純愛とNTRのblog

NTR(寝取られ)、たまに純愛の小説を書いていくブログです。18歳未満の方は閲覧禁止ですよ!

僕は君、君は僕(2)

「8時に角屋の前で待ち合わせよう」

私が成也の家を出たその時、彼からのLINEが届いた。話したい事が山のようにある。それに聞きたい事も同じくらいに。
晴れやかな青い空と蒸し暑さは、どこか私の気分を軽くしてくれる。
駆け出したその速度に我ながら驚きつつ、信号が赤に変わる直前に横断歩道を一気に渡り切る爽快感は初めての経験。躍動する肉体は、まるで同じ「人」とは思えない力強さに満ち溢れていた。
男子の、成也の身体って、こんなに凄かったんだ・・・
グングンスピードを上げる。
突然飛び出した猫を軽々と飛び越えると、もう視線の先には学校の正門が見えた。

「こっちこっち!」

控え目だけど精一杯振り絞ったような矛盾した音量のその声は、紛れもなく私の声。
横を向くと、木陰の中にセーラー服の私が立っていた。
・・・・・自分で言うのもなんだけど、やっぱ私って可愛い。凄く可愛い。男子が言い寄って来るのも仕方がないってくらいに。
い、いや、何を言ってるんだ私は。心まで男になったわけでもあるまいし。

「お前、少し内股になってるぞ?恥ずかしいって」
「なによ、成也だってそんなに足広げて立ってないでよね」

二人で顔を付き合わせ、そしてプッと笑った。

「杏、俺の家、どうだった?」
「全然オッケーだったよ。成也は?」
「こっちも問題なし・・・・・あ、そういえばひとつあったわ」
「え?な、なに?まさかお母さんにバレてないよね?」
「いや、その・・・トイレ・・・女って、思ったよりめんどいね」

杏の顔、いや、僕の顔がカーッと赤くなるのが分かった。
無言で足を踏み付ける杏。小さな靴が隠れるくらいに大きな靴に踏み付けられると、これが結構痛かったりもする。それに、一般論的には男子が女子の足を踏むなんて許されない行為のはず。

「杏だって、その、トイレとか、僕の身体のまま、行ったんだろ?」
「仕方ないじゃん・・・・」
「どうだった?」
「べ、別に・・・・」
「触ったら勃起しなかった?」
「ばっ・・・ぼっ・・・って・・・・・馬っ鹿じゃないの!」

なんか真っ赤になる自分の顔を見ていると、キモいってわけではないけど、ちょっと見苦しい。

「私のくせに、その口で変な事言わないでよ!」

取り敢えず、彼女のごつい手を引いて学校へ向かうとする。

「放課後、僕の部屋でいいよな?」
「うん」
「色々考えたんだけど、試してみたい事があるんだ。ひょっとして元に戻れるかも」
「私も。やってみたい事がある」

その日の互いの健闘を祈りながら、僕達はそれぞれの教室へ向かった。




午後三時。
僕は杏の友達の誘いを断り、家の近くの公園で彼女の帰りを待っていた。
ブランコに乗っていると、嵐のように過ぎ去った昨日からの出来事が頭をよぎる。
初めて女として過ごした学園生活は、思ったほど大変なものではなかった。
やはり精神を落ち着かせてさえいれば、勝手に身体が行動を起こしてくれていたし、同時に中の僕自身が傍観者的に杏を見つめていたような気もする。にも関わらず、僕の意思を働かせようとすればそれはそれで簡単で、今日などは杏の親友の一人に「杏子ってこんなに面白い事言う人だった?」と突っ込まれる始末。
自我を出すのは、元に戻った時の彼女に迷惑を掛けるかもしれないから、やはり自重は必要だ。

「だ・か・ら、そんなに脚を広げてブランコに乗らないでよね」

やれやれといった表情で、内股気味の情けない男子が声を掛けてきた。

「杏だってまだ内股だけどな。まあいいや」

僕は彼女の手を引いて僕の家へと急ぐ。

「ところで学校では大丈夫だった?」

はたから見れば、女子に手を引かれる情けない男子の彼女が後ろから話しかけてきた。

B組の蓼科さんに25歳の彼氏がいるって事にびっくりしたくらいで、後は無問題かな」
「聞いたんだ・・・・・・でもそれ、誰にも言っちゃダメだよ」
「もちろん。杏の顔を潰すなんて事はしないよ」
「ありがと・・・・」
「で、杏の方は?」
「うん・・・」

振り向けば、恥ずかしげに微笑む僕がいた。

「ごめん、やっぱ僕のその顔、少しきもいわ」
「失礼ね」
「いや、だから僕のことなんだけど」

なんだかこの奇妙な間合いに慣れてくると、軽口を叩きながら楽しんでいる自分がいる事に驚く。杏にしても同じみたいだ。
僕達は部屋の中で学校でのそれぞれの出来事を報告し合い、問題が無い事を確認すると本題に入った。

「つまりだ、僕らはセックスをしていてこうなった。分かるよな?」
「セックスって、いやらしい言い方しないでよ」
「言ってるのは僕なんだけどな。というわけで、その、エッチ、しよう」
「もう一回したら、って事だよね?私達、戻れるかもって」
「そう」
「・・・・・」
「・・・・・」
「あの・・・え?」
「いや、その、普通男の方、から?・・・」
「そ、そうかな・・・で、でも、二人きりの時はさ、その、成也は成也だし」
「・・・そ、だな」

もじもじする僕は見苦しい。
いや、現実も似たようなもんか。反面教師にしなきゃ。
取り敢えず、二人で一緒に服を脱ぐ事にした。
スカートの方は男子のズボンよりも遥かに脱ぎやすいけれど、未だセーラー服の上着の構造に手元がまごつく。
この時、一緒に服を脱いでいる杏の目が僕の下半身に釘付けになっている事に気が付いた。

「なにガン見してるの?」
「だって・・・スカートだけ脱いでるのって・・・凄く・・・その・・・いやらしい」
「自分の身体だよ?」
「そんなの分かってるけど・・・」

セーラーの上着はそのままで下半身はパンツだけという僕の今の格好は、確かに客観的に考えると、いや、僕が男だったとしたら、それはもう飛びつきたくなるほどエロい出で立ちだと思う。
でも、なんだろう・・・そう考えてもどこかピンと来ないと言うか、率直に言って鏡に映る自分の女の身体を見てもさほど興奮していない。杏の姿をしている今の僕は、女性に対するエロスを今ひとつ掴みかねているというか。外見や意識の深いところは杏の、女の子のそれになっていると思うけど、欲情とかその辺の神経を司る感覚的な部分は男のままだと思っていたのに。
試しに杏の股間を見てみると、勃起したチ◯ポがズボンにテントを作っていた。

やばい・・・なんだこれ・・・・

自分の物のはずのそれを見ていると、疼くような感覚が下腹部を襲い始める。
目の前の杏の表情にも余裕がない。どころか、赤く染まった頰と荒くなり始めた呼吸は明らかに欲情している証拠。
そして、余裕を失ったそんな杏の姿を見て欲情している自分。そう、間違いなく僕は男である時の自分の姿を見て興奮していたんだ。

「杏・・・興奮、してる?」

黙って頷く。

「僕も・・・なんかエロい気分になってるみたい・・・・」

僕のその言葉を聞いた瞬間、杏は切羽詰まったなんとも言えない視線で僕の目を見ると、いきなり押し倒してきた。

「あっ、杏・・・ちょっと・・・」

抵抗する素振りを見せながらも、自分が今されたいのはこういう事だ、と言わんばかりに身体が驚喜する。

「ごめん、成也、私もう・・・・」

抵抗する事を諦める程の杏の力に驚きつつ、上着をたくし上げられた僕は自分の豊満な胸にむしゃぶりつく杏の頭を抱き締めていた。
杏の硬い指先が乳房に刺さる。
ザラザラとした温かい舌の感触が硬くなった乳首を舐る。

「あっ、いやんっ・・・・」

思いもよらぬ嬌声が自分の口から発せられようとも、もはやそれに構っていられない程余裕を失った僕は、杏に断続的に与え続けられる刺激に必死に耐える事しか出来ないでいた。
そして杏の指先がオマ◯コの入り口に触れた時、僕は昨夜杏の身体のまま自慰をしなかった事を後悔した。
こんなにも鋭利だとは思わなかったからだ。

「ち、ちょっと、ダメっ!」

今まで僕が攻めていた時にしばしば杏の口から聞いた拒絶の言葉。嫌よ嫌よも好きの内、と思っていたが、実は本当に耐え難いものだったんだという事が今分かったような気がした。

「だめ・・・杏っ・・・ちょっと、もう少し・・・・優しく・・・・」

耐え切れずに口から出た女々しい言葉。

「ごめん・・・成也・・・なんか、嫌いにならないで、お願いだから・・・」

泣きそうになりながら、杏は忙しなくズボンとパンツを脱ぎ捨てていた。
恥ずかしいくらいに勃起させたチ◯ポが露わになる。
全裸になった杏が、机の中からコンドームを取り出してパッケージを開けようとしていた。

だめだ・・・それだけは、だめだって・・・

僕は必死に自分に言い聞かせていた。
何故ならば、先から透明な液を溢れさせ、真上を向いて硬く硬く勃起しているそこをフェラチオしたいという強い欲求と戦っていたからだ。
身も心も女になろうとしている状態にあっても、その行為だけは本来の男としての理性が牽制していたんだ。
なのに・・・・

「成也、私がいつもしていたように・・・・・その・・・・・フェラ、して・・・くれる?・・・・・」

杏に求められたから?
それとも、自分の身体で興奮している「男の人」に請われているから?
僕は杏の膝頭に両手を添えると、一気に喉の奥までそれを飲み込んだ。まるでそこに迷いなどは無かったかのように。
人間失格・・・そんな言葉が頭に一瞬浮かんだけれど、僕は口中を埋め尽くして尚踊り狂う硬い存在に、間違いなく自らも興奮している事実に酔いしれていた。
歯が当たらないように気を付けながら、僕がいつも気持ち良いと思っていても恥ずかしくて杏に頼めなかったスイートポイントを惜しみなく責める。
舌先を硬くしてカリの全周囲に這わせ、亀頭がパンパンに張り詰めるほど根元をしっかり抑えながらのディープスロート。潤沢に口中を唾で潤わせ、唇の内部粘膜が捲れる程にぴっちりときつく咥えてスライドさせた。
自分の太腿を伝う温かい感触は、フェラで奉仕する女としての喜びの代償に他ならないはず。しかも、男であった時の自分が受けたかったフェラを実践されている今の杏の快感を慮り、いわばフェラチオという一つの行為を男と女の両方の立場で甘受するような底抜けの快楽が立ち膝でいる事すら許そうとしない。
ガクガクと震える僕の両脚。
もう立っていられない、そう思った時、杏はゆっくりと僕を押し倒すとゴムを被せて覆いかぶさってきた。
杏に押し広げられた僕の両脚。膝が僕の顔のすぐ隣まで来るくらいに押し潰されてもそれほど辛いと思えないのは、杏の、女性の身体の柔らかさ故なのか。

「入れるね?・・・」

僕の中で何かが弾ける音がした。




禁断の果実とは、こういう事を言うのかもしれない。
いやらしく起立させたペニスを頬張る成也を上から見下ろしていると、私自身にフェラされている不思議な感覚と共に、とてもいけない事をしているような気がしたんだ。なのに、彼が顔をスライドさせる度に、もっと、もっととせがむ様に私は腰を前後に小刻みに動かしている。成也が、いや、自分がこんなにもいやらしい人間だとは思わなかった。
それにしてもなりふり構わず勃ちまくる成也のペニス。今朝起きた時もそうだったし、授業中にだって無意味に硬くなったりしていた。
男子って、皆そんなものなのだろうか。成也が特別エロいとか?
こんなにも一日中勃ったりなんだりしていると、日常生活に支障が出るのではないだろうか。

ん・・・・・凄く気持ち良い・・・
そんな風に、唇の裏側の柔らかいところをゴシゴシ擦り付けてくると、もう・・・・あ・・・あれ?・・・・・これって・・・・凄い・・・・ん、なんか、出そう、かも・・・・・射精?・・・あっ・・・やばい・・・・私、射精するの?・・・・

あまりの快感に腰が引け、思わず成也の肩を押してしまった。軽く押したつもりが、簡単にぺたんとベッドに横になる彼。
荒い呼吸で膨らんだり凹んだりする真っ白なお腹、濡れた隠毛が股間に張り付いてる様は、グラグラと私の心を揺さぶった。
手に持っていたコンドームをそこに被せると、成也の両脚を二の腕に掛けながら押し広げる。
柔らかくてすべすべの肌触りに改めて感嘆すると共に、理性を遥かに凌駕した性欲は暴走さながら彼の身体を少し乱暴に組み敷いていた。
ぱっくりと割れたあそこを見ていると、それだけで下半身がムズムズするような得体の知れない興奮で目眩がしそう。
そうか、成也も私とする時は、いつもこんな感じだったって、事なんだよね。

うん・・・やっぱり私って、凄く綺麗・・・だと思う。こんな事、以前の、女のままの私だったら絶対に思わなかったはず。寧ろセックスの最中は、多分私、だらしない表情をしている筈だから、絶対に成也に見られたくないって思っていたくらいだし。成也が顔を見たいってしつこい程に言っていた意味が、今なら分かるかな・・・・

ペニスの先をあそこに当てがおうとするけれど、硬く硬くそそり立つこれを下に向けるのは中々大変。

あ・・・成也が、手伝ってくれている・・・そうか・・・・いつもこうやって私達は一つになっていたんだね・・・

頑固に上を向くペニスを挿れやすくする為、私は出来るだけ身体を前に倒してみた。私の胸に感じるセーラー服越しの成也の胸の膨らみ。そして鼻腔を擽る甘い香り。成也の匂いは、私の匂い。特に何も付けていないのに、凄く甘い。
その香りが一層私を昂まらせる。
一気に腰を押し出した。
呆気ないほどに、すんなりと一つになった私達。
いつもは貫かれる立場が、今は貫く喜び。
隙間なく纏わりつく成也の中の感触に、思わず声が漏れた。こんなにも直接的な快感に襲われるとは思っていなかったから。
入れた瞬間からペニスの表面で感じる柔らかさと熱さ。筆舌し難いとはこういう事かも。無意識に動き出す腰を止める術などない。
私は、男としてセックスをしている。
いつもは抱かれて包まれて、男の人の腕の中で微睡む事に幸せを感じていたのに、今は逆の立場。でも何ら違和感無く、寧ろ「犯す」という不埒な意味を内包する男としてのこの行為に、問答無用で興奮している。

男は皆こうなのか?
成也もあの人も・・・・・

思いっきり首を振って思いを断ち切る。
頭で別の事を考えていても、この迫り来る絶頂の兆しを押し留めることなど無理な話だろう。まして成也以外の・・・

「成也、ごめん、もう私」
「んっ・・・んっ!・・・んっ」

信じられない速度で昂まる私の身体。
無我夢中で腰を叩きつけ、成也の乳房を服の上から強く揉む。
媚薬が下腹部で弾けるような快感とともに、私は生まれて初めて精子なるものを爆発させた。

好き。
愛してる。

射精している間、私は目の前の私の姿をした成也の事が愛しくて恋しくて仕方がなかった。男の人のセックスでも、こんなにも気分が昂まるものなのだろうか。想いのまま力一杯抱き締めて、振り絞ったその言葉に嘘はないはず。
私が男として、初めて成也を愛した瞬間でもあった。




「他の方法を考えないとな・・・」
「うん・・・・」

杏はいまだにどこか上の空。
作戦が失敗に終わったからではなく、どうやら性別が入れ替わった状態でのセックスに、良くも悪くも多少のショックは受けているようだ。
でもそれは僕も同じ。
僕自身に抱き締められて、身体が激しく揺り動かされる程の激しいセックスを終えた時は、やっぱり人としていけない事を犯してしまったような罪悪感が確かにあった。
それが、パンツを履いてスカートのホックを留める時には、もう既に気持ちは前を向いていたような気がする。次の作戦を練らねば、と。
この気持ちの切り替えの早さは、この身体に宿る杏の竹を割ったような性格の所為なのか。だとすれば、今目の前でのろのろと着替えをしている杏は、僕本来の姿という事にもなる。
中途半端に現れては消えるお互いの本来の性質をコントロールするのはちょっと厄介かも。

「また後で連絡する」
「うん、私も、ちょっと何か別の方法、考えてみるね・・・・・」

自宅を出て杏の家に向かった。
彼女の家に帰る緊張感と、後ろ髪を引かれる思いが複雑に交錯する。
僕は杏として、彼女の人生の二日分を浪費した事になるんだ。

何とかしなきゃ・・・

ゆっくり考えたかった僕は、電車に乗ってフラフラと二つ駅向こうの隣町へ降り立った。
最高学府の大学があるこの街なら知り合いも殆どいないから、僕は堂々と杏の身体のまま表通りを歩く事が出来る。
でも、電車に乗っている間から感じていた男どものいやらしい視線は、やっぱりちょっと気にかかる。見た目が良くたって、本当は男なんだぞ!と言ってやりたい衝動に駆られてしまった。
学生で賑わうファーストフード店に入り、ブラックコーヒーを頼んでみた時は、女のくせにブラックなんて、という顔つきの店員を睨み付けてしまった。本当はそんな事、相手は思ってもいないはずなのに。
過剰な自意識があやふやな行動を取らせている。
ダメだ。
もっとしっかりしなきゃ。

「杏子ちゃん?」

ふいに後ろの席から声を掛けられた。

なんだ、こんな所にも杏の知り合いがいるのか・・・

振り返るよりも早く、その人は自分のコーヒーを持って私の席の隣に座った。
喧騒に塗れたその声の主が男の人のものだと分かった時、僕は身を硬くする間も無く、その男にぴったりと寄り添われていた。

「酷いよ、杏子ちゃん。いきなり家教クビにするなんてさ。それに着信も拒否してるよね?」

一目で僕よりも歳上と分かるその男の人は、緩やかなウェーブのかかった控え目な茶髪と、彫りの深い甘いマスクに優しげな眼鏡の奥の瞳で、僕を至近距離から見つめてきたんだ。

誰・・?この人

男と壁に挟まれた僕は身動きが取れないまま、下を向くしかできないでいた。心の奥で騒めき出した、恐らくこの男に対する杏の想いを微かに感じながら。

僕は君、君は僕(1)

午前の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り渡る校内、それまで水を打ったように静かだった廊下は、一気に溢れ出した生徒達でバケツをひっくり返したような賑わいを見せていた。
二学期の始業式とホームルームを終えた皆の顔はどれも程よく日焼けしており、ひしめき合う廊下は充実した夏休みを過ごした後の騒めきで始終落ち着きを見せる事は無かった。

「おーい、成也、一緒に帰ろうぜ」
「悪い、先約あるんだわ」
「んー?ああ、杏ちゃんか・・・分かったよ!杏ちゃんによろしくな!」

僕の名前は結城成也。高校三年生。
今までは部活があったから、外が明るい内に下校するなんてあり得なかったけれど、夏休み中に行われた大会を最後に引退した僕は今や色々な意味で自由の身。
別にサッカーが嫌いだったわけじゃない。けど、中学、高校と部活漬けだった僕は、今初めてサッカー以外の青春を謳歌しようとしており、いざ目の前に開けた自由という現実を意識すると、正直小躍りしそうになる程嬉しかったりもする。
その要因の一つは、いや、大部分は、これからの有り余る時間を費やすに相応しい相手の存在だ。もとい、費やすなんて表現、彼女に悪いな。今まで不憫をかけた分、これからはずっと一緒にいて彼女の為になりたいって事。
緩む頬を意識的に強張らせ、足早に校舎を後にする同級生達に手を振る。
一人
で帰る者、大勢で連んでいる者、カップルで身を寄せ合う者。
夏休みが終わってしまった事に対する落胆を、学校が始まった事に対するワクワク感が凌駕しているような不思議な雰囲気は、都内指折りの進学校としての意識の高さが背景にあるのかもしれない。
部活を引退するという事は、即受験生としての立場を明確にする。残る半年間は試験勉強一色で塗り潰されるのが僕ら高三生の掟。当たりと言えば当たり前だ。
でも僕が僕たる所以、それはまるで人が生命活動を維持する為に食物を摂取するが如く、彼女とのデートは僕には絶対に欠かせない。
周りに誰もいなくなった。
自然と溢れるだらし無い笑みを隠す必要もない。
高ニの頃から付き合っている杏を玄関で待っていると、彼女がパタパタと小走りでこちらに向かってくるのが見えた。
付き合って一年になるのに、この満ち溢れる愛情を止める事が出来ない。倦怠期なんて全くない。それどころか、日が経つにつれてその想いは増すばかり。

「ごめん成也、待った?」
「全然。今日は家教無いんだろ?」

呼吸を整えつつ、上履きを脱ぎながら上目遣いの杏。
同級の俺の彼女、萩谷杏子。
女子達からは普通に「あんず」と呼ばれているけれど、恥ずかしがりの僕は未だ彼女の名前をちゃんと呼ぶ事が出来ないでいる。

「これから杏の部屋、行っていい?」
「いいけど、一緒に勉強する?」

少女のような無邪気な眼差しの奥に見せる、少しだけ大人の憂い。
それを見て僕は一瞬言葉を失う。
こんな不思議な表情が出来るようになった彼女に対して、僕はたまに自分が置いてきぼりを食らうような焦りを感じる事がある。女の方が男よりもませているというのは理解できるけれど、いざ一番身近にいるはずの杏にそんな表情をされると、僕の心は穏やかではいられない。
彼女は僕のものだ。僕が彼女の事を一番よく知っているんだ。
その想いは抑える事が出来ない情欲となり、彼女の部屋に入るや否や、強く抱き締めてキスの嵐を仕掛けるのみ。

「ちょっ、成也、がっつき過ぎ」

笑う彼女は、まるで子をあやす母親のように僕の荒々しい態度を丸ごと抱き留めてくれる。

「今日、お母さん夕方まで戻らないから・・・・」

そう言ってセーラーの上着の横のファスナーを下ろす杏。
僕は忙しなくズボンを脱ぐと、まだブラを外す前の彼女を押し倒す。軽い悲鳴をあげるけれど、杏もそれ程嫌がっていないのは知っている。ブラのホックを外そうと、僕が彼女の背中に腕を回すと、彼女はいつも背中を浮かせて手伝ってくれるんだ。

「また・・・大きくなったんじゃない?」
「成也が触るからだよ・・・・」

彼女にとっても僕が初めての彼氏。
入学式で杏に一目惚れした僕は、当時誰もが美少女と認める彼女に声をかける概念すら持ち合わせていなかった。あんなに可愛いのに、彼氏がいないわけがない。そう確信していたし、元々僕自身異性に声を掛けるなんて大そうな事が出来るわけがないと思っていたから。今となっては過小評価も甚だしいけど。
二年の委員会で一緒になった彼女が他の同級生達と喋っていて、彼氏がいないと話しているのが聞こえたその瞬間が、まさに僕が自分を過大評価するきっかけになったんだ。
今言わないと、一生捕まえられないどころか、永遠に女性に縁の無い人生を送る事になると、何故か壮大な自己暗示にかけてしまっていた。思い起こしても、全く脈略のないトンチンカンな発想だ。

「ずっと好きでした」

人生初の告白。
自分が発した言葉すら理解できない程舞い上がっていた僕は、その後の一言が出ない。一秒が何時間にも感じる世界で、彼女は震える声で答えてくれた。

「友達から・・・お願いします」

恥ずかしげに頬を赤らめながら俯く彼女の可憐さに気を失いそうになった。実際、僕はその後の数分間の記憶がない。気が付けば、ラインの交換を終えた僕達が手を振って別れていた所だったし。
翌日からのクラスの同級生達の冷やかしは想像を絶するものだった。確かに学校に一緒に登校してくる姿を見られていたので、ある程度は覚悟はしていたけれど、祝福というよりは妬みに近い冷やかしは、気弱な僕が愛想笑いするにも疲れてしまう程だった。
それからの毎日は部活と彼女の間を行ったり来たり。試合の日は必ず応援に来てくれたし、休日の練習の時なんかはお弁当まで作ってくれた。
そして付き合って三ヶ月後の高二の夏、僕達は結ばれたんだ。
恐らく、いや、間違いなく人生で最高の日。これ以上の幸せはないだろうと思える恍惚の瞬間。
その日から、忙しい日常の合間を縫うように僕達は愛し合い、お互いの気持ちを確かめ合った。
受験の二文字が頭を過ぎったけれど、大好きな子とのセックスは全てを葬り去る威力と効能を持っていた。サッカーではシュートが決まり始め、学業の方も着実に偏差値を伸ばしていった。そしてそれは彼女も同じ。
二人で愛を育みながら、僕達の環境全てが良い方向に回り始めていたのを良い事に、高校生らしからぬ性欲のままに貪り合う日々にのめり込んでいったんだ。

今こうして目の前で、俯きながら手の甲を口元に当てる彼女の横顔を見ていると、なにやら不可思議な独占欲がマグマの如く身体中に駆け巡り、性欲の塊みたいな僕の身体に化学変化をもたらす。
窮屈に締め付けられたブラから躍り出るように解放された真っ白な乳房、その頂点にちんまりと乗った薄桃色の乳首は既に艶かしく勃起していた。
掌では収まりきらないそれに触れ、ゆっくりと揉む。温かくてどこまでも柔らかいその感触は、辛うじて残っていた理性を粉々に打ち砕く。
五指で感じる杏の柔らかさ、そしてちょうど掌の中心で感じる乳首の硬さは、僕の脳味噌をドロドロに溶かし、骨抜きにしようとする。

「あ・・・んっ・・・・」

抑えた口元から漏れる彼女の悩ましい吐息は、僕の下半身に無尽蔵に血液を送り込み、その結果がもたらす痛いと感じる程の勃起は毎度の事。
シーツに押し付けられた裸のペニスは、童貞を卒業したての頃のようにその摩擦だけであえなく暴発する、なんて事は今ではないけれど、それでも僕の愛撫を受けながらスカートを脱ごうと身悶えする彼女の肢体を見ていると、ムズムズと焦れた感覚が下腹部辺りでざわめき始める。

「ん?・・・杏、日焼けした?」

一週間ぶりの彼女の身体。股間の毛が見える位置までパンツを下げた時、真っ白な肌が横の紐が当たる部分でより一層白を際立たせていた事に気がついた。
途端に恥ずかしそうな表情をする彼女は、パンツにかけたその指を止めた。

「分かった?」

真っ赤になった杏は、まるでおいたをした仔猫のような眼差しで僕を見つめる。
子供っぽさの中に潜む妖艶な色気は完全に大人のそれ。

この女の子が僕の彼女なんだ・・・

ゴクッと飲んだ唾の音が聞こえたかもしれない。
僕は固まっている杏の代わりにパンツの両端の紐を摘むと、少しだけ抵抗する素振りを見せた彼女の下半身から全てを取り去った。
恥ずかしいと言って両手で顔を隠す彼女だけれど、ふさふさで柔らかそうな陰毛を惜しげも無く曝け出すそのギャップに僕のあそこは爆発寸前。
元々真っ白な彼女の裸は、光の具合で微かな濃淡を浮き立たせ、下半身のみならず、よく見ると豊満な胸を包むビキニの跡も区別がついた。

「日焼け止めクリーム、沢山塗ったのにな・・・」

顔を隠したままの両腕に挟まれた胸は、豊かな起伏を強調して大袈裟な盛り上がりを見せていた。
僕はそんな彼女の手首を掴み、ベッドに押しつけるように拘束すると、どちらとも無く口付けを交わす。
全裸で抱き合う僕達は、お互いの体温を肌で直に感じながら、いつものように顔から火が出るほど恥ずかしくて気持ちの良いセックスの手順を踏んでから一つになった。
リズミカルな動きは、やがて壊れた玩具のように自制が効かなくなり、美し過ぎていやらし過ぎる彼女の身体を蹂躙するが如く無茶苦茶なピストン運動を叩きつけ、そして弾ける。杏の身体に包まれながら射精の兆しを感じると、どうしたって僕の欲情は止められない。
果てた後、彼女の身体を労わるどころか壊しかねない自分の身勝手さにいつも申し訳ない気持ちで一杯になる。そして罪滅ぼしでは決して無く、ただ自分と一緒に高まってくれた彼女の存在が愛しくてたまらなくなる事後のこの瞬間に、僕はありったけの愛を囁きながら彼女を優しく抱き締めるんだ。

「凄く、良かった・・・」

あんなに激しくしたのに、杏はいつもこう言ってくれる。緑色のゴムの中の僕自身が、萎える間も無く二度目の勃起へ向けて蠢き出す瞬間だ。
それは世界一美しい女性に対する礼儀とも言えるだろう。硬く硬く完全勃起したペニスを、僕は杏への愛情の深さの証明だと言い、恥ずかしがる彼女の目の前に晒す。
こっちだって恥ずかしい。無闇矢鱈に勃起しまくる赤黒い男の象徴は、誇りと羞恥の表裏一体のものだと思うから。
でも、恐る恐るゴムを外し、精液に塗れてヌタヌタになった僕のペニスをゆっくりと扱き、そしてやや厚みのある小さな唇で咥えてくれるいつもの儀式を省略する事なんて出来ない。
僕は目を瞑り、この日二度目の股間を覆う温かい感触に酔いしれながら、後ろ手に器用に新しいコンドームのパッケージを破る彼女の手元を薄目で見ていた。
なんて卑猥な光景。
同級生の、17歳の女の子が慣れた手つきでゴムを手に取り、わざと辿々しくそこに被せていく仕草は、その後訪れる飽くなき快楽への共同作業を嫌でも期待させてくれる。

「ん・・・出来たよ」

そう言ってゴムの上からチュッとキスしてくれた彼女を裏返しにしてバックから襲う。
見事に括れた腰、そして緩やかに張り出した真っ白な臀部は、恐らく余裕で100回以上のセックスを繰り返していようとも、僕のペニスに過剰なまでのエナジーを供給し続ける。
親の帰りが遅いのを確信している彼女の嬌声は凄かった。

「杏・・・声、大きいよっ・・・」
「あっ!あ、あ、・・・あん・・・・だ、だって・・・・気持ち良いんだもん・・・あっ!あっ!あっ!いやっ・・・そこっ!んあっ、あんっ!んっ・・・あ、う、あ、ああっ!」

僕の五指が彼女の柔らかい腰の肉に食い込む。夢中になって腰を叩きつけていると、杏の丸くて程よいボリュームのお尻が波紋を伴ってたわわに揺れる。

「やばっ・・・いくっ!」
「あっ、いいよっ・・・あああっ、あ、あ、んっ、ああっ!いいっ、凄く、いいっ!」

僕の場合、二度目の射精感は一度目よりも深いような気がする。だから僕は一回のセックスで必ず二度以上射精する。
グツグツと煮えたぎるような下腹部の快感は、じんわりとその部分から去ろうとしない。いつまでもそこに止まったまま、気がおかしくなりそうな快楽地獄に僕は陥って行く。
二度目よりも三度目、三度目よりも四度目、というように、回を重ねれば重ねる程に良くなるのは、男子ではどうやら僕だけのようだけど。
いつまでも離れ難いと思う僕が、彼女の中に深く挿入したまま、お尻の柔らかさを弄ぶように揉みまくっていた時のこと。

「あ、れ?・・・なんか、凄く熱い・・・え?」

今ひとつ状況を理解していない彼女に促され、渋々ペニスを抜いた時、僕は破けたゴムの先から亀頭が思いっきり飛び出している様を不思議な感覚で見ていた。

これって・・・ん?・・・はっ?・・・・・え、ええっ?

彼女の穴の中からドロっとした精液が太腿を伝って落ちていくのが見えた時、僕はやっと自分達が犯した「罪」を理解した。

中に、出したっ?
いや、あの・・・・やばい・・・やばい・・・やばいって・・・

男はこういう時こそ堂々として相手の女の子を不安がらせてはいけない、と頭の中で分かっていても、薄れゆく感覚の中で争うのはもう無理っぽい。僕は彼女の可愛い悲鳴を聴きながら、情けない事にそのまま意識を失ってしまっていたようだ・・・・




何分位経ったのだろう。
窓の外の明るさはそれ程変わっていたようには見えなかったから、本当に些細な時間だったと思う。
目を覚ました僕は、ゆっくりと身体を起こした・・・・・けれど・・・・・

あれ?
なんか、身体が変、かも・・・・・
てか、ん?・・・隣で寝てるのって、誰?

向こうを向いてる後ろ姿は、どう見ても男の背中。
ちょっと理解し難い状況の中で目を覚ました僕は、自分自身に対する違和感に加え、軽いパニック状態に陥っていた。

杏は?・・・・てか、誰?この人・・・

目を擦ろうと腕を上げた時、生まれてこのかた経験した事のない不思議な事象を右腕に感じた。
胸が、自分の胸が、腕に当たったんだ。
は?と思いつつ下を見ると、摩訶不思議、あり得ないものが見えた。見えてしまった。

これ・・・なに?
この大きな胸・・・女みたいな、胸・・・なんだこれ?

上げた右手で目を擦り、もう一度自分の胸元を見た。

僕・・・まだ寝惚けてる・・・

そう確信した。
何故なら、僕の胸にはどう見ても「女性もの」の豊満な乳房が付いていたから。
笑い話だけど、笑えない。夢の中とはいえ、非現実的過ぎる光景は胸を圧するようなプレッシャーとなり、楽観主義者の僕の脳内を硬直化させる。
覚束ぬ意識と手元で、双丘を下から持ち上げてみる。
そしてその動作は同時に、僕の両手が華奢で小さなものに付け変わっている事を僕に知らしめる。俯いた時に視界の両端に見えた長い髪の毛も恐らく僕のもの。
いちいち行動する度に、自分では無い自分のものに気が付いてゆく。
掌に収まらない重量感溢れる乳房に触れる感触は、未だかつて経験した事のない不思議な痺れを背筋にもたらした。

なんだよ・・・・・これ

半ば夢の中で、半ば諦めの不思議な自我のまま、僕は杏の部屋に置いてある姿見の前まで歩いて行った。
軽い目眩を伴いながら、やっとの思いでそこに立つことができたけれど・・・・・
鏡の中に僕を見つめる杏がいた。僕の大好きな杏が。
右手をあげる。中の杏は左手をあげた。
その場にしゃがみ込むと、中の杏もしゃがみ込んだ。

・・・・・夢じゃ・・・・・ない・・・・・

こんな現実、受け入れられるわけがない。
僕が杏になってしまったなんて、信じられるもんか。
戸惑う鏡の中の杏が僕を見つめている。
その瞳は徐々に潤み始めると、頰に涙の感触。鏡の中の杏と僕が同一である事を訴えているかのよう。
小刻みに震える身体のまま、まだベッドで眠っている男の背中を押した。
まさか、と思いつつ、ゆっくりと寝返りを打つその男の顔を凝視した。

僕だ・・・

ゆっくりと目を開けた「僕にそっくりな男」は、僕の姿を見るや否や野太い悲鳴を少しだけあげた。

「え?え?・・・なにこれ・・・・・・」

目元を何度も擦りながら目を泳がせるその男は、僕を直視したいのに恐くて出来ないのか、どこか怯えた様子。

「なんで私が、いるの?・・・私の・・・え?・・・・・・・」

女みたいな悲鳴をあげたその男の一言が種を明かしてくれた。

「杏・・・なのか?」
「・・・・あなたは・・・誰?」

この時点で、僕の姿をしたその男が杏であると直感した。
僕は極度に怯えるその男を宥めすかし、今僕が知り得る情報と感想を、出来るだけ噛み砕いてゆっくりと話した。
彼女の姿をした自分しか知らない僕の事を話し、僕の姿をした彼女しか知らない杏の事も話してもらい、そして最終的に出した僕達の結論。
それは、やっぱり、どうやら僕達は入れ替わったらしいという事。

「あり得ない・・・・・」

ボソッと呟く彼女の、硬くて逞しい肩を抱いた。
天変地異が起きたのかもしれない
UFO
が襲来して、全人類の性別を書き換えたとか?
突拍子も無い考えが頭の中で湧いては消えて行くなかで、僕は慌てて部屋にあるテレビのスイッチを入れた。今、この世の中で何が起きているのか?ひょっとして、やっぱり同じ様な事が世界中で起こっているのかも。
でも、画面では見覚えのあるキャスターが、いつものように芸能人のスキャンダルについて面白おかしくコメントをがなり立てているだけ。生放送と思われるどのチャンネルを見ても平常運転。世の中は何ら変わらず平和なまま。

「と、兎に角、服を着なきゃ」

彼女はそう言って僕が脱ぎ散らかした服を、一つ一つ丁寧に手にとっては神妙な表情をしながら身につけていった。
僕も杏のセーラー服を着ようとしたけれど、ブラジャーに始まり、色々な所にファスナーやらボタンが付いた彼女の制服は、震える指先も手伝って中々上手く事を運ばせてくれない。

「もう・・・・こうやるんだよ」

すっかり身支度を終えた彼女が、僕の後ろに回ってブラのホックを付けてくれ、セーラーの上着を子供に着させるように頭の上から被せてくれた。

「これくらい・・・・自分で履きなよ」

恥ずかしそうにする僕の外見をした彼女は、その手に彼女の、僕が履くべき彼女のパンツを握っていた。
セックスの度に僕が脱がせていたそれを改めて手に取ってみると、信じられない程面積が小さかったことに驚いた。そしていざ自分が身につけてみると、履いても履いていないような、殆ど丸出しに近いなんとも違和感のある履き心地。たまに女物の下着をつけた変態男のニュースを聞いたりもするが、この時ほどあり得い所業だと思った事はないだろう。

「これから、どうしよう・・・・」

スカートを履き終えた僕に、彼女は俯きながら呟いた。
まだ時間はあるものの、彼女の母親が帰って来るまでには何らかの対処をしなければならない。
そもそも、何故こんな事になったのか?
どうやったら元に戻れるのか?
二人で話し合おうとも、答えは一向に見つからない。
これから二人入れ替わった人生を送らなければならないのか?

「僕は別にいいけど・・・・・」
「そういうの、今はいいから」

冗談を言う雰囲気でないのは分かっていた。でも、不安で押し潰されそうになっている杏の気持ちを考えると、少しでも楽になって欲しかったんだ。
いや・・・僕自身の動揺を隠したかっただけかも・・・

時間ばかりが過ぎて行く。
間も無く杏の母親は帰ってくるし、僕だって家に帰らなければならない。
西の空が次第に夕暮れ時の橙に染まり始め、二人の心を重苦しくする。

「今の姿が変わらないのであれば、取り敢えずこのままやり過ごすしかないかも・・・」
「私もそう思う」

前に進むべく僕らの意見は一致した。
ひとまず、互いになりきって明日また対策を考えるという結論。単なる先延ばしだけれど、家族や周りの人達の動揺を最小限に抑えるためには他に方法はないと思った。

「成也、家での事なんだけど」
「うん・・・・・」

僕らは夫々の自宅での行動様式について打ち合わせをした。
自分も含め、家族の呼び方、食卓での振る舞い、お風呂の順番、寝る時間等々。
こんな事、話しても話しても尽きるはずもなく、気になり出したらキリがない。
次第に疲れが滲み始め、事態の重さを痛感し始めた時。

「後は、なるようにしかならないよ」

諦めというよりは、潔さ。そう、彼女は時に男勝りの決断をする事がある。今でこそ男の鎧を纏っているが、涼しげな笑顔を見せる目の前の「僕」は、僕から見ても男前に見えたんだ。

「携帯はお互いのを持っていようね」
「でも、電話が来たらマズイよ」
「出なけりゃいいじゃん。メールとかで充分でしょ」
「あ、そうか・・・」
「それと、二人でいる時はこれでいいと思うけど、学校とか家の時は、ちゃんと女っぽく可愛い言葉使ってよね」
「で、出来るかな」
「やってもらわなきゃ困る。私だって男言葉とか自信ないけど」

杏は鞄を肩に掛け、振り向く事もなく家を出て行った。
その後ろ姿が見えなくなった時、独りぼっちになった心許なさが一気に押し寄せる。
なるようになる・・・・・のだろうか?
着替えすらままならないのに、この後杏の家族と一夜を過ごし、無事朝を迎える事が出来るのだろうか。いや、学校に行ってからも彼女の友人達との会話とか、どうしたらいいんだろう。
決心したはずの気持ちがぐらぐらと足元を危うくする。

「杏子、成也くん、来てたの?」

後ろから掛かった声に飛び上がりそうになった。杏のお母さんだ。

「あ、そ、そう、今帰ったところなんだ」
「そうかい。あのさ、晩御飯作るから杏はいつものやってよ」
「ああ、うん、分かった」

分かった?
は?
僕は何を言ってるんだ?分かるはず無いじゃないか!
条件反射なのか?
いや、ヤバイよ・・・早速ピンチじゃん・・・・・・

「何してんの杏子、早く頼んだよ」
「う、うん・・・」

僕は促されるまま、杏のお母さんの後をついて台所に立った。
僕は一体ここで何をすれば良いのだのだろう。
まずい・・・本当にまずい。
バレるのか?
僕は杏じゃないって、もうバレるのか?

「ほれ」

頭が真っ白の僕に、杏のお母さんが包丁を手渡してくれたその時だった。
置いている場所を知るはずも無いまな板をガスレンジの脇から取り出すと、僕は冷蔵庫を開けていくつかの野菜と豆腐を手に取った。
不思議な感覚だった。
知らないのに、身体が勝手に動く。
頭の中では理解が追い付いていないけれど、杏の身体が取る一挙手一投足に宿るどこか懐かしい感覚。
頭を無にすれば、取り敢えず次の行動を促す信号が身体から脳に伝わる感じがする。本来の人体が取るべき命令系統の逆パターン。

「今日はお父さん、飲み会だから少なめでいいよ」
「会社の歓迎会だったよね」
「楓も部活で遅くなるから」

いける。
これなら、いけそうだ。
中身は完全に変わっていても、脳の記憶は残ったままなのかもしれない。いわば杏の身体に僕という自我が乗り移ったという方が的を得ているのかも。
と、とにかく、今は無心となって身体に素直に行動していよう。
杏のお母さんに急かされるよりも早く、僕は萩谷家の一員として、彼女に恥じない振る舞いを自然と演じ始めていた。




「ただい・・・ま・・・」

親は奥にいるはずだから、そのまま二階の自分の部屋に上がっても差し支えない、と言っていた成也の言葉の通り、私は返答を待つ事なく恐る恐る階段を上がり、慣れ親しんだ彼の部屋に入った。
一人きりになると、ほんの少しだけ心が落ち着く。
晩御飯・・・は、成也のお母さんが呼んでくれるまで待ってていいんだったよね・・・
私はさっき教えてもらった通りの行動を取った。
押入れに無造作に入れてある普段着に着替え、マルのご飯を準備する。廊下の先にしまってあるマルの餌を器に入れて、ゆっくりとマルが待っている階下に向かった。
ドキドキする。
成也のお母さんにバッタリ会ってしまったらどうしよう・・・いや、これから家族で夕食だってのに、そんな事で萎縮してどうするの、私ってば。
一階に降りた時、既に向こう側でエサを待って座っているマルがいた。
ロングコートチワワのマルは、こちらの存在に気が付くと、もう待ちきれないといった感じで座ったまま前脚をパタパタとジャンプさせていた。
食いしん坊のマルにエサを出す時は、必ず「待て」と「よし」の合図を忘れないように、と成也が言っていた。
私は尻尾をビュンビュン振っているマルの前に「待て」と言いながら器を置き、一呼吸置いてから「よし」と言った。
だけど、マルは今度はそれを食べようとしない。
もう一度「よし」と言っても動く気配すらない。
どこかいつもと違う様子のマルは、私をじっと見つめたまま、微動たりともしない。

「どうしたの?マルちゃん、食べていいんだよ?」

暫く私の目をじっと見つめてから、やっとガツガツと食べ始めたマル。
ひょっとして、成也じゃない、って気付いてるのかも・・・・
一心不乱にエサにかぶり付いているマルちゃんの頭を人差し指でスッと撫でた時、ビクッと頭を下げた様はどこか他人行儀。
やっぱりあんたは気付いてるんだね・・・・
あっという間に平らげたエサの器をペロペロと舐めながら横目で私を見るマルの背中を撫でた。

「ワンッ!」
「あれ?成也、帰ったのかい?もうご飯だからこっち来なよ」

マルの鳴き声を聞いて成也のお母さんが声をかけてきた。

「あっ、う、うん!」

やだ私、声が裏返ってたかも・・・・
落ち着け、落ち着け、私。
言われた通りにすれば良いから。

「早く皆のお茶碗出してよ」

台所で料理をしながら私に促してくる。
やばい・・・お茶碗て・・・どこに・・・

「お父さんの分も出しとくね?」
「お父さん遅いから私たちの分だけでいいよ」
「兄貴のは?」
「彼女とデートらしいからいらないって」

あ、あれ?
今私、勝手に喋ってた?
それに、なんだかんだ言って淀みなく食卓の準備をしてしまっているし・・・

「今日はロールキャベツだよ」
「うわっ、お父さんの好物!お父さんかわいそっ!」

なんで?なんで私・・・成也が乗り移ってる?
いやいや・・・て言うか、私が成也に乗り移ってる、と言った方が適切なような気がするけど。
でも、なんだろ、ちょっと不思議な感じだけど、なんか上手くいってる。いってしまっている。

「ご飯食べたらお風呂洗っといてくれる?」
「ああ、うん、いいよ」

やっぱり。
意識を無にすれば身体が動いてくれた。
これなら何とかなりそうな気がする。
私は何気なくお風呂の洗剤を脱衣場の棚の奥から取り出す。
うん、大丈夫。
私、いけるかも。
きっとそう。結城成也として、私はやっていけるんだ。
小さなガッツポーズ。
私は手にした洗剤を元の位置に戻し、成也のお母さんが呼んでいるキッチンへ向かった。
成也も今頃は・・・・・だよね

ちょっと一服

ちょっとご無沙汰です。
近況のご報告と次回作について皆さんのご意見を伺いたく、取り急ぎ更新した次第です。

ファンタジー系の新作はある程度進んできておりますが、実は今挑戦している事があります。
先日ペンタブなるものを購入し、休みの日に少しづつ勉強している最中なのですが、図々しくも次回作のヒロインを自分なりに描いてみようと悪戦苦闘しております。
本当は画をアップしてから小説を、と思っていたのですが、これが中々思ったように進んでいません。
先に小説をアップしてしまうと読者の皆さんの中でヒロイン像が出来てしまうかと思い、先んじての画のアップ、と思ったのですが、この調子だともう少しだけかかってしまいそうです。
そこで皆さんに伺いたいのが・・・

1.画なんていらないから先に小説をアップすべき。画は後でもいい
2.どうせ画を書くつもりなら先に見てみたい。小説はその後で

さて、如何でしょうか?


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