2011年08月

2011年08月28日

晩夏

今、「音読」の入稿が終わった。
デザイナーの郁ちゃんに編集後記を送ったところで、ほっとしている。
この瞬間本当に解放された気になる。

好きで書いているのに、
書いているあいだすごく苦しい。
それは、
自分の乏しい力量が目に見えるから。
その乏しい力量の産物を書いては消し書いては消しして、
何とか今ある以上の文章を書こうとしている。

スポーツみたいだ。
今の自分を否定しないと、それより上にいけない。
そういうの何て言うんだっけ。





斉藤先生が亡くなった。
斉藤先生は元新聞記者で、
わたしに文章の書き方を教えてくれた先生だった。

そのときわたしは18だか19で、
自分ではよくわかっていなかったけれどとにかく若くて、
将来はおもいどおりになるとおもいこんでいて、
目なんかきらきらしていたとおもう。

斉藤先生に初めて出された課題は「自分への弔辞」というやつだった。
わたしは締め切りぎりぎりまで悩みこんでいて
くいな橋の美容院に髪を切りに行ったのだ。
そのときなぜだかある男の子が頭に浮かんだ。
彼にわたしに対する弔辞を読んでもらおうと思った。
帰ったら一気に書きあげられた。
モデルの男の子は同じ学部の背の高い浪人あがりの子で、
彼とはさして仲良くなれないまま卒業してしまったけれど。

斉藤先生はその課題を返却する際、
「君か、これを書いたのは」
と言った。

「一番の弔辞だ」

鳥肌が立って、ものが言えなくなった。



斉藤先生はわたしのことをランちゃんと呼んだ。
「ランちゃんはいい文章を書く」
何度かそうほめてくれた。
そのたびにわたしはふるえるほど喜んだ。
「でもきょうはいまいちだったね」
と言われることも何度かあったけど。



「個性は出そうとおもわなくていいんだよ。
消しても消してもにじみ出てしまうのが個性だから」



このあいだ先生が夢に出たのだ。

先生は大いに酔っ払って、
木屋町の小料理屋で横になって眠ってしまっていた。

わたしがそばに行くと、
「ああランちゃんじゃないか、久しぶり。
今どうしてるの」
と、目を覚ます。

「今も書いてますよ」
と言うと、先生はにこにこ笑って、
「一緒にオブラディオブラダを弾こう」
と木琴をもってくるのだ。


先生もうちょっと待っててください。
もっといいもの書くから、
そしたら読んでもらいに行くから待っててください。


そうおもいながら木琴を一緒に叩く夢だった。







あーあ。



斉藤先生。
会いたいです。

あのときよりも良くなったか悪くなったか知らないけど、
まだ懲りずに書いています。
先生の言葉を牛みたいにみっともなく反芻しながら。






きょうはnanoボロフェスタ。
毎年このごろは鈴虫が鳴いてるな。



rasen816 at 20:47|PermalinkComments(1)TrackBack(0)

2011年08月21日

犬も寝言を言う。
父親のもとに17歳くらいになるシーズー犬が一匹いて、
わたしも一時期その犬と暮らしていたことがあるのだけど、
そのときに犬の寝言を何度か聞いた。
犬は安心しきって腹を上にしていびきをかいて寝るのが常で、
わたしは隣に寝そべって
よく犬の鼻の穴を指でふさいだり乳首をもてあそんだりしていた。

犬は前と後ろ四本の脚すべてをぴくぴく動かしながら、
わふ、わふ、とつぶやいた。
ほえるのではなく。つぶやくのだ。

母にそれを言うと、
きっと走り回って何か追いかけている夢でも見ているのだろうと言った。



このあいだ、
古いトイレで用を足していたら突然怪しげな男が入ってきて写真を撮られる
という夢を見た。
やめてと言うと、君ではなく君の排泄物を撮っているのだと言う。
恐ろしがってわたしはトイレットペーパーを繰ることもできずに、
立ち上がってパンツとずぼんを一気に上げた。
ああ拭かないと汚いよと言いながら、男がわたしの手首を握る。
恐ろしすぎて声が出なくてそこで目が覚めた。
目が覚めるとまだ夜中で、
網戸からぬるい風がゆるゆる吹き込んでいた。
夫が目を閉じたまま、わたしのほうへ手を伸ばしてわたしの頭を抱きかかえて、
「大丈夫大丈夫」と背中をなぜてくれた。
怖い夢を見た、
おしっこをしていたら気持ち悪い男の人に写真をとられた、
それで逃げようとしたら腕をつかまれた、
君を撮ってるんじゃなく君の排泄物を撮ってるんだって言われた。
ひととおり説明し終わると、
夫は、「それは怖かったなあ」と半分寝たままで言った。
何で怖い夢を見ていることがわかったのかと訊くと、
「何かイヤッイヤッって言ってたから」と言った。

恐ろしすぎて声が出ないとおもっていたけど、ちゃんと出ていたんだな、
と何となく安心してまた眠った。

そのときその犬の寝言をおもいだした。




このあいだ26歳になった。
夫からはクールシートとかいうほんのり冷たい布団に敷くシートをもらい、
父親からは果物詰め合わせをもらい、
母親からは香水を買うお金をもらい、
友人からはラベンダーのかおりのするバスソルトと、
にんじんや大根やハーブのできる鉢植えをもらい、
前の上司からはひまわりをもらった。


最近、おなかにいる赤子が動く。
最初腸が動いてるんだとおもっていたけど、
今は赤子だということがはっきりわかる。

ぽくぽくと、おなかのなかで羊水が泡立つ。

もう膀胱もできているらしい。
小さな小さな膀胱。

わたしは頻繁にトイレに行って、
赤子のぶんも一緒に出す。



rasen816 at 20:09|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2011年08月01日

ここのところひどく暑く
疲れきっている。
かなり休みたい。

わたしの仕事は、外をとにかく歩く、外回りの営業である。

電車に乗るとやたら頭に来ることがあるので、
できたら乗りたくない。
と言うか
外に出たくない。

できたらうちにこもって、
扇風機の風にあたりながら
刺繍などをちくちくしていたい。
刺繍などほとんどできないけれど。



友達からメールが来た。

「妊娠中はどんな動物も休むものなのだから、あまり無理せず」
という内容のメール。

ライオンやイルカは、妊娠するとどうするのだろう。
馬は、猿は。

熱のこもったアスファルトの上歩いてると、何で土はつぶされたのだろうと思う。




8月になると同時に
安定期に入った。

胎児の鼓動を聞かせてもらったのだが、どくどくどくどく予想外に力強く速い。

びくびくと脚や腕を伸ばしたり折り曲げる。

魚のようなきれいな背骨。

液晶画面に映る影を見ていると、ぐっときて泣きそうになってしまう。


かわいいかわいい。
10センチメートルの
わたしのこどもだ。
早く大きくなってほしい。



胎児に名前をつけて呼び掛けるといいらしいので、
赤子とか胎児とかゆん坊と呼んでいる。

赤子、暑いね。
疲れたね。
これは焼きそばだ。
おいしいね。
ちょっと食べ過ぎたね。


そして、ささやかに丸く張り出した腹をぽんぽんさする。


rasen816 at 18:58|PermalinkComments(0)TrackBack(0)