研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

Martin

Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2015年)

2年に一度発表される経営思想家のランキングThinkers50については本ブログでも2011年のリスト2013年のリストを紹介しましたが、2015年の結果が発表されました[文献1]。順位の決め方は前回同様、アイデアの妥当性、研究の厳密さ、アイデアのプレゼンテーション、アイデアの普及、国際的展望、アイデアの独創性、アイデアのインパクト、アイデアの実用性、ビジネスセンス、影響力を評価項目とし、webサイトでの投票と、Stuart CrainerDes Dearloveをリーダーとするアドバイザーチームの意見によってランキング化しているとのことです。

ベスト50のリストは以下のとおりです。以前のブログ記事同様、独断ですが、イノベーションに関する貢献が大きいと考えられる思想家に、◎(極めて重要)、○(重要)をつけてみました。なお、以下のコメントは、主にThinkers50webページの紹介に基づいていますが、それ以外の情報を加えているところもあります。

Thinkers502015年の結果(カッコ内は2013年順位、2011年の順位)
1、Michael Porter(7、5):5つの力のフレームワークで有名ですが、その後提唱したshared valueの概念は資本主義の再評価につながると期待されているそうです。
2、Clayton Christensen(1、1):◎、「破壊的イノベーション」理論の提唱者。2012年刊の「イノベーション・オブ・ライフ」は、本ブログでも紹介しました。
3、W. Chan Kim & Renée Mauborgne(2、2):○、「ブルーオーシャン戦略」の提唱者。現在はINSEAD Blue Ocean Strategy Instituteを展開。2015 Breakthrough Idea Award候補。
4、Don Tapscott4、9):○、デジタルネイティブ、ウィキノミクスで有名。ビジネスや社会への技術の影響に関する権威。新著「Blockchain Revolution」は2016年刊行予定。2015 Digital Thinking Award候補。
5、Marshall Goldsmith(10、7):エグゼクティブコーチ。360度フィードバック、MOJOで有名。近著はベストセラーの「Triggers:
Creating Behavior That Lasts--Becoming the Person You Want to Be」。
6、Linda Hill(8、16):○、ハーバードビジネススクール教授。専門はリーダーシップ。近著は「Collective Genius」。HBR掲載の同名論文(集合天才)は本ブログでも紹介しました。Innovation Award受賞。
7、Roger Martin(3、6):○、インテグレーティブシンキングで有名。A.G.Lafleyとの共著「Playing to WinP&G式『勝つために戦う』戦略(2013)」は本ブログで紹介しました。2015 Social Enterprise Award受賞(Sally Osbergと共同)。
8、Herminia Ibarra(9、28):INSEAD教授。リーダーシップを研究。近書は「Act Like a Leader, Think Like a Leader (2015)」。2015 Leadership Award候補。
9、Rita McGrath(6、19):○、「仮説のマネジメント」「仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning)」で有名。2015 Strategy Award候補。近著は「The End of Competitive Advantage (2013)」。
10、Daniel Pink(13、29):「ハイ・コンセプト」「モチベーション3.0」で有名。近著は「To Sell is Human(人を動かす、新たな3原則)(2012)」。
11、Richard D’Aveni(17、21):戦略論が専門。Dartmouth大学教授。ハイパーコンペティションやコモディティ化などを検討。2015 Strategy Award候補。近著は「Strategic Capitalism (2012)」。
12、Eric Ries(-、-):◎、シリコンバレーの起業家でもある。リーン・スタートアップで有名。本ブログでも著書(「リーン・スタートアップ」、邦訳2012)を紹介しました。
13、Vijay Govindarajan(5、3):◎、本ブログでも、「リバースイノベーション」、「イノベーションを実行する」、「はじめる戦略」を取り上げています。2015 Innovation Award候補者。
14、Richard Florida(25、-):○、「The Rise of the Creative Class」著者。トロント大学Martin Prosterity Instituteディレクター。
15、Alexander Osterwalder and Yves Pigneur(-、-):◎、2015 Strategy Award受賞。「ビジネスモデル・ジェネレーション」でBusiness Model Canvasというツールを紹介。この本および近著の「バリュー・プロポジション・デザイン」を本ブログで紹介しました。
16、Amy Edmondson(15、35):ハーバードビジネススクール教授。チームワークを研究。近著の「Teamingチームが機能するとはどういうことか)」(2012)は本ブログで取り上げました。
17、Jeffrey Pfeffer(24、22):スタンフォード大学教授。権力の研究、事実に基づく経営、resource dependence theoryなどで有名。
18、Martin Lindstrom(-、-):ブランドのエキスパート。新著は「Small Data2016)」。
19、Pankaj Ghemawat(11、27):専門はグローバリゼーション。Stern school (New York)IESEビジネススクール(スペイン)教授。2015 Strategy Award候補。
20、Steve Blank(-、-):◎、リーン・スタートアップの基礎を築き、UCバークレー校で教え始めた起業家。共著に「The Startup Owner’s Manual (2012)」がある。
21、Teresa Amabile(22、18):○、ハーバードビジネススクール教授。創造性、モチベーションなどを研究。
22、Daniel Goleman(36、39):心の知能指数EQ(原著ではEIEmotional Intelligence)で有名。近著は「Focus: Hidden Driver of Excellence (2013)」。
23、Seth Godin(-、17):マーケティングのエキスパート。パーミッションマーケティングで有名。近著は「The Icarus Deception: How High Will You Fly? (2012)
24、Henry Chesbrough(37、38):◎、「オープンイノベーション」提唱。UCバークレー校外部教授。
25、Adam Grant(-、-):ペンシルバニア大(Wharton)教授。「GIVE & TAKE2013)」著者。
26、Erik Brynjolfsson & Andrew McAfee(-、-):MIT教授と研究員。デジタル技術の経済や社会への影響を研究。「機械競争」は本ブログでも紹介しました。
27、David Ulrich(30、23):人事、人材育成戦略が専門。2015 Breakthrough Idea Award候補。
28、Jim Collins(12、4):○、「ビジョナリーカンパニー」シリーズの著者。「Great by Choiceビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる)」は本ブログでも紹介しました。
29、Stewart Friedman(27、45):リーダーシップ、work/lifeの統合などの専門家。2015 Talent Award受賞。新著は「Leading the Life You Want: Skills for Integration Work and Life (2014)」。
30、Gary Hamel(19、15):プラハラードとの共著「コア・コンピタンス経営」で有名。
31、Lynda Gratton(14、12):ロンドンビジネススクール教授。近著は「Shift2011)」。
32、Sylvia Ann Hewlett(16、11): Center for Work-Life Policy(非営利シンクタンク)代表。
33、Fons Trompenaars(41、42):異文化間グローバル人材戦略を研究。
34、Morten Hansen(28、-):○、J.Collinsとの共著「Great by Choiceビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる)」を本ブログで紹介しました。
35、Tammy Erickson(29、33):職場における世代ギャップ、協力、イノベーションが専門。
36、Jennifer Aaker(-、-):社会心理学者。意思決定、ネットワークを通じたアイデアの移転を研究。
37、John Kotter(32、34):変革のマネジメント、リーダーシップ論で有名。近著は「Accelerate: Building Strategic Agility for a Faster-Moving World (2014)」。
38、Zhang Ruimin(-、-):HaierグループCEO2015 Ideas-Practice Award受賞。
39、Subir Chowdhury(40、50):シックスシグマの著書あり。ASI Consulting GroupCEOChairman
40、Nirmalya Kumar(20、26):タタグループのDirector of strategy。近著は「Brand Breakout (2013)
41、Sydney Finkelstein(43、-):リーダーシップ、戦略が専門。有能な経営者の失敗分析で有名。
42、Julian Birkinshaw(39、-):ロンドンビジネススクール教授。近著は「Becoming a Better Boss」。
43、Liz Wiseman(48、-):リーダーシップ研究のWiseman Group代表。2015 Leadership Award候補。
44、Doug Ready(49、-):International Consortium for Executive Development Research創立者。2015 Talent Award候補。
45、Umair Haque(35、49):コンサルタント。2015 Digital Thinking Award候補。
46、Hal Gregersen(-、-):◎、「イノベーションのDNA」共著者。2015 Leadership Award候補。
47、Anil Gupta(44、-):メリーランド大学教授。China India Instituteのアドバイザー。
48、Nilofer Merchant(-、-):○、近著は「11 Rules for Creating Value in the #SocialEra (2012)」。2015 Digital Thinking Award候補。スタンフォード大(Santa Clara)で教えている。
49、Whitney Johnson(-、-):Springboard Fund設立者兼Managing Director。「Disrupt Yourself (R): Putting the Power of Disruptive Innovation to Work」が2015年刊行予定。2015 Talent Award候補。
50、Amy Cuddy(-、-):社会心理学者。近著は「Presence: Bringing Your Boldest Self to Your Biggest Challenges (2015)」。2015 Leadership Award候補。

Lifetime Achievement Award
Henry Mintzberg氏に授与されています。また、今回新たにHall of Fameメンバーになったのは、Edger H Schein, Edward E. Lawler III, Andrew Kakabadse, Rosabeth Moss Kanter, Richard Rumelt, Ram Charanの各氏となっています(これらの諸氏はランキングには載りません)。
また、Distinguished Achievement Award受賞者のうち、上記ランキングに含まれていない方々は以下の通り。
Rader Thinker Award: Erin Meyer
(「Culture Map (2014)」著者)
Breakthrough Idea Award: Rachel Botsman
Collaborative Consumption

今回のランキングで注目すべきことは、イノベーションの方法論を議論した人々が高く評価されていることでしょう。リーン・スタートアップのBlankRies、ビジネスモデルキャンバスのOsterwalderPigneurはいずれもランキング初登場ですが、かなり高位にランキングされています。イノベーションに適した仕事の進め方が明らかになってきているということかもしれません。

ちなみに、Innovation Awardの受賞者と候補者リストは以下のとおりです。今回ランキング入りしたOsterwalderPigneur2013Innovation Award候補者に入っていましたので、要注目かもしれません。
受賞者:
Linda Hill(上記参照)
候補者:
Scott Anthony:「The First Mile」著者。
Alexa Clay & Kyra Maya Phillips:「Misfit Economy (2015)」著者。
Rowan Gibson:「Four Lenses of Innovation (2015)」著者。
Vijay Govindarajan(上記参照)
Gary Pisano:「Producing Prosperity (2012)」著者。
Alf Rehn:「Trendspotting (2013)」共著者。
Juan Pablo Vazquez SampereIEビジネススクール教授。


文献1:「The Thinkers50webページ
http://www.thinkers50.com/



「P&G式『勝つために戦う』戦略」(ラフリー、マーティン著)より

アラン・ラフリー氏がCEOとして率いるP&Gのマネジメントについては、今までにも2回取り上げました(P&Gのすごさ-ニュー・グロース・ファクトリー戦略策定の科学的アプローチ)。今回は、近著「P&G式『勝つために戦う』戦略」(アラン・ラフリー、ロジャー・マーティン著)[文献1]に基づいて、P&Gの近年の躍進を支えた戦略について考えてみたいと思います。

戦略とは
著者らは、「手短に言えば、戦略とは選択である。もう少し具体的に言えば、戦略とはある企業を業界において独自のポジションに位置付け、それによって、競争相手に対して、持続可能な優位性やより優れた価値を生み出すもの[p.14]」と述べ、「本当に重要なことは勝つことである。偉大な組織・・・は、・・・勝利を選択している[p.16]」と述べています。しかし、「選択をするのは苦しい・・・明確で、選り抜かれた、敢然とした勝利の戦略を持っている企業は少なすぎると思う。・・・行動重視の組織の場合、えてして思考は二の次になる[p.14]」とし、その結果、取捨選択のできないビジョンを戦略としたり、競争優位性が強まるわけではない単なる計画を戦略としてしまったり、世の中の変化が急速だからといって戦略を立てられないとしてしまったり、単なる改善を戦略としたり、ベンチマーキングによって競争相手と同じことを戦略にしてしまったり、という過ちを犯すと述べています[p.14-16]。

著者らの戦略
・「戦略の核心は勝利であるべきだ。私たちの表現によれば、戦略とは調和し統合された5つの選択である。勝利のアスピレーション(憧れ)、戦場選択、戦法選択、中核的能力、そして経営システムである。・・・この5つの選択は戦略的選択カスケード(滝)を構成する[p.17]」。これに、戦略的選択を生むための枠組み「戦略的論理フロー」と、相容れない戦略的選択に折り合いをつけるための「リバース・エンジニアリング」と呼ばれるプロセスが一緒になって、「どんな組織にも通用する戦略の組み立てのプレーブック(兵法)を構成している[p.17]」。
・「一貫性ある選択の積み重ねが、業界内の独特のポジションと競争相手への持続的な優位性、より優れた価値を持たせてくれる[p.28]」。
・「戦略を決するには、何をし、何をしないのかを選べ」、「5つの選択をまとめてやれ。・・・実行可能で行動的で持続的な戦略を作るには、5つの選択全てにまとめて答えなければならない」、「戦略を双方向のプロセスと考えよ。カスケードのある段階で知見を得るごとに、他の段階の選択を考えなおさなければならないかもしれない」、「唯一完璧な戦略などないと知れ。自分にとって有効な明らかな選択を見いだせ」[p.50-51

以下、それぞれの要素についてまとめます。
勝利のアスピレーション(第2章)
・「アスピレーション(憧れ)は、組織の目標を導く[p/54]」。「どんな勝利を望んでいるのか?――は他のすべての枠組みをもたらす。・・・有用だが抽象的でもある勝利というコンセプトは、アスピレーションとしてしっかりと定義されなければならない。[p.33]」
・「ある業界の価値創造の不釣り合いなほどの大部分は、業界のリーダーが得る」。「企業が勝利のためにではなく、漫然と参戦した場合には、厳しい選択と膨大な投資を強いられ、勝利の可能性はますます低くなる。穏やか過ぎる目標は、高すぎる目標よりもずっと危険なのである。」[p.55
・「大半のリーダーは選択を好まない・・・選択肢を温存したがるのだ。選択は任意の行動を強い、それに拘束され、嫌と言うほど個人的なリスクを生み出すからだ。・・・選択をする代わりに選択肢を考え、勝利を定義する苦しみを避けることによって、こうしたリーダーは勝利よりも単なる参戦を選んでいる。これではせいぜい業界平均並みの業績を上げることしか望めない[p.69]」

・「従業員や消費者にとって意味のあるアスピレーションを描け・・・組織が何のために存在するかについての、より深い意味につながるものだ」、「製品ではなく消費者からスタートせよ」、「ここで立ち止まるな。アスピレーションは戦略ではない。単にカスケードの第一段階に過ぎない」[p.68-69

戦場(第3章)、どこで戦うか
・「どこで戦うかと、どうやって戦うか・・・は、互いに緊密に結び付いており、戦略のまさに中核を成す」。「戦場とは、競争の場を絞り込む一連の選択を意味している」。「どの戦場を選べば最も確実に勝てそうかを理解しなければならない」[p.34-35]。「どこで戦うかを選ぶとは、どこで戦わないかを選ぶことでもある[p.81]」。「P&Gでは、戦場選択は消費者の実像を探ることから始まる[p.82]」。「戦場選択には、ユーザー、競争環境、自身の能力に対する深い理解が必要[p..96]」
・戦場選択のドメイン:地理(国や地域)、製品タイプ(どんな製品やタイプを提供するのか)、消費者セグメント(消費者グループ、価格帯、消費者ニーズ)、流通チャネル(消費者にどうやってリーチするか、チャネル)、製品の垂直的段階(製品製造のどの段階か、バリューチェーンのどの位置か、広くあるいは狭く)[p.80-81
・3つの危険な誘惑:1)選択を拒み、すべての戦場で同時に戦おうとすること、2)避けられないつらい選択から逃れようとすること、3)現在の選択を、不可避で不変とすること。「これら3つの誘惑のいずれに屈しても、戦略的選択が弱まる。」[P.84-85
・「完全撤退してしまう前に、じっくりと考え抜け」、「戦場がしっかり決まるまで戦略を実施するな」、「奇襲につながり、最も抵抗の少ない戦場を探せ」、「相手の反応を数手先まで読んでおけ」、「えてして、未開拓地と思った場所には手強い敵が潜んでいる。単に見落としていただけだ。」[p.97-98

戦法(第4章)、どうやって勝つか
・「勝利とは、顧客や消費者に対して競争相手よりもよい価値を生み出し続けることである。・・・そのための一般的な方法はたった2つしかない。コストでリーダーシップを取ること、そして差異化である[p.106]」。「コスト・リーダーになるなら、調達、設計、製造、流通、など様々な段階で強みを生み出せる。差異化プレーヤーなら、ブランド、品質、特定のサービスなどの点で大きなプレミアム価格を取れる。だが、どんな会社にとっても、これなら勝てるという唯一の戦法などない。・・・戦法選択とは、戦場を背景に、広くも深くも考えることだ。[p.121]」
・「未知の戦法を編み出せ」、「どんなに探しても戦法が見いだせないのなら、新たな戦場を探すか、降伏すべきだ」、「戦法を戦場と同時に考えよ」、「業界の習慣は固定的で不可変だと思うな」、「上げ潮に乗っているのなら、ゲームのルールを自分で決めるか、よりうまく戦え。もしそうでなければ、ゲームのルールを変えてしまえ。」[p.122

能力(第5章)、強みを生かす
・「組織の中核的能力群を最大限に発揮すると戦場選択や戦法選択に命が吹き込まれる。これは企業活動を補強するシステムであると考えるとわかりやすい[p.137]」。「企業は様々な力を持ち得るが、強みになる能力、戦場と戦法の選択を下支えする能力は限られている」、「要するに問題は、参入している競争領域において勝つために持たなければならない能力とは何か」[p.139]。「それによって企業は、能力維持のための投資を続けられ、他の能力を培え、戦略に必須ではない能力への投資を止められるようになる[p.138]」。
P&Gの場合、中核的能力は、消費者知見、イノベーション、ブランド・ビルディング、市場攻略能力(流通チャネルや消費者との関係づくりの能力)、グローバルな規模。[p.43-44
・「目標は、戦場や戦法の選択を下支えする、統合的で、相乗的で、実行性があり、独自で、防御性のある能力を開発すること[p.144]」。「競争相手が、瓜二つの能力群やそれを支える活動を持っていたなら、相手はあなたの戦場や戦法に進出し、競争優位性に食い込んでくる[p.143]」。「システム全体を簡単にまねできたり、容易に覆されてしまうようなら、・・・有意義な競争優位性を生まない[p.144]」。
・「事業間にも全社と事業の間にも、中核的な活動群に共通性がなければならない。様々な事業間や全社を串刺しにするこうした共通の能力が・・・社を一体にする」。(相互補強的な柱)[p.146]」
・「活動システム立案は容易ではなく、数回ほどの試行錯誤は優にあり得る」、「自分の選択に合った独自の能力群を開発せよ」、「不可分活動段階から手をつけよ。それよりも上位の全てのシステムは、勝つために必要な能力を支援するものでなければならない」[p.153-154]。

経営システム(第6章)、能力を実現し、選択を支援するシステムと手段
・「選択と能力をしっかりと支援する経営システムを持たない限り、大敗を喫することがある。・・・真の勝利は、戦略を立案し、レビュー(検証)し、伝達してこそ得られる。そして戦略の効果を得るには、具体的な経営システムが必要だ。[p.156]」
P&Gにおける支援システムは、新しい消費者調査手法、イノベーション(イノサイトと共に創造的破壊によるイノベーション・プロセスを研究、コネクト+デベロップというオープン・イノベーション事業を創設)、ブランド・ビルディングの枠組みを公式化、小売店との戦略的パートナーシップ、スケールメリットのための大型投資[p.169-170]。
・「戦略的ディスカッションを常に継続し、重要な選択から目をそむけない風潮を社内に生み出せ」、「組織内に重要な戦略的選択を伝えるに当たっては、明確さと簡潔さを旨とせよ」、「必要な中核的能力を全社横断的と事業ごとに生み出し、それを支援するシステムと方法を作り出せ」、「戦略的選択の達成度を測定する短期的・長期的な指標を定義せよ」[p.180-181

戦略的論理フロー(第7章)、戦略を考える枠組み
・4つの局面(分析)をめぐる7つの問いからなる[p.185-204
業界分析-セグメンテーション:戦略的に明瞭に識別できるセグメントはどこか?
業界分析-セグメントの魅力:そのセグメントは構造的にどう魅力的なのか?
顧客価値分析-流通チャネル:どんな属性が流通チャネルにとって価値を生むのか?
顧客価値分析-最終消費者:どんな属性が最終消費者にとって価値を生むのか?
相対的ポジション分析-中核的能力:自社の能力蓄積は競争相手に比べてどうか?
相対的ポジション分析-コスト:自社のコストは競争相手に比べてどうか?
競争他社分析―予測:競争相手は投射の行動にどう反応するか?

リバースエンジニアリング(第8章)、勝機を高める選択の方法
1)選択の案を出す:「選択肢がわからないと、問題をしっかり認識できないか、進むべき方向感がつかめない[p.214]」
2)選択肢を広げる:「創造的で型破りな案を組み込むチャンスだ。選択肢は目標に至るまでの幸福な物語の形で表現する[p.215]」
3)前提条件を特定する:「条件を決めつけるのではなく、一丸となって仕事を進めるためにはどんな条件が揃わなければならないのかの論理を整理する[p.216]」
4)選択肢の障害をはっきりさせる:「まとめた案に批判的な目を向け、実現の難しい条件を整理する[p.221]」
5)実現性の検証方法立案:「検証方法は、それらに最も懐疑的な人物に設計させるべき[p.223]」
6)検証の実施:「まず、最も得がたい条件を検証してみる[p.223]」
7)選択する


なお、戦略的論理フロー戦略を考える枠組みとリバースエンジニアリングの方法については、本ブログで以前に取り上げた(戦略策定の科学的アプローチ)論文にも書かれています。表現や説明のしかたが多少異なっていますが、両方をあわせると著者らの主張がよくわかると思います(ただ、以前の論文だけでは多少わかりにくく、本書を読んで理解が深まった点も多く感じました)。
―――

以上が、本書の概要です。一般に、企業における戦略策定の考え方が外部に発表されることは少ないので、他の企業との正確な比較は困難ですが、P&Gほど論理的に戦略を構築してマネジメントを成功させている企業は少ないように思います。本書のような形でその考え方を公開しているのもその自信の表れとも考えられますが、少なくとも戦略策定と実行の方法を明確化していることは、P&Gでは経営トップのみならず各部署においてもこうした方法が実行されやすくなっていると考えられ、それが成果につながっている可能性もあると思います。経営には暗黙知的な部分があるとしても、それをなるべく形式知化して多くの人が実行できるようにしておくことは、特に大きな組織においては重要なことなのではないでしょうか。

ただ、著者のラフリー氏は、2010年にP&GのCEOを引退してこの本を書いた後、2013年5月に再びCEOに復帰していますので、ラフリー氏抜きでは本書の方法がうまく機能しなかった、という可能性もあるかもしれません(もちろん、別の理由かもしれませんが)。今後の動向には注目していきたいと思います。

研究マネジメントの立場から見ても、本書の考え方は興味深いものです。私の経験に照らしても、本書の方法は様々な部署において活用できる、汎用性の高いものだと思われますが、例えば、勝つための「研究戦略」を考えるとしたら、以下のような示唆が得られるのではないでしょうか。
・研究テーマのアスピレーションでメンバーを鼓舞し、成果を企業的勝利に結びつけやすくすべき。
・競争相手の少ない独創的な分野を戦場として考えることも有効かもしれない。
・未知の手法、独創的な考え方は戦法として有効かもしれない。
・独自の(得意な)手法は研究を有利に進める材料となりうる。
・創造的な研究活動を支えるシステムも重要。
こう考えるだけでも、焦点の絞りにくい研究戦略についてのヒントが得られる点は興味深いと思います。

本書の考え方の原点が、P&Gの事業分野に基づいたものであるとしても、「競争において勝つ」ための汎用的な考え方を示している可能性もあり、P&Gでの実績に基づいて磨き上げられた方法として、戦略を考える際には一考の価値は十分にあると思います。


文献1: A.G. Lafley, Roger L. Martin, 2013、A・G・ラフリー、ロジャー・L・マーティン著、酒井泰介訳、「P&G式『勝つために戦う』戦略」、朝日新聞出版、2013.
原著表題:Playing to Win – How Strategy Really Works


Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2013年)

Thinkers50は、2年に一度発表される存命中の経営思想家のランキングです。本ブログでも2011リストを紹介しましたが、先日2013年の調査結果が発表されました[文献1]。評価項目は、アイデアの妥当性、研究の厳密さ、アイデアのプレゼンテーション、アイデアの普及、国際的展望、アイデアの独創性、アイデアのインパクト、アイデアの実用性、ビジネスセンス、影響力で、前回同様webサイトでの投票と、Stuart CrainerDes Dearloveをリーダーとするアドバイザーチームの意見によって順位が決定されています。

学問的な観点からの経営学者の評価ではありませんが、実務家から見た評価や最新の考え方の動向を知る上で参考になるのではないかと思います。前のブログ記事同様、独断ですが、イノベーションに関する貢献が大きいと考えられる思想家に、◎(極めて重要)、○(重要)をつけてみました。以下のコメントは、主にThinkers50webページの紹介に基づいていますが、若干追記させていただいたところがあります。ベスト50のリストは以下のとおりです。

Thinkers502013年の結果(カッコ内は2011年の順位)
1、Clayton Christensen(1):◎、「破壊的イノベーション」理論の提唱者。2011年につづく連続第1位。2012年刊の「イノベーション・オブ・ライフ」は、Thinkers50 Best Book Award候補。
2、W. Chan Kim & Renée Mauborgne(2):○、「ブルーオーシャン戦略」の提唱者。現在はINSEAD Blue Ocean Strategy Instituteをマレーシア、南ア等に展開。Thinkers50 Global Solutions Award候補者。
3、Roger Martin(6):○、インテグレーティブシンキングで有名。A.G.Lafleyとの共著「Playing to Win(邦訳、P&G式『勝つために戦う』戦略)(2013)」がThinkers50 Book Award受賞。
4、Don Tapscott(9):○、デジタルネイティブ、ウィキノミクスで有名。ビジネスや社会への技術の影響、イノベーション、メディア、国際化などに関する権威の一人。Thinkers50 Global Solutions Award受賞。

5、Vijay Govindarajan(3):◎、近著「リバースイノベーション」については本ブログでも取り上げました。Thinkers50 Innovation Award候補者。
6、Rita McGrath(19):○、「仮説のマネジメント」「仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning)」で有名。Strategy Award受賞。近著「The End of Competitive Advantage (2013)」がBook Award候補。
7、Michael Porter(5):5つの力のフレームワークで有名。2005年のThinkers50トップ。最近では、shared valueの概念を提唱、企業は株主だけでなく社会にとっての価値創造も行なうべきと主張。
8、Linda Hill(16):○、ハーバードビジネススクール教授。Thinkers50 Leadership Award候補者。管理職、リーダーシップを研究。近著は「Collective Genius: The Art and Practice of Leading Innovation」。
9、Herminia Ibarra(28):「キャリア・チェンジ」で有名。Thinkers50 Leadership Award受賞。
10、Marshall Goldsmith(7):エグゼクティブコーチ、360度フィードバック、MOJOで有名。
11、Pankaj Ghemawat(27):Global Connectedness Indexにより、Global Solutions Award候補者に選出。
12、Jim Collins(4):○、「ビジョナリーカンパニー」シリーズの著者。最新の著作「Great by Choiceビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる)」がBook Award候補。
13、Daniel Pink(29):「ハイ・コンセプト」「モチベーション3.0」で有名。新著「To Sell is Human(人を動かす、新たな3原則)(2012)」がBook Award候補。
14、Lynda Gratton(12):ロンドンビジネススクール教授。新著は新しい働き方を提示した2011年発表の「The Shift(ワーク・シフト)」。Global Solutions Award候補者。
15、Amy Edmondson(35):チームワークを研究。新著は「Teaming」(2012)。Leadership Award候補者。ハーバードビジネススクール教授。
16、Sylvia Ann Hewlett(11): Center for Work-Life Policy(非営利シンクタンク)代表。新著は「Forget a Mentor, Find a Sponsor」(2013)。
17、Richard D’Aveni(21):戦略論が専門。ハイパーコンペティションやコモディティ化などを検討。Strategy Awardの候補者。新著「Strategic Capitalism (2012)」がBook Award候補。
18、Marcus Buckingham(8):自分の強みを発揮する、という考え方で有名。新著は「Stand Out」。
19、Gary Hamel(15):プラハラードとの共著「コア・コンピタンス経営」で有名。
20、Nirmalya Kumar(26):ロンドンビジネススクール教授(マーケティング)から最近タタグループへ。
21、Nitin Nohria(13):ハーバードビジネススクール学部長。リーダーシップの研究者。
22、Teresa Amabile(18):○、ハーバードビジネススクール教授。創造性、モチベーションなどを研究。
23、Richard Rumelt(20):経営戦略論、多角化戦略、RBVResource Based View)で有名。Strategy Award候補者。新著は「良い戦略、悪い戦略」(2012年)。
24、Jeffrey Pfeffer(22):「権力」「事実に基づく経営」などが有名。
25、Richard Florida(-):○、「The Rise of the Creative Class」著者。トロント大学。
26、A.G. Lafley(-):○、P&GCEOを2010年に引退、R.Martinとの共著「Playing to Win(邦訳、P&G式『勝つために戦う』戦略」がThinkers50 Book Award受賞。2013年5月にP&Gに復帰。
27、Stewart Friedman(45):リーダーシップ、work/lifeの統合などの専門家。Leadership Award候補者。新著は「Baby Bust: New Choices for Men and Women in Work and Family (2013)」。
28、Morten Hansen(-):○、J.Collinsとの共著「Great by Choiceビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる)」がBook Award候補。UCBerkeleyおよびINSEAD教授。ボストンコンサルティング出身。
29、Tammy Erickson(33):職場における世代ギャップ、世代交代、労働力変化を研究。
30、David Ulrich(23):人事、人材育成戦略が専門。新著は「The Why of Work (2011)」。
31、Liu Chuanzhi(-):LENOVOの創業者。Leadership Award候補者。
32、John Kotter(34):変革のマネジメント、リーダーシップ論で有名。
33、Chip Heath & Dan Heath(-):本ブログでも「アイデアのちから」「スイッチ!」を取り上げました。
34、Sheryl Sandberg(-):FacebookCOO。「Lean In」でBook Award候補。
35、Umair Haque(49):コンサルタント。「The New Capitalist Manifesto (2011)」の著者。
36、Daniel Goleman(39):心の知能指数EQ(原著ではEIEmotional Intelligence)で有名。
37、Henry Chesbrough(38):◎、「オープンイノベーション」提唱。Innovation Awardの候補者。
38、Rosabeth Moss Kanter(25):企業変革、リーダーシップ、responsible capitalismなどを研究。
39、Julian Birkinshaw(-):ロンドンビジネススクール教授。HamelManagement Innovation Lab設立。
40、Subir Chowdhury(50):The Economics of Qualityの考え方でBreakthrough Idea Award候補。
41、Fons Trompenaars(42):異文化間グローバル人材戦略を研究。
42、Chris Zook(-):Bain & Coパートナー。新著「Repeatability (2012)」などで単純化の重要性を指摘。
43、Sydney Finkelstein(-):なぜ有能な経営者が失敗するかなどを研究。
44、Anil Gupta(-):H.Wangとの共著「Getting China and India Right」でGlobal Solutions Award候補。
45、Andrew Kakabadse(44):企業トップ層、取締役会、ガバナンス等を研究。Leadership Award候補。
46、Rakesh Khurana(41):リーダーシップ、CEO、カリスマなどを研究。
47、Celia De Anca(-):イスラム圏を含むグローバル化を研究。Global Solutions Award候補。
48、Liz Wiseman(-):Oracleの前役員。近著は「Multipliers」など。Leadership Award候補。
49、Doug Ready(-):International Consortium for Executive development Research創立者。
50、Wang Shi(-):中国の世界最大の住宅デベロッパーVanke(万科)創設者。

なお、野中郁次郎氏が、Lifetime Achievement Awardを受賞されました。また、今回から、Hall of Fameが設けられ、そこに選出されるとリストには載らなくなりました。今回発表されたHall of Fameメンバーは、Chris ArgyrisWarren BennisHoward GardnerCharles HandyRobert Kaplan and David NortonPhilip KotlerHenry Mintzberg、野中郁次郎、大前研一、Tom Petersです。Hall of Fameメンバー以外で、前回リストに選出されながら、今回選に漏れた人々の中には、Malcolm GladwellSeth GodinAdrian SlywotzkyStephen Coveyなどが含まれています。今回は実証的、実践的な思想家が高く評価されたということかもしれません。

今回の傾向として、前回よりもさらにイノベーションの重要性が評価されている印象を受けました。上位ランクの思想家にイノベーションを研究対象にしている人が多く選ばれたことは、その表れのように思われます。また、新興国を含めたグローバル化が注目されていることも今回の特徴でしょう。新興国への注目は前回リストでも見られましたが、今回は、中国の思想家が2人リスト入りしています。どちらも思想家というより、経営者としての実践面での評価が大きかったと思われますが、経営思想のグローバル化が今後も進んでいくことを示唆しているのかもしれません。これに対して、日本の思想家がHall of Fameの2名しかリストアップされていない、というのはやや寂しく感じられます。もちろん、思想が注目されることと、実践面で成功することは同一ではないとは思いますが、日本での成果を世界につなげていくことも期待したいところです。

なお、Innovation Awardの受賞者と候補者リストは以下のとおりです。上記の50名のリストには入っていない人もいますが、研究開発を考える上で要注目だと思います。
受賞者:
Navi Radjouthe Centre for India & Global Businessの前所長、Jaideep PrabhuSimone Ahujaとの共著「Jugaad Innovation: Think Frugal, Be Flexible, Generate Breakthrough Growth (2012)」、Prasad Kaipaとの共著「From Smart to Wise (2013)」が注目されています。
候補者:
Ron Adner:「The Wide Lens: A New Strategy for Innovation (2012)」著者。
Henry Chesbrough(上記参照)
Vijay Govindarajan(上記参照)
Hal GregersenChristensenとの共著「Innovator’s DNA: Mastering the Five Skills of Disruptive Innovators (2011)」著者。
Matt Kingdon:「The Science of Serendipity: How to Unlock the Promise of Innovation in Large Organizations (2012)」著者。
Kai-Fu Lee:北京のベンチャーキャピタリスト。「Making a World of Difference (2011)」著者。
Alexander Osterwalder & Yves Pigneur:「Business Model Generation: A Handbook for Visionaries, Gamechangers and Challengers (2010)」著者。


文献1:「The Thinkers50webページ
http://www.thinkers50.com/




戦略策定の科学的アプローチ

どんな研究に取り組み、どう研究を進めるか、戦略的な考え方は研究マネジメントにおいても重要です。しかし、従来の戦略立案手法は、研究の実務においては必ずしも使いやすいとはいえないと思います。それは、戦略の議論が、研究の不確実性や試行錯誤的、創発的アプローチとなじまないように思われることが主な理由ですが、今回は、アラン・ラフリー、ロジャー・マーティンらによる論文「独創的な戦略を科学的に策定する」[文献1]で提示されている戦略構築の新しい考え方をまとめておきたいと思います。

著者らはまず、「従来型の戦略立案は、実は科学的でない」と述べています。従来型の手法では、科学的手法の特徴である「厳密な分析」は確かに行なわれているが、科学的手法で欠かせない「斬新な仮説を設け、独自の検証方法を慎重に検討すること」がたいていはなされていないためで、戦略立案にこのような科学的手法を取り入れることが必要としています。加えて、本論文では具体的な進め方についても述べられていて、実践的にも役立つ内容になっていると思いました。これは、共著者のラフリーが前プロクター・アンド・ギャンブルの会長兼CEOであることにも関係があるかもしれませんが、従来の戦略論への批判の意味も含まれているのでしょう。以下、本論文の内容である戦略立案の7つのステップをまとめます。

ステップ1:問題点より選択肢に目を向けるMove from Issues to Choice

「従来の戦略立案は・・・問題点に焦点を当てがちだった。このようなやり方をしている限りは、打開策の洗い出しよりも、問題点を取り巻いているデータ調査を優先させてしまうという罠に陥るだろう。この罠を避けるシンプルな方法は、問題点の打開につながりそうな、2つの異なる選択肢を考えることだ。何らかの選択肢に着目すると、問題点の説明や分析よりも『次に何をすべきか』という探究心や情熱が生まれる。」「我々が提唱するシナリオ・ベースの(possibilities-based)手法は、『自分たちの組織は選択を迫られており、選択には帰結が伴う』という気づきから出発する。」

ステップ2:戦略シナリオを導き出すGenerate Strategic Possibilities

「選択に迫られていることに気づくと、考慮すべき多様なシナリオに目が向く。」「シナリオとは要するに、自社の成功プロセスを描いたバラ色のストーリーである。」「それは一貫した論理に沿うべきだが、・・・『うまくいくのではないか』と思えさえすれば、それでよい」。「戦略立案チームは、以下の3点を詳しく説明すべきだと我々は考える。①どのような優位性を手に入れる(あるいは活かす)のか、その優位性をどの対象に当てはめるのか、③対象領域で狙い通りの優位性を実現するために、バリューチェーン上のどの活動をテコにするのか、である。」「1つ確かなことは、複数のシナリオを想定しなくてはいけないということだ。さもないと『選択を迫られている』という意識が芽生えず、戦略立案のプロセスが始動しない。1つのシナリオを分析しただけでは、最適な行動は引き出せない。いや、それどころか何の行動も生まれないのだ。」「シナリオを抜き出す際には、現状と規定路線も検討すべきだ。」

「戦略シナリオを導き出すために、チームは専門分野や経歴を多様な人材で構成すべきである。」「シナリオをひねり出すには何より創造性が物を言う。・・・以下の3つの問いを探究することが有効ではないかと考えている。」

1)内から外への問い:自社の資産や能力、次に外部環境を探る。得意分野、評価されている分野。

2)外から内への問い:市場の隙間を探す。

3)遠く離れている外から内への問い:類推による推論(analogical reasoning)。どうすれば、この市場でグーグル、アップル、ウォルマートのような存在になれるか。

「検討を深める価値のあるシナリオだと(よいシナリオ群を想定できたかを)判断するには、以下の2つの条件が成り立つことが確認できれば十分だ。」

1)現状がすばらしいものに思えてはいけない。

2)多くのチーム・メンバーが不安になる(現状との乖離、実現性の面で)ようなシナリオも欠かせない(少なくとも1つは)。

ステップ3:成功への条件を明確にするSpecify the Conditions for Success

「それぞれのシナリオが魅力的な選択肢であるためには、外せない条件とは何か、を明確にすること。」「何が真かを議論することではない。」「『どの条件が真か』に焦点を当ててしまうと、検討中のシナリオに強い疑いを持つメンバーが、何とかゴミ箱行きにしようと、激しい批判を展開するだろう。」

条件リストアップのためのフレームワークとしては、業界(セグメンテーション、業界構造)、顧客価値(販売チャネル、消費者)、ビジネスモデル(ケイパビリティ、コスト)、競合、に着目するものが挙げられます。

ステップ3は、条件のリストアップ、リストの中身の取捨選択の2段階の議論で進めます。この時、検討メンバーに、『もし以上の条件がすべて満たされたら、このシナリオに賛同しますか?』と問いかけ、「どのような条件が成り立てば、検討対象のシナリオに、チーム全員の頭とハートで賛同するのかを探り出す」ことが必要とされています。リストの中身の取捨選択の段階では、「あってもよい条件」ではなく「必須の条件」を選び出さなければなりません。

ステップ4:難条件を見極めるIdentify the Barriers to Choice

それぞれのシナリオについて「最も成り立ちそうもない条件を抜き出す。」「『成り立たないのではないか』と強く懸念されるものが、大きい順に2つか3つ並んだら、理想的なアウトプットができあがったといえる。」「懸念を持つ人が一人でもいる限りは、その条件をリストに載せておくべきである。さもないと、その条件に懸念を持つ人は、最終分析を軽く扱うことになる。一人ひとりの懸念を聞き出して真剣に受け止めれば、全員が検討プロセスとその結果を信頼するはずだ。」

ステップ5:難条件の検証を準備するDesign Tests for the Barrier Conditions

「次はその難条件を打破できるかどうかを個々に検証する」。このとき、「検証方法の検討と実行は、検証対象の難条件に最も強く懸念を抱くメンバーを中心に進めるのが望ましい。そのような人物は一般に、だれよりも判断基準が厳しいから、検証の末に『この難条件は突破できる』と見なせば、他の全員も納得するはずである。」

ステップ6:検証作業を行うConduct the Tests

「懸念の大きな順、つまり『突破できそうもない』という見方が最も強い難条件から検証していく。」「最初の難条件を通過したら、続いて、次に懸念の大きい難条件の検証に移り、以後もこの作業を繰り返していく。」「最初の難条件を検証したところで懸念が正しいと判明したら、他の難条件について検証するまでもなく、シナリオをお蔵入りにできる。」検証にはコストと時間がかかるため、このようにすれば経営資源を節約できる。また、検証の過程で、高い成果につながる奇抜な戦略を生む可能性もある。

ステップ7:戦略を決めるMake the Choice

「シナリオ・ベースの手法では、結論を出すのはあまりに簡単で拍子抜けするほどである。分析に基づく検証結果を振り返り、深刻な隘路が最も少ないシナリオを選べば、それで完了である。」

シナリオ・ベースの戦略策定に必要な根本的発想転換

1)「『どうすべきか』という問いを封印して、代わりに『何ができるだろうか』という表現を用いなくてはいけない。」

2)「『正しいのは何か』から『何を正しいと考えなくてはいけないか』への発想転換を迫られる。」

3)「マネジャーも『何が正しい答えか』ではなく、『何が正しい問いか。優れた判断を下すには、具体的に何がわかっている必要があるか』に意識を向けなくてはならない。

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本論文に述べられた手法の特徴を一言で言うなら、仮説を立ててそれを検証するというプロセス(これが「科学的手法」の意味)を戦略策定に導入している点と言えると思います。これに対し、従来の方法では多くの場合、企業の進むべき方向は、経営幹部が調査分析や論理的推論、直感を基に(あるいはボトムアップのアイデアであっても幹部が判断して)決め、その実現に向かって社員が実行していくというアプローチになるでしょう(もちろん、修正することはあるでしょうが)。本論文のアプローチでは、より多くの要因が考慮されるため、決定までには時間がかかるかもしれませんが、決定の精度は向上するはずです。また、決定のタイミングを遅らせることによって、状況の変化にも対応しやすくなっていると言えるのではないでしょうか。特に、不確実性の高い状況での戦略策定においては、このような方法が適していると思われます。

さらにこの方法の副次的な特徴として、社内の意思統一がしやすくなり、協力体制を構築する効果もあると思います。本論文の方法では、戦略策定のプロセスにおいて、検討グループからの意見を吸い上げてそれを検討させ、成功への条件がクリアされればプロジェクトに反対できないようにしていますが、この方法により、社内の意見の対立や社内折衝が減らせ、また分担や協力がうまく行えるのであれば、戦略の方向性の決定に時間がかかることを補っても余りある効果が得られるように思います。

研究の立場からは、今までのトップダウンの戦略策定よりは明らかに仕事がしやすくなると言えるでしょう。研究者にとっては、自らが扱う仕事が不確実なものであるにもかかわらず、研究提案や方針説明の際は、内容を明確にすることが求められ、それがジレンマになっていた面があります。もちろん事前の分析や推論によって不確実性が解消できればそれにこしたことはないのですが、必ずしもそれが可能とは限りません。そんな時に必要以上の明確性(多くは希望的願望にすぎません)が求められると、研究者にとっても戦略を立案する立場の経営陣にとっても十分な納得感が得られなくなる場合があります。それに対し、本論文の方法なら不確実な状況が扱い易くなると思われますので、こうした提案の意味は大きいのではないでしょうか。もちろん、今回述べられた方法が唯一絶対の方法ではなく、今後様々に改善されていくとは思いますが、将来的にはこうした考え方が、不確実性の高いイノベーションを達成していくための標準的な方法になることも考えられると思います。こうした方法の有効性が実証されることを期待し、今後の発展にも注目していきたいと思います。


文献1:A.G. Lafley, Roger L. Martin, Jan W. Rivkin, Nicolai Siggelkow、アラン・G・ラフリー、ロジャー・L・マーティン、ジャン・W・リブキン、ニコライ・シゲルコ著、有賀裕子訳、「独創的な戦略を科学的に策定する あらゆる選択肢から検証する7つのステップ」、Diamond Harvard Business Review, Jan. 2013, p.80.

原題:Bringing Science to the Art of Strategy, Harvard Business Review, Sep. 2012.

参考リンク<2013.7.21追加>



 

 

 

Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2011年)

2011年のThinkers50リストが発表されました[文献1]Thinkers50は、2年に一度発表される経営思想家のランキングです。これは、webサイトでの投票と、Stuart CrainerDes Dearloveをリーダーとするアドバイザーチームの意見によって決定されるもので、アイデアの独創性、アイデアの実用性、プレゼンテーションスタイル、著作物、支持の強さ、ビジネスセンス、国際的展望、研究の厳密さ、アイデアのインパクト、教祖的な力に基づいて評価されるとされています。

単なる人気投票、流行を反映しただけのランキングと見ることもできるかもしれませんが、経営思想の最新の動向を知る上で参考になるのではないかと思いますので、以下にそのリストをまとめます。なお、独断ですが、イノベーションに関する貢献が大きいと考えられる思想家には◎(極めて重要)、○(重要)をつけてみました。独断のコメントもつけていますが、私の勉強不足で知らない点も多く、そういう方のコメントはThinkers50webページの紹介を参考にさせていただいいています。

Thinkers502011年の結果)

1、Clayton Christensen:◎、言わずと知れた「破壊的イノベーション」理論の提唱者。Thinkers50 Innovation Award受賞。

2、W. Chan Kim & Renée Mauborgne:○、「ブルーオーシャン戦略」の提唱者。Thinkers50 Strategy Award受賞。

3、Vijay Govindarajan:◎、GEとともに「リバースイノベーション」の考え方を発表。Thinkers50 Breakthrough Idea Award受賞。

4、Jim Collins:○、「ビジョナリーカンパニー」シリーズの著者。最新の著作では、不安定な環境で生き残れる会社を分析しているらしいです。

5、Michael Porter:5つの力のフレームワークで有名。Strategy Awardの最終選考候補者。2005年のThinkers50トップ。

6、Roger Martin:インテグレーティブシンキングで有名。Book AwardBreakthrough Idea Awardの最終選考候補者。最近ではデザインシンキングを提唱しているらしいです。

7、Marshall Goldsmith:エグゼクティブコーチ、360度フィードバック、MOJOで有名。Thinkers50 Leadership Award受賞。

8、Marcus Buckingham:自分の強みを発揮する、という考え方で有名。Leadership Awardの最終選考候補者。

9、Don Tapscott:○、デジタルネイティブ、ウィキノミクスで有名。Book AwardGlobal Village Awardの最終選考候補者。オープンイノベーションとの関連も。

10、Malcolm Gladwell:「The Tipping Point(急に売れはじめる~)」「Blink(第1感~)」「Outliers(天才~)」で有名なライター。

11、Sylvia Ann Hewlett:女性の能力活用や、才能を生かすマネジメントの専門家。Center for Work-Life Policy(非営利シンクタンク)代表。

12、Lynda Gratton:ロンドンビジネススクール教授。競争から協働に変わっていく、という主張。

13、Nitin Nohria:ハーバードビジネススクール学部長。リーダーシップの研究者。

14、Robert Kaplan & David Norton:「バランスト・スコアカード」の開発者。

15、Gary Hamel:プラハラードとの共著「コア・コンピタンス経営」で有名。

16、Linda Hill:ハーバードビジネススクール教授。管理職のあり方などを研究。

17、Seth Godin:「パーミッションマーケティング」「バイラルマーケティング」などで有名。

18、Teresa Amabile:○、ハーバードビジネススクール教授。創造性、モチベーションなどを研究。Breakthrough Idea AwardInnovation Awardの最終選考候補者。

19、Rita McGrath:○、コロンビア大学教授。「仮説のマネジメント」「仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning)」で有名。Strategy Awardの最終選考候補者。

20、Richard Rumelt:経営戦略論、多角化戦略、RBVResource Based View)で有名。Strategy AwardBook Awardの最終選考候補者。

21、Richard D’Aveni:競争戦略が専門。最近では「脱コモディティ」など。Strategy Awardの最終選考候補者。

22、Jeffrey Pfeffer:「権力」「事実に基づく経営」などが有名。Leadership Awardの最終選考候補者。

23、David Ulrich:人材戦略が専門。GEWorkoutなどにも関わっていたそうです。

24、Tom Peters:「エクセレント・カンパニー」で有名。

25、Rosabeth Moss Kanter:ハーバードビジネススクール教授。企業変革、リーダーシップなどを研究。

26、Nirmalya Kumar:マーケティング、最近ではインドの経済発展を研究。Thinkers50 Global Village Award受賞。

27、Pankaj Ghemawat:「セミ・グローバリゼーション」(世界はフラットではなくローカル性も重要)を主張。Thinkers50 Book Award受賞。

28、Herminia Ibarra:「キャリア・チェンジ」で有名。Leadership Awardの最終選考候補者。

29、Daniel Pink:「ハイ・コンセプト」「モチベーション3.0」で有名。

30、Henry Mintzberg:「マネージャーの仕事」「組織の構造」などで有名。Strategy Awardの最終選考候補者。

31、Costas Markides:○、企業のイノベーションを研究、最近では社会問題への適用なども。Strategy Awardの最終選考候補者。

32、Thomas Friedman:コラムニスト。「フラット化する世界」が有名。

33、Tammy Erickson:職場における世代ギャップを研究。

34、John Kotter:変革のマネジメント、リーダーシップ論で有名。

35、Amy Edmondson:「チーム」の機能、「チーム」での仕事について研究。

36、Kjell Nordström & Jonas Ridderstråle:「ファンキービジネス」で有名。

37、Howard Gardner:「多重知能理論(Multiple Intelligences)」で有名。

38、Henry Chesbrough:◎、「オープンイノベーション」提唱。Innovation Awardの最終選考候補者。

39、Daniel Goleman:心の知能指数EQ(原著ではEIEmotional Intelligence)で有名。

40、Vineet Nayar:インドHCLテクノロジーCEO。従業員第一主義で成功。Book Awardの最終選考候補者。

41、Rakesh Khurana:リーダーシップ、CEO、カリスマなどを研究。

42、Fons Trompenaars:異文化経営論を研究。Global Village Awardの最終選考候補者。

43、Ken Robinson:創造性、教育論などを研究。

44、Andrew Kakabadse:企業トップ層、取締役会、ガバナンスなどを研究。

45、Stewart Friedman:リーダーシップ、work/lifeの統合などの専門家。

46、Adrian Slywotzky:「ザ・プロフィット」で有名。ビジネスモデルイノベーションなども。

47、Stephen Covey:「7つの習慣」で有名。

48、Sheena Iyengar:「決断」に関する研究で有名。

49、Umair Haque:新たな資本主義を研究。Breakthrough Idea AwardFuture Thinker Awardの最終選考候補者。

50、Subir Chowdhury:シックスシグマの入門書を出しています。

ベスト50のリストは以上です。どんな考え方の持ち主、どんな本を書いた人が支持されているのかはそれなりに面白いと思いますし、勉強にもなりました。ただ、ここで強調しておきたいのは、前回2009ランキングとの比較です。ちなみに、2009年ランキングでは、1位がプラハラード、2位がグラッドウェル(今回10位)、3位がポール・クルーグマン、4位がスティーブ・ジョブズ、5位がキム&モボルニュ(今回2位)でした。それと比較すると、今回はイノベーションに関連した研究者が上位に来ているのが特徴と言えるのではないでしょうか。今回1位のクリステンセンは前回28位、2位のキム&モボルニュは前回も5位でしたが、今回3位のゴビンダラジャンは前回24位、今回4位のコリンズは前回17位です。また、AmabileMcGrathChesbroughは前回はランクインしていません。つまり、イノベーションがマネジメントの重要課題として世の中の注目を集めるようになってきたのではないか、ということが今回のランキングから言えるのではないかと思います。

もうひとつ、インドの重要性が高まっているように思われる点が気になりました。インドに関係しているからという理由だけで「思想」の面で重要ということにはならないと思いますが、少なくともこのアンケートの投票者がインドに着目していること、また、中国や韓国にも着目していることが感じられるような気がします。今回は「イノベーション」が特徴になっていると思いましたが、次回は「新興国」がポイントになるのかもしれません。

こうした経営思想について、最先端の流行を追うことの自体の意味はそれほど大きくないかもしれません。ただ、リストの中に日本であまり大きくとりあげられていない思想家がいることなど(1位のクリステンセン自体、技術に関わる人以外では重要性の認識が低いように感じられますが)、世界の考え方のトレンドのようなものは知っておく必要はあるように思います。

なお、参考までに上記リストに含まれていない受賞者、最終ノミネート者も付記しておきます。将来注目を集めるようになるかもしれません。

Lucy P MarcusMarcus Venture Consulting CEOThinkers50 Future Thinker Award受賞。

・伊藤穣一:MITメディアラボ所長。Innovation Awardの最終選考候補者。

Linda Scott:オックスフォード大学教授。Breakthrough Idea Awardの最終選考候補者。

Ranjay Gulati:ハーバードビジネススクール教授。Future Thinker Awardの最終選考候補者。

Chip and Dan Heath:コラムニスト。Future Thinker Awardの最終選考候補者。

Sung-Joo KimSUNGJOO Group CEOFuture Thinker Awardの最終選考候補者。

Dong MingzhuGree Electric Appliancesプレジデント。Future Thinker Awardの最終選考候補者。

Haiyan WangThe China India Institute パートナー。Global Village Awardの最終選考候補者。


文献1:「The Thinkers50webページ

http://www.thinkers50.com/home

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