研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

持続的イノベーション

破壊的イノベーションとは何か?(「What Is Disruptive Innovation?」(Christensen他著HBR2015Dec.)より

破壊的イノベーションという言葉が様々に使われ、混乱を招いているのではないかということについては別稿(「日本のイノベーションのジレンマ」(玉田俊平太著)より)でも述べました。この点について、この概念の提唱者であるChristensen氏がどう考えているのかを知りたいと思っていたところ、最近「What Is Disruptive Innovation?」[文献1]という論文(ChristensenRaynorMcDonald氏の共著)がHBR誌に発表されました。この論文で著者らは、破壊的イノベーションの概念を正しく理解することの重要性を述べるとともにあらためて著者の考えを提示し、さらに発表後約20年を経たこの概念がどう発展、検証されているかについても述べています。実務家にとっても非常に参考になる内容だと感じましたので、今回はその中の重要と思われるポイントをまとめておきたいと思います。(なお、本稿には、原文に比較的沿って訳した部分(「 」で表示)と、かなり省略したり意訳したりしている部分があります。全体の構成は原文に沿っていますが、本記事は筆者の理解をまとめたものとご解釈いただければ幸いです。)

破壊的イノベーションの概念を正しく理解することの意味
・「破壊的イノベーション理論の中心的概念の誤解は広く見られ、基本的な考え方はしばしば誤って用いられている。」
・「多くの人はこの言葉を自分に都合のよいようにいい加減に使っている。多くの研究者、ライター、コンサルタントも、状況を問わずある業界が大きく変化し、従来成功してきた既存企業がつまずいてしまうことを説明するために『破壊的イノベーション』を使っている。これは広すぎる使い方である。」
・「異なるタイプのイノベーションには異なる戦略が必要であり、破壊的イノベーションを、業界の競争環境を変えてしまうブレークスルーと混同することは問題である。言い換えれば、成功した破壊者や破壊を斥けるのに成功した事例から学べることは変化する市場の中の全ての企業に適用可能なものではない。」

破壊的イノベーションの要点
・「『破壊(Disruption)』というのは、少ない資源しかもたない小さな会社が、確立された既存企業にうまく挑戦するプロセスである。既存企業はその最も要求の高い(多くは最も利益の出る)顧客のために製品やサービスを改良していくと、いくつかのセグメントのニーズを越えてしまい、その他のニーズを無視するようになる。新規参入者はそうした見過ごされたセグメントを対象に、よりサステイナブルな機能やしばしば低価格で足がかりを作る。要求の高いセグメントを追っている既存企業は激しくは抵抗しない。参入者は初期のアドバンテージを維持したまま上位の市場に移動し、既存企業の主要顧客の要求に応える。主要顧客が参入者が提供するものを大量に採用するようになった時、破壊が起こる。」

Uber
は破壊的イノベーションか?
・「2009年に創業したUberは、モバイルアプリケーションを活用して大きな成長を遂げている。Uberは明らかにタクシー業界を変えつつあるが、これはタクシー業界を破壊しているのだろうか?。理論に従えば答えは『ノー』だ。」その理由は以下の2つ。
破壊的イノベーションは、ローエンドか、新市場を足がかりに生まれる
・「破壊的イノベーションは、既存企業が見過ごす2種類の市場からスタートすることで起こる。ローエンドは、既存企業が要求も収益性も高い顧客に対して、製品やサービスの品質を上げ、要求の低い顧客にあまり注意を払わないために生まれる。既存企業の提供する価値は、しばしは要求の低い顧客の要求を越えてしまい、破壊者は『十分によい(good enough)製品で破壊を始める。

・「新市場では、破壊者は今までに存在しない市場を創造する。非消費者を顧客に変える方法を見出す。」例えば、パーソナルコピー機は、1970年代、Xeroxが見過ごしていた個人顧客向けに製品を提供することで、個人や小企業向けの新市場を創造した。
・「Uberはどちらでもない。タクシー業界の品質が過剰だったわけでもないし、非消費者をターゲットにしたわけでもない。」破壊者はローエンドか非消費者へのアピールでスタートし、メインストリームへ移動していくが、Uberはまずメインストリームで地位を築き、続いて見過ごされたセグメントにアピールしている。
破壊的イノベーションは、その品質がメインストリーム顧客の基準に達するまでは、メインストリーム顧客に採用されない
・「破壊の理論では、破壊的イノベーションと持続的イノベーションを区別する。後者は、既存企業の顧客の立場からみてよい製品をよりよくする。」「進歩は段階的なこともあれば、大きなブレークスルーのこともあるが、最も収益性の高い顧客により多くの製品を売ることを可能にするものだ。」「破壊的イノベーションはほとんどの既存顧客にとって、劣ったものとみなされる。通常、顧客は安いからといって新しいものを採用するわけではなく、その品質が満足できる水準に達するまで待っている。それが起こって初めて、彼らは新しい製品の安い価格を受け入れる。」
・「Uberの戦略のほとんどの要素は、持続的イノベーションのように思われる。Uberのサービスは既存のタクシーより劣っていることはまずない。」「さらに、通常、既存企業が持続的イノベーションの脅威に直面したときと同様、多くのタクシー会社は対抗しようとしている。」

正しい理解の必要性
・「理論を正しく適用することは、その利益を享受するために不可欠だ。」例えば、あなたのビジネスの周辺に小さな競合企業が食いこんできたとしよう。それが破壊的軌道に乗っているのでない限り、無視してよい。しかし破壊的であれば致命的な脅威となりうる。

破壊的イノベーションについて見過ごされたり誤解されたりする4つの点
1、破壊はプロセスである

・「『破壊的イノベーション』は、特定の時点での製品やサービスについて言う場合に誤解を受けやすい。」「最初のミニコンピュータが破壊的なのは、登場したときにローエンドだったからではなく、後にメインフレームを凌駕するようになったからでもない。破壊的だったのは、周辺からメインストリームへという過程をたどったことだ。」
・「周辺からメインストリームに至る過程には時間を要するので、既存企業は既得権を守ることもできるが、しばしば破壊者を見逃してしまう。」

2、破壊者はしばしば既存企業とは大きく異なるビジネスモデルをつくりあげる
・「アップルのiPhoneは、最初はスマートフォン市場における持続的イノベーションだった。」その後のiPhoneの成長は、スマートフォンの破壊ではなく、インターネットのアクセスポイントとしてのラップトップの破壊として説明できる。これは単なる製品の改良ではなく、新しいビジネスモデルの導入である。iPhoneはインターネットアクセスにおける新市場を創造した。

3、成功する破壊者もそうでない破壊者もいる
・「成功したかどうかで破壊的かどうかを判断するのはよくある誤りである。すべての破壊的過程が成功するわけではないし、すべての成功した参入者が破壊的過程に従ったわけではない。」
・破壊の理論は、足がかりの市場でどうしたら勝てるかについて、可能性の予測と、資源豊富な既存企業との正面衝突を避ける方法以外のことはほとんど何も言っていない。

4、「破壊するか破壊されるか」という考え方は誤解を招く
・「破壊が起こっているなら、既存企業はそれに対応しなければならない。しかし、利益をあげているビジネスをやめてしまうような過剰反応をすべきではない。既存企業は持続的イノベーションに投資しつつ、破壊から生まれる新たな成長機会に焦点をあてた新たな部門をつくることができる。時には、この2つの大きく異なる運営をおこなうことになるだろう。破壊的ビジネスが成長すればコア事業から顧客を奪うかもしれない。しかし、リーダーは、その問題が現実のものとなるまでは、その問題を解決しようとすべきではない。」

破壊的イノベーションの視点が明らかにすること
・「ある技術や製品が本来的に破壊的か持続的かであることは稀である。また新技術が開発された時、破壊の理論はマネジャーがどうするべきかを指示してはくれない。そうではなく、持続的な道か破壊的な道かを選ぶヒントを与えてくれる。」

破壊の概念の進化

・破壊的イノベーションの理論は、持続的イノベーションの環境では既存企業が新規参入企業より好成績を収め、破壊的イノベーションの環境では好成績をあげられないという単純な相関関係だった。その背景には、既存企業が既存顧客に目を向け、破壊的イノベーションに投資しにくいことがある。当初、破壊的イノベーションは最下層の段階から起こると考えていたが、その後、ローエンドと新市場の区別に気づいた。破壊的イノベーションのこの2種類の足がかりを仮定することで、この理論はより強力で実際的なものとなった。
・一方、高等教育においては破壊はあまり進んでいない。その原因は既存企業も新規参入者も同じゲームプランに従っているためのようだ。現在の疑問は、新規参入者が既存企業の高コスト体質から離れて上位市場に移ることを可能にするような新技術やビジネスモデルが存在するのかどうか、ということだ。どうやらその答えはイエスのようだ。
・破壊的技術の向上速度を決めるのは、それを可能にする技術改善の速度だ。破壊の速度を支配する原因を理解することは、結果を予測するのには役立つが、破壊の速度は違っても、どう破壊をマネジメントすべきかは変わらない。

もっと学ばなければならない
・「破壊的イノベーションの理論を拡張し、精緻なものとするためにはまだ研究すべきことは多い。例えば、破壊的脅威への一般的、効果的な対応は不明確なままだ。今のところ、上級幹部の保護のもと、破壊的モデルを追求する独立した部門を設けるべきだと考えているが、これはうまくいく場合もいかない場合もある。既存企業が同時に参入者となることによる困難に対処する方法はまだ見つかっていない。」
・「破壊的理論は、イノベーションやビジネスの成功の全てを説明するものではないし、将来もできないだろう。」「しかし、破壊の理論は、どんな新しいビジネスが成功するかをより正確に予測してくれる。」破壊の理論の進化によって、企業のイノベーションを成功させるのに何が役立つかをよりよく理解できるようになるだろう。
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破壊的イノベーションの概念を正しく理解することの重要性は著者の指摘するとおりだと思います。誤解しやすい点もたしかにあると思いますが、何よりその有効性は、提唱依頼20年の検証を経てもその概念が生き残っており、発展しつつあることで証明されているように思います。従来の経営理論や経営思想の中には単なる流行に過ぎなかったり、時代の変化に耐えられず消えてしまったものも多いと思いますが、破壊的イノベーションの考え方は、より信頼性の高い理論であるような気がします。

本論文を読んで、破壊的イノベーションのメカニズムにおいて特に重要なのは以下の2点だと感じました。
・既存企業が破壊者を見過ごしたり、対応を怠ってしまうこと
・技術の進歩の速度は、顧客の要求が高まる速度を超えてしまいがちなこと
既存企業が破壊者を見過ごしてしまうことは、競争を考える上で重要なことだと思いますし、技術進歩の速度についての傾向は、競争優位を得るために忘れてはならないことのように思います。また、この論文では破壊的イノベーションにおける技術の役割が指摘されていることも興味深く感じました。「イノベーションのジレンマ」とそれに続く一連の著作では、破壊的イノベーションにおける技術の役割はあまり強調されておらず、ビジネスモデルの方が重視されているような印象でしたが、その後の研究によって技術の役割が見直されてきているのか、あるいは、時代が変化しているのか、興味のある点です。破壊的イノベーションについてその本質がより明らかになり、その理論が実務家にとってより使いやすくなることをこれからも期待したいと思います。


文献1:Clayton M. Christensen, Michael E. Raynor, Rory McDonald, “What Is Disruptive Innovation?”, Harvard Business Review, December 2015, p.44.
https://hbr.org/2015/12/what-is-disruptive-innovation

参考リンク



「日本のイノベーションのジレンマ」(玉田俊平太著)より

クレイトン・クリステンセン氏が提唱した破壊的イノベーションとイノベーションのジレンマの考え方の重要性については、本ブログでもたびたび取り上げてきました(ノート4破壊的イノベーションの現在、など)。ただ、「破壊的イノベーション」という言葉がクリステンセン氏の意図から離れた意味合いで使われているケースもあり、そのせいで混乱が生じている場合もあるように思います。

そこで、今回は、日本企業の事例を多く取り上げて破壊的イノベーションのポイントを解説している、玉田俊平太著「日本のイノベーションのジレンマ 破壊的イノベーターになるための7つのステップ」[文献1]を取り上げたいと思います。本書で著者は、「クリステンセン教授の『イノベーションのジレンマ』や『イノベーションへの解』などでは、事例が欧米企業中心で文章もやや難解であり、しかもメッセージが複数の書物にまたがっているため、破壊的イノベーションの理論とそのための戦略を多くの人にきちんと理解してもらうためのハードルが高かった。実際、私が接した人々の多くは、クリステンセン先生の一連の著作を読了しているにもかかわらず、破壊的イノベーションの理論を正しく理解していなかった[p.8-9]」と述べています。確かに、クリステンセン氏の理論には多くの示唆が含まれていてポイントが掴みにくいことはあるように思いますし、その結果「破壊」という言葉が単なる大きな変化や、既存の優位性や秩序の破壊という意味で使われてしまうこともあるように思います。ある考え方や理論についての理解を深めるためには、その理論をさまざまな角度から見直してみることも有効だと思いますので、イノベーションのジレンマと破壊的イノベーションの理論のポイントを再確認する意味も含めて、本書の重要と思われるところをまとめてみたいと思います。

PART
 I、破壊的イノベーションとは何か
1章、破壊的イノベーターだった日本企業

・事例:トランジスタラジオで真空管ラジオを破壊したソニー、業務用ゲームを家庭で遊べるようにした任天堂のファミコン、キャノンのバブルジェット方式インクジェットプリンタ

2章、イノベーションとはそもそも何か
・「現在、多くの学者の議論により、①アイディアが新しい(=発明)だけでなく、②それが広く社会に広く受け入れられる(=商業的に成功する)、という二つの条件が揃って初めてイノベーションと呼び得る、というのが定説となっている[p.41]」
・何が変わるかによるイノベーションの分類[p.43-45]:プロダクト・イノベーション(「製品やサービスが変わる」)、プロセス・イノベーション(「製品やサービスは変わらないが、それを作る方法や届ける方法が変化する」)、メンタルモデル・イノベーション(「顧客の『認識(メンタルモデル)』が変わる」「認識が変化したことで顧客が製品やサービスを消費した際に感じる『価値』が増大」)。

3章、破壊的イノベーションとは何か
・持続的イノベーション:「今ある製品・サービスをより良くする=従来よりも優れた性能を実現して、既存顧客のさらなる満足向上を狙う・・・徐々に性能を向上させる『漸進的なもの』もあれば、一気に性能を向上させてライバル企業を突き放す『画期的なもの』ものある。[p.52]」
・破壊的イノベーション:「既存の主要顧客には性能が低すぎて魅力的に映らないが、新しい顧客やそれほど要求が厳しくない顧客にアピールする、シンプルで使い勝手が良く、安上がりな製品やサービスをもたらす。[p.54]」「二つのパターンに分類できる。一つは、これまで製品やサービスをまったく使っていなかった顧客にアピールする・・・これは新市場型破壊と呼ばれる。そしてもう一つは、既存製品の主要性能が過剰なまでに進歩したために一般消費者が求める水準を超えてしまっている状況で、一部のローエンド顧客にアピールする・・・これはローエンド型破壊と呼ばれる。[p.55]」
・「無消費(nonconsumption)とは『顧客が何も持たない状態』のこと[p.56]」
・「破壊的イノベーションが起きている市場において、既存企業が陥るジレンマを、クリステンセン教授はイノベーターのジレンマと名づけた。既存顧客を満足させる持続的イノベーションでは無敵に近い大企業が、破壊的イノベーションには『なすすべもなく打ち負かされてしまう』ジレンマである。[p.70]」「企業は顧客と投資家に資源を依存している。企業は生き残るた顧客が必要とする製品やサービス、投資家が必要とする収益を提供しなければならない。そして、優れた企業には、顧客が求めないアイディアは切り捨てるシステムが整備されている[p.74]」。

4章、優良企業がジレンマに陥るメカニズム
・「顧客が製品に求める性能(ニーズ)には、生理的・物理的・制度的な理由などから利用可能な上限があり、その上限は時間が経っても変化しないか、ゆっくりとしか上昇しない[p.82]」。
・「既存の顧客が求める性能を向上させる持続的イノベーションにおいては、取り組むインセンティブやそのための資源を持つ既存大企業が圧倒的に有利だ。技術者は真面目なので、放っておくと今日よりは明日、明日よりは明後日と性能の向上にひた走る。そして、あるとき、供給している製品の性能が、顧客が『これ以上は要らない』と思う技術の需要曲線を超えてしまう。このようなときにしばしば、別の市場で使われていた技術や工夫、あるいは新しい技術や工夫によって低価格化を実現した製品・サービスが現れる。これらの製品・サービスの性能は、既存の主要顧客が求める性能よりもはるかに低いことが多く、当初、彼らには見向きもされない。・・・しかし、当初こそ性能が低いものの、こうした製品やサービスも持続的イノベーションの波に乗って徐々に性能を向上させ、市場をローエンドから浸食していく。[p.86]」
・「クリステンセン教授は、・・・企業の製品やサービスを取り巻く状況を持続的イノベーションの状況と破壊的イノベーションの状況の二つに分け、それぞれ異なる経営が必要だとしている。持続的イノベーションの状況とは、・・・自社の提供する製品の性能が、主要顧客の要求水準に追い付けていない状況だ。・・・この状況では、実績ある既存企業は積極的に競争に参加し、勝てるだけの資源も持っているため、ほぼ必ず勝つ。一方、破壊的イノベーションの状況とは、・・・自社が提供する製品の性能が、主要顧客の要求水準を超えてしまっている状況だ。この状況にある企業には、新規顧客や安価な製品を求める顧客をターゲットにした、シンプルで便利だが安くしか売れない製品やサービスの開発・提供が求められる。この状況では、新規参入者が既存企業を打ち負かす確率が高い。[p.88-89]」
・「要求の厳しいハイエンドの顧客獲得を狙う持続的イノベーションでは、既存企業がほとんど勝ち、既存の主要顧客には性能が低すぎて魅力的に映らない破壊的イノベーションでは、新規参入してきた破壊的イノベーターが勝つ[p.96]」。

PART II
、なぜ、日本の優良企業が破壊されてしまうのか
5章、テレビに見るイノベーションの歴史

・「据え置き型テレビの性能向上は、・・・普通の消費者にとって『十分以上に良い』性能に達してしまっている。・・・テレビを取り巻く環境は、2000年代半ば以降、『持続的イノベーションの状況』から『破壊的イノベーションの状況』へと変化してしまった[p.115-116]」

6章、ガラパゴスケータイを「破壊」したスマートフォン
・「欧米のシンプルな携帯電話を使っていた顧客から見ると、スマートフォンはこれまでの携帯電話より欲しい機能が増えた『持続的イノベーション』であると言える。[p.130]」「スマートフォンはそれまでの日本のガラケーよりも機能が低かった・・・ため、ガラケーの主要顧客には魅力的に映らなかった。・・・つまりスマートフォンは日本市場では破壊的イノベーションであったと言って差し支えないだろう。[p.134]」

7章、自らを破壊するものだけが生き残るデジタルカメラの世界
・「ミラーレス一眼は、コンパクトデジタルカメラしか作っていなかったパナソニックやオリンパス、富士フィルムなどのメーカーにとっては製品の性能が向上する『持続的イノベーション』だったが、一眼レフメーカーのニコンやキャノンにとっては『破壊的イノベーション』となる。[p.167]」

PART III
、破壊的イノベーターになるための7つのステップ
8章、破壊的イノベーション3つの基本戦略

・「クリステンセン教授が一番推奨するイノベーションは、これまでに何も使っていない『無消費』の顧客をターゲットにした新市場型破壊だ。[p.179]」
・「新市場型の破壊の機会が見出せない場合には、『ローエンド型の破壊のチャンスを探す』のが第二のアプローチだ。特に、現在供給されている製品やサービスの性能が、多くの消費者にとって十分以上に良い、『過剰満足』の状況にあるとき、この戦略は特に有効である。[p.180]」
・「最後に残る道が、あくまでハイエンドを目指す持続的イノベーションのアプローチだ。だが、単に製品の性能を向上させたり、機能を増やしたりするのはお勧めできない。なぜなら、前述のように顧客が受け入れ可能な性能には上限があるからだ。『客観的価値』が飽和状況であれば、顧客が製品やサービスを受けたときに感じる『メンタルモデル』を変化させることで『主観的価値』を向上させるのがよいだろう。[p.182]」

9章、アイディアを生み出す「苗床」とは
・「ヤングは、実際のアイディアが生み出されるプロセスは、次の5つの段階を経ると述べている。[p.192-193]」:①資料集め、②資料の咀嚼、③腑化段階(咀嚼したデータをいったん意識の外に出し、脳が無意識下でそれらを組み合わせるのに任せるのが良い)、④アイディアの誕生、⑤アイディアの具体化・展開
・「イノベーションは基本的にチームワークの産物だ。個人がまったく独力でイノベーションを成し遂げられたケースは少ない。[p.200]」
・「フレミングの論文によれば、非常に似通った学問分野の人々で構成されるチームから生まれるイノベーションは『平均値』こそ高いが、飛びぬけて価値の高い『ブレークスルー』は生まれにくい。[p.203]」

10章、「用事」と「制約」を探すニーズ・ファインディング
・「多様な人材で構成されるチームができたら、次は、『顧客がどんな用事を片付けたいか(ニーズ)』を見つけ、『それを妨げるものは何か』を洞察しよう。[p.205]」
・「ルーク・ウィリアムスは、すぐに見つかるペイン(痛い)ポイントよりも、小さくて一見支障がないテンション(緊張)ポイント、つまりイライラがたまっている点を探して改善することに、イノベーションの可能性が豊富に眠っていると述べている。[p.207]」
・「無消費者は、既存の製品やサービスがまったく使えないか、あるいは既存の製品やサービスをやりくりして『用事』を片付けている。これは、無消費者がフラストレーション(テンション)を感じている状況だ。[p.215]」「無消費の状況では、製品やサービスの消費が何らかの『制約』によって妨げられている。・・・クリステンセン教授は、『スキル』『資力』『アクセス』『時間』の4つをあげている。[p.216]」

11章、破壊的アイディアを生み出すブレインストーミング
IDEOによる7つのルール:1、価値判断は後回しに、2、ワイルドなアイディアを促す、3、他人のアイディアの尻馬に乗る、4、数を求める、5、一度に一人が話す、6、テーマに集中する、7、可視化する。

12章、破壊度、実現可能性による破壊的アイディアの選定
・「数百のアイディアの中から、『適切な』アイディアを『選ぶ』ことは極めて重要なプロセスだ。[p.240]」
・アイディアの破壊的イノベーションとしての可能性(アイディア・レジュメ[p.242-243]、チェックすべき項目[p.244-252]、破壊度評価[p.252-254]で評価)、自社の戦略との整合性、収益可能性、確信度に基づいて評価する。

13章、破壊的イノベーションを起こす組織とは
・「クリステンセン教授の理論から導かれる『定跡』のうち、最も重要なものの一つが破壊的イノベーションは独立した別組織に任せよというものだ。[p.257]」
・既存組織の価値基準との適合度、既存組織のプロセスとの適合度によりどのような組織で行われるべきかが決まる。[p.257-259

14章、破壊的買収4つのハードル
・破壊的買収の4つのハードル[p.269-283]:①資源を買うのかビジネスモデルを買うのかを明確にする、②買収先企業の価値を正確に見極める、③妥当な条件で買収契約を結ぶ、④買収した企業を適切にマネージする。
・「破壊的イノベーションに既存企業が対抗する手段は、『破壊的イノベーター企業を自ら外部に独立した組織として設立する』か、『破壊的イノベーター企業を買収する』の二つしかない。[p.284-285]」
―――

破壊的イノベーションの視点から日本企業の事例を見てみると、日本企業が新興企業だった時代に成功を収めた理由、現在既存企業として壁にぶつかっている理由のいくつかは破壊的イノベーションの理論で説明できるように思います。もちろん、すべてのイノベーションが成功するかしないかをこの理論で説明できるものではないでしょうし、あるイノベーションが破壊的なのかどうかを明確に特定できない場合もあるとは思いますが、少なくとも、典型的な例については、破壊的イノベーションが辿るだいたいの傾向というものはかなり明らかだと思います。

実務的には、おそらく、典型的な破壊的イノベーションと持続的イノベーションの特徴をおさえた上で、その背景にある既存企業におけるイノベーションのジレンマのメカニズムを認識しておくことが重要でしょう。そして、自らが取り組む課題について、破壊的イノベーションの理論から示唆される結果を予測するとともに、実際に起きている状況を観察してその課題が破壊的(あるいは持続的)イノベーションの特徴をどの程度備えているかをチェックし、将来予測の軌道修正を行うことが必要なのではないでしょうか。本書に示された破壊的イノベーションの考え方の要点は、そんな際の実務上の指針となりうるように思います。

著者は、クリステンセン氏が著書「イノベーションのジレンマ」において、「本書の理論から考えて、現在のシステムが続くなら、日本経済が勢いを取り戻すことは二度とないかもしれない[p.8]」と予想していることを紹介し、破壊的イノベーションの理論を理解することで、日本経済の再活性化につながることを期待しています。一技術者としては日本経済の先行きにまで貢献することは難しいかもしれませんが、少なくとも自分たちが取り組んでいる研究開発の成功確率を高めるために、破壊的イノベーションについての理解を深めることは意味のあることではないか、という気がします。


文献1:玉田俊平太、「日本のイノベーションのジレンマ 破壊的イノベーターになるための7つのステップ」、翔泳社、2015.


ノート4改訂版:企業の収益源となる研究テーマの設定

1、研究開発テーマ設定とテーマ設定における注意点

1.1研究活動における基本的な注意点→ノート1~3

1.2、研究テーマの設定

ノート1~3で述べた基本的な注意点をふまえた上で、どのような研究テーマに取り組むべきかを考えてみたいと思います。ここでは、テーマ設定の考え方を以下の3つに分けて考えます。

①企業収益に結び付くテーマ(つまり、事業的に成功が期待されるテーマ)

②企業が研究部門に求めているテーマ

③研究部門が実施したいと考えるテーマ

これらは、企業活動に貢献するために、誰の、どんな望みを叶えようとするのかという観点に基づいた分類です。従来の研究テーマの分類方法、例えば、テーマの発生のしかたに基づく分類(トップダウン、ボトムアップ、ニーズ志向、シーズ志向など)とは異なりますが、企業で行われる研究テーマのほとんどはカバーできていると思います。ちなみに、①は企業全体として取り組み、成功を目指すことを念頭に置いた課題、②は企業(他部署)からの求めに応じて企業活動に貢献する課題(トップダウン、ニーズ志向と呼ばれるテーマなど)、③は研究部隊の判断によって企業活動に貢献しようとする課題(ボトムアップ、シーズ志向のテーマなど)、というイメージになりますが、それぞれについて研究の性格や注意すべきポイントが異なると思われますのでこのように分けて議論することにしました。今回は、まず①について考えてみます。

①企業の収益源となるテーマの設定

どのようなテーマに取り組めば企業活動に最も貢献できるのでしょうか。端的に言ってしまえば、研究がうまくいき、収益を挙げるテーマということになりますが、どんなテーマが成功しやすいかはそれほど明らかではありません。研究やイノベーションへの取り組み方、進め方については様々な意見が発表されていますが、なぜその方法が有効なのか、同じようなことに取り組んでいても成功と失敗が分かれるのはなぜか、といった点について実証的に十分納得できる理論は未確立といってよいのではないでしょうか。

そんな中で、Christensenの破壊的イノベーションの考え方は、研究開発・イノベーションの成功や失敗のメカニズムに関する、現状では最も有効性の高い考え方であると思います。Christensenは、業界をリードしていた優良な企業が、ある種の市場や技術の変化に直面したとき、特段の経営上の失敗もないのにその地位を守ることができなくなった事例の分析を行ない、次のようなメカニズムが存在することを示しています。[文献1に基づき要約]

・ある技術の改良の速度が技術的要求(ニーズ)の進歩の速度を上回ることがある。

・その結果、技術はオーバースペックになる。

・オーバースペック技術であっても、収益率は高いことが多いし、ハイスペックを求める顧客も存在するので、企業はその技術をさらに進歩させようとする。

・往々にして収益性の高さや、既存顧客の確保のために、オーバースペック技術の開発に資源を集中させる。

・その結果、ハイスペックを求めない市場への興味を失い、対応が手薄になる。

・ハイスペックを求めない市場に新たな企業が参入する。

その参入方法は、以下の2通りの場合があるとされます。[文献2、p.493500に基づき要約]

a)ハイスペックを求めない顧客(ローエンドにいる顧客)に対し、それまで以上の利便性か、低い価格を用意する場合

b)従来のスペックで重視される尺度から見れば限界はあるものの今までにない特性からすれば様々な恩恵を与えてくれる製品で新たなマーケットを創造する場合

・いずれの場合も既存企業から見れば利益率が低かったり、市場が小さかったりして魅力の薄い市場であるため、既存企業と新規参入企業間での競争は起こりにくく、新規参入企業の成長は妨げられない。

・新規参入企業の進歩により、既存企業は従来の市場を奪われ、限られた顧客向けのハイスペック市場に追いやられたり、新規参入企業が開拓した新たなマーケットに参入を試みても失敗したりする。

・その結果、既存企業は優位な地位を失う。

このメカニズムにおいて、新たに参入する企業が武器として活用する製品ないしビジネスモデルは「破壊的(disruptive)イノベーション」と呼ばれ、既存企業が狙うハイスペックな技術、製品、ビジネスモデルは「持続的(sustaining)イノベーション」([文献2]では「生き残りのイノベーション」と訳されています)と呼ばれます。さらに破壊的イノベーションのa)の場合が「ローエンド型破壊」、b)の場合が「新市場型破壊」と呼ばれています[文献3、p.55]

Christensenはこのメカニズムに基づき、「既存事業を成長させるためには持続的イノベーションが重要だが、新成長事業として成功する確率が高いのは破壊的戦略である」[文献3、p.125]と述べています。さらにChristensenの共同研究者らは「持続的イノベーションだけを行なっている企業は、破壊的イノベーションを行なう他社に市場奪回の機会を提供してしまったり、すばらしい成長機会が間近にあるにもかかわらずそれを逸してしまったりという結果になる」[文献4、p.9]、「学術的研究によれば、持続的イノベーションにおける戦いでは常に既存プレーヤーが勝利する」が、「破壊的イノベーションの戦いにおいては、ほとんどの既存のプレーヤーが敗れることを示唆する調査結果がある」[文献4、p.26]という見解も述べています。もちろん、破壊的イノベーションの考え方だけですべてのイノベーションの成功を予測することはできませんが、少なくとも上記のような競争の状況においては、破壊する側、破壊に対抗する側のどちらについても、その研究テーマの成功しやすさの予測はある程度可能であると思われます。

なお、破壊的イノベーションに近い考え方にリバースイノベーションがあります[文献5]。「リバース・イノベーションとは、簡単に言うと、途上国で最初に採用されたイノベーションのことだ[文献5、p.6]」とのことですが、リバースイノベーションと、ローエンドの市場に参入する破壊的イノベーションとの関連は深いと思われます。今後、破壊的イノベーションの具体的方法のひとつとして、実務的にも発展していくかもしれません。

一方、KimMauborgneはブルー・オーシャン戦略を提唱しています。これは血みどろの戦いが繰り広げられるレッド・オーシャンから抜け出して「競争のない市場空間を生み出して競争を無意味にする」ブルー・オーシャンを創造することが重要な戦略行為である、と説くものです[文献6、p.4]。破壊的イノベーションの成功の一要因は既存企業との競合が起こりにくいことであることを考えれば、両者が目指すものは近い(特に、新市場型破壊のイノベーションと近い)と言えると思います。ただし、完全に競争のない市場の確立と維持ができなければ、いずれ既存企業や競合企業との競争が発生しますので、上記のような既存企業との競争のメカニズムも念頭におくべきであると思います(その点、破壊的イノベーションの理論の方が具体的で使いやすいと思います)。

他社との競合を避ける(自然と競合が起こらない状況になる場合も含めて)ことによって成功の確率を高めようとする考え方は確かに魅力的ではありますが、すでにある事業分野でそれなりの成功を収めている企業にとっては持続的イノベーションも重要です。実際、破壊的イノベーションの提唱者らも、「一般に、地位を確立している企業であれば、イノベーション資源の少なくとも80%を持続的な改良に配分することを推奨する」[文献4、p.376]としており、持続的イノベーションの重要性もよく認識する必要があります。

どのようなイノベーションを狙い、どのようにイノベーションを進めるべきかについて、Mooreは企業、技術、市場などの状況に応じて進め方を変える必要があると述べています[文献7、8]。考慮すべき状況として挙げられているものは、イノベーションの発展段階、市場の成熟度、企業の型(コンプレックスシステム-複雑な問題を解決するコンサルティング的要素が大きい個別ソリューションが提供される、ボリュームオペレーション-標準化された製品と商取引により大量販売市場でビジネスを遂行する[文献7、p.37])、競合他社に対する長期的な優位性を企業にもたらしてくれる要素(コア)かそうでないか、ある要素がうまく稼働しなかった場合には企業に深刻な結果がもたらされる(ミッション・クリティカル)かどうか[文献7、p.268]、競合他社との競争や自社のしがらみからの脱出[文献8]といった点です。このような細かな場合分けによる戦略は実用的には煩雑にすぎると思われますが、特定の状況におけるイノベーション上の問題解決には使える可能性があるように思います。

結局のところ、企業活動に貢献可能な成功確率の高い研究テーマを設定するためには、その研究やイノベーションが企業活動にどう影響するかをしっかりと認識し、状況に応じたテーマ設定が必要になるということでしょう。破壊的イノベーションのもたらす影響は大きく、その理論による成功や失敗の予測は(少なくとも他の理論よりは)高いと思われますので、この理論を無視することは得策ではないと言えると思いますが、それだけで十分というほど、イノベーションは簡単な問題ではないと思います。Christensenも「一面的な技術戦略をとるのは賢明なことではない。企業は、破壊的技術と持続的技術のどちらに取り組むかによって、明確に異なる姿勢をとる必要がある」[文献1p.270]と述べているように、テーマの設定だけでなく、その内容や状況に応じて進め方を変えるということも必須です。そのためにも、どんなテーマを設定し、それをどのように進めれば成功に至る可能性が高まるのか、というイノベーションのメカニズムをできるだけ実証的に理解することが、イノベーションのあるべき姿の追求ととともに重要なことなのではないかと思います。

考察:破壊的イノベーション理論の意義と重要な示唆

どんな研究をどのように行なえばイノベーションがうまく実現できるのか、ということは研究者であれば誰もが考えることです。しかし、研究者はえてして技術的成功に気をとられることが多く、企業的成功まで考えが及ばないことがあります。その理由のひとつには、技術的成功と事業の成功の関係が明確になっていないことが影響しているでしょうが、イノベーションについて経営学上の検討がなされていないわけではなく、ドラッカーをはじめとして多くの重要な指摘があります。しかし、経営理念から演繹的に述べられた示唆は、それが理屈では非常に納得できるものであっても、その主張を裏付ける実績なり理論なりがなければ、技術者にとってはどうしても縁遠く感じてしまいます。そこに現れたのがChristensenによる破壊的イノベーションの理論でした。技術者にとっては、破壊的イノベーション理論で示された実証的な考え方は、従来の経営理論を補うものとして受け入れやすく感じられたものです。もちろん、実証的とは言っても、科学的な証明にはほど遠いものですが、それでも経営の世界でここまでもっともらしく思われる理論が提出されたことは大きな驚きでした。

破壊的イノベーションの理論には、上述した既存企業の地位を脅かすメカニズムの他にも、イノベーションの成否を予測する上で重要な示唆がありますので、以下にまとめておきたいと思います。

・技術進歩は消費者のニーズを越えて進みやすい→トップ企業はオーバースペック製品を生みやすい。後発企業がトップ企業に追いつくことよりも、ニーズに追いつくことの方が容易。

・消費者は自分の本当のニーズを知らないことがある。

・既存企業にとっては、参入してきたばかりの後発企業と競争する必要性が感じられにくい(不均等の意欲)

・既存企業にとっては、生まれたばかりの破壊的技術を重要視しにくい社内のバイアスがある。

これらの原理は、破壊的イノベーターの成功を説明する手がかりになっているわけですが、実際には、破壊的イノベーションに限らず既存企業の活動の様々な場面で現れてくる現象のように思います。イノベーションの成功の理由の分析は、ともすると勝った企業の成功譚に基づいて行われがちですが、実は負けた方にもそれなりの理由があること、いくつかの原理の積み重ねで成功や失敗が決まる可能性を示したことが、Christensenの貢献のひとつではないかと思います。破壊的イノベーションは、単なる事例ではなく、技術に関わる経営を支配する原則の一部かもしれないという気がしますが、いかがでしょうか。



文献1:Christensen, C.M, 1997、クレイトン・クリステンセン著、伊豆原弓訳、「イノベーションへのジレンマ」、翔泳社、2000.

文献2:Christensen, C.M, Anthony, S.D., Roth, E.A., 2004、クレイトン・M・クリステンセン、スコット・D・アンソニー、エリック・A・ロス著、宮本喜一訳、「明日は誰のものか」、ランダムハウス講談社、2005.

文献3:Christensen, C.M, Raynor, M.E, 2003、クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー著、桜井祐子訳、「イノベーションへの解」、翔泳社、2003.

文献4:Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J., 2008、スコット・アンソニー、マーク・ジョンソン、ジョセフ・シンフィールド、エリザベス・アルトマン著、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.

文献5:Govindarajan, V., Trimble, C., 2012、ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル著、渡部典子訳、「リバース・イノベーション 新興国の名もない企業が世界市場を支配するとき」、ダイヤモンド社、2012.

文献6:Kim, W.C., Mauborgne, R., 2005W・チャン・キム、レネ・モボルニュ著、有賀裕子訳、「ブルー・オーシャン戦略」、ランダムハウス講談社、2005.

文献7:Moore, G.A., 2005、ジェフリー・ムーア著、栗原潔訳、「ライフサイクルイノベーション」、翔泳社、2006.

文献8:Moore, G.A., 2011、ジェフリー・ムーア著、栗原潔訳、「エスケープ・ベロシティ キャズムを埋める成長戦略」、翔泳社、2011.



参考リンク



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2010年のベスト50発明(「Time」2010.11.22号)

イノベーションや発明はどのように生み出されるのでしょうか。どんな発明が注目され、その将来はどうなるのでしょうか。Time20101122日号(vol.176No.21)に2010年のベスト50発明(The 50 Best Inventions of 2010)が発表されています[文献1]webサイトはこちら)。ここで取り上げられている発明は、単なるアイデアではなく、ある程度形(商業ベースの製品も含めて)になったものですが、それらの発明を題材として、世に出たばかりの発明がどう生まれ、どう育ちそうなものが多いか、何か傾向があるかを調べてみたいと思います。

 

まず、それぞれの発明について次の点から評価してみます。

・発明の出発点はニーズ志向とシーズ志向のどちらなのか。

・将来性を推し量るポイントとして破壊的イノベーションの概念にどのぐらいあてはまるか。

発明の内容についても興味があるところですが、私の知識不足のため正確な評価は困難と思われますので内容の評価は省略させていただくこととし、上記2項目の評価のみを試みることにしました。主に記事の内容に基づいた個人的な印象による評価になっていると思いますがご容赦ください。(発明の内容については、web上にいくつかのコメントがあり、参考にさせていただきました[文献2,3]。その他、個別の発明についてはweb上の記事も一部参考にしました。ほとんどの発明についてweb上に情報があります。)

 

発明の出発点の評価の表し方は次のとおりです。

●:シーズからの発想と思われるもの

○:ニーズからの発想と思われるもの

◎:かなりはっきりした(売れるだろうという)ニーズがありそうなもの

破壊的イノベーションの適合度の表し方は次のとおりです。(破壊的イノベーションについてはノート4をご参照ください)

★:持続的イノベーションと思われるもの

☆:破壊的イノベーションの可能性があるもの(1、従来やりたいと思っていたことができなかった顧客(非消費者)にアピールしている。2、従来のやり方をもっとシンプル(必要十分)にやりたいと思っていた顧客にアピールしている。3、競合製品がオーバースペックになっている。4、競合製品を製造しているメーカーが相手にしない可能性が高い。5、小規模な投資で始められる。それぞれについて☆1つずつとし、どの項目かはカッコ内に数字で示しました。)[この基準は文献4p.64213を整理、簡略化しました]

 

では、どんなものがTime誌のリストにあがっているか、見てみましょう。

No.1NeoNurture Incubator(古い車の部品を使って作った新生児保育器)、○☆☆☆(1、2、5)

No.2The (Almost) Waterless Washing Machine(ほとんど水を使わない洗濯機-ナイロンビーズで洗濯)、●☆(4)

No.3First Synthetic Cell(初の人工合成細胞)、●

No.4The X-51A WaveRider(超音速(軍用?)飛行機)、●★
 <2011.2.3追記:コメント1をご参照ください>

No.5Responsible Homeowner Reward Program(住宅ローン返済を滞らせなければ返済額を割り引くシステム)、○☆(1)

No.6Sony Alpha A55 Camera(半透過ミラーを使ったカメラ)、●★

No.7Lifeguard Robot(水難救助ロボット)、○★

No.8The Plastic-Fur Coat(値札止め用のプラスチックピンを多量に刺したコート)<一種のアートだと思いますので評価除外>

No.9The English-Teaching Robot(ロボット英語教師)、●

No.10Square(スマートフォンでクレジットカード決済ができるアタッチメント)、○★

No.11Bloom Box(燃料電池)、●★

No.12Lab-Grown Lungs(実験室でラットの肺を幹細胞から再生)、●

No.13The Deceitful Robot(状況に応じて嘘がつけるロボット)、○★

No.14Sarcasm Detection(皮肉を読み取れるソフトウェア)、○★

No.15BioCouture(バクテリアがつくるセルロース繊維生地)、●☆(4)

No.16Faster-Growing Salmon(遺伝子工学によって生まれた成長速度2倍の鮭)、●

No.17Road-Embedded Rechargers(道路に埋め込まれ、電磁誘導で電気自動車に給電するシステム)、○☆(1)

No.18The Straddling Bus(道路を走る車を跨いで走る立体バス)、●★

No.19Edison2(超軽量自動車)、●★

No.20Antro Electric Car(軽量小型電気自動車、太陽電池、人力チャージつき)、●★

No.21Electric-Car Charging Stations(電気自動車充電設備)、○☆(1)

No.22Sugru(接着性加工性耐久性に優れた粘土)、●☆☆(1,5)

No.23The Plastic-Bottle BoatPETボトル船で太平洋横断)<評価除外>

No.24Amtrak’s Beef-Powered Train(列車燃料として牛脂からとったバイオディーゼル油を利用)、●

No.25eLegs Exoskeleton(身障者用の歩行補助装置)、○★

No.26Woolfiller(セーターの虫食い穴を補修する材料)、○☆(4)

No.27The Seed Cathedral(上海万博での英国パビリオン、種の入った樹脂ファイバーで飾られている)<評価除外>

No.28Super Super Soaker(水の噴流で爆弾を処理する装置)、○

No.29Martin Jetpack(一人用の飛行装置)、●★

No.30Better 3-D Glasses(3D眼鏡改良版)、○★

No.31Google’s Driverless Car(無人運転自動車)、●★

No.32Deep Green Underwater Kite(水中に設置し海流で発電する凧のような装置)、●★

No.33Looxcie(耳につけるビデオカメラ)、●☆(3)

No.34iPad(有名なので説明省略!)、◎★

No.35Flipboard(情報を整理して見せてくれるiPadアプリ)、◎★

No.36STS-111 Instant Infrastructure(無人飛行船)、●★

No.373-D Bioprinter3Dプリンターで細胞を組み立てて臓器を作る)、●

No.38Spray-On Fabric(スプレーで布地、衣服を作る)、●☆(4)

No.39Iron Man Suit(人のパワーを増強するロボットスーツ)、●★

No.40-42Body Powered Devices (身体の動き、熱、地下鉄からのエネルギー回収)、●★

No.43Less Dangerous Explosives(安定性の高い爆発物-軍事目的)、○★

No.44Terrafugia Transition(空飛ぶ自動車)、●

No.45-46The Malaria-Proof Mosquito and The Mosquito Laser(遺伝子操作で生み出したマラリアを媒介しない蚊、蚊を選択的に攻撃するレーザー)、●★

No.47Power Aware Cord(電流が多く流れるほど明るく光るコード)、●

No.48X-Flex Blast Protection(爆風を防げる壁紙)、●★

No.49EyeWriter(目の動きで文字入力ができる装置)、○★

No.50Kickstarter(ネットで資金調達できる仕組み)、○☆(1)

 

実のところ知らない発明も多かったのですが、正直あまり売れそうもない発明が多いと思いました。ニーズに基づくと考えられる発明が16件と意外に少なかったですし、破壊的イノベーションの可能性がある発明も☆が1つ以上のものでさえ11件しかない(実際には☆1つでは破壊的イノベーションの条件は満たせていないと思います)、という点は期待外れでした。事業性の観点からはまだまだ不十分なものが多いと言わざるをえないと思います。ただし、記事の趣旨は面白い発明の紹介、ということでしょうから「将来に期待」ということでよいのでしょう。

 

ただ、これだけ並べるといくつかの示唆が得られると思います。以下に気付いた点を書いてみます。

・マスコミはシーズ志向で目新しさが感じられる「発明」に注目したがるものなのではないか。マスコミにとっては事業性は二の次?。→企業外のステークホルダーはもちろんのこと、企業の中でも研究開発で収益を上げようとは思っていない人々は、同じような発想をするかもしれないことは認識しておくべきでしょう。

・「発明」は注目されてからが正念場。事業化は注目されることよりもおそらくはるかに難しい。

・これらの発明はある程度形になっていますが、要素技術を形にする段階で世の中への適用方向をある程度仮定してしまっているため、そこで方向性を誤っている可能性もあると思います。発明の可能性は形になったものだけではなく、要素技術をどう生かすかという観点からも考えるべきかもしれません。

・破壊的イノベーションについても上記と同様、形になっているもので判断すべきではないと思われます。イノベーションの要素をどう扱い、破壊的イノベーションの形に育てるかが真の課題なのだと思います。→ちなみにChristensenは「刺激的な成長事業に乗り出そうと奮闘する企業にとっての根本的な問題が、優れたアイデアの不足であることはほとんどない」[文献5p.19]と述べていますが、これだけのアイデアを見せられるとそうかもしれないと思えます。

・破壊的イノベーションについてAnthonyらは「最初の戦略は必ず間違っている」[文献4p.373]と述べています。これらの発明が破壊的イノベーションとしてそのまま育っていくとは考えないほうがよいでしょう。

・日本発の発明が少ない。個々の発明に関するWeb上の情報をみると、日本でも似たような(あるいはもっと優れた)発明がなされているものもあるようです。マネジメントという観点からは重要でないことかもしれませんが、日本人は自らの発明のアピールをもっと工夫すべきだといえるのではないでしょうか。

 

以上、リストアップされた発明は、実用面での評価としてはあまり肯定的には受け取れなかったのですが、「夢がある」と感じられる発明があるのも事実だと思います。これは単なる編集者の好みかもしれませんが、世間が発明に期待していることのなかに「夢を与えること」があるのではないでしょうか。企業の立場としては収益にこだわらなければいけないのは当然ですが、「夢」は開発者のモチベーションを維持する上でも重要な要因になり得ますので、軽視してはならないことも再認識させられた気がします。今後これらの発明がどうなっていくのかは単純に興味がありますし、さらに、これらの発明を追跡調査すれば、発明がどう育っていくか、何が問題でどう改善されるのか、発明がどのくらいの確率で実用化できるのかなど、研究マネジメント上興味深い示唆も得られるのではないかと思います。現在進行形のケーススタディになるかもしれなという期待も込めてしばらく様子を見てみたいと思います。

 

 

文献1:「The 50 Best Inventions of 2010」、Time, vol.176, No.21, p.45, (2010).

記事のサイト→http://www.time.com/time/specials/packages/completelist/0,29569,2029497,00.html

文献2hiranoxxさんのブログ記事、「2010年の発明品ベスト50」

http://ameblo.jp/hiranoxx/entry-10713537467.html

文献3:しほのまちのユタ牛さんのブログ記事、「Time誌に掲載された“The 50 best Inventions of The Year”」

http://blogs.yahoo.co.jp/ty_so_long/63253590.html

文献4Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J., 2008、スコット・アンソニー、マーク・ジョンソン、ジョセフ・シンフィールド、エリザベス・アルトマン著、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.

文献5Christensen, C.M, Raynor, M.E, 2003、クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー著、桜井祐子訳、「イノベーションへの解」、翔泳社、2003.

 

ノート4:企業の収益源となる研究テーマの設定

研究テーマの設定

今まで(ノート1~3)に述べた基本的な事柄について認識したうえで、どのような研究テーマに取り組むべきかを考えてみたいと思います。ノート1でも述べたように、研究の目的として何らかの形で企業活動に貢献しようとする前提で考える場合、以下の3つのアプローチによるテーマ設定が有効なのではないかと思われます。

①企業の収益源となるテーマ

②企業が研究部門に求めているテーマ

③研究部門が実施したいと考えるテーマ

なお、ここでは研究テーマが上記の3種類に分類できると言っているわけではありません。2つ以上のケースに該当する場合もあるでしょう。しかし、いずれの分類でも企業活動への何らかの貢献が期待できるのではないか、という視点で分類を考えてみたものです(このどれにもあてはまらない場合にはそのテーマを実施する意味はかなり低くなるように思っています)。従来の研究テーマの分類方法としては、テーマの発生のしかたに基づく分類(トップダウン、ボトムアップ、ニーズ志向、シーズ志向など)がよくなされると思いますが、それとは異なり、何らかの役に立つという視点での分類を試みた、ということです。なお、トップダウン、ニーズ志向と呼ばれるテーマはおよそ②の区分に、ボトムアップ、シーズ志向のテーマはおよそ③に分類されることになると思われますが、以下では上記分類に従って、研究テーマのアプローチやテーマの性格の違いからどのようなことが考えられるか、どのような進め方をすべきか、などを議論してみたいと思います。

 

①企業の収益源となるテーマの設定

どのようなテーマに取り組めば企業活動に最も貢献できるのでしょうか。この問題を考える上でChristensenの分析は無視することができないものと思われます。

Christensenは、業界をリードしていた優良な企業が、ある種の市場や技術の変化に直面したとき、特段の経営上の失敗もないのにその地位を守ることに失敗した例の分析を行ない、次のようなメカニズムが存在することを示しています。[文献1に基づき要約]

・ある技術の改良の速度が技術的要求(ニーズ)の進歩の速度を上回ることがある。

・その結果、技術はオーバースペックになる。

・オーバースペック技術であっても、収益率は高いことが多いし、ハイスペックを求める顧客も存在するので、企業はその技術をさらに進歩させようとする。

・往々にして収益性の高さや、既存顧客の確保のために、オーバースペック技術の開発に資源を集中させる。

・その結果、ハイスペックを求めない市場への興味を失い、対応が手薄になる。

・ハイスペックを求めない市場に新たな企業が参入する。

その参入方法は、以下の2通りの場合があるとされます。[文献2、p.493、500に基づき要約]

a)ハイスペックを求めない顧客(ローエンドにいる顧客)に対し、それまで以上の利便性か低い価格を用意する場合

b)従来のスペックで重視される尺度から見れば限界はあるものの今までにない特性からすれば様々な恩恵を与えてくれる製品で新たなマーケットを創造する場合

・いずれの場合も既存企業から見れば利益率が低かったり、市場が小さかったりして魅力の薄い市場であるため、既存企業と新規参入企業間での競争は起こりにくく、新規参入企業の成長は妨げられない。

・新規参入企業の進歩により、既存企業は従来の市場を奪われ、限られた顧客向けのハイスペック市場に追いやられたり、新規参入企業が開拓した新たなマーケットへの参入を試みても失敗したりする。

・その結果、既存企業は優位な地位を失う。

 

このメカニズムにおいて、新たに参入する企業が武器として活用する製品ないしビジネスモデルは「破壊的(disruptive)イノベーション」と呼ばれ、既存企業が狙うハイスペックな技術、製品、ビジネスモデルは「持続的(sustaining)イノベーション」([文献2]では「生き残りのイノベーション」と訳されています)と呼ばれ、さらに破壊的イノベーションのa)の場合が「ローエンド型破壊」、b)の場合が「新市場型破壊」と呼ばれています[文献3、p.55]。

 

Christensenはこのメカニズムに基づき「既存事業を成長させるためには持続的イノベーションが重要だが、新成長事業として成功する確率が高いのは破壊的戦略である」[文献3、p.125]と述べています。さらにChristensenの共同研究者らは「持続的イノベーションだけを行なっている企業は、破壊的イノベーションを行なう他社に市場奪回の機会を提供してしまったり、すばらしい成長機会が間近にあるにもかかわらずそれを逸してしまったりという結果になる」[文献4、p.9]、「学術的研究によれば、持続的イノベーションにおける戦いでは常に既存プレーヤーが勝利する」が、「破壊的イノベーションの戦いにおいては、ほとんどの既存のプレーヤーが敗れることを示唆する調査結果がある」[文献4、p.26]という見解も述べています。

 

一方、Kim、Mauborgneはブルー・オーシャン戦略を提唱しています。これは血みどろの戦いが繰り広げられるレッド・オーシャンから抜け出して「競争のない市場空間を生み出して競争を無意味にする」ブルー・オーシャンを創造することが重要な戦略行為である、と説くものです[文献5、p.4]。破壊的イノベーションの成功の一要因は既存企業との競合が起こりにくいことであることを考えれば、両者が目指すものは近い(特に、新市場型破壊のイノベーションと近い)と言えるのではないでしょうか。(ただ、理論を実践するという立場からは、破壊的イノベーションの理論の方が具体的で使いやすいように思えます)。

 

このような他社との競合を避ける(自然と競合が起こらない状況になる場合も含めて)ことがポイントのひとつであるという考え方は確かに魅力的ではありますが、すでにある事業分野でそれなりの成功を収めている企業にとっては持続的イノベーションが重要な場合もあるはずです。実際、破壊的イノベーションの提唱者らも、「一般に、地位を確立している企業であれば、イノベーション資源の少なくとも80%を持続的な改良に配分することを推奨する」[文献4、p.376]としており、持続的イノベーション自体は重要なものであるという認識は間違っていないのだと思われます。

 

こうした状況に対し、Mooreは企業、技術、市場などの状況に応じてどのようなイノベーションを狙い、どのようにイノベーションを進めるべきかについて論じています[文献6]。ここで考慮すべき状況として挙げられているものは、イノベーションの発展段階、市場の成熟度、企業の型(コンプレックスシステム-複雑な問題を解決するコンサルティング的要素が大きい個別ソリューションが提供される、ボリュームオペレーション-標準化された製品と商取引により大量販売市場でビジネスを遂行する[文献6、p.37])、競合他社に対する長期的な優位性を企業にもたらしてくれる要素(コア)かそうでないか、ある要素がうまく稼働しなかった場合には企業に深刻な結果がもたらされる(ミッション・クリティカル)かどうか[文献6、p.268]といった点ですが、それぞれの状況や要素に応じて、進め方を変える必要があると述べています。このような細かな場合分けは大局的な観点からは煩雑にすぎるかもしれませんが、実行時に考慮しておくべき状況のチェックリストとしては有用と思われます。

 

結局のところ、企業活動に貢献するテーマの設定のためには、イノベーションが企業活動にどのように影響するかをしっかりと認識することが必須と思われます。この点において、破壊的イノベーションの考え方は無視できないと思われますがそれだけで十分というわけではなく、企業や技術の状況に応じたテーマ設定が必要ということでしょう。加えて、Christensenも「一面的な技術戦略をとるのは賢明なことではない。企業は、破壊的技術と持続的技術のどちらに取り組むかによって、明確に異なる姿勢をとる必要がある」[文献1、p.270]と述べているように、設定されたテーマや状況に応じて進め方を変えるということが必須であると言えるでしょう。もし、業務の進め方が変えられないのであれば、できうる進め方の範囲でテーマを設定するしかないのかもしれません。もちろん、それで企業が長期的に存続できるかどうかはわかりませんが。

 

 

文献1:Christensen, C.M, 1997、伊豆原弓訳、「イノベーションのジレンマ」、翔泳社、2000.

文献2:Christensen, C.M, Anthony, S.D., Roth, E.A., 2004、宮本喜一訳、「明日は誰のものか」、ランダムハウス講談社、2005.

文献3:Christensen, C.M, Raynor, M.E, 2003、桜井祐子訳、「イノベーションへの解」、翔泳社、2003.

文献4:Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J., 2008、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.

文献5:Kim, W.C., Mauborgne, R., 2005、有賀裕子訳、「ブルー・オーシャン戦略」、ランダムハウス講談社、2005.

文献6:Moore, G.A., 2005、栗原潔訳、「ライフサイクルイノベーション」、翔泳社、2006.


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ノート4改訂版(2013.7.28)
 

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