロジェクト訳、「イノベーション5つの原則 世界最高峰の研究機関SRIが生みだした実践理論」、ダイヤモンド社、2012.本ブログ紹介記事
文献6:野中郁次郎、紺野登、「知識創造経営のプリンシプル 賢慮資本主義の実践論」、東洋経済新報社、2012.本ブログ紹介記事
文献7:Tom Kelley, David Kelley, 2013、トム・ケリー、デイヴィッド・ケリー著、千葉敏生訳、「クリエイティブマインドセット 創造力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法」、日経BP社、2014.本ブログ紹介記事
文献8:Christensen, C.M, Raynor, M.E, 2003、桜井祐子訳、「イノベーションへの解」、翔泳社、2003.
文献9:Collins, J., 2001、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」、日経BP社、2001.
文献10:Collins, J., Hansen, M. T., 2011、牧野洋訳、「ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる」、日経BP社、2012.本ブログ紹介記事
文献11:Scott Berkun2007、村上雅章訳、「イノベーションの神話」、オライリー・ジャパン、2007.本ブログ紹介記事
文献12:Abbie Griffin, Raymond L. Price, Bruce Vojak, 2012、アビー・グリフィン、レイモンド・L・プライス、ブルース・A・ボジャック著、市川文子、田村大監訳、東方雅美訳、「シリアル・イノベーター 『非シリコンバレー型』イノベーションの流儀」、プレジデント社、2014.本ブログ紹介記事
文献13:池田信夫、「イノベーションとは何か」、東洋経済新報社、2011.本ブログ紹介記事
文献14:伊丹敬之、宮永博史、「技術を武器にする経営 日本企業に必要なMOTとは何か」、日本経済新聞出版社、2014.ブログ紹介記事
文献15:Scott D. Anthony、スコット・D・アンソニー著、編集部訳、「スタートアップ4.0 再び大企業の時代へ」、Diamond Harvard Business Review, Aug. 2013, p.62.ブログ紹介記事
文献16:Paddy Miller, Thomas Wedell-Wedellsborg, 2013、パディ・ミラー、トーマス・ウェデル=ウェデルスボルグ著、平林祥訳、「イノベーションは日々の仕事のなかに 価値ある変化のしかけ方」、英治出版、2014.ブログ紹介記事


研究開発マネジメントノートIV第3回:1.1.3)研究開発やイノベーションに関する様々な考え方

「研究開発マネジメントの知識と不確実性に基づく研究マネジメント」

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと
1.1
、研究開発とは? 1)研究開発とは?:シンプルな理解
2)研究開発とは何かを考える第2回

3)
研究とイノベーションをめぐる様々な考え方
前回(第2回)では、研究開発を、「新しい」ことを扱い、「情報」を得ようとする活動と捉えることを提案しました。このような捉え方は実は古くからあり、例えば、今野浩一郎氏は「研究開発マネジメント入門」という本で、「『研究開発』という言葉から、何をイメージしますか。ここでは『技術の開発を行う企業の活動』といった意味で使っていますが、それがカバーする範囲は、われわれが普段考えている以上に広いのです。ノーベル賞の対象になるような、大学や公的研究機関で行われている学術的な活動は当然のことですが、新しい製品を開発したり、既存の製品や機械を改善したりする、企業の中で普通に見られる活動も研究開発に含まれます。また研究開発というと自然科学や工学の分野をすぐに思い浮かべると思いますが、経済や法律等の社会科学までも対象分野に含まれます。しかし、本書が扱っている範囲は自然科学や工学の分野なので、それに合わせて研究開発を抽象的に定義すると『自然現象についての新しい知識を得るための、あるいは、既存の知識の新しい活用を創造するための活動』ということになるでしょう。[文献1、p.16]」と述べています。こうした考え方を拡張し、「新しい」こと、「情報」を得ることを特に強調したのが、前回提案した考え方、ということになります。

これに対して、最近は「イノベーション」という言葉が多用されています。前回も述べたとおり、本シリーズでは、「研究開発」と「イノベーション」は厳密に区別せず議論をしていきたいと思いますが、世間で「イノベーション」という言葉がどう認識されているかを知っておくことは、研究開発やイノベーションの本質を考える上でも、また、いろいろな人と議論をする上でも有意義なことと考えます。そこで、今回は「イノベーション」に関する様々な考え方を見ておきたいと思います。

イノベーションとは何か
イノベーションという言葉によい和訳語がないことは、近年広く認識されるようになってきたと思います。例えば、青島矢一氏は次のように述べています。「イノベーションとは、一般に『何か新しいものを取り入れる、既存のものを変える』という意味をもっている。・・・日本では今でもイノベーションを『技術革新』と訳すことが多い。もともとは・・・1956年度の『経済白書』の中で、技術革新(イノベーション)として訳語をあてたことが始まりである。『技術』という言葉が入っているため、イノベーションというと技術のことだけを指しているかのように誤解されがちであるが、・・・本来の意味はもっと広く、技術の革新に限定されるものではない。・・・とはいえ、一人歩きした訳語が、イノベーションの意味を矮小化してきたことは否めない。[文献2、p.1-2]」イノベーションと技術を結びつけてしまう発想は特に技術者にありがちでもありますので、技術革新という訳語はやはり誤解を招きやすいと思います。そこで、本シリーズでもイノベーションには訳語を当てず、カタカナのままとして、以下、イノベーションとは何かの議論を進めたいと思います。

イノベーションに関するSchumpeterの考え方
「イノベーション」と言えば、まず引用されるのはSchumpeterです。Schumpeterの考え方を議論の出発点にした議論もよく見かけますので、まずは、それがどのようなものかを見ておきたいと思います。
・宮本又郎氏は次のように述べています。「経済活動における企業家の決定的な役割を主張したのはJ・A・シュンペーターであった。体制としての資本主義と社会主義の優劣が盛んに論じられていた1940年代に、シュンペーターは、資本主義の歴史において、人口の増加とか資本の供給の増大といった生産要素の増加がないときでもなぜ経済は停滞しなかったのか、また競争があるにもかかわらずなぜ利潤が消滅しなかったのであろうかと問い、それは『企業家』によって生産要素の結合の仕方が変えられ(『新結合』と呼ぶ)てきたからであった。シュンペーターはこのような行為を『革新』(イノベーション)、『創造的破壊』(クリエイティブ・ディストラクション)と名付け、それを5つに分類した。すなわち、①新製品あるいは新品質製品の生産、②新生産方法の導入、③新市場の開拓、④原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得、⑤新しい組織の実現、である。シュンペーターはこのような『革新』を遂行する『企業家』は、そのことによって創業者利潤を手にすることができるとした。この利潤は革新が模倣されるにつれ、消滅することになるが、こうした革新が不断に連続する限り、利潤は存在し、資本主義経済は発展することが可能となる。[文献3、p.5]」
・岡崎哲二氏は次のように述べています。「シュンペーターは20世紀初めに刊行された書物『経済発展の理論』(邦訳、1977年)において、経済に関する新しい見方を提起した。・・・『経済発展の理論』において、内生的な経済発展の機動力と位置づけられたのが、『企業者』による『新結合』の遂行であった。『新結合』というのは、財や生産要素の組み合わせの仕方を変更することであり、企業組織やマーケティングの変更を含む広い意味でのイノベーション(革新)を指している。イノベーションは、それに成功した企業の費用を低下させて、他の企業によって模倣されるまでの期間、とくに大きな利潤を、イノベーションを実現した企業に与える。そしてその利潤がイノベーションの誘因となるとともに、利潤から支払われる利子が銀行信用によるイノベーション活動の金融を可能にする。このようなイノベーションと模倣の繰り返しを通じて経済が発展していくというのが、『経済発展の理論』においてシュンペーターが提起した資本主義経済に関する新しい見方である。[文献3、p.26-27]」
・丹羽清氏はSchumpeterの次の言葉を引用しています。「経済活動の慣行軌道の変更、すなわち、非連続的変化が経済を発展させ[文献4、上p.171-180(文献5、p.112による)]」、「非連続変化は新結合の遂行によって起き[文献4、上p.180-184(文献5、p.113による)]」、「新結合が新しい軌道を確立していく過程を『創造的破壊』[文献6、上p.130(文献5、p.113による]と呼ぶ。
・一方、Schumpeterはイノベーションの担い手について、時代とともに意見を変えています。伊神満氏によれば、次のとおりです。「1912年の『経済発展の理論』の中では主に『起業家』による、・・・5種類の『発展』あるいは『新結合』・・・が全面に出ている。したがって、ヨーロッパ時代のシュンペーターは新興企業の役割を重視していた、とされる。イノベーション研究者の間ではシュンペーター『マークI』・・・と呼ばれている立場だ。・・・アメリカに渡ってから1942年に英語版が刊行された『資本主義・社会主義・民主主義』・・・の第二部『資本主義は存続しうるか?』の後半になると、・・・研究所を備えた大企業の組織力・研究開発能力への高い評価が述べられている一方、ゆくゆくは起業家が活躍する余地はなくなっていくのではないか、という展望が語られる。・・・『大企業の研究開発能力』を強調する後者の仮説は、シュンペーター『マークII』と呼ばれている。・・・シュンペーターの足跡をたどると、新参企業と既存企業のどちらの能力をより高く評価したらいいのかについて、彼にも多少の揺らぎが見られるのである。[文献7、p.118-119]」

Schumpeter
の考え方に対する評価
DruckerSchumpeterの意見を支持し、「イノベーションとは、従来とは違う新しく価値ある事業やサービスを起こすことであり、それを行なう企業家の責務はSchumpeterが明らかにしたように『創造的破壊』である」[文献8、p.26-29(文献5、p.116による)]。「企業の基本機能は、マーケティング(財やサービスを市場で売ること)とイノベーション(より優れた、より経済的な財やサービスを作ること)の2つだけである」[文献9、p.37,39(文献5、p.8による)]と言っているということです。
・以上のSchumpeterの考え方の解釈については、伊丹敬之氏は次のように述べています。「イノベーションの世界で一番有名な大先生にシュンペーター先生という人がいるんだけど、その人がイノベーションとは『新結合』だ、と言ったんだよ。・・・それはその通りなんだけど、でも、何でも二つくっつけりゃイノベーションか、とも言いたくなる。シュンペーター大先生は、『イノベーションというのはそういうことで起きて行きます』というプロセスの一部を言ったんだけど、その一部だけを取り出して『新結合』だから、これをイノベーションって、つい言う人が出てきちゃう。[文献10、p.36]」
・また、「新結合」という考え方について、入山章栄氏は次のように述べています。「イノベーションとは言うまでもなく、新しい知を生み出すことである。そしてシュンペーターによると、「新しい知とは常に、『既存の知』と別の『既存の知』の、『新しい組み合わせ』で生まれる」のだ。言われてみれば、これは当たり前のことだ。人間はゼロからは何も生み出せない。新しい知は、いままでつながっていなかった知と知が、新しくつながって生まれるのだ。・・・しかし、知の探索だけではビジネスにならない。・・・すなわち、一度組み合わされた既存の知を何度も活用すること(知の深化)で、初めて『ただの新しいアイデア』から、収益性のあるビジネスとなり、イノベーションとなるのである。[文献11]
Schumpeterは、イノベーションと経済発展の関係やイノベーション自体について、重要な指摘をしてくれているのは間違いないと思いますが、そのポイントを挙げるならば、「新結合」、「創造的破壊」(イノベーションには破壊が伴うという意味も含む)、「非連続的変化」ということになるのではないでしょうか。ただし、実践の立場からすれば、過度にSchumpeterの考え方に縛られる必要はないと思います。例えば、新結合だけがイノベーションの源泉ではないかもしれません。私の実務経験からしても新たな発見や発想が飛躍をもたらして「非連続的変化」が起きる場合もあるように思います。Schumpeterの示唆する3つのポイントは、多くの場合に当てはまるイノベーションの基本的概念として認識しておけばよいように思います。

イノベーションに関するその他の考え方
イノベーションとは何かについてのその他の考え方もご紹介しておきたいと思います。
・玉田俊平太氏は次のように述べています。「現在、多くの学者の議論により、①アイディアが新しい(=発明)だけでなく、②それが広く社会に広く受け入れられる(=商業的に成功する)、という二つの条件が揃って初めてイノベーションと呼び得る、というのが定説となっている[文献12、p.41]」。
・また丹羽清氏は「激しい競争に勝ち、社会や顧客に貢献して生き続けるためには企業は何をすべきか、それは、他社にはまねのできない、従来とはまったく異なる新しい価値を生み出す製品やサービス、そして事業を提供することだ。これをイノベーション(革新)という。」[文献5、p.111]と述べています。
CrainerDearloveは次のように述べています。「イノベーションとは、物事を変えるための新たな方法を見つけることなのだ。『新たな価値を創造する』と言い換えてもいい。このことがいつの時代にもまして今日、重要になったのは、わたしたち消費者が常にモノやサービスに新たな価値を要求するようになったからである。[文献13、p.11]」
Anthonyは「ファーストマイル」で、「本書では、何らかの価値、特に、従来とは異なる方法で価値を生み出すことを『イノベーション』と呼ぶ。[文献14、p.12]」としています。

イノベーションの持つ性質についての考え方
以上は、イノベーションはこのように定義できる、とか、このようなものをイノベーションと考える、という考え方の例でした。しかし、実践的には、イノベーションを厳密に定義しなくとも、イノベーションにはこのようにして起こるとか、このような性質がある、だから、このようなアプローチで進めれば良い、というような発想の基礎になる考え方も有用と思われます。以下、そうした考え方の中で汎用性の高そうなものを挙げておきたいと思います。
・青島矢一氏は、イノベーションの4つの特質として、次の4点を挙げています。[文献2、p.10-15
1、知識の営み-「イノベーションの最も大きな特質は、それが知識という無形の財を創造する活動の結果だという点である。」(「知識は、他者による同時使用を排除できない・・・契約による取引にのりにくい・・・累積性という性質をもつ」)。
2、不確実性-「その実現過程に常に高い不確実性がともなうこと」(「事前に綿密に計画され、周到に準備できるようなものではない」「不確実性がもたらす第1の問題は、イノベーションの創出に挑戦しようとする動機の欠如である。」
3、社会性-「社会の制度、歴史、文化といった要因がイノベーションの創出を理解するうえで重要」
4、システム性-「さまざまな種類の技術、知識、仕組みが組み合わさって全体として機能しなければ、イノベーションは実現しない。」
・一方、どうやってイノベーションが起こるかについては、上述の新結合に関連してご紹介した、知の探索と深化の考え方があります。入山章栄氏は次のように述べています。「世界の経営学で最も研究されているイノベーション理論の基礎は『Ambidexterity』という概念にあるといって間違いありません。・・・イノベーションの源泉の一つは『既存の知と、別の既存の知の、新しい組み合わせ』にあります。・・・常にいまある知と、それまでつながっていなかった別の既存の知が新しくつながることで、新しい知が生まれるのです。・・・企業・人は様々な知の組み合わせを試せたほうがいいですから、常に『知の範囲』を広げることが望まれます。これを世界の経営学では『Exploration』といいます。・・・『知の探索』と呼びましょう。一方、そのような活動を通じて生み出された知からは、当然ながら収益を生み出すことが求められます。そのために企業は一定分野の知を継続して『深める』ことも必要です。これを『Exploitation(知の深化)』と呼びます。この知の探索と深化をバランスよく進めていうことを両利き(Ambidexterity)というのです。[文献15、p.74-76]」「ところが現実には、企業組織はどうしても『知の深化』に偏り、『知の探索』を怠りがちになる傾向が本質として備わっています。・・・いま業績のあがっている分野の知を『深化』させることのほうがはるかに効率がいいからです。・・・この企業の知の深化への傾斜は、短期的な効率性という意味ではいいのですが、結果として知の範囲が狭まり、企業の中長期的なイノベーションが停滞するのです。これを『コンピテンシー・トラップ』と呼びます。[文献15、p.76-77]」なお、このExploitationは、「知の活用」と呼ぶ人もいるようです。業界や取り組む課題によっては、「活用」の方が実態に即している場合もあるかもしれません。

イノベーションとは何かを明確にすることは、イノベーションの実践にとって必須のことではないかもしれません。特に、不確実性が高く、論理的に戦略を立てることが難しい場合においては演繹的な思考が通用せず、イノベーションとは何かということなどを意識せず、改善を積み重ねた結果としてイノベーションが得られることもあるかもしれません。しかし、イノベーションとはどんなものかについての大局的な理解はイノベーションの様々な局面で活用できるのではないかと思いますがいかがでしょうか。


文献1:今野浩一郎、「研究開発マネジメント入門」、日本経済新聞社、1993.
文献2:一橋大学イノベーション研究センター編、「イノベーション・マネジメント入門 第2版」、日本経済新聞出版社、2017.本ブログ紹介記事
文献3:宮本又郎、加護野忠男/企業家研究フォーラム編、「企業家学のすすめ」、有斐閣、2014.
文献4:Schumpeter, J.A., 1926、塩野谷祐一、中山伊知郎、東畑精一訳、「経済発展の理論」岩波書店、1977.
文献5:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.
文献6:Schumpeter, J.A., 1950、中山伊知郎、東畑精一訳、「資本主義・社会主義・民主主義」東洋経済新報社、1995.
文献7:伊神満、「イノベーターのジレンマの経済学的解明」、日経BP社、2018.本ブログ紹介記事
文献8:Drucker, P.F., 1985、上田惇生訳、「(新訳)イノベーションと企業家精神」、ダイヤモンド社、1997.
文献9:Drucker, P.F., 1954、上田惇生訳、「(新訳)現代の経営」、ダイヤモンド社、1996.
文献10:伊丹敬之、「先生、イノベーションって何ですか?」、PHP研究所、2015.本ブログ紹介記事
文献11:入山章栄、「世界標準の経営理論 第14回『両利き』を目指すことこそ、イノベーションの本質である」、Diamond Harvard Business Review, Nov. 2015, p.124. .本ブログ紹介記事
文献12:玉田俊平太、「日本のイノベーションのジレンマ 破壊的イノベーターになるための7つのステップ」、翔泳社、2015.本ブログ紹介記事
文献13:Stuart Crainer, Des Dearlove, 2014、スチュアート・クレイナー、デス・ディアラブ著、関美和訳、「Thinkers50 イノベーション 創造的破壊と競争によって新たな価値を生む営み 最高の知性に学ぶ実践的イノベーション論」、プレジデント社、2014. 本ブログ紹介記事
文献14:Scott D. Anthony, 2014、スコット・D・アンソニー著、川又政治訳、津嶋辰郎、津田真吾、山田竜也監修、「ザ・ファーストマイル」、翔泳社、2014. 本ブログ紹介記事
文献15:入山章栄、「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」、日経BP2015.ブログ紹介記事


ノート記事目次(2019.6.30版)

本ブログでは研究開発マネジメントの実践に有用な知識を「ノート」としてまとめています。2010年にシリーズI、「ノート:研究マネジャー基礎知識」を開始し、2013年からはその改訂版(シリーズII)を書きました。2016年からさらにその改訂を行って(「研究開発マネジメントの実践と基礎知識」(ノート全面改訂))2019年5月に完結(シリーズIII)、現在は、さらにその改訂版(シリーズIV)を書き始めています。今回は、この5月に完結したシリーズIII「研究開発マネジメントの実践と基礎知識(ノート全面改訂)」の目次を整理しました。他の記事の目次は本ブログ記事目次・参考文献リスト・索引の最新版はこちらをご参照ください。

ノート全面改訂記事「研究開発マネジメントの実践と基礎知識」(2016年~2019年、シリーズIII
はじめに
2016.3.27)(全面改訂第1回)
ノート記事改訂の趣旨、研究開発マネジメントの現状
参考リンク

全面改訂1.1、研究開発とは
2016.5.1)(全面改訂第2回)
新しいことを扱い情報を得ようとする活動としての研究開発、マネジメントのポイント
キーワード:研究開発の必要性、研究開発活動と研究開発ではないこと
参考リンク

全面改訂1.1.3)、研究とイノベーションをめぐる様々な考え方
2016.5.29)(全面改訂第3回)
Schumpeter
の考え方、それにとらわれない考え方、イノベーションにおける技術の役割
キーワード:新結合、創造的破壊、企業家、イノベーションの歴史的変遷、ビジネスモデル
参考リンク

全面改訂1.2研究の不確実性をどう考えるか
2016.6.26)(全面改訂第4回)
研究対象(新しいこと)には不確実性がある、不確実性はどんなものでどこにあるのか(内部と外部)
キーワード:リスク、意思決定、因果関係、内部の不確実性、外部の不確実性、複雑系、行動経済学、セレンディピティ、創発的戦略、
参考リンク

全面改訂1.2.3)研究の不確実性に関する様々な考え方
2016.7.24)(全面改訂第5回)
不確実性への対処、不確実性を減らす具体的手法
キーワード:内生的不確実性、外生的不確実性、知の探索、知の深化、コンピテンシー・トラップ、限定的合理性、両利き、組織学習、イノベーション・ポートフォリオ、リアル・オプション、創発的戦略、イノベーション実現メソッド、プロトタイピング、リーン・スタートアップ、MVP、デザイン思考、失敗を活かす
参考リンク

全面改訂1.3研究開発活動に影響する環境要因
2016.8.21)(全面改訂第6回)
不確実性に影響する環境要因として重要な競争相手の存在、競争相手から得られる洞察
キーワード:環境要因、競争相手、ポーター、5つの力、SCP理論
参考リンク

全面改訂1.3.3)研究開発活動に影響する環境要因と競争
2016.9.19)(全面改訂第7回)
競争に影響を及ぼす環境要因は変化する。競争に有利な状況をどうつくるか。
キーワード:競争戦略の問題点、ブルー・オーシャン戦略、非対称的モチベーション、破壊的イノベーション、セレンディピティー、競争相手の意図
参考リンク

全面改訂2.1不確実性に着目した課題設定のすすめ
2016.10.16)(全面改訂第8回)
研究テーマ設定は、課題実現、ニーズ、市場への供給と競争の視点から考えるとよい。
キーワード:研究テーマ設定、どこに不確実性があるかの見極め、課題実現の不確実性、ニーズの不確実性、市場に届ける方法、競争に勝つ方法の不確実性、ビジネスモデル、アイデアの源、ニーズ志向、シーズ志向、カップリングモデル、破壊的イノベーション、持続的イノベーション、ローエン型破壊、新市場型破壊
参考リンク

全面改訂2.1.3)研究テーマ設定を不確実性の観点から考える
2016.11.13)(全面改訂第9回)
不確実性がどこにあるか、その重要性を見極め、自分たちで解決できるかを考えて課題を決める。
キーワード:ファーストマイル、挑戦の要、コーイノベーション・リスク、魔の川、死の谷、ダーウィンの海
参考リンク

全面改訂2.1.1課題実現の不確実性に関わるテーマ設定の特徴と注意点
2016.12.11)(全面改訂第10回)
課題実現(技術)以外の不確実性、効果的に学習することに注意、不確実性の大きい課題、小さい課題のバランスをとることが重要。
キーワード:課題実現の不確実性、技術の不確実性、研究部門、未知のこと、既知のこと、頭を使う、体を使う、他部署からの依頼、分業、学習、真のセレンディピティー、擬セレンディピティー、不確実性の程度、中核事業と新規事業のバランス、パフォーマンスエンジン、技術維持、イノベーションポートフォリオ
参考リンク

全面改訂2.1.1.3)、技術的課題実現に関わるテーマ設定の注意点
2017.1.9)(全面改訂第11回)
課題を実現する研究開発の際には、単に技術的分野を分担するだけでなく、総合的な観点からイノベーションを推進することも必要。
キーワード:専門性、10年ルール、分業、技術維持、普及、死の谷、FFE、学習、不確実性

全面改訂2.1.2、ニーズの不確実性に関わるテーマ設定の特徴と注意点
2017.2.5)(全面改訂第12回)
ニーズのないところに研究の成功はないが、顧客の真のニーズを知ることは容易ではない。どんな手法が活用できるか。

キーワード:ニーズ、片付けるべき用事、エスノグラフィー、行動観察、デザイン思考

全面改訂2.1.2.3)ニーズの不確実性に関わるテーマ設定において考慮すべきこと
2017.3.5)(全面改訂第13回)
ニーズに基づく研究テーマを考える際の注意点。誰のニーズか、市場規模、ニーズ発生のタイミングも考慮が必要。
キーワード:片付けるべき用事、クラウドファンディング、イノベーション普及、ユーザー・イノベーション

全面改訂2.1.3市場で成功するための不確実性をどう克服するか
2017.4.2)(全面改訂第14回)
市場で成功するには価値を市場に届け、収益をあげる仕組み(ビジネスモデル)と協力関係(エコシステム)をいかにうまく作るかが重要。
キーワード:市場、ビジネスモデル、エコシステム、協力、Vehicle for InnovationSource of InnovationCanvas、コーイノベーション・リスク、アダプションチェーン・リスク

全面改訂2.1.3.3)ビジネスモデルを考える際の注意点(2017.5.1
(全面改訂15回)
ビジネスモデル、エコシステムをうまく作るための様々な提案を紹介。作り上げたビジネスモデル、エコシステムの改善も重要。
キーワード:ビジネスモデル、エコシステム

全面改訂2.1.4やりたいことに基づくテーマ設定
2017.5.28)(全面改訂第16回)
研究者の興味に基づくテーマは直接的なビジネスへの貢献は期待しにくいかもしれないが、うまく進めれば企業にとって有益になりうるのではないか。
キーワード:3M、15%ポリシー、努力の娯楽化、マインドフルネス、暗黙知、社内政治、信頼、自由、宣伝、Partner of choice

全面改訂2.1.5テーマを選ぶ
2017.6.25)(全面改訂第17回)
実施するテーマを選ぶ際には、必要性、重要性、興味、実現性が重要。さらにポートフォリオを意識すべき。
キーワード:ハイルマイヤー(Heilmeier)の基準、ポートフォリオ、不確実性、資源配分

全面改訂2.2.1研究者の活性化
2017.7.23)(全面改訂第18回)
モチベーションに影響する因子には、欲求、環境や仕事の性質、仕事の進め方、期待、論理的あるいは非論理的な気持ちなどが影響する。それらをうまく組み合わせることが必要。
キーワード:モチベーション、外発的動機、内発的動機、欲求、ニーズ理論、Maslow、欲求階層理論、動機付け要因、衛生要因、職務特性理論、期待理論、ゴール設定理論、自己効力感、感情

全面改訂2.2.1.3)研究者の活性化とモチベーション
2017.8.20)(全面改訂第19回)
モチベーションに影響する要因には様々なものがある。置かれた状況や個人の考え方に応じてモチベーションを高める工夫をする必要があり、そのためにモチベーションの本質的理解が有用。
キーワード:モチベーション、エンパワーメント、心的活力、働きがいのある会社、外発的動機づけ

全面改訂2.2.2研究者の適性と最適配置
2017.9.18)(全面改訂第20回)
個人の適性にあった仕事を担当してもらうことには利点がある。そうした仕事の進め方を可能にするのが、多様性を尊重する考え方なのではないか。
キーワード:未知か既知か、頭を使うか体を使うか、適材適所、多様性、新規性、実行

全面改訂2.2.2.3)研究適性についての様々な考え方
2017.10.15)(全面改訂第21回)

研究者の適性については様々な考え方がありますが、不確実性に耐えられること、協力できること、失敗から学べること、自律的であること、新しいことへの意欲があることが重要と思います。
キーワード:パーソナリティ、チーム

全面改訂2.2.3研究リーダー、マネジャーの役割
2017.11.12)(全面改訂第22回)
マネジャーに求められることは、他の人に影響を与え他の人の適切な判断と好ましい行動を促すことと考えられます。そのためには、ビジョンを掲げること、多様性を確保すること、コミュニケーション促進などが必要とされるでしょう。
キーワード:リーダー、マネジャー、ビジョン、TFL(トランスフォーメ―ショナル・リーダーシップ)、多様性、コミュニケーション、連携、調整、育成、指導、ロールモデル

全面改訂2.2.3.3)リーダー、マネジャーの役割とあり方に関する様々な考え方
2017.12.10)(全面改訂第23回)
リーダーのあり方に関する様々な考え方の紹介。様々な考え方を参考に状況に応じたマネジメントを考えて実行することが重要か。
キーワード:シェアード・リーダーシップ、シリアル・イノベーター、10X型リーダー、賢慮、グーグル

全面改訂2.2.4研究メンバーの育成
2018.1.8)(全面改訂第24回)
技術の高度化、技術伝承の必要性を考えると、研究者育成をうまく行なう必要性は今後高まっていくと考えられます。学習のメカニズムの理解に基づく効果的な育成を目指す必要があると思われます。
キーワード:育成、能力、学習、コルブの経験学習モデル、経験、ヤーキーズ・ドッドソンの法則

全面改訂2.3.1研究組織の構造
2018.2.4)(全面改訂第25回)
技術志向、機能志向、マトリックス構造など、組織の特性を理解した上で、状況に応じてマネジマントの方法を工夫していくことが必要。
キーワード:技術志向、機能志向、マトリックス、ピラミッド組織、フラット組織、ネットワーク組織、連携、エコシステム

全面改訂2.3.2研究組織の仕組み
2018.3.4)(全面改訂第26回)
組織運営の仕組みも研究開発の進め方を考える上では重要です。制御された自由を研究者にどう与えるかが重要な視点になると思われます。
キーワード:トップダウン、ボトムアップ、自由、制度、組織文化

全面改訂2.3.3研究組織の望ましい特性
2018.4.1)(全面改訂27回)
どんな特性を持つ組織が研究にとって好ましいのか。自律性と多様性があり、コミュニケーションが活発で、学習、協力ができること。それにより知識が創造できるような組織、ということになると思います。
キーワード:自律性、多様性、コミュニケーション、学習、協力、知識創造、SECIモデル、場

全面改訂2.3.3.3) 研究組織の望ましい特性に関する様々な考え方2018.4.30)(全面改訂28回)
研究組織の望ましい特性についての様々な考え方の基本は、
研究開発に携わる人々が自らの可能性を最もよく発揮できる組織特性、それを担保する「信頼」であると思われます。
キーワード:ビジョン、自律性、多様性、コミュニケーション、学習、実験、協力、信頼

全面改訂2.3.4研究組織の運営手法
2018.5.27)(全面改訂29回)
成果を引き出すための運営手法について考えました。特にコミュニケーションを促進するため、報告、連絡、相談、ミーティング、会議をうまく運営することが有効だと考えます。

キーワード:報告、連絡、相談、ミーティング、会議、アジャイル、スクラム

全面改訂2.4.1研究プロジェクトの運営
2018.6.24)(全面改訂30回)
研究プロジェクトの運営については、近年では、事前に綿密な戦略と計画を立てそれに従って進めることよりも、試行からの学習と臨機応変な方向転換を重視する考え方が増えてきているようです。
キーワード:不確実性、実験、試行、学習、見直し、方向転換、協力

全面改訂2.4.1.3) 研究プロジェクトの進め方に関する様々な考え方
2018.7.22)(全面改訂31回)
試行を重視するプロジェクトの進め方、計画重視の考え方、従来のプロジェクトマネジメント手法の得失を整理しました。
キーワード:創発的戦略、リーン・スタートアップ、デザイン思考、計画、プロジェクトマネジメント、ステージゲート

全面改訂2.4.2コラボレーションのマネジメント
2018.8.19)(全面改訂32回)
他組織とのコラボレーションの遂行では、分業と協力を分けて考えること、win-winの関係を維持できるようにすること、信頼を重視することが重要であると考えます。
キーワード:コラボレーション、協働、分業、協力、win-win、信頼、オープン・イノベーション、イノベーション・エコシステム、

全面改訂2.4.3プロジェクトの方向転換と中止
2018.9.17)(全面改訂33回)
研究開発においてプロジェクトの中止や方向転換は必須のものであるにもかかわらず、なかなか実行は難しいようです。うまく中止、方向転換するには人間の心理的抵抗をなるべく小さくすることが必要でしょう。
キーワード:中止、方向転換、失敗、ピボット、予測市場、死前検証

全面改訂2.4.4可視化による運営のマネジメント
2018.10.14)(全面改訂34回)
創発的な研究開発では、
「現在どこにいるのか」という現状認識と、「それに基づいてどこに進むべきか」という判断が重要と考えられます。その認識のため、どんな不確実性があって、それがどう変化するかをわかりやすくまとめることは有意義だと思われます。
キーワード:可視化、Canvas、ダッシュボード、HOPE実験テンプレート、確実性の推移表

全面改訂2.4.5失敗を避ける
2018.11.11)(全面改訂35回)
研究開発に伴う失敗は、重要ポイントの見落とし、イノベーションの本質の理解不足、思い込み、現状維持、能力の過信、不完全な実行の仕組みなどが原因と考えられます。まずは失敗を避けられるという過信をしないことが重要でしょう。
キーワード:失敗、見落とし、現状維持、過信

全面改訂2.4.5.3) 失敗の様々な要因
2018.12.9)(全面改訂36回)
さまざまな失敗原因についての考察を集めました。失敗原因は様々ですので、事例や様々な視点からの考察から学ぶことも必要と考えます。

キーワード:失敗、衰退の5段階、幹部の脱線、判断のバイアス、チーム、最初の段階

全面改訂2.5.1研究成果を生かすために必要なイノベーション普及の考え方
2019.1.6)(全面改訂37回)
研究成果を使ってもらうための重要な視点であるRogersのイノベーション普及学をレビューしました。
キーワード:Rogers、イノベーション普及、採用者カテゴリー

全面改訂2.5.1.3) イノベーション普及に関連した様々な考え方
2019.2.3)(全面改訂38回)
イノベーション普及論の限界、キャズムへの発展などを議論しました。普及の考え方は有効ですが、
Rogersのモデルは製品の変化を考慮しない単純化されたモデルである点には注意が必要でしょう。

キーワード:イノベーション普及、キャズム、ネットワーク

全面改訂2.5.2得られた知的資産の活用
2019.3.3)(全面改訂39回)
暗黙知を含む知識の移転、特許の活用など、研究によって得られた知的資産を活用して、新たな知識の創造につなげていく努力はますます必要になっていくと思われます。
キーワード:暗黙知、形式知、知識伝承、知的資産、ナレッジマネジメント、特許

全面改訂3.1まとめ(不確実性に基づく研究マネジメント)
2019.3.31)(全面改訂40回)
研究開発を不確実なものと捉え、重要な不確実性をうまく減らしていくことが研究開発をうまく進めるために必要なことだと思います。その視点で特に重要なポイントをまとめました。
キーワード:不確実性、研究マネジメント

全面改訂3.2不確実性マネジメントシート
2019.5.1)(全面改訂41回)
不確実性に基づく研究マネジメントの実践のための、「研究テーマを選定するための不確実性検討シート」と、「研究テーマ遂行シート」の2つのツールを紹介しました。
キーワード:不確実性、ツール、シート


シリーズIV(現在改訂執筆中)記事
「研究開発マネジメントの知識と不確実性に基づく研究マネジメント」
ノートIV第1回:はじめに2019.5.26)<対応するシリーズIII記事:第1回
シリーズIIIとは構成も若干変えて、不確実性に基づく研究マネジメントの視点で全体をまとめます。シリーズIVの予定と、シリーズIIIとの対応リンクを入れました。
キーサード:不確実性


ノートIV第2回:1.1研究開発とは?
2019.6.23)<対応するシリーズIII記事:第2回
新しいことを扱い情報を得ようとする活動としての研究開発、マネジメントのポイント。
キーワード:研究開発の必要性、不確実性、研究マネジメントがなすべきこと、イノベーション


シリーズII「ノート記事改訂版」(2013-4目次はこちらの後半を参照ください。
シリーズI「研究開発マネジメントノート」(2010目次はこちら


研究開発マネジメントノートIV第2回:1.1研究開発とは?

「研究開発マネジメントの知識と不確実性に基づく研究マネジメント」

はじめに

1,研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと
1.1
、研究開発とは?

世の中には研究開発を分類した様々な概念があります。そういう分類や概念は研究開発というものの理解には役立つかもしれませんが、実践家にとっての研究開発の進め方の指針になるか、というと必ずしもそうとは限らないように思います。本ブログは実践家にとって役に立つことを最優先にマネジメントを考えていきたいと思いますので、「研究開発とは何か」についてもまずは実践家の使いやすさを重視した定義をしておきたいと思います。

1)研究開発とは?:実践のためのシンプルな理解
研究開発とはどのようなものかをシンプルにまとめると以下の2点になると思います。
・「新しい」ことを対象にした活動である
・「情報」を得る活動である

このうち「新しい」ことを対象とするという考え方からは、研究開発には「不確実性」がある、ということが導かれるはずです。そして、その「不確実性」を何とかうまく処理できれば、それが研究開発の成功につながるのではないか、というのが本シリーズでの議論の根幹になっていきます。今回はまずこの定義について考えたいと思います。

2)
研究開発とは何かを考える
「新しい」ということ
企業における仕事には様々なものがあります。例えば、新製品の開発は一般に研究開発部隊の仕事でしょう。では、工場の操業改善や新たなビジネスモデルの構築はどうでしょう。市場調査や営業活動は?。それぞれ専門の部隊に任されることも多いでしょうが、研究部隊が参加することもあるかもしれません。そうした様々な場面で「研究開発」的な仕事の進め方が求められるとすれば、既成の仕事の分類にとらわれることなく、様々な仕事に現れる「研究開発」的な仕事の特性に着目し、その特性を有する仕事を「研究開発」と定義した方が実践的に便利なのではないかと思います。この考え方で研究開発を特徴づけようとすると、まず「新しい」ということが挙げられるのではないかと思います。

例えば、世の中にないものを対象にするならそれは文句なく「新しい」と言えるでしょう。また、操業のちょっとした改善であっても、それが世の中にないチャレンジであるならその部分は「新しい」と言えるはずです。さらに、世の中では知られていても、自分たちがそれを知らなければ自分たちにとっては「新しい」ことになります。外部から技術を導入するような場合であっても、自社の状況に合わせる工夫が必要な場合には「新しい」と言ってもよいのではないでしょうか。

こうした「新しい」ことには、共通の特徴があり、「新しい」ことを扱う上で必要なノウハウには重なるところがあると思います。そこで本稿では、研究開発の範囲を広く捉え、「新しい」ことを対象とする活動と考えたいと思います。

「情報」を得るということ
「新しい」ことは「知らない」ことでもあります。なぜ「知らない」ことを扱うかと言えば、それは「知る」ため、すなわち、対象に関する「情報」を得るため、「学習」するためと言えるでしょう。ただし、学校での通常の学習のように一方的に外部から情報が与えられてそれを受け取るだけの場合は、研究とは異なる活動だと思われます。つまり研究開発とは、「情報」を取りに行く能動的、積極的な活動によって「情報」を得る活動と理解できると思います。例えば、先生や文献から何かを学ぶとしても、その情報を能動的に探しにいく過程には研究の要素があるでしょう。また、ふと思いついたり、狙い以外の役に立つ情報がたまたま得られたような場合でも、何らかの情報を探しに行って見つけたものであったり、その情報をもとに実際に使える情報を得ようとする意図や行為があれば、それは研究開発と言ってよいと考えます。(なお、この考え方は、ThomkeReinertsenの「製品開発は、情報を生み出す非定形の業務」とする考え方[文献1]にヒントを得たものです。また、酒井崇男氏は、「情報視点で見ると、企業活動を通して私たちが生み出している価値とは、本質的には次の3つの情報資産である。・・・1、設計情報:『商品』に相当する情報資産、2、設計情報をつくりだし、生産(媒体に転写)するためのノウハウ、3、人材の頭脳に残っていく知識・経験の蓄積[文献2、p.80]」「人間の労働(付加価値を生む人間の活動)は情報視点で見れば、『情報を収集し』『情報を創造し』『情報を転写し』『情報を発信する』というビジネスプロセスのどこかに割りつけられている。[文献2、p.112-113]」と述べています。)

研究開発を以上のように捉えることにより、研究開発に関わるいくつかの問題がうまく整理できると私は考えています。以下、それらの点について考えてみましょう。

なぜ研究開発は必要なのか
なぜ研究開発が必要なのかは時々議論になります。研究開発などしなくても企業が収益をあげられればいい、とか、研究開発は他者に任せておけばよい、というような意見を持つ人もいるようですが、研究開発を上記のようにとらえると、そうした意見に反論しやすくなると思います。研究開発はなぜ必要なのか。その最も重要な理由は、「世の中が変わるから」、と言ってよいのではないでしょうか。世の中が変わればそれに対応するには「新しい」取り組みが必ず必要になるはずです。もちろん、世の中が変わって今の事業が成り立たなくなれば、その事業を捨てるという経営戦略もあり得ますので、その場合には研究開発は要らないかもしれませんが、逆に言えば、研究が不要なのはそういう決断をしたときのみ、と言えるでしょう。

おそらく研究に対する懐疑的な見方は、研究開発という行為と、研究開発部隊を混同していることに端を発しているのではないかと思います。実は、研究者でも研究開発部隊と研究開発行為を同一視する人もいるのですが、研究開発を上記のようにとらえると、「新しい」ことへの挑戦は誰がやってもよいし、誰もがそれなりに行い得ることだと考えることができます。上記のように研究開発を広く捉えることにより、研究開発の必要性について意味のある議論ができるようになるのではないでしょうか。

経済学では、研究開発は経済成長の原動力と捉えられることが多いと思いますが、そのように考えても実践的にはそれほど有意義な示唆を導けない気がします。経済成長は研究開発の成果のひとつであって、経済成長を目指した研究開発という考え方は、あまりに研究開発の可能性を狭く捉えすぎているのではないでしょうか。研究開発に携わる人々の意欲を、社会の変化に適応した「新しい」取り組みや社会の変化を生み出す「新しい」取り組みに方向づけることこそが、研究開発を実践する研究者、マネジャーが行うべきことだと思います。経済成長の原動力になるから研究をしなければならないのではなくて、「新しい」ことが必要とされるから研究が必要になり、その結果が経済的な利益を生むのだと思います。

研究開発を定義することの実利的な意味
さらに、研究開発を上記のように定義することには実利的な意味もあります。それは、「何が研究開発ではないか」を明確にできることです。上記の定義に従えば、例えば、やればできるとわかっていることをその通りにやることは「新しく」ないので、研究開発ではないということになります。例えば、工場での定常的な生産、変化のないルーチンワークの仕事、「新しい」ことや「情報」を得ることに繋がらない報告業務などが挙げられるでしょう。もちろん、こうした業務は研究部隊が行った方が効率的な場合もあるでしょうが、研究開発の本来の仕事ではないと考えます。他部署からこうした業務の依頼を受けたような場合、それが研究開発には該当しないという理由で断ることも可能かもしれません。また、どうしても研究部隊がそうした活動に関わらなければならないとしても、単に依頼をこなすだけでは研究者の存在意義はないことを研究者に意識づけるべきでしょう。他部署のお手伝いであって、そこから何か「新しい」こと、有益な「情報」を見つけられてはじめて一流の研究者なのだ、というように研究者を意識付けすべきだと思います。何が研究開発であって何が研究開発でないのかを明らかにしておくことは、研究部隊の仕事を正しく方向づけることにも使えると言えるのではないでしょうか。

加えて、研究部隊は何も生んでいない、という乱暴な批判に反論することもできます。確かにモノを生んではいないかもしれませんが、研究をすれば何らかの「情報」を生んでいるはずです。その「情報」が利益に結び付いていないとすれば、その情報の質が悪いか、情報を利益に結び付ける活動がうまくできていないかのどちらかでしょう。決してモノを生んでいないから意味がないわけではないはずです。

研究マネジメントは何をすべきか
研究開発を、「新しい」ことを扱い、「情報」を得ようとする活動であると考えるとき、そのマネジマントはどうあるべきでしょうか。まず確認しておくべきことは、研究開発を誰がどうやるかによって成果の大きさが変わるということです。そうであるなら研究開発をうまく行い、なるべく効率よく大きな成果を挙げることがマネジメントの重要なポイントとなるでしょう。

具体的に、「新しい」「情報」という視点からマネジメントのポイントを考えると以下のようになると思います。
・何が研究開発で何が研究開発でないかを明らかにするにする
→研究開発部隊がやるべきことと他部署に任せるべきことを区別して効率的な運用を行う
→研究開発部隊がやるべきことから逸脱することを防ぐ
→アウトプットすべきは「情報」。モノでもカネでもない。
(モノやカネ、社会への貢献など、企業活動の改善に結び付く「情報」が重要になるでしょう。)
→研究開発に役立つ手法と、研究開発でないことに役立つ手法は異なる
(例えば、シックスシグマによる品質管理は決まったこと(「新しく」ないこと)をうまく進めるのに適した手法なのではないでしょうか。だとすれば、「新しい」ことの管理には向かないかもしれません。実際、Radjouらは、3Mでシックス・シグマの導入によってイノベーション能力が損なわれた事例を紹介しています[文献3、p.78-82]。また、目標による管理は、「新しく」て明確な目標が立てにくい場合には向かないと思います。)
・どんな「新しい」ことに注目すべきか
→世の中の変化から求められる(と予想される)「新しい」こと
(例:ニーズやシーズ、環境(競争環境、法令、社会的要請など)の変化など外因性の変化への対応)
→世の中を変えるような「新しい」こと
(先手を打って世の中を変えていく、現状のままではダメだから変える、など自発的な変化)
・どんな「情報」がよいのか
→「こうすれば、こうなる」というような因果関係の情報
→現象の理解、原理解明
(特に、企業活動にとっては因果関係のヒントになるような側面の理解・解明が重要)
→試行のきっかけとなるような「情報」(こうしたらよいのではないか、など)
→精度の高い情報、応用範囲の広い情報、インパクトの大きい情報

結局のところ、上に述べたような新しく有用な情報を、なるべく効率よく(多く、速く、少ない資源で)得ること、それが研究開発マネジメントのポイントなのではないかと思います。

イノベーションと研究開発
研究開発に関連して、「イノベーション」という言葉がよく用いられます(というより、こちらの方が人口に膾炙しているように思われます)。その違いをどう考えるかについて簡単に触れておきます。イノベーションに関しては様々な定義がなされていますが、例えば青島矢一氏は次のように定義しています。「イノベーションとは、一般に『何か新しいものを取り入れる、既存のものを変える』という意味をもっている。[文献4、p.1]」「シュンペーターは、イノベーションを、『新規の、もしくは、既存の知識、資源、設備などの新しい結合』と定義している[文献4、p.2]」。「われわれは、・・・シュンペーターの古典的な定義を踏襲しつつ、イノベーションを『社会に価値をもたらす革新』と定義することとする。[文献4、p.3]」このように、本稿での「新しい」という定義に加え、「社会に価値をもたらす革新」という社会的な視点が加わっているのがイノベーションであるという定義が多いように思います。これは、本稿の「新しい」という視点と重なる部分が多いと考えられるのですが、「社会に価値をもたらす」かどうかは、あくまで結果です。実践家が研究開発に取り組む際には、社会に価値をもたらすことを意図していたとしても、結果はわかりません。そのため本稿では、イノベーションを含むより広い概念で「新しい」ことに挑む行為を「研究開発」と呼ぶことにしたいと思います。本シリーズの今後の記事では、両者を特に区別することなく使うことがあると思いますが、実践的な観点からはこのような違いをちょっとだけ意識した用語法とお考えいただければありがたいです。


文献1Thomke, S., Reinertsen, D.、有賀裕子訳、「製品開発をめぐる6つの誤解 製造プロセスでの効率性は通用しない」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 8月号、p.76本ブログ紹介記事
文献2:酒井崇男、「『タレント』の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論」、講談社、2015.ブログ紹介記事
文献3:Navi Radjou, Jaideep Prabhu, Simone Ahuja, 2012、ナヴィ・ラジュ、ジャイディープ・プラブ、シモーヌ・アフージャ著、月沢李歌子訳、「イノベーションは新興国に学べ! カネをかけず、シンプルであるほど増大する破壊力」、日本経済新聞出版社、2013.本ブログ紹介記事
文献4:一橋大学イノベーション研究センター編、「イノベーション・マネジメント入門 第2版」、日本経済新聞出版社、2017.ブログ紹介記事


研究開発マネジメントノートIV「研究開発マネジメントの知識と不確実性に基づく研究マネジメント」第1回:はじめに

本ブログでは、研究マネジメントに関する基礎的な知識をまとめ、よりよい研究開発の進め方、マネジメント方法について考えることを目的に「ノート」と題した一連のシリーズ記事をおよそ月1回のペースで書かせていただいています。

今までのシリーズはおよそ以下のような感じでまとめました。
シリーズ1:2010年~、「ノート(研究マネジャー基礎知識)」と題して、一般的な知識の整理を試みました。(全14回)
シリーズ2:2013年~、「ノート改訂版」として、シリーズ1の補充改定に加え、私のコメントも入れた形でシリーズ1の各記事を改訂しました。(全14回+補遺3回)

シリーズ3:2016年~、題名を「ノート全面改訂『研究開発マネジメントの実践と基礎知識』」と変更し、全体の構成はシリーズ1,2と同じとして、研究開発マネジメントをうまく行う方法についての私の考え方も入れ、内容も増やしました(全41回)。

シリーズ3が約3年に及んでしまったこともあり、書いている最中から過去の記事の改訂の必要性を感じていましたし、シリーズ1~3で構成を変えなかったことも見直しの必要があるのではないか、とも思っていました。そこで、今回のシリーズ4では内容のアップデート、見直しに加え、全体構成の見直しも行いたいと思います。

具体的には以下のように見直すことを考えています。
内容の整理:シリーズ3をまとめてみて、私が考える研究マネジメントの根本は、研究に伴う「不確実性」を重視することにある、と思えてきました。そこで、今回は「不確実性」の視点をより強調して、その視点からマネジメント手法をまとめられるかを試みてみようと思います。ということで、今回のシリーズ4の副題は「研究開発マネジメントの知識と不確実性に基づく研究マネジメント」とさせていただくことにしました。ただ、この副題は長いので、通称は単に「研究開発マネジメントノートIV」で進めたいと思います。
構成の見直し:前3シリーズでは、研究開発とはどのようなものかについての議論をまず行い、実践のマネジメントについては、「テーマ選定」について考えた後、「組織と人のマネジメント」について考察し、その後に「研究プロジェクト運営」の議論をしていました。実践において重視すべき順番はこの順でよいと思うのですが、実務的観点からは、テーマを決めた後すぐプロジェクト運営の説明があったほうが役立てやすいのではないか、とも思います。

というわけで、以下のような構成としたいと思います。なお、各トピックスが、シリーズ3のどの回に対応するかもリンクとして加えてみました。シリーズ4において未改訂のトピックスは、シリーズ3の対応記事を見ていただければ(ちょっと古いですが)大体のことはわかる、というように改訂を進めていきたいと思います。

シリーズ4の構成(予定)と対応するシリーズ3の記事リンク
はじめに→第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと
1.1
、研究開発とは? →第2回第3回
1.2
、研究開発活動が本来(内生的に)持つ不確実性→第4回第5回
1.3
、研究開発活動に影響する外生的不確実性(環境要因)→第6回第7回
2、研究開発プロジェクトのマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
・課題実現の不確実性(技術)に関わる研究テーマの設定→第10回第11回
・ニーズの不確実性に関わるテーマの設定→第12回第13回
・市場で収益をあげる方法(ビジネスモデル)の不確実性に関わるテーマの設定→第14回第15回
・やりたいことに基づくテーマ設定→第16回
・テーマを選ぶ→第17回
2.2
、研究プロジェクトの運営
・研究プロジェクトの進め方→第30回第31回
・研究プロジェクトの方向転換と中止→第33
・可視化による運営のマネジメント→第34回第41回
・失敗を避ける→第35回第36回
・コラボレーションのマネジメント→第32回
2.3
、研究成果を次の段階に生かす
・研究成果を使ってもらう(普及させる)には→第37回第38回
・得られた知的資産の活用→第39回
3、研究開発を行う人と組織のマネジメント
3.1
、研究開発を行う人のマネジメント
・研究者の活性化→第18回第19回
・研究者の適性と最適配置→第20回第21回
・研究リーダー、マネジャーの役割→第22回第23回
・研究者の育成→第24回
3.2
、研究組織とそのマネジメント
・研究組織の構造が研究に及ぼす影響→第25回
・研究組織の仕組みや制度が研究に及ぼす影響→第26回
・研究組織の望ましい特性→第27回第28回
・研究組織の運営手法→第29回
4、まとめ→40回

各回の内容については、シリーズ3と同様、単なる知識の寄せ集めではなく、実際に第一線で研究を実践していた者としての私の観点を入れたものにしたいと思います。それが有益なものになるかどうかは、読者諸氏のご判断に委ねるしかありませんが、「実践」的立場から第一線の研究マネジャーにとって役に立つような知識の整理にしたいと思います。

まとめ方もシリーズ3と同様、多少正確さを犠牲にしたとしても、シンプルで使いやすいことを重視したいと思います。具体的には、以下のような構成でまとめたいと思います。

1)実践家にとって最も重要と思われる最低限のポイントをまず挙げます。
2)次いで、なぜそのポイントが重要だと考えるか、どこが活用のポイントなのか、およびその根拠(引用できる重要な理論や考え方)について述べます。
3)その上で、まとめに採用しなかったものも含めて様々な考え方を紹介したいと思います。シンプルな少数の原則にまとめることは、使いやすい反面、狭い考え方に囚われたり他の重要なポイントを見逃すことにもつながる可能性があります。今は重要でないと思う考え方でも、その考え方を無視してしまうことにはリスクがあるでしょう。異なる視点が重要になる場合もあるかもしれません。そこで、この段階では多少幅広く様々な考え方を集めるべきだと思います。加えて、その際に考え方の時代的変遷が感じられるような場合や、将来を暗示するような動き、未確立であっても仮説として注目すべき新しい考え方が提案されているような場合には、その点にも触れておきたいと思います。

このうち、1)と2)の部分は、多分に私の実践経験を反映したものとなると思いますので、読者各位にはその点をご理解いただき、ご興味に合わせて読んでいただければ幸いです。

さて、この新シリーズの開始にあたり、研究開発マネジメントの現状を概観しておきましょう。丹羽氏によれば、
・「技術戦略を効果的に構築しようと…(中略)…いろいろな領域で多大な努力が傾けられている。しかし、概してそれらはまだ手探りの試行錯誤の状態にある。」[文献1p.iii]
・「技術経営分野の個別の領域での議論や著作はあるものの、全体が見通せる体系を提示した書籍は見当たらない」[文献1、p.iv]
とのことであり、近著でも、
・「高度技術社会に入り技術経営学が新しい経営学として必要とされているのにもかかわらず、技術経営学はその確立が途上であり、また、そのためもあって企業での応用展開も十分に進んでいない」[文献2、p.6
と述べています。文献1と文献2はそれぞれ2006年と2013年の刊行ですが、現在もその状況は大きくは変わっていない感じです。しかし近年は、研究マネジメントの現状と時代背景を認識したうえで、なるほど、と思えるような様々な手法が提案されるようになっています。そうした近年の傾向を一言でまとめてしまうならば、持続的競争優位を目指すのではなく一時的な競争優位(本ブログ「競争優位の終焉」(マグレイス著)より)を目指していること、計画主導ではなく創発的戦略(シリーズ3第5回第31回)を重視していること、になると思いますが、新たな考え方と具体的手法の提案は、技術経営が実務家にも使える学問になりつつあるような印象を受けます。

研究を成功に導く処方箋、ハウツーが存在するならそれを知りたいものだとは思いますが、イノベーションの課題が時代とともに変化することを考えれば、決定版のような方法はそもそもあり得ないのかもしれません。ではどうしたらよいのか。現実的には、様々な方法について、その方法の試行により研究がうまく進んだかどうか、関係者の意欲が高まったかどうかを判断基準としてその手法の有効性を判断し、状況に応じてマネジメントを行っていくしかないかもしれません。そうした試行にあたり、本ブログによる知識の整理と私の仮説が少しでもお役に立てば幸いに思いますので、至らぬ点も多いとは思いますがよろしければおつきあいください。


文献1:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.
文献2:丹羽清(編)、「技術経営の実践的研究」、東京大学出版会、2013.


研究開発実践のマネジメント第41回-不確実性マネジメントシート:研究開発マネジメントの実践と基礎知識3.2(「ノート」全面改訂)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第7回
2、研究開発実践のマネジメント第8回第39回
3、まとめ-不確実性に基づく研究マネジメント
3.1
、不確実性に基づく研究マネジメント
第40回

3.2
、不確実性マネジメントシート
前回、本シリーズの特徴である不確実性に着目した研究マネジメントの考え方のまとめを述べました。しかし、実践の助けとなるようなツールも必要ではないかと思います。そこで、今回は、不確実性に配慮しつつ研究開発を遂行するための注意点を可視化するためのシートをご提案したいと思います。

検討シートは2種類用意しました。
・「研究テーマを選定するための不確実性検討シート」は、取り組む課題を決める段階で用いることを想定しています。ある研究のアイデアにどのような不確実性があるのかをリスト化して評価し、不確実性を考慮した研究のポートフォリオを構築するための検討材料を提供することが目的です。
・「研究テーマ遂行シート」は、取り組むべき課題を決定した後、その課題に付随する不確実性を減らしていく段階、つまり研究活動を実行していく段階で使うことを想定しています。どんな不確実性を減らすことが求められているのかを可視化し、見落としや検討漏れがないか、今、どの不確実性について検討すべきかに気づきやすくすることを目的としています。

いずれも、機械的にこのシートを埋めれば研究がうまくいくという問題解決手法のようなものではありません。なぜなら、未知のことに挑むためには「考える」ことが必須であり、考えなくても問題解決ができるような手法では研究の成功は得られないのではないか、と思っているからです。そのため、このシートは「考えることを促す」ことと、研究者が陥りがちな「視野狭窄を防ぐ」こと、「忘却を防ぐ」ことの役に立つように考えてみました。シートに挙げた各項目も研究課題に合わせて変更、取捨選択をしていただいてかまわないと思いますし、そのような工夫を通じて、研究開発課題についての考えを深めることこそが研究の成功につながるのではないか、という思いもあります。以下、それぞれのシートについて、私が想定した使い方を簡単にまとめたいと思います。

3.2.1
、研究テーマを選定するための不確実性検討シート
どんな研究テーマ、プロジェクトを選ぶかにあたり、どのようなことを認識し、検討するとよいかを可視化したものです。研究のアイデアについて、このような点に着目すれば、研究ポートフォリオの質の向上に寄与できるのではないかと思っています。

不確実性検討シート

各項目について
A、研究テーマ名:アイデアの内容、プロジェクト名、研究テーマ名を書きます。
B、研究目標(研究が成功したときに得られる世界):研究がうまくいけば、こんなことができる、世の中がこう変わる、といったようなことを書きます。
C、成果の意義:研究目標とは異なる意義があればあわせて記載(学習、宣伝、学術的意義など)します。
D、達成時期目標:中間目標もあればそれも記載します。
E、目標が達成できる推定確率の範囲:成功率20~80%などと、イメージで書きます。あるいは、「2025年の普及率5~25%」というような書き方もあり得ます。随時見直しをする前提で大雑把な記載でかまいません。
F、目標が達成できる推定時期の範囲:Dの達成時期目標が範囲に含まれるように、2025年~2035年、のようなイメージで書きます。研究完了がいつごろの範囲、市場投入がいつごろの範囲、黒字化がいつごろの範囲、という書き方もあり得ます。
G、不確実性のリスト:想定される(解決すべき)不確実性を、技術、ニーズ、ビジネスモデルに分けてH,I,J行に書きます。どの領域に書くべきかが明確ではない場合でも、とりあえずどこかに入れる。自分では制御できないと思われる環境要因(他の利害関係者の影響も含む)もどこかに入れる。環境要因は入れ場所がはっきりしなければとりあえずビジネスモデルに入れておけばよいと思います。
H、アイデアの起源となった事実や仮説:これを記入することによって、シーズ志向のアイデアなのか、ニーズ志向のアイデアなのかとか、他のアイデアとの結びつきがわかりやすくなります。また、研究の初期段階で、どのような領域の考慮が不足していたかを知る手がかりにもなります。
I、すでにわかっている情報:過去の知見、情報収集の結果などを記入します。研究開発によって不確実性が解消されたことがあれば、シートを見直す際に、Jの領域からこのIの領域に移します。暗黙の前提となるようなこともなるべくあぶり出すようにしてここに書いておきます。すでにわかっていると思っていたのに、その確実性に不安が出てくるようなことがあれば、IからJの領域に移します。
J、どんな不確実性があるか(わかっていないこと):よくわかっていないこと、研究によって明らかにすべきことを思いつく限りここに書きます。その時、不確実性の大きさによって分けて書く場所を変えるとわかりやすくなることが多いですが、それでは書きにくい場合は、不確実性の大きさは無視して、項目を羅列してもよいでしょう。この欄を埋める際には、オスターワルダー、ピニュールによるCanvas別記事第14回参照ください)に挙げられた検討項目について考えることをお勧めします。また、ポーターによる5つの力(サプライヤー、買い手、新規参入者、代替製品、既存企業間の競争状態)の分析(第6回参照ください)も有用な視点を提供してくれます。
K
、不確実性を下げるために取り組むべき調査や研究(サブ研究テーマ):不確実性の解消にあたっては、多くの場合、特定の不確実性をターゲットにした別の研究テーマ(サブテーマ)を設定することになるでしょう。そうした具体的な研究項目をリストアップします。ここで、今、どの項目に取り組むべきかを考えて取り組みの優先順位も書く方がよいと思います。また、とりあえずは何も検討しない領域もあるかもしれません。その場合でも「様子見」とか「○○になったら検討する」、「現状では検討不要と判断」などと記入しておき、技術、ニーズ、ビジネスモデルの3つの領域の欄は必ず埋めるようにしてください。
L、不確実性の大きさの総合評価:以上の記載内容をまとめて、不確実性の大きさとどの分野の不確実性が大きいかを記載します。

使い方
このシートは、研究課題を決める段階で考慮すべき事項の例をまとめています。研究課題を決めるプロセスは組織によって様々だと思いますが、およそ以下のような手順を想定しています。
・あるアイデアについて、まずはこのシートを埋める。
・総合的な不確実性の大きさと、その他の要因を考慮して、研究ポートフォリオを考え、そのポートフォリオに基づいてこのアイデアの採否を決定してください。なお、このシートでは、不確実性の大きさと、実現時期に基づいてポートフォリオを考える場合を想定しています。ポートフォリオで何を重視するかは、組織ごとに異なっていると思いますので、必要に応じてこれ以外の要因も検討項目に加えてください。例えば、研究が成功した場合の収益性、売り上げ、顧客満足度、社会への貢献やインパクト、競争優位、学術的価値など、組織によって評価すべき項目は異なると思います。ただし、あまりにも網羅的になりすぎるとポートフォリオが複雑になってしまい検討の焦点がぼやけてしまいがちですので、ご注意ください。ただ、テーマ検討の際に考慮されることの多い期待効果金額や予算額、推進スケジュールなどはここではあえて省いています。これは、創発的な研究開発を進める上では事前の計画はそれほど重要な意味を持たないという考え方に基づいたものですが、もちろん、必要に応じて加えていただいてもよいと思います(ただし、不確実性の高い課題に対して、厳密な計画を立てることにはほとんど意義はないと考えますので、多くの場合、不確実性の項目のひとつとしてJ欄に記載しておけば十分であろうと思います)。
・一度作成したシートは定期的に見直しを行ってください。この際、リストアップした不確実性の項目は原則として削除しません。不確実性の認識に変化があれば、項目を削除するのではなく、その項目の位置を移動させるようにします。例えば、検討により不確実性が解消されたなら、その項目を「わかっている情報」の欄に移して「○○により不確実性が解消された」というように記載すべきです。不確実性の項目が多すぎてシートが大きくなりすぎる場合も、プレゼンなどの目的のためにその要約版を作ることはかまいませんが、直接の担当者が検討を行う場合には、すべての項目を記載したシートを用いて行うべきです。

3.2.2
、研究テーマ遂行シート
研究テーマ遂行シートは、第一線の研究者(研究グループ)が日々の研究活動で使うことを想定したものです。一般に、第一線の研究者が行う研究は、大きな研究テーマの一部をなす研究であることが多いと思いますので、ここでは3.2.1の「サブテーマ」を実行することを想定したシートとしています。実行する際の特徴としては、不確実性を下げるためにどんな実験をし、どんな結果が得られ、その結果をふまえて次に何を行うべきかを可視化する点です。

研究テーマ遂行シート

各項目について
a、研究(サブ)テーマ名:実行する研究を表す名称を書きます。
b、この研究が貢献する大テーマ、課題:どの研究テーマや研究課題の一部として行われるかの関係や位置づけがわかるように書きます。探索的なテーマ、思いつきによる実験のように、大きなテーマの一部ではない場合には、大テーマの一部ではない独立性の高いテーマであることがわかるように書いておけばよいでしょう。
c、いつごろまでに何を明らかにしたいか:時間的目標を記載。他のサブテーマとの関係で達成時期の目標があれば明確に記載してください。急がないテーマなら「成り行き」としておくことも可です。
d、背景となる状況・他の研究との連携:この研究テーマの遂行に役立つような状況(例えば、すでに自社独自のノウハウを持っているとか、有利な設備を保有している、他社との提携関係があるなど)、他社との競争関係(優位にある分野、キャッチアップの必要性など)、このテーマが貢献できる可能性のある他のテーマ、他のテーマの成功がこのテーマに貢献する可能性があるなどの状況を記載すします。
e~h、不確実性の分析、アイデアの起源となった事実や仮説、すでにわかっている情報、どんな不確実性があるか:この部分の書き方は3.2.1、研究テーマを選定するための不確実性検討シートと基本的に同じです。研究テーマ遂行シートでは、その見直しのサイクルを短くし、随時、新たにわかったことに基づいて古い項目を書き換えていくことが特徴です。ただし、ここでも古い項目は決して削除せず、何らかの形で残しておいてください。
i、現状での不確実性総合評価:この項目は、技術、ニーズ、ビジネスモデルの各領域の不確実性のレベルをそれぞれ個別に評価し、どの領域の不確実性が現在もっとも懸案になっているのかを明らかにします。えてして技術者が行う研究では技術の領域にばかり注意が行きがちですので、ニーズやビジネスモデルの不確実性もしっかりと認識できるようにすることが狙いです。
j、不確実性を減らすために取り組んだこと(実験内容):ここから以下が実際に研究を行い、その結果に基づいて考えたことを書く欄です。まずは、どんな実験をやったかをここに書きます。
k、得られた知見・新たな発見(実験結果):実験を行って得られた結果をここに書きます。その結果、hに書いた不確実性が変化したなら、その結果を反映させて、hの項目の記載内容を変更します。
l、このテーマの推進のために次に行うべき実験:実験結果をふまえて、次にどんな実験を行うべきかをここに書きます。この時、いくつかの実験の候補が考えられることもあるでしょう。その実験アイデアはとりあえずここに書いておいて、その優先順位づけも行うべきです。場合によっては「とりあえず、一段落」とか「棚上げ」として、他の不確実性の解消に向けた検討を行う、というような判断も行います。そうして実験を繰り返していくことになります。
m、新たな発見を活かす次の研究のアイデア:ここは、得られた実験結果をこのテーマの不確実性の減少に使うのではなく、新たな別の研究のシーズとして使う場合の記入欄です。せっかく得られた実験結果ですから、結果を当初の研究テーマ以外にも使える可能性はないかと考えることは決して無駄なことではないと思います。その目的のため、この欄を設けてみました。セレンディピティに巡り会えればこの欄に書かれることもあるでしょう。

使い方
・実験計画を立案し、実験し、その結果を考察して次の実験に活かす、というサイクルで研究を進める際に使うことを想定しています。実験をうまく進めることが目的ですので、各項目を完璧に埋める必要はありません(ただし、現実的なテーマでh欄にあまりに空白が多いのは好ましくありません)。思いつくところを記入し、頻繁に見直すことで全体像を徐々に確実なものにしていく、という使い方がよいと思います。
・実験の結果を検討する際には、担当者単独やその上司とで利用するよりも、グループで検討することをお勧めします(個人で使えないこともないですが)。そうすれば、幅広い考え方が得られ、また、研究の進捗についての情報共有にも役立つのではないかと思います。
・進捗報告にこのシートを使う場合、j~mの部分を主に記入することになります。その他の部分は毎回レビューする必要はないと思いますが、ある程度の期間ごとに必ず全体を見直すことは、研究を正しい方向に進める上で必要なことではないかと思います。

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以上をもって2016年に開始した「研究開発実践のマネジメント」(研究開発マネジメントノート第3シリーズ)を「完了」としたいと思います。とはいえ、毎回の掲載を進めながら過去の記事を見直すと、改訂の必要な点も感じていましたので、早速来月からこの第3シリーズの改訂となる第4シリーズを開始したいと思っています。研究開発をうまく進める方法、などというものは決定版のようなものは決して得られることはないと思います。検討を継続的に繰り返すことでしか進歩は得られないのではないか、という気もしますので、よろしければ次のシリーズもおつきあい下さい。


研究開発実践のマネジメント第40回-まとめ(不確実性に基づく研究マネジメント):研究開発マネジメントの実践と基礎知識3(「ノート」全面改訂)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第7回
2、研究開発実践のマネジメント第8回第39回

3、まとめ-不確実性に基づく研究マネジメント
前回をもって、本シリーズで書いておきたいと思った研究開発マネジメントに関する基礎知識のまとめは完了です。ただ、実践に役立つよう要点をシンプルにまとめようとしたものの、思ったよりも複雑になってしまった点で残念なところもあります。そこで、今までの内容をさらに絞り込んだ「まとめ」を今回試みることにしました。私見になってしまいますが、日々研究に携わっている第一線の研究マネジャーの方々にも、ぜひこれだけは知っていて欲しい、これを知っていれば、知らずに見よう見まねでマネジメントをするより格段に成功しやすくなるのではないか、と考える点をまとめます。ひとつの試みとしてご理解いただければ幸いです。

3.1
、不確実性に基づく研究マネジメント
私が考える研究マネジメントの根本は、研究に必然的に伴う「不確実性」を重視しなければならない、ということになります。そこで、このまとめの表題を「不確実性に基づく研究マネジメント」としました。以下、その具体的な内容を述べさせていただきます。

研究とはどのようなものか
研究の最も大切な役割は、「新しいことへの挑戦」ではないかと思います。しかし、「新しいこと」は「未知のこと」でもあり、うまくいくかどうかわかりません。この状態を「不確実性がある」と理解すれば、研究をうまく進めて成果を出す活動は、「不確実性を減らす」活動だ、と言えると思います。

なぜ不確実性は避けられないのか
単に未知だから不確実だ、という以外にも不確実性をもたらす様々な要因があります。例えば、複雑系の現象では原理的に予測が不可能な場合があります。また、目標が達成可能なものであったとしても、そこに至る手段が非現実的な場合もあるでしょう。さらに、人間の持つ不可避的な認知バイアスによって判断が歪められる場合もあります。従って、将来を正確に予測しようとするよりも謙虚になって不確実性の存在を受け入れる方がよい場合がほとんどと言えるのではないでしょうか。特に、前例のない課題や複雑な課題に対しては、不確実性を無視した進め方はほとんど運を天に任せた状態になってしまうのではないかと思います。

どんな点の不確実性が研究にとって重要か
研究が解決すべき不確実性としては、次の3つの領域に分けられると考えます。すなわち、技術的な達成可能性、②ニーズの有無、③収益を挙げる方法(ビジネスモデル)、です。この3つの不確実性がすべて適切に解決されなければ研究は成功したとは言えず、また商業的な成功も得られないのではないでしょうか。

取り組むべき課題を見つける
取り組むべき課題、すなわち「研究のアイデア」を見つけるには、上記の不確実性①~③のうち、不確実性が低いところがヒントになることが多いと考えられます。例えば、技術的にあることができそうだとわかっている場合、シーズ起点のアイデアになるでしょうし、こんなものが売れそうだというアイデアがあればニーズ起点のアイデアになるでしょう。ビジネスモデル起点のアイデアも考えられるはずです。
加えて、アイデアを「発見」するアプローチも重要です。アイデアを得るためには、「新結合」すなわちアイデアの組み合わせを考えることが有効と言われています。また、観察からの「気づき」も重要だと言われています(例えばエスノグラフィーの手法など)。セレンディピティーの活用も心がけておくべきでしょう。なお、こうしたアイデア発掘のための手法は、問題解決アイデアを探る段階でも威力を発揮します。

取り組む課題(研究課題)を選ぶ17
研究が不確実なものであることを前提とするなら、ひとつのテーマだけに賭けるのはリスクが大きくなります。従って、いくつかのオプションをあらかじめ準備することは有効な対応策といえるでしょう。あるいは、いくつかのプロジェクトを同時並行で進めることも考えられます。その場合には、それぞれの課題の不確実性と期待効果(実現可能性)を基準に、ポートフォリオとして偏りが大きくなりすぎないように注意することが効果的と考えられます。

どのような研究の進め方をすべきか30
まずは、課題のどこにどのような不確実性があるかを認識することが重要です。
そして、不確実性が高い部分から不確実性を下げていく検討をすることが効果的だと思われます。具体的な方法として近年主流になりつつあるのは、試行を行ってその結果からの学習を繰り返すアプローチで、リーン・スタートアップやデザイン思考がその例として挙げられます。
不確実性が高ければ、なるべくコストをかけずにその不確実性を下げるような試行(プロトタイプ作成も含む)を工夫して実施し、得られた結果に学んで課題に対する取り組みの方向を変更していく、というアプローチです。
大きなプロジェクトともなれば、様々なところに不確実性があり、すべての不確実性が把握できていない場合もあるでしょう。そのような場合は、不確実性を探索するためになるべく早い時期にできる限り広い範囲の試行を行い、試行を通じて不確実性のありかと程度を把握することをおすすめします。

研究の止め方
何かをしたいとすれば、今やっている何かを止める必要があるのが普通です。そうでなければ資源がいくらあっても足りません。しかし、研究をうまく終わらせることはなかなか難しいものです。難しいのであれば、止め方を制度化するような仕組みも考えておく必要があるでしょう。「止める」とは言わずに「棚上げする」とするとか、「止める」とは宣言せずに「より魅力的なプロジェクトに資源を移す」というような進め方は一考の価値があると考えます。

研究グループの能力を高める18
よい進め方をいくら追求しても、能力不足の研究グループでは成果を得ることは難しいでしょう。研究部隊の能力を高める方法として特に重要なのは、メンバーの意欲を高めること、個人(組織)の能力を上げること、協力を活用すること、の3点が挙げられると思います。
メンバーの意欲を高める方法に関しては、動機付け(モチベーション)に関する多くの研究成果があります。どのような組織にすべきか、どのようなリーダーシップが望ましいのか、どのようなインセンティブが効果的なのかをよく考える必要があるでしょう。研究者の動機付けに関して特に注意すべきだと思われる点は、Herzbergの動機づけ要因と衛生要因の区別、外発的動機付けよりも内発的動機付けを重視すべきことが挙げられると思います。また、研究者の適性を考慮することも重要でしょう。
能力を上げることについては、失敗を含む経験から学ぶことが重要だという指摘が近年増えているように思います。
協力は異なる知恵を活用することとも言えるでしょう。そのためには、目に見える属性の多様性ではなく考え方の多様性が必要とされることが多く指摘されています。さらに、協力を効果的にするためにはコミュニケーションをうまく行うことが重要です。個人の暗黙知を表出化して、他の人に伝えることがうまくできなければ、協力が成立しにくくなります。最近では組織を超えた外部との協力関係の重要性も指摘されるところですが、そうした大きな範囲での協力関係をうまく構築する手法はまだ確立していないように思われます。協力の基本には「信頼」関係の構築が必要なのではないでしょうか。

以上が、現時点で私が考えている研究マネジメントの要点です。やや省略しすぎたところもあるとは思いますが、これぐらいであれば、実践家の皆さんにも指針として心に留めていただける分量なのではないかと思います。もちろん、研究課題は多様ですので、上記の方法よりも好ましい方法がある場合もあるでしょう。また、本質の理解にとっては、こうしたシンプルなまとめよりも、様々な事例を知ることの方が好ましい場合もあるでしょう。課題の遂行にあたって様々な事例や考え方を参考にすることは非常に有意義ですので、上記の考え方だけで十分というつもりはありません。ただ、上記のようなまとめは、こういうことをあまり考えたことのない実践家の皆さんにとっては、入門的な整理にもなるのではないかと思います。実践家の皆さんがいろいろなマネジメントを試してみる上で、さらにイノベーションを成功させる上でのヒントになれば幸いです。




研究開発実践のマネジメント第39回-得られた知的資産の活用:研究開発マネジメントの実践と基礎知識2.5.2(「ノート」全面改訂)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第7回
2、研究開発実践のマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
第8回第17回
2.2
、研究開発を行う人のマネジメント第18第24回
2.3
、研究組織とそのマネジメント第25回第29回
2.4
、研究プロジェクトの運営第30回第36回
2.5
、研究成果を生かす
2.5.1
、研究成果を使ってもらうには第37回第38回

2.5.2
、得られた知的資産の活用
よい研究成果が得られたら、それを実用化して収益を上げ、その事業を拡大していくことは当然行われると思います。しかし、それだけで満足するのはもったいないですし、競争優位の維持のために成果をさらに発展させていく必要もあるかもしれません。研究によって得られた成果は、失敗の経験も含めて知的資産と考えることができます。今回は、そうした知的資産をどう使うべきかを考えてみたいと思います。

1)
知的資産活用のポイント
学んだ成果を活かすことの意義に異論のある方はおられないと思います。しかし、うまく活かすのはそれほど簡単なことではありません。ここでは、知的成果を活かす上で注意すべきポイントをまとめておきたいと思います。

・暗黙知と形式知の違いを認識し、さらに、暗黙知の活用には困難があることを認識する。
・知的資産を拡大し、次の機会に利用するための仕組みを考える。
・特許をうまく使う。

2)
具体的な考え方
暗黙知と形式知の違いと知識活用の難しさ
野中氏、竹内氏は、「暗黙知は、特定状況に関する個人的な知識であり、形式化したり他人に伝えたりするのが難しい。一方、明示的な知すなわち『形式知』は、形式的・論理的言語によって伝達できる知識である。[文献1、p.88]」としています。この考え方の元になっているPolanyiの著書では、暗黙知について「私たちは言葉にできるより多くのことを知ることができる。[文献2、p.18]」と述べられていて、さらに「私たちが言葉が意味するものを伝えたいと思うとき、相手側の知的な努力によって埋めるしかないギャップが生じてしまうものなのだ。私たちのメッセージは、言葉で伝えることのできないものを、あとに残す。そしてそれがきちんと伝わるかどうかは、受け手が、言葉として伝え得なかった内容を発見できるかどうかにかかっているのだ。[文献2、p.20]と述べています。

つまり、知識というものはそもそも他者に伝えるのが困難なものを含んでいる、という考え方ですが、これは言われてみれば誰しも実感としてよくわかるのではないでしょうか。これに対して、野中氏、竹内氏は、暗黙知と形式知を個人と集団において変換することで知識創造を行うという組織的知識創造モデル(SECIモデル)を提案しています(詳細は、本シリーズ第27回をご参照ください)。このSECIモデルのポイントは、組織的に知識を生み出すためには個人の暗黙知を形式知化して表出させ新たな暗黙知を作るという過程が不可欠だ、ということになると思われます。

同様に、過去の知識を将来に活かすためには、過去の暗黙知を形式知化して将来に伝える必要があると考えられます。しかし、組織的知識創造では「場」(知識の相互作用が起こる空間)の共有が可能なのに対して、過去から未来への知識の伝達では「場」を作りようがなく、大きな困難が予想されます。一方で、「技術革新の大きな特徴は、往々にしてそれが累積的であることである。すなわち、ある時点での研究開発は、それ以前の研究開発の成果を活用して行われる。[文献3、p.231]」ことを長岡氏は指摘しています。そうした必要性があるにもかかわらず、過去の暗黙知を将来に伝えるための有効な手法は確立できていないようですので、競争優位を継続するためにも様々な試みが必要なのではないかと思います。

知的資産を活用する仕組み
このような暗黙知、形式知などの知的資産を活用する方法として、ナレッジマネジメントと呼ばれる考え方が提案されてきました。しかし、丹羽氏は、現在は「行き詰まり」[文献4、p.327]の状況にあると指摘しています。ナレッジマネジメントと言っても実体はIT化による業務効率化の提案にとどまるなど、実用面での有効な方策の提示には至っていない点が課題のようです [文献4、p.317,328]。野中氏らは、その原因として、「知識を情報と同列視し、ナレッジ・マネジメントとは、単に情報を効率的に蓄積・伝達・使用することであるとの誤解に基づいてIT投資を進めたものの、結局期待した成果をあげることができなかった企業も多かった。知識の本質的な性質を理解しないままでは、その共有や活用を進めても効果をあげることはできない[文献5、p.4]」と指摘しています。

例えば、知識の有効活用を狙って、知識やノウハウをデータベース化することが試みられることがありますが、単に知識を蓄積し検索できるようにすればうまくいくというものではないでしょう。Dixonは、データベースへの知識の蓄積がうまくいかない理由について、「自分と関係なく,連絡することもなさそうな人たちがアクセスするデータベースに入力することで得られる個人的な利益はほとんどない」、「情報を共有するのは、そうすることによって個人的な利益を得るからだ。その個人的な利益とは、他人に自分の専門知を認めてもらうとかほほ笑みが返ってくるぐらいだったかもしれないが」と述べています[文献6、p.12]IT技術を使うにしても、なぜ人間は自分の持つ知識を他人に伝えたくなることがあるのかを理解した上での仕組み作りが必要ではないでしょうか。また、知識を組み合わせて新しいアイデアを創造する過程にも工夫が必要でしょう。ただし、今後ビッグデータの活用などのIT技術の進歩は、知識創造のあり方に影響を与えるかもしれません。学習すること、データを集めること、データベースの作成や検索は従来に比べて格段に容易になっています。知識創造の本質に暗黙知があることをよく理解した上で、創造のヒントをくれるような形で人間を支援してくれるようなナレッジマネジメントならありうるのではないか、という気もします。

特許の活用
知的資産の活用を考える場合、特許などの知的財産権の制度を知っておく必要があります。特許制度とは、新たな知識を公開する代償として一定期間の独占権を発明者に与えることによって技術開発に対するインセンティブとし、一方で、知識の流通を図る、という制度だと言うことができると思いますが、これは研究開発を促進するマネジメントのひとつの手法だという見方もできるでしょう。ただし、特許には、「知識の利用が制限されることによる経済コストも上昇する[文献3、p.232]」というデメリットがあることも知られています。特許制度の得失を理解した上で、創造的に利用する必要があるといえるでしょう。

例えば、岡田氏は、「発明がされたあとにとりうる選択肢として、特許出願をして権利化を図る、出願せず営業秘密としての保護を図る、技術の公開を積極的に行うことの3つがある。[文献7、p.384]」と指摘しています。また、特許活用マネジメントとして、「特許権の独占的自己実施や単にライセンス料獲得目的のライセンス許諾は、比較的単純な特許権の使い方である。・・・戦略的な使い方のひとつは、大きな市場の形成である。[文献7、p.380]」とし、積極的ライセンスでパイを拡大し、差別化技術で分け前の拡大を図る活用方法を述べています。また、「特許を独占権として活用するのではなく、他者の特許を開放するための交換材料として利用[文献7、p.381]」する可能性にも言及しています。

すなわち、特許制度の活用に関しては以下の点に注意が必要と考えられます。
・技術を公開しなければならないこと:真似されたり改良されたりする危険性がある
・技術を独占しようとすると技術の普及の障害となりうること
・有期の権利(出願後20年)であること:権利保護のタイミングと実用化のタイミングが合わないことがある
・それぞれの国ごとに特許を取得する必要があること
・コスト構造の異なる国では、実施者からライセンス料をとっても競争力確保にならない場合があること
・技術のすべてを特許で押さえることは困難な場合が多く、回避技術が開発されたり、改良技術が他者に特許化されてしまう可能性があること
・特許の本来の目的である「発明を奨励し、産業の発達に寄与させる」という趣旨に反し、他社の業務の妨害や、訴訟や回避技術の検討などによる労力の浪費につながる可能性があること
したがって、丹羽氏は、「結局のところ、技術的なアイデア(発明)が付加価値の源泉であって、特許はそれを保護する1つの方策である」と述べ、「技術的なアイデア(発明)を競争上いかに有利に展開するかには、多くの方策がある」と述べています。具体的には、特許取得による独占、ライセンス収入、クロスライセンス以外に以下のような方策を挙げています[文献4、p.52]
・自社技術の延長上に業界の標準規格を定める
・技術を無償公開しデファクトスタンダードにする
・自社のビジネスモデルが対象としているバリューチェーンの価値を高める
・技術を秘密にしておく
特許取得の効果は、業種や業界によって異なりますので画一的な議論はできませんが、特許はイノベーションによって競争優位を維持する上でのひとつの手段と認識しておくべきでしょう。

特許や論文ではない、いわゆるノウハウも重要な知的資産です。例えば、ビジネスを進める上での知識や経験、様々なステークホルダー(顧客、パートナー、規制当局なども含む)についての情報やそれらとの関係自体(これをエコシステムと呼ぶ人もいます)もノウハウに含めてよいでしょう。こうしたノウハウには他者には容易に模倣できないものがあり、特に、文書化されずに個人の頭の中に存在する暗黙知を含むノウハウは他者に伝えることが困難なため、こうした知識資産を構築し、模倣されないようにすることも重要となるでしょう。

知識資産の拡大
上述のような知識資産の活用方法の検討とともに、知識資産自体の拡大も考えるべきことと思われます。例えば、従来、あまり顧みられることのなかった失敗に関する知識[例えば文献4、p.210](これには、「失敗学」という分野も提案されています[文献8])や、すでに却下された古いアイデア[例えば文献9、p.195]、知識のある人との人脈[文献10、p.117]、少数意見や反対意見[文献10、p.173]の有効活用の可能性も考えるべきでしょう。知識の組み合わせが知識創造の源泉になりうるという指摘は数多くあります。活用できる知識が多いほど、組み合わせの可能性は増えるはずです。個人の能力の限界を、他者との協力(機械との協力も含めてもいいかもしれません)によって補い、組み合わせの可能性を増やすことは意味のあることと考えられます。数多くの組み合わせから絞り込んでいく過程のスキルも重要になってくるでしょうが、暗黙知を含む多量の知識、情報をどううまくマネジメントできるかは、これからの時代、競争優位の確立にとってますます重要になっていくのではないでしょうか。


文献1:Nonaka, I., Takeuchi, H., 1995、野中郁次郎著、竹内弘高著、梅本勝博訳、「知識創造企業」、東洋経済新報社、1996.
文献2:Micheal Polanyi1966、マイケル・ポランニー著、高橋勇夫訳、「暗黙知の次元」、筑摩書房、2003.
文献3:長岡貞男、一橋大学イノベーション研究センター編著、「知識とイノベーション」、東洋経済新報社、2001.
文献4:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.
文献5:野中郁次郎、遠山亮子、平田透、「流れを経営する――持続的イノベーション企業の動態理論」、東洋経済新報社、2010.
文献6:Dixon, N.M., 2000、梅本勝博、遠藤温、末永聡訳、「ナレッジ・マナジメント5つの方法」、生産性出版、2003.
文献7:岡田吉美、一橋大学イノベーション研究センター編、「イノベーション・マネジメント入門 第2版」、日本経済新聞出版社、2017.
文献8:畑村洋太郎、「失敗学のすすめ」、講談社、2000.
文献9:Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J., 2008、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.
文献10:Leonard, D., Swap, W., 2005、池村千秋訳、「『経験知』を伝える技術」、ランダムハウス講談社、2005.


研究開発実践のマネジメント第38回-イノベーション普及に関連した様々な考え方:研究開発マネジメントの実践と基礎知識2.5.1.3)(「ノート」全面改訂)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第7回
2、研究開発実践のマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
第8回第17回
2.2
、研究開発を行う人のマネジメント第18第24回
2.3
、研究組織とそのマネジメント第25回第29回
2.4
、研究プロジェクトの運営第30回第36回
2.5
、研究成果を生かす
2.5.1
、研究成果を使ってもらうには、1)研究成果を使ってもらうためのポイント、2) Rogersによるイノベーション普及学の要点第37回

3)
イノベーション普及に関連した様々な考え方と発展
研究成果を世に出す上で、前回ご紹介したRogersのイノベーション普及論の考え方は技術やアイデアの新しさに劣らず重要で、実践的にも有用な概念と言えるでしょう。しかし、その考え方を使う際にはいくつかの注意点も指摘されています。さらに、Rogersの考え方を応用・発展したいくつものアイデアが提案されていますので、今回はそのような普及に関連する考え方をまとめてみたいと思います。

ロジャーズ普及論の限界
三藤はRogers普及論の限界について次の点を指摘しています。
・「ロジャーズの提案するイノベーション普及モデルは、シーズの発見やニーズの把握に始まり、研究開発を経て製品が開発され、その製品が市場に投入されて、社会システムに普及し、遂に日常化して社会に定着するに至ることを想定しています。このモデルは一方向的つまり直線(リニア)的な進行を前提としていますので、リニアモデルと呼ばれています。[文献1、p.52]」「しかし、実際のイノベーション普及過程はリニアモデルで説明できるほど単純ではありません。[文献1、p.53]」
・「リニアモデルは、研究開発と普及は別個に進行すると過程していますので、原則として普及過程が進行している間にイノベーションを具現化した製品やサービスが変化することを想定していません。[文献1、p.54]」
・「ロジャーズ普及論の原点はハイブリッドコーンという単一の製品に関わる技術的なイノベーションの普及過程にある[文献1、p.55]」。「関連要素の数が多くなると・・・要素間の関係が多岐にわたることになり・・・製品単体のイノベーションの普及と比べて、より複雑な挙動を示すことになります。[文献1、p.56]」
・「コミュニケーションチャンネルが限定的であった時代は、ある程度時間をかけてイノベーションが普及していましたが、現在では普及現象が爆発的に起こる可能性が高まっています。[文献1、p.58]」

つまり、Rogersの普及論の成果を確実なものとして利用するには、その前提をしっかり認識しておく必要がある、ということでしょう。ちなみに、Rogersの原著(文献1)の表題は「Diffusion of Innovation」であり、「Diffusion」が「普及」と訳されていることになります。科学の世界ではdiffusionの訳語は普通は「拡散」でしょう。一般に、分子等が拡散していく過程では物質の変化は想定されないことがほとんどだと思いますので、Rogersがそうした「拡散」に基づくモデルをイメージしていたかもしれないと考えれば、上記のような限界は技術者の皆さんには理解しやすいのではないかと思います。

ロジャーズ普及論の改良・進歩
Rogers
普及論の基本的な考え方に従って、そのモデルの一部を改良し進歩させるような研究は数多くあるようです。ここでは、一例として井上達彦氏の解説に基づいて、2005年に発表されたファーリーらの研究(Ferlie, E., Fitzgerald, L., Wood, M., Hawkins, C., 2005, Academy of Management Journal, 48(1), p.117)の内容をご紹介したいと思います。
・「ここで紹介する研究論文は『なぜ効果が認められているイノベーションが普及しないか』の研究です。[文献2、p.172]」「これまで、高度な専門性を有する組織はイノベーションの導入に積極的であると考えられてきました。・・・ファーリーたちの研究によって、専門職ネットワークがイノベーションを広めるというのは、単一の専門職集団での普及に限った話であることがわかった・・・複雑な組織というのは、複数の専門職集団を抱えているものです。それぞれ、異なった価値観や規範や信念をもって営まれているので、科学的な根拠があっても、その解釈をめぐって論争が生まれてもおかしくありません。組織や専門職集団の間には『見えない壁』があり、それが普及を阻害しているかもしれないのです。[文献2、p.194]」「専門職からなる実践共同体というのは、内部で触発し合って学習したり変革することは得意です。しかし、外からの刺激をもとに学習したり、外からの圧力によって変化するのは苦手です。タコツボ化と揶揄されるように、狭いコミュニティで自己閉塞しやすい集団(self-sealing group)なのです。ファーリーたちの研究は、専門家集団のタコツボ化しやすい特性を『社会的・認知的境界』という考え方で学術的に裏付けました。[文献2、p.195]」
専門家がイノベーションの阻害要因になりうることは、研究者として特に注意すべきことではないでしょうか。

普及論の発展(Mooreのキャズム)
普及論のアイデアを活用した考え方としては、ムーアによるキャズムが最も有名でしょう。キャズムとは、Mooreによれば「アーリー・アドプターとアーリー・マジョリティーのあいだを分かつ深く大きな溝[文献3、p.30]」とされます。(アーリー・アドプターは文献4では「初期採用者」、アーリー・マジョリティーは「初期多数派」と訳されています。)ここで、「溝」というのは、横軸に時間、縦軸に時間あたりの採用者数(採用速度)をとったRogersが想定する正規分布の中に断絶があるということを言っているようで、その解釈を真っ正直に理解すると、溝の期間においては採用速度がゼロになる、つまり採用者が増えない、ということになります(このあたり、Mooreの説明があまりきちんとしていない印象です)。こうした「溝」が発生する原因について、Mooreは、「アーリー・アドプターとアーリー・マジョリティー・・・に共通点が少ないため、アーリー・アドプターがアーリー・マジョリティーの適切な先行事例となり得ない[文献3、p.31]」とし、「アーリー・マジョリティーにとって参考になる先行事例は、他のアーリー・マジョリティーなのだが、そのアーリー・マジョリティーは、有用な先行事例をいくつか見てからでなければ製品を購入しない[文献3、p.31]ために普及の停滞が発生すると説明しています。そしてその結果、「ある顧客グループに対して、ベル・カーブ上でその左に位置する顧客グループに対するのと同じ方法で製品が提示された場合には、全く効果を発揮しない[p.25]」ことになると述べています。

このキャズムについて、Rogersは、「革新性という連続体のうちで、5つの採用者カテゴリー相互間に明確な断絶が起こることはない。それにもかかわらず、『イノベータ、初期採用者』対『初期多数派、後期多数派、ラガード』の間には不連続が存在すると主張する研究者がいる[ムーア、1991]。これまでの研究には、採用者カテゴリー間に『キャズム(深い溝)』が存在するという主張を裏づける知見はない[文献4、p.231]」と述べています。一方、Rogersの著書(文献4)の訳者でもある三藤氏は次のように考え方の違いを説明しています。「ムーアは・・・製品の変化や改良を明確な形で『技術採用のライフサイクルモデル』のなかに組み込んでいる[文献1、p.44]」。「市場のボリュームゾーンを構成する実利主義者・・・に当該製品が採用されるためには、彼らから見た費用対効果比つまりコスパが十分に高く良好でなければなりません。キャズムは洞察者と実利主義者の間に横たわる深い溝のことなのです。ムーアは、実利主義者はIT関連のハイテク製品では一定程度の技術的な知識を持つ一方、価格に敏感に反応すると説明しています。彼らのニーズを満たすためには、一段の価格の低減と性能の向上が必要になります。・・・実利主義者の支持を得ることができれば、当該イノベーションに基づく新製品はキャズムを乗り越えることができます。・・・ムーアの場合、キャズムの適用をICTなどのハイテク製品に限定していることがミソです。[p.45]」「ハイテク製品は、そのライフサイクルにわたって、明確に進化を遂げ、変化します。つまり、イノベーションの変化を考慮に入れていないロジャーズの普及モデルでは想定することのできない現象だったのです。[文献1、p.45-46]」(筆者注:ここで洞察者はアーリー・アドプターのこと、実利主義者はアーリー・マジョリティーのことを意味しています。)

結局のところ、Rogersのモデルは製品の変化を考慮しない単純化されたモデルであるのに対し、Mooreは、製品がアーリー・アドプターの特性を持った顧客に受け入れられた後に採用が進まなくなる場合には、マーケティングの方法や製品の特性を変化させていく必要がある、ということを主張していると考えられます。実務の観点から考えると、Rogersのモデルが単純すぎると判断されるケースでは、製品開発、販売戦略を変更する必要があるということになるのでしょう。例えば、FurrDyerは、次のように述べています。「ムーアは、特定の顧客グループがなぜ自社のソリューションに惹きつけられているのかを深く理解し、そのうえで自社のリソースを一つのニッチなターゲット顧客に集中しなければならないと主張している。目的は、自社のメッセージを効率的に伝え、十分な正当性を何人かの参照顧客(アーリー・マジョリティの一部)の心の中に作ることである。そうすることで、顧客は安心して製品を採用しようと思うのだ。このようなアーリー・マジョリティの参照顧客は接点となり、他の同じような考えを持つ顧客に製品を試すように説得してくれる。[文献5、p.266]」

さらに、Mooreは、イノベーションの採用過程だけでなく、イノベーションの成長、成熟、衰退というライフサイクルにまで範囲を広げて、それぞれにどのような対応をすべきかを提案しています[文献6]。また、このライフサイクルが短期化し、急速な成長と衰退が起こるケースについてビッグバンイノベーションという考え方も提案されています[文献7]。これらの議論は現段階ではキャズム以上に厳密性に欠けるように思われますので、普及論との違いをしっかりと認識した上で、仮説として使えそうなものがあれば参考にしてみる、という役立て方をするのが適当なように思われます。

情報の伝達過程の変化
情報ネットワークの変化に関しては、ChristakisFowlerは、「ロジャーズの理論によると、テクノロジーが広がるスピードは最初のうちは遅いが、やがて速くなり、すべての人に行き渡る頃にはまた遅くなるという。だが、社会的ネットワークの構造を考慮に入れた最近の研究では、そう単純ではないことがわかっている[文献8、p.201]」。「イノベーションを普及させようとする際の基本的な考え方は、情報や影響力は密接で深いつながりを通じて広がる、というものだ。・・・しかし、この考え方は人間の社会的ネットワークの重要な特徴を見逃している」。強い絆に基づく構造は、「集団外の人と接触するには都合が悪い」[文献8、p.203]と述べています。基本的な情報伝達の速度が速くなっているのは間違いないと思いますが、似たような技術の間での競争が起こりやすくなることも考えられるでしょう。どのような情報がどう伝わるか、それがイノベーションの普及速度にどう影響するか、普及のどの過程に対する影響が大きいのか、など興味がもたれます。


文献1:三藤利雄、「イノベーションの核心 ビジネス理論はどこまで『使える』か」、ナカニシヤ出版、2018.本ブログ記事へ
文献2:井上達彦、「ブラックスワンの経営学 通説をくつがえした世界最優秀ケーススタディ」、日経BP社、2014.本ブログ記事へ
文献3:Geoffrey A. Moore, 1991,1999,2002,2014、ジェフリー・ムーア著、川又政治訳、「キャズム2 新商品をブレイクさせる『超』マーケティング理論」、翔泳社、2014.
文献4:Rogers, Everett M., 2003、エベレット・ロジャーズ著、三藤利雄訳、「イノベーションの普及」、翔泳社、2007.
文献5:Nathan Furr, Jeff Dyer, 2014、ネイサン・ファー、ジェフリー・ダイアー著、新井宏征訳、「成功するイノベーションは何が違うのか?」、翔泳社、2015.本ブログ記事へ
文献6:Geoffrey A. Moore, 2005、ジェフリー・ムーア著、栗原潔訳、「ライフサイクルイノベーション 成長市場+コモディティ化に効く14のイノベーション」、翔泳社、2006.
文献7:Larry Downes, Paul Nunes、ラリー・ダウンズ、ポール・F・ヌーネス著、江口泰子訳、「ビッグバン・イノベーション 爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化から生き延びよ」、ダイヤモンド社、2016.本ブログ記事へ
文献8:Nicholas A. Christakis, James H. Fowler, 2009, ニコラス・A・クリスタキス、ジェイムズ・H・ファウラー著、鬼澤忍訳、「つながり 社会的ネットワークの驚くべき力」、講談社、2010.ブログ記事へ


研究開発実践のマネジメント第37回-研究成果を生かすために必要なイノベーション普及の考え方:研究開発マネジメントの実践と基礎知識2.5.1(「ノート」全面改訂)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第7回
2、研究開発実践のマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
第8回第17回
2.2
、研究開発を行う人のマネジメント第18第24回
2.3
、研究組織とそのマネジメント第25回第29回
2.4
、研究プロジェクトの運営第30回第36回

2.5
、研究成果を生かす
よい研究成果が得られたとしても、その成果を誰かに利用してもらわなければイノベーションが完成したことにはならないでしょう。もちろん、研究成果を得ることまでが研究部門の担当であり、それ以後は別の部署がその成果の活用、実用化、収益化を担当する、という体制もあり得るでしょう。しかし、そのような分業体制がうまく機能するのはある程度先の読める研究開発だけであって、不確実性の高い課題の場合は研究成果をどのように活用し、ビジネスモデルを組み上げ、顧客に使ってもらって収益を挙げるかまでを考えておかなければならない状況も増えてきているのではないでしょうか。そこで、この節では研究成果を活用するための方法を考えてみたいと思います。

2.5.1
、研究成果を使ってもらうには
学問的な研究は除き、企業における研究開発では研究の成果は、誰かに使ってもらって便益を提供することが前提となるでしょう。そして、その使用者から対価を得ることになります。しかし、研究成果が使われるようになるプロセスは単純ではないことが知られています。例えば、よい研究成果があったとしても、何もしないでそれがすぐに使われるようになるわけではありません。このような研究成果を実際に適用する際の問題については、「イノベーション普及学」と呼ばれる分野で検討され、新しい技術がどのように利用者に受け入れられるかについて、技術者にとっても示唆に富む多くの成果が得られています。その成果はRogersの著書[文献1]にまとめられていますので、その中で特に重要と思われる点について以下にまとめておきたいと思います。

1)
研究成果を使ってもらうためのポイント
Rogers
は次のように述べています。「イノベーションによる便益が火をみるより明らかであったとしても、普及と採用にあたっては、イノベーションの相対的優位性以上のものが必要なのである。[文献1、p.10-11]」では、普及を促進するためにはどういう点に注意が必要なのか。特に重要な点を挙げると以下のようになると思います。
・よい製品やサービスであれば自然に使用者に受け入れられ、採用されるようになる、ということはない。普及のための努力や仕組みが必要になるこをを想定しておく必要がある。
・使用者が新しいイノベーションを採用するプロセスや、そのプロセスに影響する因子を理解し、対応する必要がある。

2) Rogers
によるイノベーション普及学の要点
イノベーションが普及していくというプロセスは、従来のやり方を変えて新しいやりかたを導入するというプロセスであり、古くから人々が行ってきたことです。そのため、研究の蓄積も多く、研究成果もイノベーションの他の分野に比べて整理されており、その知見や示唆は今でも大きな価値を有しているように思われます。以下、Rogersによるイノベーション普及学のまとめの中から、特に重要と思われる点を整理しておきたいと思います。

イノベーションが普及する速度に影響する因子
Rogers
は、「個人によって知覚されるイノベーション特性がその普及速度を左右する」[文献1、p.49]と述べ、その特性として以下の5つを挙げています。
1、相対的優位性(そのイノベーションが既存のアイデアよりよいと知覚される度合い)
2、両立可能性(そのイノベーションが採用者の既存の価値観、過去の体験、必要性と相反しないと知覚される度合い)
3、複雑性(イノベーションを理解したり使用したりするのが困難であると知覚される度合い)
4、試行可能性(イノベーションを経験しうる度合い)
5、観察可能性(イノベーションの結果が採用者以外の人たちの目に触れる度合い)
これらのうち、複雑性は低い方が、その他の特性は高い方がイノベーションの採用速度が高くなるという調査結果があるようで、これは経験的にも妥当な結果のように思われます。えてして技術者は相対的優位性の向上にばかり着目しがちであることを考えると、それ以外の要因も考慮する必要があることにはまず注意が必要でしょう。さらに、「再発明」すなわち、イノベーションの採用と使用に際して利用者による変更が行なわれることが起きやすいほどイノベーションの採用速度は高まり、持続可能性(継続的に使用される度合い)も高まること[文献1、p.103,107]、また、予防的イノベーションすなわち将来の欲せざる出来事の発生確率を減じるためのイノベーションは、そうでないイノベーションに比べて採用速度が遅いことも指摘されています[文献1p.94]

ユーザーがイノベーションを受け入れるプロセス
Rogers
は、「イノベーションに対する個人の意思決定は瞬時に生じる行為ではない」[文献1、p.84]と述べ、その過程には次の5つの段階があるとしています。
1、知識(イノベーションの存在を知り、機能を理解する)
2、説得(そのイノベーションに対する好意的ないし非好意的態度の形成)
3、決定(イノベーションを採用するか否かの選択)
4、導入(イノベーションの使用)
5、確認(すでに行なった決定の補強)
知識段階には、個人の特性やコミュニケーション行動が影響を与えると言われていますが、特に注意すべきポイントとしては、「選択的エクスポージャー(人は関心事、ニーズ、それまでの態度に合致するアイデアに触れたがる傾向があり、自らの性向と相容れないメッセージを意識的ないし無意識的に回避する)」、「選択的知覚(人のそれまでの態度や信念などの観点からコミュニケーションメッセージを解釈する傾向)」という傾向があり、その結果、「われわれはこれまで出会ったことのないアイデアに対して、それほど容易には好意的な考えをもつことができない」とされています[文献1、p.87]。また、イノベーションに関する知識としては、ハウツー知識(イノベーションを活用するのに必要な知識)、原理的な知識(働きの根底にある原理的な知識)が重要であって、これらが不十分だと、採用拒否や中断、誤用が起こりやすいと言われています[文献1、p.89-90]
説得段階については、上述のイノベーションの知覚特性が影響を与えますが、知識段階での精神的な活動は主として認知(知ること)に関わるものであるのに対して、説得段階での思考形式は感情(感じ)に関わるもの[文献1p.92]であって、人は新しいアイデアの機能に対して確信を持てないので、他の人を通してイノベーションに対する自身の態度を強化するため、自身の考えが同僚の見解から外れていないかどうかを知りたがったり、イノベーション評価情報(科学的な評価や、同僚の評価)を求めたりするといわれます。この説得段階とそれにつづく決定段階ではイノベーションの試行が行なわれることがあり、試行可能性とその効果は重要になると考えられています。
導入、確認段階では、イノベーションの実行を通じてイノベーション採用を決定したことの強化が行なわれます。その結果が不十分であればそのイノベーションの継続的採用は難しくなりますので、もし、完成したイノベーションに期待外れの結果が出ているとすれば、それへの対応を取る必要があることになるでしょう。

採用者カテゴリー
イノベーションに対する受け入れ方が個人によって異なることはよく知られています。Rogersは採用者カテゴリーという概念で個々人の革新性に基づいて社会システムの成員の区分を行なっています[文献1、p.213-253]。ここで、革新性とは、個人(や採用単位)が他の成員よりも相対的に早く新しいアイデアを採用する度合いのことを指し、採用者カテゴリーは、あるアイデアの採用時期とその採用者数が正規分布することに基づいて、以下のように分けられています。

イノベータ:平均採用時期よりも2σ以上早期に採用したグループ。冒険的。
初期採用者:平均採用時期よりも1~2σ早期のグループ。「同僚から尊敬されていて、新しいアイデアを上手にしかも思慮深く利用する体現者的な存在[文献1、p.233]」であって、尊敬の対象となる。
初期多数派:平均より早く1σまでのグループ。慎重派。
後期多数派:平均より遅く1σまでのグループ。懐疑派。
ラガード:平均より1σ以上遅いグループ。因習派。

このように採用者カテゴリーは、採用時期に正規分布があることに基づいていますので、累積採用者数と採用時期の関係をとれば(正規分布曲線を積分した)S次型の普及曲線が得られることになります。

この採用者カテゴリーは、イノベーションが普及していく過程を理解するのに有効な概念ではありますが、いくつかの注意点があります。例えば、Rogersは「S次型曲線は成功したイノベーションの場合のみにあてはまり、イノベーションは社会システムのなかのほとんどすべての潜在的採用者に浸透する。」[文献1、p.223]と述べています。実際には「ほとんどのイノベーションは成功しない。社会システムの小数の人に採用された後、そのイノベーションは結局のところ拒絶されて採用率は横ばいになり、採用の中断が生じて、採用率も急降下するのである。[文献1、p.223-224]」ということになります。従って、類似する技術の間での栄枯盛衰を説明するには不適切な面もあると思われます。また、採用時期には、個人の革新性の他にも、個人がイノベーションの情報に接するタイミングのバラツキも含まれているとされています。さらに、イノベーションを採用する必要性が高いのに、経済的な理由で採用が遅れる場合があることも指摘されています。ただ、このような革新性の違いを想定することは、イノベーションを採用しやすい人、しにくい人の傾向を考える上で有用で、例えば種々の研究によると、「初期の採用者は後期の採用者よりも一般に一層高い社会経済的な地位を持つ・・・初期の採用者は感情移入が高く、独善的ではなく、抽象概念に対処する能力が高く、合理的であり、知性的であり、変化に対して好意的な態度をもっており、不確実性やリスクに対処する能力があり、科学に対して好意的な態度をもっており、それほど運命論者ではなく自身を有効に働かせる能力をもっており、学校教育、より高い地位、職業などに対する向上心が高い[文献1、p.252-253]」ことが知られています。

また、こうした傾向を利用して、実践的な示唆もなされています。例えば、社会の大多数への普及を目指す場合、重要視すべきは「イノベータ」ではなく「初期採用者」とされる点は興味深く思われます。これは、新しいアイデアを積極的に受け入れる「イノベータ」は、その社会の中では異質な存在と受け取られることが多く、その他の多数派とは必ずしも十分なコミュニケーションがとれていなかったり、多数派の規範となるような人物ではなかったりする傾向があるとされ、社会から尊敬され、役割モデルとなりうる「初期採用者」こそが普及において重要な役割を担うと考えられています。このことは、最初にイノベーションを適用する対象者を決める上で重要な知見でしょう。また、革新性と年齢の間には相関が認められない、という調査結果はイノベーションの普及のみならず個人の個性を理解する上でも重要な点であると考えられます。

組織へのイノベーションの普及
個人におけるイノベーションの普及に対して、組織への普及については若干異なる視点が必要なようです。Rogersは「組織においては、何人もの人々がイノベーション決定過程に関与しており、導入者と意思決定者は異なることが多い。また、組織に安定と連続性をもたらしている組織構造が、イノベーションの導入を妨げることがある」と述べています[文献1、p.102]。組織におけるイノベーション過程は、大きく2つの段階、すなわち開始段階(情報収集、概念形成から採用決定まで)と、導入段階(決定されたイノベーションが実用に供するのに関わるすべての活動)に分けられ、開始段階におけるニーズの認識と問題解決のためのイノベーションの選択については、個人におけるイノベーションの適用と類似していると考えられますが、導入決定以後の過程は若干異なり、組織におけるイノベーションでは、導入決定後、「再定義・再構築」すなわち、イノベーションの修正とイノベーションに順応するよう組織構造が変化し、「明確化」すなわち、イノベーションの意味が組織の成員にとって明らかになる段階を経て、「日常業務化」されていくとされます。日常業務化された後は、組織成員のイノベーション設計、議論、導入への参加の度合いが大きいほど、イノベーションの持続可能性は高まるといわれています。組織におけるイノベーションの採用決定段階において、組織成員の間に合意が形成される場合(集合的なイノベーション決定)と、採用の選択が強制力、地位、あるいは専門知識を有する少数の人によってなされる場合(権限に基づくイノベーション決定)では、成員の参加の度合いが異なり、集合的なイノベーション決定の方が持続可能性が高くなるといわれています。組織の特性によるこの過程の進み方の違いに関しては、複雑さ(組織成員の知識や専門能力の高さの度合い)が高いほど、情報収集、概念形成といった開始段階は早まるが、導入への合意形成が妨げられることがあり、集中化(権力や統制が比較的少数の個々人に集中している度合い)および公式化(規則や手続きに従うことを重要視する度合い)が高いほど、開始段階が遅くなるがひとたびイノベーションの採用が決定すると導入が促進される、という傾向を持つと言われています。[文献1、p.385-425]

普及を促す仕組み
イノベーション普及を図る役割を担う人は「チェンジ・エージェント」と呼ばれます。開発を行なった研究者がそうした役割を担ったり、その補助を行なったりする場合があるでしょうが、研究者やチェンジ・エージェントは採用者にとっては外部の人間であるため、コミュニケーション上の問題が発生する可能性があることには注意が必要でしょう。一般には、コミュニケーションは同類性の高い人の間で効果的になる[文献1、p.359]と言われますが、新しい技術を持っているという点で、研究者や技術者は採用者とは異類的な側面を持つため、コミュニケーションがうまくいかない可能性があります。さらに、採用者からの信頼を得られるかどうかの問題もあります。情報の受け手にとって、情報源となる人物に対して持つ信頼には2種類、すなわち能力信頼性(情報源の人物が知的で熟達していると知覚される度合い)と無難信頼性(情報源が信頼しうると知覚される度合い)があるとされますので、技術的能力が高いことだけでは信頼を得ることができない可能性にも注意が必要でしょう。理想的なチェンジ・エージェントの場合、この2つの信頼性が均衡している[文献1、p.363]とされますので、研究者が採用者にアプローチする場合にはこうした点を認識しておくことも必要でしょう。

イノベーション普及を考える意義
ここでご紹介したイノベーション普及に関する知見はRogersがまとめている内容のごく一部ですが、それだけでもイノベーションのプロセスを考える上で、大きな意義を持つものだと思います。企業の研究開発においては、普及されてこそイノベーションが完成するわけですので、実用的にもこのような知見はイノベーションプロセスにの基礎として重要なのではないでしょうか。また、この分野では、知見にデータの裏付けがあることも魅力のひとつではないかと思います。時代とともに、普及プロセスに影響する因子も変化するでしょうし、こうした知見に関連した考え方や手法も種々提案されていますので、こうした基礎を理解した上で、新たなアイデアを評価し活用していくことが求められるでしょう。


文献1:Rogers, Everett M., 2003、エベレット・ロジャーズ著、三藤利雄訳、「イノベーションの普及」、翔泳社、2007.


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