2008年08月

2008年08月31日

助手席の8月

2008夏 005


まだせみが鳴いてる。



8月が好きです、ぼやけているから。
まぶしくて、あつくて、ゆらゆらしている。
みんな、すこしだけだめになる。
だめになった人はとほほとしていて、やさしい。
だから8月が好きです。



このあいだ誕生日をむかえた。
いくつになったのかはじめわからなくて、
22だったか23だったか24だったか本当にすっかり忘れていて、
母に聞いたら
「22よ、何言うてんの」
と言われたが
計算してみたら23だった。

「23じゃったわ」
と言うと、
「変わらんわいね」
と言われた。
そうじゃねと答えた。
母も自分の年齢を忘れているようだったが、
そろそろ60になるはず。


SCRAPのみなさんから色紙をいただいた。
ポニョの絵が描かれてあった。
二年前にいただいた色紙といっしょに、
今も手許にある。しみじみと嬉しい。



夏休み、
広島に帰った。

父がレンタカーを予約していて

「あした運転しろ」

と言う。

「どこへ」
「畑じゃ」
「誰の」
「わしのよ。会社にあるんじゃ」
「どれくらいかかんの」
「1時間半くらい」
「遠いなあ」
「ええけん運転しろ。お前の運転を見てやる」
「見てやるておとうさん免許もっとらんじゃろ、ちょっとえらそうじゃない」
「わしはいろんな奴の助手席に乗ってきたから、うまいへたくらいわかる」

えらそうに言う。
それで次の日の朝早く、出発することになった。

「緊張するか」
シートベルトをしめていると、父が訊いてきた。
「うん、人乗せるん初めてじゃし」
「何、初めてか」
「うん」
「そうかあ。きょうで終りかのう、わしら」
「やめてよ」
「まあいいや、お前と心中するなら本望じゃ」
「あたしは本望じゃありません」
となりであまったるい紅茶花伝を飲みながら、父が笑った。



父の会社に行くのは初めてだった。
父は鉄工所で働いている。

天井がとても高い作業場、
足元には長い鉄がいくつもまっすぐに寝そべっていて、
父はそれを慣れた調子でまたぎながら、
すたすたと奥へ歩いていった。

お盆なので誰もいない。
きっといつもはぎゅいんぎゅいん大きな音があふれている作業場、
きょうはしんと静かで、
ひっそりとあかるくて、
蝉の声だけが遠くで聴こえる。


ほこりのような木屑のような、甘いにおいがした。
歩くと、足元で、じゃり、と音がした。


父のロッカーがあった。
立方体のさびた鉄の箱で、
ロッカーというよりは大きな小物入れみたいなものだった。

あけてみると、
たばこと、軍手と、タオルと、
それから女の子の写真がはってあった。

ずいぶんと前の写真で、端がめくれてきばんでいる。
黄色い防寒着に白い耳あて、まぶしそうに目をほそめ、
雪だるまをにらんでいる女の子。
3歳のわたしである。

20年前か、とおもう。

見るなお前ー
と、父が小走りでやってきてロッカーをぱたんとしめた。

写真が、と言うと、
入れっぱなしじゃ、と言った。



畑に行くと、
すいかだとかトマトだとかピーマンだとか、
ごろごろとびっくるするぐらいにできていて、
わたしたちは汗をかきながらそれらを車に運んだ。

すごいだろ、
と父が言う。
うん
答ながら、もぎとったトマトを食べる。
お前、洗って食えよ
呆れた顔をする。
うまいねえ
そう言ったら、今度は嬉しそうな顔をした。





「お前、仕事はどうな」
車に乗せきったあと、
ふたりで地べたに座ってお茶を飲んだ。

「まあまあかな」
「まあまあって、いいんな、悪いんな」
「いいんじゃないかな」
「ほうか」
「いそがしくて、たまに泣くけど」
「泣くのか」
「うん。でもみんなやさしいから大丈夫。よく飲みに行く」
「お前飲むの好きじゃし、よかったな」
「うん」
「でもあんま飲みすぎんなよ」
「うん」
「またビール券やるわ」
「ありがとう」

お茶を飲む。目の前は、一面緑色の畑。
ゆっくりと、のんきな軽トラが一台とおった。

「東京は、おもしろいか」
「どうかな。まだ、よくわからん」
「ほうか」
「人が多いよ。あと、電車も多い」
「ほうか」
「でもまあ、おもしろくなるんでは」
「まあ、いやんなったらいつでも帰ってこい。畑があるから、食うには困らん」
「困らんことはないんじゃない」
「大丈夫じゃろ」
「そうかな」
「そうよ」
「わかった。ありがとう」


前髪がへばりついたおでこを、
ゆるい風がなぜた。

「涼しい」

父がうんと言った。




車に乗って、父の知り合いの家に何件か寄った。
でっかいすいかをおすそわけ。


あれ娘です、
と、父に指をさされる。


こんにちわあ

大きな声で挨拶をする。





「ていねいで、ええな」

と、言われた。
運転のことである。

「あらそう」

少し嬉しかった。





入道雲を右目に、家路を走る。



rasen816 at 12:40|PermalinkComments(2)TrackBack(0) 日々 

2008年08月14日

猫にかまけて

729c2b6b.jpg実家にひさしぶりに帰ったら、一匹猫が増えていた。
寝転がって漫画を読んでいたら、白いやせっぽちのぶさいくな子猫が、部屋のすみっこに座ってこちらを見ているのである。
誰かねお前は、と言うと、おぼつかない足取りで近寄ってくる。
母が、つよしよ、と言う。

つよし?
つよしよね。
誰がつけたんね。
わたしよね。
なんでつよしなんね。
なんとなくよね。

つよしじゃないじゃろうこの見目は、と言うと、
じゃあすきな名前つけんさい、と言う。


白いけんシロにしよか。
シロ?犬みたいじゃないかね。
じゃあメロ。
何ね、メロって。


メロ、といったん口に出すと、
わりと口当たりがよかったので、
えー、と言っている母を無視し彼はメロになった。

メロはあおむけのわたしのお腹の上にのぼり、みぞおちにうずくまり目を閉じる。
わたしはそのままの姿勢で漫画を読む。

ひとりと一匹、気付いたら眠っていた。
目が覚めてもぞもぞすると、メロも目を開けてあくびをした。



母が最近メロばかり可愛がるからか、
いちばんの古株のハルが物置(元わたしの部屋)から出てこない。

居間で寝転がって漫画を読んでいると(実家では漫画を読んでばかりになってしまう)、
物置部屋から母の声が聴こえる。


「愛してるよハルちゃーん」
一日に何度も言う。

母さんちょい声が大きいわいねーと物置部屋に向かって言うと、

だってハルちゃんずっと機嫌が悪いんじゃもん、と返された。
でもその愛してる発言はあまり効を奏していない。


メロはわたしの充電器にとびかかってはとびのき、とびかかってはとびのきしている。


rasen816 at 21:53|PermalinkComments(0)TrackBack(0)