ネタバレ

July 10, 2014

7SEEDS 山の章8 よりよき日々

以下のあらすじは、7SEEDS 山の章7 誘い(いざない)からの続きです。

2014年6月28日発売 2014年フラワーズ8月号掲載分で、既刊単行本未収録分となります。
従って、7SEEDSを単行本で読み進めている方にとってはネタバレとなります。

■あらすじINDEXはこちら

単行本で読み進めている人、ネタバレを読みたくない人はこの先読み進めないようご注意ください。

なお、あらすじは、感動的なシーンや印象的なセリフを極力書き込みすぎないように心がけています。本物の感動は単行本または本誌でどうぞ!

【注意!この先ネタバレがあります】

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「…え…?」
「どうだった?未来でサバイバルしてみた感想は?」

花の目の前には、両親と嵐がいた。

花は、全身を包まれるほど接触面が多い、マッサージチェアのようなものに、すっぽりと埋まっている自分に気づいた。
椅子の外側はドーム状に包まれていて、何かの機械がついていた。
花は、自分の状況がわからない。
嵐が笑顔で花に近づいてきた。

「お疲れ!花。人が滅んだ後の世界、って設定なんだってね。どんなだった?」
「嵐…?」

花は混乱していた。
…これは夢だ。
…待てよ、ちょっと待て、なんで夢を見てる?
…あたしはナツさんと話してから、お掃除ロボットを追いかけて施設跡に入って。
…ひばりちゃんと交信した。
…新巻さんと一緒に。

「新巻さん…?新巻さん!!」
「新巻?野球の?」

嵐は、きょとんとした表情で花を見る。

「まだちょっと混乱しているみたいですね…高校野球界のスター、新巻鷹弘くんもデータに入ってるから、中で会ったんですね」
そう言いながら、百舌が近づいてきた。

花の父は、花に百舌を紹介した。
百舌は、大学の後輩で、この、体験型バーチャルシステムの開発者の1人だと言う。

「どうも、花さん。モニターを引き受けてくださって、ありがとうございます」
「めーちゃん…?」
「あれ?覚えててくれました?もしくは、中で会ったかな?オレのデータも入ってるんで」

百舌は、その「体験型バーチャルシステム」についてスラスラ説明を始めた。

花に体験してもらったのは5時間くらいのコースだということ。
ゲームとしても遊べるが、教育や介護、終末医療や犯罪者更生のために利用するために、国家的プロジェクトとして開発を進めているということ。
世界観とキャラ設定を決めるだけで、プレイヤーは自由に動けること。

花は、百舌の説明に混乱しながら自分の手を見た。
綺麗な手。爪の形も整っている。
花は顔を触った。肌はどこも荒れていない。
花は髪を触った。サラサラとなめらかな手触りが伝わる。

…日焼けして汚れて、爪は欠け、小さな傷や打ち身がいつもあって。
…お肌はもう、修復不可能なほどボロボロで。
…髪はパサパサで枝毛だらけで。

「…うそ…、ちょっと待って、待って!何これ!なんなのこれぇええ!!!」

花は頭を抱えて叫んだ。
嵐が駆け寄り、花を抱きしめる。

「よっぽど怖かったんだね。大丈夫だ、花。帰ってきたから」
「…嵐…」

花は嵐の腕の中で、嵐の顔を見つめる。
花は嵐の名前を呼ぶ。嵐は花に応える。
何度もそれを繰り返し、花は徐々に落ち着きを取り戻した。


花は、嵐と百舌と別れ、家族と車に乗った。
父が運転、母は助手席、花は後部座席。

「…お父さん、あたし、佐渡に行ったよ…」
「へえ、そんなルートもあるのか」
「またみんなで行きたいわねぇ」

花はぼんやりと窓の外を眺める。

…街は普通に、そこにある。
…人は大勢、そこにいる。
…滅んでない。隕石は落ちてない。
…生きてる。…生きてる。
…よかった…これが現実なら…。
…帰って…来た…?

花の目に涙がにじむ。

…何も、起きてない世界。この方がいいに、決まってる。
…この方が…いい…。



新巻は黙々とピッチング練習をしていた。
グローブとボールの、確かな手ごたえ。
キャッチャーがボールを受け止めた時の心地よい音。

「おい、新巻!」
監督が近づいてきた。
「2、3日休めって言ったろ」
「監督、大丈夫です」
「いや、脳震盪を甘く見ちゃいかん。昨今メジャーリーグでも問題になってる」
「いえ…。野球が、したいんです」

新巻の強い姿勢に、監督は引き下がった。
新巻は、とにかく野球がしたかった。

チームメイトが近くで噂話をしている声が、新巻の耳に届いた。
安芸島工業の鮫島吹雪が、県の大会で何か記録を出した、とか。

「鮫島…吹雪」

新巻はつぶやく。
ピッチング練習をしながら、吹雪の顔を思い出す。

…吹雪は、ここでは生きている。生きて、野球をやってる。
…美鶴さんは…?実在の人物なのか…?
…ネットで探せばわかるはず。でも、知るのは怖い。知ってもどうしようもない。
…僕たちは、会ってない。…会ってないんだ。
…それでも、生きててくれればいい。
…どっちが夢で。現実でも。
…生きていてくれるなら、そっちのほうがいい。
…それだけでいい。



ナツは、病院から退院することになった。
バタバタと退院手続きをしてくれる母。
「姉ちゃん、ボーッとしてるけどホントに大丈夫かなー。あっ、前からか!」
そんなことを言って笑う、弟のケイタ。

タクシーに乗って自宅へ帰る。
ナツは、まだ現実がわからない。

…未来は全部、夢だった…?
…意識を失ってる3日間のうちに見た、ただの夢…?
…だって、何カ月も経ったよ?すごくいろんなことがあったよ?

ナツは自分の頬をつねってみる。痛い。

「ただいまー。お部屋、そのままにしてあるから、晩ごはんまでちょっと寝なさいね」
母にうながされて、ナツは自分の部屋へ向かう。

ナツは部屋のドアを開けた。
まぎれもない、自分の部屋が、そこにあった。

ベッドは、自分が起きて抜け出た時のままの形に乱れていた。
脱いだ服も、脱いだ時のそのままの形でベッドの周りに散らかっていた。
机の上やベッドの周りには、読みかけの本がそのままの形で。
ゴミ箱のゴミも、そのままで。
部屋にひきこもっていた、その形のまま、ナツの目の前にあった。

ナツは考える。

…未来には、行ってなかったんだろうか…?
…じゃあ、みんなは…?
…嵐くんは?蝉丸さんは?いなかったの?
…まつりちゃんと仲良くなれたのに?蛍ちゃんとも…。
…やっと牡丹さんにほめてもらって。
…安居くんたちは?

…ちょっとはがんばったって、思ってたのに。
…全部、自分に都合よく見てた夢なの?
…あたしは、未来に、行ってない…?
…閉じこもって、学校にも行けず、人と会話もロクにできない、もとのままのあたしなの…?

ナツはゾッとした。
そこに、愛猫のナッツがやってきた。
にゃあ、と可愛い声で鳴いている。

「ナッツ…!うぅぅ…、会いたかったよー!」

ナツは思い切りナッツを抱きしめた。
ナッツはナツの腕の中でフニャーと鳴いた。

ナツも泣いた。ナッツを抱きしめながら泣いた。
…帰りたかった。ここに、帰りたかったはずだ。



花は、日常生活を送っていた。
いつもの制服。いつもの学校。
嵐と一緒のおひるごはん。

「花、頭痛くなったりしなかった?」
「うん、全然大丈夫だよ。…未来ってね、虫がいっぱいいたよ。でかいの襲ってくる」
「げー!じゃあオレ、ダメだ」

そんな会話をしながら、花は嵐と笑い合う。

…もとの世界。
…嵐がいる。
…それ以外に、何がいる?

花は、そう思いながらも、みんなの顔を思い出す。

新巻さん。藤子ちゃん、ちさちゃん。春のチームのみんな。
秋のチームのみんな。

…未来は、ただのデータで、存在しない。
…それなら、なぜ。
…大切なものを、失くした気がするのか。



新巻は仲間と一緒に部活に励んでいた。
ランニングで街に出る。
コンビニに前で、つながれている犬と目が合う。思わず、犬に手を振る。
チームメイトが「新巻、犬好きだっけ?」と不思議がる。

新巻は走りながら思った。

…夢でよかったんだ。
…たくさんの、死を見た。本当に、たくさんだ。
…なかったことなら、そのほうがいい。
…吹雪とまた、野球ができる。甲子園で会う。

新巻は涙を流していた。

…それなのに、どうして涙が出る。
…なぜ、あの時間が、なかったと思うことが。
…胸がつぶれそうになるほど、悲しいんだ。



ナツは、ナッツを抱きながら考える。

…おいしいごはんを食べて、あったかいお風呂に入って、トイレはウォシュレット。
…フカフカのベッドで眠る。
…本も読めるし、テレビも見られる。
…幸せなはずだ。欲しくてたまらなかったはずだ。
…だけど、あたしは、もとのままだ。
…頑張れない。友達もいない。
…もとのままだ…。



蝉丸はパクパクとシチューを食べていた。

「母ちゃんのシチュー、おいしいね」
「でしょー?いつでも作ってあげる」
「もっと寒くなったら、もっと美味しいよね。夏とか秋は、カレーもアリだけど」

蝉丸はそう言って、ふと、つぶやく。
「夏…、ナツ…。ナツ、って、誰だっけ?…蛍って…」
「蛍は、夏よねー?」
「嵐って…?」
「え?台風のこと?」

蝉丸のつぶやきは、母との噛み合わない会話に飲みこまれていく。



源五郎は1人、まだ続いている映像資料を見続けていた。

『人類の終末から、ほぼ10年が経とうとしています。この鍵島の状況は変わりません。外に出ることはかなわず、どこからも連絡はありません』

フルハシは、単調な日常の中で起きた変化について、語り始めた。
幻覚を見る者が増えてきたこと。
最初は、ごくわずかだった幻覚が、徐々にリアルに、長時間になってきたこと。
やがて全員が、何らかの幻覚を体験したこと。
そして、全員に共通していたのが、どれも幸せな幻覚であったこと。

映像の中で、フルハシ以外の研究員たちが楽しそうに、幻覚について語り合っていた。
家族で南の島へ旅行。
別れたはずの彼女と、結婚。
フルーツやスイーツの食べ放題。

フルハシも、幻覚で亡くなった母に会えた、と語った。

『…母は、若くて綺麗でした。…まるで溺れるように、みな、幻覚とも夢ともつかぬそれを、待ちわびるようになっていました』

そして、フルハシ達は施設中をくまなく調べ、幻覚の原因を探り始めた、と語る。

『そしてついに、何が幻覚を見せているかを、知ったのです。それは、我々にとって、救いであり、罠でもありました』
次号へ続く。

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