僕は
2005年12月の記事で、「この針箱の中にマスキュラックスの空アンプルを仕込んだのは半田郁子医師の可能性が高い」と書きました。
そして仕込んだ日時は「2000年12月4日夜から2000年12月5日である」とまで書きました。
これは僕の推理なわけですが、ひとつ重大な仮定が抜けていました。
この推理は、「2000年12月5日の現場検証で１９本のマスキュラックスの空アンプルが、赤い針箱に入っていた。」とする検察、警察の主張が事実であると仮定した場合の推理です。
阿部弁護士は僕とは違う推論を自信を持って話してくれました。
それを聞いて、この件に関しては阿部弁護士の言うことの方が、より合理的で、恐らく真実に近いだろうと思いました。
阿部弁護士が言うには、赤い針箱の中に入っていた筋弛緩剤の空アンプルは全て手術で正規使用されたものであり、その数がサクシン６本、マスキュラックス４本である可能性が高い。
要するに検察、警察は１９本入ってたと言うけれどそれは虚偽であるというのです。
なるほどその点一つとってみても僕の仮定よりはるかに真実味があります。
（北陵クリニック事件に関して検察側の証言の中にはかなりの偽証があると、僕は断言します。）
検察側が偽証をしていることは、再三の証拠開示請求にも関わらず、守犯行の重要な証拠となるはずの「赤い針箱」や「空アンプルの現物」を提出して来ないこと、からも容易に推測できますが、なぜ空アンプルの本数まで大胆に予想できるのでしょうか。
ここからが阿部弁護士の推理の鋭さを見せつけるところです。
ポイントは２点あります。
第一に、2001年1月6日に守大助が犯行を自認した直後に書いた（書かされた）反省文
第二に、当時北陵クリニックで実施されたFES手術の過去履歴と被告証言に基づく本数の合致
＜反省文について＞
この文書そのものを僕は目にしたことはありませんが、裁判で証拠として提示されているのでそれが存在していることは明白な事実です。
守大助も「僕はやってない！」の中で椅子の上に正座して反省文を書いたと言っています。
反省文に書かれたものは、1999年5月から2000年12月までの間の11人の患者でした。
10人が筋弛緩剤の被害者で最初の2名は名前の記載がありませんが、残りは名前の記載があります。
最後の1人は2000年12月3日に何者か(*1)に利尿剤を混入されて急変した男の子の名前でした。
そして筋弛緩剤の被害者10人については、個々に筋弛緩剤の種類が書き分けられていて、サクシンが６本、マスキュラックスが４本となっているのです。
詳しく見ると、8番目の患者については最初マスキュラックスと記載され、それが二本線で消されサクシンに書き直されていてその結果、上記の本数内訳となっているのです。
守大助はこれを「Ｓ取調官から両方の薬を書いてよいと言われ、その都度Ｓ取調官に聞きながら書いた」「前でＳ取調官が見ていて、促されて書いていったという記憶である」と述べています。
（2006年12月14日に守大助と弁護団が最高裁判所に提出した上告趣意書より）
阿部弁護士が言うには、「仮に守君が犯人だとしても、いずれの筋弛緩剤を使用したか患者毎に事細かに記憶していたとはおよそ考え難い。守君自身が、殊更に『マスキュラックス』から『サクシン』に書き直す理由はなく、この訂正は取調官から指示された結果とみるのが合理的だ。」とのことです。
僕が人間性を疑うその“Ｓ取調官”は、勝男さん（大助さんの父親）の同僚です。
僕が個人的に会いに言ったら何かしゃべってくれるでしょうか。
ともかく、阿部弁護士の論はなるほどこの部分は合理的だなと感心しました。
つまり、2001年1月6日の時点で宮城県警が持っていた「証拠」は2000年12月2日に半田郁子副院長が警察に提出したとされる「急変患者リスト」と2000年12月5日に北陵クリニックから提出してもらった（押収ではない）「赤い針箱」だけだった(*2)わけですが、Ｓ取調官が「書かせた」この反省文の内容は、警察が守の犯行の痕跡とみていた赤い針箱内の筋弛緩剤の種類と本数を反映している、というわけです。
ここで僕の推論を少し交えます。
警察は「赤い針箱を守の犯行の痕跡とみていた」のではなく「そう仕立て上げようとしていた」可能性もあると考えられます。
(*1)僕はこの利尿剤事件は、クリニック側（半田副院長、Ｓ看護婦長、Ｓ看護主任ら）が演出した「急変騒ぎ」事件であり、当初から医療過誤を隠蔽するため守大助をスケープゴートに仕立てようとする意図（悪意）が病院側に存在したことを示すものであると考えています。
(*2)2001年1月6日夜の時点では、患者の血中や尿などから筋弛緩剤が出たとする鑑定書は作成されていませんでした。公判資料によれば、大阪府警科捜研の鑑定書が作成されたのは最も新しいもので2001年1月19日となっています。（それすらも怪しいですが）
突然ですが、関連記事です。
12.4「赤い箱の謎」
＜手術での正規使用本数について＞
別に「事件」を捏造した「真犯人」がその箱の中に仕込むまでもなく、手術室に置いてあった医療用廃棄物を入れる赤い針箱の中には、筋弛緩剤の空アンプルが入っていた、というのが阿部弁護士の推理のもう1つの支柱です。
1審も2審も、裁判長は検察の主張する「不正に使用されたマスキュラックス空アンプル１９本」を事実として認定しましたが、これはとても重要なことです。
もしそれが真実だとすればそれだけで守大助の不正使用、ひいては犯行使用の容疑は濃いものとなるのですから。
ところが前述したとおりその重要な証拠となるはずの「赤い針箱」を検察は提出しようとしません。
これでは逆に検察が何か秘密を隠しているのではないか、と受け取られても仕方ありません。
その代わりにといってはなんですが、2000年12月5日の実況見分の際に警察が撮影したとされる写真を数枚、検察側は提出しています。
その写真を僕はまだ直接目にしたことはありませんが、阿部弁護士の話によると筋弛緩剤の空アンプルが、３枚に分けて撮影されていて、それぞれ８本、６本、５本写っていると、だから全部で１９本なのだということらしいです。
分けて撮影されている以上、それらを合算する意味はありません。
阿部弁護士が注目したのは、実際の本数うんぬんではなく、そこに写った空アンプルの特徴でした。
何本かは注射器の針のケースとテープで繋がった状態になっているという点に注目したのです。
なぜ、空アンプルと注射器の針ケースとをテープで一体化させるのか。
それは、麻酔医師らが薬剤を取り違えないようにするためであると、守大助自身が一審の時から証言しています。
（一審第１６回公判などで証言。但しasahi.comの公判記事には未記載）
「手術の際に注射器に何の薬剤が入っているか一目瞭然でわかるようにケースに空きアンプルをテープで繋いでおいた。」
真偽はともかく、実に合理的な理由だと思います。
そして、その「写真」には筋弛緩剤だけではなく、手術で使用した他の薬剤（ワゴスチグミン、ドルミカム等）の空アンプルが同様の形態で写っているというのですから、筋弛緩剤だけを犯行に使用し、他の薬剤は正規に使用したものだ、などと認定する判決には不自然で無理があります。
対して、注射器の針ケースとテープでつながった筋弛緩剤空アンプルは正に、手術で正規に使用された痕跡であるとする阿部弁護士の主張は実に明解だと思います。
写真に写った「少なくとも８本」の筋弛緩剤空アンプルが手術で正規に使用されたものだとして、その本数はどうなっていたのでしょうか。
これは、守大助が立会い筋弛緩剤が「正規に」使用された手術を最後の方から遡ってカウントしていけばおのずと答えがでます。（というのが阿部弁護士の主張。そして僕も同意）
� �2000年11月27日 Ｈ．Ｈ サクシン40mg
�◆�2000年11月13日 Ｋ男 サクシン20mg
�� 2000年10月10日 Ａ．Ｓ マスキュラックス4mg
�ぁ�2000年09月08日 Ｅ．Ｔ サクシン40mg
�ァ�1999年12月22日 Ｓ．Ｍ マスキュラックス4mg
�Α�1999年12月10日 Ｔ．Ｍ マスキュラックス4mg
�А�1999年12月01日 Ｔ．Ｍ マスキュラックス4mg
（上告趣意書より）
��11月13日のＫ男とは、守大助さんが後日に仮面ライダークウガ(2000年1月〜2001年1月）の玩具を自費でプレゼントした第4起訴事例のＫ君（4歳男児）ですが、彼の手術に関しては、医師の指示でサクシンを準備したが、使用された空アンプルはナースステーションのごみ箱に廃棄されたそうです。（一審６１回公判。但しasahi.comの公判記事には未記載）
よってその分は赤い針箱に在中しないと考えられます。
それ以外を見てみましょう。
と、その前にasahi.comの公判記事にも載っている
１６回公判の守大助の証言を抜粋します。
空アンプルの数について「手術で、使われたアンプルの数と、空アンプルの数が一致しなくてはいけないが」と検察側が尋ねたのに対し、「（２種類の筋弛緩剤のうち）麻酔医がどちらを使うか分からなかったため、サクシンとマスキュラックスの両方用意し、使わなかったら捨てていた」と供述。手術数と空アンプル数は必ずしも一致しないと述べた。
更にasahi.comの公判記事には載っていないようですが、守大助は一審公判で次のような証言もしています。
「サクシンの準備の仕方としては20mgの方で準備し、40mgと言われれば、20mgのものを足していた。」
Ａ．サクシンとマスキュラックスを両方用意しておき使わなかったら捨てていた。
Ｂ．サクシンは20mgの方で準備し、40mgと言われた時に20mgを足していた。
という守大助の供述を、先の手術の履歴にかぶせてみます。
� �2000年11月27日 サクシン40mg → 針箱にサクシン(20mg)２本、マスキュラックス(4mg）１本
�◆�2000年11月13日 サクシン20mg → 別の場所に廃棄されたから変化なし
�� 2000年10月10日 マスキュラックス4mg → 針箱にサクシン(20mg)３本、マスキュラックス(4mg）２本
�ぁ�2000年09月08日 サクシン40mg → 針箱にサクシン(20mg)５本、マスキュラックス(4mg）３本
�ァ�1999年12月22日 マスキュラックス4mg → 針箱にサクシン(20mg)６本、マスキュラックス(4mg）４本
�Α�1999年12月10日 マスキュラックス4mg → 針箱にサクシン(20mg)７本、マスキュラックス(4mg）５本
�А�1999年12月01日 マスキュラックス4mg → 針箱にサクシン(20mg)８本、マスキュラックス(4mg）６本
どうでしょう。
もし、�イ�1999年12月22日の時点から、赤い針箱に捨て始めていたとしたら、2000年12月4日の時点ではサクシン６本、マスキュラックス４本の空アンプルが入っていたと考えることは妥当ではないでしょうか！？
・・・
すみません。実は途中から阿部弁護士の推理というより僕の推理になってます。（ぉ
阿部弁護士は何故か�い任魯汽�シン40mgだけを準備、使用したと上告趣意書で推理しており、僕とは６本、４本に辿りつく仮定が異なっております。
あとでなんだと言われるのは癪なので、正直申し上げますが、守大助は一審公判でこうも証言しています。
Ｃ．「１１月２７日の手術では自分ではなくＹ准看護婦が準備している。」
Ｄ．「麻酔医が早くきたとき、医師の指示に従っていずれか片方だけ準備したこともあった。」
従って僕の推理も完全とは言えません。
でも、Ｙ准看護婦も守大助と同じやり方で準備して、手術後赤い針箱に捨てていたかもしれません。
また、Ｄの発言は�△砲弔い討賄�用されたが、問題となった�´��きイ任老覿錨�用されなかったかもしれません。
完全ではないけれど、1つの可能性としては十分考えられるのです。
蛇足ながら更に付け足しておきましょうか。
関係者より入手した控訴趣意書（OCRで媒体化したもの）によると、注射器の針ケースとテープで止められたマスキュラックス空アンプルの１本はロット番号が開示されていて、そのロット番号によれば納品時期（北陵クリニックに届いた日）は1999年12月13日となっています。
これは正に�イ�1999年12月22日の手術で正規にマスキュラックスが使用され赤い針箱に廃棄されたことを示すものではないでしょうか。
というわけで話を整理します。
＜まとめ＞
2000年12月4日夜に守大助が外のごみ捨て場に捨てようとした（検察の主張は持ち出そうとした）問題の「赤い針箱」の中身について
検察は、その中に正規に使用したとは認められないマスキュラックスの空アンプル１９本が入っていたと言うが信用できません。
なぜならそれを証拠として開示しようせず、3枚に分けて撮影した写真のみ提出しているからです。
警察が2001年1月6日夜に守大助に書かせた反省文に書かれた被害者数と筋弛緩剤の種類は、この赤い針箱の中にはサクシン６本、マスキュラックス４本の空アンプルが入っており、それを守犯行の痕跡と見立てた取調官の思惑を如実に反映したものである推測できます。
そして、もし赤い針箱の中身が推測通りの本数だとすれば、手術で正規に使用されたものであると考えることが十分可能です。
よって、赤い針箱の中には筋弛緩剤の空アンプルは、1999年12月頃から北陵クリニックの手術で正規に使用されたサクシン６本、マスキュラックス４本である可能性は十分にあると思われます。
１審、２審の判決ではこれを不正使用した１９本のマスキュラックスであるとする検察の主張を事実認定していますが、重大なる事実誤認です。
僕は2005年12月の記事で、検察の主張が正しいという前提のもとに「不正な空アンプル」を赤い針箱に入れたのは半田郁子副院長である可能性が高いと推理してしまいましたが、その推理はそもそもの前提に無理がありました。
「最初から不正に使用された空アンプルなど存在していない」と推測する方が何倍も信憑性が高いです。
最高裁では１、２審の重大な事実誤認に基づく誤判を正してくれることを願ってやみません。
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