新しいものを「創造」することは、研究開発の大きな役割のひとつです。従って、「創造性」をどう考え、どう扱うかは、研究開発マネジメントを考える上での重要な課題のひとつと言えるでしょう。今回は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2014年11月号の特集「創造性vs.生産性」[文献1]の中の2編の論文に基づいて、「創造性」について考えてみたいと思います。

1編目は、琴坂将広著「企業は創造性と生産性を両立できるか」、2編目は、トム・ケリー、デイビッド・ケリー著「IDEO流創造性を取り戻す4つの方法」です。一口に「創造性」と言っても、その意味には幅がありますが、琴坂氏の論文では、企業の立場から、組織として新たなものを生みだす能力としての創造性が議論され、ケリー氏の論文では、個人が創造性を発揮するための条件が議論されているところが大きな違いでしょう。以下、それぞれの論文から興味深く感じた点をまとめたいと思います。

琴坂将広著「企業は創造性と生産性を両立できるか 組織の意味を再定義する時」
・「企業はいま、創造性と生産性を求められている。新しい技術やアイデアを基に市場を創造し、競争優位を築くために、創造性は不可欠である。一方、既存の事業やサービスの生産性をいっそう高めることは、永遠の課題でもある」。しかし、「創造性を高めることにより提供価値を高めながらも、生産性を高めることにより生産費用を低減させるという困難に、企業は直面している」。「新たな型を創り出すことと、見つけた型を磨き込むことは、技術的に見て相容れない努力を企業に求めるのである。」
・創造性と生産性を両立させ続けるための代表的な議論
1)独立した小さな組織群に創造性を発揮させる:バウワーとクリステンセンが提案。「より抽象化すれば、創造性を発揮する組織(独立した小さな組織群)を、生産性を追求する組織(成熟した既存の組織)から隔離するという打ち手」。「既存の資源を活用できないことにもつながりうる・・・、創造性を追求させるがあまり、逆に実用性に乏しい、利益を生まないアイデアが無作為に量産される危険を常にはらんでいる。したがって隔離するという打ち手は、広く用いられる一方で、万能の策ではない」。
2)製品やサービス自体を創造性と生産性が共存できるよう設計する:ギャルドとクマラスワミーがサン・マイクロシステムズの事例で論じた。「同社は、製品にモジュラー構造を用いることによって、同社が確立した技術的なプラットフォームに対する知見と、それを開発する能力を自社内に囲い込んだ。それとともに、多様な企業が製品革新に参加でき、特定の構成要素を常に新しい部品で置き換え、新たな商品群を投入していける柔軟性を担保した」。「しかし、この可能性が情報技術産業以外の他の産業や業務で、どの程度適用可能かは議論がある。そしていったん確立させた創造性と生産性を共存させる設計も、いわゆる『破壊的』な設計思想や商品コンセプトの登場により瓦解する可能性が常にある」。
3)創造性ある技術と人材は外部から購入する:「シスコシステムズ・・・は比較的小規模な企業を継続的に買収し続けている。これは単に技術や製品を手に入れるためだけではなく、新たな発想や創造性を持つ人材とそのチームを、社内に取り入れ続けるためでもある」。「しかしその獲得した人材が継続的に創造性を発揮する能力を失わないように、一定以上の自治を保証するという絶妙なバランスを取る必要がある。・・・こうした外部資源へのアクセスが限られる産業や業務分野では、継続的に創造性を外部から購入し続けるのは敷居が高い打ち手ともいえる」。
4)適切な評価指標と報酬制度を運用する:「ダブラらが述べるように、生産性を向上させていくような漸進的イノベーションと、創造性がカギとなるような破壊的イノベーションでは、その目標設定の特性や適切な報酬システムの傾向が異なるのは想像にかたくない」。「もし、異なる目的に対応した適切な評価指標と報酬制度を両立させることができるのであれば、創造性と生産性を両立させるインセンティブ設計が可能であろう」。「しかし、両者を共存させる目標の設定も、成果の計測も、報酬の算定も、こうすればよいという明確な手法は確立されておらず、いまだ試行錯誤の段階を突破できていない」。
5)組織的なシステムやプロセスを整備する:「クリステンセンは、意図的戦略策定プロセスと創発的戦略策定プロセスの2種類を効果的に使い分けることが戦略策定の成否を分けると言う」。「しかし彼も認めるように、この根本的に異なる両者を使い分けるのは難しい。なぜなら、そこには創造性と生産性の対立があり、一方に最適なプロセスが、他方には最適となりえないからである」。
・「現代では、これら5つの代表的な打ち手以外にも、無数の打ち手の可能性が主張され、検証されている。しかしこの課題が根源的であるがゆえに、我々はいま現在もこの問いに対する確たる答えを探し求めている。」
・著者は、この課題に対し、「自社の関わる価値連鎖全体に視野を広げるという考え方と、企業境界を複層的にとらえるという考え方」を仮説として提示しています。価値連鎖の戦略を磨き込むとは、「付加価値創造の連鎖構造全体を『企業体』として認識し、それ全体での創造性と生産性の共存を図る」ということであり、企業の境界を複層的にとらえるとは、「企業が所有権を保持する範囲である所有の境界、統治権を及ぼせる範囲である統治の境界、そして目的を共有し協業する範囲である協業の境界の3つの複層的な境界をとらえる」こととされています。
・著者は上記の仮説に基づいて、「自社と他社、社内と社外という二元論を捨て、複層的な組織の境界を明確に意識し、それを自社のビジョンや戦略に最適な形にデザインし直すことが、創造性と生産性を共存させるための近道なのではないだろうか」、と述べています。

トム・ケリー、デイビッド・ケリー著「IDEO流創造性を取り戻す4つの方法 恐れを克服し、自由な発想を生みだす」
・「創造性は天賦の才能だけではなく、修練するものである」。「創造性への自信を『再発見』するための支援が求められている。新しいアイデアを生み出す生得の能力と、それを試す勇気を引き出すのだ。そのために、ほとんどの人を尻込みさせる、やっかいな未知なるものへの恐れ、評価されることへの恐れ、第一歩を踏み出すことへの恐れ、制御できなくなることへの恐れという4つの恐れを克服する戦略を授けている。」
・やっかいな未知なるものへの恐れの克服:「ビジネスにおける創造的思考は、顧客(社内外を問わない)への共感とともに始まる。机に座っていては得ることはできない。たしかに、オフィスのなかは快適である。すべて安心感のある慣れ親しんだものばかりだ。ありきたりの情報源から情報を集め、矛盾するデータは排除され無視される。外の世界はもっと混沌としている。・・・そのような場所でこそ、インサイトや創造的なブレークスルーが見つかる。何かを学ぼうと思い切って足を踏み出せば、仮説を立てなくても、新たな情報に目を向けられるようになり、曖昧だったニーズを発見する助けを得られる。そうでなければ、既存のアイデアを追認するか、顧客や上司、あるいはライバルからすべきことを教えられるのを、ただ待つことになりかねない。」
・評価させることへの恐れの克服:「上司や同僚に失敗する姿を見られまいと、自分を曲げて、創造性を秘めたアイデアを押し殺す。『安全な』解決法や提案にしがみつくのである。そして後ろに下がって、他の人々がリスクを取るのを眺めている。しかし、常に自分を検閲しているようでは、創造的になれるはずがない。」、「頭に浮かんだ考えが消えていくままにせず、メモ帳に書き留めるなどして体系的にキャッチする。・・・評価は後回しにすれば、・・・自分がどれだけ多くのアイデアを持っているか、どれだけ気に入るアイデアがあるかに驚くことだろう。またフィードバックする場合も、月並みな言葉は使わないようにし、協働者にも同じことを勧めるとよい。・・・否定的評価をただ伝えるようなことはしない。・・・最初は肯定的なフィードバックで始め、次に一人称を使い、・・・聞き手がアイデアをより受け入れやすい形で提案するのである。」
・第一歩を踏み出すことへの恐れの克服:「これもまた、新たな道を示すことや、予想可能な作業の流れから抜け出すことへの恐れといえる。この惰性を克服するには、よいアイデアがあるだけでは十分ではない。計画を立てるのはやめて、ただちに始める必要がある。最善の方法は、大きな課題全体に照準を合わせるのではなく、すぐに取り組める小さな断片を見つけることだ。」、「ビジネスの文脈では、次のような問いかけで最初の一歩を踏み出せばよい。低コストの実験はどんなものか。より大きな目標に近づく最短かつ最も安価な方法はどれだろうか。」、「我々の合言葉は『準備などはやめで、始めよう!』だ。ごく小さな一歩にして、ただちに始めるようみずからに強いる。そうすれば、最初の一歩ははるかに恐ろしいものではなくなる。」
・制御できなくなることへの恐れの克服:「自信とは、単純に自分のアイデアがよいものだと信じることではない。うまくいかないアイデアは捨て去り、他者のよいアイデアを受け入れる謙虚さを持つということだ。現状維持を捨て去り、協力して取り組めば、自分の製品やチーム、事業のコントロールを断念することになる。しかし、それによって創造的な面で得るものは大きい。・・・主導権を譲って異なる視点を活用するチャンスを探すのである。」
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企業にとって、既存事業の効率を高めコストダウンを図ることと、新たな製品やサービスを創造して付加価値を高めることの両方が必要であることは、(特に先進国の企業にあっては)改めて言うまでもないでしょう。しかし、それを「創造性」と「生産性」の二者択一の問題であると捉えることが適当かどうかについては議論の余地があると思います。生産性の向上を、同じ作業の繰り返しによる習熟とスキルアップ、単なる努力や無駄の排除で達成するものととらえるならば、確かに生産性と創造性とは異なる要素が多いかもしれません。しかし実際には、方法やプロセスの改善によって生産性を向上させる場合には、創造的な解決策が求められることが多いものです。そう考えると、企業活動における創造性と生産性の問題とは、創造性をどの分野に活用するか、新規分野の創造に活用するのか、あるいは既存分野の改善に活用するのかという違い、とも考えられるのではないでしょうか。だとすれば、創造性を高めるにせよ、生産性を高めるにせよ、ケリー氏が示唆するような個人の創造性を高めることはどちらにも有効に作用するのではないかと思われます。

ただし、企業活動においては、資源配分の問題があります。資金をはじめとする経営資源を、既存事業の生産性向上に振り向けるのか、新規事業の創造に振り向けるのか。加えて、人的資源のうちの「創造的能力」をどちらに振り向けるのかによって、その企業の方針が決まるでしょう。さらに、振り向けた資源から、いかに効率良く創造的成果を得るか、という問題もあります。琴坂氏が指摘する創造性と生産性を共存させる環境づくりの難しさは、この資源配分の方法と、その資源を効率的に創造的成果に結び付ける方法(つまり、創造的成果の「生産性」を上げる方法)が未確立である、ということと考えます。

もちろん、この課題は容易に解決できるものではないと思いますが、ケリー氏の論文がヒントになるかもしれません。ケリー氏の指摘は、個人は、新しいことの実行に対する恐れがあると、「自分の時間」という資源を創造的な活動に振り向けにくくなることを示唆しているとも考えられるでしょう。そうした恐れを取り除くことで、個人が創造的活動に時間を使いやすくなるとすれば、企業レベルにおいても、同じような「恐れ」を取り除くことで、効果的な資源配分が可能になるかもしれません。加えて、個人のレベルで、自分の時間を創造的活動により多く注ぎ込めるとすれば、創造的成果の生産性が上がることへの寄与も期待できるでしょう。

つまり、創造的活動に注力する、ということは、企業における場合でも個人の活動を想定した場合でも、創造的活動に振り向ける資源を増やすことと、その資源から成果を得る効率を上げるということに帰着すると思います。琴坂氏の分析や提案をはじめとする様々な事例を参考に、ケリー氏が指摘する創造的活動への恐れを緩和するシステムを考え出すことができれば、創造性の高い組織の構築に近づけるのではないか、と思いますがいかがでしょうか。


文献1:特集「創造性vs.生産性」Diamond Harvard Business Review November 2014, p.27-82.
琴坂将広著、「企業は創造性と生産性を両立できるか 組織の意味を再定義する時」、Diamond Harvard Business Review November 2014, p.38-51.
Tom Kelley, David Kelley
、トム・ケリー、デイビッド・ケリー著、飯野由美子訳、「IDEO流創造性を取り戻す4つの方法 恐れを克服し、自由な発想を生みだす」、Diamond Harvard Business Review November 2014, p.62-71.(原著:”Reclaim Your Creative Confidence”, Harvard Business Review December 2012.

参考リンク<2015.3.8追加>