昨年8月、ピーター・オニール氏は、シンガポールで長期療養中であったマイケル・ソマレ首相が、長期間不在で首相の職務を遂行できていないとし、多数の国会議員らを味方につけて、ソマレ氏を首相の座から引きずり下ろした。しかし12月、パプアニューギニア国最高裁のサー・サラモ・インジア判事は、ピーター・オニール氏とその取り巻きが、憲法に規定された手続きを踏まずにソマレ首相を解任し、自ら首相の座を得たという司法判断を下した。つまり、「オニール政権は憲法違反」という宣言である。これでオニール派とソマレ派の対立は決定的になり、1月のクーデター未遂やらに発展し、今日の「2人の首相」が存在する事態になっている。

オーストラリア人とのハーフであるオニール首相は、かねてからこの最高裁判事サー・サラモ氏を「目の上のたんこぶ」だと思っていたようで、昨年8月の電撃的な政権交代劇以降、あらゆる手段を講じてこの判事を追放しようと画策してきた。11月にはその試みの一つは明るみになり、そんな陰謀を画策したとされたベルデン・ナマ副首相と司法長官のアラン・マラト博士の両名が逮捕され、72時間ほど「檻」の中に入る、という事件もあった。

このナマ副首相は、以前にも記事にした事がある。200億円近い金をニューギニア航空でマレーシアからパプアニューギニア運び込もうとしたと噂され、その途中、インドネシア空軍機に追跡された方である。この金は、国会議員をオニール派に繋ぎとめるため、彼らの買収に惜しみなく投じられたという噂が根強い。日本で言うならば、「反小沢派」の岡田副首相が、シンガポールあたりから日本航空便で大量のドル札を運ぼうとし、途中でフィリピン空軍の戦闘機にずっと追跡されたようなものだろうか。そして、その岡田副首相が、今度は「小沢派」と目される最高裁判事をやめさせるため、法務大臣と共に陰謀を働いたという事で、警視庁特殊急襲隊(SAT)に身柄を拘束され、72時間、麹町警察署の留置所にぶち込まれたようなものである。そしてシンガポールから持ち込んだ金は、衆参両議院の議員先生たちにばら撒かれたという事に等しい。なんともすごい、しかし発展途上国、特に資源のある国ではありがちな、いわゆる「何でもあり」の「カオス」状態である。

だが今年の2月、オニール政権はついに念願の目的を果たした。最高裁のサー・サラモ判事を正式解任したのである。これで「目の上のたんこぶ」の除去は終わったか思うとそれだけではない。実は今週火曜日(36日)午前8時ごろ、オニール政権は武装警官隊をサー・サラモ判事の自宅に派遣し、そのまま彼を逮捕してしまったのである。逮捕の理由は、判事がかつて、使用目的の決まっていた裁判所の金(900万円ほど)を勝手に別の目的に使用した、とかいう理由であった。このニュースを聞いて、地元民の何人かは「もう、権力闘争ばかりでうんざりだ」と言っていた。「オニール首相だって、憲法違反を働いて政権の座についたんじゃないか」というのである。とはいえ、「ソマレ政権に戻っても、中国との関係もあるし、セピック・マフィアにまた利権を牛耳られるのも嫌だ」という複雑な心境があるのも事実である。

現地人の感覚を乱暴に割り切ってみると、以下のような構図であろうか。


ソマレ首相:

= 経済成長を成し遂げた建国の父であるが、利権を一族で牛耳った古いタイプの政治家。
   最近、怪しい中国人が周辺にウロウロし始めた。

オニール首相:

= 新しい透明性ある政治をやってくれそうだが、やっている事はバラマキ。
   身内にも怪しい連中を抱えているし、強引なやり方で権力を奪い取った。
   我々(現地人)の嫌いな白人をバックにしている。

確かに、パプアニューギニアの政界のレベルは15年前に比べてはるかに低下している、と指摘する向きもある。かつて、ソマレ首相らと共にこの国を作り上げたリーダー達、つまり「維新の志士」らは、もちろん途中で分裂したり再合流したりを繰り返しはしたが、官僚に対する信頼と敬意を持っており、自分たちの国を建設するのだ、という意識を強く持っていた、という。

しかしこれらの「維新の志士」らはやがて「元老」となり、亡くなった人たちを除いて、いつの間にかほとんどが「富豪化」してしまい、また若い政治家たちの多くは「金持ちエリート出身」であり、「さらなる金と権力と名誉」を手に入れるため「だけ」に政治家を目指しているのがほとんどだ、という。そうなると、国家の先行きは極めて怪しい事になる。こういう精神的脆弱さは、周辺地域の不安定化にも繋がるし、この国に眠る「資源」や「富」を狙う者らにとっては、今から有能で野心家の若い政治家を取り込みさえすればよい。彼らが欲しがる「金と権力と名誉(と女)」をくれてやればよいのだ。さすれば、この国は1020年の間に彼のものになるだろう。そして、実際に中国辺りは一生懸命そうやって閣僚たちを賄賂漬けにし、女たちをあてがい、その証拠をがっちりと握って来た。だから、中国に買収された閣僚らは、絶対に今さら「引けない」のである。

(後半に続く)