ネタバレ

August 10, 2016

7SEEDS 空の章5 隙間

以下のあらすじは、7SEEDS 空の章4 覚悟からの続きです。

2016年7月28日発売 2016年フラワーズ9月号掲載分で、既刊単行本未収録分となります。
従って、7SEEDSを単行本で読み進めている方にとってはネタバレとなります。

■あらすじINDEXはこちら

単行本で読み進めている人、ネタバレを読みたくない人はこの先読み進めないようご注意ください。

なお、あらすじは、感動的なシーンや印象的なセリフを極力書き込みすぎないように心がけています。本物の感動は単行本または本誌でどうぞ!

【注意!この先ネタバレがあります】

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「新巻さん!」
嵐は叫んだ。
新巻は数字の1が書かれている壁の下にあるハンドル状のバルブにぶら下がっていた。足場はない。
この空間に来た最初に安居が指摘していた通り、バルブのある壁はコンクリートであったがかなり劣化していた。足場のない新巻が壁を蹴るたびに、壁がボロボロと剥がれ落ちる。

「嵐!揺らすな!…新巻、その壁は、崩れるぞ!」
安居が叫ぶ。新巻の反応はない。
嵐は必死で新巻の名を呼んだ。

…花のお母さんは、水の中で亡くなった。
…花は今、きっとそのことを思っている。
…そんなことを考えさせたくない。
…新巻さん。あなたも、そう思っていますか?
…新巻さんは戻れない。あれじゃ、戻れない。
…落ちたら、下は水。水は渦巻いてどこかへ流れ込んでいる。
…水の先はわからない。地中深く流れ込んでいるのかもしれない。
…新巻さんは、戻ろうとは思っていない。

「新巻さん!」
「嵐!揺らすなって!…こっちも万全じゃない」
動揺する嵐と、それをたしなめる安居を横目に、涼はいつもの口調で言った。

「安居、とりあえずほっとけ。先へ進め」
「ああ…」


新巻は、嵐の叫び声も、何も聞こえていなかった。
新巻の頭の中にあるのは、目の前のバルブのことだけだった。

…どっちにまわすんだ。
…開けるんだから、左か?
…動け!


嵐は、新巻の様子が気になりながらも、安居に続いて花のいる穴へ向かって、壁の移動を続けていた。そして嵐は気づいた。
花がさっき、目印を振っていた穴。その穴から、水が流れ落ちてきた。

「まつり!」
嵐は、まつりに向かって叫んだ。
「花に話しかけて!頼む!」
「あっ、はい!」

まつりは、犬のダイと共に、お掃除ロボを抱えて事のなりゆきを見守っていた。
嵐にうながされて、必死で花に話しかける。

「あ、花さん、あたし、まつりです。花さん!大丈夫ですか?いやっ、大丈夫じゃないと思うけどゴメン…水はどこまで来てますか?」
「…こ…腰の…あたりまで…。冷たくて…」

花は、狭い空間の中、腰まで水に浸かりながらまつりの呼びかけに応答した。
しかし、もう花には、明るい声を取り繕う余裕はなくなった。寒さと恐怖とで、涙声になる。

「ごめん…まつりさん…な…泣きごと、言いたくないのに…情けない…もう…感覚なくなってきて…」
「花さん、違う!」
まつりも、花につられて涙声になる。

「情けなくないから!当たり前だから!…あたしだったら泣きわめいてるから。
…いいんだよ、彼氏に頼っていいんだよ。助けてもらうんでいいんだよ。
みんなで絶対、助けてくれるから。
…嵐くんたちは、右の壁を横に行ってる。花さんに近づいてる。あ…新巻さんは、左の壁で、隔壁を上げる、ハンドルみたいなのを動かそうとしてるよ。
…大丈夫だから!絶対、なんとかしてくれるから!」

そんな花とまつりのやりとりの中、新巻がぶらさがっているハンドルに反応があった。
わずかに左に動く。
そして、ハンドルの横にある、小さなハシゴ状の段々の上にあった、四角いでっぱりがガコンと音を立てて下に1段降りてきた。

新巻は考えた。
…あのでっぱり、目盛りを下げていけば隔壁が上がるのか?…よし!

新巻は力を込めた。ガコガコッ、という鈍い音を立てて、目盛りがさらに下へと移動した。
新巻は叫んだ。
「花さん!隔壁を上げられそうです!もう少し待って!」

新巻の言葉は、まつりから花へと伝えられた。

新巻は思った。
…大丈夫だ。助けられる。今度こそ花さんを、助けられる。
…吹雪が、僕たちにしてくれたように。
…美鶴さんが、僕にしてくれたように。
…そのあとのことは、考えなくていい。

嵐が、新巻の状況を見て、安居に提案した。
「新巻さんが隔壁を上げて花を助けられるんなら、オレたちは新巻さんを助けられないか?」
「…行けるとしたら…天井を伝って、だな。あのバルブが隔壁を動かしているなら、天井にその装置がはりめぐらされているはずだ。おそらく天井は頑丈に強化されているか、もともと固い地盤なんだろう。…どう思う?涼?」

涼は安居の言葉に、うんざりした顔で答えた。
「…いい加減にしろよ…」


ずっとハンドルにぶらさがっていた新巻は、腕のしびれを感じ始めた。
…これくらいで、みっともない。
…くそっ!

新巻は勢いをつけ、ハンドルに足をかけ、よじ登った。
そのまま全体重をかけ、ハンドルを動かす。ハンドルの周りの壁が、ポロポロと剥がれる。
目盛りが、また1段下がった。

…目盛りの1つが、何センチを指すかわからない。どれだけまわせば、どれだけ開くのか。
…花さんが潜ってみないと、わからないのか…。

しばらくして、花は変化を感じた。水が、引き始めたのだ。
お掃除ロボから朔也の報告が飛ぶ。
「こっち側に水が流れ込んでキタ!隔壁に隙間ができたんじゃ…?」

新巻は、バルブを動かした結果が出たことにホッとしつつ、考えた。
…水が減れば、花さんはラクになる。
…そしたらゆっくり、このまま完全に隔壁を上げてしまえばいい。
…いや。
…もし、今、電気が通っているからこそ、これを動かせているんだとしたら?
…ハルが言ってた。「発電機の音がおかしい。長くもたないと思う」と。
…ハルの耳は確かだ。もし、電気が止まったら…?
…また、隔壁は落ちるのか…?

「花さん!」
新巻は叫んだ。
「準備して!通れる幅の隙間ができたら、泳いでくぐって!」
「はい!」

花は、まつりを通じて伝えられた新巻の言葉に、身体の芯が少し暖かくなったように感じた。
…指が、かじかんでる。足も、つりそう。思うように動けないかもしれない。
…でも。信じる。新巻さんを、信じる。
…荷物は、なんとしても持っていく。靴も脱いで、カバンに入れる。
…でも、お掃除ロボは、無理。

「まつりさん。この子は…連れてけない」
「防水じゃないんだ?」
「多分…」
「別に、寂しがらないと思うよ」
「そうかな。…ありがとう、ジェミニ。…ここにいて…」

水は、はっきりと減り始めた。
新巻は叫んだ。
「花さん!行って!」
嵐も叫んだ。
「花!」
まつりも叫んだ。
「花さん!がんばって!」

花は、荷物を手に、水の中へと潜っていった。
…新巻さんを、信じる。

花は、隔壁に沿って下へ下へと潜っていった。
隔壁の下に、隙間ができていた。

…狭い!…でも、荷物は通る。

花はとりあえず荷物を隙間へ押し込め、水上へと浮上した。

…あと、10センチ。新巻さん!

花は水上で呼吸を整えながら待機した。また、隔壁が上がった。花は再び、潜った。
さっきよりも、広くなった隙間。花は頭をつっこんだ。通れる。

…行け!

花は勢いをつけて、隙間の中へと入っていった。



予備電源の入力作業を終えたあゆ、小瑠璃、ハルは、お掃除ロボを通じて、ぼんやりと状況を把握していた。
「…状況が全然わからないけど、助かりそうね。…さすが、鷹さん」
あゆがつぶやいたその時、ハルの耳は異変を捉えた。

「小瑠璃!あゆさん!伏せて!」

ドンッ!という大きな音が起きた。発電機の一部がついに、壊れ始めたのだ。

発電機の衝撃は、新巻たちがいるサイドホールへも伝わった。空間全体が大きく揺れる。
もともと壁が脆かった新巻のいるバルブ周辺には、大きい亀裂があちこちに発生した。

「新巻さん!」
「涼!もう1点、バックアップ取ってくれ!」
「やってる!まつり、カンテラに火を入れろ!」
「キャー!新巻さんー!」

新巻のつかまっていたハンドルは、ついに壁からもげて落ちた。が、新巻はその前に、ハンドル横にあるはしご状の目盛り部分に飛び移った。
それと同時に、新巻は、ガコガコガコ、という音を聞いた。見ると、下がっていた四角いでっぱり、目盛りが、再び上がり始めたのだ。

…目盛りが戻っていく!隔壁が閉まる!

新巻は、四角いでっぱりに手をかけてひっぱりながら、まつりへ向かって叫んだ。

「花さんは、もう出たか?」
「まだ、なんにも…」

新巻は、必死で目盛りを引きおろそうと、全体重をかけた。

…花さん!どうなってる!
…出てきてくれ。無事に、出てきて。
…もう一度、開け!



朔也は、ボートに乗って、隔壁の前で花を待っていた。
すると、花のカバンが浮かび上がってきた。
朔也は、花を待った。

「花さんの荷物が上がってきたけど…。本人が来ない…」

隙間を泳ぎ抜けようとしていた花は、左足がひっかかった。
振り返る。
足は隙間に挟まっていた。さっきよりも、隙間が狭くなっている。

…抜けない。

花の手には、ナイフがあった。

…足を切る勇気なんて、ない。

花は、もがいた。ゴボッ、と、呼吸が泡になって漏れた。



新巻は目盛りを押し下げようと全身全霊の力をこめた。

…僕の命は、いい。持っていって、いい。
…初めから、余った命だ。
…だけど。花さんだけは…!

新巻の手元に、ガコッという確かな手ごたえが伝わった。



隔壁の隙間が広がった。花の足は抜けた。
それと同時に、花は頭上にゴボゴボという流れを感じた。
見ると、水中に朔也がいた。必死の形相で潜ろうとしていた。

花は、水中でめちゃくちゃに手足を動かしている朔也の身体をひっぱって、水上を目指した。


水面から顔を出すと、朔也は盛大に咳き込み、半泣き状態で花にしがみついた。
「朔也くん、落ち着いて!しがみつかないで!…壁にしがみついて。…先に方舟に行ってて、って言ったのに…助けに来てくれたんだね、ありがとう」

花は、朔也を壁にしがみつかせたまま、朔也が乗っていたボートを取りに行った。
花は泳ぐ。ボートに近づく。
ボートに近づきながら、花は泣いた。

…抜けた。あの場所から、抜けた。隔壁を、越えた。
…助かった。…助かった…!

花は、ボートのへりにつかまり、ボートの上のお掃除ロボに向かって叫んだ。

「花です!新巻さん、抜けました!嵐!生きてます!生きてます!ありがとう!」
花の声がまつりに届き、まつりは、歓声と共に拳を突き上げて、花の無事をみんなに知らせた。



花が、朔也のもとへボートを運ぶ。
朔也は、ゲエゲエ水を吐きながらボートにしがみついて泣いた。
花はそんな朔也を泣き笑いの顔で見つめる。
花は知らなかった。
今、また、発電所で大きな爆発が起きたこと。 そして、その爆発の衝撃で、新巻が壁から弾き飛ばされたことを。

新巻は手を伸ばした。その手は、空をつかんだ。
新巻は、自分の手の先に、北の大地を見たと思った。

次号へ続く。


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