研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

育成

ノート11改訂版:研究組織運営におけるリーダーの役割

1、研究開発テーマ設定とテーマ設定における注意点→ノート1~6
2、研究の進め方についての検討課題
2.1
、研究を行なう人の問題
→ノート7~8
2.2
、研究組織の問題→ノート9~10

2.3
、研究組織営におけるリーダーの役割
ノート10
では、望ましい研究組織の特性とその運営について考えました。そうした運営を行なう上で、研究リーダーの果たす役割は大きいと考えられます。もちろん、そんなことよりもまずは責任者として組織を率いて与えられた課題を解決することがリーダーに求められる、という考え方もあるかもしれません。しかし、与えられた課題をこなしているだけでよいのか、組織の能力を発揮させるために具体的にどんな点に注意して運営すればよいのか、といったことも考えておく必要があるのではないでしょうか。そこでここでは、研究のリーダー、特に第一線に近い研究リーダーは組織運営にどう関わり、何を、どのようにしなければならないのかといった観点から、その役割を考えてみたいと思います。

研究開発リーダー役割の特徴
まず、「未知のことへの挑戦」といった創造性の発揮が求められる研究開発のリーダーと、一般的なリーダーとの違いついて考えてみましょう。開本はリーダーシップに関する諸研究をレビューしたうえで、研究グループを指揮する立場にあるリーダーのリーダーシップ行動について、以下のように述べています。「研究開発部門では、他の部門よりも管理職の技術的スキルの重要性が高い。つまり、研究開発技術者に対するリーダーシップを発揮するには、リーダー自身が技術的知識を持っており、フォロワーの仕事の内容を理解し、必要なアドバイスや情報を与えることが必要である。その際、ゲートキーパーの研究でも指摘されているが、単に情報を提供するのではなく、リーダーなりに必要な情報を加工した後、必要な情報をフォロワーに提供していくことが求められている。一方、人間関係スキルや管理スキルは、相対的に重要性が低い。(中略)研究開発のように不確実性の高い状況のもとでは、細かなスケジューリングやプランニングの有効性は低く、企業全体の方向性と両立する範囲での自律性を与える管理スタイルが求められる。また、研究開発技術者は、基本的に仕事そのものによって動機づけられる存在であるため、人間関係によって直接、成果が影響を受けることは少ないと考えられる。(中略)したがって、仕事を通じてモチベーションを引き出す、テクニカルスキルに基づくリーダーシップが、より重要となる。」[文献1、p.97-98]。このようなテクニカルスキルに基づくリーダーシップの重要性についての指摘は、一般の人材マネジメントとは異なる研究マネジメントならではの特徴と考えられますが、だからといって人間関係や管理のスキルが重要でない、ということにはなりません。特にHerzbergの言う「衛生要因」に分類される欲求、すなわち、それが満たされても動機付けにはならないが、満たされないと不満になるような欲求についてはそれを満たすことが大前提であり、その上で研究者に特徴的とされる「仕事そのもの」による動機付けを考えていく必要があるでしょう。(本ブログ参考記事:研究者の活性化(ノート7)研究の種類による評価指標やインセンティブ技術者にとっての内発的モチベーションの重要性

研究開発リーダーとして注意すべき点
研究リーダーがマネジメントを行う上での注意点としては、研究リーダーの役割と適性と、研究員のそれとの違いをまず挙げたいと思います。多くの場合、研究リーダーになるのは、研究員として何らかの業績を挙げた人である可能性が高いと思いますが、そうした一種の成功体験がリーダーとしての行動の問題点にならないように注意すべきでしょう。すべての「強み」は「弱み」になりうること、隠れていた弱みの存在、成功による傲慢、不運の処理などがリーダーのつまずく原因になるという指摘があります[文献2、本ブログ「リーダーがつまずく原因」]。リーダーというと、どうしても組織を率いることが主な役割と思いがちですが、例えばSASJim Goodnightが述べている「マネジャーは社員の『部下』となり、それぞれが高いモチベーションで働き、能力を発揮するよう努める」[文献3、本ブログ「働きがいのある会社とは」]、という考え方も状況に応じて必要と考えられます。

研究グループにおける多様性の確保
研究グループ内をどのようにコントロールするかについては、まずは多様性の確保を挙げたいと思います。多様性の重要性はノート10でも述べましたが、丹羽は、「異端児といわれる優れた技術者」について、その個人がイノベーションにおいて大きな役割を果たすとしても、『それを認めて採用する能力と決断力のあるマネージャーの存在が企業イノベーションの隠れた、いや、むしろ実質的な立役者』と述べています[文献4、p.31-32]。もちろん、どのような人材を部下に選ぶかはリーダーの自由にはならないかもしれませんが、研究グループ内での考え方の多様性、すなわち様々な発想を大切にし、異なる意見を受け入れる組織風土を作ることは可能ではないでしょうか。言い換えれば、多様な個性を認め、多様な人材の能力をひきだすことがリーダーの役割のひとつであると言えるように思います。

コミュニケーションの活性化
多様な意見を真に役立つものにするためには、コミュニケーションの活性化が必要でしょう。グループ内のコミュニケーションはもとより重要ですが、リーダーはグループ外とのコミュニケーションにおいて、ゲートキーパーの役割を担う必要があると言われています。ゲートキーパーは、情報をさまざまな情報源から収集し、それを最もうまく活用できるか、あるいはそれに最も大きな興味を持っている適切な人材に受け渡す役割を持つ[文献5、p.386]、とされますが、より具体的には、情報収集、グループ内部に理解される言語への翻訳、グループ内への伝達、という業務を担う[文献6、p.69]とされます。加えて、若い技術者にアドバイスを与える先輩の役割、研究開発活動への評価、市場調査などの役割も指摘されています [文献1、p.93]。グループ外からの情報に関しては、生の情報をそのままグループ内に流してもその意味するところが十分に伝わるとは限らないため、その情報の意義、解釈や付随する情報もあわせて伝えることが必要なのでしょう。技術のエキスパートとして、リーダーのコメントをつけることにより情報の価値を高めることができると言ってもよいでしょう。ただし、情報に加工を加えることがゲートキーパーの役割とは言っても、外部からの情報を一人占めしたり、制限したりするような行動は慎むべきと考えます。

グループ外との連携、調整
情報のゲートキーパーだけでなく、リーダーには外部との折衝や調整の役割もあります。特に、オープンイノベーションなど、様々な部署との連携や協力が求められる考え方の下では、自部署だけでイノベーションを完成させようとすることにはこだわらない方がよい場合も考えられます。Govindarajanらは、特に大企業において、収益源となる既存事業の「パフォーマンス・エンジン」とイノベーションチームの協力こそがイノベーションの原動力となりうる、という立場から、「イノベーション・リーダーは『パフォーマンス・エンジン』と相互に尊重し合う関係を築く努力をすべきである[文献7、p.52]」と述べ、「イノベーション・リーダーは自分たちが既存の体制と闘う反逆児だと思いこむ場合が多い。だが、官僚的な怪物に一人で立ち向かっても勝ち目はほとんどない[文献7、p.52]」と述べている点は心に留めておくべきだと思います。一方、「優れたボスは、“人間の盾”となることに誇りを感じ、社内外からのプレッシャーをみずから吸収するか、はねのける。そしておもしろみのない瑣事をみずから引き受けて、部下を働きにくくするような愚か者や余計な口出しと戦うのである。[文献8、(ただし、あらゆる場合に戦うべきだとはしていませんので、詳細は本ブログ「部下を守る?組織を守る?技術を守る?」を参照ください]」、という考え方のように、場合によってグループを守る行動も取れる必要があると思われます。

育成・指導
部下の育成・指導もリーダーの重要な役割でしょう。研究部隊の特徴として、技術的基盤の確保のための部下の育成は必須の業務と言えると思います。ただ、技術的な専門性に関しては、ある程度の時間をかければ日々の業務を通じて育成していくことはそれほど困難ではないでしょう(部下の学習に適した環境を作ることはもちろん重要ですが)。一方、マネジャーの育成については、様々な議論があり、McCallはリーダーの育成に関して、能力で選抜することの問題点を指摘し、経験から学ぶこと、経験によるリーダーシップ育成の重要性を述べています[文献2]Christensenも破壊的イノベーションの成功のためにはMcCallの方法が有効であると述べていますので[文献9、p.218]、効果的な経験を積ませることの重要性は認識しておく必要がありそうです。ただ、この時、リーダーがプレイングマネジャーとして実務にも関与する場合には、育成指導上の利点(やってみせること等)と、欠点(部下の経験のチャンスを奪うこと等)のバランスを考える必要があるように思います。

ロールモデル
部下と上司の関係でいえば、ロールモデルもリーダーの役割のひとつといえるのではないでしょうか。McCallは成長過程にあるマネジャーに対する上司の影響について最も重要なこととして、「ロールモデルとしての上司の行動とその行動結果を観察することで、組織が何を真に評価しているかについて学ぶ」[文献2、p.116]ことを挙げています。実際、グループメンバーにとって、経営トップがどのようなマネジメントのやり方を高く評価しているかを知る機会はそれほど多くないと思われますので、リーダーのどのようなやり方が効果的で、それが社内でどのように評価されるかを実例として示すことは重要だと思われます。その意味で、リーダーのマネジメントに対する考え方をグループのメンバーに説明しておくことは、将来のマネジャーを育成する上で非常に有益でしょう。

イノベーションリーダーの適性
最後に、イノベーションリーダーが持つべき能力に関するひとつの考え方をご紹介しておきたいと思います。Christensenらは、イノベータに特徴的な行動パターンを抽出しています[文献10、詳細は本ブログ「イノベーションのDNAをご参照下さい]。それは、1)関連づけ思考、2)質問力、3)観察力、4)ネットワーク力、5)実験力、であり、なかでも関連づけ思考が重要で、「誰でも行動を変えることで、創造的な影響力をますます発揮できる」[文献10、p.4]と述べています。研究開発業務において、どのような考え方をすべきか、どのような考え方ができるように育成指導すべきかを考える上で参考になるかもしれません。

以上、組織運営におけるリーダーの役割について考えてみました。研究開発のマネジメントといっても、トップの役割と第一線に近い研究グループのマネジャーの役割は自ずと異なっているでしょう。研究開発は全社的な活動であるため、トップマネジメントの重要性がよく指摘されますが、実務的には、研究グループのマネジメントの重要性もしっかり認識しておくことが必要と考えます。

考察:研究ミドルマネジャーへの注目?
研究開発、イノベーションを成功させるにはどうしたらよいか、この問いへのアプローチは近年かなり具体的になってきたように思います。以前は、研究者はどうすべきか、あるいは経営者はどうすべきか、という議論が多かったと思われるのに対して、イノベーション成功のためには、研究者の努力だけでも、あるいは経営者の戦略だけでも不足であることが認識され、イノベーションの進め方についてより具体的な提案がなされるようになるに従い、ミドルマネジャーの重要性への認識が高まっているように思います(個人的な感覚的意見で恐縮ですが)。もちろん、誰の役割がイノベーションの成功にとって重要なのかは、扱う対象によっても、状況によっても変わるでしょうが、トップから中間管理職を経て第一線に至るまで、すべての階層でそれぞれの役割に応じた努力と協力が求められるようになってきているような気がします。

ただし、研究ミドルマネジャー(リーダー)がどう動くべきかの方法論は、未確立と言わざるを得ないと思います。何をもって研究リーダーを評価すべきかの指標も未確立で、結局のところ、どんなプロジェクトが成功した(あるいは失敗した)のかに基づいて、その時のやり方が良かったのか、悪かったのかを評価することしかできないのが現状のようです。もちろん、今後この分野の知見は増えていくでしょうが、その時にも、研究者がどういう成果を挙げたのか、経営者がどういう戦略に基づいてどう判断したのかだけでなく、ミドルマネジャーがどう動き、どういう組織体制や組織運営が成功をもたらしたのか、という視点も併せて考察していくことが重要になるのではないかと思います。


文献1:開本浩矢、「研究開発の組織行動」、中央経済社、2006.
文献2:McCall, Jr. M.W.1998、モーガン・マッコール著、リクルートワークス研究所訳、「ハイ・フライヤー」、プレジデント社、2002.
文献3:James Goodnight(ジェームス・グッドナイト)、「クリエイティビティを引き出す」、Diamond Harvard Business ReviewSep., 2006, p.3.
文献4:丹羽清、「イノベーション実践論」、東京大学出版会、2010.
文献5:Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K., 2001、ジョー・ティッド、ジョン・ベサント、キース・バビット著、後藤晃、鈴木潤監訳、「イノベーションの経営学」、NTT出版、2004.
文献6:三崎秀央、「研究開発従事者のマネジメント」、中央経済社、2004.
文献7:Vijay Govindarajan, Chris Trimble, 2010、ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル著、吉田利子訳、「イノベーションを実行する 挑戦的アイデアを実現するマネジメント」、NTT出版、2012.
文献8:Robert I. Sutton、ロバート I サットン著、スコフィールド素子訳、「社内外のじゃま者と戦う 部下を守る『盾』となれるか」、Diamond Harvard Business Review, 2011, 2月号、p.86.
文献9:Christensen, C.M, Raynor, M.E, 2003、クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー著、桜井祐子訳、「イノベーションへの解」、翔泳社、2003.
文献10:Dyer, J., Gregersen, H., Christensen, C. M.2011、クレイトン・クリステンセン、ジェフリー・ダイアー、ハル・グレガーセン著、櫻井祐子訳、「イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル」、翔泳社、2012.

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ノート8改訂版:研究者の適性と最適配置

1、研究開発テーマ設定とテーマ設定における注意点→ノート1~6
2、研究の進め方についての検討課題
2.1
、研究を行なう人の問題
①研究者の活性化
ノート7

②研究者の適性と最適配置
人の問題といっても、第一線で研究を行なう研究グループのリーダーにとっては、人的資源はそれほど自由になるものではありません。ある程度まで与えられた資源の中でよりよい成果をあげることが求められます。そうした制約の中では、ノート7で述べた研究者の活性化が最も有効だと思いますが、どういう仕事を誰に任せるか、すなわちある業務に適性のある研究者にその業務を担当させることによって成果をあげやすくすることも重要です。研究者の適性と最適配置は、チームを編成する場合にも考慮すべきことと考えられますので、この問題を検討してみます。

まず、研究者個人の特質、適性について考えたいと思います。ただし、「適性」を、単に研究成果を挙げるかどうかという総合的な研究能力の観点で評価することは、少なくとも企業においてはあまり効果的とは思われません。というのは、実際の研究業務には性格の異なる様々な業務が含まれますし、多くの場合業務は組織として遂行していますので、成果が個人の能力や適性を正しく評価しているとは限らないからです。また、「成果」という一面的な評価尺度による評価では、研究者の評価が画一化してしまう危険もあり、研究にとって必要とされる多様性の維持を阻害しかねないという問題もあります。研究における多様性の重要さについては、例えば、野中は組織的知識創造を促進する要件として、組織の意図、自律性、ゆらぎと創造的なカオス、冗長性(当面必要としない仕事上の情報を重複共有すること)、最小有効多様性(複雑多様な環境に対応するためには、組織は同程度の多様性を内部に持っている必要があることを指す)を挙げています[文献1、p.118-123] [文献2、p.77]。また、Leonardは創造的摩擦の重要性を指摘しています[文献3、p.93]。さらに、Belbinの<アポロ計画>のチームに関する研究では、高い能力を持った同質の人材からなるチームは、平均的な能力の異質な人材からなるチームよりも、一貫して低い成果しか出せなかった、との調査結果[文献4、p.395による]もあり、複雑系の研究者であるPageも、「認識的多様性が集団の出来を向上させるという結論に達せざるを得ない[文献8、p.412]」と述べているように、多様性の重要性は多く指摘されることのようです。

加えて現実的には、何でもできる能力の高い人材ばかりで研究グループを編成することは困難といわざるをえません。従って、いわゆる「能力」よりも、どのような仕事に向いているか、どのような仕事が性に合っているかに基づいて職務配置を考え、適性のある職務に従事させることで研究者のモチベーションを高く維持し、成果を得やすくすることも考える必要があるはずです。多様な研究者をその適性に応じて使いこなすことこそ、研究のミドルマネジャーに求められていることだと思います。

では、どんな点に着目して研究者の個性を測ればよいのでしょうか。Leonardは問題解決におけるパーソナルな違いを生み出す三つのソースとして、専門性、認知スタイルの選好、ツールや方法論の選好を挙げています[文献3p.89]。認知スタイルの選好については、事実や歴史や経験を好む「知覚」的な志向と、メタファーや比喩や推論を好む「直観」的な志向の存在、また、判断型(選択肢を広げないで決定しようとする)と、認知型(より多くの選択肢やデータを探し、その間問題が曖昧であることを受け入れる)の存在、選択肢を増やすタイプの「発見する人」と、選択肢を減らそうとする「論破する人」の存在、正しいことを行なうことに気を使う「ヒッピー」と、ものごとを正しく行なうことに気を使う「オタク」の存在を指摘しており、さらに具体的に用いる道具やアプローチにも好みがあると述べています[文献3、p.99]。また、丹羽は研究開発を行なう人間には、計画は不得意だが実施は得意(キャッチアップ時代に求められる)、計画も実施も両方得意(過渡期に求められる)、計画は得意だが実施は不得意(フロントランナーに求められる)の3つのタイプがあると述べています[文献5、p.195]

このような選好やパーソナリティーの類型化、タイプ分けについては、診断テストのような手段で決定することが可能といわれています。しかしその結果を明示してしまうことには、その人に対して先入観をいだいたり、反対する人を排除するために使われたりする危険があることも指摘され、こうした多様性について容認することこそが重要なのであって、実務的には性格テストを実施しなくとも、空間の使い方(機能的に整理された部屋、子供のように散らかった部屋など)を見れば認知スタイルの選好がかなりわかる、という意見もあります[文献3、p.115]。では、これらの選好がわかったとしてどのように仕事の分担と結びつければよいのでしょうか。そこで、上記の類型を参考に、ノート5において挙げた研究部隊に求められる仕事の分類に合わせて、認知スタイルの選好によってもたらされる行動のパターンを考えてみました。

ノート5では、業務に求められる要素を2つの次元を用いて分類しました。ここでは、その次元のどちらに興味があるかという選好が行動に現われるとどのような類型が可能かについて考えてみます。
研究者類型

その結果を上図に示しますが、上記の次元で分類された4つの行動類型は、いずれも日頃の仕事の進め方を観察したり、今の趣味や子供の頃の趣味(その選好が今も継続していれば)を聞いたりすることで情報を得ることが可能と思われますので、個人的選好と仕事とのマッチングを図る上でのヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

もちろん、業務分担を考えるにあたっては、個人的選好のみで判断することには問題があるでしょう。特に、その人にとって新しい経験を積ませることで成長を促す場合、経験から学ぶことを身につけさせたい場合などは、あえて選好と異なる業務を担当させる必要があるかもしれません。しかし、そうした場合にも、なぜその業務を担当させるのかをその人に納得させるために、選好と業務分担の判断についてきちんとコメントしておくことは重要ではないでしょうか。こうしたことが、自分の仕事の意味についての理解を深め、成長機会を感じることによりエンパワーメントにつながり、活性化にもつながるのではないかと考えます。

こうした適性の考え方に対し、Kelleyはイノベーションに必要な種々のキャラクターを考察し、それらは性格やタイプとは異なる「役割」と認識すべきであって、そうした役割は演じることができる、と述べています[文献6、p.19]。自らの適性と業務に必要な役割を考慮した上で、選好や適性をも固定的なものとは考えずに積極的にコントロールすることも必要なのかもしれません。

なお、上記の議論は研究メンバーをどのように選ぶかという問題に関しても適用可能と思われますが、メンバーを選ぶ際には「目的に合った人を選ぶ」のではなく「人を選んでから目的を考える」つまり、目的の変化にも十分対応可能な適切な人材を揃えることの方が必要である、という指摘[文献7、p.65]もあります。Collinsは「適切な人材」とは専門知識、学歴、業務経験よりも性格と基礎的能力によって決まる、と述べていますが、この考え方は目的にマッチした人材を集めようとするあまり、性格などの人間的な側面を軽視することに警鐘を鳴らしているのだと思います。「適切な人材」を選ぶことで人を管理する負荷が軽減されることはこの考え方の重要な点だと思いますので、長期的視点から人を採用する場合にはこうした点にも注意が必要でしょう。

以上、研究者の適性と最適配置の問題について考えてみました。適性について安易に決め付けることはもちろん好ましくないことですが、適性と業務のマッチングができれば、与えられた人的資源の効率的な活用という意味での大きな効果が期待できると思われます。研究のミドルマネジャーにとっては重要な検討課題と言えるのではないでしょうか。

考察:研究への適性
上記では、研究者がどんな研究活動に適性があるか、という観点から考えました。しかし、その前に、どういう人が研究者に向いているのか、ということも考える必要があるかもしれません。企業における研究者の場合には、学問的な最高レベルを目指すわけではありませんので、専門性を支えるある程度の能力は必要だとしても、いわゆる勉強における「頭の良さ」「成績優秀」ということはそれほどこだわる必要はないような気がします。逆に「頭が良い」からといってどんな研究にも適性があるとはいえない、というのが私の印象です。特定の研究には適性があっても、別の種類の研究には向いていない、ということもあるでしょうし、「研究」には適性がなくても、研究活動をしない「技術者」や「研究マネジャー」には向いている場合もありうると思います。企業の場合、技術者の育成の段階で研究の経験をさせることは無駄なことではありませんので、やらせてみて適性を判断する、というのが現実的だと思いますが、その際の適性判断のポイントとしては以下のような項目があると思います。

・不確実性に耐えられること:研究者は不安に耐える必要があり、技術者は不満に耐える必要があるということはよく言われますが、不確実なことにフラストレーションを強く感じる性格の場合には研究者に向いていないかもしれません(本ブログ「研究開発とフラストレーション」)。
・他者と協力できること、うまくコミュニケーションできること:技術自体や、技術をビジネスにつなげる方法が、複雑化、高度化していますので、これからの研究は、一人の能力や努力だけで成功を掴むことは困難になると予想されます。従って、他者との協力やコミュニケーションが苦手な人は、少なくとも企業の研究者には向いていないかもしれません。例えば競争心の強い人には、その競争心が協働の妨げにならないように育成する必要があるように思います(本ブログ「競争心と研究開発」)。
・失敗から学べること(本ブログ「知的な失敗」)
・自律的であること(本ブログ「研究者の主体性」)
・新しいことへの意欲:少なくともひとつの分野での深い知識と、様々な分野への理解を併せ持つ「T型人間」が望ましいという考え方があります[例えば文献6、p.85]

実際には、最初に述べた適性も含めて、これらは教育や経験によって培っていける部分もありますし、チームとして個人の欠点を補うことも可能だと思われます。ミドルマネジャーには、日々の研究を実施しながら研究者を育成していくことも求められますが、「適性」を意識した人材の最適配置とともに、よりよい組織運営や、研究者をどの方向に育成するかを考える場合にも、「適性」についての理解は有用なヒントを与えてくれるのではないかと思います。


文献1:Nonaka, I., Takeuchi, H., 1995、梅本勝博訳、「知識創造企業」、東洋経済新報社、1996.

文献2:三崎秀央、「研究開発従事者のマネジメント」、中央経済社、2004.

文献3:Leonard-Barton, D., 1995、阿部孝太郎、田畑暁生訳、「知識の源泉」、ダイヤモンド社、2001.

文献4:Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K., 2001、後藤晃、鈴木潤監訳、「イノベーションの経営学」、NTT出版、2004.

文献5:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.

文献6:Kelly, T., Littman, J., 2005、鈴木主税訳、「イノベーションの達人!」、早川書房、2006.

文献7:Collins, J., 2001、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」、日経BP社、2001.

文献8:Scott E. Page, 2007、スコット・ペイジ著、水谷淳訳、「『多様な意見』はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき」、日経BP社、2009

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研究開発と会議

「会議」というと非効率なマネジメントの温床のように取り上げられることが多いと思いますが、そうでしょうか。結論から申し上げてしまうと、私は、要は「やり方」だと思っています。やり方次第で意味のあるものにも無駄なものにもなる、「会議」はそんなものだと思います。今回は、研究開発において会議を使いこなすためにはどんなことに注意すべきかを考えてみたいと思います。

会議にもいろいろな種類がありますので、ここでは以下の条件をすべて満たすものを「会議」と考えることにします。

・業務上の何らかの目的を持って、

・3人以上が参加し(少なくとも議事の間は拘束されて)、

・会話を通じて何らかの情報の授受が行なわれる

この定義では、いわゆる会議(ミーティング)から、ブレーンストーミング、報告会、研修会、勉強会、講演会、朝礼、挨拶式、式典、業務目的であればパーティーや懇親会なども、社内外を問わず含まれることになります。

こう考えると、複数の人間を拘束して会議を行なうコストに対して、情報授受や業務達成への貢献といったメリットが釣り合うかどうかが、会議の有効性を決めるポイントになると言えると思います。悪い会議の例として挙げられる、時間が長すぎる、参加者が多すぎる、といった点は、マンパワーというコストが浪費され過ぎていることが問題であり、目的がはっきりしない、会議の内容を業務にどう反映させるかがはっきりしない、授受される情報の質が低い(役に立たない)、会議という形式で伝達するのに適した情報でない、といった点は、得られるメリットが少ない、ということであると考えられます。

つまり、目的を決めて、どんな情報のやりとりを行ないたいかを決めれば(それを決めないのは論外ですが)、誰を参加させるべきか、どのぐらいの時間、どういう形式で行なうべきかはだいたい決まってしまうと言えるでしょう。あとは実施してみて、期待したメリットと実際に得られたメリットを比較して軌道修正していけば会議の効率化は可能なはずなのですが、研究開発における会議については若干注意すべき点があるように思いますので、以下にそのポイントをまとめておきたいと思います。

研究開発活動におけるミーティングの重要性については「報連相と研究開発」でも触れましたが、ミーティングは研究実行の時間を空費するとして嫌う研究マネジャーがいるのも事実です。研究マネジャーは研究員からのデータをもとに判断し指示を行なって研究グループ内や他部署との調整を行なう役割を担い、研究を実行するのは研究員、という分業が好ましいと思っている人は会議は無駄と思うかもしれません。実際このような分業は確かに効率的で、開発プロジェクトのように目標がはっきりしている場合や、研究グループ全体が研究マネジャーの方針に従って研究を進め、発生した問題は研究マネジャーと研究員の間で個別に解決可能な場合には有効な進め方です。私も、業務の性格によっては、ミーティングを必要としないこのような進め方を否定するものではありません。

しかし、組織的知識創造が必要とされる場合や、研究グループ内での情報交流が有効な場合、研究員同士の議論や交流が必要な場合、研究員の育成が必要でマネジャーと研究員の一対一のやりとりでは業務を通じた教育が不十分な場合、上司と部下という上下関係のマネジメントではうまくいかない場合(これには、部下が上下関係のマネジメントを好まない性格である場合も含まれます)のような場合には、ミーティングを通じたマネジメントが有効な場合が多いと考えられます。たしかに、ミーティングはマンパワーを消費するデメリットがあるのですが、上記のような場合にはデメリットを補うメリットが期待できるのではないでしょうか。もし、マネジャーの好み(ワンマンな性格、何でも指示したい性格、短期的な成果を求めすぎる性格など)に影響されて、会議を拒否しているとするなら、それは一種の損失と言えるでしょう。そもそも、研究開発行為には、ある程度の無駄や余裕が必要であることはよく指摘されます。「考える」行為は、一見無駄なように見えることがありますし、「育成」というのは成果を得るための一種の投資ですのですぐにリターンが得られるわけではないわけですが、それらを安易に切り捨てるような考え方にはやはり問題があると言わざるをえないと思います。つまり、ミーティングを重視することが基本であって、状況によってはミーティングを行なわない組織運営を選択してもよい、と理解すべきだと思います。

ミーティングを有効なものにしたいなら、具体的には次の点に注意が必要だと思います。まずは、研究グループ内で行なわれるミーティングを考えてみましょう。

・目的を明らかにすべき。上司から部下への伝達なのか、部下から上司への報告なのか、自分たちの成果についての情報共有なのか、社内外の情報の共有なのか、勉強のためなのか、アイデア出しのディスカッション(ブレーンストーミングなど)なのか、材料を与えて考える時間をとることが目的なのか。

 →その目的に応じて、参加者、時間、やり方を変えるべき。この時、参加者に目的を宣言して、進め方について意見を求めることは有効。

・上司から部下への情報伝達は有意義。ただし、要領よく。

 →文書によって伝達されたことであっても、言葉で再確認することは効果的。伝達の背景や上司の考え方、ポイントを伝えることができ、メンバーにとってもマネジャーにとっても自分の気付かなかった質問や意見を他のメンバーが言ってくれることがあり貴重。

 →人によって、文字によるコミュニケーション、言葉によるコミュニケーションのどちらが効果的かが異なる。

 →その場で部下の反応を観察し、意見を吸い上げることができる。

・部下から上司への報告だけなら、同席しているメンバーにとっては意味がない。会議で報告しなくてもよい。

 →他メンバーの報告結果によって、自分の仕事が影響を受ける、あるいは自分が他メンバーの仕事に関与する可能性がある、結果が参考になる、などのような報告なら有意義になる。

 →他メンバーの報告によって、メンバー間の健全な競争心を刺激することが可能。ただし、足の引っ張り合いにならないようなマネジャーのコントロールが必要。成果が上がったことをグループ全体のメリットにするような工夫が有効。

・議論の種になる話題提供は有意義。

 →上司から部下に対する話題提供、相談も可能。

 →部下がかかえる問題をメンバー全員で考え、アドバイスすることができる。

 →ミーティングの場に拘束することで、強制的に考えるための時間を作ることができる(人によっては考えることよりも実行することを好む人がいるので)。「考える」ことが目的の場合、時間的効率を多少犠牲にしてもよい。

 →組織的知識創造、新たなアイデアの創発の機会となる。創発、発見の楽しさを実感させる。

 →ベテランの過去の経験や知識を引き出す機会となる。

 →教育、指導、相互啓発の機会となる。

 →リーダーがゲートキーパーとなって、外部の情報を翻訳してグループに伝えることができる。

・情報共有によって、メンバーのプロジェクトへの参加意識を高めることができる。

・自らが得た結果についての会議資料を作ることは、データを整理して見直すよい機会になる(データをとりっぱなしで整理が苦手な人に対する指導になる)。ただし、元のデータを、どういう考えに基づいてどのように整理、解析したかも重要なので、なるべく一次データに近いデータの提出も義務づけるべき。異常値の取り扱いから学べることは多い。

このようなミーティングとは別の形態の会議としては、研究成果報告会が挙げられます。これは、研究グループよりもやや大きい組織単位での情報共有が主目的になると思われますのでそれに適した運営をすればよいのですが、場合によっては研究担当の経営幹部に対する報告の形式を取ることがあります。しかし、この類の報告会には無駄が多いというのが私の印象です。比較的大きな研究所の所長への報告会を例に考えると、専門的内容を所長が十分に理解できることは稀なので深い議論ができず、同席させられる同僚研究者にとってあまり参考にならない内容であることが多いものです。研究の進捗の幹部への報告だけなら研究リーダーからの個別の報告で十分でしょう。たしかに、成果をまとめること、プレゼンの練習にはなりますが、これは学会等への発表でも同じ効果が得られるはずです。幹部への業績アピールの機会であるという考え方もありますが、それだけであれば同席させられる人たちにとっては無駄でしょう。唯一メリットがあるとすれば、幹部の考え方を研究員に伝える機会になりうる、ということですが、それも報告会形式よりもうまいやり方があると思います。もし、報告会を有効に活用する可能性があるとすれば、幹部自身が、報告会参加者に自分のメッセージを伝える材料として題材を選び、しっかりとした意見を述べる場合だろうと思います。会議によるメリット、デメリットを考えると、特に参加者を拘束するデメリットが大きいと考えられるのですが、いかがでしょうか。

結局のところ、効果があると思われること、逆効果ないし効果がないと思われることを認識して、そのことを実行する価値があるかどうかを判断することが、会議であろうと何であろうと研究開発をうまく進めるために重要なことであると思われます。今までの慣習や一般論にはとらわれず、きちんと考えて無駄なものは切り捨て、有効な方法を創造していく柔軟性は大切にしなければならないと思います。



 

イノベーターのDNA


ダイアー、グレガーセン、クリステンセン著の論文「イノベーターのDNA[文献1]について考えてみたいと思います。この論文では、イノベーティブな企業を立ち上げた、あるいは新製品を開発した3500人超の調査に加えて、マイケル・デル、ジェフ・ベゾスなどのイノベーティブな著名起業家25人の日常習慣調査によって、最も創造性あふれるビジネス・リーダーの特徴が明らかになったとされています。

その特徴とは次の5つの「発見力(Discovery skill)」です。

1、関連づける力(Associating

「異分野から生じた、一見無関係に思える疑問や問題、アイデアをうまく結びつける能力」のことで、そこから新たなアイデアを生むことも含まれます。

2、質問力(Questioning

『適切な答えを見つけ出すことよりも、適切な質問を投げかけることが重要』(ドラッカー)であって、質問力の高い人は、例えば、『なぜか』『なぜだめなのか』『もし~だったら』と問う、前提を覆そうとする、正反対の2つのアイデアを頭のなかに浮かべる、あえて異議を唱える、制約を受け入れることで型破りな洞察を導き出すとされています。

3、観察力(Observing

「一般的な現象、とりわけ潜在顧客の行動を詳しく調べることで、非凡なビジネス・アイデアを生み出す」「注意深く、意識的かつ継続的に、顧客やサプライヤー、他社のちょっとした行動をつぶさに観察し、新しいやり方のヒントを見つける」とのことです。

4、実験力(Experimenting

「どんな洞察が得られるのか、インタラクティブな実験を設計して、予想外の反応を起こそうとする」ということとともに、単に、「試作品をつくったり、パイロット版を販売してみたりと、積極的に新しいアイデアを試す」ことも含め、実験を重視し、学習のためには失敗してもかまわないと考える傾向を指摘しています。

5、人脈力(Networking

「自分の知識の幅を広げるために、自分とは異なるアイデアや視点の持ち主たちに会う」「自社以外で生み出された発見や進歩を自分たちの仕事に取り入れる」という志向であって、単に求める資源にアクセスするため、自分や自社を売り込むため、あるいはキャリアアップのための人脈づくりではないとしています。

そして、このうち、1の関連づける力が新たな洞察を生むための基幹であって、他の4つの発見力は関連づける力を強化し、新たな洞察を生む一助となる、というのが基本的な考え方のようです。実際原論文では、1、が「Thinking」の、2~5が「Doing」カテゴリーに入っていて役割が区別されているように思われます。

さらに、こうした能力について、「イノベーション思考が生まれつき備わっている人もいるが、実践を通じて開発・強化することが可能」と主張しています。「DNA」という例えからは持って生まれた資質が重要という印象を受けてしまいがちですが、研究によれば、創造的思考力の1/3は遺伝で決まり、2/3は学習によって習得可能であって、イノベーション能力は「まず必要な能力を理解し、練習し、実験し、最後におのれの想像力に自信を持つことによって得られる」としています。具体的には、イノベーション能力の獲得のためには質問力が重要で、問いかけによって他の発見力も活性化されるとし、その他にも、観察すること(ただし、その判断は保留する)、ノートや写真を撮る、仮説を立て検証を行なう、新たな知識に触れる、実験を制度化する、失敗を通じて学習することの価値を公言する、多様な人たちとアイデアの交換をする、などの方法が示されています。

以上が論文の概要ですが、いかがでしょうか。実を言うと、私には5つの発見力についてはそれほど目新しいことではないと感じました。例えば、関連付ける力は、Schumpeterのいう、「非連続変化は新結合の遂行によって起きる」[文献2p.113]という考え方からその重要性は示されているでしょうし、質問力であげられた「なぜか」「もしそうだとしたら」などの問いの例は、技術者ならごく普通に行なうことです。Kellyがあげているイノベーションに必要な人材の中には、人類学者、実験者、花粉の運び手、という概念がありますが、それらはこの論文の3、4、1にそれぞれ対応するでしょう。観察力は、エスノグラフィーの活用としても重視されていますし、人脈力はまさにオープンイノベーションがやろうとしていることと深く関連していると思われます。もちろん、イノベーターの調査を行なって傾向を実証したことは意義あることでしょうが、イノベーションで優れた実績を挙げた人々がこれらの特徴を持っていること自体はごく当たり前のことのように思いました。また、こうした特性が学習によって身につけられるという主張については、残念ながらこの論文では根拠が示されてはいません(主張は正しいと思いますが)。

しかし、この論文は2009年のマッキンゼー賞銀賞論文[文献3]に選ばれています。もちろん賞を取ったという理由で内容を評価することは正しい判断ではありませんが、自分の理解を見直すきっかけにはなります。さらに著者も、優れたイノベーターに特徴的に見られる能力を調査し、比較的当たり前の結果を得ただけであれば大きな意義はないことは認識していると思います。加えて、Christensenが前著でイノベーションのリーダーはある特定の資質を持った人ではなく、経験から学べる人であり、学習によってマネジメント能力が形成される、と主張している[文献4p.218]ことと、この論文の主張がどうつながるかがよく理解できません。そこで、もう少し、著者の意図を推測してみると次のようなことが言えるのではないかと思います。

・5つの発見力について、著者らは、「関連づける力」が基幹能力として重要であると提言している。

・これらの能力を同時に保有することが重要である可能性がある(これは私の解釈です)。

・イノベーターに必要な特徴は育成することができ、その育成の方法として、4つの行動(5つの発見力の2~5)を行なうことを提言している。つまり、この論文で挙げられた5つの発見力は、単にイノベーターが持つ重要な資質を列挙したものではなく、イノベーターとしての能力を育成し、発揮させるために重要な能力、行動パターンとして示されたものと理解できる。

特に、最後のポイントについては、よく読むと論文中でも言及されており、論文の最後では「アップルのスローガン”Think Different”は心に響くものだが、それだけでは足りない。イノベーターたる者、他人と違うように考えるには、常日頃から他人と違うように行動しなければならない」と述べられています。実はこの部分について、Dyerは「イノベーターのDNA」について語ったビデオのなかで、「You have to act different to think different, and what we’ve tried to do is to show you exactly how you act different in order to be able to think different and be creative and innovative.[資料5]つまり、「think differentをするためには、行動を変えるべきであり、think differentできるようになり創造的でイノベーティブになるために、どのように行動を変えればよいかを提示しようとした」、と述べています。おそらく著者らはある程度の確信をもって、質問力、観察力、実験力、人脈力を磨くことでイノベーティブになれるということを提言しているのだと思います。ここが本論文の最も重要な点なのではないでしょうか。

こうした考え方であればChristensenの前著の主張とも一致すると考えられますし、それなりに有意義な提言を含んでいると理解できると思われます。もちろん、この論文だけではこうした提言が有効であると主張するには明らかに根拠不足です。優れたイノベーターがその能力をどうやって身につけたかのプロセスを明らかにし、それが生まれつきの才能ではなくこの論文で述べられているような行動をすることで身につけたものであることを納得させるような調査結果が示されない限り、十分に納得できるものではありません。ただ、上記のように理解すると少なくとも仮説としては示唆に富んでいるように思えます。この論文の内容は本にまとめられ、この7月に刊行予定、とのことですので、そこで語られる内容がどのようなものになるのかが興味のあるところです。


文献1:ジェフリー・H・ダイアー、ハル・B・グレガーセン、クレイトン・M・クリステンセン著、関美和訳、「イノベーターのDNA」、Diamond Harvard Business ReviewApr. 2010p.36.

原著論文:Jeffrey H. Dyer, Hal B. Gregersen, Clayton M. Christensen, ”The Innovator’s DNA”, Harvard Business Review, Dec. 2009, p.61.

文献2:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.

文献3:(文献1の抄録)Diamond Harvard Business ReviewSep. 2010p.20.

文献4Christensen, C.M, Raynor, M.E, 2003、クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー著、桜井祐子訳、「イノベーションへの解」、翔泳社、2003.

資料5BYU professor Jeff Dyer studies 5 skills for business innovation - BYU News

http://www.youtube.com/watch?v=RYuO-LSURvI&feature=bzb302&hd=1


(参考)

Innovator’s DNAに関するwebページ。インタビュー等へのリンクあり。

http://www.innovatorsdna.com/


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