研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

トップダウン

ノート9改訂版:研究組織の構造

1、研究開発テーマ設定とテーマ設定における注意点→ノート1~6
2、研究の進め方についての検討課題
2.1
、研究を行なう人の問題
→ノート7~8
2.2
、研究組織の問題
研究開発を成功させ、イノベーションを実現するためには、研究組織とそのマネジメントはどうあるべきなのでしょうか。ノートにも引用しましたが、イノベーションにおいて、「組織の役割は創造性豊かな個人を助け、知識創造のためのより良い条件を作り出すことである」[文献1、p.87]と考えられていることからも、組織とその運営はイノベーションの成果に大きく関わってくると考えられます。そこで、ここではイノベーションに関わる研究組織や環境の問題について、まずは組織の構造について考えてみたいと思います(組織運営の問題は次回ノート10で考察します)。

①研究組織の構造
研究活動にとってどのような構造の組織が望ましいかについて、Tiddは「最適な組織の特性に単一の<ベストな>解などない」と述べ、「組織構造と、イノベーティブな行動ルーティンとの間に、基本的な調和が存在する」ことが重要と述べています[文献2、p.380]。実際のところ、ノート5に述べたように、研究部隊に求められる業務は様々であり、研究開発のフェーズによっても行うべきことは変わってきますので、理想的には、業務内容に応じた最適な組織構造をとるべきだと言えるでしょう。しかし、ほとんどの企業の組織は固定的で、業務に応じて臨機応変に組織構造を変更することは容易ではないと考えられます。そこで、最初に研究組織の構造とその特質の関係をまとめてみたいと思います。

研究組織は一般に、類似する技術分野の人が集められている組織(技術志向、機能組織)と、ある目的(製品、プロジェクト)のために人が集められている組織(事業志向、タスクフォース)に大別できます。それぞれ、技術志向組織ではその技術分野の専門的知識を体系的に理解、発展、蓄積させるのに適しており、事業志向組織では様々な技術を事業目的のために統合し、活用するのに適していると考えられます。しかし、現在の多くのイノベーションではその両方の機能が要求されますので、個々の技術者は技術志向組織に属したまま、達成すべき目的のために臨時的に作られるプロジェクトチームのような事業志向組織にも同時に加わり活動する、というマトリックス組織が多く採用されているようです。しかし、この組織形態では、技術者にとっては2人のボスが存在することになり、WeberFayolなどにより古くから重視されてきた管理の原則のひとつである、管理の統一性(各人は1人の管理者から命令を受け取るべき)が損なわれるという問題点を抱えることとなり、実際の運用は容易ではないと言われています。[文献3、p.205-220]

技術志向と事業志向の両方が求められる課題に対してどちらを重視した組織構造とすべきかについては、必要とされる技術の専門性の深さと、その専門性の習得、育成にどのぐらいの時間が必要かがひとつの判断基準になるように思われます。ある目的の実現に必要な技術を自社内で育成する必要があり、その育成に長時間が必要な場合には、技術志向の組織を保有することは不可欠でしょう。だたし、そのような必要性が高まるほど、セクショナリズムが生まれる危険性が高く、異分野協働による知識創造が行なわれにくくなる危険性もあるため、そのような環境で事業志向の組織をうまく運用するためには、過度な技術志向組織への依存をなくし、他部署との協働や事業志向組織を優先するインセンティブを工夫することが必要となるでしょう。

それぞれの組織の形態については、階層性の問題も考慮が必要です。官僚制に代表されるピラミッド型の組織と、階層の少ないフラットな組織がよく対比されますが、管理することが重要な業務には上司の管理範囲が狭いピラミッド型の組織の方が優れるのに対し、意思決定における機動性という点ではフラットな組織の方が優れていると考えられます。従って、比較的定常的な業務ではピラミッド型、臨機応変な対応が必要な非定常業務ではフラット型が向いていると考えられますが、フラットな組織では組織が大きくなるとマネジャーが管理すべき範囲が広がるため、マネジャーの権限を第一線に委譲して自律性に任せるような運用をしないとかえって効率が落ちたり判断を誤ったりする場合もあるでしょう。

また、階層性の問題に関連して、トップダウン型、ボトムアップ型という2種類の仕事の進め方の違いもよく議論されます。丹羽は「技術の研究開発には発明・発見という人間個人の創造的働きが重要となる。このような働きを行なうには自主性を重視するボトムアップ的組織が効果的」とする一方、「技術開発には戦略性が重要であり、これには広い立場からのトップダウン的なアプローチが重要となる」と述べ、両者のジレンマの克服の重要性が指摘されています[文献3、p.215]。これに対し野中は、トップダウン組織はピラミッドのような形であり、トップ・マネージャーだけが有能で知識を作ることを許され、組織の第一線での暗黙知の成長を無視していると述べ、ボトムアップ組織はフラットで、トップは命令や指示をほとんど出さず、企業家精神を持った第一線ロアー社員をサポートし、知識は一人ひとり自立的に働くのを好むロアー社員によって作られるが、自律性が重視される結果、暗黙知を組織全体に広めて共有することを難しくしている、と述べ、どちらの経営プロセスも知識変換がうまいとはいえないとして、「ミドル・アップダウン」マネジメントを提案しています[文献1、p.186-189]。これは、ミドル・マネジャーが中心に位置し、組織の上の方にいるマネジャーと下の方にいる第一線社員を巻き込みながら、組織的に知識を創造していく形態[文献1、p.25]で、これは、ミドル・マネジャーが、トップが創りたいと願っているものと現実世界にあるものとの矛盾を解決[文献1、p.193]できる立場にいることを活用したものと考えることができます。さらに野中は、組織的知識創造をひき起こすための組織として、ハイパーテキスト型組織を提案しています。これは、階層組織とフラットなタスクフォース組織をもち、この組織で作られた知識を知識ベースとしてビジョン、組織文化、技術の中に再構成する、というもの[文献1、p.286]ですが、実務的な立場から見ると組織形態や運用の具体的なイメージが描きにくいように思われます。

ここまで述べた組織の構造は、主に、ある組織内の個人がどうつながっているかに焦点が当てられていました。これに対し、近年、ネットワーク組織が注目されています。これは、ある程度独立して自律性を持った複数の組織が協力して業務を進める形態で、社外組織も含めた協力関係により効率を上げ、経営資源制約の解決に寄与するものと期待されており、上述の技術志向、事業志向のジレンマを改善する可能性も期待できると思われます。ただし、ネットワーク上での意思決定、対立解消、情報交流、知識蓄積、動機づけなどの調整に多大な努力が必要[文献2p.382]で、そうした調整をつうじて協力関係をいかにうまく築けるかが課題とされているようです。このようなネットワークの考え方は、組織間のつながりだけでなく、個人と個人の間のつながり方のパターンとしても考えることができますが、ネットワークの中を流れる情報の伝わり方がネットワークの構造の影響を受けることが指摘されている[文献6]点にも注意が必要でしょう。

このような組織と組織のつながりを考慮することは、社外の知識の有効利用を目指したオープンイノベーションや、企業内における新規事業分野と既存事業分野の共同作業[文献7]の重要性の指摘を背景に、近年注目されているように思われます。研究に関して言えば、研究組織を支えたり管理したりする組織の意義も指摘され、例えば、イノベーションの課題に応じて、諮問委員会、社内起業ファンド、インキュベーターなどの組織を設けて総合的にイノベーションを推進すべきであるとする考え方も提案されています[文献5、p.308]。イノベーション成功のためには、研究グループの組織構造だけでなく研究グループをとりまく組織も含めて考えなければいけない、ということのようです。

研究組織に関する別の視点としては、組織の大きさも重要と考えられます。Christensenは、破壊的イノベーションの進め方について「初期の破壊的技術によって生じるチャンスが動機づけになるほど小規模な組織に、プロジェクトを任せるべき」[文献4、p.192]と述べています。もちろん、あらゆるイノベーションにこの考え方があてはまるわけではありませんが、最初から資源を大量に投入して大きな組織を作ればよいというものではないことは認識しておくべきでしょう。一方、組織内の冗長性の確保や、技術継承の観点から、有効に機能する組織の大きさの下限があるようにも思われます。

以上、イノベーション組織の構造に関しては、あらゆる研究の機能に適したベストな形態が存在するとは考えないほうがよさそうです。研究の仕事の中には古典的なトップダウンの官僚的組織でうまく進められるものもあるでしょう。しかし、イノベーションを阻害する環境要因としてKanterが挙げている内容、すなわち、統制的な垂直的関係の蔓延、水平的コミュニケーションの欠乏、限られた手段と資源、トップダウンの命令、形式的で限定的な改革方法、劣等感を助長するような文化、焦点の定まらないイノベーション活動、望ましくない会計上の慣行 [文献2、p.397]を考慮すると、少なくともトップダウン、官僚的組織は研究の実行過程においては最適の組織とは言えないように思われます。ただし、これらの問題点は、組織の構造だけでなく、その運用にもかかわってくる問題であり、結局のところ、それぞれの組織構造がもつ得失を考慮し、活動の目的にあわせて運用しやすい組織にしていくことが必要、ということではないでしょうか。

考察:研究活動に適した組織
ここまでは、組織の構造の特性に焦点をあてて検討しました。以下では、視点を変えて、研究活動において必要な活動にはどのような組織が適しているのかを考えてみたいと思います。
・専門性の育成、技術の伝承:専門性を深めるという目的には、上述のとおり、同じ分野の技術者が集まる技術志向組織が適していると言ってよいでしょう。技術者の視野が狭くなるという問題があるとはいえ、育成、指導という活動に関しては、教える者、教わる者という一種の上下関係が必要と考えられます。もちろん、完全に形式知化された内容であれば、OffJTや自学自習も可能でしょうが、暗黙知や、職場特有のノウハウの学習を伴う経験学習、職場学習[文献8]では、ある程度閉鎖的で固定的な上下関係、同僚との関係が不可欠と思われます。ただし、専門性を深めることよりも、多くの経験をすることが重要な状況では、事業志向的な組織がふさわしいと考えられますので、結局は両者のバランスをとりつつ運用していくことが求められるということでしょう。
・新たなアイデアの発想:「イノベーションは他人からのインプットがなければめったに起こらない[文献6、p.211]」と言われます。野中氏の知識創造理論(SECIモデル)でも異なる知識が相互作用する場の重要性は指摘されています[例えば文献1、9]。こうした目的のための組織構造としては、ネットワーク組織や、組織の壁を越えた事業志向組織、フラットな組織が適しているように思われますが、どのような組織構造であれコミュニケーションを活発にすることがまず必要でしょう。アメリカの研究機関SRIでは「ウォータリング・ホール」という横断的かつ協力的なミーティングによる価値創出の方法が確立されているようですが[文献10]、発想を促進する分野横断的な仕組みは他にも様々に提案されています。
・イノベーションの事業化:今や、研究部隊が生み出す成果のみで事業化が可能なのは、製品の改良や持続的イノベーションの分野に限られるように思います。より大きなイノベーションを目指す場合には、多くの部署との協働が不可欠と言っていいでしょう。ただし、協働する場合に、作業を分割して分担する場合と、分割しにくい作業を共同で進める場合が考えられます。分割して分担できる場合には、それぞれが果たすべき役割を技術志向の組織がそれぞれ担当することが可能ですが、作業を分割しにくい場合には、組織間や担当者間での密なコミュニケーションが必要になると考えられますので、事業志向の組織で対応することがふさわしいでしょう。これからのイノベーションでは、あらかじめ計画を立てておくことが困難な創発的なプロジェクトが増えていくと予想されますので、どちらの構造の組織で対応するにしても、全体の状況をチェックし臨機応変の対応をとるマネジメントと、密なコミュニケーションが求められると思います。SRIでは、コラボレーションの3つの基本要素として、戦略ビジョンの共有、スキルの相互補完、報酬の共有をあげ、それらをまとめる役割を担うのは「敬意のこもった継続的なコミュニケーション」[文献10、第12章]であると認識されているそうですが、協働をうまく実現するためには、このような考え方をもち実践していくことが求められているのかもしれません。少なくとも課題を必要な作業に分解してそれを既存の組織に割り当てればよい、といった単純な考え方では、プロジェクト全体の運営は難しいのではないかと思われます。

これらをまとめると、研究組織の構造は、研究に関わる活動のしやすさに影響を与えるが、組織構造のみで、イノベーションが実現できるわけではない、ということになると思います。組織構造に加えて、それをどう運用するかも重要、ということでしょう。


文献1:Nonaka, I., Takeuchi, H., 1995、野中郁次郎、竹内弘高著、梅本勝博訳、「知識創造企業」、東洋経済新報社、1996.
文献2:Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K., 2001、ジョー・ティッド、ジョン・ベサント、キース・バビット著、後藤晃、鈴木潤監訳、「イノベーションの経営学」、NTT出版、2004.
文献3:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.
文献4:Christensen, C.M, 1997、クレイトン・クリステンセン著、伊豆原弓訳、「イノベーションのジレンマ」、翔泳社、2000.
文献5:Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J., 2008、スコット・アンソニー、マーク・ジョンソン、ジョセフ・シンフィールド、エリザベス・アルトマン著、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.
文献6:Nicholas A. Christakis, James H. Fowler, 2009, ニコラス・A・クリスタキス、ジェイムズ・H・ファウラー著、鬼澤忍訳、「つながり 社会的ネットワークの驚くべき力」、講談社、2010.
文献7:Vijay Govindarajan, Chris Trimble, 2010、ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル著、吉田利子訳、「イノベーションを実行する 挑戦的アイデアを実現するマネジメント」、NTT出版、2012.
文献8:中原淳、「経営学習論 人材育成を科学する」、東京大学出版会、2012.
文献9:野中郁次郎、遠山亮子、平田透、「流れを経営する――持続的イノベーション企業の動態理論」、東洋経済新報社、2010.
文献10:Carlosn, Curtis R., Wilmot, William W., 2006、カーティス・M・カールソン、ウィリアム・W・ウィルモット著、電通イノベーションプロジェクト訳、「イノベーション5つの原則 世界最高峰の研究機関SRIが生みだした実践理論」、ダイヤモンド社、2012.

参考リンク

ノート目次へのリンク



ノート6改訂版:研究部門が実施したいと考えるテーマ

1、研究開発テーマ設定とテーマ設定における注意点
1.1
研究活動における基本的な注意点
→ノート1~3
1.2
、研究テーマの設定
①企業収益に結び付くテーマ(事業的に成功が期待されるテーマ)→ノート4
②研究部門に求められるテーマ(企業が研究部門に求める活動と、それに付随する研究テーマ)→ノート5

③研究部門が実施したいと考えるテーマ(研究部門が主体的に提案するテーマ)
研究部門が行なう業務や研究テーマには、研究部門が主体的に考え、実行するものもあります。これは実質的には、企業組織において研究を担当する部門が、与えられた業務分担の範囲で、ある程度自主的に実施すべき内容を考え、実行するテーマということになります。②で説明した「研究部門に求められるテーマ」では、他部署の要求に応えることである程度研究の意義が認められやすいわけですが、「研究部門が実施したいと考えるテーマ」では、研究の内容やその意義自体も自らが判断しなければならない点が大きな違いです。何をアイデアの源として、どう研究テーマの形にしていくかを考えることから始めなければならないわけで、ここでは研究部隊で行なうテーマの発案を中心に、その時にどういう点に注意すべきかを考えたいと思います。

研究部門が発案するテーマは、一般に「ボトムアップ」のテーマと呼ばれることが多いと思います。これに対し、②で説明したテーマや課題は「トップダウン」、ということになります。トップダウン、ボトムアップのどちらが望ましいかという議論に関しては、不確定要素や不確実性の存在のため研究開発の計画は完全にトップダウンだけでは決められないことに特別の注意が必要[文献1、p.177]との指摘があります。また、形式知(形式的・論理的言語によって伝達できる知識)と暗黙知[文献5](特定状況における個人的な知識で、形式化したり他人に伝えたりするのが難しい知識)[文献6、p.88]の相互作用が組織的知識創造にとっと重要であるとの立場から、トップダウンモデルは形式知を扱うのに向いているが組織の第一線での暗黙知の成長を無視しており、ボトムアップモデルは暗黙知の処理が得意であるが暗黙知を組織全体に広めて共有することを難しくしており[文献6、p.187]、組織的知識創造のための最良の環境として「ミドル・アップダウン・マネジメント」が提案されています[文献6、p.238]。いずれにせよ、「ボトムアップ」テーマの重要性は広く認識されているものの、研究部門が持つ知的資源や能力をうまく活かすことが課題、ということになるようです。

研究テーマのアイデアの源に関しては、
「サイエンス・プッシュ」「テクノロジー・プッシュ」vs.「マーケット・プル」「デマンド・プル」
「シーズ志向」vs「ニーズ志向」
という区分がなされることがあります。

イノベーションがどのような過程で発生するかについて、過去(1950年代)においては、基礎的研究がイノベーションを生むという「サイエンス・プッシュ」の考え方が重要視されていたようです。これに対し、近年では科学技術と市場の間の双方向コミュニケーションの重要性が認識されて、上記のような「サイエンス・プッシュ」と「マーケット・プル」の2つの逆向きの流れを組み合わせる「カップリングモデル」を考慮すべきだと言われています[文献1p.119-121]。さらに、Tiddらは、テクノロジー・プッシュ型か、さもなくばニーズ・プル(必要は発明の母)型かのどちらかといったアプローチの限界は明らかであり、現実には、イノベーションとは何かと何かを結びつけ調和させていくプロセスであって、相互作用こそが最も重要な要素である[文献2p.54]と指摘しています。また、Rogersは「知覚されたニーズがイノベーション過程を始動させたり、イノベーションの知識がそれに対するニーズを創出したりする」[文献3p.410]と述べており、同様の見解は他にもみられます[文献4p.149]

このように、イノベーションにとってはいわゆるシーズとニーズの双方が必要ということは広く認識されていることのようですが、にもかかわらずシーズ志向の研究というものは企業内では評判が悪いように思われます。この原因としては、シーズ志向の研究は、古典的な企業経営の手法すなわち、企業内外の環境分析に基づいて戦略的に目標を設定し、それを効率的に実行するという考え方になじみにくいことがまずあげられるでしょう。それに加え、開発(あるいは導入)された技術と、製品や実機に使えるような技術との間のギャップ(レディネス・ギャップ)を誰がどのように埋めるかがはっきりしないために「研究所で生み出された技術は、市場よりもサイエンスに近いものとして評判が悪い」[文献7p.232]と判断されてしまうこともあると思われます。

これに対し、ニーズ志向の考え方は、その研究がうまくいけば収益が上がるはずだ、という期待から、テーマ設定において重視される場合があります。しかし、真のニーズを理解することはそう容易ではない、として、ニーズ志向の考え方に否定的な見解を持つ人もいるようです。例えば、顧客にヒヤリングして得たニーズは、実現できた方がよいという程度の顧客の希望であることも多く、また、何らかのイノベーションが実現した後になって初めて、顧客がそうしたニーズがあったことに気づく場合もあると言われます。破壊的イノベーションの理論では、真のニーズとは、「片づけるべき用事」[例えば文献4、p.119]に基づくものとされ、その真のニーズを見出す方法として行動観察などのエスノグラフィー的な手法が着目されています。ニーズというと、顧客や、顧客と接する他部署から与えられるものと考えがちですが、好ましくは、研究部隊がニーズの把握段階から関与すべきものなのかもしれません。結局のところ、ニーズ志向、シーズ志向という考え方については、二者択一ではなく、両者を重視したテーマ設定が求められるようになってきているということのようです。

ただ、シーズを創造し、磨くことは多くの場合研究部門に求められる、研究部門ならではの業務です。特に技術的シーズに関しては、専門的な知識や訓練が必要とされることが多いため、研究部門以外の部署では取り扱いが困難な場合もあるでしょう。従って、シーズに基づく研究テーマが求められる場合には、研究部門がその検討を行なうことが最も合理的ということになります。研究部門にとっても、技術シーズは身近に存在するため、シーズを発展させるプロセスに技術者が関与する余地が大きく、成果も得やすいというメリットもあって、取り組みやすいものです。さらに、シーズ技術がそれ自身で(ニーズがなくても)成長し、さらに新たなシーズを生み出す可能性がある点も重要でしょう。

シーズ技術のもつこのような特性は、セレンディピティーにも繋がるものと考えられます。セレンディピティーとは、偶然に幸運な予想外の発見をする能力を指し、Robertsは、以下の2種類に分類しています。[文献1、p.198] [文献8、p.ix]
・擬セレンディピティー(pseudoserendipity):追い求めていたことを、偶然に発見できること
・真のセレンディピティー(true serendipity):思ってもみなかったことを、偶然に発見できること
このうち、真のセレンディピティーは「予想外」の結果に基づくものであるため、オリジナルなものとなることが多く、差異化のためには特に重要と考えられます(擬セレンディピティーであっても発見に偶然を必要とするものは同様です)。セレンディピティーに恵まれれば、それは競合他社が容易に達成できる成果ではなく、技術的に優位に立つための重要な足がかりになるはずです。ただ、真のセレンディピティーは、目的志向を強く意識した研究においては目的外の結果や単なる異常値として見逃されてしまうこともありうるので、注意が必要です。

このように、いわゆるシーズ志向のテーマは、ニーズとの組み合わせでイノベーションを達成するための重要な要素となると考えられますが、シーズとしては、現有の技術を単に深めるだけではなく、外部の技術、埋もれた技術、失敗の結果に終わった技術なども加える必要があるでしょう。そして、真のニーズを理解した上で、シーズとニーズをうまく組み合わせて、より可能性の高い研究テーマを、研究部門が実施したいと考えるテーマとして実施していく努力をすべきなのだと考えます。

考察:実践的な研究テーマの分類について
このノートでは、基礎研究、応用研究といった研究の分類についての議論は行なっていません(「」参照)。それは、こうした研究の分類は実践的にあまり役に立たないように思われるためですが、ノート4~6において、3つの側面から研究テーマの性格の違いについて議論しました。研究というものは、その内容や位置づけなどが異なっていれば、その効果的な進め方や注意点は当然違って然るべきと考えられますが、もし、テーマをうまく分類することによって、そうした好ましい進め方に関する理解が深まるならば、そうした分類には意味があるのではないかと考えています。

ノート4~6で試みた3つの視点によるテーマの分類は、それぞれが排他的なものではなく、同時に2種類の特徴を持つテーマや時間の経過とともにその分類が変わっていくテーマも想定しているものです。ただ、この分類は、誰がその研究テーマを主体的に判断するかが異なっていること、それによって、研究部門の役割と注意点が変わってくることが、特徴としてあげられると思います。具体的には以下に示すとおりです。
①企業収益に結び付くテーマ(事業的に成功が期待されるテーマ):判断主体は経営層。最終的に経営に寄与することを目指すため、全社的なテーマとなる可能性があり、研究部門の役割は、全社的なテーマ推進の中で分担する役割をこなすことになる。経営層への専門的助言も役割のひとつ。
②研究部門に求められるテーマ(企業が研究部門に求める活動と、それに付随する研究テーマ):判断主体は研究部門以外の部署。研究部門の役割は、まず外部からの期待に応えること。その上で、よりよいものを生み出せれば望ましい。
③研究部門が実施したいと考えるテーマ(研究部門が主体的に提案するテーマ):判断主体は研究部門。研究部門の役割は、イノベーションの種を生み、育てること。シーズであろうとニーズであろうと、あらゆる情報を集めて組み合わせて種を生む研究部門の能力が問われる。

もちろん、こうした視点は、現状では私のアイデアにすぎませんが、企業における研究部門の役割を考えると、このように分類することは、それぞれのテーマの効果的な遂行方法を考える手がかりになるのではないかと思っています。


文献1:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.
文献2:Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K., 2001、後藤晃、鈴木潤監訳、「イノベーションの経営学」、NTT出版、2004.
文献3:Rogers, E.M., 2003、三藤利雄訳、「イノベーションの普及」、翔泳社、2007.
文献4:Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J., 2008、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.
文献5:Polanyi, M., 1966、高橋勇夫訳「暗黙知の次元」、筑摩書房、2003.
文献6:Nonaka, I., Takeuchi, H., 1995、梅本勝博訳、「知識創造企業」、東洋経済新報社、1996.
文献7:Leonard-Barton, D., 1995、阿部孝太郎、田畑暁生訳、「知識の源泉」、ダイヤモンド社、2001.
文献8:Roberts R.M., 1989、安藤喬志訳、「セレンディピティー」、化学同人、1993.

参考リンク

ノート目次へのリンク


研究者の主体性

研究開発において、研究者が主体的に課題に取り組むことの重要性はよく指摘されます。自らの意思で、意欲をもって、自分に適したやり方で課題に取り組めば、よい成果が得られやすくなるだろうことは想像に難くありません。もちろん、それだけで成功が保障されるものではありませんが、野中氏による組織的知識創造の理論でも自律の重要性は指摘されており(ノート10)、研究マネジメントの観点からも重要な概念と言っていいでしょう。

しかし、いまだにトップダウンの命令による研究マネジメントもよく行なわれているようです。例えば、次のようなエピソードが紹介されています[文献1]。本田技研が異業種のA社との間で、互いに7~8人の若手研究者を相手会社の研究所に派遣する交流プログラムを行なったところ、A社から本田技研に来た技術者は「指示が曖昧で何をやったらいいのか分からない」という不満を述べ、本田技研からA社に行った技術者は「『あれをやれ』『これをやれ』と、やたらと指示が細かくて仕事にならない」という不満を持ったといいます。

本田技研では自らの信念に基づく主体的な行動が求められるのに対し、A社はトップダウンの指示に基づく仕事の進め方が一般的なのでしょう。もちろん、こうしたマネジメントのスタイルは、その会社の業務内容や環境に応じて変わることは当然ですので、トップダウンのマネジメントが直ちに好ましくないとは言えません。例えば強いリーダーシップのもとに明確な作業を効率的に処理する場合などには有効でしょう。しかし、上司が逐一細かな作業まで的確に指示できないような場合や、不確実性の高い業務を行なう場合、すなわち研究開発のような場面では、個人の主体性に基づいて研究者の能力をフルに発揮することが望ましい場合が多いのではないかと思います。

まずは、トップダウンのマネジメントにより、研究員の主体的行動が損なわれる具体的な原因と、そのようなマネジメントを行なってしまう背景を考えてみましょう。次のようなケースがありうると思います。

・上司が細かな指示をする:部下の主体的行動の機会を奪う。

 (背景)部下の行動を制約することで部下の行動が予測でき、上司は安心できる。

  部下も言われたことをやりさえすればよいという点で悩みが少ない。

  意外な結果に直面した場合のフラストレーションを上司のせいにできる。

・部下の思考停止:考える習慣が減退し、主体的な行動への意欲が薄れる

 (背景)もともと主体的な思考、行動の習慣が薄い人がいる。

  上司の細かな指示が、思考停止を招き、指示待ちの部下を作ってしまう。

主体的な行動を阻害するこのような要因の根底には、新しいことに対する心理的抵抗があるように思います。もちろん、その程度には個人差がありますが、新しいことを行なう場合には多少なりとも不安感を持ちやすいことは否めないでしょう。従って、自然に任せていたのでは主体的な行動を避けようとする傾向になりやすいことは理解できます。しかし、その傾向の違いを個人の性格だけで説明しようとすることには問題があると考えます。上述のエピソードにおいて、本田技研の技術者は一様に主体的な行動を好み、A社の技術者はその逆であったとすれば、その行動のパターンは、社風や育成方針、環境によって作られた可能性があると考えられるからです。新しいことに対する心理的抵抗の大きな人であっても、マネジメントによってその行動を主体的なものに変えることは可能であると考えるべきではないでしょうか。

自立性(自律性)を支えるホンダの哲学(人間尊重の哲学)は次のようなものだそうです[文献1].

・自立(自律):自立とは、既成概念にとらわれずに自由に発想し、自らの信念にもとづき主体性をもって行動し、その結果について責任を持つことです。

・平等:平等とは、お互いに個人の違いを認め合い尊重することです。また、意欲のある人には個人の属性(国籍、性別、学歴など)にかかわりなく、等しく機会が与えられることでもあります。(技術の前では役職に関係なく平等)

・信頼:信頼とは、一人ひとりがお互いを認め合い、足らざるところを補い合い、誠意を尽くして自らの役割を果たすことから生まれます。ホンダは、ともに働く一人ひとりが常にお互いを信頼しあえる関係でありたいと考えます。

上記の平等と信頼はいずれも自立を支えるものであるように思います。例えば、平等は、上司からの指示だからといってそれに盲目的に服従する必要がないことに、信頼は、上司が部下を信頼し、細かな指示や管理を必要としないことに、あるいは部下はいちいち上司の許しを得なくても行動を起こせることにつながるでしょう。このような哲学に加えて、失敗を容認すること、チャレンジを促す風土、行動に対する心理的抵抗を軽減すること(例えば、挑戦の習慣化や、挑戦の楽しさを自覚させることなどによって)を加えれば、主体的な思考や行動を促すことができるようになるのではないでしょうか。

おそらく上記のA社はトップダウンのマネジメントによって今までに成功を収めてきたのだろうと思います。しかし、過去の成功体験に基づくマネジメントが指示待ちの技術者をつくり出してしまっているとすれば、これからの時代、あまりに損失が大きいのではないでしょうか。確かに主体的に行動することは「楽」なことではないかもしれません。しかし、その見返りに「楽しさ」も得られる可能性があるはずです。それに加えて、研究成果にもプラスに作用するのであれば、主体的であることは行動規範としてもっと重要視すべきなのではないでしょうか。


文献1:小林三郎、「ホンダイノベーション魂 第16回 自律、信頼、平等」、日経ものづくり、2011年7月号、p.103

同じ記事がこちらにあります:http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK14027_U2A610C1000000/



 

参考リンク<2012.8.5追加>
 

 

ノート9:研究組織の構造

研究の進め方についての次の検討課題として、組織の問題について考えてみたいと思います。

 

組織の問題

研究開発、イノベーション実現のための組織はどうあるべきでしょうか。その研究組織のマネジメントはどうあるべきでしょうか。ノート7にも引用しましたが、イノベーションにおいて「組織の役割は創造性豊かな個人を助け、知識創造のためのより良い条件を作り出すことである」[文献1p.87]と考えられていることからも、組織とその運営はイノベーションの成果に大きく関わってくると考えられます。そこで、ここではイノベーションに関わる組織や研究環境の問題について考えてみたいと思います。

 

組織の構造

どのような研究組織の構造が望ましいかについて、Tiddは「最適な組織の特性に単一の<ベストな>解などない」と述べ、「組織構造と、イノベーティブな行動ルーティンとの間に、基本的な調和が存在する」ことが重要と述べています[文献2p.380]。実際のところ、研究部隊に求められる業務は様々であり、研究開発のフェーズによっても実施すべきことは変わってきますので、そうした業務内容に応じて最適な組織構造が変わってくるという考え方はごく当然のことと思われます。

 

しかし、ほとんどの企業の組織は固定的で、業務に応じて臨機応変に組織構造を変更することは容易ではないと考えられます。したがって実際には、理想とは言えない組織の中で業務を行なわざるを得ない場合がほとんどでしょう。そこで、自らが置かれている組織の形態によって、どのような点に注意してイノベーションを実行していくべきか、必要であれば組織をどのように変えていくべきかを理解するために、いくつかの特徴的な組織構造の特質をまとめてみたいと思います。

 

まず、研究Grがどういう人から構成されているかで組織を考えてみると、類似する技術分野の人が集められている場合(技術志向、機能組織)と、ある目的(製品、プロジェクト)のために人が集められている場合(事業志向、タスクフォース)に大別できます。それぞれ、技術志向組織ではその技術分野の専門的知識を体系的に理解、発展、蓄積させるのに適しており、事業志向組織では様々な技術を事業目的のために統合し、活用するのに適していると考えられます。しかし、現代のイノベーションのためにはその両方の機能が要求されており、どちらかの組織形態を固持していては最適な成果の発揮が期待できないのも事実でしょう。そこで、個々の技術者は技術志向組織に属したまま、ある目的のために臨時的に作られるプロジェクトチームのような事業志向組織にも同時に加わり活動する、というマトリックス組織が多く採用されているようです。しかし、この組織形態では、技術者にとっては2人のボスが存在することになり、WeberFayolなどにより古くから重視されてきた管理の原則のひとつである、管理の統一性(各人は1人の管理者から命令を受け取るべき)が損なわれるという問題点を抱えることとなり、実際の運用は容易ではないことになります。[文献3p.205-220]

 

このような組織形態のあり方を考える場合、取り扱う分野における専門技術の習得、育成にどのぐらいの時間が必要かがひとつの判断基準になるように思われます。ある目的の実現に必要な技術を自社内で育成する必要があり、その育成に長時間が必要な場合には、技術志向の組織を保有することは不可欠でしょう。だたし、そのような必要性が高まるほど、セクショナリズムが生まれる危険が高く、異分野協働による知識創造が行なわれにくくなる可能性もあります。

 

組織形態については、階層性の問題もあります。官僚制に代表されるピラミッド型の組織と、階層の少ないフラットな組織がよく対比されますが、管理することが重要な業務には上司の管理範囲が狭いピラミッド型の組織の方が優れるのに対し、意思決定における機動性という点ではフラットな組織の方が優れていると考えられます。従って、比較的定常的な業務ではピラミッド型、臨機応変な対応が必要な非定常業務ではフラット型が向いていることになるでしょう。また、階層性に関連して、トップダウン型、ボトムアップ型という2種類の仕事の進め方もよく議論されます。丹羽は「技術の研究開発には発明・発見という人間個人の創造的働きが重要となる。このような働きを行なうには自主性を重視するボトムアップ的組織が効果的」とする一方、「技術開発には戦略性が重要であり、これには広い立場からのトップダウン的なアプローチが重要となる」と述べ、両者のジレンマの克服の重要性が指摘されています[文献3p.215]。これに対し野中は、トップダウン組織はピラミッドのような形であり、トップ・マネージャーだけが有能で知識を作ることを許され、組織の第一線での暗黙知の成長を無視していると述べ、ボトムアップ組織はフラットで、トップは命令や指示をほとんど出さず、企業家精神を持った第一線ロアー社員をサポートし、知識は一人ひとり自立的に働くのを好むロアー社員によって作られるが、自律性が重視される結果、暗黙知を組織全体に広めて共有することを難しくしている、と述べ、どちらの経営プロセスも知識変換がうまいとはいえないとして、「ミドル・アップダウン」マネジメントを提案しています[文献1p.186-189]。これは、ミドル・マネージャーが中心に位置し、組織の上の方にいるマネージャーと下の方にいる第一線社員を巻き込みながら、組織的に知識を創造していく形態[文献1p.25]で、これは、ミドル・マネージャーが、トップが創りたいと願っているものと現実世界にあるものとの矛盾を解決[文献1p.193]できる立場にいることを活用したものと考えることができます。さらに野中は、組織的知識創造をひき起こすための組織として、ハイパーテキスト型組織を提案しています。これは、階層組織とフラットなタスクフォース組織をもち、この組織で作られた知識を知識ベースとしてビジョン、組織文化、技術の中に再構成する、というもの[文献1p.286]ですが、実務的な立場から見るとやや理解しにくいように思われます。

 

新たな組織構造としては、近年、ネットワーク組織が注目されているようです。これは、ある程度独立して自律性を持った複数の組織が協力して業務を進める形態で、社外組織も含めた協力関係により効率を上げ、経営資源制約の解決に寄与するものと期待されており、上述の技術志向、事業志向のジレンマを改善する可能性も期待できると思われます。ただし、ネットワーク上での意思決定、対立解消、情報交流、知識蓄積、動機づけなどの調整に多大な努力が必要[文献2p.382]で、そうした調整をつうじて協力関係をいかにうまく築けるかが課題とされているようです。

 

研究組織に関する別の視点からの指摘として、組織の大きさにも注目する必要があると思われます。Christensenは、破壊的イノベーションの進め方について「初期の破壊的技術によって生じるチャンスが動機づけになるほど小規模な組織に、プロジェクトを任せるべき」[文献4p.192]と述べています。もちろん、あらゆるイノベーションにこの考え方があてはまるわけではありませんが、最初から資源を大量に投入すればよいというものではないことは認識しておくべきであると思います。

 

以上の組織構造についての議論に加えて、研究組織を支えたり管理したりする組織についての指摘もあります。例えば、イノベーションの課題に応じて、諮問委員会、社内企業ファンド、インキュベーターなどの組織を設けて総合的にイノベーションを推進すべきであるとする考え方も提案されています[文献5p.308]。イノベーション成功のためには、研究グループの組織構造だけでなく研究グループをとりまく組織も含めて考えなければいけない、ということのようです。

 

以上、イノベーション組織の構造に関しては、あらゆる研究の機能に適したベストな形態が存在するとは考えないほうがよさそうです。研究の仕事の中には古典的なトップダウンの官僚的組織でうまく進められるものもあるでしょう。しかし、イノベーションを阻害する環境要因としてKanterが挙げている内容、すなわち、統制的な垂直的関係の蔓延、水平的コミュニケーションの欠乏、限られた手段と資源、トップダウンの命令、形式的で限定的な改革方法、劣等感を助長するような文化、焦点の定まらないイノベーション活動、望ましくない会計上の慣行 [文献2p.397]を考慮すると、少なくともトップダウン、官僚的組織は研究組織には適しているとは言えないように思われます。結局のところ、成果を発揮できる場が理想の組織ということになるのでしょうが、そうした組織を作り上げることにも創造性の発揮が望まれるということかもしれません。

 

 

文献1Nonaka, I., Takeuchi, H., 1995、梅本勝博訳、「知識創造企業」、東洋経済新報社、1996.

文献2Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K., 2001、後藤晃、鈴木潤監訳、「イノベーションの経営学」、NTT出版、2004.

文献3:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.

文献4Christensen, C.M, 1997、伊豆原弓訳、「イノベーションのジレンマ」、翔泳社、2000.

文献5Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J., 2008、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.


参考リンク 

記事検索
最新記事
プロフィール

元研究者

QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ