純愛とNTRのblog

NTR(寝取られ)、たまに純愛の小説を書いていくブログです。18歳未満の方は閲覧禁止ですよ!

僕は君、君は僕  ~妹に夢中~

妹に夢中

 夏休みが終わっても酷い暑さは続いていた。直射日光の照り返しで上から下からと容赦無く焚き付ける熱波は、就活を目前とした俺の意欲を色々な意味で削いでゆく。
 そこを曲がれば目の前は我が家。部屋に入ったならば、いつものようにエアコンを全開にして昼間っからビールを煽る・・・と行きたいところだけど。

・・・今日は、やめておこう・・・・

 俺の名前は豊土。都内に住む大学生で、間も無く就活という人生の大イベントを控えた、ごく普通の男。やりたい仕事も無く、業界研究すら何もできていないのに、この体たらく。いや、これには理由がちゃんとある。あると思いたい。
 勉強以外取り柄のなかった俺は、高校三年間を学業で全うし、その結果結構な、いや、かなり難関の大学に入学する事が出来たんだ。超難関といっても良いだろう。都内の国立大学なんて、皆そんなもんだし。
 いまだに残る学歴社会、諸先輩方の「エントリーシート出しただけで内定が出たようなもん」という話は巷にゴロゴロしている、そんな大学だから、文学部と言えども個人的には売り手市場だと思っている。今日はどんなゲームをして時間を潰そうかな、そんな事ばっかり考えてる毎日でも許される身分なんだと。
 そんな俺が自宅を前になぜか緊張している。マンションのエントランスを抜けてエレベーターに乗り、自宅のドアを開けて中に誰もいない事が分かった時になってやっと感じる安堵。俺はドアの鍵をかけると自分の靴を持って自室に篭った。
 自宅なのに不審者のような行動の所以は、一ヶ月前のある出来事に起因している。
 あの日、いつものように秋葉で買い物をして自宅に帰ってきた時の事。新しいゲームをする事に心が逸って仕方がなかった俺は、玄関から自室に一直線、そしてPCの電源が立ち上がるまでの僅かな時間の中でその「変化」に気が付いたんだ。
 誰もいないと思っていた自宅なのに、微かに聞こえる物音。
 ゴキブリか?と思いつつ、いや、一応高級マンションと言われてる我が家。頑強で蟻一匹通る隙間も無いこの部屋で、あんな気持ち悪いものが出るはずがないと分かっていた俺は、その音の方向へと足を向け、そしてこれが廊下を挟んだ隣にある妹の部屋からだと気付くのに時間はかからなかった。バグやら何やらで起動にそれなりに時間がかかるPCよりも速かったくらい。
 同級生の彼氏と思われる相方との談笑の片鱗は、普遍的な女子高生の日常に他ならないのだろう。微笑ましく妹のそれを見守る度量に欠ける俺は、無理やり苦笑いしつつ、飲み込もうとした。
 けど、ほんの一瞬、本当に僅かだけど、妹の感嘆の声が聞こえてしまったんだ。日頃イヤホンでゲームに没頭している俺に聞き逃しなどあり得ない。間違い無く、何らかのスキンシップがあったと推察される妹の悩ましい声。
 それから1時間、二人が家から出て行くまで俺は自室で布団にくるまっていた。心穏やかではいられなかったんだ。贔屓目に見ても可愛らしい顔立ち、コンパクトグラマーを体現したような身体つきだから、モテないはずがない。中学生になった頃から、母親と今日は誰それにコクられた、というような話をしていたのを頻繁に聞いていたから分かる。
 いつかはこんな日も来るんだろうと思っていたが、いざその事実に触れただけで動揺してしまった俺は夕食もろくに食べられず感傷に浸っていた。情けない限りだ。
 でも、喉元過ぎれば何とやらで、寝る頃にはそれが例えようのない激情となって心を騒めつかせ始めたんだ。罪悪感?タブー感?よく分からないが、日頃俺を敵視する可愛い妹を思えばこそ、なのかもしれない。その射精感のなんと甘美な事か。出しても出しても治らない我がちんこのタフネスさに恐れをなしつつ、それでもあの僅かな「あん・・・」という妹の声が耳の奥から離れる気配などなく、欲望のまま赤く腫れあがるまで扱き続けたんだ。
 あの日があってこその今日、なのだ。
 冷蔵庫に貼ってある母親のパートのスケジュールを確認し、夕方もいない日はこうして不審者の如く自室で息を潜める日々が始まった。勿論、妹と彼氏のイチャつきを覗くためだ。我ながら酷い兄貴だと思う。でも普段から妹に、「キモい」だの「こっち見ないで」等々罵詈雑言を受けていることを差し引けば、これくらい良いだろう・・・・と、自分勝手に正当化しているのだ。
 こんな事をする兄貴なんて、確かにキモいし、JKからしてみれば見つめられたりもしたくないだろう。でも、こうして妹が家に居ないことで安堵している自分は、本意ではないこの状況に納得してしまっているのは、やはり根が善人だからだと思う。
 なんて事を考えながら学習机に座っていた時の事。

「ただいま・・・って誰も居ないか」

うわっ・・・・本当に・・・・・きた・・・・

 いきなり楽しげな妹の声が聞こえた。その瞬間、見えるわけもないのにベッドの下に逃げ込む俺。勿論、人の部屋を覗くなんて無作法は、この家の誰もするはずがない。もとい、俺を除いては。
 絡み合う妹と男の声は、俺の部屋が我が家には存在しないかのような歩調で目の前をスルーすると、そのままリビングのソファに座り、そして話し始めた。
 会話の内容までは分からないが、ドアに耳を付ければジュースを飲みつつ、笑いつつ、じゃれ合う様子がまるで目の前で起きている現実のように鮮明に脳裏に浮かぶ。ゲームの達人の域に達していると、これくらいの妄想は朝飯前の事。
 やがて二人は妹の部屋に入っていくと、途端に静まり返る我が家。誰もいないのなら、そのままリビングで話せばいいのに、そうしない理由は明らかだ。
 これから二人は部屋に篭って、セックス、するのだ。
 可愛くて憎らしい17歳の妹は、同い年の男の前で裸を晒し、両脚を広げ、その中に男のちんこを迎い入れるのだ。
 足が震えた。
 期待した事なのに、鼓動が止めろと言わんばかりに胸を内側から強く叩く。普段は乾いた掌も、手汗で酷い事になっている。
 勇気を出して、蝶番の鉄の軋み音を立てないように注意しながらドアを開けた。見慣れた我が家のはずが、まるで他人の家のような余所余所しさ。
 不思議な気分だった。足が地についていないような浮遊感といい、色々と現実感がない。
 妹の部屋の方を見る。
 薄暗い廊下の横に、子グマの表札が掛けられた妹の部屋のドア。今出てきたら鉢合わせだ。目論見は砕け散るどころか、兄妹としての絆も今度こそ木っ端微塵になくなるだろう。
 一瞬足が竦んだけど、その刹那中から聞こえたあの時と同じ妹の声が決意を固くした。
 重厚な作りの割に、部屋のドアは見た目とは裏腹に物音をよく通す。恐らく設計上の配慮?らしいが、若い二人の声は数メートル離れていてもハッキリと聞こえた。

「ね?・・・はい・・・ふふふ」

 猫撫で声とまではいかないまでも、およそこの5年間妹の口からは聞いた事もないような優しくて可愛い声。

「や・・・すっごい膨らんでる」
「苺ちゃんが魅力的だから・・・」

 妹の名前は苺。そして俺の名前は豊土。つまり、豊かな土があってこそ、美味しく育つ苺の実。裏方の土と、誰からも好かれる表舞台の苺。俺が生まれた瞬間、その三年後の妹の誕生を見据えて名付けられたような気がするが、多分そうなのだろう。実際、俺は裏方としては優秀な功績を残してきている。学業だけだが。そして甘やかす程に溺愛してきた妹は、家族の期待通り華やかで皆に愛される女に成長している。両親からすれば予定通りの子育てといったところか。

「あん・・・・・・・・凄い・・成也君、やっぱ上手・・・」

 なのに、何故そんな男に身体を許してるんだ?確かにイケメンかもしれないけど、兄さんはちょっと残念だよ・・・・と言いつつ、妹の逢瀬に勃起させていては説得力のかけらもないか。
でも、

「そこ・・あっ!・・・あっ、あっ、あっ、・・・・・・・・ああっ!」

という声を聞いて、平常心でいられる男などいないはず。ましてその相手が妹であれば尚更。
 廊下の真ん中で妹の嬌声を聞いて勃起させる兄貴。これ以上に情けない画があるだろうか?邪な興味と同じくらいのこの悔しい気持ちは、そのまま非常識で危険極まりない行動を俺に取らせた。
 一歩、二歩とドアに近付き、そしてノブに手を掛けた。ダメだ、絶対ダメだ!と叫ぶ心の声にたじろぐも、ドアの隙間から聞こえる溜息交じりの苺の声が背中を押した。
 ゆっくり、本当にゆっくり、1秒で1ミリの速度でドアを開ける。ミリ単位の攻防は再び足を震わせ、激しい心臓の高鳴りは喉から飛び出ようとする。これそこ禁断の扉、ゲームではこんなシチュエーションには慣れたもんだが、現実は寿命を縮めるような緊張感で目眩がしそうだ。
 隙間から差し込む明るい光は、部屋のカーテンが開け放たれている事を示し、僅かに流れ出てくる暖かい空気は、若い二人の身体から発せられた情欲の熱を示していた。

「あっ、あっ、あっ、あぁぁ、んっ、成也、君・・・」

 妹の甘い声と共に俺の網膜に最初に投影されたのは、下半身裸の彼氏のお尻。思った通りの映像ではなかったが、剥き出しの尻の割れ目からぶら下がる睾丸の揺らめきが俺の妄想を現実のものとして確定させた。
 今、自分が生まれ育った我が家で、妹と彼氏がセックスしようとしているのだ。家族全員の美しい思い出が詰まったこの家で、見知らぬ他人が醜い裸を曝け出し、家族の寵愛を受けた妹と交尾をしようとしているのだ。
 明るい部屋に対して暗い廊下。この明暗の差はこちらに有利だ。向こうからは恐らく俺の姿までは見れないはず。
 1センチまで開けた隙間に眼球を押し付けるようにして妹の存在を探した。立ち膝になり、余計な物音を立てないように中を覗く。すると前傾した彼氏の頭が苺の股間付近に埋もれている様子が次第に見えてきた。下半身裸でワイシャツ姿の彼氏は、同じく制服の上着だけで下半身を露出させて寝そべる妹の両脚を広げ、その中心部に顔を埋めていたその全貌が見えたのだ。
 この時点で、本当はほんの少し、ほんの少しだけ勘違いであって欲しいと願っていた心の片隅の期待が、完全に霧散した。向こう側にいる男と女は、紛れもなく単なる友人としての一線を超えた関係にあり、俺が未経験の領域に、いとも簡単に、それも何度もこなしてきたであろうことは容易に思える技量と段取りをもって事に至ろうとしていたのだ。
 21年間彼女のいない俺。最後に女の身体に触れたのは、俺が小6の時、小3の妹と一緒に風呂に入って背中を流してあげた頃まで遡る。華奢で小さな幼児体型の妹の背中は、今思うとすべすべという表現では到底物足りない、清らかで滑らかで柔らかかったものだ。純粋に妹として、兄としてスキンシップが図られていた当時は本当に仲が良くて、苺はいつも俺の後をついて来たっけ・・・・
 あの日の温もりは、微かにこの手に残っている。が、すっかりネットの動画に毒されてしまった今の俺に、妹とのかつてのスキンシップを純粋に回顧する資格はもう無いのかもしれない。画面から溢れる性の捌け口は、一切の過程を蔑ろにして股間を直撃、数擦りで昇天させてくれる。そんな日常に慣れてしまった俺にとって、彼氏が妹の太腿を押し上げ、秘密の部分に口付けする行程が煩わしくもあり羨ましくもあった。あの日の感触を思い出しながら、彼氏の指が柔らかく埋もれてゆく苺の裏腿の柔らかさを想像する。

きっと、滅茶苦茶柔らかいんだろうな・・・

 スポーツで鍛えられた苺の太腿はハリがあり、それでいて実に柔和に彼氏のゴツゴツとした指先を埋もれさす。時折彼氏の手に手を重ねる妹は、顎を上に向けて背中を弓なりにした。
 ガタガタと震えるその身体は、絶頂を極めた証。いとも簡単に、俺の妹は女として喜びの頂上を極めたのだ。

「気持ち、いい?」
「あ、ん・・・だ・・・ダメ・・・まだイッてる・・・」

 彼氏が口を離した後でさえ、彼氏の両手に縋り付き、そして腰を上下にバウンドさせていた。あの可愛い妹が、絶頂の余韻で忙しなく腰をくねらせていたのだ。
 思わず腰を引く。パンツに僅かな空間を作り、そこに擦れて暴発しないようにする為に。それ程までの圧倒的なエロス。動画を見て、勃起させて、出す、という単純行為がいかに陳腐で勿体ない行為かという事を痛感した。妹のような可憐な相手であればこそ、セックスは過程を楽しむものなのだろうと思った。
 やっと痙攣が収まった時、彼氏が身体を離した瞬間、苺のあそこが見えそうになって思わず目を伏せた。これは、紛れも無く家族としての拒絶反応。血の繋がった妹の尊厳に関わる事態なのだと瞬間的に悟った。妹の逢瀬を覗こうとする人でなしの俺にでさえ、さすがにこの一線を越える悪魔は潜んでいなかったのだろう。

危なかったわ・・・・うん・・・・
まあ、駄目だよな・・・・これはさ、兄としての、家族としての・・・・・・いや、駄目だって、やっぱさ・・・・マナーというか、人としてのさ・・・・てかさ・・・・
いや、やっぱ・・・・駄目だよな・・・・うん、駄目だわ

 結局これだ。
 なんの言い訳も思いつかなかった俺は、「前を向け」と背中に欲望という名の銃口を突き付けられた絶体絶命の保安官のように、忸怩たる思いで顔をあげた。
 すぐに焦点はそこを捉えた。だらしなく両脚を開いていた妹の股間の中心を。
 ふっさりと恥骨に乗った薄目のヘアーと、赤く充血した縦長の割れ目・・・

違う・・・・・・駄目だろ、俺、なぁ、これ、駄目なやつだろ・・・・

 綺麗なピンク色で毛など皆無の卵のようなそれを想像していたのに、現実はあまりにも「女」だったなんて・・・・
 込み上げる下腹部の射精感。ギリギリの所で食い止めるも、あまりに力んだ大臀筋辺りの引き攣りが、痛みとなって俺の集中力を削ぐ。お陰で僅かに遠のく射精感を良い事に、たった今戒めたはずの行動を再び繰り返していた。が、既に苺は脚を閉じ、身体を起こすとはにかんで上目遣いに彼氏を見つめているところだった。
 そこを見れない事よりも、一度気をやった後の妹のこのなんとも言えない表情に戸惑った。

苺にあんな表情で見つめられたら・・・・

 家族に向けられるべくもない、恋路の乙女の眼差しからは、ピンク色の光線が放たれているようだった。
 見つめられている相手の男が妬ましく、恨めしい。こんなにも大切にしてきた妹を、知り合って僅か数ヶ月の男が独り占めしているこの状況はなんなのか?恋愛って、家族の絆以上に重大事なのか?
 彼氏はいとも容易く妹の可愛い唇にキスをすると、自らシャツを脱ぎ捨て、ベッドの上で正座のまま後ろ手に身体を支えて腰を突き出すようにした。

「うふっ、すっごい・・・」

 思わず声が漏れてしまった、ような体で誤魔化そうとするも、期待感に溢れた妖艶さを纏った妹の表情は嘘をつかない。真上を向くように勃起したちんこが目の前にある非日常は、ついさっきまで女として一番恥ずかしい部分を口で愛撫されるという究極の辱めを受けた後でも、頬を赤らめる程に煽情的なのだろう。口元を抑える仕草は恥ずかしさの所以、でももう片方の手を相手の股間に伸ばす矛盾。やがて妹の指は優しく彼氏のちんこを握った。

それにしても・・・・これぞまさにペニス、という感じだな・・・・

 生で他人の勃起ちんこなど見るのは初めてだが、単純に「凄い」と思ってしまった。別に規格外に大きいとかではない。多分、サイズは普通であり、俺と比べても長さ、太さ共にそれほど違いはないように見受けられるが・・・・完全に露出した亀頭の存在感が半端無かったんだ。余分な皮など全く無く、当たり前だが見事な一枚皮で滑るようにそそり立ついちもつは、単純に凄いとしか俺には思えなかった。
 ジーンズに押し込められた俺のものを思い浮かべる。中身よりも外身の方が先に育った俺のものは、フル勃起した今でさえ余分な皮が過保護に先端を覆い尽くしている。バイトをして小金を貯めては手術を試みようとするも、目の前の新作のゲームに消えて行く日々の繰り返し。オナニーする時に悪戯に包皮を剥いては、中身が外気に触れる瞬間の痛みに似た快感とも苦痛とも言えぬ敏感さを楽しんできた結果がこの圧倒的な差なのだろう。3歳年下のガキに負けている。この事実は、明日にでも親にお金を借りて病院へ向かう原動力に直結した。今目の前で、まさに妹の指が亀頭に絡もうとするのを見て、俺は強く決心した。

「凄い・・・・溢れてる・・・・」
「苺ちゃんが、上手だから」

 ペニスの先端からとめどなく湧き出る透明な液体は、興奮の真っ只中にいる男子の生理現象の証。妹の細くて長い指がパンパンに張り詰めた亀頭を撫でていた。五本の指の腹で摘むように撫で回し、先端から垂れる液体をツルツルと塗す。そして抉れたカリ首をクリクリと刺激し、彼氏の腰がビクつくたびに視線を絡め合う。
 動画を見て瞬間勃起したちんこを荒々しく右手で扱いてあっという間に射精するオナニーとは明らかに違う。違うどころか、見ているだけで出てしまいそうな気持ち良さが伝わってくる巧みな愛撫。

妹よ・・・・お前はいつの間に・・・・

 仲が良かった俺たちがすれ違うようになったキッカケを思い出していた。あれは俺が高校に入学して間も無く、部屋でオナニーしているところを、妹に見られてしまったんだ。ノックもなく俺の部屋に入ってこようとした妹が悪い、と言ってしまえばその通りだが、だからといってその時に刻まれた嫌悪感が彼女から消えるわけがない。

「ごめんなさい・・・・」

 蚊の鳴くような妹の声が背後から聞こえたが、時既に遅し、だ。中学生になったばかりの妹に、俺はどう映ったのだろうか。アニメのキャラクターを画面一杯に映し出しながら、「きりの〜」と呻き声を発しながら包茎ちんこを扱く兄の姿を見て。勿論、普通でいられるわけがない。その日から一週間も経った頃には、「キモい」「汚い」のオンパレード、その内最低限の意思疎通意外には口もきいてくれなくなってしまったのだ。
 女の子の思春期なんて、そんなもんだ、なんて悠長な気分では無かったが、落とした評判を取り戻す事にこの5年間成功していない。年頃の女になったのだから、男の生理現象に理解を示してくれても良いのに・・・・と自分勝手に思っていたのだが・・・・・・ある意味、理解はとうにしているのかもしれない。くにくにと器用に指を使って彼氏のペニスを愛撫する様は、まさに男の性器の仕組みを理解していなければ出来ない手技だと思うから。男の俺でさえ、手を逆手にして唾液で滑らす、なんてのを考えた事もなかったし。

「ああ、気持ちいい・・・」
「ほんと?ここ、いい?」
「うん・・・・苺ちゃん・・・お口で・・・」
「ん、分かった」

お、おい・・・・やっぱり・・・そうなるのかよ・・・・

 彼氏の前に伏せるようにして、妹はついにそこを口に含んだのだ。赤黒く、醜く起立するその先に、チュッとキス、そして照れ隠しの笑顔の後、ヌルッと音がしそうな勢いで一気に喉奥まで咥えると、ゆっくり吐き出していく・・・子供だと思っていた妹が、兄のオナニーを嫌悪していたはずの妹が、彼氏のオナニーを手伝っている。手と口を使って、彼氏を喜ばそうと卑猥の限りを尽くして奉仕している。

「苺、マジ気持ちいい」
「ふふふ、大っき」

 彼氏に頭を撫でられ、嬉しそうにグロテスクなペニスを頬張る妹は、舌先でカリ首の周囲を突き、窄めた唇を押し付けては唾液を擦り付けるように上下にスライドさせ、同時に親指の腹で亀頭の裏側をマッサージする。そしていよいよフェラチオ動作に拍車をかけ、口と手を総動員して射精に導こうとしていた。
 軋むベッドの音。唾液が飛沫をあげる音。生で聞く逢瀬のリアルなサウンドを耳にし、パンツの中で空を切っていたはずが、ついに暴発する俺のちんこ。ガクガクと腰が勝手に動き、かつて経験した事がない長い時間、それが続いていたように思う。

「もういいよ、・・・・もう出そうだから・・・・苺」

 俺はもう出ている。しかも一切の刺激なしに。
 この境遇の差。万里の長城、いや、昔存在したペルリンの壁、並に超えられない隔たりを感じた。
 下腹部が熱く湿る不快感を他所に、隔絶された世界を唯一繋げる希望の隙間から、更に眼球が飛び出そうなくらいに顔を押し付けて中を覗いた。一度出しているにも関わらず、全く衰えることのない性欲は、相手が妹だからこそ、なのだろうか。
 中の彼氏は妹の上着を脱がせようとしていた。恥ずかしがる素振りを見せる妹だが、その両手は積極的に彼氏の作業を手伝っているように見えた。

「万歳して」
「恥ずかしいよ」

 彼氏のちんこを口で愛撫していたのに、今更恥ずかしいとか・・・・女子の嗜みってやつか?
しかし苦笑いする俺の頬の強張りは、次の瞬間溶けてしまった。何故ならば、8年ぶりに妹の手脚以外の素肌が見えてしまったから。
 自宅では割とラフな普段着の苺。中二の頃から急激に育った胸が巨乳と言われるレベルにまで達したのは知っていたが、だからこそ背の低い妹の自宅での全身像は、誤解のない言い方で言えば昔の「樽ドル」の様相を呈していた。
 勿論、兄としての立場を抜きにしても、そのムッチムチの身体は世の中の男の視線を釘付けにする健康的な卑猥さに溢れていた。
 しかし、俺の妄想は妄想に終わったようだ。ゲームの達人の俺は、現実の女体の情報が著しく欠けている限りは、やはり妄想癖の自閉オタクに過ぎないのだろう。
 ブラだけになった妹、露わになった、ほっそりとした腰のライン。完全に大人の曲線。わずかに力を失っていたちんこが瞬間フル勃起。元々手脚が細く長いのは知っていたけれど、樽を想像した胴体は綺麗に括れ、肌の艶が若々しさに拍車を掛けていたのだ。グラドルどころの話じゃない。

なんてエロい・・・綺麗な体をしているんだ・・・

 しかし、その後があった。よく見ると、いや、敢えて見るまでもなく、その上半身のアンバランスさの正体が、俺の予想をはるかに超えた実りを見せている双丘にあるのだと気付いてしまったんだ。
 ブラジャーをしているのに両腕で隠そうとする苺。押し込め感満載のそれは、果たしてサイズが合っているのかと疑いたくなる程中身が溢れ出しそうになっていた。

「苺の、見たい」

 その一言で、妹は何も言わずに背中に両手を回した。パチンと音がして、そしてボヨンと躍り出る乳房。すげえ・・・と思わず呟く。ネットでスイカップなる俗語を幾度か見ているが、現実に存在する事をこの時初めて知った。見事なお椀型の胸。中にみっちりと肉が詰まったような充実感。そして 瑞々しくピンク色に艶めく可愛い乳首。
 完璧だった。
 我が妹は、俺に対する攻撃的な性格以外は、完璧な女だった。こんな身近に、理想以上の女性がいた事に奇跡すら感じた。

「綺麗な胸だよね・・・本当に好き」

 そう言って彼氏が両手で持ち上げるようにゆっくりと、揉む。たまに女っぽい言葉を発する彼氏だが、それは多分妹に対する優しさなのだろう。男っぽい奴がタイプかと思っていたから、これも新たな発見だ。
 グッと持ち上げ、離す、と重量のまま、ぷるんと震えながら落ちる。でも殆ど形を変えないのは、はち切れそうな若さの為だろう。彼氏の指を第二関節まで余裕で埋める柔らかさと、頑なまでに形を保とうとする弾力の矛盾。

ああ、また出したくなってきた・・・・

 無になる。
 頭を空にして、無我の境地を探す。すると次第に収まる下半身の疼き。でも、「あっ・・・」という不意に出される妹の溜息が、俺の努力を台無しにしようとする。負けるもんか。あんな彼氏に、ガキに負けるもんか。
 意味不明な対抗心は、目を開けた瞬間白旗を上げようとする。
 両手を駆使してむにゅり、むにゅりと揉みしだく彼氏の愛撫に、背中を弓なりにして耐える妹。その眉間に皺を寄せ、耐えている姿は、目眩く快楽に逆らおうとしているようにも見えた。膝の上で握られていた両手は彼氏の膝の上へ移動し、そして腰まで上がり、抱き寄せようとする。

「気持ち良い?」
「成也君・・・」

 泣くのか?と思うほどの切なげな表情で彼氏を見上げる妹。
 二人は心持ち顔を寄せると、チュッと啄ばむようにキスをした。そしてすぐに顔を伏せて恥ずかしそうにする妹。でも彼氏に言外に促され、またチュッと可愛いキス。今度は顔を伏せない。体温が伝わりそうな距離のまま見つめ合う。苺の表情に恥ずかしさはなく、その眼差しは真剣に彼氏の瞳を見つめていた。
 彼氏がちろりと舌を出す。それをヌメッと咥える。
 また見つめ合う。
 今度は苺がちろりと舌を出し、それを彼氏が舌先で弄び、ジュルッと音を立てて吸う。
 そして阿吽の呼吸でお互い右方向に10度頭を傾けると、半開きにした唇を、まるで歯車を噛み合わせるように交接した。キスと言うよりも、口と口を合わせる行為。その時微かに漏れた妹の吐息混じりの声。
 これこそ、甘い甘い恋人同士の逢瀬。
 多分人が世に生まれ、誰からも教えられる事なく、それでも誰もが欲求する行為。俺がいまだ経験したことの無い世界。
 泣きたくなった。
 自分には一生縁のない世界のように思えた。
 大学に入ったなら、可愛い彼女を作って毎日デートして、時には図書館で一緒に試験勉強して、そして時にはそのまま校舎のトイレでセックスして、なんて妄想をしていたのに、多分あと一年の学園生活で、もう望むべくもない夢に終わるはず。そう思うと本当に泣きたくなった。
 目の前では、そんな俺の思いなど知るはずもない別世界の二人が、ベッドの上で膝を付き合わせるように正座して向き合い、忙しなく唇の感触を確かめ合っていた。
彼氏が時折、ピン、と弾くように乳首を摘むと、ガクっと背中を丸める妹。彼女の手もまた彼氏の腰を引き寄せるように抱いていた。
 唇を一瞬でも離す瞬間など無い二人。彼氏の左手はより強く妹の乳房を揉みしだき、右手は次第に下へ向かおうとする。苺の柔らかいお腹に縦に走る緩やかな窪を、ツーっと人差し指でなぞり、そして深いヘソの穴をほじる様に突く。身をよじる妹の両手の親指は、彼氏の乳首を優しく、控え目にクリクリと刺激し始めていた。
 二人の顎から透明な唾液が糸を引いて落ちたが、それも拭う素振りは全くない。
 彼氏は人差し指に代えて親指でヘソを穿り、腰のくびれを掌で確認するように撫で回す。そして胸同様にたわわな丸みを帯びたお尻をギュ二っと掴むと、その手を大切な部分に滑り込ませた。

「んはぁっ!・・・」

 一瞬離れたキス、でも彼氏がすぐに妹のやや厚めの唇を追い掛ける。

グチャ、グチョ、グチョ、グッチャ、グチョグチョ

 AVではなく、実際の女の股間から奏でられる卑猥な音は、これだけ離れていても鮮明に聞こえるものだという事を知った。
 いつしか妹の両手も彼氏の下半身に伸び、お返しとばかりに臨戦態勢の大きく肥大したペニスを愛撫し始めていた。

グチョ、ヌチ、グチュ、ヌチュ、グチョグチュ、ヌチャヌチョ・・・・

 半開きの隙間から垣間見える二人の舌が、レロレロと高速で絡み合っていた。こちらから見ても明らかに勃起している苺の乳首を摘み、股間に吸い込まれた片方の手を緩やかに前後にスライドさせている。妹も右手でシコシコとペニスを扱き、もう片方の手で金玉を揉みほぐすように優しく掌で包み込んでいた。

「苺・・・気持ちいい?」
「さっきから小さいの、何回も来てる・・・成也君、は?」
「苺の手、温かくて気持ちいい」
「出そう?」
「出してもいいの?」
「うふふっ、ダメ(笑)・・・・抱いてくれなきゃ、いや」
「さっきから抱き合ってるじゃん」
「そうだけど・・・・・・ちゃんと・・・抱いて欲しい」
「どんな風に?」
「もう、意地悪(笑)」

ペニスを扱く右手が激しくなる。

「成也君と、セックス、したい・・・」
「俺も・・・したい」
「ん・・しよ?・・・・・これ、挿れて?・・・」

 二人はクスッと笑うと軽くキス、そして妹は彼氏の耳元に口を寄せて何かを呟いていた。
 彼氏は少し笑いながら、そしてまた見つめ合う。
 苺はベッドの下から小さな包みを取り出すと封を開け、再び立ち膝のままキスを交わし、同時に彼女はそこを見ることもなく器用にコンドームを被せていく。細くしなやかな10本の指がはち切れそうに起立したペニスに絡みつき、根本までしっかりと嵌めると、もう一度名残惜しそうにゴムの上から扱き、袋を揉み、そして彼氏に押し倒されるままベッドに横になった。
 寝そべっていても妹の胸の谷間は広がることもなく、豊満な形を保ったまま。それが彼氏の胸板に潰されて、ムニュ、と横にはみ出す。
 下から両手を伸ばして彼氏を引き寄せ、両脚で蟹挟むように下半身を密着させた。位置を確かめるように彼氏の腰つきが微妙に左右に揺れ、そして前へ進んだ。

「あん・・・」
「熱いよ、凄く熱い、苺の中」
「入ってきた」
「動いていい?」
「うん」

 彼氏の首に回した苺の両腕に力が入る。彼氏は上から優しく彼女の頭を抱えるように抱く。
 ゆっくりとうねり始める彼氏の背中。中を労わりつつ、その甘美な感触を味わうような慎重な動きは、ある意味優し過ぎる程に穏やか。

「大丈夫?痛くない?」
「ん、あっ、あっ、大丈夫、あっ、あっ、あっ」

 あんな気持ち良い肉の穴にちんこを入れているのに、何故そこまで優しくできるんだ?余裕なのか?・・・・二人を覗いているだけの俺ですらエアーセックスさながら、空を相手に腰が勝手にガックンガックン動いているというのに・・・・

 宙を泳ぐ妹の脚がピストンの度に揺れる。その揺れの10倍速の速さで動く俺の腰。止めようにも止まらないエアーピストンで、危うく射精しそうになっては額に脂汗を浮かべてじっと堪える、を繰り返す。

「少し、強くしてもいいよ?」
「本当に?」
「成也君と、もっともっとエッチな事したい」
「・・・・」

 彼氏はおもむろに妹の両脚を抱えると、腰が浮く程彼女の身体を二つ折りにした。彼氏の二の腕に縋り付く妹の両手に力が入る。
 さっきまでの優しい動きがまるで嘘のよう。別人と見間違うその男の動きはアグレッシブそのもの。抱えた両脚を極限まで左右に広げ、その中心に真上から叩き込むようにペニスを深く深く打ち込む姿は、性欲に忠実に行動する若いカップルの交尾行動に他ならなかった。

「あっ!やばいっ、これっ・・・・あっ!あっ、な、成也君、あっ、ひっ、それっ!ああっ!ああっ!んっ!ああっ、あっ、やばいっ!だめっ!ああんっ!」

 途端に激しく喘ぎ出す苺。彼氏の腰と苺の腰がぶつかる度に波紋を伴ってプルンプルンと揺れる丸いお尻。その接合部が曝け出されていたが、今や当初感じた理性の欠片も残っていない俺には、その部分を凝視する以外の選択肢はなかった。
 黒々として皺だらけの、それでいて丸く引き締まった金玉が、そこから取れてしまいそうな勢いで過激に上下に暴れ、妹の肛門をペチンペチンと叩く。

「凄く気持ちいい、苺の中」
「成也君のだって」
「入ってるの、分かる?」
「すっごく分かる、ビンビンだもんね」
「いやらしい、苺ちゃん」
「だっていやらしい事してるもん」

 クスクス笑う二人は、チュッとキスしては見つめ合い、意味もなく楽しそうに笑うとまたチュッとキス、を繰り返す。
 ゆっくりと太い幹が彼女の小さな穴からぬらぬらと引き出され、亀頭がそこに差し掛かると、柔軟な入口が大きく広がって逃さまいとする。そしてまた侵入して行くと、性器の接合部分から白濁した液体がとぷっと溢れ出しては妹の肛門を濡らす。
 ぴっちりと隙間なく密着する性器からは、一体どれほどの快楽が生まれるのだろうか?空気に触れただけで出す自信のある今の俺には、愛し合う二人が天井人のように思えた。

「成也君の・・・ああっ、奥まで、来てるから・・・・私、もう・・・・」
「イってもいいんだよ?」
「ああ、凄い・・・本当、凄いよ・・・・成也君・・・・」

 彼氏が大きく腰を引いて亀頭ギリギリまで抜いて、そしてゆっくりと、深々とペニスを挿し込んでいった。

「だ、だめ、それ、成也、君・・・あっ!あああっ、んっ、ん・・・・」

 最後に大きく喘いだ妹は、彼氏に押し付けるように心持ち腰を上げるると、晒された肛門がその僅かな皺が伸び切るまで丸く盛り上がり、そして急激に窄まってクレーターの如く陥没した。それを何度も何度も繰り返す妹は、押さえ付けられた上半身をもどかしそうに捻りながら必死に彼氏の唇を求めていた。
 ヒクつく肛門はまるで別の生き物のように突出と陥没を繰り返すと、やがて妹の溜息と共に落ち着きを取り戻した。

「後ろから、いい?」
「う、ん・・・大丈夫かな・・・」
「なんで?」
「なんか、凄いから・・・成也君の・・・」
「苺のお尻、ちゃんと見たいから、いいでしょ?」
「ん・・・恥ずかしいけど・・・」

 彼氏が奥までズッポリと嵌ったペニスを抜いて行くと、それに引きずられてまるでタコの口のように妹のあそこが吸い付いてきていた。緑色のコンドームに包まれた亀頭が穴から抜けた時、一瞬ぽっかりと口を開けた妹の穴が、すぐにぴたりとその入り口を閉じる様は一種の海洋生物のよう。そしてその卑猥な事象を観察しながら、俺はパンツの中に二度目の射精をする。思わず声が漏れそうになる。
 何という悦楽。下衆の極みとは俺の事だろう。人として外れているからこその、このドロドロに絡みつくように下腹部を覆う底なしの射精感は、数千回と繰り返されてきた今までのオナニの比ではなかった。
 パンツの中は果たして修復可能か?と思わせる惨状になっていたが、無駄打ちされた精液の中でなおも萎える事なく硬いままのちんこ。俺は腰を引いた情けない態勢で覗き見を続行する。
 妹は四つん這いになり、恐々と振り返って恋人の反応を見ていた。
 やや大きめのお尻は、胸同様つきたてのお餅のような瑞々しさを保ち、彼氏の指がそこに触れるたびにぷるんぷるんと震える。

「本当に可愛いお尻だよ」
「あんま、見ないで」

 彼氏にいいようにされても一切それを拒絶する事なく、寧ろ開いた股を更に広げるようにして両肘で身体を支える妹。弓なりにしなる背中は尻の造形を殊更強調し、美しくも卑猥な女体の曲線を窓から射し込む光の中に浮かび上がらせていた。

「凄く綺麗だよ」
「本当?」
「綺麗だし、滅茶苦茶エロいわ・・・」
「・・・一言、余計だし」

 一瞬腰を引いた妹は、頰を赤らめて彼氏と笑い合っていた。
 しかしすぐに彼氏の両手に尻を鷲掴みにされて引き寄せられると、「あん・・・」と何とも可愛らしい溜息をつき、そのまま顔をシーツに押し付けて高々と秘部を天井に向けていた。
 完全にこちら側を向いている妹の尻。
 パックリと開いたあそこ。
 濡れた淫毛はセックスを実行した証。
 そこは彼氏にしか見せたことのない秘密の場所。まさか嫌悪している兄に見られているとも知らず、俺が大好きな苺はその部分を強調するように、腰を思いっきり反らして尻全てを好きな人に見せつけていた。
 彼氏が両手で円を描くように揉む。そして指が離れるといちいちぷるんぷるんと揺れる柔らかい尻の肉。

「もう、入れるね」
「うん」

 その刹那、妹の肛門がキュッと締まった、ように見えた。

「勃ち過ぎて、やばい」
「どうしたらいい?」
「ん、大丈夫、うまくできるから」

 お腹に張り付く勢いで勃起しているペニスを何とか垂直方向に押し下げると、彼氏はやや身体を前倒しにしながら腰を密着させていった。
 二人の後背位は最初から激しかった。
 バチンバチンと肌を叩く音の感覚が狭く、重力のままに重たく揺れる乳房が前後左右に激しく暴れまわっていた。
 二人の股の間からは、妹のへそ、揉みくちゃにされる胸、淫らな嬌声を発する唇が見え隠れする。やばい・・・・また・・・・

「ああ、なんかもう・・・いきそうかも」
「んっ、・・・あっ、気持ち、いいのっ?」
「苺ちゃんの、全部柔らかいから・・・ああ、いきそう・・・」
「もう我慢・・できない?っ!」

 勢いあまって前につんのめった二人。けど彼氏の腰は止まらない。壊れた玩具のように、うつ伏せの妹に激しいピストン運動を仕掛けるのみ。背骨に沿って流れ落ちる汗の玉が、彼氏の尻の割れ目に吸い込まれ、睾丸を伝い、妹との接合部に絡みつくと一緒くたになって引き込まれていく。
 縋るように振り向いた妹は、左手を伸ばして彼氏と指を絡め合う。やや下がった眉尻、潤んだ瞳で泣きそうになりながら彼氏を見上げる妹。恋人と繋がる喜びに溢れた彼女の表情は、どんなAVやアニメよりもいやらしかった。

「成也君の、顔・・見たい、ね?お願い・・・」
「普通のがいい?」
「うん、ごめんね?・・・いく時は、成也君の顔見ていたいから・・・」
「恥ずかしいんだけど」
「へへ、ごめんね」

 身体の柔らかい妹の片脚を不自然なほどに押し上げると、繋がったまま裏返し、正常位に。再び好きな人の顔を体温が伝わるほどの間近にとらえ、今更ながら恥ずかしがる二人。妹は彼氏の首に両腕を回すと、心持ち顔を上げた。その意図に気付いた彼氏は、チュッ、と可愛くキス。唇が離れた時の妹の恥ずかしげな表情に泣きたくなった。あんな可愛い表情は、まだあどけない子供の頃の苺にしかその面影を思い出せない。サプライズでアイスクリームを買ってきた時に、それが自分に対してのものと理解した瞬間のはにかんだ笑顔。一瞬だけど、今の妹と10数年前の妹が重なった。たとえそれがアイスを頬張る苺と、男のグロテスクなペニスを膣にはめ込んだままの苺であろうと。

「いつものチュー、して」

 妹が言い終わる前に彼氏は身体を密着させると、むちゅうっ、とキスをした。唇と唇の隙間から時折舌をはみ出させる下品で欲深いキスを。妹の両手は忙しなく彼氏の頭を抱えたり、背中をさするように抱きしめたり。同時に彼氏の腰がグチュグチュとその部分から水音を響かせる強さで上下し始めていた。
 妹の両脚が高らかにVの字を描くと、彼氏の腰をロックするように絡め、ピストンの動きに相反して腰をグラインドさせる。スライドが増幅される摩擦感に、唇を強く接合したまま彼氏が呻いていた。
 妹に蟹挟みを振り解く勢いでピストンすると、深く深くペニスを奥まで挿入し、果てた。陰嚢の中の金玉が交互に上下し、彼氏の肛門がギュと閉じたり開いたりする様は、彼の彼女に対する想い同様に、大量で強い射精を示していた。
 こんなに激しくて濃いセックスがあるのだろうか・・・・
 勿論、その場面を生で見ることなどなかったからかもしれないが、スクリーンを通した映像がどんなに過激なものであったとしても、この興奮以上に心を湧き立たせるものにはならないだろう。三度無駄打ちを犯した後でさえ、萎えることの無い欲求は今までではあり得なかった。
 目の前では愛の行為を終えた若い二人が並んで横になっていた。二人とも汗だく、荒い呼吸でお腹を激しく膨らんだり凹んだりさせながらも、繋いだ手は絶対に離さない。

「すっごく、良かった・・・」
「苺ちゃん、顔ガン見してくるから恥ずかしかった」
「ごめん、でもどうしても見たくて」
「俺、変な顔してなかった?」
「ううん、最高に可愛かった」
「可愛いのかい」
「ふふ、ごめん・・・・あの、格好良かった・・・本当、すっごくすっごく格好良かったよ」
「苺ちゃんも」
「え?」
「超エロかった」
「・・・・もう・・・・」

 彼氏の肩に頭を乗せて、その頰をキスする苺の右手は器用にコンドームを外そうとしていた。
 妹はベッドの上に正座すると、溢れないように慎重にゴムを抜き取り、それを窓の外の明かりに透かしながらケラケラと笑っていた。

「凄い出てるね」
「マジで?」
「マジマジ」

 まだ勃起したままのペニスを緩やかに扱きながら、視線は頭上に持ち上げたコンドームに向けたまま。

「ね・・・・こないだの、する?」

赤らめた頰と僅かな悪戯眼。

「こないだの?」
「うん、あれ・・・・ここ?に、挟むやつ?」
「・・・・あ、いいの?」
「成也君が、したいなら、だけど」
「するする、したい」
「じゃあ、はい!」

 妹は恥ずかしそうに口元を手で隠しながらコンドームを彼氏に渡すと、そのまま寝転んでしまった。
一体何をするのか?ここ?に挟むって・・・まさか、とは思うけど・・・・やっぱ・・・・だよな・・・
 こちら側に頭を向けて横になる妹は、その時を待ってるような沈黙。そして同じく無言の彼氏は、渡されたコンドームを妹の胸元に持っていくと、そのまま逆さにした。
 だらっと落ちる精液の塊。そう、塊、と呼んでも差し支えない濃度。そしてその後に糸を引きながら次々と注がれる精液が、妹の乳房を白く染めていった。汗の瑞々しさが精液を弾こうとする度に、妹はそれを溢すまいと掌で掬い上げ、自分で胸に擦り込む。

「やっぱ凄い量だ」

 茶化すように笑う妹の上半身に彼氏が跨ると、やはり、思った通り、の行為を始める二人。

「すっごく、いやらしい・・・」
「苺ちゃんがいいって言うから」
「へへへ、だよね」

 ムニュリ、ムニュリ、と音がしそうなパイズリ。
 大きな胸に完全に埋没する彼氏のペニスの先端が現れる度に、一応舌を伸ばす妹。しかし、ピストン運動に没頭する彼氏の速度について行けず、ぺろぺろと出し入れするだけの赤い舌は滑稽でもあった。

「ああ、気持ちいい・・・」
「こんな事・・・・しないんだから・・・・」
「ん?何?」
「こんな事、成也君にしか、しないんだから、ね」
「彼氏には?」
「しない」
「なんで?嫌われるから?」
「そんなんじゃない・・・・」

何となく感じた違和感。
彼氏?・・・・・・・・は?・・・・どういう事なんだ?なんか言葉、おかしくね?

「じゃあなんで?」
「成也君がしたいって言うから・・・」
「彼氏がしたいって言ったらは?」
「ダメ」
「ひどい」

 笑いながら腰の動きを加速させる彼氏?のはずの男。
 そういえば、ベッドの下に脱ぎ散らかされた制服を改めて見てみると、どうも種類の違うものが混ざっているような気がした。今の二人と同じように絡まりあった制服、彼氏のものと思われるスラックスの模様は、妹の学校のものとは明らかに違っている事に気が付いた。
 あれは、都立のものではない。私立だ。◯◯高のものだ。
 思い違いかもしれないが、妹の彼氏は確かクラスメイトのはず。親から聞いて、無意味に対抗心を燃やした記憶があるから、たぶん間違いない。

「もう・・・・出そうなんだけど」
「ん・・・いいよ・・・」

妹よ・・・これは、浮気、なのか?・・・

 反り返ったペニスが粘り気が増した精液という潤滑油によって真っ白になる。みっちりと肉が詰まった双丘を真ん中に向けて寄せる妹の両手にも力が入り、同時にその人差し指は勃起した乳首をヌルヌルと上下に小刻みに弾いていた。
 可憐で、か弱くて、そして清楚であったはずの妹が、不埒な横恋慕を犯す術を知っている・・・
 俺のちんこが僅かに勢いを失ったのは、血が繋がった家族の想像もしなかった一面を知ってしまったからなのだろうか。

「ああ!出るっ!」

 前屈みに倒れ込むと、まるで犬の後尾のように妹の頭を抱え込み、背中を丸めてガクガクと腰を振るその男。
 直前までそこに嵌っていた硬く熱い存在の損失感を紛らわすように、妹は指の間から肉がはみ出す強さで自分の乳房を揉みくちゃにし、そして喉の奥に吐精される息苦しさに身悶えするように細い脚を忙しなく交互に絡め合っていた。
 既に30分以上二人の行為を見ているが、この期に及んで後悔が興奮を上回る兆しを感じていた。 破滅的なエロスにより直接的な接触無しで数回の無駄撃ちを果たすも、尚も硬くあり続けた肉棒は、抜かれようとするペニスを追って唇を伸ばし、それをドリルのように舌に絡める痴態を見ている 今でさえ萎えようとしているのだ。
 妹の性器を見た時の罪悪感よりも強い後悔。
 恐らく、俺は見たくなかったのだと思う。不道理を犯してまでも貫こうとする妹の激情を。全てを覗き見た後だから都合の良い事が言えるのかもしれないけれど、今俺の心に潜むのは嫉妬と軽蔑の混ざり合った黒い感情。異性を好き勝手出来る大学生活を妄想していた俺からすれば、それを実行している妹の存在が羨ましくもあり、しかし家族の不徳を積極的に許す気にもなれないでいる。

苺よ・・・人の道を外れてまでも、その男のことが好きなのか?

陳腐なフレーズが頭の中を巡る。萎え始めたと思ったちんこがいきなり勃起したり、また萎えたり、を繰り返す。

「彼女にこういうの、してもらったことある?」
「いや、ないよ」

 どこか嬉しそうな妹は、再び横になる男の側に縋り付いていた。大きな胸の肉が男の胸板に潰され、そして粘度が増した精液が二人の間に幾重もの糸の橋を渡す。

「一緒にシャワー浴びよっか?」
「だね」

 その一言でハッと我に帰った俺は、その場を離れようと立ち上がるも、固まった膝の関節はポキポキと音を立てるだけで素早い行動を取れないでいる。この状態で存在を消して部屋に戻る事は無理だと感じた俺は、そのままリビングのソファの影に身を隠した。
 もし、万が一、二人がこちらに来たら、お終いだ。二度目の危機に変な汗が滲み出る。

「まだ帰ってこない?」
「大丈夫大丈夫、皆遅いから」

 裸の二人は仲良く手を繋いでいた。
 部活で鍛えたであろう引き締まった後ろ姿は、散々打ちのめされた俺の劣等意識を更に増幅させる。
 二人がバスルームの扉を閉めた後、そこから聞こえる楽しげな声は、ふざけ合い、笑い合い、まるで恋人同士のじゃれ合いそのもの。恋人同士・・・ではないはずなのに。
 冷たいパンツの中身に気を付けながら、ゆっくりと浴室へ向かう。曇りガラスの向こう側で蠢く肌色の影は、萎えては勃起、を繰り返すちんこに淀みなく血液を送り込む。
 またフル勃起。
 そして復活する欲求。
 さっきまでの後悔の気持ちは何だったのか?ついたり離れたりを繰り返す二人の姿は、ドス黒くヘドロのように纏わりつく性欲という、俺にとっては受け入れてくれる相手がいない煩悩。それが音を立てて肥大化する。

「なんか、ドキドキするね」
「だね」
「・・・・」
「成也君・・・」
「・・・・」
「あん・・・・だめ・・・・」

 はしゃいだ後の静けさの中、二人のやり取りを、今残っているありったけの精神力を使って聞いていた。

「彼氏と入った事ある?」
「シャワー?・・・んー、どうかな」
「あるんだね?」
「おうちではない、かな」
「じゃあ何処で?」
「ラブホ」

クスクス笑う二人。これが高校生の会話なのか?

「成也君も、行きたい?」
「いや、さすがにそれは・・・」
「だね、私も成也君とは自分の部屋がいいかな」
「でも彼氏ともあの部屋でしてたりするんでしょ?」
「ん・・・ごめん」
「いや、そりゃそうだよね・・・・」
「あ、でもね、成也君とこうして会うようになってからは、そういうの、無いから」
「そういうのって、エッチのこと?やっぱしてるんだ・・」
「成也君・・・・ちょっと意地悪、してる?」
「ごめん、そんなつもりじゃ無いんだけど、困った顔見てるともっと困らせたくなった」
「もう!やっぱ意地悪じゃん!」

二人の影が重なり、口腔粘液を接する時に発する音が反響した。

「でもさ、やっぱ違うもん、だよね?」
「うん、全然」
「どこが?」
「ええー?言わせる?普通」
「ごめん、言いたく無いよね?ごめんね?」
「・・・・・・・」
「え?本当に?」
「う、ん・・・」

そこに二人しかいないのに、何故か耳元で囁くような用心深さで為される二人の会話。

「彼女さんとは?一緒に入った事、ある?」
「ない、な」
「本当?女の子とはこれが初めて?」
「うん」
「嬉しいなっ、たら嬉しいな」
「何その変な歌」
「だってすっごく嬉しいんだもん」

肌色の一体がしゃがみ込むのが見えた。

「また、大きくなってきてる・・・・」
「・・・・・・・」

 俺はその場を後にし、自室に戻った。
 もう聞いていられなかったんだ。
 このままでは、俺の妹は妹で無くなる、どう顔を合わせたら良いのか分からなくなる、と思ったから。
 いや、もう既に遅いのかもしれない。なぜなら、桃のようなツルツルでぷっくりとしたあそこを妄想していたのに、現実は赤味がかった周りに毛まで生やした生々しい女そのもの、だったし、フェラチオだって男のちんこの知覚神経の位置をミリ単位で熟知しているような的確で大胆なものだったし。
 俺は部屋の隅で両足を抱えて座っていた。座ってただ、時間が過ぎるのを待っていた。
 やがて浴室の方からドライヤーの音が聞こえ、二人の足音が目の前を通って妹の部屋に入り、そして彼の見送りをする為に玄関まで歩く歩調まで仲の良さを表すように一緒だったのをボーっと聞いていた。その玄関では別れを惜しむように話しに花を咲かせ、黙り込んだと思ったら何故かリズミカルな振動が伝わり、それが15分以上も続いていたのだが、終いには両耳を塞いでいた俺は壁を激しく叩く一定の間隔の振動が空気を伝わってくるのを感じていただけ。
 もう、やめてくれ
 築き上げた妹像がグラグラと揺れ始め、崩れ落ちる前に・・・
 ドアが閉まり、少しだけ開けたカーテンの隙間から二人が出ていくのを確認してから俺は部屋を出て、まるで今帰ってきたように靴を並べるとリビングのティッシュを大量に摘まみ取り、ベト付く股間に突っ込んで無駄撃ちの痕跡をぬぐい始めていた。
 虚しさと後悔、そして自身に対する情けなさで言葉がない。この一時間強で見せつけられた妹の秘めたる一面は、これまでの十数年間の幻想を打ち砕くには余りある破壊力を持っていた。
 いや、これが成長する、という事なのだろうか?
 何もかも分からない。
 気怠さと、冷たいパンツの布地の感触に、テンションは下がる一方。無意識につけたテレビの映像も、目を通して後ろの壁に届いているような無機質感。

「あ、・・・帰ってたんだ・・・・・」

 戻ってきた妹の顔を見ることが出来なかった。でも、たった一言発した彼女のその言葉には、動揺を抑え込もうとする抵抗が感じられた。
 俺は一言の言葉も発することが出来ず、部屋に入ってゆく妹の後ろ姿を眺める事しか出来なかった。





















トライアングル・トラップ〜for whom the bell tolls〜 後編

 万人にとって一秒の長さは同じはず。ただ、一人として同じ人間など存在しない世の中なれば、この一秒の定義は場合によっては崩壊するのかもしれない。
目を覆う程の明るい日差しに包まれた二人は、時間の流れの中で己の存在を見失いかけていた。
一秒の刻印が不明瞭になる中で、昨日から続いている今日が信じられないでいた。
そればかりか、幼馴染と過ごしたこの十数年間が幻のように現実感を無くして行く。

「まだ、こっちにいるのかな・・・」

 武瑠の声が震えていた。いつもなら、彼女の苦境を打ち砕く頼もしい一言を連発する筈の彼の蒼ざめた表情が、この時間軸を一層不確かにする。

「俺・・・・・有二に電話してみる」

 彼が取ろうとする行動は全て彼女の為。呼吸さえ疑う程に微動だに出来ないでいる紗綺の為に、武瑠は率先して状況の打開に向けて、取り敢えず前へ進もうとする。
 裸のまま背中を丸くして携帯を操る彼の手元がおぼつかないのか、やや苛立ち混じりの後ろ姿からは小さな舌打ちの音も聞こえてきた。
 人面獣心。
 この二人が犯した罪は、山よりも高く海よりも深い。愛があれば全て乗り越えられる、という彼の考え方は稚拙な行動の言い訳でしか無い事に、今その時になって薄々と気付いても、もう時は戻らない。

「無駄・・・だよ・・・・」

蚊の鳴くような声の主は、後悔より先に自閉しようとする心のままに、その場に座り込んだ。

「そんな事、言うなよ・・・紗綺・・・そんな事を・・・・」

 それでもなお何かに縋ろうとする武瑠はその手を止めない。友人の携帯の電源が切られている旨を説明する音声が耳に入っていても、それを理解する事すら出来ない彼は、何度も何度も同じ操作を繰り返していた。

落ち着け・・・落ち着くんだ
有二は昨日、間違いなくこの部屋に来た
だから、そう遠くには行ってないはず・・・・まだ国内にいるはずだから・・・・

携帯を握る指が止まった。

だけど俺・・・有二に連絡して、何がしたいんだ?
謝る?
謝って・・・済む問題なのか?

 武瑠が後ろを振り返ると、そこには正気を失って座り込んだ紗綺が虚ろな視線を真っ白な壁に向けていた。
 握り締めた携帯と紗綺の横顔を交互に見た彼は、結局何度も試みた懺悔すべき相手へのコールを中断し、それを床に捨て、そして彼女のか細い肩を抱く事を選んだ。
 後ろから回された彼の腕の体温を感じることも出来ない彼女から、バスタオルがはだけ落ちる。

「お、俺が・・・・俺がなんとか・・・する、から・・・」

 既に冷たくなり始めていた二人の身体は、互いの温もりを伝播する事もなく、言い様のない不安が音もなく心を蝕む瞬間に怯え、震えていた。




 庭先の木の枝に積もった雪が、気温の上昇とともに水気がその重さを助長する。
 小さな野鳥が足跡をそこにつけるそばから折れて行く枝を見ている彼の眼には、綺麗な日本画の如く存在感を増す縁側からの風景すら色褪せて見えていた。

「有二のお陰で豪華な部屋に泊まれて、本当に良かったな」
「ですね・・・」

 冗談交じりに談笑する両親の言葉が近くで聞こえていた。彼は二人を一瞥し、優しげな笑みを浮かべると視線を窓の外に向けた。

この山の向こう側で、あの二人は同じ空を一緒に見ているのかも・・・

 新居になるはずの部屋の中で見た残酷な世界。アイデンティティとかイデオロギーとか、人として成す為の大事な全てが崩れ落ちそうな心理状態の中で、この肉親の存在が辛うじて自分を自分自身でいさせてくれる。
 正しい事は、何なのか?間違いが間違いであると声を大にして言っても、人の世界ではそれ以上に大切なことがあるのかもしれない。昨夜眠れずに思いを馳せた帰結先は、必ずしも人の道理にはそぐわない別の何か。それに気付きたく無くても、彼の明晰かつ、同僚曰く老獪な判断力と思考能力は、まるで澄んだ水面のようにくっきりと答えを導き出そうとする。
1+1+1=3であり、3ー1=2である事に間違いはないが、3ー1=0も一つの答えなのだろうと。

僕らは昨日、何もかも失ってしまったのかもしれない
3人で一つ、という考え方は、大人になった僕らには所詮通用しない、無理な理論だったのだろう
そして武瑠が紗綺に好意を持つなんて事態を考えた事も無かった僕の想像力も欠けていた。あんなに魅力的な女性を放っておいた僕が悪い、のかもしれない。あんなに女の子に人気のある武瑠を人畜無害な気の良い男友達としか考えられなかった僕が悪い、のかもしれない

「有二、朝ごはん前にひと風呂入っていくか?」
「ああ・・・・だね」

 煮え切らず、うだついていた僕の中の蟠りは、父親の一言であっという間にどこかに吹き飛んでしまった。
 熟慮する事よりも行動する事。僕に足りないものを、僕よりも知っている父親の存在は、いつだって正しくて優しかった。
 それ以上ものを言わぬ父親の背中を見ながら、長い廊下を歩いて行く。

僕一人だけ、大人になれなかったのかな・・・・

 小さいけれど頼もしい父親の背中を見ていると、暫く忘れていたあの懐かしい郷愁が僕の中の時間を巻き戻して行った。




 仕事納めの日の夕方。
 一ヶ月以上も前から街を彩るイルミネーションの煌めきは、クリスマスが過ぎても一向に減ることはなく、むしろカウントダウンに向けた高揚感を煽るようにその輝きを増していた。
 この絢爛豪華な街並みに溶け込むのに躊躇する事を忘れてしまっていた私達は、つい先日まで街の光のシャワーの中で手を繋ぎ、顔を寄せて囁き合うのが当たり前の毎日を過ごしていた。
 ワクワクするような都会の夜の雰囲気。
 幼馴染の心地よい手の温もりは、時折あの人がいない寂しさを、いや、あの人の事を、この賑やかな喧騒に溶け込ませ、忘れさせてくれた。
 束の間のはずの武瑠との慰み事。いつしかそれが当たり前になり、私にとって生活の一部になっていた。それは紛れもなく武瑠を単なる幼馴染として見ていなかった証拠。彼に抱かれる罪悪感が次第に薄れ、気が付けば積極的に彼を許容しようとしていた私の身体。あれから何年も、そうやって有二を裏切り続けてきた報いがこれなのだと分かっているけれど・・・・
 あの人の心の傷を考えれば、今の私の苦しみなんか取るに足らない。寧ろ、自分を蔑む憂鬱な気持ちは彼に対する抗弁とさえ思えてくる。
 汚くて、浅ましい私の心。
 それでも許されたいと思う気持ちの欠片が心の隅にある事に悍ましさすら感じる。
 部屋までの道の最後の角を曲がる。そして、入口の前に立っている見慣れた姿。武瑠は、あれから毎日私の帰りを待っていてくれる。

連絡、あった?
ない
 
 この三日間、同じやり取りを言葉に出さずに交わす私達。そして彼は憔悴した表情で軽く手をあげてその場から立ち去ろうとする。
 いつも私の事を気にかけていてくれる武瑠が毎日私の帰りを待っているのは、有二からの連絡を確認する為だけじゃない事は分かっている。
 寂しそうに踵を返す彼に思わず声をかけた。
 お茶くらいなら良いだろう。

「少し、部屋に寄っていく?」

歩を止めた武瑠。

「寒いでしょ?お茶飲んでいきなよ」

 彼は向こうを向いたまま、顔を上げて暗い夜空を見上げた。

「いや、やめとくわ」
「そう・・・・・」
「ごめんな・・・・・」
「ううん・・・いいよ」

 再び彼が歩き出そうとした時だった。
 同時に私達の携帯が鳴った。あの人からのラインの着信を知らせる音だ。
 振り返る彼の表情が硬い。多分、私も。
 急激に高鳴る鼓動。喉元でそれが爆発しそうになる。目眩すら感じる程の激情の嵐が身体を駆け巡り、突然訪れた浮遊感にバランスを保てなくなる。気がつくと私はいつものように武瑠に支えられていた。
 待ち焦がれた人からの連絡なのに、言い知れぬ恐怖が襲いかかる。
 私達は顔を見合わせ、そして彼の携帯を二人で覗き込んだ。

「明日、三人で話せないだろうか?」

 たった1行のこのメールが、ついさっき感じた恐怖を瞬時に溶かす。彼は弱い人間ではない事を私が一番よく知っている。でも、この1行の重みは、彼が彼である事を、有二が無事でいた事を証明してくれた。わずか三日間でも、私が彼の安否を知らず知らずに気遣っていた証。

「有二・・・・・」

 泣き出す私を支えてくれている武瑠を見上げる事は出来なかったけれど、私の肩に伝わる彼の手の震えは多分、女の私とは、フィアンセの私のものとは違う筈。



 翌日。
 駅を出ると小雨が降っていた。朝の天気予報では雨の確率は20パーセントだったけれど、年末を前にインフルエンザが流行りだしそうな晴天続きの東京では久し振りの降雨予想。心配性だと笑っていた母親の顔を思い浮かべながら、僕は念の為用意していた折り畳み傘を開いた。
 駅から1分もすると、そこは人もまばらな師走の住宅街。 所々に出来始めた小さな水溜りを避けるようにゆっくりと彼女の部屋へ向けて歩いて行く。
 努めて頭の中を無にしようとしても、勝手知ったる民家の庭から伸びる立派なコナラの木や、特徴的な造形の街灯がそれを許さない。紗綺と手を繋いで何度も往来したこの道は、当時の二人に戻れと言わんばかりに僕の視界に容赦なく飛び込んでくる。

君達は、僕の味方をしてくれるんだな・・・・

 反応を示さぬ相手に話しかけている自分に呆れ笑いつつ、マンションのエントランスの前に立った。

「た、武瑠?」
「あ、ああ・・・有二・・・」

 エントランスのドアの前、両手に息を吐きかけながら背中を丸くした武瑠が立っていた。
 一瞬頰を緩めかけた武瑠は、すぐに強張った表情で僕に正対した。そしてその場で腰を屈め、膝を地面につこうとしたところで僕はそれを止めた。

「そういう事じゃないよ、武瑠」
「でも・・・・俺」
「僕が今日来たのは、三人で話し合いをする為だ。いきなりそんな事をされても困る」
「・・・・ごめん」

 彼は僕の目を見れないでいる。弱々しく、猫背のままの武瑠は、堂々と、清々しく歩いていたあの頃の武瑠とはまるで別人だ。
 でも、不思議と何の感情も湧かない。武瑠と紗綺に会ってもきっと自分は冷静でいられるという自信はあったけれど、ここまで平坦な気持ちでこの時を迎えるとは思ってもいなかった。俯く武瑠の横顔を見て、もっとしっかりしなよ、と口が滑りそうになる。

「有二・・・俺・・・・」
「さあ、中に入ろう。紗綺、いるんだよね?」
「うん・・・・」

 部屋に入ろうと右手をポッケに入れたところで、そこにあるはずの鍵が無いのを思い出してその手でインターホンを押した。
ほとんど間を空けずに応対してくれた彼女の声は、どこかよそよそしく、頼りなく感じた。




「どうぞ・・・」

 ドアを開けた時、目の前に立って僕等を中へ案内する紗綺。
 勿論、何かドラマチックな展開を予想していたわけではない。が、以前彼女と同棲していたこの部屋に足を踏み入れた瞬間の違和感は何なんだろう。

僕の居場所ではない?
いや・・・・僕は、僕の名前を最初に呼んでくれなかった彼女の態度に落胆している?
目の前のフィアンセは、僕の後ろで首を垂れたままの親友と、この部屋で抱き合っていた。そう考えると、冷静なはずの僕の心の中が漣をたて始める。食器棚の中に並んだペアのカップ。これは当時僕達が買ったものだろうか・・・・それすら思い出せない。差し出された白い椅子。これは武瑠が買ったものなのか?ついさっきまでの穏やかな心の波動が脆くも乱れ始める。

「お茶で・・・・・いいですか?」

 隣に立つ紗綺の足は震えていた。
 他人行儀な振る舞いに感じる居心地の悪さ。やはりここはもう僕の居る場所ではないのかも。
 温かいお茶は僕の分だけ。それをテーブルの上に置く彼女の指先はまだ震えていた。
 紗綺はお盆を両手で抱えたまま、その床に正座した。そして、それを見た武瑠も慌ててその隣に微妙な距離を開けて正座した。

「本当に・・・ごめんなさい・・・・・有二・・・・」
「すまない・・・・すまなかった・・・・・」

 深々と頭を下げ、文字通り床におでこを擦り付ける二人。鼻をすする音は紗綺のもの。武瑠の大きな背中は小刻みに震えている。
 異様な光景だった。
 小さい頃から一緒だった僕達に序列なんて考え方があるわけがない。そこにあるのは信頼と思いやりだけ。二人のことを自分のことのように考えられる掛け替えのない存在だったはずなのに・・・
 こんな姿は見たくなかったのに、身体が動かない。
 落胆と後悔、憎しみと羨望。
 並んで土下座する二人を見下ろす僕、という構図は、何故か劣等感に似た不可思議な感情を僕に抱かせる。三人で一つ、が既に成り立たなくなっている証なのだろう。
 少なくとも、もう元には戻れない。そう確信するには十分な光景だった。そもそも、今この時になって改めて覚悟ができるなんて、今の今まで僕は再構築を心の中で僅かでも願っていたという事なのだろうか。
 自分が分からなくなる。
 幼馴染とフィアンセが並んで謝罪する姿は、恐らくあの場面を目の当たりにした時の衝撃に近いものがある。

「君らが謝っている、という事は・・・・そういう事なんだね」
「・・・・・」

 押し黙ったままの二人。顔を上げた紗綺の瞳からは大粒の涙が、握り締めた拳の上にポタポタと落ちていた。武瑠は口を真一文字にしたまま項垂れている。
 沈黙が流れる。
 三人でいる時にはあり得なかった、重くて苦しい空気感。時計の針の音だけが頭の中で反響するような、なんとも気味の悪い感覚。
 何らかの反論が欲しかった。認めて欲しくなかった。否定して欲しかった。

「不躾だけど、二人は・・・いつから?」
「・・・・・あの」
「いや、俺から言う」

 微笑ましい筈の、フィアンセを気遣う親友の姿。でも、今の僕にとっては心を騒つかせる行為にしか映らなかった。そして、そんな自分が悲しかった。

「武瑠、やっぱりいいよ」
「・・・・・」
「ごめん、聞きたくないや・・・・」

 紗綺が顔を上げた。この日初めて視線を合わせてくれた僕のフィアンセ。でも、その瞳は悲しみに暮れ、輝きを失っていた。

「モテモテだったからね、武瑠は昔から」

 唐突に出た僕の言葉に、キョトンとした表情を向ける二人。

「女の子にチヤホヤされて浮き足立つ武瑠を、紗綺と二人で心配したもんだよね」
「有二・・・」
「でも意外としっかりしたもんでさ、変なトラブルとかも無かったし。それはやっぱり、あれかな、草葉の陰から僕と紗綺が支えてあげたからかな」
「・・・・・」
「三人で同じ大学に進学出来たのが、本当に嬉しかった・・・うん、嬉しかったよ・・・・」

 頬を伝う熱い感触。
 これは、涙、なのか?

「紗綺と武瑠は・・・あの日だけの事じゃないよね?」
「俺、達が?・・・・」
「僕の想像だけど、きっと君達はもっと以前から・・・・ずっと前から・・・・」

 嗚咽が喉にこみ上げる。
 言葉に詰まって出来たほんの少しの静寂が恐い。

「・・・うん」

 武瑠の返事とほぼ同時に首を縦に振った紗綺。
 僅かな二人のリアクションは、一時の過ちであって欲しいと期待したその裏で、そうだったに違いないと思う自分の矛盾した気持ちに整理を付けるには充分だった。僕が愛した唯一の人には、その行動の裏付けとして常に自らの気持ちに誠実であって欲しかったから。

紗綺は、武瑠の事が好きなんだ。
多分、きっと、そうなんだ。

 確かめる勇気はなかった。いや、ひょっとすると彼女は自分の気持ちに気付いていないのかもしれない。確かめても彼女は否定するかもしれない。だから勇気がない、というよりも、聞いても無駄かも、と僕自身が考えてしまっている。
だから・・・・・

「武瑠は・・・・紗綺の事、好きなんだよね?」
「・・・・・」
「この際隠し事はなしだよ、武瑠」
「う、ん・・・・」

 彼は消え入るそうな声で返事をしたけれど、はっきりと頷いた。それは明確な意思と覚悟が伝わるもの。隣にいる紗綺の視界にもきっと入っているはず。

「俺は・・・紗綺の事が好きだ・・・愛している」

 その瞬間、隣の彼女は両手で顔を覆い、耐え切れない嗚咽を漏らした。

「よく言ってくれたよ・・・武瑠」

 やっと絞り出した言葉に嘘はない。
 僕が次に進むために、幼馴染の二人が次に進むために、恐らく相当な覚悟を持って告白した武瑠の言葉は、僕にとっても彼女にとっても、とても、とても重いもの。気が付けば涙は止まり、清々しさすら感じる程に僕の中で結論がはっきり出た。いや、既に出ていた答えに相応しい理由が出来たのだ。

「充分だよ・・・」
「ゆ、有二・・・私・・・・」

 何かを言いかけた彼女を制止した。彼女の縋るような眼差しを直視出来なかった。いや、ここで彼女の言い分を聞いたなら、僕は全てを失くしてしまいそうだったから。だから僕は無意識に彼女を止めたんだ。

「紗綺の気持ち、聞きたいけれど、君に謝罪する気持ちがあるのなら、僕は君の気持ちを言わせない・・・」

 彼女の声が、紗綺の声が聞きたい。猛烈に聞きたい。でも僕はそれを無理矢理自分の中に押し込めた。

「ごめんね紗綺・・・僕は君の気持ちを聞く耳は持たない。持ちたくないんだよ・・・・・分かるよね?」

 とめどなく溢れる涙を拭うこともしない彼女。滝のように流れる涙、肩を震わせて耐え忍ぶ様が痛々しい。

「僕はね・・・・君達がいたから今があるんだ・・・心のどこかにいつも二人がいたから、だから頑張ってこれたし、辛い事なんてこれぽっちもない人生だった」
「・・・・・」
「能天気、だったのかな」

 思わず口元が緩んだのは、あの懐かしい日々が頭を過ったから。

「君達の葛藤や、悩みなんて、全く考えた事も無かったんだ。きっと皆同じ気持ちだろうって、ずっと思ってたから」
「有二、私・・・・」
「ごめん、紗綺・・・・何も言わないで」

 少しだけ声を荒げてしまった。そしてその声に驚いた紗綺と武瑠は、一瞬身体を引いて僕の顔を見つめた。

「僕は・・・・今は君達を許せないでいる。でも、そんなのは無意味だという事も分かっている、三人にとって」

 二人は控え目に、同時に顔を横に振った。

「君達が抱き合っている姿を見て、凄く、凄くショックだった。本当に心臓が止まるかと思ったよ・・・・」

 目を伏せ、広い肩幅を窮屈に強張らせていた武瑠の隣で、僕を見つめていた紗綺は一瞬だけ目を背けた。

「正直、怒りとかそういうのは無かった。と言うよりも、多分頭がついていかなかったんだと思う。真っ白になるって、こういう事なんだなって、それを冷静に考えていたような気もするけどね。矛盾してるけど」
「お、俺は・・・」

 強い意志が感じられる武瑠の一言。反射的に紗綺が隣を振り返る程の大きな声で武瑠は言った。

「有二の事が大好きだった。尊敬もしていた・・・だって、凄えんだもん・・・・頭は良いし、良い奴だし・・・・紗綺と付き合ったって聞いて、お似合いだと思った・・・有二と紗綺なら、絶対に良いパートナーになれるって・・・・・なのに俺は・・・・」
「でも、紗綺の事は好きだったんだよね?」
「よく、分からないけど・・・・モヤモヤしていたのは、あるかもしれない・・・でもそれはマズイだろ・・・・それはやっちゃいけない事だって」
「身体だけの付き合いだったら良いと思ったとか?」
「それは・・・・」
「武瑠、悪いけど多分君以上に君の事、僕は知っているつもりだよ」
「・・・・・」
「身体だけの付き合いができるのは、紗綺以外の人に対してだけだと思う。君は、武瑠は、紗綺には同じ事ができるはずがない」
「どういう、事?」

 紗綺が僕と武瑠を交互に見ながら呟いた。

「武瑠は・・・きっと、昔から紗綺の事が好きだったんだよ」
「え・・・・・」

 悲しみに沈んだ彼女の瞳が大きく見開かれていた。

「そして、それはさ・・・・認めたくないけど・・・・紗綺も、一緒だったんじゃないのかって・・・・」
「ち、違う・・・そんなんじゃ、ない」

 否定する彼女の言葉が涙声で曇る。

「僕ら三人とも、気付いていなかったんだよ・・・・自分自身のことなのにさ」
「有二、私・・・・私は・・・」
「やめてくれ・・・」

 重くて辛くて悲しい時間が過ぎて行く。一番大切なものが壊れて行く予感。

「何も言わないでくれよ・・・もう、どうしようもないんだよ・・・・」

 呼吸の音さえも許されない沈黙。

「僕はさ・・・それでも・・・・二人のことを、悪く思いたくないんだ・・・・じゃないと、僕らの今までの記憶が・・・・思い出が、台無しになるじゃないか」
「・・・・・」
「僕のこれまでの人生まで奪う権利は・・・誰にもないはずだ」

 席を立つ僕を目で追う事すら出来ない二人。
 一度は止んだ雨が再び降り始め、窓から差し込んでいた日差しが突然途絶えた。

「明日、アメリカに戻る。本当はもっと日本に滞在する予定だったけど・・・」
「私には・・・・私には何も喋らせてくれないの?」
「・・・・・うん」

 立ち上がった時の軽い眩暈、気が遠くなる感覚は単なる生理現象ではない。この席を立ったなら、僕はもうこの部屋には永遠に来る事はないだろう。そう思うと、自分で席を立っておきながらすぐにそれを後悔している。
 だから僕は勇気を振り絞って、全てを断ち切って、思い切り後ろ髪を引かれる思いのまま、玄関のドアノブに手を掛けた。

「君達を・・・・許せる日が必ず来ると信じている。だから、もう連絡は取らないで欲しい」






終わった
終わってしまった
体を刺すような冷たい雨が降っているけれど、傘をさすのも面倒だ

・・・このまま何処かへ行ってしまおうか・・・

こんなに足が重いと感じたのは初めてだ
多分、僕はまだケジメが付けられていない
今すぐにあの部屋に戻りたいとさえ思っているのかもしれない

紗綺が僕に言葉を遮られた時の表情が思い出される
彼女に謝罪の言葉を言わせなかったのは、少しでも罪の意識を抱えて欲しかったから?
多分、半分当たっているけれど・・・・
あの時彼女の気持ちを聞いて、多少なりとも武瑠に対する想いがあると分かったなら、僕は立ち直る術を完全に失ったかもしれない
その恐怖心から、だと思う・・・・
我ながら・・・・・情けない

もう駅が見える
もう着いてしまったのか
嫌だ・・・・
あの電車に乗りたくない

遠くで光る稲光
遅れて伝わる雷鳴
降りしきる雨の冷たさに、膝が崩れそうになるのを堪えるのみ

まだまだ僕は小さい男なんだな・・・・
もっと、もっと頑張らなきゃ・・・

走ってきた電車のドアが開いた
一歩踏み出そうとして、思わず後ろを振り返る
今来た道の先を見つめながら、青春の終わりを覚悟して、そしてこれからの未来を自らに誓った。

さよなら・・・紗綺
さよなら・・・武瑠






 春の心地良い風が頰を優しく撫でる四月の終わり頃の話。
 まだ制服が肩に馴染んでいない高校生達の後ろ姿、つい先日まで感じた辿々しさは影を潜め、彼女彼らは、誰の目を気にすることもなく友人達との会話に花を咲かせていた。
 昔の自分達の姿に重ね合わせ、溢れる笑みを争わずに受け入れる事ができるのは、26歳の大人の余裕なのかもしれない。
 有二と終わった私が自ら手を挙げて今の営業部に移ってから3年が経つ。部門の中でも新規開拓を主とするこの部署は、厳しさと難しさでは群を抜いており、女性の配属は私が初めてだった。人事調書に希望を書いた時、当時の上司が親身に慰留してくれたけれど、今思えば結果が全てのこの部署は当時の私には丁度良かったのだと思う。
 寝ても覚めても仕事の事ばかり考えていた時期もあった。どうしたら結果が出せるのか、そればかり考えていた。新規開拓の仕事はこちらから相手を選ぶ事が出来るので、私には都合が良かったのだ。愛想笑いする必要もないし、邪な駆け引きを要求してくる相手の所には二度と行かなければ良いだけ。その割り切り?諦めの良さ?が功を奏したのか、私は2年連続で社長賞の表彰を受けることができた。2年目は創業以来の新記録、というおまけ付きで。
 だけど、仕事ばかりの3年間、というわけではない。それなりに何人かの男性とお付き合いもした。不思議と長続きはしなかったけれど。同僚に言わせれば適齢期で出逢うには申し分ない「ハイスペック」な人達ばかり、らしい。確かに皆優しくて、見た目も良くて収入も良くて、と、私には勿体無い人達ばかりだった。
 仕事が終わってから会う事もあったし、休暇には旅行にも行った。所謂、ごく普通の恋人同士のお付き合いをしてきたつもり。だけど・・・・
 ベッドの中で感じる相手の温もりを、どこか冷めた気持ちで受け止めていた。どんな高価なプレゼントを貰っても、口から出るのは乾いた偽りの言葉。相手に申し訳ないと、何度も本気の恋愛をしようとすればするほど、私も、そして相手も疲れていった。そんな事ばかり繰り返していた。
僅か半年だけれど、一番長く続いた5人目の彼氏と別れた時、私は恋を諦めた。私には合っていないのだ、その資格もないのだと。
 でも気持ちは前向きになれないどころか、全くその逆。恋に恋い焦がれ、人を愛し愛されたいという思いが私を苦しめ始めたのだ。
 分かっていた。
 満たされない気持ちの向こう側に、あの人がいる、という事を。
 過去の事と、とっくに区切りをつけたと思っていたのに、目を背けていただけのズルい私に突きつけられた最後の罰。私には乗り越える事すら許されない永遠の試練。一生背負って生きていくしかないのだと思った。私には、これが相応しい生き方なのだ、と。
 そんな私に届いた一通の手紙。
 それは、涙すら枯れたと思っていた私の砂漠のような心に差した一筋の光明・・・・・




 前の晩、同僚が企画した合コンに付き合わされ止むを得ず参加、遅くまで飲んだ私は、出張が続いた一週間の疲れから、翌土曜日は昼まで起きる事が出来なかった。
気怠い身体を引きずるようにしてカーテンを開け、簡単な朝食を取ったら遠くで聞こえる昼の鐘の音。特に予定はなかったけれど、あれから休みの日は極力外に出ようと決めていた私は、いつものように軽く化粧をしてパンツを履くと、3年前に肩の長さまで短くした髪の毛をかき上げながらドアを開けた。
 今日も天気がいい。
 廊下の窓から見える青い空と白い雲のコントラストに自然と気持ちも軽くなる。
いつもなら家に戻った時に確認する玄関の郵便ポスト。この日は何故か気になって、一見何も入っていないその中を覗いてみた。
 そして、そこで見つけたのは、見慣れぬデザインの手紙一通。
 別に先を急ぐわけでもない私は、その場で差出人と僅か数行の短い文面を読んだ。

これって・・・・・

 軽い動悸と共に一瞬で蘇る当時の記憶。楽しい事、辛い事、そして悲しい事、全てが混ぜこぜになりながら、その短い文面は私の秘めた心の奥をこじ開けていった。
 頭が真っ白になると同時に擡げる期待感が言い訳を上回り始めた時、私はバッグの中のスマホを取り出そうとしていた。
 けど、ふと我に帰ると氷の如く身を竦める私。硬く閉ざされた不可侵の悔恨が、僅か数行の手紙によって溶け始めた不思議な感覚に戸惑っていた。
 改めて考えた。スマホを取り出した後の行動を。私が衝動的にしようとしている事は、正しい事なのだろうか?人を傷付ける行為にはならないのか?
 冷静でいようとしても、逸る気持ちを止められない段階まで気持ちは昂り始めていた。
 そんな時だった。

「紗綺・・・」

 掛けられたその言の葉の向こう側、眩しい光の下に見た姿に一瞬目を疑った。そして、彼の手に握り締められた同じ手紙、にも。
 私はその手を握り、踵を返すと廊下を戻っていった。
 今、何故こうなっているのか分からない。その過程を考える余裕も無ければ、自制という概念すら無くなってしまっている。
 私は薄暗い玄関で、その人と痛みを伴う程の強い口づけを交わしていた。理性が効かない事に戸惑いながら、相手の存在を確かめるように只管唇を貪り合う。
 懐かしい匂い、温かくて強い腕の中。
 むき出しの欲望のままお互いの服を剥ぎ取り、弾け飛んだボタンが床を転がる音を聞きながら、私達は一糸纏わぬ姿で抱き合った。そしてドアのすぐ向こう側で人が歩く踵の音を耳にしながら、そのまま冷たくて硬いフローリングの床の上で一つになった。
 3年ぶりに会ったこの人と、言葉らしい言葉は一切交わしていない。多分、今この瞬間の私達にそんなものは必要ないのかもしれない。床に落ちた二通の手紙が私達の気持ちを再び結び付け、なるべくしてなったような気がする。
 彼は最初から激しかった。そして私も。
 抱き合う肌の温もりを実感することもできない程、一体となる事だけに夢中になる。涙が溢れそうになるけれど、その意味を考える余裕もない。盛り上がる目の前の胸筋がクライマックスを告げ、同時に私も弾けようとする。
 あまりに強くて深い絶頂の波が私達二人を同時に襲い、勢いで一瞬抜けた彼の性器が踊り狂うように暴れ、凄まじい勢いで迸りを放った。それは私の頭上を遥か越えて奥の壁に当たり、尚も狂おしく腰を暴れさす彼のペニスの先端からは、断続的な射精が私の顔、胸、お腹、脚と、ありとあらゆる部位に撒き散らされてゆく。
 慌てて私は彼のそれを掴むと、再び私の中へ導いた。戸惑った表情の彼と目が合って初めて自分のこの咄嗟の行為に気が付いた。
 本能、だった。彼が欲しい、と思った。だから自ら腰をそこに合わせ、導いた。
 再び彼が狭い道を突き進もうとする感覚に身震いする。さっきと違って、今度は彼の体温や吐息が現実のものとして実感できる。私に覆いかぶさってきた彼の肌の温もり、唇の柔らかさ、子宮の充足感。その全てがリアル。
 自分で捨てた過去。無くしたパズルのパーツを探そうともしなかった昨日までの鬱陶しい日々の積み重ね。それで良いと諦めかけた私の人生が、意識を超えたスピードで変わって行く。思量が追い付かない心地良さに身を任せ、私はこの時、荒波に飲まれる快感に身を委ねる決心をした。
彼は繋がったまま軽々と私を抱き抱えると、そのまま家の中へ入って行き、そして寝室の扉を開けた。
 あの日以来3年間、彼以外の何人かと過ごした寝室に今は二人。何故かその事に罪悪感がこみ上げる。彼に悪いと思ってしまっている。今こうして彼と二人きりのこの部屋で、彼の顔を見るのが辛いと思っている。
 ベッドに寝かせられても、私は彼の首に回した両手を解かない。罪悪感で、きっと泣きそうな顔をしているはずだ。その顔を見られるのは恥ずかしいけれど、それよりも許して欲しいと思う気持ちが大きいから、私は彼を上目遣いで見つめ、下から抱き締める事を諦めない。
他の人と付き合ってきた事実を恥じる気持ちはない。でも、この人を前にして、今は後悔しかない。

「ごめんなさい・・・・」
「・・・・ん?」
「私・・・他の人と、お付き合いしてきた・・・・」
「うん」
「あなた以外の人と・・・・・」
「・・・・」

 優し気な表情が一瞬曇ったけれど、すぐに彼は微笑み、ゆっくりと腰を前に進めてきた。
 3年ぶりに会った幼馴染に話し掛けた最初の言葉が謝罪になるとは思ってもいなかった。でも、僅か30分前までは一生会う事もないと思っていたこの人と今こうして重なり合っている事実は、行儀や作法といった理性的行動を超えた本能のみに突き動かされた結果。それを否定する気は毛頭ないし、寧ろ肯定したいと強く、強く感じている。

「3年は、長いよ・・・色々あるさ・・・」
「ごめん・・・あなたも?その・・・他の・・・・」
「・・・・一応、な・・・・」

 激しく交わった後なのに、再び入ってくる彼の存在が生々しく、はっきり分かる。一度出しているにも関わらず、石のように硬いのも分かるし、大きな亀頭が私の中を掻き分けてくる異物感も分かる。そして、彼しか届いたことの無い奥の奥まで達した時、私は二度目のアクメを迎えた。
 以前と同じで太くて頼り甲斐のある彼の二の腕を縋るように掴んだ。彼の大きくて暖かい掌は、ビクビクと震える私のお腹を両方から優しく包み込み、上へ逃げようとするのを押さえつける。そしていまだ私の身体の上で踊る精液を指でくるくると回し、おへそに溜まったそれを親指で掬い上げると私の胸の先端に塗りつけた。
 甘美で蕩けるような彼とのセックス。身体が思い出し始め、反応し出す。もう止まらない。止められない。

「武瑠・・・・武瑠・・・・」
「紗綺・・・・ああ、紗綺・・・・好きだ、大好きだ」

 彼の声が上ずっていた。殆ど抱き合っているだけなのに、キスを交わしているだけなのに、私の一番深い所に二度目の射精を始める武瑠。忙しなく上下する彼の背中を抱き締めて、私は彼の耳元で囁いた。

「逢いたかった・・・ずっとあなたに、逢いたかった・・・」

 身体が震えた。
 自ら発した言葉に、涙が出た。
 私はついに、言ってしまったんだ。
 その瞬間、ドクっと中で彼が脈動した。出し切ったと思っていたのに、そのままゆっくりとピストン運動を再開させる彼。精液で満たされた私の中を彼の大きなペニスが行ったり来たりする度に、掻き出された白濁液がお尻を伝ってシーツを濡らす。今まで付き合った誰よりも太くて長い彼のそれは、この3年間で慣らされた私のあそこには大き過ぎた。みっちりと隙間なく密着する性器と性器、ゴツゴツとした亀頭の段差にある深い溝にも絡みつく私の中の柔らかい肌。問答無用の甘い刺激は、私から冷静さを奪おうとする。

「ああっ、あっ、武瑠っ!あっ!あっ!あつ!あああっ!あああっ!・・・あっ、あっ、あっ!ああっ!」
「逢いたかった・・・俺だってこの3年間、ずっとお前に逢いたかった・・・・」
「やっぱり・・・ああっ、武瑠・・・・・ああっ!あっ!んんっ!あんっ!・・・あっ、いやっ!・・・・あっ、あんっ!あんっ!あんっ!」
「止まらない、紗綺・・・止まんないよっ!」

 彼が私の両脚を肩に抱えると、上から打ち込むような激しい腰使い。私達の繋がった部分が視界に入り、今セックスしているという証を見せつけられ、私は数度目のアクメを迎えた。必死に彼の頭を抱き締めて、彼の唾液を嚥下し、そして貪った。
 突き抜ける快感。
 この人と交る喜びは、女として世界一の栄誉とすら思える瞬間。

「好き・・・・好き・・・・武瑠、大好き・・・・」

 彼と見つめ合い、思わず呟いた言葉に嘘はない。

 やっと言えた
 やっと伝えられた

 ずっと言えなかった言葉。彼と出逢ってから、自分でも気付かないふりをしていた強い気持ち。

「ずっと、ずっと好きだった・・・・」
「俺だって・・・・」
「あなたが好き・・・武瑠が、大好き・・・・愛してる」
「好きだっ、紗綺・・・あぁ、紗綺・・・・紗綺っ!」
「武瑠・・・好き・・・好きぃ・・・・武瑠、大好きだから・・・愛してる・・・武瑠、愛してる・・・好き・・・好き・・・・」

 気持ちを打ち明けながら愛し合う多幸感は生まれて初めての感動。この世に生を受けたのは、この人のため、とさえ思える深い愛情が止めどなく溢れ、止めることができない。もっともっと彼と一つになりたい。いっそ彼の一部になりたい。
 両手を握りながら、瞬きを忘れて見つめ合う。両想いである事の奇跡に感謝しながら、幸せで胸が一杯になる。
 深く激しく愛されながら、彼は3度目の射精を私の中で果たした。そして当然のようにそのままセックスは続く。萎えることの無い欲求は愛情の裏付けなのだろうか。彼のペニスは衰えるどころか、益々雄としての滾りを誇り、硬く強いまま。
 飛びそうな意識と戦いながら、私達は視線を絡める事をやめなかった。後ろから愛されようと、逆さになろうと、見つめ合い、唇を重ね合わせ、そして彼の精を何度も何度も中で受けた。
 既に陽は陰り始めていたけれど、私達は時間を忘れてずっと繋がったまま。お互いの身体で口付けしていない場所は無いくらいに没頭した。
 諦めていた再会を果たしてから五時間が経っていたけれど、濃密過ぎる逢瀬の中にいる私達には僅か數十分の事としか思えない。窓から射し込む緩やかな西陽に照らされて、ベッドに腰掛ける彼の上に跨って抱き合っていた。既に数を数えることすら無意味な程に私を愛で続けた彼のペニスは、さすがに最初のような勢いは無かったけれど、それでも私の中で強い存在感を保ったまま。手を繋ぎ、見つめ合い、私は彼の上で波のようにゆったりと身体を揺すった。「愛してる」「好き」この言葉だけを何度言い合っただろう。この3年間、いや、20年近く想い続けた熱情は冷めることなく炎を灯し続け、そしてこれから益々燃え激ろうとしている事になんら疑う余地など無い。女として子を宿す大切な場所に浴びせられた世界で一番大切な人の分身、それが私の血液や細胞の隅々まで浸透する喜びでおかしくなりそう。

「もう二度と、お前を離さない・・・絶対に離さない」

 窓から差し込む僅かな街灯の灯りを頼りに、私達の揺らめきは続いていった。






 猛暑が続く中にあって、その日は珍しく夜風の涼しい一日だった。エントランスのドアが開く度に揺れるロビーに飾られた笹の葉の擦れ合う音は、そこを行き交う着飾った人達の心を優しく解して行く。
 3ヶ月後、真夏の都内某所。
 誰もが二度見する程に目立っていた二人。でもその二人はそんな事には一切無頓着に、手を繋いで会場の奥を望みながら人垣の中を歩いていた。

「凄い人だな」
「だね」
「てか外人も多くね?」
「どこかの国の大使とかも来てるらしいよ」
「まじか・・・・さすが有二だな・・・・」
「うん」
「て言うかさ、中々あいつの所に辿り着かないな」
「順番待ち?みたいね」

 顔を寄せ合って笑う姿は、誰の目から見ても仲の良いカップル。大勢の人混みをかき分けるように歩く二人は繋いだ手と手を一瞬たりとも離す事はなく、一歩一歩確実に有二の元へ近付いていった。

「有二、遠くから見ても全然変わらないね」
「ああ・・・・・相変わらずで、なんか俺、少し泣けてきそう・・・・」
「え?なんで?」
「いや、あいつもさ、頑張ってんだなって」
「そりゃそうだよ」

 ニコニコと優しい笑顔の紗綺はバッグから柔らかなハンカチを取り出して、情けない表情の武瑠の涙を拭っていた。

「おーい、武瑠!紗綺!」

 遠くで手を振る有二。その隣には、ゴールドの緩やかなウエーブが美しい女性が立っている。
二人の結婚を歓迎する輪の中から出て来ると、彼らは武瑠と紗綺の前まで歩み寄ってきた。

「結婚おめでとう、有二」
「ありがとう、紗綺」

 紗綺の隣で慌てて涙を拭う武瑠は、何も言わずに有二の手を握ると、そのまま抱きついていった。

「お、おい、どしたの、武瑠」
「いや・・・何て言うか、言葉がうまく出ないから・・・」

 抱き合う二人を見つめていた紗綺の手を握ったその人は、エクアドル出身の有二の元同僚。彼の妻となった美し過ぎる彼女、エリカは、流暢な日本語で紗綺に微笑みかけて言った。

「彼からあなた達の事は聞いています。今日は来てくれてありがとう」
「ご結婚おめでとうございます」
「まだ向こうでの生活が続きますが、是非二人で遊びに来てくださいね」

 何気ない会話。側から見ても、こういう場ではありきたりな風景。紗綺はフレンドリーな笑顔で話し掛ける元フィアンセの妻の屈託のない表情に、無論一片の疑念すら抱く事もなく会話に花を咲かせていた。有二が選んだ人なのだから、最高の女性に決まっている。泣きながら彼を祝う武瑠の姿を横目で見ながら、今会ったばかりの二人は、まるで久しぶりに会った幼馴染のようにガールズトークに夢中になっていた。

「あとでさ、もっともっと四人で話そうよ」
「有二は時間大丈夫なの?お偉いさんとか、結構来てるんじゃね?」
「君ら以上に大切な人なんているもんか。大丈夫だよ、今日の為に僕らはプライベートな時間をちゃんと取ってるから」
「うん、分かった」

 有二は周りを軽く一瞥し、妻の手を握ると武瑠と紗綺に一歩近付いた。

「君達も、そろそろだよね?」
「ん?何のこと?」
「僕は今、最高に幸せなんだ」

 隣の妻と視線を合わせ、ニッコリと微笑む二人。

「君らにも幸せになってもらわなきゃ困るんだよ」
「・・・・え?」
「有二・・・・」
「だって、僕らのストーリーはこれからも続くんだから。ずっと、ずっと続くんだからね」

 隣でさり気なくウインクするエリカ。

「じゃあまた後で」

 そう言って妻の手を取り、笑顔で向こうに戻って行く彼らの後ろ姿を見ていた。そしてたちまち人の輪の中に埋没して見えなくなる二人。
 高い天井から釣り下がるダイヤのような輝きのシャンデリアはまるで氷柱のよう。ステージの脇で演奏されるピアノと弦楽器のバックミュージック。そしてすれ違う人達は皆笑顔。華やかで厳かで楽しげな雰囲気は、子供の頃に憧れた竜宮城にどこか似ていた。

「凄く・・・・綺麗な人だったね」
「ああ・・・・」

 どちらともなく手を繋いだ二人。夢見心地の世界の中で相手の掌から伝わる温かさは、夢を現実に引き寄せる魔法のツール。

「なあ、紗綺」
「うん」
「七夕の話って、知ってる?」
「今日は七夕だもんね・・・勿論知ってるよ?なんで?」
「織姫と彦星って、働く事をやめちゃったから天の川で引き裂かれたんだってさ」
「あ、そうだったね」
「仕事が手につかないほど、強く愛し合っていたんだって」
「へぇ・・・なんか・・・・・いいね、それ」
「俺たちは大丈夫だよな」
「・・・当たり前じゃん」

 有二たちを囲むように集まった人達の数度目の乾杯の音が遠くから聞こえた。

「紗綺」
「うん」
「結婚しよう」
「うん」
「うんって、・・・返事早くね?」
「今日、なんかそんな予感してたから、心の準備はバッチリだよ」
「マジかよ・・・」

 武瑠は苦笑いしつつ紗綺の方を見ると、彼女の瞳からは涙が溢れていた。

「あのね、武瑠・・・・」
「うん」

 潤んだ目を伏せた紗綺。握った手の力が少しだけ弱くなった。

「私達・・・・・・・その・・・・・幸せになっても・・・いいのかな・・・・・」
「・・・・・ああ、いいんだよ・・・あいつらも、きっと、きっとそれを願ってくれているから」

 今度は武瑠が紗綺の涙を拭っていた。笑顔なのに、涙が止まらない彼女の肩を優しく抱くと、栗色の髪の毛に唇を寄せた。

「有二達、凄く幸せそうだったな」
「だね・・・・」
「俺達もさ、あの二人に負けないくらいに幸せになろうな」
「・・・・うん」

 肩に回された武瑠の手にそっと自分の手を重ねる紗綺。見上げた視線の先には、優しく微笑む最愛の人の笑顔。
 緩やかに流れる時間の余韻に浸っていると、満たされた心を上書きしてくる彼の次の言葉に、紗綺は吹き出してしまった。

「今度はさ、あいつらの子供と俺達の子供が歴史を繋いでいくんだよな」
「何それ、気が早くない?」
「いや、そんな事はない。善は急げ、だよ」
「言ってる意味が分かんないんだけど」
「俺、あいつらの幸せに満ち足りた表情見てからずっと我慢してる」
「なにを?」
「お前と、本気の子作りしたいって」
「はっ?」

 思わず漏れた声は、漏れたというにはあまりに大き過ぎた。周りの人達の視線が一瞬二人に集まり、そして霧散した。

「ここ、ホテルだぜ?」
「やっぱ言ってる意味、全っ然分かんないんだけど」

 彼女が言い終わる前に彼は強く彼女の手を引いて会場を出ようとした。

「嘘でしょ?ね、武瑠、冗談だよね?」
「冗談なもんか。もう、気持ち抑えらんない。紗綺だって、そうだろ?」
「いやいや、無いって、武瑠、それはないよ」
「嫌、なのか?」
「だって武瑠・・・今朝だってあんなに・・・・」

 広い廊下で武瑠は立ち止まり、紗綺の顔を覗き込んだ。その表情はどこか切羽詰まって弱り切っていたので、彼女の怒る気力は瞬時に萎えてしまっていた。

「嫌、とかじゃなくて・・・、ほら、私達、服だってさ・・・あの、落ち着いて、武瑠、ね?ね?」
「大丈夫、全部大丈夫だから」

 そう言って手を引いて前を歩いて行く武瑠の後ろ姿を見ながら、紗綺は大きく溜息をついた。

「もう・・・・・あのね・・・・・武瑠・・・・・ドレス、汚しちゃ嫌、だからね」

 呆れ顔の中に、母性を感じさせる笑顔を含ませて、紗綺は武瑠の歩調に合わせてロビーを歩いていった。
 今や一部上場企業の主任を務める武瑠はある意味なんら成長する事なく、武瑠のままだったのだ。

 遥か後方で奏で始められたオペラの生演奏も、もう二人には聞こえない。真っ赤な絨毯が敷かれた長い廊下を早歩きで進む二人の姿は、古い童話の世界から飛び出してきたように絵になっていた。

「大丈夫、あいつらに会う時間までには絶対戻ってこれるから」

 懲りない彼と優しい彼女、二人の幼馴染と紡いできたささやかな彼の半生の物語は、神のみぞ知るワクワクするような未来の序章に過ぎなかった。

「ご、ごめん・・・ちょっと、その、遅れちゃった・・・」

 幼馴染四人で会う時間に、この二人がやや遅れてきた事は言うまでもない。

「大丈夫、織り込み済みだよ、武瑠」

 ロビーに響き渡る若いカップル達の笑い声。
 これはいつまでも優しい夜風が心地よい、ある夏の日の夜のお話でした、とさ・・・・・・・





おしまい





















トライアングル・トラップ〜for whom the bell tolls〜 前編

 いつもより明るい陽の灯りにつられ、彼は未だ寝息を立てている彼女を起こさぬようゆっくりベッドを抜け出すと、カーテンの僅かな隙間から窓の外を見た。

・・・雪、か・・・・

 昨日までコンクリートに覆われた都心の街は一夜にして真っ白な銀世界。雲の隙間から覗く朝陽が反射していつも以上に部屋の中を明るく照らしていた。
 人差し指で窓の水滴を拭う。外気温との差もあって、夜通し行われた飽くなき営みが僅かな結露となってその痕跡を残している。高気密設計の窓は外界の喧騒を遮断し、今ここにいる彼女と二人きりの空間を彼にとって唯一の世界にする。
 婚姻前の普遍的なカップルが欠かさない避妊という距離感を無くしてから、この二人は昨夜何度抱き合った事だろう。想い合う人の奥深くで繋がる多幸感は筆舌し難く、その感覚は二百人をとうに越える彼の過去の女達を遥かに凌駕していた。
 視線を下に向ける。
 だらんと垂れ下がるペニスと、その根元の陰毛に絡まる乾いた体液ですら愛おしく感じていた。
 睡眠不足の気怠い身体には眩し過ぎる反射光を遮る為にカーテンを再び閉めた時、彼は背後で微かに空気が動くのを感じた。
 振り向くと、ベッドの中で上半身を起こした彼女がネックレスを手に取って首に掛けようとしていた。首の後ろに両手を回し、そして長い髪の毛を緩く搔き上げると、豊かな胸の谷間に落ちそうになっているハート形のオブジェを手にとって見つめている。

「凄く似合ってるよ」
「・・・・」

 武瑠が隣に滑り込んでも、紗綺は何も言わずに大事そうに両手でそのオブジェを撫でているだけ。ただその表情は柔らかく、触れると壊れてしまいそうな弱々しさも孕んでいた。
 細く長い彼女の指先は、小さくて繊細なアクセサリーを触れるに似つかわしい。それは昨夜の嵐のような逢瀬で、彼のペニスを激しく、暴力的に擦り上げ、自らの口中に射精を促す為の役目を果たさせるには、あまりに不釣り合いかもしれない。だけど、アンバランスであればあるほど、彼は彼女の心からのその行動に胸を掻き毟りたくなるほどの嫉妬を覚えていた。

この人は、他人のもの

 お互い気持ちを打ち明け、両想いである事が分かり、それでもなお幼馴染の親友を選ぶその心を引き寄せる手段がない事を悟った時、たとえそれを彼女が認めようとしなくても、彼は二番目の他人というポジションに甘んじる事を決めた。人生の半分を懸けるに相応しい相手をこの手から逃す事などあり得ないからだ。紗綺のいない人生など、武瑠にとっては死んだも同然。
 汗だくになりながら抱き合ったにも関わらず、いまだ彼女の首筋から漂う甘い香。何度愛し合ってもそのフェロモンが尽きないのは昔からの事。
 瑞々しい太腿に人差し指で触れる。弾くような若々しさと、柔らかくてスベスベな感触に彼は下腹部が脈動する気配を感じた。数え切れない回数の射精を繰り返した後で尚、だ。
 すっと滑り上げ、切れ上がる股のラインをなぞる。一番柔らかそうなそこを往復すると、微かに身をよじる彼女。その先に触れた陰毛は、やはり彼のと同じで硬くガサついていた。
 そのままお腹を這い上がり、底が見える深い臍の中に指を入れて刺激するのもいつもの事。中に微かに残る精液の滑りを指先に感じながら、なおも身体の中心を縦に走る窪みに沿って撫で上げる。そして見事な造形を誇る乳房を下から持ち上げ、その重量感を両手で感じ取る。それでもまだネックレスを大事そうに弄る紗綺の横顔を見つめながら、お碗型の頂点にあるピンク色の乳首を「ちゅぷっ」と口に含んだ。
 既に硬くなったそこが柔らかい口中粘膜に包まれた瞬間、「んっ・・・」と声を漏らす彼女の両手からオブジェが零れ落ち、深い胸の間に挟み込まれてしまった。
 乳首を舌でねぶりながら、片手でもう一方の乳房を揉む。見た目は中身がみっちりと詰まってパンパンに張り詰めた様なのに、実際は指の間からムニュリとはみ出す柔らかな肉の感触は、いつでも彼の興奮を最大限に昇華してくれる。
 乳首から唇を離し、舌で鎖骨を舐め上げた時、乱れた前髪の奥に彼女の諦めの瞳を垣間見た。ゆっくりと顔をこちらに向ける紗綺の唇は半開き、そしてその奥に蠢く赤い舌先に夢中でむしゃぶりついた。唇と唇が隙間なく接合し、唾液で滑るまま擦り合わせ、中で暴れ回るお互いの舌を必死に絡め合った。いつしか片手は恋人繋ぎでしっかりと握り合い、武瑠は鼻孔を擽る紗綺の芳香を胸一杯に吸い込んでいた。ドロドロになるまでセックスに没頭した次の朝にも関わらず、彼女もまた彼を欲する情欲に溢れていることに覚えるこの上ない感動。やがて紗綺のもう一方の手は武瑠のペニスを握り、彼の嗜好に合わせた愛撫をそこに仕掛けてくる。親指の腹でカリ首を強弱つけながらずりずりと刺激し、溢れる透明な液体を掌で亀頭にまぶし、包み込むようにグネグネとこね回す。
 何年もの間肌を重ねてきた二人は、お互いの身体の全てを知り尽くしていた。セックスの回数、濃度では間違いなくダントツの相手。特に最近ではほぼ毎日夜が更けるまで愛し合ってきた。恐らく千回以上は抱き合った仲だから、彼女がこの後どうして欲しいのか、どうしてくれるのか、彼には大体の見当がついていた。
 紗綺は唇を離すと、無表情の中にも僅かにはにかむ目元、恥ずかしそうにする時の彼女の次の行動は予想した通りだった。腰まで掛かった毛布の中に頭を潜り込ませると、すぐにペニスは温かい紗綺の口の中に包まれた。夜通し絶頂のてっぺんで、蕩けるような眼差しを絡め合いながら何度も昂まっていた彼と彼女なのに、今はどうやらフェラチオする所すら見られたくない紗綺が取ったこの仕草もまた定番。頭隠して尻隠さずの状態。こんな矛盾した彼女の可愛さもまた彼にとっては掛け替えのない魅力に他ならなかったのだ。
 四つん這いになった彼女の腰から下が布団から丸出しになっていた。五本の指で、肉付きの良い尻を握る。そして弾くようにした時の、ぷるんっ、と震える弾力性に溢れた様相が武瑠の興奮の滾りに油を注ぐ。シックスナインの形に移行し、目の前の彼女の秘めやかな部分を凝視する。気が遠くなる程繰り返された抽送運動の所為で、少しだけ開いている大陰唇は既に濡れ光っており、そこは息を吹きかける度にキュッと閉まる。布団の中では、秘部を曝け出してそこを見られている羞恥心を紛らわすかのように、彼女が唇によるピストン運動に拍車をかけていた。彼がたゆやかな尻肉を鷲掴み、開いたりとじたりするその都度、くぱぁ、と中を晒す穴を見ていると、フェラチオの快感と合わさってムズムズとした射精感が押し寄せてくる。昂まりは紗綺も同じようで、武瑠の胸に密着した柔らかいお腹が忙しなく収縮を繰り返していた。
 彼らは布団を蹴り飛ばすとそのまま上下逆転し、両肘で彼女の両脚の裏腿を限界まで押し広げると、そのポッカリと開いた穴の中に強引に舌を差し入れていった。

「んっ!んんっ!あふぅっ!・・・んあっ!」
「チュッ・・・紗綺・・・ああ、紗綺・・・チュルル・・・」
「あぐっ!・・・だめ、そこ・・・・んんんっ、んっ!いやっ・・・」
「凄えエロい・・・紗綺の、ここ・・・」
「やだっ、ダメ・・・いやっ・・・」

 武瑠の尻に十指を立てる紗綺は、ペニスを咥えたまま唸るような嬌声をあげていた。ブレーキの外れた彼は、申し訳ないと思いつつ彼女の口をヴァギナに見立てて腰を振り出す。亀頭が紗綺の喉を押し潰そうとも、彼女は両手で武瑠の尻を目一杯広げ、時には肛門に指を差し込んだりしながら必死になってついていこうとする。
 やがて腰をガクガクと震わせてイク紗綺を見つめながら、武瑠は急速に昂まった下半身を慌てて彼女から離し、間髪入れずに、虚ろな表情で涎を口端から溢れさせながらイキ続ける彼女と正常位で繋がった。潤みきった穴であろうと、彼の太いペニスはそこを潜り抜けようとする時に相当な抵抗を感じるが、憤る程の興奮状態にある中で彼女を労わる事も出来ずに一気に奥まで貫く。恥骨同士がぶつかるよりもはるかに早く、亀頭が行き止まる。一瞬眉間に皺を寄せる紗綺を見つめながら、毛と毛が混じり合うほど紗綺の奥の奥までゆっくりと入り込む。そして仰け反る彼女の喉元を見ながら、「最後の夜」が永遠に続けば良いと願いながら、武瑠は何かに突き動かされたように一心不乱にピストン運動に耽っていった。




「そう・・・なのか・・・・」
「・・・・」

 朝食を終え、母に出されたお茶を前に、僕は両親に紗綺との縁談が無くなった事を報告した。今朝起きてからの二人の落ち着かない様子から、全てを見透かされているような気がしたし、僕自身の決意を早く二人に話したかったというのもある。
 父は一言呟いただけでそれ以上を聞いてこようとはしない。母もその隣で黙ったまま。でも、落胆の色は隠せず、僕を気遣う苦笑いの口元に、どこまでも悲しそうな眼差し。

「あなた達が決めた事なら、仕方ないね・・・」

 明るく振舞う事が罪であるかような雰囲気は、これまでの我が家にはあり得なかった。生まれ育った自宅のリビングに落ちる仄暗い影の色に、こうなってしまった原因を作った自分の不甲斐なさに泣きたくなる。あなた「達」ではない。僕が一人で決めた事なんだ。
 母も父も当然紗綺の事をよく知っていたし、付き合いが始まった時の母の喜びようを思い出すと、心が痛む。本当に、痛む。

「彼女に寂しい思いをさせてしまったから・・・」

 理由を一切聞いてこない二人に敢えて言ってみた。でもリアクションは思った通り、ない。一人の大人として敬意を払ってくれている証拠なのかもしれない。
 無言のまま、二杯目のお茶を飲む。
 時を刻む音だけが耳に残る。

「母さんから聞いたと思うけど、父さん達は午後から熱海に旅行に行くんだ。年末恒例の我が家の慰安旅行、有二も一緒に来いよ」
「温泉だよ?あっちではそういうの、無いんでしょ?久し振りに家族でどうだい?」

 なんて馬鹿息子なんだ、僕は・・・・
 一人の大人どころか、いまだに両親に気を遣わせている・・・・

 目頭が熱くなるのを必死に堪えた。こんな情けない思いは久し振りだ。親不幸にも程がある。

「うん・・・一緒に、行くよ・・・行かせてもらう」
「行かせてもらう、なんて言うなよ、水臭いな」
「じゃあもう一人分、旅館の予約追加しなきゃね」

 席を立つ母の表情は明るかった。父もニコニコと機嫌の良い時の顔をしている。
 心が張り裂けそうだ。
 僕は一体何をしているんだ。
 辛い・・・・

・・・・彼女とは・・・・紗綺とは、本当にもうダメなんだろうか?

 この時一瞬でもそう思ってしまった自分を恥じた。
結婚は誰の為のもの?自分の為?相手の為?それとも両親の為?
 今まで考えた事も無かった自問自答。答えは決まっている。その全部のはずだ。両親の悲しそうな表情に、無意識の内に後戻りしようとした僕の覚悟の浅はかさを垣間見たような気がした。
 出発まで数時間。僕は家を出て頭を冷やすことにした。僕の決心は揺るがない。たとえ何があろうと、決めた事は守り通す。今までの人生がそうだったように。




「紗綺・・・・ああっ・・・・紗綺・・・・紗綺・・・・」
「武瑠・・・好きぃ・・・・」

 言ってはいけない一言を、私は昨夜から何百回となくこの人に言っている。フィアンセと向き合う事を拒み、仮初めの愛情のはずの目の前の幼馴染と一つになって昂まる事に没頭している。

「好き・・・武瑠・・・私、あなたの事が、好き・・・・」

 縋るように抱き締める度に実感できる全身のフィット感、下半身を襲い続ける甘美な性感は、いとも容易く相手が望むその言葉達を口にさせる。

「もっと・・・・もっと欲しい・・・もっと・・・・・・お願い・・・・武瑠の・・・頂戴・・」

 武瑠とはこれで最後。そう決心する事がフィアンセとの未来を予見させてくれると思ったのに、今の目尻を熱くする涙の感触の所以は何なのだろう。複雑に入り組む自分の心の在り処に戸惑う事にも慣れたと思っていたのに、最後を迎えたこの日でさえ感じる心許なさ、いまだ把握出来ていない私自身の身体は、まるで彼に翻弄される風見鶏のよう。
 はっきりしているのは、武瑠に包まれているひとときが好きだという事。壊れかけた私を幾度となく救ってくれたこの場所が愛しくて仕方がないという事。見つめ合って通じ合う瞬間は時間と空間を曖昧にし、私にとってこれが全てであると錯覚させる。一切の躊躇を捨てた真っ直ぐな彼の視線を全身に浴びる時、多分私は女として一番綺麗でいられる。
 彼が無言で私の身体を裏返した。普段は出来れば彼の顔を見つめていたいけれど、後ろから獣のように貫かれるのも嫌いではない。
 四つん這いになる時に見えた武瑠のペニス。私と彼のとで滴る程に濡れたそれは、真上を向いたままピクピクと痙攣するようにその存在を誇示していた。
 思わずゴクリと喉が鳴る。
 昨夜から何度もセックスしているのに、それでも尚私を欲して貫こうとする槍のような象徴を見た後、私は出来るだけ卑猥に腰をくねらせ、猫のように両腕をピンと前に伸ばして高々とお尻を持ち上げた。そしておでこをシーツに付けたまま、背中を思い切りしならせて股を左右に開くんだ。お尻の穴まで晒すその格好に顔から火が出るほどの恥ずかしさを感じるけれど、彼は私のそういう姿も望んでいるはず。武瑠に名馴染まされた今の私は、彼の期待に応える事への興奮で頭がどうにかなってしまいそう。
 私の肩を背後から掴む武瑠の両手は肩甲骨へ下り、そして脇腹を掌で包み込むように撫で、腰の括れまで滑り落ちる。まるで私の身体の立体感を確認するような手つき。そのいやらしい手つきに打ち震え、それに応えたいと願う私は、彼の手がお尻に差し掛かるに連れ、股関節が許す限り股を開く。すると武瑠は両手でギュッとお尻を掴み、何もかもが開ききるまで力強く左右に広げ、じっとそこを凝視してくる。

「だ、だめ・・・恥ずかしい・・・・」
「・・・・」

 蚊の鳴くような私の声を無視して、無言でその部分を見つめ続ける武瑠。
 私のあそこやお尻の穴も、何もかも全て開いちゃっているはず。中まで全部見られているはず。あまりの恥ずかしさに膝が小刻みに震え出し、股間から透明な液体がシーツに滴るのを下から自分のお腹越しに見ていた。
 こんな恥ずかしい格好を見せらるのは武瑠だけ。見られたくないのに、見てほしいと思っている。
 相反する欲求は、彼の舌がお尻の穴に触れた瞬間、電流となって突き抜けた。

「あっ・・・・そこは・・・違うから、ああっ!」

 彼を非難する私の声を聞かずに武瑠は唾液をたっぷり乗せた舌をそこに這わせてくる。熱い吐息と共に、恥ずかしい穴の入り口を舌先で器用に、それこそ皺の一本一本をなぞるように舐めてくる。彼の想いの強さが伝わる丁寧でいやらしい愛撫で、直接は関係ない筈の子宮の奥がジンジンと痺れてくるのを感じた。武瑠がその部分に対する淫靡な欲求を抱いている事は、以前から何となく分かってはいたけれど・・・・
 彼の左手が私の背骨に沿って這い上がってくるのと同時に、右手は私の股の下からお腹を包み込み、優しく揉むように摩り始めた。前から後ろから両手でサンドイッチにされながら、ジュルジュルと涎を啜るようにあそこを強く吸引してくる武瑠。
 思わず逃げようとする身体はしっかりと挟み込まれ、お尻から内臓が全部吸い出されそうなキスの勢いに、私の下半身は言いようのない甘い感覚に覆われた。そして信じられない事に、ボタボタと音がする程沢山の愛液を溢れさせていた。

「凄え・・・」

 そう呟く彼の声はかすれていた。
 武瑠は私の体液に塗れたそこを凝視した後、掌でグチャグチャと圧迫するように刺激してきた。分厚い掌が、私のクリトリスや何もかもを押し潰し、混ぜる様に押し込んでくる。

「やだっ!いくっ!・・・い、いくっ!ダメっ・・・イクッ、イクッ、イクッ!・・・・あああっ!」

 身体の奥が切なくなる。武瑠のセックスに染められた私の身体が、猛烈に彼自身を欲して弾けそうになる。

「欲しいっ!武瑠の・・・ほ、欲しいっ!!」

 心からの言葉に違いなかった。クライマックスは、一つになって溶け合いたかったから。
 はしたなく叫んだその瞬間、大きく軋むベッド、そして彼の地響きの様な呻き声。裂ける程にお尻を開かれ、その中心に感じる硬くて熱い存在。私の両手はシーツを握り締め、狭い膣道をメリメリと分け入ってくるペニスの感触に息を呑んで耐えた。そう、耐えたんだ。
 何度抱き合おうと、この瞬間を何の準備も無く迎えられる筈がない。それ程大きくて硬い凶器の様なペニス。目を閉じて、息を止めてその一瞬一瞬の感覚を逃さぬ様意識をあそこに集中する。フェラチオの時に唇にいちいち引っかかる深い段差のあるカリが、膣の内壁を擦りながら入ってくるのが分かる。そして途中で狭くなった私の中をヌルッと乗り越えると、彼の長い指でさえ届かない特別な場所に向けて、巨大な亀頭が全ての肉襞を擦り、巻き込みながら突き進んで来る。
シーツを握る手に力が入る。
全身の毛が逆立つような目眩く快楽の波。
彼のペニスが子宮の入り口をノックした後、一旦少しだけ腰を引き、そして一気に貫いてきた。
 大切な場所が、愛する人と子を宿す神聖な部屋が、彼のグロテスクとも言えるペニスに押し潰されて形をグニャリと変えた。あまりの強烈な感覚に、私はシーツが破れる程に強く握るだけではなく、目の前のそれをギリギリと噛み締める。
 まともに呼吸すらできない。
 下半身が彼自身に同化したような不思議な感覚の中、私は必死になって膣を締めた。中で一段と大きくなった武瑠のペニスが、私の中の奥深くに入って孕ませたいと躍起になる彼のペニスが愛しくて堪らない。身体の深いところで抱き合う性器と性器の間に僅かな空間の存在も許したくなかった私は、中を締めながら微妙に腰をくねらせ、深いカリの溝にすら自らの柔らかい肉襞を隙間無く巻き付かせようとする。奥までみっちりと密着する多幸感は、余計な抽送作業無くして私を高みへ押し上げてくれた。
 ガクガクと小刻みに震える身体は、抑えようの無い激情の証。爪が剥がれそうになる程の渾身の力でシーツを握り締める。すると子宮を破壊する勢いで快楽のドーパミンがそこに溢れかえる。
 知らず知らずに口を伝う涎、狭まろうとする視界に抗って、世界一の男に与えられる至高の極みを享受する為に、飛ぼうとる意識に縋る。
 暴走するアクメが脳天から突き抜けた時、失神寸前の私を気遣った武瑠が私の顔を覗き込んで来た。

「紗綺、大丈夫?」
「・・・あ、うぅ・・・・」
「身体、凄く震えてるよ」
「ご、ごめんさない」

 彼の不安げな眼差しに思わず謝罪した。誰よりも最高の悦楽の瞬間を与えてくれる男性に、一旦身体を解く程の心配をさせてしまった事を恥じたんだ。
 乱れた私の前髪を整えてくれる彼の右手は暖かく、昂まり過ぎた私の身体が少しづつ落ち着きを取り戻す。

「俺達、あんま寝てないよな」
「・・・・だね」
「少し寝る?」
「大丈夫、私は。武瑠は?眠い?」
「全然」
「私も」
「てかさ、寝たら勿体無いし」
「そう?」
「時間が、経つのがさ・・嫌だからさ・・・」
「・・・・ん・・・・」

 隣に添い寝しながら私の頭を優しく撫でてくれる。こんな時、やっぱりここが一番、と思ってしまう。そして、そう思えば思うほど、相反する寂しさを感じてしまう。

「今日、何時までいい?」
「うん・・・・」

今日までなら・・・・いいよね

 弱い私が自分に言い聞かせようとする。
 本当はイブの夜で終わりにするつもりだったのに。
 彼と一夜だけの恋人を演じた後、私達は遥か昔の間柄に、身体を重ねる以前の関係に戻るはずだった。でも、彼の腕の中で揺れているうちにいつのまにか通り越してしまった24日と25日の境目。何度目かのセックスを終えた時、既に深夜2時を過ぎていた事に気づいていたけれど、私は敢えて気付かないふりをして、彼の腕の中に包まれる事を選んだ。

「夜まで、ずっと一緒にいよう」

 彼が身体を寄せてきた。右腕に押し付けられる硬い胸筋と腹筋の温もり。頰に熱い吐息を感じながら視線を下に向けると、私のお腹に置かれた武瑠の右手が少しづつ這い上がってきて左の乳房を包み込んだ。冷静でいようとも、視界に入る私のお腹が忙しなく膨らんだり引っ込んだりする生々しい動きが今の私の素直な気持ちを表していた。身体中が敏感になっている。この人に触れられたい、この人に触れたい、そう思う気持ちが尽きないどころか、益々強くなっているような気がする。

こんなの、許されない

 そう思う理性的な私を壊そうとする彼の象徴が、私の太腿で存在感をアピールしていた。
 出しても出しても終わらない精力の塊みたいな彼のペニスは、私の太腿に溢れる液体を滴らせ、ギチギチに勃起したまま。指先で触れた瞬間、彼のお腹をバチンと叩く力強さ。私を貫きたいと必死になっている欲の権化を見ていると、今この瞬間がかけがえのない尊いものだと思えてくる。

「ちょっと休む?」
「・・・・」
「ん?」
「でも、まだ・・・・でしょ?」
「え?」

 少し身体を起こして私の顔を覗くキョトンとした表情に、心の奥にしまった大切なものがいちいち擽られる。本当はこの気持ち、あの人の為にとっておきたいのに。

「武瑠・・・・まだ、いって、ないよね?」
「ああ、でも、大丈夫?疲れたろ?」
「疲れた・・・・でも」
「でも?」
「ん・・・何でもない」
「何だよそれ、気になるわ」
「・・・・」

 私は彼の硬いペニスを優しく摩る事で答えとした。

「いいのか?」
「武瑠なら、いいよ」

 彼の表情から笑顔が消えた。
 私を射抜く雄の眼差しに、自然と自分の両膝を抱えてその時を待つ姿勢をとる。
爛々と輝く眼光は、まるで捕らえた獲物を喰らう直前の肉食獣のようで、恐さすら抱く程。
彼の吐息が熱い。心なしか、呼吸も荒くなっているみたい。
興奮する。
ただ単純に、欲望丸出しの彼のこの切羽詰まった表情に私は興奮している。
一つになる為に私の両脚の間に移動した彼の股間は、盛り上がった裏筋や睾丸の裏側まで晒すほど、天を貫くが如く勃起したまま。武瑠の純然たる男を示す一番敏感な器官と私の女を証明する一番敏感な器官が一つになった時、きっと私達は人として一番満たされた宇宙の存在になるはず。この幼馴染との性交は、間違いなく誰よりも、親でさえも与えてくれる事が不可能な幸福の形そのものになり得るのだと。
 グロテスクに勃起したペニスを前に、私は両手で自らのその部分を開いた。

「ここに、挿れて・・・」

こんなの初めてだ。そこを自分で開いて見せるなんて。

「武瑠の・・チ◯ポ、挿れ・・て・・・」

頭がクラクラする程興奮している。
私は自分の口から発せられた卑猥な言葉に心酔し、昂まってしまっている。

「いやらしい女だな、紗綺は」
「貴方の、所為」

きた・・・

武瑠が私の上に体重を乗せてきた。
膝を抱えていた両手を彼の背中に回す。
 やっぱり武瑠の顔が見えるこの形が一番好き。彼の端正で男らしい顔は、私に何時間でもそれを見ていたいと思わせる。彼との逢瀬を数え切れない程繰り返しても、ベッドを離れた瞬間に次の機会を渇望する動機の一つにこのルックスがあるのは疑いようもない。彼と肌を合わせてきた女達がそうであったように。
 私達は一瞬でも視線が違うのを嫌い、瞬きも忘れて見つめ合う。そして彼は器用にペニスの先を私の入り口に添え、ゆっくりと腰を進めてきた。
 見つめ合う瞳が潤み始めようと、彼だけを見ていたい。今こうして一つになる過程でさえ、蕩けるような彼の眼差しを独り占めしていたい。
 私達は視線を絡ませ合いながら、ついに一つになった。
 感動的ですらあるこの瞬間。
 私は両脚を下から彼の下半身に絡めて、文字通り内からも外からも彼と一体になろうとする。彼もそれに呼応して強く抱き締めてくれた。
 息苦しさを感じる程の強い抱擁の中で、私は動かずして数度目のアクメを迎えた。

「凄え震えてる・・・イッてる?」
「ん・・・ごめん・・・」

 また武瑠を蔑ろにして私だけが果ててしまった。申し訳ない気持ちが口をついて出る。
 大きな波が収まりかけてから私は腰を振り出した。今度こそ彼に少しでも気持ち良くなってもらいたいから。

「あの・・・武瑠・・・」
「ん?」

私に合わせて腰を使い始めてくれた武瑠。

「変な事、聞いてもいい?」
「もちろん、なに?」

少しづつ加速してゆく彼のテンポ。

「武瑠って・・・色々な女の子と付き合ってたじゃん?」
「あ、ああ・・・だな」

溜息交じりの返答と裏腹に、彼のピストン運動は大きくなっていった。

「こんな事・・・あっ、聞くの・・・あっ・・・恥ずかしいけど・・・」
「・・・・」
「私って、・・・その・・・・武瑠から見て・・・・あの・・・・」

私が言い淀んでいると、彼は私の目を真っ直ぐに見ながら言った。

「お前は特別だから、決まってるよそんな事」

武瑠が腰を引く度に僅かでも身体が離れるのが切なくて、私は一緒の動きで彼を追随する。

「ダントツの一番だよ」
「ほ、本当?」
「ああ、紗綺みたいに良い女なんてこの世にはいない」
「・・・・」

 動きが一緒だから、ピストン運動によってもたらさせる摩擦は殆ど無い。けど、彼に一番と讃えられた事が嬉しくて、嬉し過ぎて、私の中で微妙に擦れるだけの性器の感触にアクメの兆しを感じた。自分でも呆れるほど敏感になっている事に今更驚くこともないけれど、高みに向かう過程で私は彼のその言葉をもう一度聞きたいと思った。

「私、一番?」
「うん、一番」
「武瑠の・・・・あっ、・・・いい・・・一番なの?」
「ああ、俺の一番、世界一だよ」

 彼と数万回目のキスをしながらその言葉を聞いた。生暖かい唾液を絡まる舌の間から交換し合っている最中でさえ、蕩けるように視線を逸らさない。密着する下腹部から奏でられるくぐもった水音は、奥深くでのまぐわいの証。

「もっと・・・・言って」
「紗綺は俺にとって最高の女だ」
「あっ、あっ、そこ・・・・いい、あんっ、あっ、もっと、もっと」
「こんなに可愛くて、料理も上手で・・・」
「んっ、あっ、あっ、あんっ!ああっ!・・・いやっ、ああ、すごくいいっ!」
「最高にエロいし・・・・」
「あっ、んっ、私っ、・・・エロい?」
「エロいよ、一番エロい」
「エロいの、好きなんでしょ?あんっ!あんっ!ああっ!んっ!ああっ!」
「メッチャ好き」
「じ、じゃあ、いいじゃん、んっ!んっ!あっ!もっと、エロい事してあげるっ、あっ!」
「このエロい胸も、狭いオ◯ンコも、最高に気持ち良いし」
「嬉しい・・・・本当、嬉しい・・・あんっ!だめっ、強いっ!ああっ、そこっ、ああ!」

 背中に回された武瑠の両腕に力が漲り、乳房が痛い程に押しつぶされているけれど全然嫌ではない。寧ろ昂まる性感に従い、私は彼の胸筋や腹筋の割れ目に自分の肌を密着させる事に夢中になっている。もっと、もっと繋がりたい、この人と気持ち良くなりたい、と。

「紗綺は?俺とのエッチ、気持ち良い?」
「凄い、凄っごく、気持ち良いよ、あ、あ、あ、ん、ああっ!ああっ、あっ、」
「なんで?なんで気持ち良いの?」
「だ、だって・・・上手だから・・・・」
「あとは?」

彼の表情が曇った。
私は、彼の言いたい事が分かる。分かるからこそ、それに応えたいと思った。
だから、言うね・・・・また、言うから、ちゃんと、言うから・・・・

「彼氏よりも、チ◯ポ大きいし・・・・」
「・・・うん・・・・」
「彼氏よりも、キスも上手だし・・・・」
「・・・・」
「一番好きな人とのセックス、気持ち良くないわけがないじゃん・・・・」
「・・・・ん、うぉぉ・・・・」
「あんっ!だめっ!・・・・あっ!イッちゃう!また、すぐイッちゃうからぁ!・・あんっ!いやっ、やだっ!ああっ、あんっ!あんっ!あんっ!あんっ!あんっ!」
「いいかっ?俺の、いいのか?」
「いいっ!武瑠のっ・・・・有二のじゃ、届かないところまで、来てくれるからっ!・・・・ああっ!そこっ!最高っ!ああっ!ああっ」
「あいつのじゃ、気持ちよくなれなかったんだろ?おおぉ!」
「なれなかった・・・あの人のじゃ、全然駄目だったから・・・・あっ、あんっ!ひっ!ひっ!あひっ!ああんっ!」
「出すぞっ、いいか?どこに出して欲しい?」
「あ、す、好きな所でいいよっ!ああっ、私もっ!・・・・」
「このまま、また中で出さたい」
「いいよっ、欲しい、私も・・・欲しいっ!」
「口にも、出したいっ!」
「貴方のなら、飲みたいっ!ああっ、飲ませてっ!」
「有二の、飲みたいか?」
「武瑠のがっ・・貴方のが、いいっ、いやっ!ああっ!いきそうっ!また、い、イクッ!」

 武瑠の全身の筋肉が硬くなり、抱き締めた私の腕を振りほどく程盛り上がる。そして子宮の扉をこじ開けるように奥まで突き刺したペニスがそこで弾けた。何度も、何度も脈を打つように吐精される彼の一部を、私は薄らいで行く意識の中で身体に取り込むことだけを考えていた。




「有難うございました」

 三つ指をついた女の子に見送られると、狭くて暗い廊下を出口へと向かう。飾り気の無い事務的なドアを開けた時に視界を遮る眩しい光に目を伏せながら、それこそ隠れるようにその場所から遠ざかろうとした。まだ昼前の繁華街は人も疎らだが、そこにいてはいけないと、そしてそう思うよりも早く罪悪にも似た感情がふつふつと湧き上がる。
 地元の飲食街の裏通りの奥にある風俗街、午後の出発まで時間があった僕は、その中の一つの店に足を踏み入れた。別にそこに行こうと決めていたわけではない。まだ陽も明るいのに煌びやかに光る場末の風情のネオンが、自然と、突拍子もなく僕に取らせた行動だった。
 でも、生まれて初めてのこの風俗経験は散々たるものだった。
 僕の相手をしてくれた女の子は、どこにでもいそうな可愛らしい小柄な女の子、にっこり微笑んで服を脱がせてくれる優しさが偽りだと分かっていても、僕は素直に久し振りの女性の肌に全てを委ねようとしたんだ。
 ところが彼女の奉仕が始まろうと、僕自身は何も変わらなかった。感情移入して、その気になろうと頑張ったけれど、一切何も反応しなかった。決して彼女が悪いわけではなかったはず。それを仕事にしているだけの技術はあったと思うし。
 結局時間を延長しても僕の股間はピクリとも反応せず、彼女の申し訳無さげな表情に恐縮しながらその店を後にした。
 見上げると、厚い雲の向こうで鉛色の鈍い光を放つ冬の太陽。

情けない・・・・何もかも情けなさ過ぎる・・・・
僕は一体何がしたいのだろうか?
性欲を発散したい?
いや、違う。現に僕は全く反応できなかったのだから
単なる時間潰し?
それも違う。そもそも風俗に行くという発想自体今までの僕にはなかったのだから

 キュッ、キュッと踏み締める雪の音。
 自宅へ続く真っ白な路を見ていると、穏やかならざる心が映し出す昨日の情景。不思議な事に、そのどれもが綺麗なポートレートのようにどこか他人事だ。
 事実、容姿の秀でた男女が裸で抱き合う姿は美しい絵画のようだったけれど、薄暗い部屋の中で互いの性器を愛で合う場面はどんなAVよりも卑猥でもあった。
 冷たい両手をポッケに入れる。そして歩を緩めると自然と回顧する昨日の出来事。よく考えればあれからまだ24時間も経っていない。
 あの時、リビングを出て行った二人の背中を見ていた僕は、それから暫くして窮屈なクローゼットから出たけれど、足が震える理不尽さに下唇を噛み、音を立てる事に臆病になっている自分が信じられず、まるで背中に巨石を乗せられた奴隷の如くその場から暫く動く事が出来なかった。僅かに開いたままの寝室のドアの向こうから聞こえる二人の囁き声、僕達の部屋の筈なのに、僕の弱気な心がそこに足を踏み入れてはいけないと叫んでいたような気がした。

何かの間違いだ

 その気持ちが僕の背中を押し、確証を得る為の歩みを進めさせた。
 10センチ程の真っ暗な隙間が迫る恐怖、何もなかった、見なかった事にするという逃避行動を促す寝室の中からの圧力。部屋中に聞こえそうな心臓の高鳴りに胸を押さえ、唾を飲み、そしてドアの前に立った。薄暗い寝室の中は、クローゼットの中の暗さに慣れた僕の目にはその詳細を網膜に映し出すには易かった。

「んっ・・・ん、ん、」

 一瞬、フィアンセのものと認識できなかったその声。苦しさと切なさの境界線上を漂う甘美な旋律が、十数年来聞き続けているその人の声だと分かった時、僕は膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んでしまった。
にも関わらず、僕の視線は中を覗こうとしていた。下半身に力が入らなくても、顔だけは前を向こうとしていたんだ。
 そして決定的な場面を心の奥に刻んだ。
 それはトラウマなんて生易しいものではない。絶望と言う言葉の真意を生まれて初めて知った気がした。
 指が絡み合うようにきつく握られた両手、柔らかい唇を押し付け合う二人が着衣を脱ぎ捨てて裸でベッドに横たわる光景は、この十数年の歴史を嘘にするには充分過ぎた。
 夢中でキスに没頭する二人。唾液を行き来させる湿った音と、ベッドが揺れる音。絡み合った舌先が歓喜の嬌声を不条理に押さえ込み、その焦ったさが握り合った掌をギリギリと締め上げる。薄っすらと汗の滲み出る武瑠の背中が波打つように激しさを増すと、彼の尻の間から引き締まった陰嚢が前後に揺れている様までもがはっきりと見えた。

「紗綺っ!紗綺っ!」

 上半身を起こした武瑠は僕のフィアンセの名前を呼び、彼女の腰を固定するとダイナミックで、寧ろ粗暴と形容するに相応しいピストン運動を仕掛けていった。紗綺の身体は激しく揺り動かされ、鎖骨の下から急激に盛り上がるお椀型の美しい乳房が見る影もなく暴れ回る。武瑠の機関車のような抽送運動は乳房のみならず、彼女の身体全体をガクガクと振動させ、時折彼女の頭が木製のヘッドレストに打ち付けられようと全く緩む気配を見せない。
 しかし、冷静を装う僕の心配をよそに、そのような状況下でも彼女の口から出るのは相手を賞賛する言葉ばかり。僕とでは聞いたこともないような具体的で雄を奮い立たせるには余りある卑猥な言葉を口にして、その暴挙とも言える激しいセックスを鼓舞していた。

「武瑠!ああっ!凄いっ・・・・武瑠の・・・チ〇ポ・・・凄く大きいっ!・・・だから・・・もっと!・・・もっと!してっ!」

 背筋がゾワゾワした。男性器を揶揄する言葉の数々を口にするフィアンセを、僕はそんな紗綺を知らないからだ。そういう言葉を口にする事を毛嫌いする女の子だとずっと思っていたのに。

「ああっ、だめっ・・・貴方のチ〇ポっ・・・で、イっちゃうっ!また、イっちゃうからっ!・・・」

 激しく揺り動かされる紗綺の口から微かに涎が垂れていた。卑猥な言葉の数々は武瑠を興奮させるだけではなく、その恍惚とした表情が自らをも昂らせている事を証明していた。
 やがて紗綺の身体を突き刺す武瑠のピストン運動は激烈を極め、「死んじゃうっ!」と叫ぶ彼女からそれを一気に引き抜くと、彼はゴムを外して彼女の上に乗った。紗綺の両脚が武瑠の太腿に掛かったままであろうと、射精の瞬間にある彼にそれを気にする余裕は無い。押し上げられた爪先が頭の上に押し付けられるほど身体を二つ折りにされた紗綺は、胸元に突き出された武瑠の性器を両手で扱いていた。彼の野太い声と共に勢い良く射精された精液が僕達の寝室の壁をビシャっと音を立てる程に叩き、次に彼女の顔を汚し、乳房を白く染めている間にも二人は視線を逸らすことはなく、クライマックスの頂をより一層押し上げようという欲望に忠実に振舞っていた。

 気がつくと、僕の頰を伝う冷たい感触。それを拭う気にもなれない僕の目は、焦点を遠くに置いた夢想の世界に向いていた。
 何がいけなかったのか?何が僕には足りなかったのか?
 自問自答すればするほど沸々と込み上げる後悔。

僕が海外勤務をしなければ・・・・
いや、そもそもこの会社に入社しなければ・・・・

 巻き戻される僕の記憶が、鮮やかだった僕達三人の思い出が、思い出すそばから次々と黒く塗りつぶされていく。
 就職してから今までの間、幼馴染の二人に変わったところは無かった。会社の雰囲気に馴染むのに少し苦労していたように見えた紗綺も、数ヶ月ですぐに慣れたようだし、武瑠については学園生活を満喫しながらも、どこか抜けた三枚目を演じる余裕も相変わらずだったはず。

その二人がこんな事になるなんて・・・・

 横を向いたまま、後ろから紗綺を貫く武瑠。彼女の中に出し入れされる黒い性器は、薄暗い中でも異様に長く太い姿を主張する。
 彼女は汗で艶やかにうねる真っ白いお腹をこちらに曝け出し、後ろ手に武瑠の頭を引き寄せ舌を伸ばしていた。
 情熱的で官能的で幸福感に満ち溢れた逢瀬。幼馴染とは言え、将来を約束し合った僕達の間に武瑠がこんな形で入り込むのは人として許されない筈なのに、セックスで与えられた歓喜の瞬間を躊躇いなく全身で表現する紗綺を見ていると、冷静に状況を判断するには既にその能力を失いつつある僕の頭脳は、これも一つの愛の形であると受容する思考を示そうとする。それ程までに僕は武瑠の事を信頼していたという事なのだろうか。
 霞んで行く青春の日々を遡る過程で、あの頃に、僕が紗綺に告白したあの頃に戻りたいと願いつつ、掛け違えたボタンを一つづつ取り直す術を自然と考え始めていた事に驚いた。目の前で上下逆さまに重なって互いの性器を愛撫している二人の姿を目の当たりにしているのに・・・・

高校の頃が・・・一番楽しかったなぁ・・・

 現実を見て、現実から逃避する。
 声を出して泣き叫びたかった。
 嘘だと誰かに言って欲しかった。
 目まぐるしく愛撫の形を変える二人は後背位で繋がっており、そのままフィニッシュを迎える覚悟が込められた激しさで昂まろうとしていた。
 武瑠の身体が硬直し、バキバキに硬く盛り上がる腹筋。それと相反した紗綺の柔らかそうな尻が打ち付けられる度にたわわな波紋を伴って揺れる。疲労を遥かに凌駕する性欲は、汗だくの二人に一寸たりとも休む暇を与えない。

「有二より、いいだろっ?ああっ、紗綺っ!紗綺っ!」

僕の名を呼ぶな
こんな時に、僕の名を呼ぶな、武瑠

「いいっ・・・ゆ、有二よりも・・・あの人よりも・・・ずっとずっと、いい!・・・」

 圧倒的なセックスを目の当たりにしている僕は、二人のやり取りを聞いていても不思議なくらいに冷静だった。

言われなくても分かる。そんなの、誰だって分かるよ・・・・
でもな・・・・でも、君は僕のフィアンセじゃなかったのか?・・・・結婚を約束したじゃないか・・・・こんなの、あんまりじゃないか・・・・
もう・・・・君の中に、もう僕はいないのか?

 とめどなく溢れる涙を拭った。今度は何度も何度も拭った。目元が赤く腫れ上がろうと関係なかった。こんな事で流す涙なんか、僕はいらない。

「ああ、紗綺っ・・・最高だよっ、今夜のお前、最高だよ・・・」
「私だって・・・」
「離れたくないなぁ・・・紗綺と、ずっとこうしていたいなぁ」
「・・・・あっ、・・・・や、イクッ・・・・」

 武瑠の下でガタガタと震え出す紗綺を、彼は動きを止めて見つめていた。背骨が折れそうな程弓なりになり、シーツを握り締めた拳がワナワナと震えている。

「大丈夫?」
「ん・・・・」

 武瑠の大きな手が紗綺の重く揺れる乳房を包み込む。息も絶え絶えの彼女は彼の手に自分の手を重ね、そして振り向いてキスをねだっていた。
 乱れた前髪が邪魔で彼女の表情は窺い知れないけれど、半開きの濡れた唇のなんと淫靡なことか。自分の腕の中で将来を語り合った無邪気な彼女の姿はそこには無かった。

「今までで最高のセックス、しような?」
「・・・・うん」

 大海原を漂う船のように、武瑠の下半身が再び揺らぎ始める。

「俺の気持ちは一生変わらないから」
「・・・・」
「だけど紗綺の気持ちも尊重する・・・・」
「・・・・ごめん・・・」

 二人の会話の意図が分からなかったが、言葉を発する度に絡みつくように交わる舌と指が、少なくとも今の二人の想いを代弁しているようだった。

「だから、今夜だけは、最後だけは・・・・今までで一番の二人でいよう」
「んっ、・・・・あっ、あぁ・・・・」

 次第に強くなる摩擦運動が彼女の中を蕩けさせ、返事と嬌声の境界を曖昧にする。

「これまでで一番の夜にする」
「あっ・・・いい、そこ・・・・凄くいいっ!・・・・んっ、あっ、あっ、あっ」
「俺が高校の頃試合に負けた時、お前を抱いたあの日よりも、もっともっと最高で忘れられない夜にしたい・・・」

押し潰された紗綺の背中に武瑠が乗りながら、闘うように身体を求め合う二人を見つめる僕の耳が聞こえなくなった。

・・・・え?

 何も聞こえない。自分の鼓動の音さえ、いや、呼吸すら出来ていないのかもしれない。
 僕が感知できるのは、目の前で猛り狂ったように腰を叩きつける男の姿のみ。

た、武瑠・・・・今、なんて言った?・・・・

 双丘の間を極太の性器が激しく出入りする。指がふんわりと埋まる柔らかで豊満な紗綺のお尻を鷲掴みして、武瑠は決死の形相でクライマックスに向かっていった。

高校の頃?・・・抱いた?・・・・

 優しさなど皆無の激しいセックスは、苦渋と歓喜の相反する表情を見せる紗綺の背中に体液を放つ事で終焉を迎えた。
 汗ばんだ彼女の背中を真っ白な精液が滑るように四方八方に散らばり、尚も上書きするように武瑠の性器から迸る。何度目の行為か知る由も無いが、その量は間違いなく自分の一度目のものよりも遥かに多い。

「武瑠・・・・好き・・・・大好き・・・・・・・・もっと、もっと貴方と・・・・セックス、したい・・・・」

 最後にその声を聞いたような気がしたけれど、よく覚えていない。気付いたら、僕は雪の中にいたのだから。





「おい、有二」

その声にハッとした。

「おいおい、自分の家をもう忘れたのか?」

振り向くと父が笑っていた。

「街の方はどうだった?お前が住んでた頃に比べると、もうすっかり寂れちまっただろう?」
「ああ・・だね・・・・」

 そのあまりに温かくて仁愛に満ちた父の顔を見ていると、じんわりと熱くなる目頭を押さえずにはいられなかった。見返りを求めぬ肉親の愛情の、なんと心地良い事だろうか。

「母さんももう少しで用意できるから、有二も早く支度しないとな」
「・・・うん」

 綺麗に端に避けられた綿飴のような雪の回廊を父さんの後をついて家に入っていった。
 暖かな部屋と子供の頃から知っているこの匂い。柱や壁に刻まれた小さな傷の意味を全て覚えている。懐かしさに包まれるこの場所が、多忙を極めるアメリカでの生活に翻弄された僕の心を研ぎ澄ます。
 僕が紗綺に対して抱いていた愛情と、両親が僕に注いでくれた愛情に違いがあるなんて考えた事もなかったのに、生家にいる今感じるこの違和感は何なんだろう。
 昨日の内にバッグに入れてあった着替えを、もう一度確認している手元の感覚がない。

僕が与えた彼女への愛情が間違っていた?

 いや、決して間違いではなかったはず。なのに、心の奥深くに漂う後悔を僕が一掃できないでいるのは何故?

「有二、用意はできたかい?そろそろ行くよ?」
「あ、うん、今降りてく」

 ボストンバッグを抱えて立ち上がる。電源を切ったままの携帯に手を伸ばしたけれど、僕はやっぱりそれを持っていく事を諦めて階段を降りていった。




 軽くフリックすると雪崩のようにスマホの画面を流れる名前の数々。1,000名を超える名簿の殆どが女性の名で占められていたが、何故かスマホの持ち主はその半数以上の名前を覚えていない。一夜限りの逢瀬の筈が、本人の意思を無視して無理矢理渡された連絡先も多いから無理もないのだろう。ろくに名前も見ずに無造作に消去していくが、時折その指を止めては躊躇い、そしてやはり消して行く、という操作を繰り返していた。
 ベッドに座って右手を後ろに着き、左手で繰り返すその作業、一人一人の名前を注視する集中力が次第に削がれていくのは、身体を擽る柔らかな肌の所為。

チュプ・・チュッ・・・・チュル・・・チュッパ・・・ 
 
 武瑠は画面を見つめながら、彼の乳首を柔らかく口に含むその人の甘い香りを胸いっぱいに吸う。さわさわと身体にそよぐ柔らかい髪の毛先も心地良い。今すぐにスマホを放り出して抱き締めたいのに、それを咎められた彼はシーツを握り締めて耐え忍び、削除作業に集中しようとする。
 が、薄いTシャツ越しに押し付けられた乳房の感触に加え、キスマークが残る勢いで腹のあちこちを吸い、勃起し始めたペニスを緩やかに扱きながら脚の付け根に舌を這わせ、そして太腿、膝頭へとキスの雨を降らせる事を辞めない紗綺の奉仕に耐えるのは拷問に近かった。
 南中にある太陽から強い日差しがカーテン越しに差し込んで世の中が通常通り動いている事を知らしめようと、十時間以上裸で重なり続けている二人には無関係。最後の日を過ごしているカップルには、社会性とか時間の概念をかなぐり捨ててまで温もりを分かち合う事を優先する必要があったのだ。
 彼の前に正座した彼女は、彼の右脚への奉仕を終えると、そのまま左脚を両手で持ち、同じように指を一本一本口に含んでいった。揺れる長い髪を耳にかけながら丁寧にしゃぶり、指と指の間も伸ばした舌で唾液を塗すように舐める。その行為の一つ一つは情欲ではなく謝意を示すような献身さからなされるものであったが、あまりに扇情的な光景に、それを上から見下ろす彼のペニスの先からは透明な液体が溢れ、幹を伝っていた。

「食事作る前に、シャワー浴びてくるね・・・」

 そう言って立ち上がった彼女は、パンツの横の紐を親指に引っ掛けて少しだけ上げると、控え目な笑顔と憂のある瞳で彼を見つめながら呟いた。狂瀾怒濤さながら、ベッドや床の上で激しく絡み合いながら絶頂を貪った痕跡を微塵も感じさせない淑やかな佇まい。ただ、小さなTシャツにパンパンに詰まった丸い乳房と僅かに見えるお臍の影が彼の呼吸が鎮まるのを許さない。踵を返して部屋を出て行く彼女をベッドの上から見送ると、彼は作業途中のスマホを握り締めたまま、一呼吸おいてから部屋を出て行った。
 



 熱いシャワーを頭の上から浴びる。
 目の前の鏡に映る自分の裸を見ながら、所々に着いたキスマークを人差し指でなぞる。

「こんなに、沢山・・・」

 今までの武瑠との逢瀬ではタブーだった行為。それを今日はふざけ合いながら、寧ろ紗綺の方から誘い、そしていつしか夢中で口付け合った結果は、結局彼女には後悔以外の何物も残さなかった。
 鏡に映る自分の顔が自分ではないような錯覚と、シャワーのお湯と涙の境界線が曖昧なのが救いだと感じるのは、希求と軽蔑が彼女の中に同居する証拠。
 赤く充血した瞳を手で拭うと、ついさっきまで全てを曝け出していた相手の前に、肌の露出を極力控えるべくバスタオルを身体に巻いて向き合った。

「ご飯作ってる間に武瑠も浴びてきたら?」
「うん、そうする」

 ソファから立ち上がった武瑠は全裸。二人が愛し合った痕跡を残したままのそこを隠すそぶりもない。
 紗綺は肩が触れ合う距離ですれ違う彼に視線を向ける事も出来ずに、前を向くだけ。そしてそこにはいつもの部屋の光景、のはず。

「・・・・ん?」

 だからこそ、その違和感に気付くのにそう時間はかからなかった。
 軽く辺りを見回す。
 エアコンの微風に揺れる閉めたままのレースのカーテン。時を刻む微かな時計の音。そして壁に掛けられた彼のジャケット。
 何もかもが見慣れた物なのに、その中に見つけた、もっと懐かしくて愛着のあるキーケース。

「これ・・・」

彼女はテーブルの前に座ると、それを手に取った。

「どうして彼の・・・有二のがここに・・・・」

 床に座り込んでいた彼女は、ハッとして立ち上がり、寝室へ向かった。
 カーテンを開けた途端、眩しい明かりが差し込み、一昼夜繰り広げられた痴態の証拠を生々しく詳らかにする。
 彼女はあちこちを見回すと、床に落ちていたネックレスを見つけ、微かに彼の体液が付着しているそれを綺麗に拭きあげた。
 おかしな気分だった。
 有るはずのないものがある。よく考えてみればこのネックレスだってそう。彼女は彼のプレゼントを断っており、昨日は彼は手ぶらでこの部屋に戻って来たはずなのに。
 湯上りの熱い体が急速に冷えて行く。

嘘、でしょ?・・・

 紗綺は部屋の鍵とネックレスを持って浴室へと駆けて行った。

「武瑠、このネックレスって・・・」
「ああ、それな。言ってくれりゃ良かったのに」
「なんで?どうしてここにあるの?」
「え?何言ってんだよ。紗綺のものなんだろ?有二にもらったんじゃ?俺が買ってやるって言ったら・・・・」
「違う!私のじゃない!」
「え?・・・・・・なにそれ・・・」
「・・・・この、鍵、は?・・・」
「それ・・・」

武瑠はシャワーの蛇口を止め、紗綺が持っていた鍵を手に取った。

「・・・有二、のか?・・」

紗綺は頷きもせず、見開いた瞳を武瑠に向けるだけ。

「このネックレス、どこにあったの?」
「テーブルの上、だけど・・・」
「・・・・」
「お、おい・・・・」
「この鍵も、昨日帰ってきた時・・・無かったよね?・・・・」
「多分・・・・」

有二が来た
昨夜この部屋に、有二が来たんだ

 彼しか持っていないはずのこのキーケースが全てを物語っていた。

それに、クリスマスだから・・・
このプレゼントもそう・・・

 有二はこういう特別な時にとびきりの優しさをくれる人だという事を、紗綺は今、この瞬間思い出していた。

「ま、まさか・・・・」

 悍ましい程の嫌悪と後悔に言葉を発する事も出来ないでいる紗綺を後ろから支える武瑠、彼もまた、正気を失った面持ちでその目は宙を泳いでいた。

「昨夜・・・・来た、ってこと?」
「・・・・」
「クリスマス、帰国する事に、なっていたのか?」

 微かに首を横に振る彼女の肩が震えていた。
 言葉を無くした二人は、そこに立ち尽くす。耳に届くのは、武瑠の身体から滴る水滴が床を叩く音だけ。

「ゆ、有二が・・・テーブルに置いていったのか・・・」

 本当の罪の深さを思い知るには、まだまだ未熟で若過ぎる二人ではあったが、少なくとも眩しい青春の日々を述懐する資格を永久に失ってしまったことを、この瞬間、悟っていた。















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