研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

GE

人事のプロへの期待(八木洋介、金井壽宏著、「戦略人事のビジョン」より)

イノベーションを事業として成功させるためには、様々な部署、専門家との協力が必要です。しかし、「人事部門」と協力しながらプロジェクトを進めることはあまりないのではないでしょうか。もちろん、人事配置や採用、処遇や評価、給与、厚生といった業務では人事と連携することはあるでしょうが、それ以外の場面では、人事という職種の専門家にどんな点で協力してもらえるのか、何を期待できるのかがよくわからない、というのが実際のところだと思います。

八木洋介、金井壽宏著、「戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ」[文献1]では、人事のあるべき姿、その役割、本質が語られています。人事と技術者との協力が本書の主題というわけではありませんが、人事部門以外の人にとっては、人事の専門家(人事のプロ)に期待できること、人事とどう協力していけば成果につながるのかについて参考になるヒントが示されていると思いますので、そのまとめを試みたいと思います。なお、著者の八木氏は、NKK(現JFE)とGEにおいて人事の仕事をされてきた方とのことであり、本書には、GEで八木氏が実践された戦略人事について述べた部分と、それにとどまらない八木氏の人事感が述べられている部分とがあります。当然両者の重なる部分は多いのですが、以下ではその両者を分けてまとめてみました。

人事のあるべき姿

八木氏は、人事のあるべき姿として以下のような内容を述べています。

・人事部門は本来、ラインマネジャーと働く人たちにとっての、よい意味でのサーバント(奉仕する人)なのだ[p.7、金井氏コメント]。

・マネジメントには「戦略性のマネジメント」と「継続性のマネジメント」がある。「『戦略性のマネジメント』は、『現在』を見て、勝つための戦略を立て、それを企業内の各機能に一貫性をもって反映させるマネジメント。」「他方、『継続性のマネジメント』とは、『過去』を見て、企業における歴史的連続性を重視するマネジメント」。戦略性のマネジメントのもとでは、変化に対応して臨機応変に動くのに対して、継続性のマネジメントでは前例踏襲、制度やマニュアル固守といった姿勢になりやすい。「多くの日本企業の人事部門は『継続性のマネジメント』に縛られています」[p.27-28]とのことです。

・「企業を実際に動かしているのは、ふつうの人たちです。一部の優秀なリーダーやエリート経営陣が会社を動かしていると考えるのは誤りで、ふつうの人たちが、リーダーの言うことや会社の経営方針に納得し、頑張って働くことで、会社は業績を伸ばし、成長します。」[p.36

・「戦略は『こうやって勝つ』というふうに話の筋が通っていて、ふつうの人が聞いて納得できるストーリーになっていなければなりません。そういった戦略をベースに、ふつうの人である社員とのコミュニケーションを図り、そのやる気を最大化し、企業の生産性を向上させること、これが私の考える戦略人事のあり方であり、人事部門が担うべき役割です。」[p.37

・「社員の頭の中に霧がかかっていれば、霧を晴らす手伝いをする。社員の心の中で火が消えかけているのであれば、熱く語って火付け役になる。(中略)そうやって、社員のやる気を高めるために人事の仕事はある」。[p.40

・「『人事の役割は社員のやる気を引き出すことだ』などと言うと、『それはむしろラインマネジャーの仕事ではないか』と反論する人がいるかもしれません。(中略)ただし、世の中のすべてのマネジャーが『人間のプロ』とは限りません。(中略)さまざまな得意分野をもったマネジャーたちが集まって形づくっているものが企業です。(中略)会社の中に『人間のプロ』がいることで社員の生産性を高めることができていれば、その会社において人事部門の存在意義はあるとも言えます。」[p.41-42

・「人事制度ができれば、人事部門には権限が生まれ、人事担当者はルールや権限に基づいて仕事をするようになります。そして、いくら権限を振りかざしたところで、結局のところ、社員の心を揺り動かすことはできませんし、社員のやる気を本当の意味で引き出すことは不可能です。なぜなら、少なくともふつうの人は、人を縛り付ける制度が嫌いだからです。」[p.45

・「人事担当者にとってのリーダーシップとは、権限ではなく見識をもち、正しいことを正しく主張することです。その場合の正しいこととは、ストーリー化した戦略であり、企業が業績を上げて成長していくための大きな絵(ビッグピクチャー)であり、あるいは世の中の変化に合わせて会社に起こすべき変革の道筋です。そういう事柄を社員に対して真摯に語りかけ、会社が目指していく方向に向かって人々を巻き込んでいく。それが本当の『人事の力』」[p.46]。

・「人事部門は、個人や組織が最高のパフォーマンスを出せる状態をつくり出すことで経営に貢献します。」[p.47

・「人事部門のきわめて重要な仕事の一つに、次世代リーダーの育成が挙げられます。」[p.160

・日本人にはハイパーフォーマンスのすばらしいフォロワーは多いが、リーダーには育ちにくい。それは、その人たちの中に、自分を突き動かすエンジンが欠けているからではないか。「もともと『勝ちたい』とか『一番になりたい』というエンジンをもっている人、あるいは『創造性を発揮したい』とか『正義を実現したい』というエンジンをもっている人は、少なくとも自分の考えをもとうとします。自分で意思決定しようとしますし、相手が誰であろうと怖がらずに自分の意見を言おうとします。」「ところが、日本人の場合は、自らを突き動かし、駆り立てるエンジンをもともともっていないわけですから、いきなりリーダーの行動や条件について教え込んでも、それらはせいぜい知識として型通りに吸収されるだけです。」「日本人をリーダーに育成するには、エンジンをもってもらうことから始めなくてはならない。」[p.167-170

・人事のプロに求められる資質:情熱があること、ビジネスを知ること、人間に対する理解(人間についてのプロ)、人の心を揺り動かす(正しいことを言って正しい行動をとれるストイックさ、変革を恐れない勇気、自らがリーダーとして成長する)、常日頃からの努力と学習。[p.210

GEの戦略人事について

GEのやり方あるいは、日本GEにおいて八木氏が進められたやり方の特徴は次のようなものです。

・「GEの戦略はシンプルで、なおかつストーリー性があり、社員にとって納得感のあるもの」[p.62]。

・「業績が悪くなれば、人事にも問題があると見なされます」[p.68]。「GEでは人事は結果責任を負うことになっており、組織のパフォーマンスが下がり、目標が達成できなかったら、リーダーとともに責任を問われる」[p.79]。

GEグロースバリュー:GEのビジネスを成長させるリーダーに求められる5つの資質。外部志向(external focus)、明確でわかりやすい思考(clear thinking)、想像力(imagination)、包容力(inclusiveness)、専門性(expertise)。これは、トップクラスのリーダーの調査から導かれたもの。[p.71-72

GEにおける人事評価:ナインブロック。パフォーマンスの度合いと、GEグロースバリューの発揮度を、それぞれ「期待以上」「期待どおり」「期待以下」に分けた9つのブロックで評価。これは世間一般の成果主義とはかなり異なった考え方。通常の成果主義では、業績のみを重視するが、GEでは会社が理想とする価値観や行動規範(バリュー)にどのぐらい合った働き方をしているかも評価。長い目でみれば、バリューの発揮が必ずやGEのビジネスを成長させるという前提。細かい測定項目はなく、おおむね主観で評価。[p.72-76

・「組織を活性化できない人事担当者は、GE社内で敬意を払ってもらえません。コーチングやファシリテーションなどの手法が使えない人事担当者は本物の人事とは見なされません。」[p.89-90

・「組織開発には、人事担当者が自ら現場に介入していって組織の問題点を掘り起こし、解決への道筋をつけることも含まれます。」[p.92

GEにおける人事の役割:ビジネスパートナー(ビジネスの目標をパートナーとして達成する)、チェンジリーダー(変革を率先して引っ張る)、オーガニゼーションコーチ(組織の状態を見抜き、リーダーや社員に対して適切なコーチングをする)、タレントチャンピオン(優秀な人材を採用し、社員の悩みを解決したり代弁者になったりする)、HRエキスパート(給与や労務などの専門家)。八木氏はこれに、アンバサダー(進むべき方向性を示す)、トランスレーター(トップが言うことを社員にわかるように伝え、社員が抱いている思いをトップに正しく伝える)、ストーリーテラー(社員のやる気を引き出して集団のパワーを最大化するために、会社の戦略をストーリーとして語る)、エンライター(社員の悩みやフラストレーションを、言葉によって前向きの考えに変えていく)を付け加えています。[p.208-209

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つまり、こうした考え方の特徴は、人事が「人間のプロ」として、社員のやる気をひきだすこと、組織を活性化すること、次世代のリーダーを育成することなどのマネジメントの多くの側面に対し、直接的介入も含めて積極的に関わる、というところにあるように思います。そして、そうしなければならない理由が「強い会社」「強くて、よい会社」をつくる、というシンプルな戦略にある、ということではないでしょうか。当然、異なる戦略、ビジョンを持つ会社には異なる人事のあり方があるかもしれません。GEのやり方が魅力的に見え、それを参考にしたとしても、結局自分たちで作り上げていく必要があるのだろうと思います。

研究開発やイノベーションの観点から見るとどうなるでしょうか。業種や状況によっては、技術や事業を独占していたり、変革が漸進的でゆっくりでよい場合もあるでしょう。そのような場合には、継続性の人事マネジメントでもよいのかもしれません。しかし、イノベーションは多くの場合、何らかの変革を伴いますので、古いものに「勝つ」必要がある、つまり「強い」ことが要求されるでしょう。そうなると、「強さ」を実現するためのマネジメントとして、著者の言うような人事のあり方は非常に参考になると思います。

実は、ここに書かれたような社員の活性化を図るというリーダーの役割は、様々なところで指摘されていることだと思います。本ブログでも、研究開発組織運営(ノート10)リーダーの役割(ノート11)で考えてみましたが、つまるところ多様な研究員の能力を引き出すことこそがリーダーの役割であるという点は、本書に述べられていることと近いように思います。しかし、研究開発のリーダー(つまりはラインマネジャー)がそうした役割を身につけ、実行するにあたって、人間のプロである人事部門が手助けしてくれる可能性がある点については、認識を新たにすべきでしょう。研究における自前主義の問題点が指摘され、自分の知識不足の点や専門外のことについては他者の協力を仰ぐべきであることは理解していても、「人事」にそれを求めうる、とはなかなか思いつかないのではないでしょうか。さらに、リーダー自身が持つマネジメントスキルについて、人事が専門の視点からアドバイスをしてくれるとなれば、それだけをとっても意義は非常に大きいように思います。

もちろん、このような人事の役割を実践している企業はまだ少数かもしれません。八木氏も指摘されるように、日本では継続性のマネジメントにとらわれている人事部門がまだまだ多いように思います。しかし、継続性にとらわれて戦略的なマネジメントができていないのは技術部門においても然り、ではないでしょうか。例えば、事業性の意識が低い研究開発や、目的を見失ったプロジェクトにいつまでもこだわることがあることはよく指摘されます。「『継続性のマネジメント』に縛られた人事部門では、人事担当者はいつしか考えることを忘れてしまいます」[p.36]という指摘は、そのまま技術部門にもあてはまるかもしれません。シンプルな戦略によって社員のやる気を引き出すこと、そのために人事のプロを含めた様々な専門家の知恵やノウハウを結集することはイノベーションの成功を目指す上でも有効な手法なのではないでしょうか。八木氏は「制度に頼らない人事」を目指す[p.228]と言われていますが、それで社員のやる気が引き出せるのであれば、すばらしいことだと思います。「機械の性能を上げようといくら改良を加えても、生産性が一気に5倍も10倍も向上することはありません。けれども、(中略)人がやる気を出せば、その生産性は5倍にも10倍にも跳ね上がります。」[p.40]という指摘は、研究開発の世界でも肝に銘ずるべきことだと思います。


文献1:八木洋介、金井壽宏、「戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ」、光文社、2012.


参考

「“人間のプロ”として、人事はどうあるべきか?~今、求められる「戦略人事」の実現に向けて 八木洋介さん」、日本の人事部 インタビューwebページ、2012.10.15

https://jinjibu.jp/article/detl/keyperson/794/

野田稔、八木洋介、「HRトークLIVE、グローバルで躍動する人材づくりのために、人事は今何をすべきか?」、jin-Jour webページ、2012.8.22

http://www.rosei.jp/jinjour/article.php?entry_no=57315

参考リンク


 

 

 

「GEグローバル・イノベーション・バロメーター」世界調査2012より

2011年にひきつづき、今年も「GEグローバル・イノベーション・バロメーター」という調査結果が発表されました[文献1-4]。この調査は、「21世紀に求められるイノベーションの創造・推進に関して、自国および他国のイノベーションに対する認識や、イノベーションを推進するために必要な要素などについて、世界的・国別的な意識を明らかにすることを目的に、GEStrategyOne社に委託して行なったものです。(2011年発表の結果についての本ブログ記事はこちら

調査は、2011年1015日から20111115日にかけて、世界22カ国の2800人の経営幹部(米国300人、ブラジル200人、カナダ100人、メキシコ100人、中国200人、インド200人、シンガポール100人、オーストラリア100人、韓国100人、日本100人、ドイツ100人、スウェーデン100人、英国100人、フランス100人、ポーランド100人、ロシア200人、イスラエル100人、トルコ100人、サウジアラビア100人、UAE100人、アルジェリア100人、南アフリカ100人)に対し、電話による聞き取り調査で行なわれています。ちなみに、昨年の調査では、12ヶ国、1000人への調査でしたので、規模が拡大しています。今年新たに加わった国は、カナダ、メキシコ、シンガポール、英国、フランス、ポーランド、ロシア、トルコ、アルジェリア、南アフリカであり、調査対象の偏りはかなり改善されたと言ってよいと思われます。

GE(アメリカ)による調査結果のまとめは以下の通りです。

9割の経営幹部が、経済危機がイノベーション能力に悪影響を及ぼしたと認識。

・イノベーションは、経済発展、雇用、生活水準向上の主要な原動力になる。

・イノベーション環境がよいと感じている国ほど経済は好調。

21世紀の新たなイノベーションモデルが確認された。

・アメリカ、日本、ドイツ、中国がイノベーティブな国と認識されている。

これに対し、GE日本のまとめは以下のとおりです。

・世界のイノベーションランキング、日本は2年連続第3位

・イノベーションに対しては悲観的な国、日本-日本の自己評価にギャップあり

・イノベーションに必要な要素は「パートナーシップ」と86%の経営幹部が回答

・日本企業がイノベーションに求める2大要素:創造力ある人材、パートナーシップ

・世界と比べて日本は大企業志向:協働相手に大企業を求める企業が3割

・今後のイノベーションに期待する業界:エネルギー、ヘルスケア、通信

21世紀のイノベーションの方向性:従来とは異なるオープン・イノベーション

以上の結果のうち、イノベーションの重要性についての指摘は昨年の結果と大きな違いはないように思いますが、今年はパートナーシップ、オープンイノベーションという方向性がより明確に示されています。さらに、イノベーションの方向性について、74%の回答者がローカリゼーションの重要性を指摘しているとされる点も、興味深いと言えるでしょう。もちろん、こうしたアンケートの結果は、世間で流行している考え方の追認であったり、GEの戦略や思想の影響を受けたものになったりする可能性があることは認識しておかなければなりませんが、世界の経営者がイノベーションをどうとらえているかについての示唆を与えてくれる意義は大きいと思います。

今回の調査で私にとって興味深かったのが日本の回答の特殊性です。まず、イノベーションの分野で最も評価されている国についての、世界の評価のランキングを見てみましょう(GE日本発表資料による。トップ3を挙げた回答結果の集計)。1位:アメリカ(65%)、2位:ドイツ(48%)、3位:日本(45%)、4位:中国(38%)、5位:韓国(13%)、6位:インド(12%)、7位:イギリス(9%)、8位:フランス(7%)、9位:スウェーデン(5%)、10位:ブラジル(4%)、イスラエル(4%)、となっています。順位と、支持率には昨年と大きな違いはありません。ところが、日本からの回答結果だけを集計すると、この数値が大きく変わるところがあります。日本の回答結果では、アメリカ(83%)、ドイツ(40%)、日本(28%)、中国(19%)、韓国(22%)、インド(16%)となっており、世界の評価結果にくらべて、アメリカ(+18%)と韓国(+9%)は高く、日本(-17%)と中国(-19%)が低い、という結果になっています。つまり、日本は世界では高く評価されているにもかかわらず、日本は自らの地位をそれほどには評価していない、ということになります。

さらに、いくつかの点で、日本の考え方が他の国と極端に異なっている点が示されています。評価の上位6ヶ国について、以下の調査項目の順位(全22ヶ国中)を見てみます。

自国のイノベーション環境に満足している順位:アメリカ12位、ドイツ15位、日本22位、中国5位、韓国9位、インド10

イノベーティブな市場として他国からよい評判を得ていると思う度合い:アメリカ6位、ドイツ2位、日本18位、中国17位、韓国16位、インド4

イノベーションが生活改善に寄与すると考える(イノベーション楽天主義)順位:アメリカ13位、ドイツ16位、日本22位、中国20位、韓国21位、インド17

中堅・小企業、個人のイノベーション能力への期待:アメリカ4位、ドイツ19位、日本21位、中国22位、韓国17位、インド12

イノベーションの現地化(ローカリゼーション)の必要性:アメリカ17位、ドイツ10位、日本22位、中国8位、韓国3位、インド9

それぞれの国のイノベーションやビジネスに対する考え方が現れているようでなかなか興味深いですが、日本についてみると、かなり極端な位置にある項目が多いことがわかります。大雑把にまとめてしまうなら、イノベーションの分野で世界からは高く評価(3位)されているにもかかわらず、自国に対する評価は低く、自国のイノベーション環境には不満で、イノベーションは生活改善には役に立たないと考えているということになります。特に、イノベーションが雇用市場に寄与すると考える割合が日本では27%と、世界平均の81%と比較して極端に低く、日本でビジネスを拡大することそのものが疑問視されているような結果になっています。イノベーションの方法については、「過去に行なわれたやり方とは完全に異なるやり方で行なわれる」という回答が世界で80%、日本でも64%あるにもかかわらず、日本は大企業志向(中小、個人、ベンチャーなどに期待しない)で、現地化にも積極的でない、つまり、自ら新しいイノベーションの方法を採用しようとしていない、という風にも見えます。

その背景を私の独断で推測させていただくなら、日本経済の低迷により従来のやり方に自信を失い、どうしていいかわからない状態にある、ということになるのではないでしょうか。日本の技術力はまだまだ高いレベルにあると思いたくても、技術の基盤はアメリカに支配され、韓国には抜かれつつある現状(だから、アメリカと韓国を高く評価)を見ると技術に頼るやり方でうまくいくとは思えず、加えて、日本のビジネス環境、イノベーション環境も厳しく、魅力的な市場でもないため、このままでは、現在の地位を確保することは難しいのではないか(自国を低く評価)、しかし、今までそれなりにうまくいってきた大企業中心のイノベーションのやり方を捨てる勇気もない、という感じになっているように思います。

しかし、日本に対する世界の評価はまだかなり高いのです。従来のやり方が通用しなくなっていることで自信を失っている気持ちはわからなくもないですが、何もせずにこのまま評価下落を受け入れてしまうのか、少なくとも今受けている高い評価を利用して何か新しい方向を見出そうとすべきなのかは考えてみる必要があるはずです。もちろん、現在の自分たちの能力を正しく評価し、改めるべきところをきちんと認識することは非常に重要ですが、必要以上に自らの能力を卑下する必要はないでしょう。このアンケートに回答した経営層の皆さんは自信を失っているのかもしれませんが、この調査結果は見ようによっては希望を与えてくれるようにも思います。

確かに日本のイノベーションに対する考え方や環境は特殊なのかもしれません。しかし、日本の考え方が世界の考え方から離れていること自体が即問題とは言えないはずです。多数意見から離れていることは自らを見直すよい機会にはなりますが、自分たちを多数意見に合わせるべきだということにはならないでしょう。GEも、「万能なアプローチはない(No One-Size-Fits-All Approach)」と結論づけているように、日本には日本にあった方法があるかもしれません。真に重要なことは、日本の何がよくて世界第3位の評価を受け、何が悪くて1位2位にはなれず、現在自信を失っているのかをもう一度考え直してみることではないでしょうか。確かにパートナーシップは重要な考え方かもしれませんが、それを安直に受け入れれば成功が保証されるわけでもないはずです。それよりも、日本企業の成功と不調の本質についてきちんと理解した上で、世界の経営者がパートナーシップに抵抗感を持たなくなっている傾向を上手く利用して、過去の蓄積を生かした有利な立場を獲得すべきなのではないでしょうか。どうしたらよいのか、簡単に答えの出せる問題でないことはわかっているつもりですが、日本の経営者の皆さんも悲観ばかりしていないで、ぜひ希望を示していただきたいと思います。



文献1GE日本のWebサイト、プレスリリースより、「GE、イノベーションに関する世界意識調査 『日本の21世紀型ビジネスモデルは新しいコラボレーション志向』」、2012.1.26

http://www.genewscenter.com/content/detailEmail.aspx?NewsAreaID=2&ReleaseID=13826&AddPreview=False

文献2GEWebサイトより、「GE Global Innovation Barometer」<2013.3.9現在以下のサイトでは2013年調査結果が表示されます>

http://www.ge.com/innovationbarometer/

文献3GEWebサイトより、「GE “GLOBAL INNOVATION BAROMETER” EXAMINES STATE OF BUSINESS INNOVATION IN A VOLATILE GLOBAL ECONOMY」、2012.1.18

http://www.genewscenter.com/Press-Releases/GE-GLOBAL-INNOVATION-BAROMETER-EXAMINES-STATE-OF-BUSINESS-INNOVATION-IN-A-VOLATILE-GLOBAL-ECONOMY-35cf.aspx

文献4GEWebサイトより、GE Report、「Innovation and Growth “Inextricably Linked,” GE’s New Global Innovation Barometer Finds」、2012.1.17

http://www.gereports.com/innovation-and-growth-inextricably-linked/ 


参考リンク



 

「GEグローバル・イノベーション・バロメーター」世界調査2011より

2011126日に「GEグローバル・イノベーション・バロメーター」という調査結果が発表されました[文献12]。この調査は、イノベーションを推進する要素と妨げる要素を明らかにすること、および、イノベーションにまつわる課題がどのように認識されているのかを分析することを目的にGEStrategyOne社に委託して行なったもので、その結果は1/26-30に開催されたダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)でも報告されたようです。

 

調査は、20101210日から2011114日にかけて、世界12カ国の総勢1000人の経営幹部(オーストラリア100人、ブラジル100人、中国100人、ドイツ100人、インド100人、イスラエル100人、日本50人、韓国50人、サウジアラビア50人、UAE50人、スウェーデン100人、米国100人)に対し、電話による聞き取り調査で行なわれています。

 

結果の詳細はGEのサイト[文献1-3]をご参照いただきたいと思いますが、この調査により明らかになったイノベーションに対する経営幹部の認識は以下の3点にまとめられています[文献1の記述を少し変えています]

・イノベーションの新たなフロンティアは、創造性(Creativity)、地域性(Localization)、連携(Integration)によって開拓されていく

・最も重要なイノベーションはヒューマンニーズへの取り組みになるだろう

・最も技術革新力のある(Innovativeな)国は、アメリカ、ドイツ、日本(この順で)

また、以下のことも指摘されています。

・回答者の95%が、国家経済の競争力強化にはイノベーションが最も重要であると認識

・回答者の88%が、国内で雇用を創出する最良の方法はイノベーションであると認識

 

以上の結果自体は、特に驚くような内容ではないでしょう。「地域性」というのは「リバース・イノベーション」、「連携」というのは「オープン・イノベーション」、「ヒューマンニーズ」というのは「人間中心のイノベーション」という、それぞれ今流行りのイノベーションの考え方に関連していると考えられますので、単にそうした流行に沿った考え方をする人が多いことが確認されただけ、と見ることもできるように思います。

 

しかし、公開されている多くのデータの中には、興味深いものもあります。特に、技術革新力が高いとされる国の順位と、イノベーション楽天主義(Innovation Optimism) のパラドックスとされた調査結果が面白いと思いました[文献4]。次のような内容です。

 

技術革新力の順位:

これはイノベーションの分野で世界をリードする国(leading innovation champions)を3つ挙げてもらう方法で調査されています。結果は次のとおりです。

1位:アメリカ(67%)、2位:ドイツ(44%)、3位:日本(43%)、4位:中国(35%)、5位:韓国(15%)、6位:インド(12%)、7位:スウェーデン(8%)、8位:イギリス(7%)、9位:イスラエル(6%)、10位:フランス(4%)などとなっています。上述のように調査対象の国と対象者の人数に偏りがありますので、その影響も受けた結果であることは考慮しなければなりませんが、上位3位までの評価は順当ではないかと思います。中国の評価が思ったより高い、という印象ですがいかがでしょうか。なお、「技術革新力」という訳はGE日本の発表に従っていますが、設問の「leading innovation champions」とは少し意味合いが違うかもしれません。

 

イノベーション楽天主義(Innovation Optimism):

これは、各国の回答者に対し、イノベーションが自国の市民生活の改善に寄与すると思うかを尋ねたものですが、調査対象12ヶ国で、そう思うとする回答の割合は以下の通りです。

1位:サウジアラビア(88%)、2位:UAE86%)、3位:フラジル(82%)、4位:インド(79%)、5位:アメリカ(77%)、6位:イスラエル(77%)、7位:オーストラリア(75%)、8位:スウェーデン(73%)、9位:ドイツ(72%)、10位:中国(68%)、11位:韓国(64%)、12位:日本(58%)

大雑把に、市民生活の改善の余地が大きいと考えられる国が上位に来ていることは理解しやすいですが、技術革新力が高いと外国から評価されている日本が最下位、ということは、日本の経営者たちは自分たちの技術が日本の生活改善に役立たない、と考えていることになります。

 

GE日本の分析では、イノベーションの効果に楽天的でない国にはイノベーションを妨げる障害があることを指摘しています[文献1]。また、GE日本のサイトでは、こうした評価について日本のデータも提供していますが[文献5]、このデータでは、イノベーションの国内環境について、世界平均と比較して日本では否定的な回答が多いことがはっきりと示されています。例えば以下のような結果があります。

・イノベーションに対する国の支援が効率的に行われていない:日本86%、世界平均54

・イノベーションを推進する企業の支援について、国や公的機関は適切な予算分配をしていない:日本80%、世界平均48

・イノベーションが日常生活に価値をもたらすと、国民が認めていない:日本74%、世界平均31

・社会全体がイノベーションの(技術革新を起こす)過程の一部としてリスクの存在を受け入れていない:日本74%、世界平均40

・社会全体がイノベーションに好意的でない;イノベーションに対する「欲」が若者世代に存在しない:日本62%、世界平均21

・産官学の連携がイノベーション支援に効果的だとは思えない:日本72%、世界平均24

(正確には以上の回答結果はすべて、肯定的な問い(例えば、「イノベーションに対する国の支援が効率的に行われている」)に対する否定的な回答「そう思わない」「どちらかと言えばそう思わない」の合計です)

 

つまり、技術的には十分に優れているのに、環境が悪いためにそれがうまく活用できていない、と経営者が考えている、というようなアンケート結果になっています。確かに、イノベーションの環境が整わないことでイノベーションに期待できないという要素もあるかもしれません。しかし、今以上に何の生活改善を望めばよいのか、とか、持てる技術をどう使えばよいのかわからない、技術はあってもそれを活用して売り上げを伸ばすことは困難、といったような無力感のようなものもあるのではないでしょうか。さらに、環境上の問題以上にChristensenがイノベーションのジレンマとして指摘したような技術進歩が本来的に持つ問題もあるのではないかと思います。Christensenは、技術の進歩が消費者のニーズを上回ってしまう場合があることを指摘していますが(ノート4)、そのような状況では現状以上の技術進歩は現在の延長線上での市民生活の向上には役立ちにくくなってしまうわけで、日本ではそのような状況が顕在化しているのかもしれません。それでもおそらく、アメリカやドイツにはまだ漠然とした技術への期待や夢のようなものが残っているのに対し、日本では自らのやり方に自信を失った結果、技術を活用しようという意欲を失い過度に悲観的になっているような気もします。

 

今回の調査結果についてGECMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)兼シニア・バイス・プレジデント、ベス・コムストック氏は、「今までイノベーションは経済的な利益を生みだすものと思われていましたが、今回の調査では、それが、人々の暮らしを改善するものでもあるというように、優先順位が世界的に変化してきていることが明らかになりました」と述べています[文献1]。さらに、「今回の調査から、イノベーションにまつわるルールが変化しつつあること、また、企業が競争力を保ち、成長を継続して、経済に貢献するためには、その変化に合わせて戦略を進化させなければならないことが明らかになりました。」とも述べています[文献1]。本当にそうだとすれば、日本の経営者はイノベーションによって利益を出すという古いやり方にばかりにとらわれているために、さらに、イノベーションを企業の利益増大以外の目的に使うようなシステムや知恵が整っていないがために、技術があっても使い道を考えだすことができず、そうした考え方がイノベーションの将来を悲観的に捉える原因になっているのかもしれないと思います。

 

もちろん、この調査結果の解釈にはGEの意志が入っていると考えるべきであって、世界の真の姿を探ろうとする、あるいは真実を証明するための調査ではないと思います。しかし、少なくともGEはこのように考えてイノベーションを進めていこうとしている、ということは明確なのではないでしょうか。GEの意図の通りになるかどうかはわかりませんが、ひとつの仮説、意志表示として非常に興味深いと思います。

 

 

文献1GE日本のWebサイト、プレスリリースより、「日本の技術革新力、米独に次いで世界3位、『GEグローバル・イノベーション・バロメーター』世界調査」、2011.1.28

http://www.genewscenter.com/content/detailEmail.aspx?ReleaseID=11850&NewsAreaID=2&changeCurrentLocale=5

文献2GEWebサイト、Press Releasesより、「“GE Global Innovation Barometer” Identifies New Expectations and Parameters for Innovation in the 21st Century」、2011.1.26

http://www.genewscenter.com/Press-Releases/-GE-Global-Innovation-Barometer-Identifies-New-Expectations-and-Parameters-for-Innovation-in-the-21st-Century-2e34.aspx

(文献1の日本語プレスリリースには、文献2を元に作成された、と書かれていますが、単なる訳ではなく内容が少し異なります。上記サイト中には、関連情報、データへのリンクもあります。)

文献3GE ReportsWebサイトより、「GE Global Innovation Barometer: Partners & Localization Are Key

http://www.gereports.com/ge-global-innovation-barometer-partners-localization-are-key/

文献4GE ReportsWebサイトより、「WEF Survey: The Innovation Optimism Paradox

http://www.gereports.com/wef-survey-the-innovation-optimism-paradox/

文献5GE日本のWebサイトより、「GEグローバル・イノベーション・バロメーター世界調査、日本のデータ」

http://www.genewscenter.com/ImageLibrary/DownloadMedia.ashx?MediaDetailsID=3629


参考リンク
<2012.2.5表題修正:「2011」を追加しました>

 

リバース・イノベーション(DHBR2010年論文より)

 最近、リバース・イノベーションという考え方が話題になっているようです。今回は、ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー20101月号に発表された「GEリバース・イノベーション戦略」という記事[文献1]に基づいてその意味を考えてみたいと思います。なお、原論文は200910月号に発表[文献2]されており、その記事の抄訳が村永氏のブログに紹介されています[文献3]

 

リバース・イノベーション戦略とはひとことで言えば「新興国で製品開発し、これを先進国に展開する」イノベーションのやり方です。これは、今までグローバル企業が行なってきた新製品の開発の方法、すなわち、「先進国で製品開発し、これを各地域仕様にマイナー修正を施して、グローバルに販売する」やり方とは正反対のアプローチということになります。GEは、「GEの各事業が今後10年を生き残り好業績を得る」ために、「新興国で成功することは先進国で勝ち残るための必要条件」と考えてリバース・イノベーションを推進しているとのことで、この記事ではその成功事例と考え方が述べられています。

 

「リバース・イノベーションとは何か」と題するGovindarajan教授(共著者)のblog記事[文献4]には、アメリカの多国籍企業の新興市場に対するアプローチの変化が以下のようにまとめられています。

フェーズ1:グローバリゼーション-自国で開発した商品を世界に販売する。

フェーズ2:グローカリゼーション-商品は自国開発だが、新興国の市場に合わせて製品を修正する。

フェーズ3:ローカルイノベーション(リバースイノベーションの前半)-ローカルマーケットのための製品をその国で開発する。多国籍企業はその開発を支援する。

フェーズ4:リバースイノベーション-新興国で開発された製品を世界に販売する。

この、フェーズ34の段階を合わせたものがリバース・イノベーション、というわけです。

 

このようなリバース・イノベーションがなぜ必要とされるかは以下の点に集約されます。

・新興市場は先進国と同じようには発展しない。進んだ技術を一気に導入することもあるし、所得が低いため、超低価格でそれなりの性能の製品でよい場合もある。また、インフラや課題が異なるためニーズも異なる。

・新興国のニーズに対応した製品を作っても先進国では売れないというのは思いこみで、技術は進歩するし、そうした製品でも先進国で独自の市場を築く可能性がある。

・新興国でイノベーションを行なわなければ、新興国のライバル企業に先を越される可能性がある。

 

このような認識のもと、GEGEヘルスケア)はインドと中国において、その国向けの新製品を開発するチーム(ローカル・グロース・チーム:LGT)を立ち上げました。例えば、中国では、大型の高性能超音波診断装置が高価で売れないため、ポータブルな超音波診断装置の開発が進められました。GEの世界ネットワークの支援のもと、ハイエンド品の15%の価格に抑えられた中国開発品は(もちろん高性能ではありませんが)中国の農村部の診療所にも普及していき、さらに、アメリカでも可搬性が欠かせない事故現場や狭い場所での利用を目的として新たな市場を開拓しているといいます。

 

このような成功は、新興国において開発に適した組織をつくり、適切にマネジメントを行なった結果としてもたらされたものと考えられます。開発にあたったローカル・グロース・チームのマネジメント5原則を見てみましょう。

1、成長が見込める地域に権限を移転する。独自の戦略、組織、製品を開発する権限を持たせる。

2、ゼロから新製品を開発する。先進国向け製品のカスタマイズではない(もちろん、これまでの研究成果の活用はなされている)。

3、ローカル・グロース・チームは新会社と同じくゼロから立ち上げる。従来グローカリゼーションを支えた組織にはこだわらずゼロから組織を設計する。

4、独自の目的、目標、評価基準を設定する。既存事業の基準に合わせるのではなく、地域の状況にあった基準にする。

5、経営陣はローカル・グロース・チームを直属に置く。ローカル・グロース・チーム(LGT)は経営陣の強力な支援がなければ成功しない。また、LGTを監督するビジネスリーダーには、LGTとグローバル事業の対立の仲裁、LGTがグローバルR&Dセンターなどの資源を使えるようにする、LGTが開発したイノベーションを先進国に導入する際に支援に回る、という役割が求められる。

 

ただ、GEでもこれらのローカル・グロース・チームがうまく機能して成果を挙げた例はまだ少ないようで、中国やインドにおける業務の中心は実際には先進国向けのプロジェクトが大部分だそうです。従って、こうしたイノベーションの進め方もまだ道半ばというところでしょうし、マネジメントの方法についても今後変わっていくのかもしれません。ただ、少なくともこうしたアプローチが成功を生んだ事例があるということは重要なことだと思われます。

 

以上が補足、感想を含めた記事の概要ですが、このリバース・イノベーションを考える上で、Christensenの「破壊的(disruptive)イノベーション」の考え方との関連は無視できないものと考えます。原著記事の題名も「How GE is disrupting itself(直訳すれば、「GEはいかに自身を破壊したか」、でしょうか)」と、disruptiveという言葉を使っていますし、Govindarajan教授もblogで「リバース・イノベーションは、常にではないが、破壊的イノベーションでありうる」[文献4]と述べていますので、著者もその関連を認識しているはずです。

 

破壊的イノベーションについてはノート4で紹介しましたが、ひとことで言えば、技術の進歩に伴い製品がオーバースペックになると、品質を落としてもその他の特性(安価、簡便、新たな応用など)に優れた製品が開発され、新興企業がその分野に進出すると既存企業が競争に負けてしまうことがある、というような種類のイノベーションと理解することができると思います。Christensenはこのようなイノベーションには、ローエンド型破壊(ハイスペックを求めない顧客に低価格製品を提供する)と、新市場型破壊(今までその製品を使っていなかった顧客に利便性や新たな特性を提供し新市場を創造する)の2種類があると述べていますが[文献5p.55]、この記事でとりあげられた事例はまさにこの両者にあてはまっているのではないでしょうか。

 

Christensenらは、このような破壊的イノベーションを進めるためには「破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる」[文献6p.143]、「企業が中核事業と異なる事業を成功裏に作り出すためには、十分な組織上の自立性が必要(単に独立したベンチャー企業を作ればよいというものではない)」[文献7p.288]、破壊的イノベーションを推進できる「価値基準」[文献5p.228]を持つこと、上級役員は、経営陣とチーム間のインターフェースおよびチームと他組織間のインターフェースを管理する必要があり[文献7p.288-295]、「破壊的事業を成功に導くために必要な資源のなかで、最も重要なものの一つが、上級役員が自ら行なう監督である」、「破壊的イノベーションは、実力のある上級役員が自ら直接関与しなければならない」、上級役員の役割は「持続的世界と破壊的世界の橋渡し」[文献5p.319-325]、と指摘していますが、これらはGEのローカル・グロース・チームの5原則と極めて類似していると思います。

 

このように考えると、GEのリバース・イノベーションは、破壊的イノベーションを起こすことを狙って計画的にマネジメントを行なったものなのかもしれません。だとすれば、研究開発の不確実性をいくぶんかでもコントロールして実績に結び付けたという点で、単なる成功事例以上の意味を含んでいるのではないかと思われます。言うまでもなく、この記事の共著者のImmelt氏はGEの会長兼CEOですので、村永氏も指摘するとおり[文献3]、この記事はGEの従業員に向けてのメッセージでもあると受け取れます。新たなイノベーションの方向に果敢に挑戦して成果を挙げつつあることのアピールとともに、今後のGEの研究開発のひとつの展開を宣言したものともいえるのでしょう。

 

 

文献1Immelt, J.R., Govindarajan, V., Trimble, C.、(ジェフリー・R・イメルト、ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル)、関美和/訳、「GEリバース・イノベーション戦略」、Diamond Harvard Business Review, Jan.2010, p.123, (2010).

文献2Immelt, J.R., Govindarajan, V., Trimble, C., “How GE is disrupting itself”, Harvard Business Review, Mar.2001, p.51, (2001). Oct.2009, p.56, (2009).なお、原文はGovindarajan教授のblog[文献4]で読めます(blogには要約とコメントもついています)。<注:文献の巻、号、頁を間違えているのに気付きましたので修正しました。2011.4.24>

文献3http://d.hatena.ne.jp/muranaga/20091017/p1

文献4http://www.vijaygovindarajan.com/2009/10/what_is_reverse_innovation.htm

文献5Christensen, C.M, Raynor, M.E, 2003、クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー著、桜井祐子訳、「イノベーションへの解」、翔泳社、2003.

文献6Christensen, C.M, 1997、クレイトン・クリステンセン著、伊豆原弓訳、「イノベーションのジレンマ」、翔泳社、2000.

文献7Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J., 2008、スコット・アンソニー、マーク・ジョンソン、ジョセフ・シンフィールド、エリザベス・アルトマン著、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.


参考リンク<2011.8.14追加>
上記文献へのリンクの他、イメルト氏インタビュー紹介、参考記事など。

<2012.11.25:「リバース・イノベーション」の本紹介の記事を書きましたので、この記事の題名に「(DHBR2010年論文より)」を追加しました。>

 

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