司会者「前回に引き続き、odolのインタビューをお送りします」
レジー「前編ではodol結成までのいきさつや曲作りについて伺いました。後編では1枚目のアルバムとは思えないクオリティの『odol』についてや、これからの展望についてお話しいただいています。それではどうぞ」
>>
現段階のバンドの集大成、『odol』
---1stアルバムとなる『odol』ですが、作品としてのコンセプトみたいなものはありますか。
森山「明確なコンセプトは特にないんです」
ミゾベ「このアルバムを作るときの持ち曲としてあったのが、以前自分たちでレコーディングしてフリーで配布していた2枚のepの曲(注:1st ep『躍る』の「飾りすぎていた」「欲しい」「君は、笑う」、2nd ep『生活/ふたり』の「生活」「ふたり」)と「あの頃」の6曲しかなくて。その6曲と、今作用に新しく作った「愛している」の計7曲が今回収録されてるんですけど。「飾りすぎていた」は19歳の頃の曲、「愛している」は20歳も終わろうかというタイミングの楽曲なので、作っているときの環境も気持ちもだいぶ違うし、それで「アルバムとしての統一感」と言っても難しいなと思って」
森山「無理に何かの概念でまとめるよりは、これが今までの自分たちですということを見せる作品ということになればいいなと」
ミゾベ「そういう意味も込めてセルフタイトルになっています。最初はそういうありがちなことはしたくないと思っていたんですが、今ではかなりしっくりきてます」
---なるほど。アルバムを聴かせていただいて、あたまの2曲、「あの頃」と「飾りすぎていた」がodolってバンドがどういう音楽を作る人たちなのかを表している気がしていて。
森山「確かに」
---で、まずは「あの頃」についてなんですけど・・・
ミゾベ「この曲は気に入っています」
森山「メンバーみんなお気に入りですね」
---この曲の歌詞、すごく短いけど印象に残るなあと思いました。余韻があるというか。ざっくりした質問なんですけど、どういう思いでこの言葉を綴りましたか。
祭りのあとに君を待つことも
煙が揺れて空に舞うことも
歌にするなら
何が残るだろうか
(「あの頃」)
ミゾベ「他の曲にも言えることなんですが、「物事は永遠に続かない」とか「この時間がずっと続いたらいいのに」っていう気持ちを歌詞にすることが多くて、この曲もそうなっていると思います。無常観というか」
---まさに無常観ですよね。
ミゾベ「花火とか夏祭りとかの雰囲気を歌詞にすることが多いですね。そういう歌詞を持っていくとメンバーには「また?」とか言われるんですけど」
森山「花火好きすぎるみたいで」
---確かにミゾベさんの歌詞は全編にわたって、お祭りが終わった後の切なさとか「ああこれ終わっちゃうな」みたいな儚さがありますよね。何でそういう言葉になるんですかね。
ミゾベ「うーん・・・何でなんだろうな」
---たとえば、「楽しいことが終わってしまう」ではなくて「楽しいことそのもの」にフォーカスする人もいるじゃないですか。でもそうじゃなくて、それが終わってしまうとか、終わってしまったとか、そこにミゾベさんの視点が行くのは何か理由があるのかなと思って。
ミゾベ「どうなんですかね、性格なのかな・・・(笑)。でも確かに、たとえば好きな漫画を読んでいても途中で残りのページ数を確認したり、旅行に行ってもあと何日で終わっちゃうとか考えるんですよね」
---終わっちゃうことが気になるというのを突き詰めていくと、「あと何年で死んじゃう」っていう話になりますよね。
ミゾベ「そっか」
森山「ミゾベが歌詞を作るときの話を聞いてる印象としては、何かが終わっていくこと自体を特に悲しいと捉えているわけではないと思うんですよね。終わりゆくことも肯定的というか、花火もずっと光り続けていたらありがたみがないというか」
ミゾベ「終わりについて歌ってはいるけど、気持ちとしてはポジティブなんですよ。終わっちゃったけど思い返したらあの時間は良かったなあとか、今が終わらないでほしいなあとか」
---なるほど、「終わらないでほしい」もあるんですね。「終わっちゃってもしょうがないよね」みたいなあきらめっぽいニュアンスもあるのかなと思っていました。
ミゾベ「その辺は聴いてもらった人が自分と違う捉え方をしてくれていても嬉しいです」
---わかりました。「あの頃」の話に戻ると、サウンドに関しては短い中にもバンドのやりたいことが凝縮されていますよね。演奏もそれぞれの楽器が重なってくるというか、そういうアンサンブルの雰囲気がすごくいいなと思っていて。で、他の楽曲にも言えますが、ああいう荒々しい音に鍵盤の綺麗な音が入ることで一気に美しい景色が広がるのがodolの音楽の特徴だと思っているんですけど。森山さんとして、自分の鍵盤がバンドの中でどういう役割を担っていると考えていますか。
森山「まず前提として、僕のピアノの音もミゾベの声もノイズ的なサウンドとよく合うと思っています。僕としては曲によって「ストリングスとしてのピアノ」とか「管楽器としてのピアノ」とか、そういうイメージを意識しながらやっているんですけど」
ミゾベ「ギターとかベースだと埋められない場所、足りない部分を総合的に見てピアノで補っているという印象があります。ギターよりも自由度が高い楽器だなと。中学生の時に2人でピアノ弾いてたときから、ピアノすげー!っていう気持ちがあって」
森山「(笑)」
ミゾベ「なんでもできるやん!って」
---(笑)。続く2曲目の「飾りすぎていた」はodolとしてはかなり初期の曲ですよね。
森山「odolとして最初の曲です。僕とミゾベと井上の3人で遊んでる時に、あの曲のイントロのギターのフレーズができたんですよね。なんかいいのできた!ってなって、じゃあ曲にしようかと」
ミゾベ「イメージは白と青ですね。歌詞にも出てきますけど」
森山「みんなで曲を合わせる時に、この曲は何色っぽい感じでとか、あとは「川っぽい」とか「森っぽい」とか、何となくの雰囲気を共有して進めていくんです」
ミゾベ「「放課後っぽい感じ」みたいに時間のこともありますね」
森山「最初の方にそういうのを決めて方向性を統一します」
---「飾りすぎていた」は最後が好きなんですけど。バツって終わる・・・
森山「ああ、よかったです。自分たちでもあった方がいいかどうか迷っていたところがあって」
ミゾベ「最初のデモからあったパートなんですけど、唐突過ぎるんじゃないかという思いもあって自然に終わるバージョンも作ったんですけど。最終的にはこの形になってよかったと思ってます」
---曲の醸し出すムードとあの終わり方はマッチしている気がしました。ぶった切られる方が、ミゾベさんが言ってた無常観みたいなものが伝わるなあと。で、「あの頃」「飾りすぎていた」の2曲を筆頭にゆったりしたテンポの曲が多い中、BPM速めで疾走感のある「欲しい」はちょっと異色ですね。
ミゾベ「最初に「飾りすぎていた」を作って、じゃあ今度は速い曲を作ろうということでできたのが「欲しい」です」
---さっきの森山さんのピアノの話で言うと、この曲の鍵盤は裏メロ的というか、メロディに寄り添う感じで。
森山「そうですね。メロディをよけながら一緒に進んでいくイメージです」
---「欲しい」以外にこういう速い曲はありませんが、何か意味というかこだわりがあるんですか。
ミゾベ「速い曲もやりたいとは思っているんですけど、作ってくれないから」
森山「(笑)。この頃はゆったりした曲をやりたい気持ちが強かったですね」
---森山さん的に気持ちいいテンポはどの辺なんですか。
森山「僕の中ではBPMが100ちょっととかですね。曲を作るときにとりあえずクリックを鳴らしておくんですけど、大体そのくらいを刻んでます」
ミゾベ「他のメンバーがあげてくるデモも遅いのが多いですね。僕は「欲しい」とかのBPMも気持ちいいんですけど」
---(笑)。最後の曲が「生活」で終わるのもいいですね。
森山「1曲目が「あの頃」でラストが「生活」、というのは初めから決めていました」
---この曲の<生活に溶けていく 花のように>っていう歌詞にグッと来ました。
ミゾベ「仮タイトルが「花のように」でしたね、この曲は」
---<生活に溶けていく>と<花のように>がどうつながってるのかなと思ったんですけど。
ミゾベ「僕の中のイメージで言うと、花って身の回りにたくさんあるのになかなか気づかない、だけど綺麗。そういう気持ちです」
---日常にある小さな幸せとか・・・
ミゾベ「というよりは、ふと気がつけばそこにあるもの、ですかね」
---わかりました。この曲は、他の曲よりも「淡々とした優しさ」みたいなものを感じます。odolの曲には「力強さ成分」と「優しさ成分」があるとして、「生活」だとより優しさ成分が強いというか。
ミゾベ「最初はもっと荒々しかったんですけど、試行錯誤してこれに落ち着きました。この曲は作ってる時から「代表曲にしよう」っていう意気込みでしたね」
森山「「名曲を作りたい!」という気持ちでした。名曲の定義はわかんないですけど(笑)、自分のバンドに名曲があったらいいなあと思って作った曲です」
「世界一のバンド」を目指して
---他のインタビューも読ませていただいたんですけど、その中で「世界一のバンドになる」という発言を見たんですが。
森山「言いました」
---これ読んで「おお!」と思ったんですけど、この言葉の真意というか、どういう思いが込められているか教えてください。
森山「漠然としてるんですけど・・・ポピュラーミュージックとして出来ることがいろいろあって、それを最大限手に入れたいと言う意味で、世界一という言葉を使いました」
---今「ポピュラーミュージック」という言葉を使っていたのが象徴的だなと感じましたし、ここまでの話でもちょこちょこ出てきてはいますが、バンドとしてはマスを向いてるというか、あらゆる人に聴いてもらいたいという志向がはっきりしてますよね。わかる人だけわかってくれればいい、ではない。
森山「そうです」
---そういう意識はメンバー全体で共有されているんですか。
森山「ついこないだメンバーにもこういう話を初めてしたんですけど・・・それぞれいろいろ感じる部分はあると思いますが、広く届けたいという思いはみんな持っています」
---ミゾベさんもミスチルとオアシスが好きなわけで、まさに日本で一番聴かれているバンドと世界で一番聴かれているときがあったバンドですよね。
ミゾベ「一番大きいバンドになる、いろんな人に聴いてもらえるバンドになるという部分は僕も賛成です。ただ、これはメンバーにも言ったんですけど、「世界一」になることそのものが重要というわけではないのかなと思っていて。世界一になるためには外国の人にも聴いてもらいたい、だから英語で歌おう、みたいな話ではなくて、音楽を通してより多くの人に何かしらの感情を呼び起こすということをやり続けたいと思っています」
---odolがそういうバンドになっていくために、ここからどうやっていきますか。
ミゾベ「勉強ですね」
森山「日々勉強です」
---具体的には。
ミゾベ「たとえば歌詞だったら、今回の7曲は自分が思っていること、考えていることを表現していくという形で全部書いているんですが、もっと違う手法にもトライしていこうと思っています。言葉の使い方についてもどんどん変わってきていて、昔は直接的な言葉づかいはチープだと思っていたので「飾りすぎていた」とかはすごく抽象的な歌詞なんですが、一番新しい「愛している」だとかなりストレートになってるし。以前は歌詞にカタカナを入れることすら嫌だったんですけど、今は自分の中でやりたくないと思うことがどんどん減っているので、いろいろチャレンジしたいですね」
---その辺は抽象的な言葉だと届かない、みたいな危機意識があるのでしょうか。最近クラムボンのミトさんがインタビューでまさにそんな話をしていましたが。
ミゾベ「危機感というよりは・・・僕の中では、ストレートな表現なのに他の人には書けない歌詞が作れたらすごくオリジナリティがあるんじゃないかなと最近思っています」
森山「今の好みはこの7曲に詰め込めたと思うんですけど、やりたいことはどんどん増え続けていて、全然追いついてないんですよね。それをやり切れるまではやり続けたいですね、odolを。今はこの5人、あと支えてくれる周りの人たちと一緒に音楽をやってるのがめちゃくちゃ楽しいんですよ。それを続けるためにも、立ち止まらず進んでいくのは大事だと思っています」
ミゾベ「ステージを大きくしていきたいね」
---今の「ステージ」という言葉は概念としてだと思いますが、「ステージを大きくする」という話だとフジロックも今度はルーキーじゃなくてグリーンステージで。
森山「出たいっす。去年、fujirockers.orgで出演バンドへのインタビューがあったんですけど」
ミゾベ「次に出たいステージは?っていう質問があって、メンバー全員グリーングリーングリーンって(笑)」
森山「がんばります」
---グリーンに立てるバンドになることを楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。
2人「ありがとうございました!」
>>
司会者「インタビューは以上になります。何かあれば」
レジー「2人とも飄々としてるんだけど、音楽そのものについてもこれからの活動についてもちゃんとした考えを持っていて若いのにしっかりしてるなあとおじさんっぽい感想を抱きました。すごくメロディが立ってるバンドだなという印象だったんだけど、やっぱりそこにフォーカスして作ってるんだといろいろ納得しました。まだ活動して間もないわけで、ここからどう化けていくか注目したいと思います。改めてミゾベさん森山さんありがとうございました。今回はこんな感じで」
司会者「次回はどうしますか」
レジー「とりあえず未定で。TIFもひたちなかももうすぐだなあ。それ系の話をするかもです」
司会者「できるだけ早めの更新を期待しています」