アリスの物語(完)

アリスは、いつでもあなたのそばにいます。いつでも。

※目次※

1.スマートタスクリスト
2.スマートリーダー

当作品は「ライトなラノベ」の最優秀賞を受賞しました。

全面改稿バージョンが電子書籍にて発売になります。

詳しくは以下のリンクからご覧ください。

ライトなラノベコンテスト発の電子書籍19タイトルを発売します! #ララノコン


当作品は「ライトなラノベコンテンスト」の最優秀賞を受賞しました。

ひとえに皆様の応援のおかげです。

一度完成した「アリスの物語」でありますが、プロ作家の方から監修を頂き、全面的に改稿を行った上で、電子書籍として発売させていただきます。

発売予定日は2014年の5月15日。

すでに、Amazonでは予約可能です。

アリスの物語 (impress QuickBooks)
アリスの物語 (impress QuickBooks)倉下 忠憲 ぽよよんろっく

インプレスコミュニケーションズ 2014-05-15
売り上げランキング :


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

また、「ライトなラノベコンテスト」の二次選考を通過した作品も同時に電子書籍として発売になります。

詳しくは、以下のブログからどうぞ。

ライトなラノベコンテスト発の電子書籍19タイトルを発売します! #ララノコン

よろしくお願いいたします。

 ピピピピッ、ピピピピッ。
 
 小さいが、注意を向けずにはいられない音が鳴り響く。朝一タスクの時間終了だ。
 
 私は作成したデータを確認する。まずまずだ。これだけ進めておけばプロジェクトに支障はないだろう。

 私はデータをピットに投げ込み、共有した旨を送信しておく。もちろん、こんなメッセージがなくとも向こうには通知が飛んでいるだろうが、儀礼的なやりとりはいつの時代でもコミュニケーションの潤滑油になる。送っておいて損することはない。

「アリス、タイマーストップだ。あとコーヒーも頼む」

『お疲れ様です、マスター。コーヒーは15秒後にできあがります』

 室内に豆の香りが膨らんでくる。実に香ばしい。もちろんホログラフィの彼女にコーヒーを運んでもらうことはできないので、自分でコーヒーメーカーに向かい、彼女に勧めることもなく一人分をカップに注ぎ入れる。

「さて、ニュースウォッチの時間といこうか」

 一口飲んだカップをテーブルに置くと、カチリと音が響き渡る。割れる危険性はあるものの、この音の響きを感じるためだけに陶器のカップを使っている人は少なくない。実体を感じられるというのはよいものだ。セーブしたかのような安心感がある。黒色の液体はこちらを見つめ返すことなく、無言で揺らめいていた。

『タブロイドとウィンドウのどちらになさいますか?』

「ウィンドウで頼む。今日は数が少ないからワンセルビューで。あと、センシティブニュースだけタブロイドに転送しておいてくれ。移動中にでも目を通すよ」

『かしこまりました』

 アリスが丁寧にお辞儀をしてから姿を消す。これもコミュニケーションの潤滑油といったところか。

「まずはオレンジの新機種のスペック周りから」

 私の前にウィンドウが浮かび上がる。個人サイト、ブログ、ニュース記事が同一フォーマットに変換された窓だ。建物内に設置された窓は常に同じ風景を切り取るが、このウィンドウもウェブの世界を同じように切り取る。どのようなソースであれ、タイトル・300字以内の要約・使われている画像を抽出し、一定の形式にまとめてしまう。人間の限られた認知リソースから言って、この形式がニュースを追いかけるのに一番適している。以前、誰かが遊びでニュースサイトの記事を全て別々のフォントに変更してしまったことがあるが、あれはまったくもって読みにくかった。
 
 もしかしたらバカなデータ解析者があの事象から、フォントをバラバラにすればアクセス数がアップする、なんて結論を出すかもしれないが、ヘッドライナーで話題になっただけで誰も中身は読んでいなかったに違いない。スタイルの統一というのはメッセージの伝達において重要な要素なのだ。

「これが新機種か・・・。さすがにイノベーションリーダーだけはあるな。予約状況の動き、サーバー・アクセスの時間帯別動向表、関連企業の株価のデータを揃えておてくれ。アークソフトから何かコメントは出てたのか」

『CEOがコメントしていますが、フィルターで取り除きました』

 アリスが声だけで答える。

「なんだ、聴く価値なしってことか。まあいい、一応表示してくれ」

『かしこまりました』

 どこかの動画サイトにアップされたCEOのコメントが再生される。ゆったりと一言一言を染みこませるように言葉を発している。喋ることがないので、 間が持たないのだろう。結局五分間で、「うちとしては後から追いかける以外の手はありません」、という内容以上のものは何一つ得られなかった。

「この動画、ヘッドライナーで話題になってるんじゃないのか?」

『すでに200の改変動画が作成され、10万ビューを記録しているものもあるようです。その動画についての書き込みは多いようですが、それを除けばヘッドライナーでの流速は10分におよそ100です』

「そんなところか」

 おそらくそれ以外の話題で盛り上がってるんだろう。あのオレンジの新機種は何かしら発言せずにはいられないチャームがある。しかしながら、あのCEOは別のところで話題を作るのがうまいな。喋ることがないのならば、ノーコメントを押し通しておけば角が立つわけでもあるまいに。まあ、それも一つの才能かもしれないが。

「よし、こんなところか」

 ウィンドウを右に払うと、代わりにアリスが姿を現す。

「先に買い物に行ってくるよ。その間に関連企業のデータを洗っておてくれ。過去半年から一年でジワジワ株価を上げている企業を探す。それ以前と比べると、 僅かだが取引量・株価とも上がっている銘柄だ。あと、今後のフィルタリングは関連企業について広く集めるようにしておいてくれ。踏みつけないようにしっぽを見つけないとな」

『かしこまりました。データの分析及びフィルタリングの設定変更を行います。設定変更の反映は明日からでよろしいでしょうか』

「いや、今日、というかたった今からだ。すでにきな臭い話題が飛んでいてもおかしくはない」

 こういう大きな話題の裏では、確実に仕込んでいるヤツがいるはずだ。それに美味しく乗っかるとしよう。そのためには、データから隠された意図を読み取らなければいけない。何かを埋めた穴を不自然に見せないように平すと、その他の部分との差異が出てきてしまう。自然の地面は真っ平らではないのだ。

「じゃあ、ケチャップを買いにいってくるよ」
 
 アリスにそう言って、私はタブロイド端末を抱えながら部屋を出た。

「おはようアリス」
『おはようございます。マスター』
私が声をかけると、アリスが姿を現す。いつも通り長めの赤いプリーツスカートと白のブラウス、それに黒のジャケットだ。
「今日も晴れか。気分良く仕事が始められそうだ」
『それはなによりです』
「さっそくタスクリストを作成してくれ。モード”平日”で頼む」
『了解しました。モード”平日”にてデイリータスクリストの作成を開始します』
アリスの”目”がこちらを向く。
『体温、心拍数、脈拍、脳波ともに平常値の範囲内です。マスターの体調を”元気”と判定しました。何か追加で考慮すべき要素はありますか』
「まったくない。元気そのものだよ」
『了解しました。”平日”、”元気”のパラメータに、”火曜日”、”21日”のパラメータを追加します。リマインダーをご覧になりますか』
「ああ、見せてくれ」
目の前にウィンドウが立ち上がる。
「重要度大だけを表示、それに先週以前に追加したものは消してくれ」
リストの項目が3つに減る。”ヤマトに契約書送信”、”アリスのアップデート”、”トマトケチャップを買いに行く”。そうだ、もうストックが無くなっていたのだった。あの偏屈なじいさんの店に行かないと。
「アリス、ケチャップ購入をタスクに追加だ。リマインダーはもういいよ」
『了解しました。これでリストのパラメータを確定させますか』
そうしてくれ、と言いながら私はドルズショップの棚を思い浮かべる。
どれだけ店主が偏屈でも、品揃えに一流のこだわりがあればこのご時世でも小売店がやっていける、と証明するご立派な棚だ。
いつの時代でも食にこだわる人間はいるし、そこにお金は湯水のように注がれる。人はどんな快楽にもいずれは慣れてしまうが、食事と縁を切って生活していくことは不可能だ。
「今日はあの店定休日じゃなかったよな」
『はい、マスター。ドルズショップは毎週水曜日が定休日、と登録されています』
だったら、今日行っておかないと。
『タスクリストの作成が終わりました。買い物時間を考慮して、通常の80%で構成してあります』
「80%?えらくタイトスケジュールだな。あの店はそんなに遠くないだろう」
アリスに計算間違いがあるとは思えないが、さりとて前提条件を誤れば結果も誤る。確認は必要だ。
『これまでのログを考慮すると、マスターはドルズショップに長時間滞在することが想定されます。平均買い物時間のおよそ200%というのが私の推測で、それが反映された結果です。リストを再構築なさいますか』
怒りも皮肉もない声で冷静に事実を告げられると、心の持って行き場がなくなってしまう。アリスの指摘する通りあのじいさんと話し出すと時間を忘れてしまうのだ。どうせ、今日もそうなるだろう。
「いや、再構築は構わない。これで行こう。じゃあ、ファーストタスクから取りかかろうか。20分のタイマーをセットしてくれ。あと、その間にフィードのフィルターを頼む。今日はのんびり読んでいる暇もなさそうだから、10分程度にまとめておいてくれ」
『了解しました。何か優先事項はございますか』
「そういえば、昨日はオレンジの新機種が発表されたんだったな。オレンジ関連の記事は一つでいい。その他は全てシャットアウトだ。その代わり株価関係をピックアップしておいてくれ」
『どこかご希望のサイトはございますか』
アリスがサイトのリストを表示させる。が、私はそれを右にスライドさせた。
「いや、リストはいいよ。ワヨーフーアルティメットでいい。じゃあ、タスクに入るよ。タイマーを起動してくれ」
『了解しました。では、フィードのフィルタリングを開始します。グッドラック、マスター』
アリスはそう言い残し姿を消す。チコチコなるタイマー音と、AIに幸運を願われるというのも不思議な体験だなという私の思いだけが部屋の中に残った。

このページのトップヘ