研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

McGrath

「競争優位の終焉」(マグレイス著)より

研究開発(さらに広くはイノベーションを行うこと)の目的のひとつに、新たな技術(やビジネスモデル)で競争相手と差別化し、ビジネスにおいて優位に立つことがあります。自らの研究開発がうまくいけば、他者が持つ競争上の優位性を無力化し自社が優位に立てることになるわけで、言い換えれば研究開発(イノベーション)とは、従来の競争環境を変えて既存の競争優位の状況を終わらせるための行為ということになるでしょう。

従って、競争優位というものは固定的ではない、というのは研究者にとっては当たり前の前提とも言えるわけですが、一方、経営戦略論では「持続的競争優位」をどう作るかがよく議論されています。もちろん「持続的」とは言っても未来永劫不変という意味ではないはずなので、「持続的競争優位」という考え方が正しいかどうかという議論はあまり生産的とは思えませんが、近年この競争優位確立のための戦略という考え方が少し変わってきているようには思います。今回は、リタ・マグレイス著「競争優位の終焉」[文献1]をとりあげて、競争優位の考え方についての最近の変化と、イノベーションへの関連性について考えてみたいと思います。

著者は、「現在用いられている戦略のフレームワークやツールはほぼすべて、ある一つの考え方に支配されている。つまり、戦略の目的は持続する競争優位の確立だというものである。・・・本書で私は、この『持続する競争優位』という概念に立ち向かい、経営陣はそれに基づく戦略論を放棄する必要があると訴える。かわって、『一時的な競争優位』に基づく戦略について展望する。不安定で不確実な環境で勝つためには、経営陣はつかのまの好機を迅速につかみ、かつ確実に利用する方法を学ばなければならない。競争優位から最大の価値を引き出そうと、経営陣が頼りにし、組織に深く根づいた思考の枠組みとシステムは、今日の変化の激しい競争環境においては時代遅れであるばかりか危険な負債だと論じる。[p.iii-iv]」と述べています。要は、「持続的競争優位」に基づく従来の戦略論は、間違っているというより時代に合っていない、だから新しい「一時的な競争優位」つまり、競争優位の状態が長期に維持できないことを前提とした考え方が重要なのだ、ということでしょう。以下、その内容の中から重要と感じた点をまとめたいと思います。

第1章、競争優位の終焉
・「持続する優位性という想定が生み出す安定重視の姿勢は、命取りになりかねない。・・・熾烈な競争環境では、変化ではなく安定こそがもっとも危険な状態なのである。・・・安定という仮定はあらゆる間違った反応を引き起こす。既存のビジネスモデルに沿おうとする惰性と力を強める。人々の精神を型にはめ、習慣に従わせる。縄張り争いや組織の硬直化を招きやすい状況をつくる。イノベーションを妨げる。[p.8-9]」
・「私たちは何より、業界内の競争が最大の脅威だという想定を変えなければならない。・・・業界を基準に分析すると、往々にしてきめ細かさが足りないため、意思決定を下す必要のあるレベルで実際に何が起きているのかを判断できないということなのだ。市場セグメント、価格、詳細な地理的位置などの関係を反映した新基準の分析が求められている。私はこれを『競技場(アリーナ)』と呼ぶ。[p.10-11]」
・「既存の優位性がよい結果を出していても、リーダーはそこから資産と資源を引き揚げ、新たな優位性のために資源を確保する必要がある。・・・優位性はつかのまのものにすぎないから、既存のモデルは絶えずプレッシャーを受け、優位性の再構成・再構築や更新(基本的には新たな波を起こすこと)が必要になる。一時的優位性の環境では、『再構成』のプロセスは成功への重要なカギだ。というのも、再構成を通じて、資産、人員、能力がある優位性から別の優位性に移行するからである。[p.15-16]」
・2000年から2009年までに堅実でむらのない成長をなしとげた(純利益を一貫して5%以上増やした)企業を「例外的成長企業」として調査した。(調査の詳細は[p.17-19]参照)

第2章、継続的に変わりつづける――安定性とアジリティーの両立
・「一時的優位性の環境をうまく生き抜いてきた企業に見られるのは、古い優位性から絶えず資源を引き揚げ、新たな優位性の開発に投資するというパターンだ。(極端なリストラよりも継続的な変貌)[p.32]」
・「例外的成長企業は、とりわけビジネスモデルに関して、途方もない内部の安定性を保つ一方で、途方もない対外的なアジリティーを発揮する方法を見出して実行していた[p.39]」「私たちはきわめて不確実な事態に直面すると、どうしていいかわからずに立ちすくんでしまいがちだ。それゆえ例外的成長企業は、ソーシャル・アーキテクチャーを生み出し、社員が不確実性と変化になるたけ直面しないですむようにしてきた。実際、例外的成長企業の社員は、多くの典型的な組織の社員とくらべ、組織上の役割や構造に気を揉んだりして時間を無駄にすることはない。[p.39
・安定性の5つの源泉[p.39-48]:1、野望(「大きすぎるくらいの野望は長期的な変革にとって重要な意味を持つ・・・企業が独りよがりに陥って過去の優位性の追求で満足してしまわないためにも、それは欠かせない。[p.41-42]」)、2、アイデンティティーと文化(「文化および共有された価値観の創造が他社との差別化要因になる[p.42]」、3、人員配置、そう、だが人材開発も(「従業員があちこちに移動できる能力を身につけるための投資は、変革に対する巨大な障害を取り除くとともに、単なる人員の配置から移動能力の養成へ重心を移すことにほかならない[p.44]」、4、戦略とリーダーシップ(「上級幹部の多くは生え抜き[p.45]」)、5、安定した関係(「クライアント、エコシステムパートナーのあいだの関係もきわめて安定している[p.46]」)
・アジリティーの5つの源泉[p.48-58]:1、痛みを伴わない小さな変革を重ねる、2、予算編成で資源の抱え込みを許さない、3、柔軟性(「大規模な年度予算作成のプロセスや効率重視の価値観よりも、柔軟性の強化に投資する[p.52]」)、4、イノベーションを本業としてとらえる、5、オプション志向で市場を開拓する(「小さな初期投資をして好機を探り、うまくいきそうなものが見つかればその後もっと本格的に投資をする[p.55]」)

第3章、衰退の前兆をつかみ、うまく撤退する
・「持続する競争優位という想定と、よりダイナミックな戦略との最大の違いは、撤退――利用しつくされたビジネスチャンスから離れるプロセス――がイノベーション、成長、活用と同じく事業の中核をなすということだ。・・・撤退は失われた栄光の落胆すべき印というよりも、価値ある資源を解放し、ふたたび目的をもたせる手段とみなされる。[p.24]」
・衰退の早期警報[p.63-66]:イノベーションに対する収穫逓減、コモディティー化の進展、資産運用に対する収穫逓減、など
・6つの撤退戦略[p.69-88]:能力の価値(と、撤退実行にあたっての時間的制約によって判断。
・効率的な撤退のための2つの原則[p.85]:1、事業が終わったからといって重要な技術力を捨てない、2、何かをやめるという自社の決定によって悪影響をこうむる利害関係者を守る

第4章、資源配分を見直し、効率性を高める
・「一般的な企業では、資源配分は既存の有力事業によって決められ、前世代の競争優位を支配していた人々が力をもっている。・・・一時的優位を志向する企業では、資産の競争力はその会計上の価値と一致しないことが周知徹底されており、もはや競争力を失った資産は土壇場を迎える前に処分策が講じられる。こうした企業では、正味現在価値(NPV)から導かれた『残存価値』という概念とは異なり、企業が所有するものは『資産負債』――全資産の競争力を業界最高のレベルに維持するために必要な投資――であることが理解されている。・・・一般的な企業では資産を所有することがきわめて重要とみなされる。過去には資産の所有が参入障壁を生み出したからだ。一時的優位性をうまく管理できる企業は、現在では資産の所有ではなく資産へのアクセスのほうが、ある特定の方向にとらわれない柔軟性や拡張性をもたらすことを、また資産をすぐに利用できる能力が、実際に資産を所有する利点を失わせるケースが多いことを認識している[p.90-91]」
・「既存の大組織は、新たなアイデアに過剰な資金を投じてしまいがちだ。・・・その残念な帰結の一つに、事態が計画どおりに進まないときでも事業の継続に頑なに固執してしまうことが挙げられる。・・・不確実な環境でのもっと効率的なアプローチは、不確実性が減少した場合に限って資源を投じることだ。これは、オプション推論の基本原則である。[p.107]」「一時的優位に適応した企業では、資源を徹底して倹約しつづける行動規律が広く浸透している。肝心なのは、キャッシュフローが黒字になるだけの売り上げを確保できるまで、投資を最低限に抑えておくことだ。[p.110]」
・「消滅しつつある優位性から資源を引き揚げたら、今度は新たな優位性を生み出すためにそれを活用する番だ。[p.121

第5章、イノベーションに習熟する
・「一時的優位性の世界では、イノベーションは継続的で、中核的で、管理の行き届いたプロセスでなければならず、多くの企業でおなじみの気まぐれに満ちた試験的なプロセスであってはならない。試行錯誤や思いがけない失敗に対して寛容な実験志向、イノベーションの各段階を管理する明確なプロセス、イノベーターのためのキャリアパスなどが確立される可能性が高い。[p.25-26
・アイデア形成:「アイデア先行型アプローチでは、往々にして直観的な思考によってイノベーション・プロジェクトが生み出されるのに対し、『解決すべき課題』という視点は顧客が実現したいと願いながらできない課題を出発点にするのだ。言うまでもなく、顧客は自分のニーズがいかにして満たされるかが示されるまで、自分のニーズをはっきり表現できないことはよく知られている。例外的成長企業は、自社の戦略にふさわしいアイデアの種類を明確にしている。[p.130]」
・仮説:「アイデアの種を手に入れたら、・・・次なる段階は仮説プロセスである。この過程でコンセプトが具体化され、細部の計画が立てられる。・・・ここでの目標は、できるだけ迅速かつ安価に仮説を確かな知識へと転換することだ。[p.131-132]」
・育成:「イノベーションの育成プロセスを通じて、実際の事業のあるべき姿が学習される。この段階では、テストケースやプロトタイプが開発され、市場テストが実施され、膨大な数の仮説が検証される。[p.133
・加速:「イノベーション・プロセスの最終段階は、アイデアが実際に市場に投入され、商品化へ向けて規模を拡大するときだ。[p.134]」
・イノベーションに習熟する6つのステップ
1、現状を分析し、成長ギャップを明確にする:ビジネスチャンスのポートフォリオ分析は、「市場の不確実性」と、「能力や技術の不確実性」に基づいて分析する。中核事業では市場の不確実性も技術の不確実性も比較的低い。2つの不確実性が中程度の場合は、通常イノベーション・プロセスの規模拡大の段階。ポジショニング・オプションは「需要があることはわかっていても、それを満たすために必要な技術や能力の組み合わせはわからない」。スカウティング・オプションでは、「使い途が明確な能力や技術をもっていて、それを新たなアリーナへ拡大しようとしている状況」。足がかりとは「需要が生じ、やがてはそれに対応できるところまで技術が進歩すると考えられるが、その時期はまだまだ先という状況」。[p.142-145
2、上級幹部から支持と資源配分を受ける:「イノベーション・システムが機能するには、上層部の意思決定者の参加が欠かせない[p.146]。
3、イノベーション管理プロセスをつくりあげる:「お定まりのアプローチは、上級幹部で構成されるイノベーション委員会の設置である。[p.148]」
4、システムの構築と組織への導入に着手する:「重要な点は、従業員にまず、イノベーション向けの共通言語をもってもらうことと、日常業務に役立つこともイノベーションには役立たないと認識してもらうことだ。[p.149]」
5、具体的かつ現実的なことから始める:「顧客需要の見極め、市場規模の判定、プロトタイプの製作、ビジネスモデルの設計、仮説指向計画法、さらには、イノベーションに特有のその他あらゆるコンセプトが、ここで実践の段階を迎える。[p.130]」
6、イノベーションのサポート体制を築く
・「一時的優位性の世界では、イノベーションはやってもやらなくてもよいものではない。イノベーションは副業ではない。・・・イノベーションは、専門的に構築され管理されなければならない能力なのだ。[p.163]」

第6章、リーダーシップとマインドセットを変える
・「かつての成功モデルを変える必要性を率直に認め、進んで受け入れる姿勢は、一時的な競争優位を志向する企業のリーダーシップに欠かせないものだ。[p.168]」
・「変化の激しい優位性という難題に対処するには、より安定した時代とは異なる組織の想定とリーダーのマインドセットが必要だ。本当の情報を探し出し、悪いニュースに対峙し、適切な対策をとる能力と意欲がきわめて重要になる。[p.193

第7章、あなた個人への影響について考える
・「一時的優位性という概念は個人にもあてはまる。・・・個人も、ある時点で価値のあったスキルがいつまでも豊かで上質な人生を保証してくれると思ってはならない。[p.196]」
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昨今、競争優位がなかなか持続しにくくなっていることは多くの方が実感されているのではないでしょうか。その原因には、環境変化が速く、大きくなっているということが関係しているだろうことも多くの方が考えておられるとおりだと思います。では、それに対応して戦略を考え、行動しているかということになるとどうでしょうか。私が重要だと感じたのは次の点です。
・競争優位は持続しないことをまず(再)認識しなければならない。
・その状況において、変化の少ない環境を前提とした戦略手法に頼ることのリスクは大きい。
・競争優位を維持したければ、優位性のないものを捨て、優位性のあるものを次々と作っていかなければならない。
・新たな競争優位の獲得とイノベーションをうまく行うことは不可分といってもよい関係にある。
なお、著者は衰退の前兆をつかみ、変化することの重要性を指摘していますが、衰退の前兆はつかみにくいことが多いように思いますので、衰退しているかどうかは気にせず(衰退しているものと想定して)、積極的に変わることを心掛けるべきなのかもしれないと思いました。

もちろん、競争優位がどの程度持続するかは状況によって変わるでしょうから、本書の指摘はただちにすべての分野で重要になるというわけではないかもしれません。また、従来の戦略論も、全く無意味なものになってしまうわけでもないと思います。しかし、少なくとも研究開発やイノベーションに関わる実務者は、著者の考え方をよく認識しておく必要があるでしょう。イノベーションの進め方に関する著者の指摘も、なかなか示唆に富んでいると思いましたが、いかがでしょうか。よく言われることではありますが、「世の中で変わらないのは、常に変わり続けているということだけ」という言葉の意味を肝に銘ずべき時代になったということと思います。


文献1:Rita Gunther McGrath2013、リタ・マグレイス著、鬼澤忍訳、「競争優位の終焉 市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける」、日本経済新聞出版社、2013.
原著表題:The End of Competitive Advantage: How to keep your strategy moving as fast as your business

参考リンク



Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2013年)

Thinkers50は、2年に一度発表される存命中の経営思想家のランキングです。本ブログでも2011リストを紹介しましたが、先日2013年の調査結果が発表されました[文献1]。評価項目は、アイデアの妥当性、研究の厳密さ、アイデアのプレゼンテーション、アイデアの普及、国際的展望、アイデアの独創性、アイデアのインパクト、アイデアの実用性、ビジネスセンス、影響力で、前回同様webサイトでの投票と、Stuart CrainerDes Dearloveをリーダーとするアドバイザーチームの意見によって順位が決定されています。

学問的な観点からの経営学者の評価ではありませんが、実務家から見た評価や最新の考え方の動向を知る上で参考になるのではないかと思います。前のブログ記事同様、独断ですが、イノベーションに関する貢献が大きいと考えられる思想家に、◎(極めて重要)、○(重要)をつけてみました。以下のコメントは、主にThinkers50webページの紹介に基づいていますが、若干追記させていただいたところがあります。ベスト50のリストは以下のとおりです。

Thinkers502013年の結果(カッコ内は2011年の順位)
1、Clayton Christensen(1):◎、「破壊的イノベーション」理論の提唱者。2011年につづく連続第1位。2012年刊の「イノベーション・オブ・ライフ」は、Thinkers50 Best Book Award候補。
2、W. Chan Kim & Renée Mauborgne(2):○、「ブルーオーシャン戦略」の提唱者。現在はINSEAD Blue Ocean Strategy Instituteをマレーシア、南ア等に展開。Thinkers50 Global Solutions Award候補者。
3、Roger Martin(6):○、インテグレーティブシンキングで有名。A.G.Lafleyとの共著「Playing to Win(邦訳、P&G式『勝つために戦う』戦略)(2013)」がThinkers50 Book Award受賞。
4、Don Tapscott(9):○、デジタルネイティブ、ウィキノミクスで有名。ビジネスや社会への技術の影響、イノベーション、メディア、国際化などに関する権威の一人。Thinkers50 Global Solutions Award受賞。

5、Vijay Govindarajan(3):◎、近著「リバースイノベーション」については本ブログでも取り上げました。Thinkers50 Innovation Award候補者。
6、Rita McGrath(19):○、「仮説のマネジメント」「仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning)」で有名。Strategy Award受賞。近著「The End of Competitive Advantage (2013)」がBook Award候補。
7、Michael Porter(5):5つの力のフレームワークで有名。2005年のThinkers50トップ。最近では、shared valueの概念を提唱、企業は株主だけでなく社会にとっての価値創造も行なうべきと主張。
8、Linda Hill(16):○、ハーバードビジネススクール教授。Thinkers50 Leadership Award候補者。管理職、リーダーシップを研究。近著は「Collective Genius: The Art and Practice of Leading Innovation」。
9、Herminia Ibarra(28):「キャリア・チェンジ」で有名。Thinkers50 Leadership Award受賞。
10、Marshall Goldsmith(7):エグゼクティブコーチ、360度フィードバック、MOJOで有名。
11、Pankaj Ghemawat(27):Global Connectedness Indexにより、Global Solutions Award候補者に選出。
12、Jim Collins(4):○、「ビジョナリーカンパニー」シリーズの著者。最新の著作「Great by Choiceビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる)」がBook Award候補。
13、Daniel Pink(29):「ハイ・コンセプト」「モチベーション3.0」で有名。新著「To Sell is Human(人を動かす、新たな3原則)(2012)」がBook Award候補。
14、Lynda Gratton(12):ロンドンビジネススクール教授。新著は新しい働き方を提示した2011年発表の「The Shift(ワーク・シフト)」。Global Solutions Award候補者。
15、Amy Edmondson(35):チームワークを研究。新著は「Teaming」(2012)。Leadership Award候補者。ハーバードビジネススクール教授。
16、Sylvia Ann Hewlett(11): Center for Work-Life Policy(非営利シンクタンク)代表。新著は「Forget a Mentor, Find a Sponsor」(2013)。
17、Richard D’Aveni(21):戦略論が専門。ハイパーコンペティションやコモディティ化などを検討。Strategy Awardの候補者。新著「Strategic Capitalism (2012)」がBook Award候補。
18、Marcus Buckingham(8):自分の強みを発揮する、という考え方で有名。新著は「Stand Out」。
19、Gary Hamel(15):プラハラードとの共著「コア・コンピタンス経営」で有名。
20、Nirmalya Kumar(26):ロンドンビジネススクール教授(マーケティング)から最近タタグループへ。
21、Nitin Nohria(13):ハーバードビジネススクール学部長。リーダーシップの研究者。
22、Teresa Amabile(18):○、ハーバードビジネススクール教授。創造性、モチベーションなどを研究。
23、Richard Rumelt(20):経営戦略論、多角化戦略、RBVResource Based View)で有名。Strategy Award候補者。新著は「良い戦略、悪い戦略」(2012年)。
24、Jeffrey Pfeffer(22):「権力」「事実に基づく経営」などが有名。
25、Richard Florida(-):○、「The Rise of the Creative Class」著者。トロント大学。
26、A.G. Lafley(-):○、P&GCEOを2010年に引退、R.Martinとの共著「Playing to Win(邦訳、P&G式『勝つために戦う』戦略」がThinkers50 Book Award受賞。2013年5月にP&Gに復帰。
27、Stewart Friedman(45):リーダーシップ、work/lifeの統合などの専門家。Leadership Award候補者。新著は「Baby Bust: New Choices for Men and Women in Work and Family (2013)」。
28、Morten Hansen(-):○、J.Collinsとの共著「Great by Choiceビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる)」がBook Award候補。UCBerkeleyおよびINSEAD教授。ボストンコンサルティング出身。
29、Tammy Erickson(33):職場における世代ギャップ、世代交代、労働力変化を研究。
30、David Ulrich(23):人事、人材育成戦略が専門。新著は「The Why of Work (2011)」。
31、Liu Chuanzhi(-):LENOVOの創業者。Leadership Award候補者。
32、John Kotter(34):変革のマネジメント、リーダーシップ論で有名。
33、Chip Heath & Dan Heath(-):本ブログでも「アイデアのちから」「スイッチ!」を取り上げました。
34、Sheryl Sandberg(-):FacebookCOO。「Lean In」でBook Award候補。
35、Umair Haque(49):コンサルタント。「The New Capitalist Manifesto (2011)」の著者。
36、Daniel Goleman(39):心の知能指数EQ(原著ではEIEmotional Intelligence)で有名。
37、Henry Chesbrough(38):◎、「オープンイノベーション」提唱。Innovation Awardの候補者。
38、Rosabeth Moss Kanter(25):企業変革、リーダーシップ、responsible capitalismなどを研究。
39、Julian Birkinshaw(-):ロンドンビジネススクール教授。HamelManagement Innovation Lab設立。
40、Subir Chowdhury(50):The Economics of Qualityの考え方でBreakthrough Idea Award候補。
41、Fons Trompenaars(42):異文化間グローバル人材戦略を研究。
42、Chris Zook(-):Bain & Coパートナー。新著「Repeatability (2012)」などで単純化の重要性を指摘。
43、Sydney Finkelstein(-):なぜ有能な経営者が失敗するかなどを研究。
44、Anil Gupta(-):H.Wangとの共著「Getting China and India Right」でGlobal Solutions Award候補。
45、Andrew Kakabadse(44):企業トップ層、取締役会、ガバナンス等を研究。Leadership Award候補。
46、Rakesh Khurana(41):リーダーシップ、CEO、カリスマなどを研究。
47、Celia De Anca(-):イスラム圏を含むグローバル化を研究。Global Solutions Award候補。
48、Liz Wiseman(-):Oracleの前役員。近著は「Multipliers」など。Leadership Award候補。
49、Doug Ready(-):International Consortium for Executive development Research創立者。
50、Wang Shi(-):中国の世界最大の住宅デベロッパーVanke(万科)創設者。

なお、野中郁次郎氏が、Lifetime Achievement Awardを受賞されました。また、今回から、Hall of Fameが設けられ、そこに選出されるとリストには載らなくなりました。今回発表されたHall of Fameメンバーは、Chris ArgyrisWarren BennisHoward GardnerCharles HandyRobert Kaplan and David NortonPhilip KotlerHenry Mintzberg、野中郁次郎、大前研一、Tom Petersです。Hall of Fameメンバー以外で、前回リストに選出されながら、今回選に漏れた人々の中には、Malcolm GladwellSeth GodinAdrian SlywotzkyStephen Coveyなどが含まれています。今回は実証的、実践的な思想家が高く評価されたということかもしれません。

今回の傾向として、前回よりもさらにイノベーションの重要性が評価されている印象を受けました。上位ランクの思想家にイノベーションを研究対象にしている人が多く選ばれたことは、その表れのように思われます。また、新興国を含めたグローバル化が注目されていることも今回の特徴でしょう。新興国への注目は前回リストでも見られましたが、今回は、中国の思想家が2人リスト入りしています。どちらも思想家というより、経営者としての実践面での評価が大きかったと思われますが、経営思想のグローバル化が今後も進んでいくことを示唆しているのかもしれません。これに対して、日本の思想家がHall of Fameの2名しかリストアップされていない、というのはやや寂しく感じられます。もちろん、思想が注目されることと、実践面で成功することは同一ではないとは思いますが、日本での成果を世界につなげていくことも期待したいところです。

なお、Innovation Awardの受賞者と候補者リストは以下のとおりです。上記の50名のリストには入っていない人もいますが、研究開発を考える上で要注目だと思います。
受賞者:
Navi Radjouthe Centre for India & Global Businessの前所長、Jaideep PrabhuSimone Ahujaとの共著「Jugaad Innovation: Think Frugal, Be Flexible, Generate Breakthrough Growth (2012)」、Prasad Kaipaとの共著「From Smart to Wise (2013)」が注目されています。
候補者:
Ron Adner:「The Wide Lens: A New Strategy for Innovation (2012)」著者。
Henry Chesbrough(上記参照)
Vijay Govindarajan(上記参照)
Hal GregersenChristensenとの共著「Innovator’s DNA: Mastering the Five Skills of Disruptive Innovators (2011)」著者。
Matt Kingdon:「The Science of Serendipity: How to Unlock the Promise of Innovation in Large Organizations (2012)」著者。
Kai-Fu Lee:北京のベンチャーキャピタリスト。「Making a World of Difference (2011)」著者。
Alexander Osterwalder & Yves Pigneur:「Business Model Generation: A Handbook for Visionaries, Gamechangers and Challengers (2010)」著者。


文献1:「The Thinkers50webページ
http://www.thinkers50.com/




知的な失敗

不確実な対象を扱う研究開発(ノート2)では、「失敗」すなわち行動の結果が期待(予想)どおりにならないことがつきものです。今回は、マグレイス氏による論文「『知的失敗』の戦略」[文献1]に基づいて、「失敗」について考えてみたいと思います。

原著論文の題名は「Failing by Design」すなわち、「計画的に(by design)失敗する」、というような意味合いでしょうか。ちなみに、著者は「発見志向計画法」の提唱者であり、Christensenも取り上げている「創発的戦略」[文献2, p.277]についての研究も行なっている方です。著者はこの論文で、「不確実性の高い環境では、失敗は避けられないし、うまく管理すれば非常に役立つこともある」と述べ、「失敗から目をそらすのに代わる策は『知的な失敗(intelligent failure)』(Sitkinによる造語(1992))を設計することとしています。まずは論文のポイントをまとめてみます。

著者は、失敗は次のような点で役に立つと述べています。

・たくさん試せば成功する確率は上がる(当然、失敗も増えるはずですが、要は数多くの失敗をしないと成功できないということでしょう)。

・何が有効でないかを学べる(試行錯誤の結果として)。

・失敗により注目を集め対応の必要性をアピールできる結果、資源配分を受けやすくなる。

・不適格なリーダーの退任のきっかけになる。

・失敗経験により直観を磨きスキルを高めることができる。

やや皮肉っぽい項目もありますが、失敗が避けられないものだとすれば、失敗を気にして目をそらすだけでなく、できるだけうまく失敗し、失敗を利用するということも重要ということでしょう。

著者はそのために必要なこととして、以下に示す「失敗を生かすための7つの原則」を提示しています。

1、プロジェクトの開始前に成功と失敗を定義する。

プロジェクトに関わる人たちの間で、何をもって成功(失敗)とするか、何を期待(目的)とするかについての共通理解を持つことが必要。

2、前提を知識に変える。

先が読めない課題に取り組んでいる場合、最初に置いた前提(仮定-原著ではassumption)はほぼ確実に間違っていることを認識する必要があり、試行することが、よりよい前提を導き出す唯一の方法。

成功の基準となるものが、単なる期待なのか、ある前提のもとでの予想なのか、できるはずと思いこんでしまったことなのかははっきりさせておかないと、失敗から正しく教訓を学ぶことはできないでしょうし、チーム内での秩序が乱れることもある、ということのようです。

3、迅速であれ、失敗は早々にせよ。

早い段階や小さい段階での失敗には、試行の候補を絞り込む、退却が容易であるというメリットがある。失敗は人々のやる気を削いでしまうが、別のもっとおもしろみのあるプロジェクトに移るのであればポジティブに受け入れられる。

プロジェクトの要素のすべてを早い段階でチェックすること、プロトタイピングなども重要かもしれません。

4、被害を食い止め、損失を抑える

失敗がもたらす被害を小さく抑えるように試行を設計すべき。プロジェクトを中止する「撤退のステップ」を整備しておくことは有効。

5、不確定要素を制限する。

現在備わっている能力から遠く離れた分野では、試行から学ぶことは難しい。近い分野での試行の失敗からは学べることも多いし、成功の確率も高くなるはず。

6、知的な失敗を称える文化を育む。

失敗に終わっても罰しない環境をつくる。うまくいかないかもしれないことに取り組む意欲を大切にする(リスクをいとわない文化をつくる)。工場で効果を発揮するシックス・シグマなどの活動は研究所には向かないかもしれない。リーダーは失敗やそこから学んだことについて、進んで話をすべき。

7、学んだことを書きとめ、共有する。

どのような前提(仮説)が基になっているか、何が起こったのか、それは前提に対して何を意味しているのか、次回は何を行なうべきかを特定し、その教訓を共有することが重要。

以上が概要です。失敗を容認しなければならないこと、失敗した時の痛手は小さくなるようにすべきこと、失敗から学ぶ必要があることについて異論のある方はあまりいないと思いますが、上記の指摘は興味深い点があるものの個別の議論になっているようにも思われます。そこで、失敗への対応について私見もまじえて整理してみたいと思います。

失敗は研究開発にとって不可避のものであることは間違いないと言ってよいでしょう。ただし、研究活動を含む行動には、情報を得るための行動と、期待を実現させようとするための行動の2種類があることは認識しておく必要があります。前者は情報を得ることが目的ですから、期待通りの結果が得られなくても情報さえ得られれば成功ですが、後者は、期待通りにならなければ失敗ということになります。どんな場合でも行動をすれば何らかの情報が得られると考えると、問題になりやすいのは後者でしょう。となると、失敗しやすい行動において、期待することを実現させたい場合には、以下の2通りの対応が考えられると思います。

・失敗を少なくする(成功確率を上げる)

・失敗による損失を少なくする(あるいは、多くを学ぶようにする)

失敗を少なくするためには、予測の精度を上げるための情報を集めることが必要でしょう。その情報には当然、実際に行動して失敗することから得られる情報も含まれます。著者が指摘する、失敗を称えリスクテークを奨励する(上記6)、失敗から学んだことを伝える(上記7)は、行動を通じて情報を集め、生かすための方策と考えられます。また、失敗を未然に防ぐ(成功確率を上げる)ために、行動の目的が不明確であったり不統一なために起こる失敗を防止すること(上記1)や、不確定要素を制限する(上記5)という提案もなされています。

失敗による損失を少なくすることについては、著者らは、早い段階での失敗(上記3)と、被害を小さくすること(上記4)を提案しています。これは、言い換えれば小さい投資で早く結果がでるように行動(試行)をあらかじめ設計しておくことを奨励していると理解できるでしょう。さらに、プロジェクトからの撤退のステップを用意して撤退をしやすくしておくこと、多くのプロジェクトを用意して別のもっと面白いプロジェクトへの乗り換えを提案していることは重要ではないかと思います。要は、資源の投入を小さくし、失敗による損失を小さくすれば、相対的に失敗から得られるものの価値は高まるということです。

失敗から多くを学ぶことについて著者は、失敗から正しい教訓を導くために前提(仮定)を明確にしておくこと(上記2)、学びやすい分野に取り組むこと(上記5)を挙げています。エジソンは「私は失敗したことがない。うまくいかない10000通りの方法を見つけただけだ。」と言ったとされますが、うまくいかない方法を知識にするためにはただやみくもな試行をするだけではダメで、どういう前提でどういう仮定に基づいて試行(実行)したかをはじめとして、うまくいかない条件や原因を明確にして記録(記憶)しなければならない、ということも言っているように思います。著者が指摘する「前提を明確にする」ということは、正しい教訓を導き出す方法として重要ということなのではないでしょうか。実際に期待どおりのことが起こらなかった場合、その現実からつい目を背けたくなるものですが、その失敗を生かすためには前提や仮定のどれが違っていたのかを明確にする必要があるでしょう。そのためにはチェックすべき前提や仮定を最初から明確にしておくことは結果の迅速な判断、対処のために有効であると考えられます。こうした前提を整理しておけば、学ぶべきところの少ない単純ミスも早期に見分けられるかもしれません。ただし、最初の前提や仮定以外の因子が原因で失敗することも往々にしてありますので、最初に考えていた項目に囚われすぎてしまうことは問題だと思います。

なお、失敗から学ぶというと、次に同じような失敗をしないために失敗の原因を明確にし、教訓を得て将来に生かすという考え方がまず思い浮かぶのではないでしょうか。つまり

期待:Aという行動→Bという結果

失敗:Aという行動→Bという結果にならない

という失敗に対して、行動の中身や前提、考え方を見直してBという結果が得られるように行動を修正する、ということが行なわれると思います。しかし、実際には

失敗′:Aという行動→Cという結果

となる場合もあります。これも失敗には違いありませんが、こうした結果からは、単なる同じ失敗を繰り返さないための教訓以上のことが学べる場合があります。セレンディピティーによって失敗から新たな発見をする場合や、顧客の反応に学んで新たなマーケットを創造する場合(新市場型破壊的イノベーションなど)も、この種の失敗から学ぶことができる場合であって、こうした可能性も忘れてはいけないと思います。

いずれにしても、先が読めず変化が激しい世界では新たなことへの挑戦は必須です。この論文でも述べられていますが、まず失敗のリスクをとり、新しいことに挑戦することが必要です。Merckでは失敗した取り組みから早期に手を引いた研究者にストックオプションで報償する制度があるそうですし[文献3p.266,文献4]、「大失敗賞」という表彰を行なっている会社もあるそうです[文献5]。失敗に寛容であるためには、失敗というものの性質、失敗のもたらす影響、失敗から学べることについての理解が不可欠であるわけですが、失敗から得られるものの価値を高いものにすることで失敗に寛容なチャレンジングな環境が実現できるかもしれません。容易なことではないかもしれませんが、リスクをとることを促し、その結果として発生する失敗のマネジメントをうまく行なうことが、イノベーションの能力を高める上で重要なポイントのひとつなのではないかと思います。



文献1:リタ・ギュンター・マグレイス著、スコフィールド素子訳、「マイクロソフト、3Mが実践する『知的失敗』の戦略」、Diamond Harvard Business Review20117月号、p.24.

要約のみ:http://www.dhbr.net/magazine/article/201107_s02.html<2013.1.13リンク切れ>

原著は、Rita Gunther McGrath, “Failing by Design”, Harvard Business Review, Apr. 2011.

最初の部分のみ(登録すれば全文閲覧可):http://hbr.org/2011/04/failing-by-design/ar/1

文献2Christensen, C.M, Raynor, M.E, 2003、クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー著、桜井祐子訳、「イノベーションへの解」、翔泳社、2003.

文献3Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J., 2008、スコット・アンソニー、マーク・ジョンソン、ジョセフ・シンフィールド、エリザベス・アルトマン著、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.

文献4Arlene Weintraub, “Is Merck's Medicine Working?”, Businessweek, 2007.7.30.

http://www.businessweek.com/magazine/content/07_31/b4044063.htm

文献5:茂木俊輔、「太陽パーツ-大失敗賞 『前向きな大失敗に金一封』社員を明るくする表彰制度」、FoleAug.2010p.28.

https://www.forum-m.jp/ssldocs/members/fole/pdf/2010/1008/fole1008_7.pdf




参考リンク<2012.7.8追加>
 


 

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