研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

Hill

Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2015年)

2年に一度発表される経営思想家のランキングThinkers50については本ブログでも2011年のリスト2013年のリストを紹介しましたが、2015年の結果が発表されました[文献1]。順位の決め方は前回同様、アイデアの妥当性、研究の厳密さ、アイデアのプレゼンテーション、アイデアの普及、国際的展望、アイデアの独創性、アイデアのインパクト、アイデアの実用性、ビジネスセンス、影響力を評価項目とし、webサイトでの投票と、Stuart CrainerDes Dearloveをリーダーとするアドバイザーチームの意見によってランキング化しているとのことです。

ベスト50のリストは以下のとおりです。以前のブログ記事同様、独断ですが、イノベーションに関する貢献が大きいと考えられる思想家に、◎(極めて重要)、○(重要)をつけてみました。なお、以下のコメントは、主にThinkers50webページの紹介に基づいていますが、それ以外の情報を加えているところもあります。

Thinkers502015年の結果(カッコ内は2013年順位、2011年の順位)
1、Michael Porter(7、5):5つの力のフレームワークで有名ですが、その後提唱したshared valueの概念は資本主義の再評価につながると期待されているそうです。
2、Clayton Christensen(1、1):◎、「破壊的イノベーション」理論の提唱者。2012年刊の「イノベーション・オブ・ライフ」は、本ブログでも紹介しました。
3、W. Chan Kim & Renée Mauborgne(2、2):○、「ブルーオーシャン戦略」の提唱者。現在はINSEAD Blue Ocean Strategy Instituteを展開。2015 Breakthrough Idea Award候補。
4、Don Tapscott4、9):○、デジタルネイティブ、ウィキノミクスで有名。ビジネスや社会への技術の影響に関する権威。新著「Blockchain Revolution」は2016年刊行予定。2015 Digital Thinking Award候補。
5、Marshall Goldsmith(10、7):エグゼクティブコーチ。360度フィードバック、MOJOで有名。近著はベストセラーの「Triggers:
Creating Behavior That Lasts--Becoming the Person You Want to Be」。
6、Linda Hill(8、16):○、ハーバードビジネススクール教授。専門はリーダーシップ。近著は「Collective Genius」。HBR掲載の同名論文(集合天才)は本ブログでも紹介しました。Innovation Award受賞。
7、Roger Martin(3、6):○、インテグレーティブシンキングで有名。A.G.Lafleyとの共著「Playing to WinP&G式『勝つために戦う』戦略(2013)」は本ブログで紹介しました。2015 Social Enterprise Award受賞(Sally Osbergと共同)。
8、Herminia Ibarra(9、28):INSEAD教授。リーダーシップを研究。近書は「Act Like a Leader, Think Like a Leader (2015)」。2015 Leadership Award候補。
9、Rita McGrath(6、19):○、「仮説のマネジメント」「仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning)」で有名。2015 Strategy Award候補。近著は「The End of Competitive Advantage (2013)」。
10、Daniel Pink(13、29):「ハイ・コンセプト」「モチベーション3.0」で有名。近著は「To Sell is Human(人を動かす、新たな3原則)(2012)」。
11、Richard D’Aveni(17、21):戦略論が専門。Dartmouth大学教授。ハイパーコンペティションやコモディティ化などを検討。2015 Strategy Award候補。近著は「Strategic Capitalism (2012)」。
12、Eric Ries(-、-):◎、シリコンバレーの起業家でもある。リーン・スタートアップで有名。本ブログでも著書(「リーン・スタートアップ」、邦訳2012)を紹介しました。
13、Vijay Govindarajan(5、3):◎、本ブログでも、「リバースイノベーション」、「イノベーションを実行する」、「はじめる戦略」を取り上げています。2015 Innovation Award候補者。
14、Richard Florida(25、-):○、「The Rise of the Creative Class」著者。トロント大学Martin Prosterity Instituteディレクター。
15、Alexander Osterwalder and Yves Pigneur(-、-):◎、2015 Strategy Award受賞。「ビジネスモデル・ジェネレーション」でBusiness Model Canvasというツールを紹介。この本および近著の「バリュー・プロポジション・デザイン」を本ブログで紹介しました。
16、Amy Edmondson(15、35):ハーバードビジネススクール教授。チームワークを研究。近著の「Teamingチームが機能するとはどういうことか)」(2012)は本ブログで取り上げました。
17、Jeffrey Pfeffer(24、22):スタンフォード大学教授。権力の研究、事実に基づく経営、resource dependence theoryなどで有名。
18、Martin Lindstrom(-、-):ブランドのエキスパート。新著は「Small Data2016)」。
19、Pankaj Ghemawat(11、27):専門はグローバリゼーション。Stern school (New York)IESEビジネススクール(スペイン)教授。2015 Strategy Award候補。
20、Steve Blank(-、-):◎、リーン・スタートアップの基礎を築き、UCバークレー校で教え始めた起業家。共著に「The Startup Owner’s Manual (2012)」がある。
21、Teresa Amabile(22、18):○、ハーバードビジネススクール教授。創造性、モチベーションなどを研究。
22、Daniel Goleman(36、39):心の知能指数EQ(原著ではEIEmotional Intelligence)で有名。近著は「Focus: Hidden Driver of Excellence (2013)」。
23、Seth Godin(-、17):マーケティングのエキスパート。パーミッションマーケティングで有名。近著は「The Icarus Deception: How High Will You Fly? (2012)
24、Henry Chesbrough(37、38):◎、「オープンイノベーション」提唱。UCバークレー校外部教授。
25、Adam Grant(-、-):ペンシルバニア大(Wharton)教授。「GIVE & TAKE2013)」著者。
26、Erik Brynjolfsson & Andrew McAfee(-、-):MIT教授と研究員。デジタル技術の経済や社会への影響を研究。「機械競争」は本ブログでも紹介しました。
27、David Ulrich(30、23):人事、人材育成戦略が専門。2015 Breakthrough Idea Award候補。
28、Jim Collins(12、4):○、「ビジョナリーカンパニー」シリーズの著者。「Great by Choiceビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる)」は本ブログでも紹介しました。
29、Stewart Friedman(27、45):リーダーシップ、work/lifeの統合などの専門家。2015 Talent Award受賞。新著は「Leading the Life You Want: Skills for Integration Work and Life (2014)」。
30、Gary Hamel(19、15):プラハラードとの共著「コア・コンピタンス経営」で有名。
31、Lynda Gratton(14、12):ロンドンビジネススクール教授。近著は「Shift2011)」。
32、Sylvia Ann Hewlett(16、11): Center for Work-Life Policy(非営利シンクタンク)代表。
33、Fons Trompenaars(41、42):異文化間グローバル人材戦略を研究。
34、Morten Hansen(28、-):○、J.Collinsとの共著「Great by Choiceビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる)」を本ブログで紹介しました。
35、Tammy Erickson(29、33):職場における世代ギャップ、協力、イノベーションが専門。
36、Jennifer Aaker(-、-):社会心理学者。意思決定、ネットワークを通じたアイデアの移転を研究。
37、John Kotter(32、34):変革のマネジメント、リーダーシップ論で有名。近著は「Accelerate: Building Strategic Agility for a Faster-Moving World (2014)」。
38、Zhang Ruimin(-、-):HaierグループCEO2015 Ideas-Practice Award受賞。
39、Subir Chowdhury(40、50):シックスシグマの著書あり。ASI Consulting GroupCEOChairman
40、Nirmalya Kumar(20、26):タタグループのDirector of strategy。近著は「Brand Breakout (2013)
41、Sydney Finkelstein(43、-):リーダーシップ、戦略が専門。有能な経営者の失敗分析で有名。
42、Julian Birkinshaw(39、-):ロンドンビジネススクール教授。近著は「Becoming a Better Boss」。
43、Liz Wiseman(48、-):リーダーシップ研究のWiseman Group代表。2015 Leadership Award候補。
44、Doug Ready(49、-):International Consortium for Executive Development Research創立者。2015 Talent Award候補。
45、Umair Haque(35、49):コンサルタント。2015 Digital Thinking Award候補。
46、Hal Gregersen(-、-):◎、「イノベーションのDNA」共著者。2015 Leadership Award候補。
47、Anil Gupta(44、-):メリーランド大学教授。China India Instituteのアドバイザー。
48、Nilofer Merchant(-、-):○、近著は「11 Rules for Creating Value in the #SocialEra (2012)」。2015 Digital Thinking Award候補。スタンフォード大(Santa Clara)で教えている。
49、Whitney Johnson(-、-):Springboard Fund設立者兼Managing Director。「Disrupt Yourself (R): Putting the Power of Disruptive Innovation to Work」が2015年刊行予定。2015 Talent Award候補。
50、Amy Cuddy(-、-):社会心理学者。近著は「Presence: Bringing Your Boldest Self to Your Biggest Challenges (2015)」。2015 Leadership Award候補。

Lifetime Achievement Award
Henry Mintzberg氏に授与されています。また、今回新たにHall of Fameメンバーになったのは、Edger H Schein, Edward E. Lawler III, Andrew Kakabadse, Rosabeth Moss Kanter, Richard Rumelt, Ram Charanの各氏となっています(これらの諸氏はランキングには載りません)。
また、Distinguished Achievement Award受賞者のうち、上記ランキングに含まれていない方々は以下の通り。
Rader Thinker Award: Erin Meyer
(「Culture Map (2014)」著者)
Breakthrough Idea Award: Rachel Botsman
Collaborative Consumption

今回のランキングで注目すべきことは、イノベーションの方法論を議論した人々が高く評価されていることでしょう。リーン・スタートアップのBlankRies、ビジネスモデルキャンバスのOsterwalderPigneurはいずれもランキング初登場ですが、かなり高位にランキングされています。イノベーションに適した仕事の進め方が明らかになってきているということかもしれません。

ちなみに、Innovation Awardの受賞者と候補者リストは以下のとおりです。今回ランキング入りしたOsterwalderPigneur2013Innovation Award候補者に入っていましたので、要注目かもしれません。
受賞者:
Linda Hill(上記参照)
候補者:
Scott Anthony:「The First Mile」著者。
Alexa Clay & Kyra Maya Phillips:「Misfit Economy (2015)」著者。
Rowan Gibson:「Four Lenses of Innovation (2015)」著者。
Vijay Govindarajan(上記参照)
Gary Pisano:「Producing Prosperity (2012)」著者。
Alf Rehn:「Trendspotting (2013)」共著者。
Juan Pablo Vazquez SampereIEビジネススクール教授。


文献1:「The Thinkers50webページ
http://www.thinkers50.com/



集合天才を導く(ヒル他著、「グーグルを成功に導いた『集合天才』のリーダーシップ」DHBR2015年5月号より)

イノベーションは優れた能力を持つ天才によって導かれるのか。あるいは、天才は必ずしも必要ではなく、
多くの人の協力によって成し遂げられるのか。どちらの場合もありうる、というのが実際のところでしょうが、そのマネジメントの方法は自ずと異なるはずです。今回は、組織として多くの人の協力によってイノベーションを導く方法について考察した論文、ヒル、ブランドー、トゥルーラブ、ラインバック著「グーグルを成功に導いた『集合天才』のリーダーシップ」[文献1]に基づいて、イノベーションを生み出す組織のマネジメントについて考えてみたいと思います。

論文の題にある「集合天才」(原著では”Collective Genius”)という言葉は広く用いられている用語ではないと思いますので、まずはその意味を確認しておきましょう。「『集合天才』とは一人の天才の出現に頼らず、組織のメンバーの才能を集めることでよい結果を出そうという考え方だ。」とのことであり、「この言葉の起源はゼネラル・エレクトリックの組織運営にある。・・・集合天才として機能するためには、個々の才能や蓄積された情報が有機的に結びつくことが必要であり、そのための環境やプロセスの構築が必要とされている。」とのことです。邦訳論文の表題からは、グーグルの事例分析のように思われるかもしれませんが、原著論文の表題は単に”Collective Genius”なので、一般的な考察を意図した論文と考えるべきでしょう。以下、著者の主張のポイントをまとめておきたいと思います。

著者らの研究の意図は、「より革新的な組織をつくるうえでリーダーが果たす役割」とのことで、その背景には次のような認識があります。「方向性を定めるリーダーシップは、問題の解決法がすでにわかっており、単純な場合にはうまく機能する。しかし、本当に独創的な対応を必要とする問題の場合、どのように対応すべきかを前もって決められる者はいない。ならば当然、人々にビジョンを受け入れさせ、ともかく実行させるという方法でイノベーションを引っ張ることは不可能だ。・・・才能豊かな人材が集まる企業でリーダーとして行動し、組織をつくり上げていくうえで、リーダーはメンバーから『天才の片鱗』を引き出し、集合天才と呼ばれるイノベーションにまとめ上げることもできるだろう。問題は『いかにイノベーションを引き起こすか』ではなく、むしろ『イノベーションが起こる舞台をいかに設定するか』なのだ」。「イノベーションが生まれる時はたいてい、まず、さまざまな人間が協働して多岐にわたる多種多様なアイデアを生み出し、次いで意見交換やしばしば白熱する議論を通じてそれらを磨き、さらには新たなアイデアにまで進化させる。このような協働には、激しい意見の対立があるはずだ。・・・緊張やストレスが生まれることもある。・・・多様性を最低限に抑えるなど、抑制を試みる企業も多いが、それではイノベーションに必要な、アイデアの自由な発現と十分な討論を阻害するだけである。リーダーはこの緊張感をうまくコントロールして、メンバーが互いの天分をすすんで共有するほど協力的でありながら、アイデアを改善し新たな思考をもたらすような対立的な環境をつくり出さなければならない」。「イノベーションはまた、試行錯誤が必要である。・・・イノベーションリーダーは、臨機応変な対応と現実に上がっている成果との間でうまくバランスが保たれている環境をつくり出す。結局、新しいものや有用なものの創造においては、二者択一的思考法から両面的思考法に移行しなければならない」。「また、リーダーは、組織のあらゆる部署のメンバーから素晴らしいアイデアを生まれてくるまで、忍耐強く待たなければならない。それと同時に、社員に切迫感を持たせ、条件を明確に定めて、実際に統合的な意思決定が下せるようにしなければならない」。

集合天才のイノベーションを生み出す舞台をどう作り上げるかについて、著者は、イノベーションへの意欲を育むことと、組織のイノベーション能力を構築することが重要であるとしています。


イノベーションへの意欲を育む
・「意欲を育むために、リーダーは目的、価値、取り組みのルールを共有する共同体をつくる必要がある。」
・目的:「目的とは、『グループが何をするか』ではない。『グループのメンバーは誰か』、あるいは『なぜ存在するのか』ということだ。それは集団としてのアイデンティティの問題である。目的のためにこそ社員はすすんでリスクを取り、イノベーションにつきものの重労働もいとわない。」
・価値の共有:「共同体を形成するためには、何が重要かについてメンバーに合意がなければならない。グループの優先事項や選択肢をはっきりさせることで、価値が個人および集団の思考と行動に影響を与える。価値は共同体により異なるが、真に革新的な組織ならば必ず共有されている価値があるようだ。それは、大胆な野心、共同体に対する責任、協働、学習の4つである。」
・取り組みのルール:「取り組みのルールによってメンバーはすべきことに集中し、非生産的な行動を抑制して、イノベーションを育む活動が促されるようになる。・・・協働につきものの緊張感は、進捗を遅らせる可能性があるばかりか、創造的な共同体を分裂させてしまうおそれさえある。取り組みのルールはこれらの破壊的な力を制御するのに役立つ。たとえば、対立の焦点を人の問題ではなく、見解に置くことができる。研究対象となったいずれの組織でも、リーダーはルールを確立し守らせるために、必要とあれば強権的になることもいとわなかった。一般的に取り組みのルールは2つに分類される。第一のカテゴリーは交流の仕方に関するもので、相互が信頼し尊重し、影響を与えあうことを求めている。共同体の誰もが声を発することができ、経験の浅い者や入社して間もない者であっても決定に影響力を持つことが許されるべきだという考え方である。第二のカテゴリーは考え方に関するものであり、すべての者が何事に対しても疑問を持ち、データを根拠として全体を見ることを要求するルールである。」

イノベーションの能力を構築する
・「イノベーションを育むには意欲が必要であるが、それだけでは十分ではない。企業自体にもイノベーション能力が必要とされる。そのために『創造的摩擦』『創造的敏捷性』『創造的決断』という3つのケイパビリティを開発しなければならない。協働には『創造的摩擦』(対話や議論を通じてアイデアを生み出す能力)が必要である。発見主導型の学習には、『創造的敏捷性』(迅速な追求、見直し、調整を通じてテストし実験を行う能力)が必要である。統合的意思決定には、『創造的決断』(本質的に異なる、場合によっては正反対でさえあるアイデアを組み合わせるような意思決定の能力)が必要である。」
・創造的摩擦:「創造的摩擦には、知的多様性と知的対立という2つの要素が必要である」。例えば、「リーダーの言うことを何でも称賛し実行するだけの組織ではなく、リーダーと論争するような組織」。
・創造的敏捷性:創造的敏捷性の3段階は、「我々が研究したほぼすべてのリーダーが推奨するものである。第一段階では、新たなアイデアを迅速に追求し、積極的に多角的な実験を進める・・・ここでは多少の計画立案も行なわれたが、アイデアが実際どのように機能するか、データ収集のほうがはるかに重視された。第二段階では、これらの実験結果を熟考し、そこから学ぶことが期待された。第三段階では、その結果に基づいて計画とアクションを調整し、最終的に解決法が明らかとなるか、基本的アプローチがうまくいかないことが明確になるまで、この新しい知識の導入サイクルを繰り返すことを期待した。」

イノベーションにおける二項対立
・「これまでにない問題解決のために肝要なのは、各メンバーから『天才の片鱗』を引き出すこと、それらを集合天才にまとまるよう活用することの2つである。・・・我々の研究では、イノベーションにおける6つの二項対立が特定された。リーダーにとっての課題は、各対立項の間でたえず調整ができるよう、組織を支援することである。
・6つの二項対立
 「個人の肯定」と「グループの肯定」
 「支援」と「対決」
 「実験および学習の促進」と「業績」
 「即興性の奨励」と「制度」
 「忍耐」と「切迫感」
 「ボトムアップの取り組みの奨励」と「トップダウンの介入」
・「二項対立の後者側に偏るリーダーは社員の『天才』を完全に引き出すことはけっしてできない。・・・前者に偏るリーダーは、試すべきたくさんのアイデアや選択肢を得られるが、それらを有益な新しい解決法に変えることができず、チームは対立と混乱に支配されるだろう。・・・多くのリーダーにとって、一方の極をもう一方よりも好まずにいるのは難しい。たえず再調整していくには、絶妙な判断と勇気と粘り強さが必要である。真に新しく有用な解決法を発見することは簡単ではない。それは、イノベーションのプロセスが非常に複雑で、これら二項対立に内在する緊張に満ちているためでもある。」
―――

「集合天才」という概念は、「集合知」や、イノベーションにおける「協力」とも関係するものと考えられますが、特定の組織がメンバーの持つ天才の片鱗を組み合わせて新たなイノベーションを生み出す、という意味において、単なる「多数の意見」や「分業による協力」とは一線を画すものであると思います。「集合知」や「協力」という概念の中から、イノベーション実現にとって重要な要素を抽出してまとめたものが「集合天才」という概念と言えるかもしれません。そして、その集合天才を活用するための組織運営のあり方を整理し、提言しているところが本論文の特徴なのだろうと思います。野中郁次郎氏らによる「組織的知識創造」の考え方とも重なる部分があると思いますが、野中氏らは、知識が創造されるプロセスに注目しているのに対し、本論文では、知識創造のための組織やリーダーシップのあり方に言及している点で、実務家にとっても参考になる点が多いと感じました。

ただ、本論文だけでは、そこに述べられた方法論がどの程度の根拠に基づいているのかは残念ながらはっきりしません。なぜ著者らは数多くのマネジメントのポイントから上記の方法をまとめあげたのか、他にも注意すべき点があるのではないか、この議論の汎用性はどの程度あるのか、著者が提案している二項対立の調整をはじめとする具体的スキルはどのようなものなのか、なども知りたいところです。著者らによる本「Collective Genius」(2014年刊、未訳)があるようなので、恐らくそこにはもう少し詳しい著者らの研究成果がまとめられているのではないかと思います。

いずれにしても、イノベーションを生み出すためには、従来理想とされてきたような組織やリーダーシップでは不適当な場合があることは肝に銘じておくべきなのではないか思います。


文献1:Linda A. Hill, Greg Brandeau, Emily Truelove, Kent Lineback、リンダ・A・ヒル、グレッグ・ブランドー、エミリー・トゥルーラブ、ケント・ラインバック著、飯野由美子訳、「イノベーションを生み出し続ける組織 
グーグルを成功に導いた『集合天才』のリーダーシップ」、Diamond Harvard Business Review, 2015 5月号、p.98.
原著:”Collective Genius”, Harvard Business Review, 2014 June.

参考リンク



Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2013年)

Thinkers50は、2年に一度発表される存命中の経営思想家のランキングです。本ブログでも2011リストを紹介しましたが、先日2013年の調査結果が発表されました[文献1]。評価項目は、アイデアの妥当性、研究の厳密さ、アイデアのプレゼンテーション、アイデアの普及、国際的展望、アイデアの独創性、アイデアのインパクト、アイデアの実用性、ビジネスセンス、影響力で、前回同様webサイトでの投票と、Stuart CrainerDes Dearloveをリーダーとするアドバイザーチームの意見によって順位が決定されています。

学問的な観点からの経営学者の評価ではありませんが、実務家から見た評価や最新の考え方の動向を知る上で参考になるのではないかと思います。前のブログ記事同様、独断ですが、イノベーションに関する貢献が大きいと考えられる思想家に、◎(極めて重要)、○(重要)をつけてみました。以下のコメントは、主にThinkers50webページの紹介に基づいていますが、若干追記させていただいたところがあります。ベスト50のリストは以下のとおりです。

Thinkers502013年の結果(カッコ内は2011年の順位)
1、Clayton Christensen(1):◎、「破壊的イノベーション」理論の提唱者。2011年につづく連続第1位。2012年刊の「イノベーション・オブ・ライフ」は、Thinkers50 Best Book Award候補。
2、W. Chan Kim & Renée Mauborgne(2):○、「ブルーオーシャン戦略」の提唱者。現在はINSEAD Blue Ocean Strategy Instituteをマレーシア、南ア等に展開。Thinkers50 Global Solutions Award候補者。
3、Roger Martin(6):○、インテグレーティブシンキングで有名。A.G.Lafleyとの共著「Playing to Win(邦訳、P&G式『勝つために戦う』戦略)(2013)」がThinkers50 Book Award受賞。
4、Don Tapscott(9):○、デジタルネイティブ、ウィキノミクスで有名。ビジネスや社会への技術の影響、イノベーション、メディア、国際化などに関する権威の一人。Thinkers50 Global Solutions Award受賞。

5、Vijay Govindarajan(3):◎、近著「リバースイノベーション」については本ブログでも取り上げました。Thinkers50 Innovation Award候補者。
6、Rita McGrath(19):○、「仮説のマネジメント」「仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning)」で有名。Strategy Award受賞。近著「The End of Competitive Advantage (2013)」がBook Award候補。
7、Michael Porter(5):5つの力のフレームワークで有名。2005年のThinkers50トップ。最近では、shared valueの概念を提唱、企業は株主だけでなく社会にとっての価値創造も行なうべきと主張。
8、Linda Hill(16):○、ハーバードビジネススクール教授。Thinkers50 Leadership Award候補者。管理職、リーダーシップを研究。近著は「Collective Genius: The Art and Practice of Leading Innovation」。
9、Herminia Ibarra(28):「キャリア・チェンジ」で有名。Thinkers50 Leadership Award受賞。
10、Marshall Goldsmith(7):エグゼクティブコーチ、360度フィードバック、MOJOで有名。
11、Pankaj Ghemawat(27):Global Connectedness Indexにより、Global Solutions Award候補者に選出。
12、Jim Collins(4):○、「ビジョナリーカンパニー」シリーズの著者。最新の著作「Great by Choiceビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる)」がBook Award候補。
13、Daniel Pink(29):「ハイ・コンセプト」「モチベーション3.0」で有名。新著「To Sell is Human(人を動かす、新たな3原則)(2012)」がBook Award候補。
14、Lynda Gratton(12):ロンドンビジネススクール教授。新著は新しい働き方を提示した2011年発表の「The Shift(ワーク・シフト)」。Global Solutions Award候補者。
15、Amy Edmondson(35):チームワークを研究。新著は「Teaming」(2012)。Leadership Award候補者。ハーバードビジネススクール教授。
16、Sylvia Ann Hewlett(11): Center for Work-Life Policy(非営利シンクタンク)代表。新著は「Forget a Mentor, Find a Sponsor」(2013)。
17、Richard D’Aveni(21):戦略論が専門。ハイパーコンペティションやコモディティ化などを検討。Strategy Awardの候補者。新著「Strategic Capitalism (2012)」がBook Award候補。
18、Marcus Buckingham(8):自分の強みを発揮する、という考え方で有名。新著は「Stand Out」。
19、Gary Hamel(15):プラハラードとの共著「コア・コンピタンス経営」で有名。
20、Nirmalya Kumar(26):ロンドンビジネススクール教授(マーケティング)から最近タタグループへ。
21、Nitin Nohria(13):ハーバードビジネススクール学部長。リーダーシップの研究者。
22、Teresa Amabile(18):○、ハーバードビジネススクール教授。創造性、モチベーションなどを研究。
23、Richard Rumelt(20):経営戦略論、多角化戦略、RBVResource Based View)で有名。Strategy Award候補者。新著は「良い戦略、悪い戦略」(2012年)。
24、Jeffrey Pfeffer(22):「権力」「事実に基づく経営」などが有名。
25、Richard Florida(-):○、「The Rise of the Creative Class」著者。トロント大学。
26、A.G. Lafley(-):○、P&GCEOを2010年に引退、R.Martinとの共著「Playing to Win(邦訳、P&G式『勝つために戦う』戦略」がThinkers50 Book Award受賞。2013年5月にP&Gに復帰。
27、Stewart Friedman(45):リーダーシップ、work/lifeの統合などの専門家。Leadership Award候補者。新著は「Baby Bust: New Choices for Men and Women in Work and Family (2013)」。
28、Morten Hansen(-):○、J.Collinsとの共著「Great by Choiceビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる)」がBook Award候補。UCBerkeleyおよびINSEAD教授。ボストンコンサルティング出身。
29、Tammy Erickson(33):職場における世代ギャップ、世代交代、労働力変化を研究。
30、David Ulrich(23):人事、人材育成戦略が専門。新著は「The Why of Work (2011)」。
31、Liu Chuanzhi(-):LENOVOの創業者。Leadership Award候補者。
32、John Kotter(34):変革のマネジメント、リーダーシップ論で有名。
33、Chip Heath & Dan Heath(-):本ブログでも「アイデアのちから」「スイッチ!」を取り上げました。
34、Sheryl Sandberg(-):FacebookCOO。「Lean In」でBook Award候補。
35、Umair Haque(49):コンサルタント。「The New Capitalist Manifesto (2011)」の著者。
36、Daniel Goleman(39):心の知能指数EQ(原著ではEIEmotional Intelligence)で有名。
37、Henry Chesbrough(38):◎、「オープンイノベーション」提唱。Innovation Awardの候補者。
38、Rosabeth Moss Kanter(25):企業変革、リーダーシップ、responsible capitalismなどを研究。
39、Julian Birkinshaw(-):ロンドンビジネススクール教授。HamelManagement Innovation Lab設立。
40、Subir Chowdhury(50):The Economics of Qualityの考え方でBreakthrough Idea Award候補。
41、Fons Trompenaars(42):異文化間グローバル人材戦略を研究。
42、Chris Zook(-):Bain & Coパートナー。新著「Repeatability (2012)」などで単純化の重要性を指摘。
43、Sydney Finkelstein(-):なぜ有能な経営者が失敗するかなどを研究。
44、Anil Gupta(-):H.Wangとの共著「Getting China and India Right」でGlobal Solutions Award候補。
45、Andrew Kakabadse(44):企業トップ層、取締役会、ガバナンス等を研究。Leadership Award候補。
46、Rakesh Khurana(41):リーダーシップ、CEO、カリスマなどを研究。
47、Celia De Anca(-):イスラム圏を含むグローバル化を研究。Global Solutions Award候補。
48、Liz Wiseman(-):Oracleの前役員。近著は「Multipliers」など。Leadership Award候補。
49、Doug Ready(-):International Consortium for Executive development Research創立者。
50、Wang Shi(-):中国の世界最大の住宅デベロッパーVanke(万科)創設者。

なお、野中郁次郎氏が、Lifetime Achievement Awardを受賞されました。また、今回から、Hall of Fameが設けられ、そこに選出されるとリストには載らなくなりました。今回発表されたHall of Fameメンバーは、Chris ArgyrisWarren BennisHoward GardnerCharles HandyRobert Kaplan and David NortonPhilip KotlerHenry Mintzberg、野中郁次郎、大前研一、Tom Petersです。Hall of Fameメンバー以外で、前回リストに選出されながら、今回選に漏れた人々の中には、Malcolm GladwellSeth GodinAdrian SlywotzkyStephen Coveyなどが含まれています。今回は実証的、実践的な思想家が高く評価されたということかもしれません。

今回の傾向として、前回よりもさらにイノベーションの重要性が評価されている印象を受けました。上位ランクの思想家にイノベーションを研究対象にしている人が多く選ばれたことは、その表れのように思われます。また、新興国を含めたグローバル化が注目されていることも今回の特徴でしょう。新興国への注目は前回リストでも見られましたが、今回は、中国の思想家が2人リスト入りしています。どちらも思想家というより、経営者としての実践面での評価が大きかったと思われますが、経営思想のグローバル化が今後も進んでいくことを示唆しているのかもしれません。これに対して、日本の思想家がHall of Fameの2名しかリストアップされていない、というのはやや寂しく感じられます。もちろん、思想が注目されることと、実践面で成功することは同一ではないとは思いますが、日本での成果を世界につなげていくことも期待したいところです。

なお、Innovation Awardの受賞者と候補者リストは以下のとおりです。上記の50名のリストには入っていない人もいますが、研究開発を考える上で要注目だと思います。
受賞者:
Navi Radjouthe Centre for India & Global Businessの前所長、Jaideep PrabhuSimone Ahujaとの共著「Jugaad Innovation: Think Frugal, Be Flexible, Generate Breakthrough Growth (2012)」、Prasad Kaipaとの共著「From Smart to Wise (2013)」が注目されています。
候補者:
Ron Adner:「The Wide Lens: A New Strategy for Innovation (2012)」著者。
Henry Chesbrough(上記参照)
Vijay Govindarajan(上記参照)
Hal GregersenChristensenとの共著「Innovator’s DNA: Mastering the Five Skills of Disruptive Innovators (2011)」著者。
Matt Kingdon:「The Science of Serendipity: How to Unlock the Promise of Innovation in Large Organizations (2012)」著者。
Kai-Fu Lee:北京のベンチャーキャピタリスト。「Making a World of Difference (2011)」著者。
Alexander Osterwalder & Yves Pigneur:「Business Model Generation: A Handbook for Visionaries, Gamechangers and Challengers (2010)」著者。


文献1:「The Thinkers50webページ
http://www.thinkers50.com/




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