ネタバレ

May 10, 2017

7SEEDS  最終章2 絶域を行く

以下のあらすじは、7SEEDS 最終章1 暁闇(あかつきやみ)からの続きです。

2017年4月28日発売 2017年フラワーズ6月号掲載分で、既刊単行本未収録分となります。
従って、7SEEDSを単行本で読み進めている方にとってはネタバレとなります。

■あらすじINDEXはこちら

単行本で読み進めている人、ネタバレを読みたくない人はこの先読み進めないようご注意ください。

なお、あらすじは、感動的なシーンや印象的なセリフを極力書き込みすぎないように心がけています。本物の感動は単行本または本誌でどうぞ!

【注意!この先ネタバレがあります】

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Gポイント





くるみが無事、女の子を出産した。「新(あらた)」と名づけられた。
くるみの出産は、7SEEDSメンバーの心にさまざまな想いを呼び起こした。
皆それぞれに、お掃除ロボから伝わってくる赤ちゃんの声を聞きながら、自分が産まれてきた日のことを想像した。メンバーそれぞれが、親から聞かされた自分の生まれた時のエピソードを語り合う。

「わしゃ帝王切開で大出血して大変だったらしいわ」と、秋ヲ。
「わたしも…あとあとまでずっと痛かったって恨み言言われました」ちさ。
「遅くてでかくて苦労した、って言われたな」刈田。
「びっくりするほど安産だったらしいです」蛍。
「僕、無痛分娩…いろいろだね」桃太郎。
「わたしたちはどんなふうに生まれたかなんて教えられてないけどね」虹子。
「オレなんてコウノトリが運んできたとか、テキトーなこと言われてたわい!ちっちゃい時は信じてたわ、クソー!」蝉丸。

蝉丸は方舟の中からお掃除ロボの会話に参加した後、そばにいたナツに声をかけた。
「おめーはどうよ?ナツ」
ナツは何も応えずに泣いていた。
くるみの無事な出産への安堵、そして自分の母親への想いで胸がいっぱいになっていたのだった。
蝉丸、花がナツをなぐさめる。花の目からも涙がこぼれ出た。

花は想った。
…嵐も、泣いているんじゃないかな。
…亡くなったお母さんを想って。
…抱きしめたい。今すぐ抱きしめて、一緒に泣きたい。

遠く離れた場所で、嵐は涙をこぼしながら花を想った。
…花は、泣いてるだろう。百舌さんに両親の話を聞かされて。
…そばに行きたい。花のそばに。



お掃除ロボから、それぞれが次の行動へ移っている様子が伝わってくる。
鷭と藤子は、流星に気をつけるべきことやくるみの今後の体調変化についてなどを伝える。
刈田・茜・源五郎は、くるみと流星と合流すべく移動中。虹子・牡丹・蘭・ちまきは、秋ヲ達のいるコントロールルームを目指している。
安居・涼は、茂の遺体を回収した後、例の岩壁を登るつもりで移動している。まつりは、壁が登れるかどうかを悩みながらも、涼の後をついて行く。
新巻・あゆ・ハル・小瑠璃・角又は、ケーブルカーを目指して移動中。
嵐はケーブルカー組と合流すべく移動中。
そして方舟の中。花・ナツ・蝉丸・朔也。



「よし」
花が深呼吸をして気合を入れた。

「あたしたちも何とかしよう。この状況から抜け出そう。クモの糸をなんとかしないと。…でも、外には出られない…ううむ…」
「エート、この方舟って、操縦できるんですヨネ?」と朔也。
「あー」
蝉丸が方舟のコンソール部分を見ながら反応する。計器類が並ぶパネル部分に、ハンドル状の持ち手がある。
「けどペルが言ってたのは、せいぜい方向転換できるくらいで、ゆっくり進むだけレベル。これでブンブン走れるワケじゃねーんだろ?」
花が考える。
「けど自分で動けるってことは動力が…エンジン、あり?」
「スクリューか何かついてるんですカネ?」と朔也。

考えこんでばかりいても埒が明かない、とばかりに蝉丸が行動を開始した。
ハンドルの前の席に移動してどっかりと座る。
「よっしゃ!いっちょ、やってみるか」
蝉丸はハンドル周囲の計器類をキョロキョロ見ながらつぶやいた。
「エンジン点火ボタンとかあんのかな…さっぱりわからん」
「その上の、赤いヤツです」
蝉丸の背後から、ナツが声をかけた。
「あ?」 蝉丸はナツを振り返る。ナツの手には、ボロボロの書類が握られていた。
「あっ、あのっ…さっきいろいろ探してた時に、なんかファイルらしきものを見つけて。…でも、手書きで、紙がもうボロボロなのでよく読めないんですけど、なんかそのボタンみたいです」

蝉丸はナツが指し示した赤いボタンを押した。しかし何の反応もない。
「なんでいっつも、ウンともスンとも言わねーんだよ!このボロが!」
「その時は…手動で…」

ナツは手元のファイルノートをめくりながら情報を探した。
ノートは、経年劣化なのか、何らかの化学変化なのか、ページをめくるそばからボロボロと崩れていく。完全な形で残っているページは少なく、ところどころ虫食いのように穴が開いているので、判読できる部分からなんとか情報を得るしかない。

花がナツの手元を覗き込みながら訊いた。
「ナッちゃん、スクリューってどこにあるか、書いてある?」
「えっと…、入り口と反対側の、ここより下のフロアみたいです」
花と朔也は、部屋の入り口と反対側へと移動して、下のフロアへの入り口を探す。
朔也は、子供たちが眠るカプセルの間の床に、丸いハンドルを見つけた。
「花さん、これですかネ?」
「密閉扉だね」
花はハンドルをまわし、扉を開けた。中を覗き込むと、部屋というよりも機械類が詰まっているスペースという感じの場所だった。
「狭い…ぐちゃぐちゃしてる」
花と朔也はとりあえず下のフロアに入った。壁の一部が濡れている。
「水が!水が入ってきてる!」
花は叫んだ。
「そ…そういえばなんか結構息苦しいですヨネ」
「水がたまる前に早く上がらないと、重さで浮かなくなる」

焦りをにじませながらも、花と朔也はスクリューらしきものを見つけた。
横たわる大きな円筒形が壁にぴったりとくっついている。筒の一部が透明になっていて中をのぞくことができ、筒の中にスクリューらしきものが格納されているのがわかった。

「スクリューってこれですかネ?意外とちっちゃい…。外に押し出されるようになってるのカナ?」
「朔也くん、こういうの詳しくない?」
「ボク完全なる文系なんで」

花は上のフロアにいるナツに向かって大声で尋ねた。
「ナッちゃん!動かし方、書いてる?」
「レバーって、ありますか?」
ナツの答えに反応して、花が円筒形の周囲を見る。円筒形の両端に、上から下へと押し下げるタイプのレバーが2つ、ついているのを見つけた。
「レバー、あるけど、左右に2つある」
「字が…」

ナツがボロボロのノートを見つめる。手動でスクリューを作動させる手順を書いているらしきページを見つけた。
左右のレバーについて。重要事項らしく、ひときわ大きな文字で書かれている。
しかし、肝腎の「左右」の部分についての文字が不明瞭だった。「右」も「左」も、どちらもカタカナの「ナ」のような部分を残して、中の部分が虫食い状態に穴が開いているのだ。

ナツは、花にとりあえず答えた。
「あの…どっちかがエンジン始動で、どっちかが、水中では決して触るな、って書いてあります」
「どっちかはわからない…、どっちかは触っちゃいけない…、了解」
花はレバーを見つめながら、ナツに答えた。

朔也は、花の考えていることがわかった。
「花さん、だいたい思考回路は把握したので予想がつくんですケド、一か八かですネ?」
「うん」
花はレバーの周辺を見た。何の表示もない。
花は朔也に、外に出てドアをしっかり閉めるように言うが、朔也は淡々と答えた。
「部屋の外に出て、って言われて素直に出ていくほど、今のボクは素直じゃないんデスヨ。…どうせ、一蓮托生デスしネ」
朔也はそう言って、左のレバーのそばに立った。花は右のレバーだ。

どちらかのレバーが正解。どちらかのレバーは、水中では触ってはいけない。
どちらかわからない以上は、一か八かで試してみて、間違いだったらすぐ切り替えるしかない。
花と朔也は、覚悟を決めた。

「じゃあ…、1つずつ。とりあえず左から」
花が言った。
「それでいいんデスヨ」
朔也が答えた。

朔也がレバーに力を入れようとしたその一瞬前、ナツの叫び声が届いた。
「右!右です!右のレバー!」
「ナッちゃん?」
「多分…いえ、絶対!右です!」
ナツの叫びに、花が答えた。
「わかった!ナッちゃんを信じる!」

花は勢いよくレバーを引きおろした。すると、ドルドルドル…という、エンジン音のような音が聞こえ、すぐに音が途切れた。
「もう1回!」
花は、持ち上がってきたレバーをまた引きおろした。また、ブルブルブル…という音がして、ドルドルドル…という力強い音へと変わっていく。

「あ…モーターボートのエンジンとかと同じなのカナ」
朔也がつぶやいた頃、エンジン音が途切れなくなった。
スクリューも、円筒形部分から方舟の外へと出たようだ。
方舟の操縦席では、蝉丸がハンドルを握って気合を入れている。
「よっしゃー!エンジン全開!かな?」

花と朔也が上のフロアへと戻ってきた。花がナツに駆け寄りながら尋ねる。
「ナッちゃん、どうして右だ、ってわかったの?」
「あの…書き順が…」

蝉丸が「はぁ?」と素っ頓狂な声を上げる横で、ナツが説明した。
ノートの文字は手書きで、「右」「左」の、上部分「ナ」の部分しか見えなかったけれど、文字のインクが薄くなっていたおかげで、書き順がよく見えたのだ、と。

「これはよく見ると、払い(ナ、部分のノ部分)を先に書いているから、右なんです」
「はぁ?払い、ってなんだ?右も左も書き順なんて一緒だろ?」
「違うんですよ」
ワケがわかっていないのは蝉丸だけで、花と朔也はナツの説明に納得した。
「いや、でもさ」
蝉丸がしつこく食い下がる。
「そんなの書いたヤツが間違ってるかもしれねーだろ?単に結果オーライってだけじゃねーか」
ドヤ顔で指摘する蝉丸の前で、ナツがさらっと答えた。
「はい、結果オーライってことで」
ナツのまさかの返しに、蝉丸はたじろぎながら言った。
「このヤロウ、立派になりやがってよ。…しかし、ホント、漢字とか国語とか詳しいな。よくやった!」
蝉丸は、褒め言葉と共にチュッ!とナツにキスをし、サッと背中を向けてハンドルを握った。
「あとは蝉丸さまに任せろ!行くぜ!」



新巻・あゆ・ハル・小瑠璃・角又の5人は、ひばりの誘導によってついにケーブルカー乗り場にたどりつくことができた。
老朽化してはいるが、ケーブルカーも、その乗り場も、その姿を保っている。
ひばりは、1人で誘導を続けながら、ケーブルカーについての情報もちゃんと入手していた。

「角っち、みんな、ケーブルカーに乗って。ためしに」
「動くんか?」

驚く角又に向かって、ひばりは答えた。
このケーブルカーは動力で動いておらず、2台のケーブルカーを連動してつるべ式に動かす仕組みになっている。坂の上のケーブルカーには水が入って重くなっており、ブレーキを外すと坂道を下っていくので、それと連動して坂の下のケーブルカーが登っていくのだ、と。

「上のやつのブレーキを外すだけで下りて行くそうよ。それ、ここでわたしができるわ。そしたら、そっちのが勝手に上がってくるわけよ。ケーブルとか車輪とかが無事なら、ね」
ケーブルカーに乗ることを促すひばりに、角又が待ったをかけた。

「ひばり、ちょっと待ってくれ。嵐くんがまだや」
新巻がお掃除ロボを通じて嵐に呼びかける。
「嵐くん!どこまで来てる?合流するまでに、後どれくらいかかりそうかな?」
お掃除ロボから嵐の返事が聞こえた。
「やっと大柱群のコンコースまで来てる。あちこち崩れて、なかなか進めな…」

嵐の声は大音響にかき消された。



安居と涼、そしてまつりは、茂の眠る場所を目指して移動していた。
「下のほうで地響きがしてるな…崩れ始めているのか。大丈夫か嵐」
お掃除ロボは雑音だらけでよく聞こえない。
「急ごう」
涼が先を促した。

やがて、茂の眠る場所に到着した。

安居が荷物から、要からの差し入れを出して準備した。
「要さんが置いてった寝袋に入れて、エアマットに固定する。茂の荷物は切り離す。持ち上げられるかな…マットを先に入れるか…」
「石膏のようだって聞いたな。固くてもろい」

安居と涼は、水中の茂の体から荷物を切り離し、体の下にマットを差し入れた。そして2人で協力してマットを持ち上げた。

「軽い…、軽くなったな、茂」

安居と涼はひとまず、茂の体を水中から引き上げた。
安居が茂のそばにひざまずき、話しかける。
涼とまつりは少し距離を置いて、安居を見守った。

涼がそっと安居に声をかける。
「安居、覚悟しとけよ。…運んでいるうちに、おそらくバラバラになる。顔をしっかり見といてやれ」
まつりがそっと涼にささやいた。
「ちまきちゃんが…絵に描いてくれると思う」
「なるほど。安居がそうしてほしければ、な」

安居は、気持ちに整理をつけ、茂を寝袋に包んだ。
「ロープでしばって固定する」
「安居、ロープよりもいいものがある」

涼が岩壁を指し示した。クモの糸が大量についていた。
「連中もここを登って行ったんだろう」

安居達はクモの糸を取って、手に油をつけて拠り合わせロープ状にした。
準備は整った。
安居と涼は岩壁の下で、登るルートについて話し合う。
まつりは岩壁を見て震えていた。
安居がまつりにチラリと視線を投げながら言った。
「まつりは、登れるのか?」
涼はまつりをまっすぐ見て訊いた。
「登れるのか?」
まつりは引きつりながら答える。
「あの…登りたい…のは…登りたい…やる気はある…けど…」
まつりの足はガクガク震えていた。
まつりは小さい声で「ホントはムリ…」とつぶやく。

安居はまつりのつぶやきをすかさず聞いて涼に言った。
「無理とか言ってるぞ。1人で戻らせるか?」

涼はまつりに言った。
「登れ。…死ぬ気で登れ。連れて行く」

涼はまつりの肩をしっかり掴み、安居に言った。
「こいつは、オレには必要だ」
安居は、涼に温かい視線を向けてうなずいた。

まつりは、信じられないという表情で涼を見た。
涼はまつりの肩を抱いたまま、まつりと視線を合わせた。
「オレが支える。だから登れ。必ず、連れて行く」
まつりの目から涙がにじみ出た。

涼は準備を始めた。
クモの糸とロープを使い、てきぱきとまつりの体にハーネスを通す。まつりは顔を真っ赤にしながら、おとなしく涼にされるがままになっていた。

安居と涼の動向は、牡丹が気にしていた。
いよいよ岩壁にチャレンジするというタイミングで、牡丹がお掃除ロボから声をかけてきた。
「安居くん、涼くん。気をつけて。…1つ、言っとく。あなたたち、そこを出たらまず私服を持ちなさい。…グッドラック」

安居は「私服を持て」という牡丹の言葉の意味がよくわからなかった。が、彼女の応援の気持ちは受け取ったと思った。
お掃除ロボに感謝の視線を投げる。お掃除ロボとも、ここでお別れだ。

「じゃあ、行くぞ茂。今度こそ、離れるな。一緒に未来へ行こう」

安居は茂を連れて、涼はまつりを連れて、岩壁を登り始めた。



その頃の方舟。
蝉丸がおたけびを上げながら方舟のハンドルをグリグリと操作していた。
「んがー!」
ハンドルが重い。方舟全体を覆うクモの糸のせいで、方向転換がうまくいかないのだろう。
「んがー!つかまってろよ、ナツ、花!」

方舟が揺れ始めた。少しずつ、動きが大きくなる。蝉丸は力任せに方舟を振り回した。
モニターから外の様子を見ていたナツが声を上げた。
「糸が、離れた!」

方舟の中にいた全員が、方舟が浮き始めたことを感じた。蝉丸が方舟を振り回した振動と浮上の動きがミックスされて、全員が酔いそうになりながらあちこちにしがみつく。
「あとは…天井の穴にうまいこと入るだけー!でも、それは操作できねぇー!あと、壊れないで…酔う…吐く…」

蝉丸の叫び。みんなの祈り。
方舟はあちこちにぶつかりながら、ゆっくり天井の穴へと吸い込まれていった。

「やった!やったー!」
「蝉丸さんすごい!」
「蝉ちん!」
「グッジョブです」



嵐は大柱群のコンコースまでたどり着いたが、そこは行き止まりになってしまった。
さっきの大音響。大柱が倒壊したのだ。もう、先へは進めない。
お掃除ロボから花たちの歓声が聞こえた。どうやら無事に方舟は脱出できたようだ。
嵐がお掃除ロボから声をかける。

「よかった、花!よくやった蝉丸!ナツ!」
「お前が天井開けてくれたからだぜ!サンキューな!チームプレイだぜ!」
「嵐!そっちはどう?」

嵐は、花からの問いかけに、すぐ答えることはできなかった。
嵐はダイを抱きしめながら考えた。

…行けない。新巻さんたちのところまで、とても行けない。
…ほかに道も、ない。
…でも、花を助けられたから。
…新巻さん。あなたに言いたくて、言わなかったことがあります。
…花を助けて死ぬのは、あなたじゃない。
…オレでしょ?

嵐のお掃除ロボのもとに、新巻の声も届いた。
「嵐くん!どこだ!どうなってる?」
「…新巻さん、ムリです。そっちまで行けません。だからハルたちとケーブルカーで先に上がってください」
新巻は動揺し、嵐を何としてでも助ける、とケーブルカーを降りて走り出そうとした。
「あゆさん、先にみんなと行ってください。僕は嵐くんを連れに行きます」
「鷹さん、ムリよ。崩れて通れないんでしょ?あなたはケガもしてるし…」
「嵐くんを置いて行けない。ダイも一緒なんだ」

新巻がケーブルカー乗り場から下へ降りようとしたその時、また大音響がした。
ケーブルカー乗り場よりも下の地面が崩落したのだ。
「鷹さん下がって!危ないわよ!」

嵐と新巻はお掃除ロボを挟んで押し問答になった。
どうしても助ける、と言い張る新巻。自分が濁流に落ちた時も助けてもらった。今度は自分が、と。
新巻の助けを、嵐はきっぱり拒否した。

「あの時、オレには勝算があったんです。泳ぎに自信もあった。
でも今、あなたにできることは何もない。
あなたは、あなたを助けてくれたあゆさんを、無事に上に連れていかないと」

「自分で行くけど」
あゆの相変わらずのツッコミに対して、嵐は律儀に謝りながら話を続けた。

嵐は新巻に言った。
既に何度も言ったが、新巻に何かあれば花が泣く。
新巻は抗弁した。自分が死ぬよりも嵐が死ぬほうが花が泣くだろう、と。

新巻は嵐に言った。
「…助けられて残された人間は、つらいんです。嵐くんも、僕にそう言ったでしょう?花さんを助けて命を落とすなんて、嵐くんは絶対にしちゃいけない」

「違うんですよ、新巻さん」
嵐はきっぱりと言った。

「オレだけが、それをしていい人間なんです。
花は、泣かない。
オレの気持ちがわかるから。オレが今、幸せなのを知っているから。
花が無事なら、オレが幸せなのを知っているから。気持ちは、伝わっているから。
花は、後悔しない。自分を責めたりもしない。
花は決して、オレの判断を悔いたりしない。
知ってるから。花が元気で、幸せでいることが、オレの望みだと知ってるから」

嵐はお掃除ロボから花に呼びかけた。
「…そうだよな?花」
花は答えた。
「うん」

嵐は新巻に退避を促した。
ケーブルカーのブレーキを外す役のひばりの部屋にも煙が入ってきた。もう猶予はない。

新巻は嵐の声を聞きながら、吹雪と美鶴の笑顔が見える気がしていた。
吹雪が語りかけてくる声が聞こえる気がした。
…オレたちが、幸せだったのを、知ってるか?
…おまえを助けられて嬉しかったのを、知ってるか?
…誇らしいのを、知っているか?

新巻は、わかった。
クモの幻覚の中で、幸せなはずなのに、悲しみが消えなかった理由。
…吹雪と美鶴さんと、一緒に過ごしたあの時間が、なかったことにされたくなかったからだ。
…僕は幸せだったんだ。ずっと。ずっと。
…僕は、1人残されたかわいそうな人間じゃなく、命がけで守られた幸せな人間だったんだ。

「あの、それと、オレはまだ、あきらめたわけじゃありません」
嵐の声が、新巻を現実に引き戻した。
「1つだけ閉めてない縦坑に行って、登れないか試してみます」
小瑠璃が反応した。
「縦坑までは行けるんだ?」
「多分なんとか」
「縦坑は、地上とつながってる…はず…」
新巻の腹は決まった。
「嵐くん。先に上へ出ます。上から助ける手段を講じる。それでいいですか?」
「はい、お願いします!」
「嵐くん、ダイを頼む!」

新巻たちはケーブルカーに乗り込み、ひばりがブレーキを外した。
鈍い音を立てて、ケーブルカーが動き出した。
「動いた!…ホンマかいな…、ひばり、あんたもはよ逃げ!」
「わかってるわよ!」



ケーブルカーの中で、みなそれぞれの想いを抱えて沈黙した。
小瑠璃は荷物から何かの部品を出して黙々と組み立てている。

方舟の中も沈黙に包まれていた。
花の顔は青ざめていた。

…いやだ。覚悟なんかしないよ、嵐。
…今ここじゃ何もできないけど、方舟が海の上へ出て佐渡についたら嵐を助けに戻る。
…縦坑ってやつを降りていく。だからそれまで無事でいて、嵐。

ナツは花の顔を見ながら、何かしたいと思いながらも、かける言葉を見つけられなかった。
ナツはただ黙って、花の手を握った。
「ナッちゃん…」
花はナツに抱きついて泣いた。



刈田・茜・源五郎の3人は、やっとくるみ・流星のもとへたどり着いた。
「わっ、なんだここ!外じゃない…」
「明るくて目ェ痛い…、くるみ?流星くん!」

くるみと流星のいる空間は、外かと間違うほどに明るかった。壁に囲まれてはいるが空が見えるからだ。
茜たちがくるみと合流してからほどなく、蘭・虹子・牡丹・ちまき達も秋ヲ達のいるコントロールルームにたどり着いた。蘭が、最初の暖炉の部屋で落ち合おうと告げる。

源五郎は、周囲を観察した。
周囲は穴ぼこだらけだ。
くるみと流星は、暖炉の部屋から幻覚に誘われてこの空間に出た。たいした距離は移動していない。おそらく、この穴のどこかが暖炉の部屋につながっているのだろう。

源五郎が言った。
「刈田さん、ひとつずつ確かめましょう」
源五郎と刈田は手分けして道を探す。

刈田は、穴を探索している途中で見つけた。
…手袋が落ちてる。誰の…?

刈田は手袋を拾おうとして手を伸ばし、途中で固まった。
ただの手袋ではない。厚みがある。中身が入っているのだ。

固まっている刈田のそばをアリが2匹通りかかり、手袋を中身ごとどこかへ運んで行った。
…手袋じゃない。手、だった。

「刈田さん、見つかりました!こっちです!」
源五郎の声が聞こえる。刈田は声のする方向へフラリと移動した。
「刈田さん?…どうかしました?」
怪訝な表情をする源五郎に、刈田は答えた。
「いや…、何でもない」

流星が子供をしっかりと抱き、刈田がくるみを担ぎ上げる。源五郎と茜が周囲をフォローしながら、移動を開始した。目指すは最初の、暖炉の部屋だ。



ケーブルカーは、かなりの距離を登って、やっと上から降りてくるケーブルカーとすれ違った。

「…ということは、やっと半分の距離を越えたってこと。結構長いわね」
しかし、ケーブルカーは上まで登り切ることができず、途中で止まった。

「止まった…。そら止まるか。動いただけでもめっけもん」
「灯りも消えた」
「これ、滑り落ちるんじゃない?出ましょう、あとは歩きよ」

ケーブルカー組は地上目指して坂道を登っていく。

「風がすごい…」
小瑠璃がつぶやいた。
お掃除ロボからは、断続的に大きな音が届いてくる。
それに混じって、嵐に呼びかける方舟チームの声も。

小瑠璃がハルに言った。
「ハル…あたしの荷物、持ってってくれる?できるだけ軽くしたいから」
「小瑠璃…?」
「嵐くんに、縦坑の下で待ってて、って言って」

小瑠璃はハンググライダーの翼を広げた。
次号へ続く。


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