ゲームセンターにはコミュニケーションノートというものが置いてあることがある。記念カキコ、チラ裏日記、攻略情報、イラストなど、ゲーセンに来た人が各々好き勝手書き込み、時にはお互いに顔を知らないプレイヤー同士の交流がノート上で始まる奇妙なあれである。最近はコミュニケーションノート自体をなかなか見かけなくなってしまったが、昔は結構どこのゲーセンに行っても置いてあった。それは僕がいつも通っていたキッズクラブやエジソン倶楽部も例外ではなく、僕もゲーセンに足を運ぶたびにコミュニケーションノートに目を通し、時には書き込みもしていたのであった。

当時のコミュニケーションノートにおいて特に目を引いたものの一つが、女性ポッパー(pop’n musicをやる人のこと)の書き込みである。可愛い字体で自分の近況やpop’nのプレイ記録を書き、時には長文で曲萌えやキャラ萌え語りをし、キャラのイラストを添えるのがだいたいお決まりのパターンであった。最近はもうそんなことないだろうが、当時女の子がプレイする音ゲーといえば8割方pop’n musicであり、ゲーセンで女の子の友達をつくりたければ、まずpop’n musicを始めるのが一番の近道であったと言っても過言ではなかった(個人の感想です)。


キッズクラブのコミュニケーションノートにおいても、書き込みをする女性ポッパーはちらほらいたのだが、その中でも特に頻繁に書き込みをしている人がいた。その人のことをここではAさんと呼ぶこととする。時期的には、DDR EXTREMEが稼動したあと、僕が高校1年〜2年の頃だったと思う。別にノート上で特に交流があったわけでもなかったが、Aさんもよくイラストを描いていたので書き込みが目に付きやすかったし、それで書き込み頻度も高いとなると、Aさんのことは自然に記憶していった。

さて、このコミュニケーションノートだが、通常であれば書き込み主の顔はわからないのだが、ちょうどノートに書き込んでいるところを目撃されてしまうと、当然ながら書き込み主を特定されてしまうこととなる。キッズクラブは客数自体が少なかったうえに、その少ない客の大半は周辺の学校の学生であり、学校帰りの平日夕方に来る人がほとんどであったため、ノートに書き込みをしている人にしばしば出くわし、意図せずして書き込み主を特定してしまうことがあった(ちなみに、キッズクラブの音ゲーは全てe-AMUSEMENT非対応だったため、カードネームから特定されることはなかった)。

そんな中、程なくしてAさんのことも特定してしまうのだったが、まあ周辺の学生であったことは予想通りだったのでいいとして、それに加え、Aさんの顔が思っていたよりもわりと可愛いということがわかってしまった(失礼な言い方をするな)。これを機に、僕はAさんのことが気になり始め、ノートでAさんに対してちょいちょいレスを付けるようになった。すると向こうも丁寧に返事をくれるので、それがまた嬉しかった。ちなみに僕は当時からpop’n musicもプレイしていたので、話のネタには困らなかった。また、DDR EXTREMEにはpop’n曲が収録されていたためか、普段ほとんどpop’nしかプレイしないAさんがDDRをプレイしていることがあった。僕はその姿を、他の音ゲーをプレイしながら曲選択中などにチラチラと見ていたのだった。

何度かノートでのやり取りを繰り返すうちに、向こうも僕のことを特定していたとは思うのだけど、それを決定づける出来事があった。ある日、Aさんと僕が同じ日の同じ時間帯に2人ともキッズクラブ内にいながら、ノート上だけで何往復も会話のやり取りをするというやつが行われたのだった。片方がノートに書き終えてから少し離れた場所に移動し、今度はそれを確認したもう片方がノートに書きに行くという、それの繰り返しであった。そんなの、今となってはこれを書いている本人も笑ってしまう話なのだが、男子校に通う陰キャだった当時の僕は、そのAさんとの一連のやり取りにときめいてしまい、いよいよAさんのことが好きになってしまうのであった。もうそこまで来たら普通に話しかけろやという感じなのだが、その時の自分にそこまでの勇気はなかった。ちなみにこのノート上のやり取りは、後日別の女性ポッパーからノート上でいじられていたのだが、それがまるで、幼馴染みの女の子との関係を友人から茶化される少年漫画の主人公のようでまた気分が良かった(馬鹿すぎる)。


そんな感じで日々浮かれていたのだが、ある日事件は起こった。Aさんがノート上に、「(キッズクラブ内で)めちゃくちゃカッコイイ人いた! どうしようすごいドキドキする!(ハートマーク)」的な内容のことを書いていたのだった。この発言は僕に致死量のダメージを与えた。まず、僕はAさんから認知されていたため、当然そのカッコイイ人というのは僕のことではないし、そんなことをノートに書く時点で、僕に対して大した感情もないという事実も顕在化してしまった。また、Aさんはチャラついた子ではないという幻想を僕は勝手に抱いていたため、そんなAさんが突然知らない他人の容姿についてパブリックなノートに書き連ねハシャいでいたのが、僕にはとてもショックだった(Aさんもいい迷惑である)。

その後も、ノート上でAさんがそのカッコイイ人とやらに言及することが何度もあり、僕はそのたびに悲しい気持ちになっていたのだが、そのAさんの書き込み内容や日時から、驚くべきことが判明した。どうもAさんの言うカッコイイ人とは、たびたび僕と一緒にキッズクラブへ足を運んでいた、僕と同じ学校の同学年の友人のようなのだ。ただでさえ致命傷を受けていたその時の自分にとって、この事実は僕の魂ごと消滅させるほどの破壊力があった。ちなみにその友人(Bくんと呼ぶこととする)は、中学の頃から僕と一緒によくゲーセンに足を運んでいた友人たちとは異なり、高校に入ってからわりと最近になって一緒にゲーセンに来るようになったやつだった。別に親しくないわけではなかったが、中学からの友人に比べると、僕の中では若干距離があると感じる程度の友人であった。

そのBくんだが、それがガチのイケメンならまだ良かったのだが、正直なところ「オタクにしてはマシ」くらいの顔だった(失礼なことを言うな)。中学からの仲の良い友人たちの中にもAさんのことを把握している者は何人かいたため、僕はそいつらと「なんでBが……?」「Aさんの趣味っていったい…?」という話をした(失礼なことを言うな)。ちなみに、Bくんのほうはそこまでノートを見てはいなかったので、AさんがBくんに対してそんなことを言っていることに気づいていないどころか、Aさんの存在も把握してはいなかったと思う。当然のように僕たちは、AさんのことはBくんには秘密にしておいた。


それから先のことはあまり覚えていない。僕はAさんへの興味がだんだん薄れていき、Bくんのことは普通に嫌いになった(Bくんもとんだとばっちりである)。キッズクラブのpop'nが古いバージョンのままだったからか、それとも単にpop'nに飽きたのか、まあ理由はわからないのだが、Aさんも次第にキッズクラブに現れなくなっていった気がする。そんなわけで僕の恋(?)は、Aさんと一度も会話をしないまま終わりを告げたのであった。


あれからもう15年ほど経ってしまったが、Aさんは今頃どうしているだろうか。今もまだ音ゲーに興味があるだろうか、それとも、音ゲーからはすっかり離れ、ヒプノシスマイクにハマったりしているだろうか。今後の人生でAさんと関わることはおそらくないだろうが、まあ元気でいてくれたら良いなと思う。

ちなみに、当時の僕は腐女子という概念を知らなかったが、Aさんは腐女子だったのだろうか。今となっては知る由もない。


続く。