いつもはラーメンだの立ち食いソバだのB級の類を扱うことが多いブログですが、たまには文化的な店も。

すこし前に横浜に行った折に荒井屋という店に行ってきた。

グルメな人ならすぐにピンとくる店でしょうが、そう、あの牛鍋の老舗ですね。

〝すき焼き〟ではなく、あくまで〝牛鍋〟。
仮名垣魯文が書いた『安愚楽鍋』の「散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がする」の一文でもお馴染みの、あの牛鍋。

昔、社会の教科書に安愚楽鍋の挿絵が載っていて、その絵には洋服を着た紳士が座敷で牛鍋を食べている様子が描かれているのだけど、これがまた旨そうなのだ。

当時、北海道の田舎モンの中学生にとって文明開化の港町・横浜は憧れだったワケですね。
「嗚呼、いつか牛鍋ってぇモンを喰ってみてぇもんだべよ」的な。
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で、行ってきたわけです。

明治18年創業という老舗ですよ。

どんなハイカラでエキゾチックな場所にある店なんだろうと期待して訪れてみると、性風俗店やら安酒場が立ち並ぶなんとも猥雑な街の一角にあった。

「へぇ、ここが、あの牛鍋の店かぁ~」

完全に観光客気分でお店に入ると着物姿の女中さんが丁寧に接客してくれて、早くも非日常空間。
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テーブル席に通され、牛鍋の「あおり」と「特選」というものを1つずつ注文。

それぞれいい値段がするのだけど、全てが死ぬほど高級というわけではないようで。
定食や丼モノなどは1,000~2,000円代から揃っていた。

まぁ、でもやはりせっかく来た以上は牛鍋といきたい。

まずは瓶ビールも頼んで牛の登場を待つことに。

昔ながらの丸型卓上コンロは磨き抜かれてピカピカで期待も高まる。
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しばらくして肉が登場~。

たしか霜が降ってる方が「特選」で赤身のほうが「あおり」だったかな。

むぅ、これは旨そうだ。
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あとの差配は女中のお姉さんにお任せという事になる。

勝手に鍋にどさどさ野菜を入れたり肉をぶち込んだりするのはご法度のようで、手慣れた妙技に見惚れることになる。

きれいに鉄の鍋に野菜が敷かれ、絶妙なタイミングを肉をソッと入れてくれる。

やがてクツクツと煮立ってくると、
「そろそろどすえ」
と声をかけてくれる。

いや、ここは京都ではないのでどすえとは言わない。
でも、そう言ったように聞こえた。
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く~。

さすがにたまらない。
口のなかでとろけるような肉の旨味だ。

また、牛鍋のタレが濃すぎもせず薄すぎもせず、さりげない塩梅で秀逸だ。

いつも口にしているトップバリュのPB商品「すき焼のたれ」とは全然ちがう。
当たり前だ。
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お肉は当然ながら和牛とのことで、産地は時々で異なるようだ。

あんまり記憶が定かではないが、この日は東北のどこかだったような…。

脂ノリの良い「特選」も旨いのだけど、それよりも安い「あおり」の方が個人的には好みだった。
赤身が好きな人はこっちの方が満足できると思います。

うーん、文明開化の味がするわ←
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ちなみにランチの牛鍋には野菜と白米、簡単なデザートが付いてくる。

本来はもう少し遅れたタイミングでゴハンが出てくると思うのだけど、つい催促して早めに持ってきたもらった。

ゴハンが無いのに肉がどんどん消えていくとか、、、
これは実に忍び難いものですよw

で、お行儀は悪いんですがこんな風にして掻っ込みます!

うーん、わんぱく。
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「いや、もうこりゃポン酒でしょ!」
ということでビールから日本酒にチェンジ。

別にビールでもワインでも何にでも合うと思うのだけど、文明開化の明治風情を味わうならやはり日本酒が良い。

文明開化の頃、いわゆる今でいう〝意識高い〟人たちはこぞって舶来の牛鍋で酒を飲んだという。

そんな往時に思いを馳せて味わう牛鍋と酒の味は格別だ。
歴史が好きな人にとっては、なんとも浪漫ある食べ物じゃあありませんか。
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肉がなくっても十分に野菜で呑めるw

クタクタになったネギやら味がしみ込んだ豆腐、肉の旨味の絡みついた白滝なども恰好の酒の肴。

こりゃ満足高いわ。

〆のウドンというのもあるらしくて、とても惹かれたのだけど…。
さすがにゴハン食べているのと、肉も量自体は少ないけれど旨味で満足度は高いのでお腹いっぱい。

ウドンは断念して次の課題という事にしましょうか。。。
絶対ウマイに違いない。
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そんなこんなですっかり満足。

お店も混むという事もなく、この日はお年寄りのクラス会とかファミリーのお祝い事らしき客が数組。
みなさん客層もよく、優雅なランチタイムとなりました。

お会計もまぁそこそこですが、この満足度を考えると十分。

建物とかは改装して近代的な立派なしつらえとなり、明治感とかは皆無なのだけど。
それでも<変わらぬ味>を守っているという謳い文句なので、憧れの文明開化の味を堪能できたということにしましょう。

ウナギや寿司とかの老舗・名店を巡るのも結構ですが、牛鍋という文化の香り高い味を巡ってみるのも面白いと思いました。