研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

実験

小さなイノベーション(DHBR誌2015年6月号特集より)

研究開発を成功させたいなら、失敗を避けなければなりません。ですが、不確実性がつきものの研究開発では、思い通りにならないことが多々発生します。思い通りにならないことを「失敗」と呼ぶなら、失敗を避けることはほぼ不可能といってよいでしょう。とすると、失敗を避けようとするよりも、失敗による痛手をなるべく小さくし、失敗をも活用するという進め方が、研究開発の成功確率を上げるうえで重要になるはずだ、という主張が最近では多くなってきているように思います。

今回取り上げるダイヤモンドハーバードビジネスレビュー誌2015年6月号の特集「小さなイノベーション――より速く、より安く、より巧く」では、そうした流れに基づいた最近の考え方がいくつか取り上げられています。イノベーションをうまく進める上で参考になる点も多いと思いましたので、それぞれの記事で興味深く感じた点を以下にまとめます。

「ビジネスの仮説を高速で検証する」(ステファン・トムク、ジム・マンジィ著)[文献1]
原題:The Discipline of Business Experimentation
・「多くの企業は・・・実験を経ずに新しいビジネスモデルやコンセプトを本格展開する。・・・リスクを伴う改革や費用のかかる提案を、厳格にテストする企業がなぜもっと現れないのか。それはほとんどの企業が適切な実験に資金を出したがらず、実験するのも相当難しいからである。実験のプロセスは簡単そうに思えても、さまざまな組織的・技術的な課題のせいで、実行するのは驚くほど難しい。・・・ビジネス実験を費用や手間をかける価値があるものにするために、企業が自問すべき重要な問いがいくつかある。」
・実験の目的は明確か:「実験が必要かどうかを決めるにあたっては、まず何を知りたいかをはっきりさせなければならない。・・・仮説が曖昧であると・・・、具体的な独立変数が示されず、具体的な従属変数を検証できない。したがって仮説を肯定も否定もしづらくなる。」
・関係者は実験結果を受け入れることを約束したか:「おそらく最も重要なのは、データの裏づけが得られなかった場合のプロジェクトの断念を覚悟しておくことだ。・・・たとえば経営陣の仮説や直観と食い違うテスト結果が出たとしても、それが無視されないような仕組みをつくる必要がある。」
・実験は実行可能か:「事業環境の『因果密度』――すなわち変数とそれらの相互作用の複雑さ――によって、因果関係の判断がきわめて困難になることがある。・・・因果密度が高い環境下では、・・・大規模なサンプルを使えるかどうかを検討しなければならない。・・・必要なサンプルサイズは主に、期待される効果の大きさで決まる。原因・・・が大きな効果・・・を及ぼすことが期待される場合は、サンプルサイズは小さくてもかまわない。」
・結果の信頼性をどう担保するか:「結果の信頼性を高めるためには3つの方法がある。」「無作為化の役割は重要だ。・・・テスト要因以外の潜在的原因(未知のものかもしれない)を、実験群と対照群とに等しく分散させる。」「被験者は自分が実験に参加していることを知っていると、意識的または無意識的に行動を変える傾向があり、これはホーソン効果と呼ばれている。ブラインドテストはこのホーソン効果を防ぐのに役立つ。」「企業は厳格なテストの手順を踏めない場合でも、アナリストを活用して、特定のバイアスや無作為化の失敗といった実験上の不備を特定し修正できる。・・・ビッグデータをはじめ、『機械学習』などの高度なコンピュータ技術が役に立つ。」
・実験から最大の価値を引き出せたか:「問うべきは『何が有効か』ではなく、『何がどこで有効か』である。」「大切なのはROI(投資利益率)が魅力的な部分だけを実行することだ。」「ビジネス実験では、相関性に留まらず、因果関係を調べることもできる。・・・因果関係を十分に理解しなければ、企業は大きな誤りを犯しやすくなる。」
感想:実験と、実験から学ぶことの重要性が指摘されることは多いですが、実際にどう実験を進めたらよいかはそれほど明確に示されていないように思います。正しい実験を実施し、結果を正しく解釈し、正しく学ぶ上で、研究部門の果たす役割は大きいのではないかと思いますが、それとともにその成果を正しく活用することも重要でしょう。

「プロセスを変えればイノベーションは生まれる」(ネイサン・ファー、ジェフリー・H・ダイアー著)[文献2]
原題:Leading Your Team into the Unknown
・イノベーションの包括的なアプローチ:知見の獲得(解決すべき問題についての知見を引き出す)、重要な問題の特定(解決の機会を追求する価値があると思われる問題を見極める)、ソリューションの開発(最初から完成形を目指すのではなく、複数のソリューションの簡素なプロトタイプを手早く作成する)、ビジネスモデルの策定
・「このプロセス・・・は、効果的な企業経営プロセスと同様に、規律、忍耐、そして献身的で有能なリーダーシップを必要とする。・・・この種のリーダーシップは特殊なものであり、そこで必要とされるスキルや戦術を習得しているリーダーはまだ少ない。本稿ではそうした必須スキルについて解説するとともに、それらに特有の課題に対する洞察を提供する。」
・ビジョンを語るな 大胆な課題を設定せよ:「イノベーションとは、本質的に発見のプロセスである。そこでのリーダーの役割はメンバーに方向性を示すことであり、初めから結論を決めつけて最短距離を進ませることではない。イノベーションを推進したいからといって第二のジョブズになる必要はないし、未来を予言する必要もない。リーダーに求められるのは、イノベーションのプロセスを実行できる心的空間をつくり出すことである。」「まず、イノベーションで限界を押し広げることに対して期待感を持たせる。」つづいて「不確実性を受容し、管理する意欲を示すことである。たいていの人は不確実性によってキャリアに傷がつくことを恐れている。・・・不確実な状態は正常であり、不安があっても問題ないというメッセージを発信するとよい。同じくらい重要なのが、不確実性にある程度の限度を設定し、リスクを制限する姿勢を明らかにすることである。・・・ここで威力を発揮する簡単な戦術が二つある。一つ目は『タイムボックスの設置』、すなわち、イノベーションプロジェクトにまつわる基本的な不確実性を解消するために、一定の期間(通常は2~3カ月)をチームに与えることだ。二つめの『決定ポイントの管理』はやや複雑だ。実験したところ期待した結果が得られず、タイムリミットも近い場合にリーダーが果たすべき役割は、結果の率直な評価を支援し、必要に応じて方針を変え、時にはプロジェクトを打ち切って精神的・物理的なリソースを他のアプローチに振り向けることである。」「企業には、中核となる戦略を明確に伝え、旗艦商品の守護者となり、重要顧客に抜かりなくサービスを提供し続けられるリーダーが不可欠だ。しかしこれらは、イノベーションを率いるリーダーの仕事ではない。イノベーションを率いるならば、新しいものや従来とは違うものを擁護し、特異な状況(異常値、不満を抱えた顧客、例外など)に注目し、言葉よりも行動で大きな挑戦課題を設定し、コアビジネスの前提に果敢に疑問を投げかけ、標準からかけ離れた事柄に挑戦する意志を見せなければならない。」
・意思決定をするな 実験を企画せよ:「イノベーターの手法とは、難しい決断に役立つツールを通じて、イノベーションを市場に出す時のリスクを軽減するものだ。つまり、顧客の協力を得ながら重要な前提を系統立てて検証するプロセスである。このプロセスはリーダーシップのあり方にも大きく影響する。主要な意思決定者から主要な実験者へと、リーダーの役割を変化させる必要があるからだ。・・・イノベーションのリーダーに求められるのは、『そうかもしれない。それを確かめる実験をしよう』ということを巧みに伝える能力である。」
・発掘したアイデアを組織の言語に落とし込む:「斬新で不確実な製品の開発には、実績のある製品の開発に適した手法とは異なるアプローチが必要であることを認識しておくことが有効だ。・・・イノベーションリーダーは、・・・イノベーションの言葉を組織の言葉とマッチングさせることで、各部門から有志の要員を提供してもらうまではいかなくとも、拒絶反応を大いに和らげることはできる。」「我々の調査の結果、イノベーションに対する情熱を持つ人は多いということがわかっている。・・・彼らのポテンシャルを生かして深い専門知識を構築するには、イノベーションのプロセスをしっかりと植えつける必要がある。」
・アイデアを最速で市場に出すチームマネジメント:「イノベーションを実現するには、それに専念する一定の期間が必要である。・・・イノベーションリーダーは時間を割り当てるだけではなく、組織的なバリアを取り除いたり、リソースやツールを提供したりして、チームのイノベーションを加速させる必要がある。組織はリスクを察知すると往々にして、それに対抗するバリアを張ろうとする。したがって、障壁の除去はリスクの低減と深く関わっている。」
・「イノベーション競争で持続的優位の源泉となるのは、個々の卓越した発明ではなく、卓越したリーダーである。失敗から効率的かつ確実に教訓を得て、どこよりも早く次に進めるような組織をつくり上げるリーダーの力量ことが、物を言うのである」。
感想:この論文のポイントは、イノベーションのリーダーに求められる役割やスキルと、通常の組織におけるリーダーシップとの違いについて言及しているところだと思います。こうした観点も実務家にとっては役立つでしょう。

インタビュー「無印良品の『引き算のイノベーション』」(金井政明)[文献3]
・無印良品における商品開発の考え方が語られています。クリエイティブ、イノベーティブ、人間の論理といったことを考える上で興味深い考え方だと感じました。

「イノベーション体制をたった90日で構築する」(スコット・D・アンソニー、デイビッド・S・ダンカン、ポンタス・M・A・サイレン著)[文献4]
原題:Build an Innovation Engine in 90 Days
・「我々はこの10年間、世界各地の組織の革新性向上を支援してきた。そしてその経験から、場当たり的なイノベーションとも、綿密な計画に従って大規模なイノベーション向上を設ける方法とも異なる、いわば折衷案のような第3の道があると気づいた。必要最低限の実用的なイノベーション体制(MVIS:

Minimum Viable Innovation System)を設ける方法である。・・・MVISとは、戦略重視の信頼できるイノベーション機能を築くうえで不可欠な土台を意味する。・・・早期に成果を上げてイノベーション能力への信頼を得たなら、さらなる飛躍への基礎になるだろう。」
・第1日-第30日、推進すべきイノベーションの種類を決める:「戦略的な観点からは、あらゆるイノベーションは2つの種類のいずれかに当てはまる。一つは、製品の拡充や業務改善による、既存事業を基盤としたイノベーション。もう一つは、新規の顧客セグメントや市場に進出して次なる成長を実現しようとするもので、往々にして新しいビジネスモデルを拠り所とする。・・・我々は本稿の趣旨に沿って、『基幹事業型イノベーション』『新規成長型イノベーション』という呼称を用いたい。」「成長目標と現状との乖離が大きければ大きいほど、基幹事業からかけ離れた新規事業が必要となり、そこから多額の収益が上がるまでの期間は長くなるだろう。」
・第20日-第50日、少数の戦略的分野に照準を合わせる:「少なくとも10程度の顧客に会い、 新規成長型イノベーションの土台となりそうな未開拓のニーズを探り、業界内外の最新動向を調べるのである。あわせて、社内で持ち上がっている新規成長案件についても詳しく調べておこう。・・・次の段階として、・・・以下の尺度をもとに戦略的分野を3つ見つけ出す」。「多数の潜在顧客が必要としているにもかかわらず、どの企業もうまく対応できていない業務。その業務をこれまでよりはるかに簡単に、安く、便利にこなすためのテクノロジー。あるいはその業務の必要性を格段に高めるような経済、規制、社会の変化。その事業機会をつかみ取るための模倣困難な優位性を生み出す、自社が有する特別な強み。」
・第20日-第70日、少数精鋭のイノベーション専担チームを設ける:「必要最低限の実用的なイノベーション体制といえども、イノベーションの専任者が少なくとも一人(一般には二人以上)は必要である」。「ゾンビ・プロジェクトの一斉廃止を・・・一度行っただけでも、イノベーション・チームを指導させるのに十分な経営資源が確保できるだろう。」
・第45日-第90日、プロジェクトを指導する仕組みを築く:「まずはシニアリーダーたちを集めてチームをつくり、彼らに新規成長型イノベーション・プロジェクトの始動、中止、方向転換に関する裁量を与える」
・MVISの規模拡大:「MVISの仕組みのうち順調に機能しているものを、正式な仕組みとして定着させる」。「成功した場合の報奨よりも、失敗への対処のほうが重要である。失敗を隠したり恐れたりすると、ゾンビ・プロジェクトの放置を招き、イノベーションのための経営資源がそこに縛りつけられたままになってしまう。」
感想:著者も書いているとおりMVISは、リーンスタートアップの考え方におけるMVP(Minimum Viable Product)に倣ったものです。いわばイノベーション体制のプロトタイプという位置づけでしょう。こうしたプロトタイプ体制を素早く作り、その成果から学ぶことが重要ということだと思いますが、著者が指摘している個々の注意点は、プロジェクト運営のノウハウとしても役立つように感じました。

「オープン・イノベーションという新たな武器」(星野竜也著)[文献5]
・「チェスブロウ氏は、オープン・イノベーションを『企業内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造する』と定義した。この表現はさまざまな解釈がなされ、一部で混乱や誤解を招いているため、筆者はこれを次のように定義する。『モノづくり企業が、自社のみでは解決できないR&D上の課題に対して、既存のネットワークを超えて最適な解決策を探し出し、R&Dをスピードアップすること』。あくまでも主体はモノづくり企業(メーカー)であり、ゴールはR&Dのスピードアップにある。」
・「オープン・イノベーションという武器は、正しい使い方を習得することで初めて威力を発揮する・・・。オープン・イノベーションには、グローバルに認知されたフレームワークがある。1、Want、2、Find、3、Get、4、Manageという4つのステップで語られる。・・・Wantとは、外部に求める技術を明確化することである。Findは、探索する技術を確定したうえで、それをどのように探し出すのかを考える・・・Getでは、探し出した技術をどのように評価し、相手と交渉して、協業に結びつけるかを考える。・・・Manageとは、それを自分たちのものとして、いかに結果に結び付けるかという視点である。」
・「オープン・イノベーションの世界では、『相手から選ばれる企業になる』(Partner of choice)という言葉がよく使われる。・・・相手から見て『一緒に働きたい』と思われる企業にならなければいけないのである。・・・では、選ばれる企業となるためには何が必要なのか。日本企業が特に注意すべきポイントは3つある。それは1、意思決定のスピード、2、コミュニケーション方法、3、予算に対する考え方、である。」「たとえば、技術を提案してくれた研究者に対するフィードバックは、4週間以内に行うことが常識である。特に不採用の時ほど気を遣うべきだ。・・・礼儀正しく不採用の理由を説明するのは最低限のマナーである。」「海外組織との協業を前提にパートナーを探す時は、年間約1000万円規模の出費が前提になる。国内大学と協業する際の相場観とは大きな開きがあるが、人件費をコストと見なさない日本のやり方が世界標準ではないにすぎない。」
・「オープン・イノベーションの仕組みが実際に使われ始めてから、まだ十数年である。・・・どこの企業もトライ・アンド・エラーを繰り返している段階のため、確立された方法論は存在しない。実践しながら自分たちの使い方を習得していくものなのだ。」
感想:オープン・イノベーションについてはその難しさを指摘する意見もありますが、どういう時にどういうやり方が有効なのか、そのノウハウが蓄積されつつあるように思います。著者が述べているように、モノづくり企業のR&Dのスピードアップに有効ということであれば、そういう視点でやり方を考えてみるのもひとつのアプローチかもしれません。
―――

本特集の論文はいずれも、論文ひとつだけでイノベーションが急にうまくできるようになる、というようなものではないと思いますが、イノベーションや研究開発の実行の段階におけるノウハウが随分明らかになってきている気がします。個々の状況に合わせて、こうしたノウハウをうまく使っていけば、研究開発の成功確率を高められるのではないか、と思いますがいかがでしょうか。


文献1:Stefan Thomke, Jim Manzi、ステファン・トムク、ジム・マンジィ著、編集部訳、「ビジネスの仮説を高速で検証する 消費者ビジネスのイノベーションに不可欠」、Diamond Harvard Business Review, June 2015, p.30(原著:HBR Dec. 2014
文献2:Nathan Furr, Jeffrey H. Dyer、ネイサン・ファー、ジェフリー・H・ダイアー著、辻仁子訳、「プロセスを変えればイノベーションは生まれる チームを未知の領域に導くリーダーの役割」、Diamond Harvard Business Review, June 2015, p.44(原著:HBR Dec. 2014
文献3:金井政明(聞き手、編集部)「無印良品の『引き算のイノベーション』 コンセプトの追求あるのみ」、Diamond Harvard Business Review, June 2015, p.58
文献4:Scott D. Anthony, David S. Duncan, Pontus M. A. Siren、スコット・D・アンソニー、デイビッド・S・ダンカン、ポンタス・M・A・サイレン著、有賀裕子訳、「イノベーション体制をたった90日で構築する いま求められるのは、地に足のついた実行体制」Diamond Harvard Business Review, June 2015, p.68
文献5、星野竜也、「オープン・イノベーションという新たな武器 製造業復活を賭けて自前主義を脱却せよ」、Diamond Harvard Business Review, June 2015, p.84

参考リンク



「バリュー・プロポジション・デザイン」(オスターワルダー、ピニュール他著)より

よいビジネスモデルを構築するための具体的方法論の例として、以前にオスターワルダー、ピニュール著、「ビジネスモデル・ジェネレーション」をご紹介しました。そこに述べられた、ビジネスモデルを視覚的に記述、評価、変革するための枠組みであるビジネスモデルキャンバス(Business Model Canvas)は、その後、その有用性が広く認識されるようになってきたように思います。今回は、同書の続編とも言える、オスターワルダー、ピニュール、バーナーダ、スミス著、「バリュー・プロポジション・デザイン」[文献1]を取り上げます。

本書では、ビジネスモデルキャンバスを基礎としつつ、「顧客が欲しがる製品やサービスを創る」方法論やツールが解説されています。最近注目されているデザイン思考、リーンスタートアップ、顧客開発などの手法も取り入れられ、より具体的かつ実効性の高い方法が提案され、実務家にとっても使いやすくまとめられているように感じました。以下、特に興味深く感じた点を中心に内容をまとめておきたいと思います。

INTRO
・「バリュー・プロポジション・デザイン」の核心は、顧客の求める価値提案の面倒な探索に「ツール」を取り入れ、探索後にも価値提案と顧客の求めることとの方向性を一致させることです。[p.XV]」
・バリュー・プロポジション・デザインの役立つ点:「価値創造のパターンを理解する」→「はっきりとした見通し」が持てる。「仲間の経験とスキルを活用する」→「チームの方向性を一致」させられる。「うまくいかないアイデアに時間を浪費しない」→「失敗のリスクを出来る限り減ら」せる。[p.X-XI
・「この本の核になるツールがバリュー・プロポジションキャンバスです。価値提案を見える形にし、議論と管理を助けるのが、このツールです。バリュー・プロポジションキャンバスは、ビジネスモデルキャンバスの構築ブロックのうちの2つの要素をくわしく描いたものです。[p.XVI]」
・ビジネスモデル・ジェネレーションの議論との関係:「環境マップは、価値創造におけるコンテクスト(文脈)を理解することを助けます。ビジネスモデルキャンバスは、事業の価値創造を助けます。バリュー・プロポジションキャンバスは顧客の価値創造を助けます。[p.XVII]」

1、Canvas
・「価値創造キャンバスには2つの面があります。顧客プロフィールはお客様をよりはっきりと理解するためのもの。バリューマップは顧客のためにどう価値を創造するかを描くものです。その2つが重なり合うところにフィットが生まれます。[p.3]」
・顧客プロフィール(Customer Profile):「ビジネスモデルにおける特定の顧客セグメントを、より整理された形で詳しく描いたもの」。顧客の仕事(顧客が成し遂げたいこと)、ペイン(顧客の仕事に関係する悪い結果、リスク、障害)、ゲイン(顧客が求める具体的な恩恵)からなる。[p.9
顧客の仕事:機能的な仕事(顧客が果たそうとしている具体的な任務または解決したい特定の問題)、社会的な仕事(顧客がそれをすることで周囲からよく見られたり、権力やステータスを得られるようなこと)、個人的/感情的な仕事(顧客の気分が上向いたり安心したりするようなこと)、サポート的な仕事[p.12
顧客のペイン:機能不十分、感情を害する、気に入らない、妨げ遅らせる、リスク[p.14
顧客のゲイン:必要不可欠なもの、当たり前と期待されるもの、もしあればありがたいもの、顧客の期待や要望を超える予想外のもの[p.16
・バリュー(提案)マップ(Value Map):「ビジネスモデルの中の特定の価値提案を、より整理された形で細かく描いたもの」。価値提案を基に作られる製品とサービス、ペインリリーバー(顧客の悩みを取り除くもの)、ゲインクリエーター(顧客に恩恵をもたらすもの)からなる。[p.8
・「パリュー・プロポジション(価値提案)が顧客の大切な仕事に役立ち、深刻な悩みを和らげ、必要な恩恵を与えてくれることで顧客が喜べば、価値提案が顧客に『フィット』したことになります。・・・価値提案のデザインにおいて、フィットを探し続けることが欠かせません[p.42]」
・3種類のフィット:「フィットは3つの段階を経て起こります。まず最初は、あなたの価値提案によって解決できる顧客の仕事、ペイン、ゲインを見つける段階。次に、顧客があなたの価値提案に前向きに反応し、それが市場で人気を集める段階。そして最後に、規模と利益が拡大できるようなビジネスモデルを見つける段階です。[p.48]」
・「組織と顧客は異なる関係者から成り立っていて、それぞれが異なる仕事とペインとゲインを抱えています。それぞれにあてたバリュー・プロポジションキャンバスを作りましょう。[p.50]」例えば、影響者、推奨者、購買者、決定者、エンドユーザー、妨害者、仲介者など。

2、Design
・「出発点をもとにして、簡単なプロトタイプを作り、バリュー・プロポジション・デザインの第一歩を踏み出しましょう。顧客を理解してバリュー・プロポジション(価値提案)を形作り、その中からさらに開発を続けるものを選び、適切なビジネスモデルをみつけましょう。[p.67
・プロトタイピング:「手早く、お金をかけずに、粗い実験模型を作り、さまざまな価値提案とビジネスモデルの人気、実現可能性、実用性を探ること。[p.76]」
・出発点:「一般的な通念とは違い、優れたバリュー・プロポジション(価値提案)が顧客から始めるとは限りません。ですが、その終わりはかならず、顧客にとって重要な仕事、ペイン、ゲインに行きつかなければなりません。[p.88]」「『プッシュか、プルか』は、よく議論されるトピックです。プッシュとは、いまある技術やイノベーションから価値提案のデザインを考える手法で、プルとは、顧客の仕事、ペイン、ゲインを起点にする手法です。この2つの手法は出発点として一般的[p.94]」
顧客プロフィールからイノベーションを生み出す6つの方法:より包括的な仕事に対応する、従来の価値提案では対応できない仕事を助ける、社会的な仕事や感情的な仕事に対応する、より多くの顧客の複雑すぎる仕事、高価すぎる仕事を達成する、小さな改善により段階的に改善する、古い手法を劇的に上回る[p.102-103
・顧客を理解する:「顧客の視点を理解することは、優れたバリュー・プロポジション(価値提案)のデザインに欠かせません。[p.106
顧客インサイトを手に入れる6つのテクニック:データ探偵(既存の調査を分析)、ジャーナリスト(顧客と話す、ただし顧客が取材のとおりに行動するとは限らない)、人類学者(観察)、モノマネ(自分が顧客になりきる)、共創パートナー(顧客と共にアイデアを探る)、科学者(顧客に実験に参加してもらう)[p.106-107
・選択する:顧客の意見のシミュレーション、コンテクスト(重要な技術や規制や社会などのトレンド)、産業における圧力、市場における圧力、マクロ経済の圧力」、他社との差別化、周囲からのフィードバックなどに基づいて価値提案、プロトタイプを選択する[p.122-141
・正しいビジネスモデルを見つける:「ズームアウトして全体像を捉え、特定の顧客の価値提案の周りに、利益を生み出しながら価値を作り、届け、取り込むことができるかどうかを分析する。ズームインして詳細を見ることで、ビジネスモデルの中の価値提案が本当に顧客に価値を生み出しているかどうかを調べます。[p.145]」この反復プロセスによって適切なビジネスモデルを見つける。
・確立された組織におけるバリュー・プロポジション・デザイン:「既存組織は既存のバリュー・プロポジション(価値提案)を改善すると同時に、積極的に新しい価値提案をつくり出さなければなりません。プロジェクトのはじめに、自分たちが、発明から改善までの線上のどこにいるかを確認しましょう。その位置によって、必要とされる姿勢とプロセスが変わります。[p.160

3、Test
・「何を検証するかを正しく判断し、改善された新しいバリュー・プロポジション(価値提案)のリスクと不確実性を減らしましょう。そして段階を踏んでテストを進め、『実験資料室』を活用し、それらすべてを持ち寄って、進捗を測りましょう。[p.176]」
・「新しいアイデアを探し始める時点では、たいてい先が全く見えません。自分のアイデアがうまくいくかどうか、わからないのです。ビジネスプランを立ててアイデアを磨いたからといって、成功の確率が高まるわけではありません。お金をかけずにテストを行い、そこから学ぶことでシステマチックに不確実性を減らしましょう。確実性が高まってから、実験やプロトタイプやパイロットにかける費用を増やしましょう。バリュー・プロポジションキャンバスとビジネスモデルキャンバスのすべての側面を、顧客からパートナー(流通パートナー)まで、すべての相手に検証しましょう。[p.178]」
・何を検証するか:顧客プロフィール、価値提案、ビジネスモデルキャンバスを検証する。「顧客プロフィール、初期調査、初期観察、インタビューで得た知識が正しいかどうかを確認します。[p.190]」「あなたの解決策を顧客が果たして気に入るか、どのくらい気に入るかを確かめましょう。あなたの製品とサービスが顧客の悩みを取り除き恩恵を生むかどうかのエビデンスが得られるような実験をデザインしましょう。[p.192]」「あなたのビジネスモデルが成功し、収入がコストを上回り、顧客のためだけではなく自社のためにも価値を創造するというエビデンスを見つけましょう。[p.194]」
・段階を踏んで検証する:仮説を引き出す(うまくいくにはどの仮説が正しくなければならないか)→仮説に優先順位を付ける(ビジネスを殺すことになりかねない要因をみつける)→検証をデザインする(検証する仮説、検証方法、計測、評価基準を明示)→検証に優先順位を付ける→検証を行なう(得たデータと結果、結論とインサイト、取るべき行動を明示)→学習を取り入れる→改善する[p.198-199
・実験資料室:顧客は言葉通りに行動するとは限らないこと、あなたがいる時といない時では、顧客の行動は違うことを念頭に置く。顧客への行動要請(CTACall to Action)を行なってエビデンスを得る、広告トラッキング、専用リンクのトラッキング、MPV(実用最小限の製品)カタログ、仮想サイト、スプリットテスト(A/Bテスト)、イノベーション・ゲーム(顧客と協力しながらプレーすることで、よりよい価値提案のデザインを助ける)、架空品の販売、先行販売、といった手法がある。[p.214-237
・すべてを持ち寄る:「活動とその結果を追跡し、目標への進捗を測りましょう。[p.242]」

4、Evolve
・「バリュー・プロポジションキャンバスとビジネスモデルキャンバスを共通言語として使うことで、組織の隅々まで全員が方向性を一致させ、常に進化を続けましょう。バリュー・プロポジション(価値提案)とビジネスモデルの計測とモニターを続け、たゆまぬ改善と継続的な自己再生に努めましょう。[p.257]」
・「バリュー・プロポジション(価値提案)が市場に出たら、バリュー・プロポジションキャンバスとビジネスモデルキャンバスを使って効果測定の指標を作り、モニターしましょう。ビジネスモデル、価値提案、顧客満足度の成果を追跡しましょう。[p.262]」
・「今日の企業は迅速に動けなければなりませんし、コロンビアビジネススクールのリタ・マグレイス教授が『競争優位の終焉』で紹介した、『一時的な競争優位』を育てることが必要です。企業は長期的な競争優位を探し求めるよりも、新しいビジネスチャンスに素早く対応し続ける能力を育てなければならない、とマグレイス教授は言っています。この本のツールとプロセスを使って、絶え間なく自己を再構築し、新しい価値提案を優れたビジネスモデルに組み入れましょう。[p.266]」、「自分に問いかけ続けましょう。変わり続ける環境要因は何ですか?」「あなたのビジネスモデルは時代遅れになっていませんか?[p.267]」「価値提案とビジネスモデルをたゆまず再構築し続けましょう。市場環境に強いられてやむをえず改革していては間に合いません。それでは遅すぎます。既存の価値提案とビジネスモデルを改善し続け、同時に新しい価値提案を開発できるような組織構造を作りましょう。[p.272]」
―――

イノベーションの進め方について書かれた近年の本や論文では、事前に十分に計画を検討してその計画の実行をうまく管理するというアプローチよりも、実験を重視してその実験結果から学んで計画を柔軟に手直ししていくというアプローチのほうが注目されているように思います。本書もその考え方に基づいて書かれた本ですが、具体的な手法がかなり洗練され、使いやすくなってきたという印象を持ちました。例えば、顧客を重視するという考え方にしても、顧客の「何を」重視するのか、それに対してどうアクションすべきか、といったポイントが絞り込まれていながら、手法の汎用性も確保されているように思われる点が興味深く感じました。もちろん、これ以外のアプローチもあり得るとは思いますが、少なくとも本書のアプローチは決して無視できるものではないと思います。

そうなると、既存企業においては、このアプローチを採用しやすい組織体制になっているかどうか、という点が気になります。従来の計画重視のアプローチに合わせて最適化された研究開発の仕組みを持った企業では、本書のような新しいビジネスモデルの創造は困難なのではないか、とも思えますので、研究組織の構造、運営管理のあり方も、今後問われるようになるかもしれません。

例えば、本書では、高度の技術を持つこと自体は顧客価値創造における最優先課題とは限らないように思えます。そうであれば、従来のような「専門性を極める」という研究者の一つの役割も見直す必要が出てくるかもしれません。単に顧客の抱える問題の技術面での解決者であればよいのか、技術シーズの提供者であればよいのか、それとも高度な専門性はやはり必要とされているのか。さらに、研究者と顧客との関わり方も従来とは大きく変わってくるのではないか、という気がします。おそらく、どのような技術者であれ、本書のようなアプローチにも柔軟に対応できる能力が求められるようになるのは間違いないと思いますが、イノベーションを起こせる技術者をどう育成するかという問題も含めて、技術者にとってはマネジメントの面でも示唆に富んだ本だと感じました。


文献1:Alex Osterwalder, Yves Pigneur, Greg Bernarda, Alan Smith、アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール、グレッグ・バーナーダ、アラン・スミス著、関美和訳、「バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品やサービスを創る」、翔泳社、2015.
原著表題:Value Proposition Design: How to create products and services customers want

参考リンク




「ザ・ファーストマイル」(アンソニー著)より

イノベーションはアイデアだけで成功できるものではありません。もちろんアイデアは必要ですが、そのアイデアをビジネスに育てる「イノベーション実行」の過程も重要であることは、本ブログでもたびたび取り上げてきました(例えば、ノート1ノート12「イノベーションを実行する」など、どちらかというと「実行」の方が重要であるというのが最近の考え方のように思われます)。今回は、その実行の方法論に焦点をあてた、アンソニー(イノサイト社のマネージング・パートナー)著、「ザ・ファーストマイル」[文献1]をとりあげて、その内容のポイントをまとめてみたいと思います。

第1章、ファーストマイルに潜む問題
・「『ファーストマイル』という言葉は、1990年代に電気通信業界で使われていた用語『ラストマイル』にヒントを得たものだ。[p.13]」
・「これまで私がイノベーターや起業家と接した経験から言えば、・・・イノベーションを起こすときに大切なのは、アイデアそのものではなく、アイデアをビジネスに結び付けるために試行錯誤を繰り返すことなのだ。・・・問題は、そのアイデアを市場で花咲かせるまでの過程のはじめの一歩、つまりファーストマイルで致命的な失敗を犯すことにある。・・・つまり、ファーストマイルは・・・真っ先に問題を解決しなければならない場所あるいは時期を指している。[p.12-13]」
・「本書では、何らかの価値、特に、従来とは異なる方法で価値を生み出すことを『イノベーション』と呼ぶ。・・・世の中にある大きな誤解の一つとして、イノベーションというものは、少数の選ばれた人間が起こすものだという認識がある。・・・しかし・・・限られた人間だけがイノベーションを起こせるのではない。誰にでも起こせるのだ。[p.9-10]」
・「過去数十年の研究によって、イノベーションに対する世界の考え方が変わりつつある。・・・これまでは暗闇のなかで手さぐりによって探していたものが、徐々に輪郭を現し、運まかせではないものになりつつある。[p.18]」
・「本書の想定読者は、新規事業開発に責任を持っている人や、この激動の時代に組織を前に進める力を身に付けたいと考えている人たちだ。さらに、不確かな環境において物事を判断しなければならない人・・・が対象になる。つまり、アイデアを持っていて、そのアイデアを実現させたいと考えている人たちが想定読者だ。・・・この先の道には多くの落とし穴や障害物が待ち受けている。イノサイトの活動を通じて、私たちは(痛い思いをして)それらを目の当たりにしてきた。これからそれを見ていこう。[p.23]」

第1部、ファーストマイルで使うツールキット
・「ファーストマイルで使うツールキットは、・・・4つのプロセスに沿って使われ、その目的は『戦略上の主要仮説』をコントロールすることだ。1)アイデアを書き下ろして、気づいていなかった前提を表面化させる(Document)。2)そのアイデアをいろいろな角度から評価する(Evaluate)。3)戦略に影響を与える不確実性に焦点を当てる(Focus)。4)テストを繰り返し、速やかに軌道修正をする(Test)。ファーストマイルでは紆余曲折が予想されるが、そのようなときには、この4つの頭文字DEFTで表わされるプロセスを適宜実行することにより、難局を乗り越えていかねばならない。[p.26]」
第2章、アイデアを書き下ろす
・ファーストマイルにおける3つの要件:1)市場/顧客が求めているものがはっきりと見えている(「需要はあるか?」という問いにイエスと答えられる)、2)その需要に応える方法が明確になっている(「提供できるか?」という問いにイエスと答えられる)、3)その方法は、価値を創り出すものである(「取り組むべきか?」という問いにイエスと答えられる)[p.28-29
・イノベーションに関する27の質問:ターゲット顧客について(顧客は誰か?、片づけるべき用事は?、何によってわかるのか?)、重要な利害関係者について(購入決定にかかわる者がほかにいるか?、彼らの『片づけるべき用事』は?、彼らが支持する理由は?)、アイデアについて(本質は何か?、問題がどう解決されるか?、他の方法と異なる点は?、こちらが優れている点は?、顧客の目にどう映り、顧客はどう感じるか?)、経済基盤(現実的想定売上は?、費用はいくらか?)、必要な社会基盤は?、必要な設備投資は?)、事業化の道筋(最初の足掛かり市場は?、どのようにして市場を拡大していくか?、最も懸念される競合商品をどのようにして打ち負かすか?また、競争相手がこちらの存在を気にしないようにするには、どうすればよいか?)、企業運営(重要な活動項目は何か?、誰が何を担当するか?、自分は何をするか?、どのようなパートナーが必要か?、獲得すべきものは何か?)、チーム(参加するのは誰か?、この仕事に適していると考えられる過去の実績は何か?)、資金調達(必要な資金はどれほどか?、利益計上までに必要な期間は?)[p.30-33
・「これらの質問の答えを書き下ろすことの意味は、今まで『自分が知っていると思っていた』ことを、『現実に知っている』状態に変換することにあるからだ。また、仮定した条件を明確に書き下ろしておくことは、将来その仮定に変更が生じたときに、計画の修正を忘れずに行なうようにする効果をもたらす。[p.33]」、「アイデアについてしっかりと書き下ろすこと・・・によって、重要な仮定が浮き彫りにされる。アイデアをいろいろな角度から見ることが大切。特に、市場拡大の可能性やアイデアが創り出す価値に着目すること。資料作成のために多くの時間を費やさないこと。途中でアイデアに修正が加えられるのはよくあることだ。[p.46]」
・アイデアを書き下ろすときの4つの注意事項:間違いその1、アイデアとビジネスを区別できていない、間違いその2、初めか終わりの一方だけに注力する(初めと終わりの両方のイメージが重要)、間違いその3、一部の関係者の視点だけで物事を見る、間違いその4、理解は得たが、共感を得ていない。[p.40-44

第3章、評価
・「評価の目的は、アイデアを前に進めるか否かの決断を下すことではなく、アイデアに潜んでいる仮説を明らかにすることである。[p.47]」、「この時点では、目標達成に腐心するよりも前提の妥当性を確認することがはるかに大切なのだ。[p.48]」
・まず、イノベーションによって達成したい目標(「何を」と「どのように」)を明らかにする[p.47-48]。
・評価のための3つの作業:(1)パターンに基づく定性分析を行ない、戦略上の主要仮説を明らかにする(過去に成功したイノベーションのパターンと比較しながら、不確実性を含むイノベーションの戦略を考える)。[p.51-53、付録A]、(2)財務分析を行ない、ビジネスモデルと企業運営上の不確実性を明らかにする(アイデアの「4つのP(顧客の数Population、価格Price、購入の頻度Purchase、開拓しなければならない市場の大きさPenetration)」を計算する、2変数の「感度分析」を行なう、逆損益計算書(想定される利益または収入からその前提を分析して理解する)を作る、シミュレーションする)[p.53-66]、(3)ロールプレイを行ない、アイデアの弱点を発見する。[p.66-67

第4章、フォーカス
・「ファーストマイルの時期を素早く通り過ぎるために大切なことは、戦略上の主要仮説を明らかにすることだ。[p.69]」
・仮説を優先順位づけするには、確信の度合い[p.72-80]と、その想定が間違っていた場合の影響の大きさ[p.80-84]で判断する。影響の大きさについては、事業を根底から覆しかねない仮説(ディールキラー)と、これから先に選択する戦略に影響を与える仮説(パス・ディペンデンシー)に注意が必要。
・「各種の学術研究によれば、人間は往々にして、将来起こりそうな出来事やリスクについて、正しく評価できないことが明らかになっている。・・・DEFTのプロセスを進めるときに忘れてならないのは、事実と仮説(ときには願望)を冷静に区別することだ。[p.72-73]」

第5章、テストし学び、軌道修正
・テストの計画と実行を成功裏に終わらせるための6つの重要項目:1、少人数のチームにする(俊敏に動ける、「必要十分(グッドイナフ)」な機能を目指す)、2、テストを慎重に計画する(実験を進める上での仮説(Hypothesis)、実験の目的(Objectives)、予測される実験結果(Predictions)、実験をどのように行なうか(Execution)をまとめたHOPE実験テンプレートが役に立つ)、3、市場から学ぶ姿勢、4、高い柔軟性(「テストが複雑になるほど、予期せぬ事態が発生する可能性が高くなる。・・・ファーストマイルの段階では、素早く軌道修正を行なう体制が不可欠だ」、低コストの外部リソース活用も有効)、5、予期せぬ結果を生かす(「実験の最終目的は何かを立証することではなく、市場から学ぶことである」、「異常値のなかには、ときとして興味深い事実が隠されている」、予期せぬ結果を生かすには、実験結果を部外者に評価してもらう(先入観を排除する)ことが有効、自分の主体的な意志で実験を行なっている場合には、予期せぬ事態が発生した場合に、その本質を理解する可能性が高い)、6、学んだ結果に基づいて行動する(「イノベーターが最初に考えていた計画と本来的に正しい計画の間には大きな隔たりがあることが、各種の研究によって明らかになっている」、行動の選択肢は、加速、慎重に継続、ピボット(方向転換)、中止)。[p.88-108

第6章、実験マニュアル
・不確実な領域における信頼性を、少ないリソースで効果的に高める働きをするツール(イノサイトの実験マニュアル)[p.113-145]:1、机上検討を行なう、2、思考実験を行なう(マクドナルドがシュリンプサラダをメニューに加えるかどうかを検討する際に、シュリンプの供給能力を調査した事例にちなんで名づけられた「シュリンプ・ストレステスト」など)、3、概算4Pモデルを作る、4、電話をかける(自分の専門分野であれば、人は積極的に話をしてくれることが多い)、5、購買状況のロールプレイを行なう、6、マクガイバー・プロトタイプを作る(手近なもので作ったプロトタイプ、TVドラマの題名にちなむ)、7、見込み顧客と話をする、8、逆損益計算書を作る、9、目的を限定した実証試験を行なう、10、詳しい財務モデルを作る、11、購入経験のプロトタイプを作る、12、ビジネスモデルのプロトタイプを作る、13、小規模の利用テストを行なう、14、パイロット運用を行なう。
・「『風洞』――重要な未知の要素について効率よく学ぶ方法――がある[p.147]」。「風洞」というのは、ライト兄弟が飛行機の開発をするにあたって、風洞を作り実験を行なったことにちなむ。[p.112

第2部、ファーストマイルの課題を克服する
第7章、ファーストマイルの4つの課題を克服する
課題1、道を間違える:「イノベーターが道を間違える最大の理由は、みせかけのホワイトスペース(空白地帯)に魅了されてしまうことだ。[p.154]」、「まず自問してみるべきだ。これまで誰も実行しなかったのはなぜだろう?[p.158]」
課題2、燃料切れ:「イノベーターが警戒すべき強力な敵の一つは、人の(それが個人であれグループである)意思決定能力を低下させるようなバイアスの作用である[p.159,231-235]」、「ファーストマイルにおいて特に致命的となり得る障害は、心理学者が言うところの計画錯誤によって引き起こされる[p.159]」、

計画錯誤とは、「タスクの日程とコストを予測する際に、組織の内部の人間は不正確な予測をしがちである[p.231]」ということ。「計画錯誤が原因でイノベーションのファーストマイルで燃料切れとなり、目的地に到達できないというケースがよくある。[p.159]」、「スタートアップビジネスに対して私はいつも、『必ず予定より長くかかり、必ず予定より多くの資金が必要となる』と考えている。[p.161]」
課題3、ドライバーの選定を間違える:「イノベーションを起こすということはきわめて人間的な営みであるため、その車を運転するための才能を持っていることがきわめて重要だ。理想とされるドライバーに求められる資質が2つある。一つはターゲット市場に共感できること。二つめは関連分野での経験を有しており、イノベーションのファーストマイルに対処できることだ。[p.164-165]」、「理想的なチームとは、選りすぐった社内の人間とひと握りの外部の人間を注意深くバランスさせたものである。[p.172]」
課題4、スピンしてコントロールを失う:「『スタートアップ・ゲノム』リポートによれば、新しい企業が失敗する最大の理由は規模の拡大を急ぎすぎたことだという。要するに、実現性のあるビジネスモデルを構築する前に規模の拡大を図ったために、プロジェクトが崩壊してしまったのだ。イノベーションのファーストマイルでスピードを出しすぎると、スピンしてコントロールを失い、クラッシュすることになる。[p.173]」、「顧客による熱烈な共感が得られないかぎりビジネスの規模拡大は望めない。[p.176]」

第8章、戦略的な実験を支える体制
・「企業のなかでイノベーションを起こそうとするときにまず苦労するのは、基幹システムが、明日のビジネスモデルではなく、今日のビジネスモデルを支援するために最適化されていることだ。これらのシステムは、企業にとって抗体のような役割を果たしており、戦略的な実験を破壊させるように作用する。[p.183]」
・「イノベーションの霧」を突き抜ける意思決定システム:「不確実性に立ち向かうチームを縛るようないかなる力も働いてはならない、と言いたくなるかもしれない。・・・しかし・・・往々にして、アイデアは試行錯誤の結果として生み出される。チームを縛る力が働かないと、必要以上に長く活動するという誤った戦略をとるおそれがある。チームを縛る力が弱いと、人材を最も有望なアイデアに再配置したり、アイデア同士を合体させたりする機会を企業が失うことにもなりかねない。ファーストマイルでアイデアをうまく育てていくためには、それなりの規律が必要だ。しかしこの規律は、失敗の可能性を極力排除するという、コアビジネスにかかわる規律とは一線を画するものである。[p.187]」、「実験を奨励する体制が必ずしも失敗を最小化する体制より優れているわけではない。現実問題として、企業は両方の考え方を並行して持たなければならない。失敗の可能性を最小化する体制はコアビジネスにおけるリソース効率を最大化し、実験を奨励する体制は新規事業についての学習事項を最大化するのだ。[p.190]」
・南カリフォルニア大学の「ジェラルド・テリス教授は、報酬体系は『非対称』でなければならないと言う。イノベーションを成功させるために強いインセンティブが必要だが、逆に、失敗に対するペナルティは寛容でなければならないということだ。[p.193]」
・「私は・・・失敗したプロジェクトのことをゾンビプロジェクトと呼んでいる。完全に死んでいない身体で、少ない可能性を求めてあちこち歩き回っているからだ。[p.194]」、「イノベーションを、ただ単に創造するだけの行為と考えている人が多いが、創造するために破壊しなければならないものもある。ゾンビプロジェクトを中止し、そこから教訓を学び、その教訓を最大限に生かすことは、イノベーションを成功させるために欠かせないプロセスだ。[p.199]」
・「過去60年の間、『ブレークスルー思考』の起源について多くの学者が研究を行なってきた。それらの研究成果のなかで一つ共通していることがある。ブレークスルー、すなわち魔法は交差点――異なる背景、異なる考え方同士が衝突する場所――で起きるということだ。ブレークスルーを起こすために企業は三種類の相手との連携を促す体制を構築しなければならない。その相手とは、外部専門家、顧客、幅広い層の社員だ。[p.199]」

第9章、ファーストマイルでのリーダーシップ
・「ファーストマイルで指導力を発揮するためには、きわめて不明瞭な、そしてときには矛盾する問題(パラドックス)をうまく処理する能力が求められる。カオスを追求する、人脈を多様化する、仕事に関係のないスキルを身に付けることにより、リーダーは前項の問題に対処する能力を高めることができる。[p.219]」
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本書を読んでまず感じることは、イノベーションの成功確率を上げるための方法論がかなり明確になってきた、ということです。以下は私見になりますが、その背景には、イノベーションに関する経営学上の知見の蓄積、進歩があるように思います。イノベーションは不確実なものであり、アイデアだけでは成功にたどりつけないこと、事前に入念な戦略や計画を立ててそれを実行するというアプローチは、革新的なイノベーションを起こすためには必ずしも適していないこと(既存事業の効率化や、改善改良による持続的イノベーションには有効であったとしても)、人間の判断にはバイアスが入り込む余地があるため完全に合理的な判断は不可能であること、などの知見は、いずれもイノベーションの実行段階への着目を促し、実験からいかに学ぶかを重視した方法論が提案されるようになったのではないでしょうか。本書は、そうしたアプローチの現時点での集大成と見ることもできるでしょう。本書に述べられた方法論は、個別に見ると当たり前と思われるようなものもあると思いますが、何が取り上げられていないか、すなわちイノベーションに適さない経営ノウハウ、方法論が排除されていることにも意味があると思います。イノベーションの方法論は今後もさらに進歩していくでしょう。しかし、ここまでやり方がわかったなら、あとは大胆に[p.223]挑戦することこそが求められているのかもしれません。


文献1:Scott D. Anthony, 2014、スコット・D・アンソニー著、川又政治訳、津嶋辰郎、津田真吾、山田竜也監修、「ザ・ファーストマイル」、翔泳社、2014.
原著表題:”The First Mile: A Launch Manual for Getting Great Ideas into the Market”

参考リンク



「はじめる戦略」(ゴビンダラジャン、トリンブル著)に学ぶイノベーションの進め方

イノベーションを興す方法は、スタートアップ企業と、すでに何らかの事業を行っている既存企業とでは区別して考えなければならない、という指摘は近年多くなってきていると思います。しかし、どう違うか、という具体論になると、既存企業ではイノベーションは困難であるという考え方から、既存企業こそ保有するポテンシャルを有効に活用してイノベーションを興す可能性があるという考え方まで様々のように思われます。

本ブログでも以前に、ゴビンダラジャン、トリンブル著「イノベーションを実行する」に基づいて、既存企業においてイノベーションをうまく進める方法を考えました。今回は、同じ著者による「はじめる戦略 ビジネスで『新しいこと』をするために知っておくべきことのすべて」[文献1]を取り上げます。その主題は、前著「イノベーションを実行する」と同じですが、本書ではイノベーションを実行する過程が「寓話」という形で語られていて、前著の理解を補完し、異なる気づきも得られるように思われるところが興味深く感じました。

寓話は、動物が経営する農場の経営を改善するために、イノベーションに取り組む、という物語です。ストーリーの詳細は本書を読んでいただくとして、以下では、最低限の物語の内容と、その過程で起こることから得られる示唆や著者の指摘のうちで重要と思われる点をまとめます。

物語とポイント
第1章、小さい規模で闘う方法:規模の小さな動物ファームは、規模の拡大と機械化により経費を抑えるライバル(人間が経営するファーム)の影響で苦境に立たされている。「『効率性の追求』だけでは解決策にならない」、「創造力があって、勇気があって、ファームを新しい方向に導いていけるリーダーが」必要。
第2章、「カギ」となる存在を口説く:リーダーが交代する。後継者と目されていた、「より速く、より安定的に、より効率よく」をモットーとする従来のナンバー2にはCOOのポジションがオファーされる。
第3章、「時代の変化」に対応する:動物によるファーム経営を世界に先駆けて立ち上げた創業者の時代に比べて、ライバルの効率化が進んでいる。
第4章、あなたなら、どう改善する?:ファームのあらゆる生産物の価格が下がっている。マネジャーたちの提案は、効率化。
第5章、「まったく新しいこと」をはじめる:コストダウンはできているが、価格低下の方が大きい。新しい経営者は新しいビジネスのアイデアを募る。効率化を提案したマネジャーは新ビジネスに反対しており、プレッシャーを感じている。
第6章、すべては「ひらめき」からはじまる:様々な新ビジネスのアイデアが提案される。「一般に、アイデアを実際に製品や商売にすることよりも、アイデアコンテストへの参加にエネルギーを注ぐビジネスマンの方が多い。」
第7章、「決める」ことは簡単。ではその「次」は?:評価されたのは、投資額が少なく、限られたファームの資金で実現できる、高級ウールビジネス。ただし、リスクがあるとの指摘あり。「一番のリスクは何もしないこと」。「どんなに偉大なイノベーションも、アイデアはそのはじまりにすぎないのだ」。
第8章、「未知の仕事」を前に進める:新ビジネスに新マネジャーを選ぶ。「新ビジネスは前途有望だ。・・・将来的にはファームを支えてくれるようになるかもしれない。しかし、いまやっている仕事をおろそかにはできない。稼働中のビジネスのコスト削減はこれからも続けていく。」
第9章、なぜ「協力」が得られないのか?:「給与の差はトラブルのもと」。「『いまの仕事』という障壁」。「ビジネスを軌道に乗せるために、どこまでルールを破るつもりなのだ?」。
第10章、ゼロからチームをつくる:協力しないのは、「怠けているのでも、変化に抵抗を感じているのでもない。自分に課せられた仕事に真面目に取り組んでいるだけなのだ」。「彼らはみな、いま稼働しているビジネスの業績にもとづいて評価され、給料が支払われ、昇進する」。ビジネス書のどの著者も必ず、「新規ビジネスを立ち上げるときは、それに専念するチームをつくり、経営者はそのチームの『スポンサー』としてふるまう必要があると強調している」。「独創的なアイデアを前に進めるためには、『一人のリーダーに任せておけばいい』という態度では話にならない。」
第11章、「いまの仕事」と「これからの仕事」を同時に動かす:新しい「ビジネスを成長させるためには、ある程度の自由と時間を与えることが重要」。「新しい事業には新しい指揮系統をつくる」。新ビジネスチームは特別扱いされているという反感も。
第12章、必要なリソースを巻き込んでいく:新ビジネスのチームは、既存ビジネスから資源の協力を得られない。新チームは「ファームの他部門から独立した状態では機能しない」。「共有できるものを探す」。
第13章、「予見できなかった問題」に対応する:「共通点を意識」し互いに理解しあうことが効果的。予想外にうまくいくことも、うまくいかない(動き出してから見えてくる)問題もある。追加コストが発生することも。
第14章、これまでの「常識」を疑う:「誰もが『未経験』では乗り切れない」。「新規ビジネスの専任チームをつくるということは、ゼロから違う会社を新たに築くようなもの・・・チームに適したメンバーを巻き込んで、成功につながる状態をつくってやることしかできない」。「新しいことをはじめると必ず対立が起こる」。
第15章、急成長に追いつけない:「報酬は真の『解決策』にはならない」。「衝突が起きるのは避けられない。でも、・・・専任チームと既存部門とのあいだで、健全な協力体制を育むことが不可欠」、それが経営陣の役割。
第16章、「利益」より「学び」を優先する:「プランとの『差』を確認する」。「新規ビジネスは『実験』である」。「実験をするときは、秩序をもって行い、それを通じて学ぶことをいちばんに考えれば、的確な決断が下せるようになり、それに伴い利益もついてくる」。「実験からどうやって学べばいいのか、・・・1つ、まずは仮説を立てよ、2つ、何が起こるか予測せよ、3つ、結果を測定せよ、4つ、仮説と実際の結果を比較し、そこからわかったことを分析せよ」。
第17章、「小さな実験」を実行する:新ビジネスは「これまで使ってきたプラン作成の雛型は使えない」。「あらゆる結果を『動向』として書きだす・・・それを見れば、新たな兆候や学ぶべき教訓がすぐにわかる」。「大きな実験の中には小さな実験がいくつかある・・・その実験を通じて、活動の是非がわかる証拠を集める」。
第18章、「予測できること」と「予測できないこと」を分ける:「新規事業の評価は2つに分ける」。「十分に予測できる部分であれば、結果を出す責任を負わせればよい」。未知のことについては、「どの程度プランに忠実に実験を行っているかを確認」する。
第19章、成功を維持する唯一の方法:「成功を維持していくには、新しいことをやっていくしかない」ことを経営者が納得させる。

イノベーションを実現するための心得p.188
・はじめるにあたって:「どんな偉大なイノベーションでも、アイデアは単なるはじまりにすぎない。」「画期的なアイデアを実現するにあたり、1人のリーダーに任せきりにするのはとんでもない間違いである。」
・チームづくり:
1、「既存の枠に収まらないことを行うときは、どんなかつどうでも専任チームをつくる。」
2、「専任チームは、ゼロからまったく違う会社を新しく立ち上げるつもりでつくる。」
3、「専任チームとほかの部署とのあいだで対立が生じるのは避けられない。それでも、健全な協力関係を育まないといけない。」
・プランづくりと進捗評価:
4、「学ぶことを第一とし、プランに忠実に実験を行いながら学ぶ。そうすれば、よりよい決断が下せるようになり、利益が出る日も早まる。」
5、「大きな支出項目ごとに、検証する材料を集める。」
6、「新規ビジネスのリーダーを評価するときは、プランという秩序に従って“実験”を行っているかを評価する。」
・上記1~6の項目は、「イノベーションを実行する」の6つの章に準じている。
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寓話から何を学ぶかは人それぞれでしょう。著者にとって都合のよい作り話という解釈も可能ですし、論理的に構成されたものでもないため、その価値に疑問を持たれることもあると思います。しかし、本書の寓話は、著者が調査したイノベーションの事例を凝縮したものと考えれば、ケーススタディよりも示唆的な面もあるかもしれません。例えば、人間の本音の部分はインタビューではなかなか明らかにすることが難しいかもしれませんし、成功事例や失敗事例の調査には後付けの解釈がつきまとうことがよくあります。イノベーションの方法論については、成功事例の分析がよく行われますが、成功事例では語られることの少ない裏話にもスポットを当てることが可能な寓話には、従来の事例調査を補うという価値もあるように思います。

本書の寓話のエピソードは、前著「イノベーションを実行する」にほぼ基づいたものになっています。従って、本書の寓話からは示唆される著者の意図や、著者の考え方、イノベーション実践における具体的な対応策などは、前著と合わせて読めば理解が深まるでしょう。また、前著で著者が強調したかったことも寓話から推察できるのではないかと思います。

私が特に重要だと思う指摘は、上記「イノベーションを実現するための心得」に加えて次の点です。
・既存企業にとっては、既存事業の能力を活用したイノベーションが重要であり、その可能性は決して小さくない。
・イノベーションの過程では寓話で挙げられたことをはじめとして様々なことが起こる。
・イノベーションチームと既存部署の間で必然的に起こる対立をマネジメントする必要がある。対立の原因には、感情的な要因も含まれる。寓話では、ケーススタディでは見えにくい様々な関係者の「感情」が表現されており、このような対立が起こり得ることを覚悟し、他の予想外の出来事への対策とともに感情面での対策をとることはイノベーションの成功にとって意味のあることと考えられる。なお、この「感情」に関わるエピソードについては、私の個人的実務経験に照らしてもいいところを突いていると思います。ちなみに、イノベーションの過程で対立が起こることは、豊田義博らによるレポート「イノベーターはどこにいる?」でも、イノベーションストーリーにおいてイノベーションに反対する「官僚」が現れることが指摘されています。
・イノベーションの具体的進め方のうち、実験による学びを重視する考え方の有効性については、今後の課題のように思います(著者による一つの仮説と考えるべき内容と思われます)。ただし、未知の課題に挑戦する場合のやり方として、さまざまな思いつきを散発的に試行錯誤するのではなく、「実験」結果から(失敗に終わった結果からも)学ぶことが重要なこと、学ぶためには系統的に計画して評価することが必要である、という著者の考え方は、実務的にも有効と考えます(ただ、実際には、思いつきによる試行錯誤にのみ頼る、系統的に学ぼうとしないアプローチは未だによく行われているように思いますが)。

イノベーションのストーリーについて、このような寓話を書けるようになったこと自体、イノベーションのプロセスがかなりわかってきたことの証左かもしれません。イノベーションの研究自体にとっても有意義で面白く、かつ実用的なアプローチかもしれないと思いますが、いかがでしょうか。


文献1:Vijay Govindarajan, Chris Trimble, 2013、ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル著、花塚恵訳、「世界トップ3の経営思想家による 始める戦略 ビジネスで『新しいこと』をするために知っておくべきことのすべて」、大和書房、2014.
原著表題:How Stella Saved the Farm

参考リンク<2015.2.8追加>



「イノベーションを実行する」(ゴビンダラジャン、トリンブル著)より

イノベーションを成功させるためには、アイデアだけではなくそのアイデアをどのように事業化するかも重要です。しかし、事業化段階において、どんな点に注意してどのように実行すればよいのかについてはそれほど明確ではありません。今回は、事業化に向けてのイノベーションの実行段階に焦点を当て、どのようにすれば障害を乗り越えられるかを述べた、ゴビンダラジャン、トリンブル著、「イノベーションを実行する」[文献1]の内容をまとめておきたいと思います。

本書の原題は「The Other Side of Innovation, Solving the Execution Challenge」です。著者らは、「確かにアイデアなしではイノベーションは始まらないが、『ビッグアイデア探し』の重要性はあまりにも強調されすぎている。だからわたしたちは・・・イノベーションの向こう側、つまり『実行』を取り上げることにした。[p.284]」と述べています。原題にあるthe other sideは、もう一つの側面(向こう側)、すなわち「アイデア」とは異なる側面=「実行」の側面、でありこれが主題ということでしょう。

本書のもう一つの特徴は、著者らが、いわゆる起業家ではなく大企業におけるイノベーションを想定している点です。著者は、「現実問題としては、多くのイノベーションはゼロからの起業家の手には届かないところにある。しっかりと確立した大企業にしか、取り組めないのだ・・・。わたしたちは、大企業こそ、人類が直面している・・・最大の、そして複雑な問題解決に最も貢献できると考えている。[p.295]」と述べています。これは、Christensenがイノベーションのジレンマで指摘した「実績ある企業の成功のかぎとなる意思決定プロセスと資源配分プロセスこそが、・・・破壊的イノベーションに直面したときに優良企業がつまずき、失敗する理由である[文献2、p.139-140]」、「初期の破壊的技術によって生じるチャンスが動機づけになるほど小規模な組織に、プロジェクトを任せる方法を選ぶべきである[文献2、p.192-193]という考え方に逆らうもののように思われます。しかし、著者らは、破壊的であるかどうかにかかわらず大企業にイノベーション実行上の問題点があるなら、その問題点が取り除かれれば小規模な組織でなくてもイノベーションが可能になる、と主張しているようにも思われます。以下、本書の内容をまとめます。

はじめに:イノベーションを実行する
・「イノベーションのほんとうの課題はアイデアの先にある。そこには――創意から影響力をもつ現実への――長く厳しい道程がある。[p.51]」
・「『パフォーマンス・エンジン』は強力で有能だ。生産性と効率を実現し、成長に導く力があるし、ある程度のイノベーションの能力もある。継続的な改善のプロセスや過去と類似商品の開発イニシアチブには取り組むことができる[p.51]」。ここで「パフォーマンス・エンジン」とは、「成長し成熟していく企業は毎四半期に安定した利益を上げるというプレッシャーによってかたちづくられ、型にはめられる。組織は不可避的に、わたしたちが『パフォーマンス・エンジン』と呼ぶものに進化する[p.30]」、というものです。
・(パフォーマンス・エンジンの能力を)「超えた部分では、イノベーションと継続事業のあいだには基本的な矛盾があり、『パフォーマンス・エンジン』だけではイノベーションは不可能になる。[p.51]」
・「イノベーション・リーダーは自分たちが既存の体制と闘う反逆児だと思いこむ場合が多い。だが、官僚的な怪物に一人で立ち向かっても勝ち目はほとんどない[p.52]」
・「本書の基本的な処方箋:どのイノベーション・イニシアチブ(取り組み)にもそれ専用のモデルで編成されたチームと、綿密な学習プロセスを通じてのみ修正される計画が必要である。[p.52]」
・『パフォーマンス・エンジン』との緊張は避けられないにしても、イノベーション・リーダーは『パフォーマンス・エンジン』と相互に尊重し合う関係を築く努力をすべきである[p.52]」

第1部:チームづくり
第1章、分業
:専任チーム(フルタイムでイノベーション・イニシアチブの実行に専念する)と共通スタッフ(「パフォーマンス・エンジン」の一部で、パートタイムで一部のイノベーション・イニシアチブの実行や支援にあたる)のあいだで、イノベーション・イニシアチブ実行の責任をどう分担するかを決める。
・「業務上の関係から生じる限界は、個人のスキルの組み合わせから生じる限界よりもずっと厳しい[p.70]」。「問題は、『パフォーマンス・エンジン』が継続事業をうまく維持したうえで、何ができるかということだ。・・・『パフォーマンス・エンジン』内部の作業編成がイノベーション・イニシアチブのある部分の必要性と矛盾するなら、その部分は専任チームに任せなければならない[p.61]」。「イノベーション・イニシアチブを支援する『パフォーマンス・エンジン』が取り組む仕事は、継続事業と並行して流れるものでなければならない・・・。それならイノベーション・イニシアチブの支援が追加されても、『パフォーマンス・エンジン』を流れる仕事の量が変化するだけですむ。[p.72]」
・「パフォーマンス・エンジン」の作業編成がイノベーション・イニシアチブの要求に適合するかどうかは、作業編成の3つの基本的側面(深さ、パワーバランス、作業リズム)から判断する。深さとは、例えば同じ部品を担当するなどの場合に密接に協力するなど、業務上の関係の深さのこと。パワーバランスとは、例えば権威や主導権を持つなどのこと。作業リズムは、開発期間、予算規模などのこと。[p.62-88

第2章、専任チームの人材集め:誰を専任チームに入れるか、またその役割と責任を決める。
・専任チームを結成するときのアドバイス:1)必要なスキルを明確にする、2)可能な限り最高の人材を採用する、3)専任チームの組織モデルを仕事の内容に合致させる。[p.93
・よくある7つの間違い
第1の罠、インサイダー重視のバイアス:プライド、なじみ、気楽さ、便利さ、報酬規定、社内の人間にチャンスを与えたいという思いなどから内部の人間をチームに入れたくなるが、スキル不足のリスク、組織の記憶に妨げられて失敗するリスクがある。組織の記憶とは、いわゆる、古いやり方、慣れ親しんだやり方、習慣やバイアス、行動パターン、思考パターンなど。「専任チームには内部の人間と外部の人間の両方が必要だし、『パフォーマンス・エンジン』との健全な共同事業が必要[p.103]」。ゼロベースの組織デザイン(専任チーム独特の役割と結びつくもの)が必要。[p.95-106
第2の罠、役割や責任について、それまでの規定を援用する:これを防ぐには、新しい肩書、過去の知識を一掃する業務分担、専用スペースなどが効果的。[p.106-108
第3の罠、パフォーマンス・エンジンのパワーセンターの支配を再強化する:力を持っている部署の影響力を変化させるために、外に見える形式的な手段などを用いるとよい。[p.108-109
第4の罠、それまでどおりの数値目標で業績評価を行う:「パフォーマンス・エンジンではとても意義のある数値目標でも、専任チームにも同じように意義があるという場合はごく少ない[p.109-110]」。
第5の罠、異なる社風の創造に失敗する:「イノベーション・リーダーは新たな価値観を表現する新しいストーリーを創造し、広めたほうがいい。」「専任チームは自分たちだけにイノベーションの気風があると主張してはいけない。」[p.111
第6の罠、できあがったプロセスを使う:「専任チームがパフォーマンス・エンジンをコピーすべきだという状況はありえない。[p.112]」
第7の罠、同質化圧力に負ける:「あらゆる手段で効率を最大化しようとするサポート機能のリーダーがいると、専任チームは組織の記憶を克服することがほぼ不可能になるだろう。こういう面では自分たちを例外扱いしてもらいたい、と強く主張しなくてはいけない。[p.112-113]」

第3章、共同事業のマネジメント:求められるものを明確にし、必ず起こる対立を調整する。
第1の課題、稀少なリソースの取り合い:リソース配分は、1つのプラン、1つのプロセスを通じて行う、共通スタッフに十分な支払いをする、配分されたリソースに支払いをする、パフォーマンス・エンジンの業績評価を、不確実なイノベーション・イニシアチブとできる限り切り離す、事前に緊急事態に備えて対策を考えておくことなどで回避できる。
第2の課題、共通スタッフの関心の分裂:「専任チームにとってはイノベーション・イニシアチブがすべてだが、共通スタップにとってはたくさんのことのなかの一つにすぎない。[p.142]」「イノベーション・イニシアチブがパフォーマンス・エンジンの立場や生き残りを脅かすと感じる理由があれば、共通スタッフのエネルギーを向けてもらうのは非常に困難だろう。・・・いままでのアセットを弱体化させるか、継続中のオペレーションを食い荒らすのではないか、とパフォーマンス・エンジンが不安を感じているときには、とりわけ難しい[p.144]。」こうした場合には上級エグゼクティブの積極的な関与が重要。
第3の課題、パートナーの不調和:「パフォーマンス・エンジンと共通スタッフが専任チームに不満を抱くのにはさまざまな理由がある。要するに、『あなたがたはわれわれとは違うから、われわれに優越感を抱いているように見えるから、もっと楽しそうだから、あなたがたにばかり日が当たるから、特別待遇をされているから、何より、われわれの縄張りに侵入しているから、気に入らない』というわけだ。[p.149]」これに対しては、責任分担の明確化、共通の価値観の強化、共通スタップの積極的協力が欠かせない役割はインサイダーのメンバーに任せる、専任チームを共通スタップの重要メンバーの近くに置く、協力できることの重要性を強調する、などが役に立つ。[p.149-150

第2部、規律ある実験
第4章、実験の整理と形式化:
実験から学習するための基本原則
・「わたしたちの目的にとっての学習とは、憶測に基づく予想を信頼できる予測に変えていくプロセス[p.171]」
・実験の形式化:「実験開始前に、何をしようとしているのか、何を期待しているのか、その理由は何かを書き出しておく。そして起こると考えたことと実際に起こったことの違いを分析して、教訓を引き出す。それから学習に基づいて、プランを練り直す。[p.176]」という科学的手法を採用すべき。
・実験指針の10原則
原則1、プランニングへの重点投資:不確実性が増すほどプランニングの価値は減少すると考えがちだが、「予測の価値は正確性にあるのではなく、その後の結果の解釈の目安になれるかどうかにある。[p.181-182]。」
原則2、一から作り上げるプランとスコアカード:「イノベーション・イニシアチブは過去からの意図的な決別だ。標準的なプランニング・プロセスやコスト項目、業績評価の数値指標が当てはまることはめったにない。」[p.182-183
原則3、データと想定の議論:「大胆なイノベーション・イニシアチブは・・・10%がデータで90%は未知の世界かもしれない。このような状況でデータの話しかできないなら、大事なことの10%しか語れない。それよりも未知のことに目を向けて、予測のもとになっている想定の具体的な輪郭を明らかにして話し合う方がずっとうまくいくだろう[p.184]」
原則4、仮説を明確にし、文書化する:「土台となる仮説をきちんと明確な文書にしておかなくてはいけない。この原則を守っていないと、・・・何が起こったのか、それはなぜなのかについての説明をでっちあげてしまうかもしれない。・・・バイアスと政治的駆け引きが学習を排除してしまう。[p.185-186]」
原則5、わずかなコストで多くを学習する:「大規模な実験を開始する前に、もっと小型の実験でも同じ情報が得られるのではないかと問いかけたほうがいい。[p.186]」
原則6、結果の検討は別の会議で:「イノベーションの検討と継続事業の検討を同じ会議で行うのは難しい。検討すべき内容がまるで違っているからだ。[p.187-188]」
原則7、プランを頻繁に見直す:「頻繁に見直すことが重要なのは、学習のペースはプランを見直して改訂するペースに制約されるから[p.189]」
原則8、趨勢を分析する:「イノベーション・イニシアチブの評価の場合、・・・黒白がはっきりしていない。目を向けるべきは結果ではなくて、趨勢(トレンド)なのだ。[p.189]」
原則9、予想の正式な見直し:イノベーションの場合、「当初の予想はほとんどの場合、間違っている。さらに、学習プロセスは予想改善のプロセスである。したがって予想が変更不能であれば、学習は不可能になる。」ただし、「予想の見直しは厳密な学習プロセスを経てのみ、行われるべきだ。学習された結果に対する関係者たちの同意が必要」[p.191
原則10、イノベーション・リーダーの評価は主観的に:「イノベーション・リーダーに説明責任を求めることは、いくつかの悪影響を及ぼす。」予想を低めに設定する、努力を放棄してあっさりあきらめる、情報を隠す、プランどおりに運ぼうとして、不必要なリスクを冒す、等が考えられる。数値ではなく、「学習し適応する能力で評価」すべき。[p.191-193

第5章、仮説のブレークダウン:
・「イノベーションの土台となる仮説は、行動と結果、その後の結果の因果関係に関する想定からできあがっている[p.231]」。「因果関係のマップを作ったら、それぞれのつながりを検討しよう。それぞれの想定はどこまで不確実か?想定が違っていた場合、どんな結果になるか?最も重要な未知数は何であるかを明らかにして、スピーディーに低コストでその未知数をつきとめる方法を見つけること[p.232]」

第6章、真実を見つける:「結果を解釈する際には、分析的で客観的な解釈ではなく、心地よくて都合がよい解釈に向けて組織から無数の圧力がかかる。これらの圧力を理解し、克服しなくてはならない。[p.167]」
・判断に影響する7つのバイアス
バイアス1、予測の過信:「失敗は予測の間違いではなく実行の欠陥にあると説明したがる傾向は、イノベーションにとって普遍的な、そして最も危険な敵であるとわたしたちは考えている[p.238]。」GEのような「強烈な業績重視の社風がプラスに働くのは、信頼できる予測が可能な環境だけである。・・・パフォーマンス・エンジンでは予測は正しいとみなされる。イノベーションでは予測は間違っているとみなさなくてはならない。[p.240]」「わたしたちは長年、計画に対する責任を厳しく問うことがイノベーションを妨げると繰り返してきた。[p.241]」「因果関係をたどっていくと、前例がはっきりせず、予測が信頼できないところにぶつかるだろう。そうなれば、結果責任はもうリーズナブルでも効果的でもない。責任のモードを結果から学習へと変える必要がある。リーダーは結果に基づいて評価されるのではなく、厳密な学習プロセスに従ったかどうかで評価されなければならない[p.249]」「イノベーション・イニシアチブは・・・会社の賭けであり、リーダーの第一の仕事は制御実験を行うことである[p.258-259]」。
バイアス2、エゴ・バイアス:「人は実験に成功したときには計画して実行した行動のおかげだと考え、失敗すると外部の影響のせいと考える傾向がある[p.261]
バイアス3、新近性バイアス:「実験の結論を出すときには直前の出来事に注目してしまい、実験の最初から終わりまでの出来事をトータルに検討するのを怠るという過ちを犯す傾向がある。[p.262]
バイアス4、慣れのバイアス:「慣れ親しんだ説明に流れる[p.262]
バイアス5、サイズのバイアス:「大きな結果は大きな行動によって生まれると頭から思いこむ[p.262]

バイアス6、単純性バイアス:「いちばんよくある――そして危険でもある――拙速な評価方法は、単純にパフォーマンス・エンジンの数値指標と基準をイノベーション・イニシアチブに適用することだろう[p.263]
バイアス7、政治的バイアス:社内の競争に基づくバイアス。

結論:前進、そして上昇
・「監督役のエグゼクティブの責任は、四つに分類できる。まずイノベーション・イニシアチブに良いスタートを切らせること、パフォーマンス・エンジンとの関係を監視すること、厳密な学習プロセスを進行させること、そしてイノベーション・イニシアチブの幕引きをすることだ。[p.269]
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本書の第一の意義は、既存事業を持つ企業が、事業化に向けてイノベーションを実行しようとする際に、社内の資源を有効に活用する上での障害と、その障害を乗り越えるためにはどうしたらよいかがまとめられていることでしょう。既存事業を営む企業が、破壊的イノベーションに対してうまく対応できないこと、自ら破壊的イノベーションに乗り出し難いことは、Christensenの指摘のとおりだと思いますが、本書の著者らにより、具体的に既存企業の何がイノベーションの障害になりうるかが明らかにされたことにより、その障害への対応が取れる可能性が示されたのではないでしょうか。もちろん、既存企業の社風や社内力学に基づく障害を克服することは容易ではないでしょうが、うまく実行さえできれば、既存企業の強みを生かしたイノベーションを生み出す可能性が示唆されていると思います。既存企業の強みと弱み(障害)を認識することで、イノベーションの特性に合わせて様々な実行上の選択肢を検討することができるようになると思います。

著者らの述べているイノベーションの障害とその回避策については、私の個人的経験に照らしても理解しやすいものです。もちろん、イノベーションを進める上での困難は、これだけにとどまりませんし、その回避策も著者らの提示した方法以外のやり方もありうるでしょう。イノベーションの内容や、その企業の状況に応じて、変えていく必要がある場合もあるでしょう。例えば、著者らはイノベーションにおける上級経営陣の積極的な支援を重要視していますが、そうした支援が得られない場合には、どうしたらよいのか、という疑問もわいてくるわけですが、そのような疑問に対しては、そうした障害を生み出すメカニズムについての著者らの示唆に基づいて、個別に対応を考えることが可能だと思います。それは我々に与えられた課題なのでしょう。

イノベーション成功の方法を探ることは本ブログの主題でもあります。そのためにどのような実行の方法をすべきかについては様々に考えてきましたが、その視点は研究グループをどう運営するか、という点にやや偏っていたかもしれません。著者らの指摘するような、イノベーションを達成する手段としての社内連携についても、しっかりと考慮する必要があることを認識させられた点、その内容に加えて有意義だったと思います。

文献1:Vijay Govindarajan, Chris Trimble, 2010、ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル著、吉田利子訳、「イノベーションを実行する 挑戦的アイデアを実現するマネジメント」、NTT出版、2012.
文献2:Christensen, C.M, 1997、クレイトン・クリステンセン著、伊豆原弓訳、「イノベーションへのジレンマ」、翔泳社、2000.

参考リンク<2014.1.26追加>


試行錯誤のプロ

研究開発は未知のことへの挑戦です。従って、思ったとおりにことが運ぶとは限りません。そんな時、試行錯誤が必要になることがあります。

試行錯誤とは、一般には、試みてみて、その結果に応じて対応を変化させ、最終的に目的達成を目指すプロセスであると理解されていると思います。研究の世界では、試行錯誤というと、行き当たりばったりとか、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、というようなあまり好意的でない印象を持たれることもありますが、実用的には成果を挙げる場合が多いことも事実でしょう。特に、最近ではロールプレイングゲームなどで試行錯誤に慣れ親しんだ世代が増えてきていることもあってか、手法として抵抗感が少なくなってきているようにも感じます。もちろん、正解があるかどうかもわからない研究の問題解決に試行錯誤を使うことと、ゲームのように設計者が決めた正解を試行錯誤を通じて見出していくこととは意味が異なりますが、今回は研究開発における試行錯誤について考えてみたいと思います。

試行錯誤の意義

試行錯誤というと、間違ってもいいからとにかく試行してみて対応する、という印象を持たれることが多いように思います。しかし、試行そのものは研究の本質です(試行しなくてもうまくいくとわかっていることは研究の対象にはなりません)。そして、その結果、うまくいくこともあればいかないこともある、というのも研究の本質でしょう。とすると、

1、試行を計画する

2、試行する

3、結果を得てフィードバックする

というステップは、最初に「間違ってもいいから、」と思っていてもいなくても同じことになるのではないでしょうか。事前に入念な計画をたてて試行しても失敗することもあるわけで、どう試行するかは、与えられた課題と試行の容易さ、効果に応じて決められるべきものでしょう。とすると、試行の計画自体が合理的であれば、周到な計画だろうと試行錯誤アプローチだろうと上記1~3の実態に違いはなく、試行錯誤(試行とフィードバックを組み合わせるアプローチ)こそが研究活動の実態であると言ってもよいように思います。以下、試行(錯誤)に関わる各段階について考えてみたいと思います。

1、試行計画段階:試行による問題解決に適した課題と条件の決定、注意

研究の本質に試行が深く関わっているとしても、試行主体の問題解決に適した課題とそうでない課題があるでしょう。基本的には、理論や経験による予測がしにくい課題は、試行で解決することが合理的ということになるでしょうが、無限に広い範囲の条件で試行を行なうことは困難ですから、試行の計画の段階で、なるべく条件を絞り込むことが必要になります。具体的には、ある条件を一定にコントロールしたり、ある条件は無視したり、あるいは現実の状態をモデル化して重要と思われる項目についてだけ試行することなどが必要で、こうしたことができる場合に試行が有効と言えると思います。もちろん、事前の予測が困難な場合には、計画自体も試行の結果を見ながら決定することも有効でしょう。ただし、特に人の意思が関わる問題については、試行することが状況に変化をもたらし、目標自体やあるべき解決策が変わってしまうこともあり得ますので、注意が必要です。

2、試行の段階

試行段階では、求める結果が確実に得られるような実験を設計する必要があります。試行によって得られるデータ自体がお粗末では、そこから導かれる結果も使えないものになってしまいますので、どんな方法でどんなデータをとるか、実験のテクニックも重要です。実験室での実験、現場試験、シミュレーション、データ採取方法などを、得られるデータの信頼性も考慮して決める必要があり、研究部隊の実力が試されることになると思われます。

3、結果とフィードバック

まず、試行した結果から何を学びとるか、ということが重要です。具体的には以下の点に注意する必要があるでしょう。

・試行の結果を正しく評価する:得られた結果には間違いがないのか、いつもそうなるのかも含めて、期待どおりの(あるいは予想外の)結果が得られたかどうかをまず判断する必要があります。場合によっては、統計的、確率論的な議論が必要になるでしょう。

・試行したことと結果の因果関係を検討する:確率的な事象、複雑系の関与する事象の場合、試行結果が何回か同じになっても、その次もまた同じ結果になる保証はありません。因果関係を検討し、そのメカニズム、すなわち、なぜそうなるのかが推定できれば、試行したことが結果を生んだことについてのサポートになります。

・結果を参考に次の試行条件を決める。仮説を修正する、新たな仮説を提案する。

・目的外の結果も重視する:試行錯誤は目的とする課題の解決のために行なうものであったとしても、試行の結果、それ以外の答えや、発展のヒントが得られることがあります。思ってもみなかった発見(真のセレンディピティ)が得られる場合もありますし、試行の結果から導かれる仮説を利用すると、当初考えていなかったアイデアに気付く場合があります。これらも試行から学べることといってよいでしょう。

試行錯誤を行ないやすい研究環境

このように、試行錯誤、試行することは研究開発において重要な役割を担いますが、試行錯誤を行ないやすい研究環境というものもあるでしょう。試行錯誤を促進するためには、次のポイントが重要と考えます。

・試行を問題解決のアプローチのひとつとして評価し、価値を認めること:理論的検討も重要ですが、試行の価値を認め、選択肢として考慮し、試行が効率的な場合には、積極的に試行することを促す。

・失敗を容認すること:試行に伴う失敗は責めない。

・試行しやすい環境をつくる:試行のための精神的障害を小さくする。

・試行のアイデアをいくつか用意する:ひとつ失敗しても次の手がある状態にする。

・過去の成功体験に縛られないようにする:試行の方法は、過去に成功した方法ばかりではない。

また、試行の結果から多くを学ぶためには次の点が重要でしょう。

・結果を記録し、将来の試行に生かす:目的とする結果の実現だけを目指す場合、うまくいかない結果は捨てられてしまいやすいものです。再度の失敗を避けるためにも、また、新たなアイデアを得るためにも記録は有意義です。

・計画の管理に余裕をもたせる(計画変更や逸脱を許容する):余裕がないと、目的外の結果が捨てられてしまいがちです。

試行に基づくアプローチは、コスト負担が大きくなる場合もあり、必ずしも容易な方法ではありません。しかし、試行を行ない、そこから有意義な結論やアイデアを引き出すことには研究部隊の力が反映されます。具体的には、試行をうまく計画して効果的に行ない、目的達成の役に立つデータをうまくとり、その結果を正しく評価しうまく活用することが求められる時、それが試行錯誤のプロとしての研究部隊の出番なのではないでしょうか。


 

イノベーターのDNA


ダイアー、グレガーセン、クリステンセン著の論文「イノベーターのDNA[文献1]について考えてみたいと思います。この論文では、イノベーティブな企業を立ち上げた、あるいは新製品を開発した3500人超の調査に加えて、マイケル・デル、ジェフ・ベゾスなどのイノベーティブな著名起業家25人の日常習慣調査によって、最も創造性あふれるビジネス・リーダーの特徴が明らかになったとされています。

その特徴とは次の5つの「発見力(Discovery skill)」です。

1、関連づける力(Associating

「異分野から生じた、一見無関係に思える疑問や問題、アイデアをうまく結びつける能力」のことで、そこから新たなアイデアを生むことも含まれます。

2、質問力(Questioning

『適切な答えを見つけ出すことよりも、適切な質問を投げかけることが重要』(ドラッカー)であって、質問力の高い人は、例えば、『なぜか』『なぜだめなのか』『もし~だったら』と問う、前提を覆そうとする、正反対の2つのアイデアを頭のなかに浮かべる、あえて異議を唱える、制約を受け入れることで型破りな洞察を導き出すとされています。

3、観察力(Observing

「一般的な現象、とりわけ潜在顧客の行動を詳しく調べることで、非凡なビジネス・アイデアを生み出す」「注意深く、意識的かつ継続的に、顧客やサプライヤー、他社のちょっとした行動をつぶさに観察し、新しいやり方のヒントを見つける」とのことです。

4、実験力(Experimenting

「どんな洞察が得られるのか、インタラクティブな実験を設計して、予想外の反応を起こそうとする」ということとともに、単に、「試作品をつくったり、パイロット版を販売してみたりと、積極的に新しいアイデアを試す」ことも含め、実験を重視し、学習のためには失敗してもかまわないと考える傾向を指摘しています。

5、人脈力(Networking

「自分の知識の幅を広げるために、自分とは異なるアイデアや視点の持ち主たちに会う」「自社以外で生み出された発見や進歩を自分たちの仕事に取り入れる」という志向であって、単に求める資源にアクセスするため、自分や自社を売り込むため、あるいはキャリアアップのための人脈づくりではないとしています。

そして、このうち、1の関連づける力が新たな洞察を生むための基幹であって、他の4つの発見力は関連づける力を強化し、新たな洞察を生む一助となる、というのが基本的な考え方のようです。実際原論文では、1、が「Thinking」の、2~5が「Doing」カテゴリーに入っていて役割が区別されているように思われます。

さらに、こうした能力について、「イノベーション思考が生まれつき備わっている人もいるが、実践を通じて開発・強化することが可能」と主張しています。「DNA」という例えからは持って生まれた資質が重要という印象を受けてしまいがちですが、研究によれば、創造的思考力の1/3は遺伝で決まり、2/3は学習によって習得可能であって、イノベーション能力は「まず必要な能力を理解し、練習し、実験し、最後におのれの想像力に自信を持つことによって得られる」としています。具体的には、イノベーション能力の獲得のためには質問力が重要で、問いかけによって他の発見力も活性化されるとし、その他にも、観察すること(ただし、その判断は保留する)、ノートや写真を撮る、仮説を立て検証を行なう、新たな知識に触れる、実験を制度化する、失敗を通じて学習することの価値を公言する、多様な人たちとアイデアの交換をする、などの方法が示されています。

以上が論文の概要ですが、いかがでしょうか。実を言うと、私には5つの発見力についてはそれほど目新しいことではないと感じました。例えば、関連付ける力は、Schumpeterのいう、「非連続変化は新結合の遂行によって起きる」[文献2p.113]という考え方からその重要性は示されているでしょうし、質問力であげられた「なぜか」「もしそうだとしたら」などの問いの例は、技術者ならごく普通に行なうことです。Kellyがあげているイノベーションに必要な人材の中には、人類学者、実験者、花粉の運び手、という概念がありますが、それらはこの論文の3、4、1にそれぞれ対応するでしょう。観察力は、エスノグラフィーの活用としても重視されていますし、人脈力はまさにオープンイノベーションがやろうとしていることと深く関連していると思われます。もちろん、イノベーターの調査を行なって傾向を実証したことは意義あることでしょうが、イノベーションで優れた実績を挙げた人々がこれらの特徴を持っていること自体はごく当たり前のことのように思いました。また、こうした特性が学習によって身につけられるという主張については、残念ながらこの論文では根拠が示されてはいません(主張は正しいと思いますが)。

しかし、この論文は2009年のマッキンゼー賞銀賞論文[文献3]に選ばれています。もちろん賞を取ったという理由で内容を評価することは正しい判断ではありませんが、自分の理解を見直すきっかけにはなります。さらに著者も、優れたイノベーターに特徴的に見られる能力を調査し、比較的当たり前の結果を得ただけであれば大きな意義はないことは認識していると思います。加えて、Christensenが前著でイノベーションのリーダーはある特定の資質を持った人ではなく、経験から学べる人であり、学習によってマネジメント能力が形成される、と主張している[文献4p.218]ことと、この論文の主張がどうつながるかがよく理解できません。そこで、もう少し、著者の意図を推測してみると次のようなことが言えるのではないかと思います。

・5つの発見力について、著者らは、「関連づける力」が基幹能力として重要であると提言している。

・これらの能力を同時に保有することが重要である可能性がある(これは私の解釈です)。

・イノベーターに必要な特徴は育成することができ、その育成の方法として、4つの行動(5つの発見力の2~5)を行なうことを提言している。つまり、この論文で挙げられた5つの発見力は、単にイノベーターが持つ重要な資質を列挙したものではなく、イノベーターとしての能力を育成し、発揮させるために重要な能力、行動パターンとして示されたものと理解できる。

特に、最後のポイントについては、よく読むと論文中でも言及されており、論文の最後では「アップルのスローガン”Think Different”は心に響くものだが、それだけでは足りない。イノベーターたる者、他人と違うように考えるには、常日頃から他人と違うように行動しなければならない」と述べられています。実はこの部分について、Dyerは「イノベーターのDNA」について語ったビデオのなかで、「You have to act different to think different, and what we’ve tried to do is to show you exactly how you act different in order to be able to think different and be creative and innovative.[資料5]つまり、「think differentをするためには、行動を変えるべきであり、think differentできるようになり創造的でイノベーティブになるために、どのように行動を変えればよいかを提示しようとした」、と述べています。おそらく著者らはある程度の確信をもって、質問力、観察力、実験力、人脈力を磨くことでイノベーティブになれるということを提言しているのだと思います。ここが本論文の最も重要な点なのではないでしょうか。

こうした考え方であればChristensenの前著の主張とも一致すると考えられますし、それなりに有意義な提言を含んでいると理解できると思われます。もちろん、この論文だけではこうした提言が有効であると主張するには明らかに根拠不足です。優れたイノベーターがその能力をどうやって身につけたかのプロセスを明らかにし、それが生まれつきの才能ではなくこの論文で述べられているような行動をすることで身につけたものであることを納得させるような調査結果が示されない限り、十分に納得できるものではありません。ただ、上記のように理解すると少なくとも仮説としては示唆に富んでいるように思えます。この論文の内容は本にまとめられ、この7月に刊行予定、とのことですので、そこで語られる内容がどのようなものになるのかが興味のあるところです。


文献1:ジェフリー・H・ダイアー、ハル・B・グレガーセン、クレイトン・M・クリステンセン著、関美和訳、「イノベーターのDNA」、Diamond Harvard Business ReviewApr. 2010p.36.

原著論文:Jeffrey H. Dyer, Hal B. Gregersen, Clayton M. Christensen, ”The Innovator’s DNA”, Harvard Business Review, Dec. 2009, p.61.

文献2:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.

文献3:(文献1の抄録)Diamond Harvard Business ReviewSep. 2010p.20.

文献4Christensen, C.M, Raynor, M.E, 2003、クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー著、桜井祐子訳、「イノベーションへの解」、翔泳社、2003.

資料5BYU professor Jeff Dyer studies 5 skills for business innovation - BYU News

http://www.youtube.com/watch?v=RYuO-LSURvI&feature=bzb302&hd=1


(参考)

Innovator’s DNAに関するwebページ。インタビュー等へのリンクあり。

http://www.innovatorsdna.com/


参考リンク

 

 

「イノベーションの神話」(Scott Berkun著)のまとめと感想

イノベーションの神話」(Scott Berkun著、村上雅章訳)[文献1]の感想を書いておきたいと思います。この本ではイノベーションにまつわる10の神話が取り上げられ、その正体が暴かれ神秘性が取り除かれていきますが、その目的は「イノベーションがどのように生み出されるかを明確にすることで、あなたの住んでいる世界への理解を深め、あなた自身がイノベーションを起こそうとする際の過ちを避ける」[文献1p.xvi]ことであると著者は記しています。

 

その内容に加えて、私にとって興味深かったのは、この本に関するネット上での評判が大きく分かれている点でした。絶賛するものもあれば、当たり前のことしか書かれていないという評価もあり、今回はなぜこのような違いが現れるのかも含めて本書の内容について考えてみたいと思います。まずは、内容を簡単に(研究マネジメントに役立ちそうなところはやや詳しく)まとめます。本書では、多くの事例に基づいて説明がなされていますので、ご興味のある方はぜひ本書をご参照ください。

 

1章 ひらめきの神話The myth of epiphany

「素晴らしいアイデアというものは、真のイノベーションというプロセスのごく一部」「(ひらめきは)コントロールすることなどできない」「素晴らしいアイデアを見つけ出すには努力が必要ですが、そのアイデアをうまく利用して世の中を良くするためにはさらに大きな努力が必要」[文献115-17]としています。要するにひらめきやアイデアだけでイノベーションが実現できるわけではない、ということです。

 

2章 神話:私たちはイノベーションの歴史を理解しているWe understand the history of innovation

イノベーションが起きて技術や世の中が変化していくのは、そうなる必然があったと考えるのは誤りと言っています。「ドミナントデザイン(支配的なデザイン)というものは、必ずしもあらかじめ決定されていたから出現するというわけではなく、ある特定のタイミングにおける技術とマーケットとの間の相互作用の結果として出現する(アッターバック)」「私たちにとって最善の策だったということにもならない」「イノベーションを追求し、勝利を得たものは、その当時において最もポジティブな関心を引くことができたというだけのこと」[文献133-34]

 

3章 神話:イノベーションを生み出す方法が存在するThere is a method for innovation

イノベーションを生み出すシナリオのようなものが存在するわけではないことが述べられています。「新しいことを行なう際にリスクをゼロにする方法などない」ので、「投資が報われる保証はない」[文献1p.42]わけです。しかし、過去の多くの成功と失敗の経験を見れば以下のようないくつかのヒントは得られるとも述べています。

イノベーションの種になりうるもの1)特定の進路に向かって努力する、2)進路を変えながら努力する、3)好奇心、4)富と財産(金銭的欲求が原動力になる)、5)必要性、6)組み合わせ

イノベーションのためには次のような難関を克服する必要がある1)アイデアの発見、2)解決策の探究(アイデアの実現)、3)スポンサーと資金の調達、4)大量生産、5)潜在顧客へのアプローチ、6)競争相手の打倒、7)タイミング、8)足下を明るくしておくこと(成功までの資源を確保するということ)

イノベーション成功に至る道を見つけるためには1)自らを知る(私たちは、自分たちが思っているほど論理的ではない)、2)集中的に、しかし一歩下がって確認する(よりよい道を見つけられるように前提を見直す意志も持つ)、3)規模を大きくしていく(最初から大きすぎる目標を狙わない)、4)幸運と先駆者の功績を認める[文献1p.44-57]

 

4章 神話:人は新しいアイデアを好むPeople love new ideas

「たいていの場合、人々はあなたのアイデアに対して、あなたほどには興味を抱かない」「革新的なアイデアは、それがもたらすメリットのせいで却下されることなど滅多になく、人々がそれをどう感じるのかということによって却下される」[文献1p.66-70]。さらにイノベーションの採用に関して、ロジャーズによるイノベーション普及速度を決定する5因子について解説しています(これについてはノート13で詳しく述べましたのでそちらをご参照ください)。

 

5章 神話:たった一人の発案者The lone inventor

「偉大なるイノベーション、そしてビジネスは、複数のクリエイターが一つの目的に向かって力を合わせることによって生み出されている」[文献1p.88]。発案者を一人にしておいた方がわかりやすいため、このような誤解が生まれるとしています。

 

6章 神話:優れたアイデアは見つけづらいGood ideas are hard to find

多くの場合、アイデアが必要とされる時に時間をかけて探さない(つまり探し方が悪い)ことがアイデアが見つからない理由だとしています。「アイデアというものは育まれることで成長していくものであり、製造されるものではない」「口に出されたそばから否定されることがなければ、必ず見つけやすくなるはず」「優れたアイデアを得る最善の方法は、多くのアイデアを得ることだ(ライナス・ポーリング)」[文献1p.97-99]

 

7章 神話:上司はイノベーションについてあなたより詳しいYour boss knows more about innovation than you

「訓練や経験というものは、すでにあるものを守る上で有効となりますが、イノベーションに対する逆風になる」「(決定権を持つからといって)権威者が優れた決断を下せるだけの知識や経験を持ち合わせていることにはならない」[文献1p.110-111]

マネジャーが乗り越えるべき5つの難関1)アイデアの寿命(マネジャーは生まれたばかりのアイデアを育むために時間と予算を投資し、メンバーに精神的な余裕を与え、アイデアの展開や仕上げ、新たなアイデアへの再生をサポートする必要がある)、2)環境(才能ある人々が最高の仕事を行える場所を作り出す)、3)保護(援護射撃する、攻撃からイノベーションを守る盾になる、無理強いにならないように後押しする)、4)実行(アイデアを世の中にもたらすには多くの作業が必要でありその作業こそが難関、理想と現実のバランスをとる)、5)説得(成功と失敗を分けるものはほとんどの場合粘り強さである、関係者の説得はイノベーションのあらゆる局面を活性化する)[文献1p.115-123]

 

8章 神話:最も優れたアイデアが勝ち残るThe best ideas win

「イノベーションは、専門家の観点からみた優秀さと、さまざまな副次的なファクターが絡み合って生み出される採用の容易さというものの間にあるスイートスポットで生み出される」[文献1p.143]

副次的なファクター1)文化(既存の価値観との整合性)、2)ドミナントデザイン(ドミナントデザインが浸透すると他の方法へ移行するコストが上がる)、3)遺産と伝統(人はある信条に馴染んでしまうと、その信条が優れているかのように思いがち)、4)政治:誰が利益を得るのか?、5)経済(導入コストとメリットのバランス)、6)良いもの:この主観的な概念(イノベーターは大衆が必要としていないものを生み出してしまうこともある)、7)短期的思考と長期的思考(アイデアの良さはその影響が及ぶ期間をどのくらい先まで考慮するかで変わる)[文献1p.132-135]

 

9章 神話:解決策こそが重要であるProblems and solutions

「問題は解決することよりも発見することの方が重要」[文献1p.146]。解決すべき問題、解決可能な問題の適切な選択も重要。「セレンディピティーは花形であるものの、チャンスに遭遇した時に何を行うのかが重要なのであって、チャンスとの遭遇自体が重要なわけではない」[文献1p.156]

 

10章 神話:イノベーションは常に良いものをもたらすInnovation is always good

「イノベーションの意味と影響を見極めるということは、イノベーション自体を生み出すという作業よりもずっと複雑」「すべてのイノベーションには良い面と悪い面の双方が存在している」「最善のイノベーション哲学は、変化と伝統の双方を受け入れ、絶対的な判断が存在するという落とし穴に落ちないようにすること」[文献1p.161-171]

 

以上が否定されてしまった「神話」ということになります。はっきり言って、ある程度の経験を持つ研究者であれば、著者がこの10の神話を否定していることについて異論のある人はほとんどいないでしょう。従って、「当たり前のことしか書かれていない」という感想を持たれる方がいるのも非常によくわかります。しかし、言われてそうだと同意することと、これらのことを「重要なこと」として認識していることは異なりますし、個人によって重要だと思うポイントも違うでしょうから、このような形にまとめることやまとまったものを読むことの意義は大きいのではないでしょうか。また、上に挙げたような指摘は、イノベーションマネジメントを考える際の枠組みとしても利用可能でしょう。

 

しかし、この神話を真実だと思っている人がいるもの確かではないでしょうか。本書の中でも触れられていますが、こうした神話を肯定してしまえば物事がわかりやすくなる、という面もあるでしょうし、必ずしも厳密に書かれていない科学読み物や偉人伝ではこうした神話の普及を助長するような書き方をしているものもあると思います。そうした知識がベースになっている方(例えば、研究開発の実務経験の少ない若手の研究者や技術者、いわゆる事務系の仕事をされている方々も該当するかもしれません)にとっては本書の指摘は新鮮に感じられるだろうと思いますし、そうした人にとってこそ、神話の秘密を暴いてみせることは必要なのだと思います。

 

まさにこの点こそ、著者が本書を書こうとした理由ではないでしょうか。この本の評判がよいということはすなわち、この神話を信じている人が多いということの裏付けかもしれません。研究開発を行なう上ではいろいろな方との協働が必要になります。もし、研究開発やイノベーションについて、現実とは異なる考え方がはびこっているとしたら、それは意志疎通、相互理解の妨げになるでしょう。イノベーションをうまく進めるために協働している仲間のなかに、イノベーションの実態に対する誤解を持っている人がいるかもしれないこと、こんな風に誤解されている可能性があることは、研究者も十分に認識しておいて損にはならないと思います。

 

私の経験で恐縮ですが、人事部門の人と雑談していた時に、「『実験』という言葉は何か、遊んでいるような語感があるね」と言われて驚いたことがあります。研究者にとっては「本当の実験というものは、未知の変数が少なくとも一つあり、実験によってその変数がどう変動するのかということを観察するために行うもの」[文献1p.41]なわけで、しかも企業の研究者は必要があって実験をしているのが当然なのですが、そうは思われていない可能性もあるわけです。知らない人にとっては、実験というのは夏休みの自由研究の延長であったり、高校の化学の先生が教室で、あるいはでんじろう先生がテレビで見せてくれるようなスペクタクルであって、ことによると昭和のコメディーで白衣を着た科学者風の人が薬品を混ぜて爆発させて煤だらけの顔になる、といったようなイメージなのかもしれないと思いました。そんな細かなことまで考えると、イノベーションの実態とイメージ(神話)の乖離は本書の内容以上に大きいものなのかもしれません。本書の内容が研究者にとっては当たり前のようなことであっても、この神話を信じている方が多い限り、この本の存在意義は大きいということでもあるでしょう。研究開発の成功物語はもちろん重要ではありますが、イノベーションの本質と実態を明らかにし、誤解を解くことも、それを知っているものの努めかもしれません。

 

 

文献1Scott Berkun2007、村上雅章訳、「イノベーションの神話」、オライリー・ジャパン、2007.

http://www.amazon.co.jp/%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E7%A5%9E%E8%A9%B1-Scott-Berkun/dp/4873113458

 

(参考)

・この本の原著はScott Berkun、「The Myths of Innovation」、O’Reilly2007.です。なお、2010年にペーパーバック化された時に、以下の4章が追加されています(ネットで目次を見ただけなので内容まで確認できていなくて申し訳ないですが、適当に訳してみました)。

 11章 Epilogue: Beyond hype and history(エピローグ:でっちあげと歴史を超えて)

 12章 Creative thinking hacks(創造的思考のための小技)

 13章 How to pitch an idea(アイデアの伝え方)

 14章 How to stay motivated(モチベーションを維持する方法)

・著者は元Microsoftの技術者で、現在は執筆、講演などの活動をされている方だそうです。

著者webページはこちら↓。ブログやエッセイなど盛りだくさんです。

http://www.scottberkun.com/

 

参考リンク<2011.8.14追加>
著者ビデオ、講演メモなど。
 

 

 

ノート8:研究者の適性と最適配置

ノート7にひきつづき、研究の進め方についての検討課題のうち、人の問題について考えてみたいと思います。ここでは、研究者の適性と業務配置の問題について考えてみたいと思います。

 

研究者の適性と最適配置

研究者の能力を引き出し、なるべくよい成果を挙げるためにはノート7で述べたような個々人の活性化に加え、具体的にどういう仕事を誰に任せるか、あるいは、ある仕事のためにどういう人材を集めるか、ということも重要な課題でしょう。とりわけ、第一線で研究を行なう研究グループのリーダーにとっては、与えられた資源をいかにうまく用いて必要とされる職務を行なうか、ということが実務上の最も大きな課題であり研究マネージャーとしての工夫のしどころでもあると考えられますので、ここで研究者の適性と最適配置の問題について考えてみたいと思います。

 

ノート5で述べたように、企業において研究部隊に求められる業務には多くの種類があります。従って、研究者個々人の特質、適性をよく理解し、業務の配分を行なうことが研究者の能力を活用する上で重要になると考えられます。

 

そこで、まず、研究者個人の特質、適性について考えてみたいと思います。ただし「適性」を、どんな性格や能力をもっている人がよりよい研究成果を挙げるかという総合的な研究能力の観点で判断しようとすることは、少なくとも企業においてはあまり効果的とは思われません。というのは、実際の研究業務には性格の異なる様々な業務が含まれていることに加え、ある評価尺度で適性を評価することは研究者の評価の画一化につながり、研究にとって必要とされる多様性の発展を阻害しかねないと思われるからです。研究における多様性の重要さについては、例えば、野中は組織的知識創造を促進する要件として、組織の意図、自律性、ゆらぎと創造的なカオス、冗長性(当面必要としない仕事上の情報を重複共有すること)、最小有効多様性(複雑多様な環境に対応するためには、組織は同程度の多様性を内部に持っている必要があることを指す)を挙げています[文献1p.118-123] [文献2p.77]。また、Leonardは創造的摩擦の重要性を指摘しています[文献3p.93]。さらに、Belbinの<アポロ計画>のチームに関する研究では、高い能力を持った同質の人材からなるチームは、平均的な能力の異質な人材からなるチームよりも、一貫して低い成果しか出せなかった、との調査結果[文献4p.395による]もあり、多様性の重要性は多く指摘されることのようです。

 

加えて、実務的には、総合的研究能力の高い人材ばかりを選択して研究グループを編成することは困難なので、そうした能力尺度だけで適性を判断してもその結果は利用しにくいという問題もあります。研究のミドルマネージャーにとっては、ともかく与えられた人的資源を最大限活用して成果を得ることが必要であり、研究者の能力を高めること(能力の高い研究者を集めることも含めて)は長期的な視点に立って進めざるをえない状況にあるのが一般的ではないでしょうか。つまり、多様な研究者を使いこなすことこそが第一に求められているのだと思います。従って、研究者の適性を考える上では、能力よりも、どのような仕事に向いているか、どのような仕事が性に合っているかを基準に職務配置を考え、適性のある職務に従事させることでモチベーションを高く維持し、成果を得やすくすることを第一に考えるべきではないかと思います(もちろん、育成の意味で必ずしも研究者本人の嗜好に合わない業務に従事させることも必要な場合がありますが)。

 

では、どんな点に着目して研究者の個性を測ればよいのでしょうか。Leonardは問題解決におけるパーソナルな違いを生み出す三つのソースとして、専門性、認知スタイルの選好、ツールや方法論の選好を挙げています[文献3p.89]。認知スタイルの選好については、事実や歴史や経験を好む「知覚」的な志向と、メタファーや比喩や推論を好む「直観」的な志向の存在、また、判断型(選択肢を広げないで決定しようとする)と、認知型(より多くの選択肢やデータを探し、その間問題が曖昧であることを受け入れる)の存在、選択肢を増やすタイプの「発見する人」と、選択肢を減らそうとする「論破する人」の存在、正しいことを行なうことに気を使う「ヒッピー」と、ものごとを正しく行なうことに気を使う「オタク」の存在を指摘しており、さらに具体的に用いる道具やアプローチにも好みがあると述べています[文献3p.99]。また、丹羽は研究開発を行なう人間には、計画は不得意だが実施は得意(キャッチアップ時代に求められる)、計画も実施も両方得意(過渡期に求められる)、計画は得意だが実施は不得意(フロントランナーに求められる)の3つのタイプがあると述べています[文献5p.195]

 

このような選好やパーソナリティーの類型化、タイプ分けについては、診断テストのような手段で決定することが可能といわれています。しかしその結果を明示してしまうことには、その人に対して先入観をいだいたり、反対する人を排除するために使われたりする危険があることも指摘され、こうした多様性について容認することこそが重要なのであって、実務的には性格テストを実施しなくとも、空間の使い方(機能的に整理された部屋、子供のように散らかった部屋など)を見れば認知スタイルの選好がかなりわかる、という意見もあります[文献3p.115]。では、これらの選好がわかったとしてどのように仕事の分担と結びつければよいのでしょうか。そこで、上記の類型を参考に、ノート5において挙げた研究部隊に求められる仕事の分類に合わせて、認知スタイルの選好によってもたらされる行動のパターンを考えてみました。

 

ノート5では、業務に求められる要素を2つの次元を用いて分類しました。ここでは、その次元のどちらに興味があるかという選好が行動に現われるとどのような類型が可能かについて考えてみます。
研究者類型

その結果を上図に示しますが、上記の次元で分類された4つの行動類型は、いずれも日頃の仕事の進め方を観察したり、今の趣味や子供の頃の趣味(その選好が今も継続していれば)を聞いたりすることで情報を得ることが可能と思われますので、個人的選好と仕事のマッチングを図る上でのヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

 

もちろん、業務分担を考えるにあたっては、個人的選好のみで判断することには問題があるでしょう。特に、その人にとって新しい経験を積ませることで成長を期待する場合、経験から学ぶことを身につけさせたい場合などは、あえて選好と異なる業務を担当させる必要があるかもしれません。しかし、そうした場合にも、なぜその業務を担当させるのかをその人に納得させるために、選好と業務分担の判断についてきちんとコメントしておくことは重要ではないでしょうか。こうしたことが、自分の仕事の意味についての理解を深め、成長機会を感じることによりエンパワーメントにつながり、活性化につながるのではないかと考えます。

 

こうした適性の考え方に対し、Kelleyはイノベーションに必要な種々のキャラクターを考察し、それらは性格やタイプとは異なる「役割」と認識すべきであって、そうした役割は演じることができる、と述べています[文献6p.19]。自らの適性と業務に必要な役割を考慮した上で、選好や適性をも固定的なものとは考えずに積極的にコントロールすることも必要なのかもしれません。

 

なお、上記の議論は研究メンバーをどのように選ぶかという問題に関しても適用可能と思われます。ただし、メンバーを選ぶ際には「目的に合った人を選ぶ」のではなく「人を選んでから目的を考える」つまり、目的の変化にも十分対応可能な適切な人材を揃えることの方が必要である、という指摘[文献7p.65]も無視できないでしょう。Collinsは「適切な人材」とは専門知識、学歴、業務経験よりも性格と基礎的能力によって決まる、と述べていますが、この考え方は特に長期的視野に立った場合に重要な考え方であり、また、「適切な人材」を選ぶことでその人を管理する負荷が軽減される効果もあると思われます。

 

以上、研究者の適性と最適配置の問題について考えてみました。適性については安易な決め付けはもちろん好ましくないでしょうが、真に適性と業務のマッチングができれば、与えられた人的資源の効率的な活用という意味での大きな効果が期待できると思われます。研究のミドルマネージャーにとっては重要な検討課題と言えるのではないでしょうか。

 

 

文献1Nonaka, I., Takeuchi, H., 1995、梅本勝博訳、「知識創造企業」、東洋経済新報社、1996.

文献2:三崎秀央、「研究開発従事者のマネジメント」、中央経済社、2004.

文献3Leonard-Barton, D., 1995、阿部孝太郎、田畑暁生訳、「知識の源泉」、ダイヤモンド社、2001.

文献4Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K., 2001、後藤晃、鈴木潤監訳、「イノベーションの経営学」、NTT出版、2004.

文献5:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.

文献6Kelly, T., Littman, J., 2005、鈴木主税訳、「イノベーションの達人!」、早川書房、2006.

文献7Collins, J., 2001、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」、日経BP社、2001

参考リンク

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