研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

基礎研究

科学とエンジニアリング(「エンジニアリングの真髄」(ペトロスキー著)より

企業における研究開発を成功させるためには、いわゆる科学も、エンジニアリングも必要です。多くの企業研究者はそう考えていると思うのですが、立場の異なる人も同じように考えてくれるとは限りません。今回は、科学とエンジニアリングをどう捉えるか、どのように使っていくべきか、といった問題について、ペドロスキー著「エンジニアリングの真髄 なぜ科学だけでは地球規模の危機を解決できないのか」[文献1]に基づいて考えてみたいと思います。

科学とエンジニアリングの違い
・「科学は『知る』が仕事、エンジニアリングは『やる』が仕事だ。・・・しかし、科学とエンジニアリング、あるいは科学者とエンジニアは、つねに簡単に区別がつくわけではない。両者の目的や手法にはかなり重なる部分があるからだ。[p.28]
・「いわゆる科学的手法とエンジニアリング的手法とはよく似かよっていて、区別するのはとても難しい。しかし、エンジニアと科学者がほとんど無意識に、エンジニアリング分野と科学分野を行ったり来たりできることを考えれば、これはそう驚くようなことではないだろう。[p.85]
・「エンジニアリングと科学の分野を自由に行き来し、それによって有益な結果を引き出す科学者やエンジニアの能力は、地球にとって必要欠くべからざる能力だ。[p.96]

科学とエンジニアリングに対する周囲の認識
・「なぜ、わが国の新聞や一般的な用法では、科学とエンジニアリングが混同され(そしてしばしば後者が除外され)ているのだろうか。[p.31]
・「『職業ごとの相対的な社会的地位を評価してもらったところ、エンジニアリングの順位は中間ぐらいで、医学、看護、科学、教育よりずっと低かった』という。[p.44]
・「科学者がエンジニアより上と思われているのは、・・・科学の研究対象が高尚なのに対して、エンジニアリングの成果が泥くさいということに関連しているようだ[p.46]」。
・科学者のなかにも『私たちのやっている科学には、どんな条件のもとでもいかなる実用性もないと思い、それを誇りにしていた。断固としてそう主張できればできるほど、ますますすぐれているような気がした』という考えをもつ人もいる。[p.46]
・「現代のエンジニア像がくっきりと見えないのは、ひとつには科学者に近すぎるせいだ。・・・というわけで、そしてまたおそらくひとりひとり個別に見るのが面倒なためもあって、無頓着なジャーナリストや一般の人々は、エンジニアをすべてひっくるめて『科学者』というくくりのなかに放り込んでしまうことが多い。[p.58]

科学とエンジニアリングの位置づけ
・「問題を科学的に解明し、それをエンジニアリング的に解決することが必要[p.63]」。
・「最先端のエンジニアリングの成果が科学の進歩に不可欠なのは、高エネルギー物理学にかぎったことではない。[p.66]
・(例えば、工学的構造物の構造の選択の際に)「選択規準として科学的分析が役に立つことはあるだろう。しかし両者の違いを見極め、どちらを選ぶか決めるのはエンジニアだ。エンジニアが物理学的(および経済的)問題を考慮して選ぶのであって、物理学が選ぶのではない。」[p.67-68]
・「蒸気機関、動力飛行機、ロケットなどその他さまざまな事例は、技術のほうが科学に先行していたことを示す明白な証拠になっている。要するに、基礎研究は古くから、技術開発をヒントに、またそれを動機として行なわれてきたのであり、両者は不可分の関係にある。そしてしばしば、技術のほうが科学を先導してきたのだ。[p.148]」
・1945年7月にトルーマン大統領にヴァニーヴァー・ブッシュが提出した報告書において、「病気を克服するため、新しい製品や産業や職業を生み出すため、また国防に役立つ新兵器開発を可能にするためには、自由な基礎研究を通じた科学の進歩が不可欠であると主張されていた。『基礎研究は科学の資本である』とブッシュは書いている。彼の考える研究開発のモデルは明らかに直線的で、基礎研究の次に応用研究、そのあとに技術開発が来るというものだった。・・・しかし・・・科学技術の歴史からすればブッシュのモデルは妥当とは言えない。[p.146]」
・「開発重視の計画が科学的な障害にぶつかった場合、資金配分の比重はいつでも変えられる。しかし、明確な目標のない基礎研究に予算を先に注ぎ込んでしまったら、目の前にある問題の解決には無関係な、役に立たない知識がもたらされるだけで終わる危険もある。科学者が基礎的な知識を求めて基礎研究をするのは、もちろんまちがったことではまったくない。しかし、いま目の前に具体的な問題があって、それを解決するために資金を割り当てられているなら、それはその資金を使うのにふさわしい道と言えるだろうか。現実的な火急の問題を解決したければ、R&Dの開発の側に努力を集中するべきなのだ。[p.163-164]」
・アーサー・C・クラークの「予言の法則」:1、著名だが年配の科学者が可能だと言うなら、それはほぼ確実に正しい。しかし不可能だと言うなら、それは間違いである確率がかなり高い。2、可能と不可能の境界線を発見するには、その境界を少し越えて不可能の領域に足を踏み入れてみるしかない。3、じゅうぶんに発達した技術は魔法と区別がつかない。[p.68]
・「技術史研究者のトーマス・ヒューズによれば、『アインシュタインは、特許や発明に対して、一時のきまぐれではすまない大きな関心を抱いていた』[p.87]」。(実際冷蔵技術の特許を共同出願している[p.91])(注:本書では、アインシュタインは特許事務所に勤務したと書かれていますが、ウィキペディア[文献2]によれば特許庁(局)勤務となっています。)

エンジニアリングの特徴
・「どんな発明や設計にも、行く手に能動的・受動的な障害が生じる可能性はある。[p.97]
・「ある設計にひそむ問題点を予想し、それによって設計を修正するのはエンジニアリングの本質である。残念ながら、危険の徴候が軽視されたり、潜在的な問題が『そんなことは正しく使っていれば起こらない』などと言って片づけられたりすることもある。エンジニアや建築家なら、そのような希望的観測はつつしむものだ。[p.124]
・「制約を満たすために、機械やシステムを設計するのがエンジニアリングというものだ。・・・さまざまな代替案を考慮し、目標により近づけるほうを選択する。制約条件どうしが両立しないこともしばしばだ。・・・こういうときはどこかで妥協するしかない。[p.204]」
・「エンジニアリングは、たんに既存の知識を創造的に応用して、かつて存在しなかったものを生み出すというだけではない。たとえ既存の知識が存在しなくても、つねに前に進みつづけるのがエンジニアリングの本質なのだ。[p.228]」
・「科学的予測には、100パーセント確実はありえない。[p.241]」
・「将来の事象については、それがいつどこで起こり、どんな影響が生じるか、絶対確実に予想できるほどのデータがそろうことはまずない。しかし『確実性』がなくても、適切な決断が下せる見込みを大きく高めることはできるものだ[p.255]」(ギャリック)
・「エンジニアはなんでもよりよくしようとするが、なにものも完全無欠にすることはできない。それが、エンジニアリングの産物に特有の根本的な欠陥であり、そしてこの欠陥こそが変化をうながす原動力であり、どんな業績も完全な到達点ではなく、通過点になってしまう原因なのだ。・・・今日の技術でまだ足りない部分を特定できれば、なにが未来の標準になるかかなりの確信をもって予測できるのだ。と言っても、未来がどんな形をとるか正確にわかるというわけではない。ここで思い出すのは、エンジニアリングは数学とは異なり、解はひとつとは言えないということだ。[p.263-264]」
・「工学的システムは、かならずしもよいほうへ進化していくとはかぎらない。[p.279]」
・「派手な新技術だけでなく、地道な保守、検査、現実性チェックにも投資して、みずからの長期的な健康に気を配ることが必要だ。建てたあとはろくに手入れもせず放っておいてよいような、工学的構築物など存在しない。[p.280]」

目指すべき方向
・「目標は科学やエンジニアリングそれじたいではなく、この地球とその住人を守ることである。全員が、ひとつの文化となるべく努力しなくてはならない。そして互いを無視したり、見下したり、軽んじたりせずに話し合わなくてはならない。[p.240]」
・「互いの尊敬すべき能力を理解しあうことで、協力はいっそう容易になるはずだ。[p.298]」
―――

科学と技術(エンジニアリング)の関係についての著者の主張のポイントは、科学と技術の協力が必要ということになると思います。すなわち、基礎研究→応用研究→開発研究、といういわゆるリニアモデル(直線的モデル)はあるべき姿とは言えない、というわけです。リニアモデルについてはその有効性が主張されることは少なくなってきていると思いますが、研究作業を細分化して分担させようとする立場からは理解しやすいためか、いまだにそのような考え方をする人もいるように思います。著者の主張の意味をよく認識しておく必要があるでしょう。

また、著者は、一般の認識として、科学はエンジニアリングよりも価値の高いもの、優れたものと認識される傾向があることも指摘しています。この傾向は、日本よりも欧米で根強い考え方のようにも思われますが、エンジニアリングの場合、どうしても金儲け重視と受け取られる傾向があることもそうした認識の一因になっているように思われます。科学者やエンジニアにもそうした考えを持つ人がいると思いますので、それが科学とエンジニアリングの共同作業の障害にならないように、科学者やエンジニアのモチベーションも考慮したマネジメントが求められるように思います。

なお、本書ではエンジニアリングの重要性が主張されていますが、著者は「知る」ための科学が不要だとは言っていません。知るための科学から得られる知識は、仮にそれが何らかの目的に直結しないものであっても新たなアイデアの源としての価値は大きいものです。加えて、知的好奇心を満たすという人間本来の活動も大切にすべきだと思います。エンジニアとして、私は「使えるものは何でも使うべき」だと思っていますので、すぐには使えなくても知識の資産を増やすことにはそれ自身価値があると思っています。要は、基礎研究、応用研究、エンジニアリングなどにどう資源を配分するかが重要なポイントになるということでしょう。そうした資源配分、さらには科学者やエンジニアへの動機づけ、協力体制構築、得られた知識の有効活用をよりよくマネジメントするために、科学とエンジニアリングの本質を理解することは重要なのだろうと思います。


文献1:Henry Petroski, 2010、ヘンリー・ペトロスキー著、安原和見訳、「エンジニアリングの真髄 なぜ科学だけでは地球規模の危機を解決できないのか」、筑摩書房、2014.
原著表題:The Essential Engineer, Why Science Alone Will Not Solve Our Global Problems
文献2:ウィキペディア「アルベルト・アインシュタイン」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%B3

参考リンク<2015.4.5追加>



MITメディアラボの研究マネジメント考

MITメディアラボといえば、様々なイノベーションを提供していることで名高い研究機関ですが、その研究の進め方、研究マネジメントについて、フランク・モス著「MITメディアラボ」[文献1]に基づいて考えてみたいと思います。

原著の表題は「The Sorcerers and Their Apprentices, How the Digital Magicians of the MIT Media Lab Are Creating the Innovative Technologies That Will Transform Our Lives」、訳せば「魔法使いとその弟子、MITメディアラボのデジタルマジシャンたちは我々の生活を変えるイノベーティブな技術をいかに創造しているか」というところでしょうか。著者は2006年から2011年まで、MITメディアラボの第3代所長を務めた方で、本書では「メディアラボのユニークなイノベーション・スタイルの根底にある基本原理」(第1~4章)と「メディアラボで現在開発中のテクノロジー」(第5~8章)が紹介されています。メディアラボの扱う技術の分野は、いわゆる「デジタル」技術が中心ですが、そのマネジメントは他の分野でも効果が期待できると思いますので、本稿では本書の前半(第1~4章)に述べられたマネジメントの特徴(イノベーション・スタイルの基本原理)を中心にまとめてみます。

メディアラボの研究マネジメント

第1章:情熱のちから

・「研究者が情熱や好奇心のおもむくままに発明に没頭できる、(中略)『自由な創造環境』[p.30]」が特徴。

・「唯一のルールは『ルールがない』」こと[p.30]。」

・「メディアラボの教員たちは、常に学生にリスクを冒すよう説いている。[p.62]

・「リスキーなプロジェクトが数多く行なわれているメディアラボでは、“失敗”という概念はない[p.62]。」

・「モノ作りやプロトタイプ製作を重視する[p.38]

・「企業はメディアラボの運営資金を提供する見返りに、研究者たちが開発した知的財産の対等かつ非独占的な権利を、ほぼ無条件で得ることができる。[p.39]-『オープンIP制度』[p.52]

・少なくとも年2回、研究者とスポンサー企業の代表者は1週間のスポンサー会議に参加することになる。この会議では、学生たちが最新の発明を披露する。この儀式はたちまち『デモ・オア・ダイ(デモができないなら死んでしまえ)』と呼ばれるようになり、メディアラボはこのビッグ・イベントで一躍有名になった」[p.40-41]。」注)

・「教員や学生は好奇心や情熱のおもむくままに発明や創造を行なう自由がある(中略)。スポンサーは、メディアラボの研究内容に口出しするのではなく、研究者に市場の最新のニーズやトレンドを伝え、貴重な情報を提供する[p.53]

・「今日の企業研究の世界ではほとんど見られないこの自由な創造環境が、メディアラボに存在している理由はただひとつだ。メディアラボのスポンサー企業は、われわれに会社の特定の問題の解決を求めているわけでもなければ、次の四半期にさっそく商品化できるような知的財産を求めているわけでもない。彼らが求めているものは(中略)想像力豊かなアイデアや発明に次々と触れられる機会なのだ。[p.61-62]

・「スポンサー企業は何らかの問題の解決策を易々と手に入れるためにメディアラボと手を組んでいるわけではなく、巨大な利益につながりうる長期的な投資と考えている。[p.176]

この背景には、「メディアラボのような好奇心や情熱に頼る研究というのは、学会や産業界からは消えつつあった。(中略)イノベーションの“種”―-つまりクリエイティブで斬新なアイデアや発明――は、もはや今までのように植えられなくなってしまった。[p.54]」という環境変化があったようです。

第2章:学問の消えゆく境界

・「メディアラボを占めるのはMITのような場所で見かけるコンピュータ科学者やエンジニアだけではない。(中略)さまざまな分野で教育を受けた人々がいる。そしてその多くが、一見すると専門分野とはまったく関係のなさそうなプロジェクトに取り組んでいる。(中略)多彩な経歴や関心を持つ人々を、(中略)透明でオープンな知的環境に置く――それがメディアラボのアプローチにとって不可欠なのだ[p.75]

・ありとあらゆる経歴を持つ人が集まり、『何が実現可能か』『ソリューションはどうあるべきか』といった先入観にとらわれることなく、今までとはまったく違った角度から問題を見つめている。[p.30]

・反学問的(アンチディシプリナリー):「今日の問題は以前よりも複雑に絡み合っており、20世紀のような“サイロ”化した学問や研究ではとうてい解決できない。問題が複雑で多次元にわたる現代社会では、解決策もそうでなくてはならない。だからこそ、これまでの孤立した学問分野の壁を打ち破る必要があるのだ。(中略)問題を解決するために必要なものなら、どんな道具、知識、人々でも利用する」[p.76]

・「問題を別の角度から考える――それこそ、メディアラボの反学問的な精神のポイント[p.79]

・「世界を変えるイノベーションを考えだすコツは、既知の疑問に対して斬新な解決策を見つけることではなく、斬新な疑問を投げかけること」。「人工的な学問分野の壁を無視してこそ、(中略)その分野の“専門家”でさえ(いや専門家だからこそ)考え付かなかった疑問を投げかけられる[p.80]。」

・「同じ屋根のもとに数々の学問分野が共存している。そして、その学問同士の境界は(中略)“透明”なのだ。[p.105]

・「自身の研究室で発明したテクノロジーを“オープンソース”化することで――つまりどの研究室や研究者も彼のテクノロジーを自由に利用できるようにすることで――サイロを取り壊し、業界内の連携を高めるきっかけを作ろうとしている。[p.196-197]

第3章:難しい遊び

・「遊び心あふれる学習は、過去25年間にわたってメディアラボの精神の中核をなしている。[p.117]

・「難しいけど、面白い」が「難しい遊び(ハード・ファン)」[p.118]

・「メディアラボで最高の仕事をしているとき、“仕事”という言葉を使わない。私たちはそれを“難しい遊び”と呼ぶのだ[p.138]。」

・「想像力を解き放つには、(中略)実践的な学習やモノ作りを行なうのがいちばん[p.49]」。

・「学生たちはまず『ほとんど何でも作れる方法』を教師から教わる。[p.30]

・「“考えるな、作れ”」「メディアラボにおいては、“百聞は一プロトタイプにしかず”であり、提案とは簡単なプロトタイプを作ること」[p.109]

・「デモは初期のころからメディアラボの精神には欠かせない一部だった。(中略)デモがあるからこそ、それまでの経歴にかかわらず、驚くほど短期間で学生たちを発明家に変えることができる。」「人々にデモンストレーションを行ない、その反応を見るのは、方向性が正しいことを確かめる最善の方法」[p.110]

・「メディアラボは発明を夢想するだけの場所ではない(中略)。発明を実際に形にし、テストし、デモンストレーションしなければならない。[p.48]

・「デモは『反復的なプロトタイピング』のプロセスと密接に関わっている。[p.111]

・「最初からうまくいかなくても(たいていはうまくいかないのだが)、人々に見せ、想像を掻き立てることはできる。そうすれば、次のプロトタイプのすばらしいアイデアをたくさん得ることができる。[p.116]

・「人々はよく『発明(インベンション)』と『イノベーション』を同じ意味で使うが、実際にはまったく別のものだ。『発明』とはそれまでにない革命的なアイデアやテクノロジーを考え、生みだすことだが、『イノベーション』はそのアイデアを実行に移し、利用する方法を見出すことも含む。(中略)発明はたったひとりの想像力や手から生まれることもあるが(そして実際に多くの発明がそうして生まれているが)、今日の世界の複雑に絡み合った問題を解決できるほどの真のイノベーションを生み出すには、人々や組織の大規模な共同作業が必要だ。[p.131-132]

なお、デモの仕組みには、自己満足や必要以上に時間をかけた研究に陥りやすい基礎研究の弊害を抑止する効果もあるように思います。

第4章:必然の偶然

・「偶然のつながりは、メディアラボではしょっちゅう起こっており、メディアラボの研究が飛躍する大きなきっかけでもある。しかし、一見すると偶然に見える出来事も、実際には『必然の偶然(セレンディピティ・バイ・デザイン)』によって直接引き起こされている。この考え方は、メディアラボの発明スタイルやイノベーション・スタイルにおいて、もっとも中心的な原則のひとつといえよう。必然の偶然とは、純粋な“偶然の発見”なるものは存在しないことを意味している。つまり、こういった“偶然”が起こるのは、予想外のつながりが生まれざるをえないような環境を、メディアラボが意図的に作りだしているからなのだ。この環境では、『マスター・プランがないこと』こそが唯一のマスター・プランだ。(中略)メディアラボで、一見するとランダムに見える人間と人間、人間とアイデアのつながりが生まれるのは、研究者たちが新しいチャンスを見つけるたびに、それを自由に研究し、追求することが許されているからだ。[p.142-143]

・「研究所の研究プログラムは一般的に『基礎研究』と『応用研究』のふたつに分類される。(中略)メディアラボはその両方を取り入れながらも、独自の風味を付け加えている。それこそ、メディアラボが現代社会のイノベーションの強力な動力源であるゆえんなのだ。メディアラボの研究は、基礎研究と同じように大部分が研究者の情熱や好奇心によって支えられている。その目的は、商品化へのプレッシャーを受けることなく、基本原理の理解を深めることである。(中略)その一方で、応用研究と重なる部分もいくつかある。スポンサー企業のニーズや要求を手がかりにしているし(企業がそう強制するわけではないが)、研究者は実動プロトタイプを繰り返し製作し、実世界にいる生身の人間でテストする。また、これも応用研究と同じように、メディアラボのアプローチは学際的であり、ひとつの学問分野に特化しがちな基礎研究とは対照的だ。[p.175-176]

以上がメディアラボのイノベーション・スタイルの根底にある基本原理、ということですが、著者は「どんな個人、会社、機関でも、この4つの原則のいくつかを取り入れることで、イノベーション・プロセスを改善できると私は信じている[p.31]」と述べています。確かに、自由で自律的な創造的環境、多様な分野の融合、プロトタイピングや試行錯誤、創発的な研究の進め方の有効性は様々なところで指摘されていますので、このようなアプローチの効果についてはよく納得できます。ただ、一般にはそれを実行することは容易ではありません。著者が「メディアラボ自身も、実は一種のプロトタイプ」[p.38]と述べているように、イノベーションの有効な進め方を創造する壮大な実験のひとつ、とも考えられると思います。なお、本書ではこのようなマネジメントが効果を挙げた数多くの事例(主にデジタル技術を人間に役立てるイノベーションを中心とした分野ですが)も紹介されています。具体的な技術にご興味のある方は、ぜひ本書をご参照ください。

---

本書に述べられたイノベーションの事例をみると、こうしたマネジメントが効果を発揮していることがよくわかるのですが、若干気になる点もありました。本書ではっきりと述べられているわけではないので、単なる私の思い込みである可能性もありますが、気になった点を以下に書きとめておきたいと思います。

・このやり方は優秀な人が揃っているメディアラボだからこそ?:本書では、例えば、複数の専門分野に精通した人材など、かなり高い能力と意欲を持った研究者がよく出てきます。メディアラボの自由で自律的な環境がイノベーションにとって重要なことは創造に難くないですが、優秀な人材がいればこそ、その環境がより有効に作用する面もあると思います。もちろん、普通の能力の研究者にとっても、よい環境の有効性には疑う余地はないと思いますが、例えば、マネジメント層にこのような考え方を受け入れられない人がいたような場合には、うまく機能するかどうかはわからないように思います。研究者の能力だけでなく、マネジャーの能力や考え方も問われる進め方なのかもしれません。

・基礎研究の新しい姿?:デモやプロトタイピングを重視するということは、論文発表の重要性は相対的に低いのではないかと思います。論文発表という、基礎研究では普通の評価方法をあえて重視しないように思われる点、従来の基礎研究のあり方を変えようとしているように思いました。また、企業との協力のしかた、研究費調達の考え方にしても従来の基礎研究とは異なると思います。企業の研究の弱点を補完する基礎研究を行ない、それで研究費を確保するという考え方は、企業と基礎研究機関との新たな協力のしかたを示唆しているのではないでしょうか。

・本書の取り上げ方によるのかもしれませんが、メディアラボの研究は、成果に貪欲、かつ楽観的であるように感じました。プロトタイピングによって少しずつ進んでいくやり方をすると、あるところまでできた成果をベースに次の目標を設定しやすくなるためにこのように感じられるかもしれません。マネジメントのやり方によって、挑戦する意欲を鼓舞することができるなら、これは興味深い手法だと思いますし、このような発想は研究を進める上で大切にすべきだと思います。

本書の副題には「魔法のイノベーション・パワー」とあります。英語の副題も魔法使いとその弟子、となっており、実際メディアラボの成果は魔法のように見えるかもしれません。しかし、成果を生む過程には魔法などあるわけもなく(もちろん容易なことではありませんが)、成果はきちんとしたマネジメントと努力の賜物であるはずです。マネジメントの実験としてのメディアラボから学べることは多いのではないかと思いますが、いかがでしょうか。


文献1:Moss, F., 2011、フランク・モス著、千葉敏生訳、「MITメディアラボ 魔法のイノベーション・パワー」、早川書房、2012.


注)今まで年に2回開催されていたメンバーミーティングは、2012年から年に1回の開催に変更になったようです。(loftwork林千晶さんのブログより、「MITメディアラボ 秋のリエゾンミーティング・レポート」、2012.10.29より)

<2013.3.10現在つながりません>http://www.loftwork.jp/blog/chiaki/2012/10/mit-2.html

参考リンク


 

 

 

魔の川、死の谷、ダーウィンの海を越える

研究開発の前に立ちはだかるといわれる次の3種類の壁についての私の理解を以前にご紹介しました。
魔の川:アイデア・基礎研究から実用化を目指した研究までの間の壁

死の谷:実用化研究から製品化までの間の壁

ダーウィンの海:製品が市場による淘汰を受けて生き残る際の壁

すべての研究開発がこの3つの壁を越えていく必要がある、というわけではありません。しかし、研究開発を実用化する上での困難なポイントをうまく説明する考え方として私は気にいっています。この背景には、研究の実用化が「基礎研究」→「応用(開発)研究」→「設計・製造」→「販売」といういわゆるリニアモデルに従って進む、という考え方がありますが、リニアモデルのような単純なモデルに従って研究が進む場合はほとんどないことが現在では広く認識されています(いまだにこういう考え方をする方がいるのは事実ですが)。ただ、実際には、研究開発をはじめとする新しいことへの挑戦が、多くの場合、「アイデア」→「アイデアが機能することの確認」→「機能を商品にするための工夫(製品化)」→「商品を安定的に提供(製造)する」→「販売・安定供給・品質保証・市場競争」といったプロセス、もっと単純には「アイデア」→「検証」→「実用化」→「競争」というプロセスを経て成果に結び付く場合が多いことも事実のように思います。要するにこの過程では、研究の実用化はひとつの工程が完了して次の工程に移る、という動きをするのではなく、いろいろな工程を行ったり来たりしながら製品に使われる技術やノウハウが完成に近づいていく、ということがポイントなのだろうと思います。製品化や製造の段階で、基礎に立ちかえる必要がでてくる場合もあるでしょうし、製造の研究や、供給や販売の段階でもその中でアイデア→確認→実用化というプロセスが要求されるということもあるでしょう。またプロセスの一部が省略されることもあるかもしれません。このように、ミクロなリニアモデルが変形しつつ複雑にからみあったものが研究開発プロセスではないかと思っています。

先に述べた「魔の川」はおよそ基礎研究から機能の確認の段階に、「死の谷」は、製品化、製造研究の段階に、「ダーウィンの海」は市場における競争の段階に相当すると考えられますが、実際には、これを順番にクリアしていくというよりも、こうした障害は研究開発のあらゆる場面で姿を現してくるということになるのではないでしょうか。そこで、以下では、それぞれの障害をのりこえるために何が重要かについて考えてみたいと思います。

「魔の川」を越えるためには、アイデアが思ったとおりに機能することを確認することが必要です。テストの結果によってはアイデアの見直しも求められる場合もあるでしょうから、アイデア自体を発想し、磨き上げることもこの段階に含めてもよいと思われます。すると、この段階で必要なことは、

・アイデアを出すこと

・よりよいアイデアを試験のために選抜すること

・アイデアが機能することをなるべく確実に、簡単に、速やかに確認すること

が重要になるでしょう。この段階を担当する研究者に求められることは、発想力、科学力(選抜の精度を上げる)、実験技術(確認技術)ということになると思われます。

「死の谷」を越えるためには、消費者にとって魅力的で品質の安定した製品が、現実的な価格で製造できることが必要でしょう。魔の川を越えてきたアイデアに対し、他の要素技術や既存の技術、あらたなアイデア(それ自体、別の魔の川を越える必要があるかもしれません)などを組み合わせて「製品」と言えるものに形作る必要があるでしょう。そうするとこの段階で必要なのは、

・組み合わせること

・改良すること

・少なくともプロトタイプの段階まで形にすること

・試作品の問題点を予知すること

・場合によってはあきらめる、やりなおす決断をすること(研究のリスクを低減するため)

ということになると思われます。もちろん科学的知識と能力は重要ですが、深い知識に加えて広い知識、こだわることと妥協することのバランス、製作技術(製品を作る技術)、製品の社会への影響を予測する能力、そして決断する力が求められるように思います。

「ダーウィンの海」では市場による淘汰が重要な因子になります。従って、ここで必要なことは競争に勝つことと言えるでしょう。

・類似製品に比べた優位性、消費者に対する魅力を獲得すること

・既存製品にとってかわること

・競争の少ない世界に進出すること

・競争のない世界、収益性の高いシステムを構築すること

が必要になると考えられます。要するにここでは、技術以外の部門をも結集する能力、ビジネスモデルを構築する能力、社会(消費者)の反応を正しくつかむ能力が重要になると考えられます。もちろんこの段階でも改良、決断の能力は重要ですが、技術以外の面まで判断の領域を広げる必要がある点が重要と思われます。

このように考えると、大雑把には、「魔の川」には科学技術力が、「死の谷」にはものづくり力、組み合わせ力が、「ダーウィンの海」にはビジネスモデルが大きな影響を与えると考えられると思います。もちろん、それぞれの段階でもアイデア→確認→実用化という小さなプロセスがあり、研究のフェーズも行ったり来たりしますので、上記の要因だけ、ということはないはずですが、ごく単純化すれば以上のような考え方になるのではないかと思います。少なくとも、例えば、いくら科学技術力に自信があるからといって、ダーウィンの海を越えるのに科学力だけに頼るわけにはいかないだろうこと、同様にものづくり力だけですべての障害をクリアできると思うことには危険が伴うように思います。さらに、オープンイノベーションによって、社外の能力を有効活用しようと思えば、どの障害を越えるためにどのような能力を持つ社外の資源を活用すればよいかの指針も得ることができるのではないか、とも思います。

今回の考察は私自身の考えの整理が若干不十分なまま書かせていただきました。研究のフェーズによってマネジメントすべき能力がどう変わるかについて考えることがありましたので、それを整理しておきたいという気持ちもあり、あえて書き残させていただいたものです。今後、さらに追加することや、考えが変わってしまうこともあるかもしれませんが、現在進行形の思いつきとして読んでいただければ幸いです。


参考リンク<2012.8.5追加>

1年後のTime誌「2010年のベスト50発明」

今年もTime誌の2011年ベスト50発明(2011.11.28号)が発表されました。その内容も興味のあるところですが、詳細に紹介して下さっている方がいらっしゃいますので[文献1]、ここでは少し視点を変えて、去年のベスト50発明が今どうなっているかを調べてみました。

調べたといっても、Googleの検索で何か新しい展開があったかどうかを確認してみただけですので、細かい点で漏れや抜けがあるのはご勘弁いただかざるを得ないですが、発明というものはどうやって育って、あるいは消えていくのかについてのヒントが得られるかもしれない、と思って試みてみました。結果としては、去年から情報が増えていないもの、ビジネスとして立ち上げる努力がされているもの、軌道にのっているように見えるものなどいろいろでした。以下に各発明についての調査結果を列挙しますが、Time誌記載順ではなく、その発明が現時点でどの段階にあるか(独断ですが)に基づいて区分してみます(No.は去年のTime誌記載の順位です)。なお、ここで「新情報なし」とは、Time誌の記事以降、目立った記事がないもの、その他のコメントを入れているものは、2011年に何らかの活動の情報があったものです。

アイデア・基礎研究段階の発明(技術未完成または市場性不明確)

No.1NeoNurture Incubator(古い車の部品を使って作った新生児保育器):新情報なし。

No.3First Synthetic Cell(初の人工合成細胞):新情報なし。

No.12Lab-Grown Lungs(実験室でラットの肺を幹細胞から再生):肺のラットへの移植を行ない、機能したものの血栓や出血の問題が発生。

No.13The Deceitful Robot(状況に応じて嘘がつけるロボット):新情報なし。

No.14Sarcasm Detection(皮肉を読み取れるソフトウェア):新情報なし。

No.15BioCouture(バクテリアがつくるセルロース繊維生地):研究継続中。Webサイトあり。

No.18The Straddling Bus(道路を走る車を跨いで走る立体バス):新情報なし。

No.373-D Bioprinter3Dプリンターで細胞を組み立てて臓器を作る):開発中。Webページあり。

No.40-41Body Powered Devices (身体の動きからのエネルギー回収):ピエゾ素子によるエネルギー回収技術開発中。Webページあり。

No.42Body Powered Devices (地下鉄からのエネルギー回収):新情報なし。

No.45The Malaria-Proof Mosquito(遺伝子操作で生み出したマラリアを媒介しない蚊):新情報なし。No.46The Mosquito Laser(蚊を選択的に攻撃するレーザー):新情報なし。

基礎技術は確立され、製品化・実用化を目指す段階の発明(少なくとも使える試作品があり、用途も想像できるもの)

No.2The (Almost) Waterless Washing Machine(ほとんど水を使わない洗濯機-ナイロンビーズで洗濯):開発継続中(実用化トライアル)。

No.4The X-51A WaveRider(超音速軍用機):開発中、2011.6月の試験は失敗。

No.7Lifeguard Robot(水難救助ロボット):新情報なし。

No.9The English-Teaching Robot(ロボット英語教師):新情報なし。

No.16Faster-Growing Salmon(遺伝子工学によって生まれた成長速度2倍の鮭):研究継続中。Webページあり。

No.17Road-Embedded Rechargers(道路に埋め込まれ、電磁誘導で電気自動車に給電するシステム):実用化試験中。

No.19Edison2(超軽量自動車):開発継続中。Webページあり。

No.20Antro Electric Car(軽量小型電気自動車、太陽電池、人力チャージつき):開発継続中。Webページあり。

No.24Amtrak’s Beef-Powered Train(列車燃料として牛脂からとったバイオディーゼル油を利用):1年間の実使用試験成功。

No.28Super Super Soaker(水の噴流で爆弾を処理する装置):新情報なし

No.29Martin Jetpack(一人用の飛行装置):高度5000ft(約1500mまでの飛行試験成功、開発中。

No.31Google’s Driverless Car(無人運転自動車):開発中。

No.32Deep Green Underwater Kite(水中に設置し海流で発電する凧のような装置):開発中。Webページあり。

No.36STS-111 Instant Infrastructure(無人飛行船):Argus Oneと改名、開発中。

No.38Spray-On Fabric(スプレーで布地、衣服を作る):開発中。Webページあり。

No.39Iron Man Suit(人のパワーを増強するロボットスーツ):新情報なし。

No.43Less Dangerous Explosives(安定性の高い爆発物-軍事目的):新情報なし、メーカーwebページあり。

No.44Terrafugia Transition(空飛ぶ自動車):米国政府が発売承認、2012年発売か?

No.47Power Aware Cord(電流が多く流れるほど明るく光るコード):新情報なし。Webページあり。

製品化・実用化済みの発明

No.5Responsible Homeowner Reward Program(住宅ローン返済を滞らせなければ返済額を割り引くシステム):実施継続中。Webページあり。

No.6Sony Alpha A55 Camera(半透過ミラーを使ったカメラ):販売中、上位機種α65、α77も発表。

No.10Square(スマートフォンでクレジットカード決済ができるアタッチメント):使われ始めている模様。

No.11Bloom Box(燃料電池):いくつかの企業に導入されているようです。

No.21Electric-Car Charging Stations(電気自動車充電設備):Timeで取り上げられたのはCoulomb Technology社ですがそれ以外にも多数あり。

No.22Sugru(接着性加工性耐久性に優れた粘土):市販されています。Webページあり。

No.25eLegs Exoskeleton(身障者用の歩行補助装置):実用化済み。Webページあり。

No.26Woolfiller(セーターの虫食い穴を補修する材料):実用化済み。Webページあり。

No.30Better 3-D Glasses(3D眼鏡改良版):市販中。

No.33Looxcie(耳につけるビデオカメラ):市販中、改良品もあり。

No.34iPad(有名なので説明省略!):販売中。

No.35Flipboard(情報を整理して見せてくれるiPadアプリ):iPhone版も発表。好評らしいです。

No.48X-Flex Blast Protection(爆風を防げる壁紙):販売中。Webページあり。

No.49EyeWriter(目の動きで文字入力ができる装置):実用化済み。ロボット操縦ができる改良品もあり。Webページあり。

No.50Kickstarter(ネットで資金調達できる仕組み):稼働中。Webページあり。

製品化前提でない発明

No.8The Plastic-Fur Coat(値札止め用のプラスチックピンを多量に刺したコート)

No.23The Plastic-Bottle BoatPETボトル船で太平洋横断)

No.27The Seed Cathedral(上海万博での英国パビリオン、種の入った樹脂ファイバーで飾られている)

1年という期間は研究開発の成果を論ずるには短すぎる期間と言えるでしょう。しかし、このように研究のフェーズに分けてみると、1年でどのような動きがあったかの傾向が見えるように思います。まず、アイデア・基礎研究段階の発明については、「新情報なし」のものが多い傾向にあります。もちろんこの中には、研究開発継続中で、単に新たな成果が得られるのに時間がかかっているものや、実用化を想定して結果を伏せているものもあると思われます。しかし、いくつかは研究が壁にぶつかったり、すでに開発を中止しているものもあるでしょう。この段階の発明は、不確実性が高く、短期間での評価も難しいことが言えると思います。次のフェーズ、すなわち製品化・実用化を目指す段階の発明については、「新情報なし」が1/3程度に減ります。このうち、軍事目的の3件については、意図的に発表されていない可能性もあるかもしれません。この段階の発明でも消えてしまったものもあるでしょうが、多くは開発をがんばって続けている印象です。次の製品化・実用化済みの発明については、すべてに新情報がありました。この段階の発明が消えてしまうとすれば、一旦市場に出た後、市場に受け入れられない場合、ということになるでしょうから、その結果が明らかになるためには1年という期間は短すぎると言えるでしょう。ただし、評判が高く、大きく伸びているものと、あまり発展していないものの差が出始めている印象は受けました。

研究開発の前に立ちはだかる壁については、以下のように言われることがあります(厳密な用語ではありませんが、私は次のように理解しています)。

魔の川:アイデア・基礎研究から実用化を目指した研究までの間の壁

死の谷:実用化研究から製品化までの間の壁

ダーウィンの海:製品が市場による淘汰を受けて生き残る際の壁

この考え方を1年後のTime誌ベスト50発明にあてはめると、いずれの壁も1年で越えられるものではなく、ドロップアウトの確率は、魔の川ではかなり高いということが言えそうな気がします。死の谷、ダーウィンの海でのドロップアウトの確率は魔の川よりは低いようですが、これは、単にあきらめる判断が1年ではできない、ということかもしれません。もちろん、Time誌のベスト50の選定自体、サンプルとして定量的な議論に耐えうるものではありませんが、研究におけるタイムスケールと不確実性のイメージを与える材料にはなりうるような気がします。5年後ぐらいに再調査したらどうなっているか、多少興味のあるところです。



文献1hiranoxxさんのブログ記事、「TIME誌が選んだ今年の発明品ベスト50 @2011」(その1~4)

http://ameblo.jp/hiranoxx/entry-11089069670.html

http://ameblo.jp/hiranoxx/entry-11089307539.html

http://ameblo.jp/hiranoxx/entry-11090865878.html

http://ameblo.jp/hiranoxx/entry-11090890548.html

参考リンク


 

記事検索
最新記事
プロフィール

元研究者

QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ