司会者「前回のいきものがかり水野さんに引き続きインタビュー企画をお送りします」
レジー「はい。今回は今日5/18に2ndアルバム『YEARS』をリリースしたodolのお2人、ボーカルのミゾベリョウさんとピアノの森山公稀さんのインタビューをお届けします」
司会者「昨年の夏に続いて2度目のインタビューとなります」
レジー「今年入って新曲の「退屈」を聴いたときに「odol変わったな!」って思ったんだよね。前も良かったけど、さらに違うステージに行った感じがして。『YEARS』は、そんな期待にばっちり応えてくれる作品になっていたと思います。ちなみにこのインタビューに先立って『YEARS』のライナーノーツも書かせていただきました。公式サイトで読めますので、未読の方はこちらと合わせて読んでいただけると嬉しいです。それではどうぞ」
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モラトリアムを過ごす中で生まれた「years」
---新作『YEARS』のインタビューということですが・・・このアルバム、超いいですね。普通に聴いてます。
ミゾベ「嬉しい」
森山「ありがとうございます」
---『YEARS』の話に入る前に、前作『odol』への反応についてお聞きできればと思います。アルバムという形で音源を世に問うて、いろいろなリアクションが返ってきたかと思うんですが、そういうものに接して感じたことなどあれば教えてください。
森山「今思い返してみると、『odol』を作っていた時は「誰か気づけよ!」っていう気持ちがすごく強かったんですよね。で、それがリリースされて、ものすごくたくさんではないにしても多くの人に届いたことで、「自分たちの音楽をしっかり聴いてくれる人が、自分たち以外にもいる」ということを体感できたのがすごく大きかったです」
ミゾベ「僕も同じようなことを感じました。『odol』では抽象的な歌詞が比較的多かったと思うんですけど、そこに対していろいろな解釈をして楽しんでくれる方がいて、「こんな感じとり方があるのか」と刺激になる部分もありました」
森山「『odol』を出した後に感じた「聴いてくれる人がいる」という感覚は『YEARS』にもすごく影響しています。その人たちに対して丁寧に自分たちの表現を届けたい、と思いながら制作していたので」
---昨年夏のインタビューでは「やりたいことがどんどん増えている」というお話がありましたが、『YEARS』に収録されている楽曲のバラエティ感はまさにその「やりたいこと」がそのままぶち込まれたかのような印象を受けます。今作における音楽面での広がりの背景にはどんな思いがあるのでしょうか。何か狙いがあったのか、それともただ夢中にやっていたらこうなったのか。
森山「今作はまず全体としてのテーマ、コンセプトみたいなものがあって」
ミゾベ「現状僕らが過ごしている学生生活、社会に出る前のモラトリアム期間のことを表現したいなと思っていました」
森山「そのコンセプトを出発点として、それをいろんな側面から表現した楽曲が8曲収録されている、というのが今回の作品です。ここでいうコンセプトというのは作品に通底する「意味」みたいなものなので、それを音楽として様々な角度からアプローチするとどうなるか、ということをやった結果サウンドとしては多様なものになりました」
---なるほど。「モラトリアム」と一口に言っても人によって想起するものが違うと思いますが、もう少し噛み砕いていただけますと。
森山「ちょうど『odol』が出た直後くらいにミゾベと雑談していて、僕が曲を作ってミゾベが歌詞を書くっていうパターンが多いから、まずはこの2人ではっきりした共通認識を持たないといけないという話になったんですよね。じゃあ自分たちが共有できるものってなんだろうって考えたときに・・・僕たちは中学校から一緒なんですけど、福岡に地元があって、今は東京で学生やりつつ音楽をやっていて、年に1回か2回家族や昔の友達に会って、というリズムは2人とも同じだよなということに気づいたんです。帰省するときに飛行機や新幹線の中でいろいろなことを考える時間だったり、故郷に対しての距離感だったり、この先どうするのかなというぼんやりとした不安だったり。そういう感覚が『YEARS』のベースにはあります」
---今お話しいただいた内容は、表題曲の「years」でダイレクトに表現されていますよね。
森山「そうですね。その話をして、じゃあそんな感じで考えてみようってことになり、その日に僕が家で作ったのが「years」の冒頭の和音とメロディです。それをミゾベに共有したら気に入ったみたいで」
ミゾベ「最終的な歌詞になった<どんな服を着よう どんな言葉で話そう>っていうフレーズは、このデモを聴かせてもらった時点でできました。とにかく気に入ったんで、仮タイトルを「リード曲」ってつけて」
---(笑)。
森山「勝手につけるっていう(笑)。ただ、僕が続きをすぐには作れなくて止まっちゃうんですよね。結局完成したのは『YEARS』に入っている他の曲の作業が全部終わってからでした」
---この曲はお2人の原風景みたいなものがベースにあるからすごく素朴な感じになっているんだと思うんですけど、『odol』を聴いたときに「素朴」っていう印象を受けた曲はなかったんですよね。そこがすごく新しく感じたというか、バンドとして違ったステージに入ったんだなと思いました。最初おっしゃっていた「ちゃんと聴いてくれる人がいる」という安心感みたいなものがあったからこそ、こういう丸裸というか、ピュアで美しい曲ができたのかなと。
森山「まさにそうですね」
---だから逆に言うと、きっと前作のタイミングだとこの曲は作れなかったんですよね。『odol』があったからこその。
森山「そう思います」
ミゾベ「『odol』のときは斜に構えすぎていたので」
---なるほど(笑)。
森山「レジーさんがライナーノーツに「少年は少しだけ大人になった」ってタイトルをつけてくださったじゃないですか。ほんとにこの通りっていうか、なんでこんなあてはまる言葉があるんだ!みたいな」
ミゾベ「僕ら的にはかなり大人になった気持ちだったし、そもそも『odol』のときも少年だなんて自覚はなかったんですけど。ほんとの大人から見たら、ちょっと大人になったくらいなんだなって・・・(笑)」
森山「改めて「years」を聴くと『odol』の楽曲よりはだいぶ素直に作れたと思うし、そういう意味では少しかもしれないけど大人にはなれたかなと思います」
アンサンブルとリズムへの取り組み
---6曲目に収録されている「退屈」は今年の1月の時点でSoundCloudにアップされていましたが、個人的にはこの曲相当気に入っています。これはどんな狙いで作られた楽曲なんでしょうか。
森山「僕の中で「自分がデモを作って、それを5人でやったら、結果としてこのくらいのものが出てくる」みたいなのがだいぶ見えてきていたタイミングだったので、新しいやり方にトライしようと思って作ったのが「退屈」です。この曲、実は1曲通して3個のコードしか使ってないんですよ。ずっと同じコード進行。で、「今回はこのコードしか使いません」って宣言して、5人でセッションしながら作っていきました」
ミゾベ「だいぶ時間かかったよね」
森山「「years」以外だと一番時間がかかっていると思います。レジーさんも言っていただいていたと思うんですけど、この曲で聴かせたかったのはロックバンドとしてのアンサンブルです。イントロもAメロも全部同じコードなんで、その中で違いを出すために何をしたらいいかっていうのを5人で考え抜きました。そういうやり方で作ったこともあって、それぞれの楽器の絡みみたいなものが強調された仕上がりになったかなと」
---最初に聴いたときに「このリズムの感じすごい!アンサンブルかっこいい!」ってなったんですけど、そこを意識的に作ったんですね。この曲が醸し出している疾走感とか軽やかな感じも、「years」の素朴さと同じで前作にはなかった感触だと思いました。
ミゾベ「高校の頃に森山とやっていたバンドからodolに至るまでBPMの速い曲をあまりやってきていないので、結構新鮮な気持ちで歌いました。歌詞に関しては、「years」が意味に重きを置いているの対して「退屈」とか「綺麗な人」みたいなアップテンポの曲の場合はメロディへの乗り方を重視しています」
---なるほど。リズムに対する取り組みでいうと、「逃げてしまおう」も新境地ですよね。かなりトリッキーなことをやるんだなと。
森山「「逃げてしまおう」は「退屈」とは真逆で、ピアノとドラムとベースは僕が最初に作った譜面から9割がた変わってないです。そういう意味では、バンドっぽくない曲ではあるかもしれないですね。2人(ベースのShaikh Sofianとドラムの垣守翔真)には「完コピしてくれ」ってお願いしたのでかなり苦労してもらいました。途中で「リズムの取り方が違う!」ってちょっとけんかになったりもしたんですが(笑)、最終的にはそれぞれの体にちゃんと入っていきました」
---最近はヒップホップにしろジャズにしろ複雑なリズムを刻む曲がいろいろありますが、そのあたりを意識したりはしていたんですか?
森山「むしろ逆で、この曲は仮タイトルが「ジャズじゃないよ」だったんですよ」
---(笑)。
森山「ジャズっぽく聴こえる和音とかリズムを使っていたんで、それをジャズっぽく弾かれたらダメだと思ったんですよね。「ジャズじゃなくてロックバンドなんだ」っていう思いは強くありました」
ミゾベ「ノリであの感じになったんじゃなくて、あれでジャストです」
森山「そうだね。リズムの揺れに持っていかれちゃう曲にはしたくなかった。最終的にはああいうトラックにもかかわらずちゃんと歌が入ってくる仕上がりになったので良かったです」
『YEARS』で描かれる「対話」
---『odol』の時のインタビューでは歌詞によく出てくる「花火」という言葉についての話をした記憶があるんですが・・・今回の作品には出てこないですね。
ミゾベ「(笑)。夏の歌が少ないからってのが大きいですけど、避けた部分もあります」
---今まで「花火」って言葉に「永遠に続かない」とか「この時間がもっと続いたらいいのになあ」みたいな意味を込めていて、そういう気持ちを歌詞にすることが多いというお話があったかと思うんですけど、そのあたりのモードは変わったんですか?個人的な印象としては、「終わっちゃう」よりも「でも続いていくよね」という雰囲気を今作全体から感じました。
ミゾベ「そうですね・・・「永遠に続かない」っていうのは自分の中では今でもテーマの一つではありますけど、今回は別のコンセプトがあったので一旦そこから離れようと思っていました。モードが変わったかどうかという点については、前作が下を向いているような、後ろを振り返るようなイメージだとしたら、今回はもっと前向きな意識にはなっています」
---よりポジティブな気持ちに。
ミゾベ「はい。あとは使っている言葉が変わったというか、意味がわからないような表現は少なくなったと思うので、そのあたりのはっきりした感じがポジティブな印象につながっている部分もあるかもしれないです」
---抽象的な表現と具体的な表現のバランスは以前から気にされているところだと思うんですけど、今回はやや具体に寄せている感じがします。
ミゾベ「『odol』のときは難しい言葉、すぐには意味が分からないような言葉、あとは誰も使っていないような表現がかっこいいと思っていたんですよね。「飾りすぎていた」ってタイトルとか誰も使ってないと思ったし、これまではそういうのを探していたんですけど、今回は「誰しもが使っている言葉でどれだけオリジナリティを出せるか」というところを一番意識しました。抽象的に言ってもうまく伝わらないというのがわかってきたので」
---なるほど。今のお話ともつながるかもしれないですが、『YEARS』で歌われている言葉は『odol』のときよりも相手がいるというか、対話している感じのものが多い印象があって。「years」の<あの日からのこと話させてよ>とか、「逃げてしまおう」の<君の話を聞かせてみて>、「17」の<今だけは言葉も海に投げよう>も普段は喋っているからこのタイミングでは喋んなくていいみたいなことなのかなとか。前作の言葉は、どちらかというと全体の風景を描写するような・・・
ミゾベ「そうですね」
---で、今回はフェイストゥフェイスというか、人と人との関係によりフォーカスしているような気がしていて。マクロな視点からの言葉か、それともミクロな視点で綴られた言葉かっていうのが結構違うと思うんですけど。
森山「「対話」っていうテーマは、確かにこの作品の真ん中にあることかもしれないです。最初は気づいていなかったんですけど。自分と誰か、僕らと自分、そういう関係性の中にある会話みたいなものがすごく大事で、『YEARS』では一貫してそういうことが描かれているように思います」
ミゾベ「1曲目の「years」の一番強い表現が<話させてよ>で、最後の曲の「夜を抜ければ」の一番強い表現が<話をしよう>になっているので」
---ああ、ほんとだ。
ミゾベ「意味合いは結構違うんですけどね。<話させてよ>は例えば僕が親に言っている感じで、<話をしよう>は親から僕に声をかけてくれているというか。『odol』のときは<○○しようよ>みたいな自分の要望を表現する歌詞は入れたくなかったんですよね、何となく安易な聴こえ方をするんじゃないかなという不安があったので。ただ、「逃げてしまおう」の歌詞を書いているときに、「自分の気持ちは入れない」みたいな形で表現を縛っていると結果的に何も言えなくなっちゃうなって思ったんですよね。そこから、今まではチープだと思っていた表現をいかにチープに聴こえないように使うか、というように意識が変わりました」
今の時代にロックバンドを続ける意義とは
---今回の『YEARS』は皆さんにとっても自信作なんじゃないかと思うんですけど・・・
森山「はい」
ミゾベ「自信作です!」
---(笑)。そのうえであえての質問なんですが、今回のアルバムでここはやり足りなかったとかもっとこうしたかったとか、そういう部分はありますか?ここでバンドが解散しちゃうわけでもないですし、そういう思いがこの先の作品につながっていくのかなと。
ミゾベ「僕は・・・このアルバムができた後、森山がメンバーみんなに「ほんとにやりつくしたか」みたいなことを確認したんですけど、そのとき全員が「やりつくした、死ぬ気で120%出した」って答えていたんですよね。それは僕も同じで、たとえばアコギを入れてみるとかストリングスと一緒にやるとか7分の曲を作るとか、やってみたいと思ってまだやっていないことというのはいくつかあるんですけど、少なくとも『YEARS』に関してこうすべきだったとか、『YEARS』を踏まえてこんなことをやりたいみたいなことは、今時点では正直ないです」
---なるほど、出し切ったと。
ミゾベ「きっとまた1か月2か月経ったら違うと思いますけど」
---森山さんはいかがですか。
森山「このアルバムは超自信作なんで絶対みんな聴いた方がいいと思っているんですが(笑)、レコーディングが終わって、ミックスも終わって、完成しましたってなった瞬間に「違うんだよ!」っていう感情が湧いてきちゃったんですよね、実は。完成しちゃったことが悔しいというか・・・完成するまではてっぺんがないけど、完成したらそこで終わりだから。過去の作品を後から聴くともっとできたみたいに感じることってあると思うんですけど、今回はそれができた当日に来ちゃったんですよね。『odol』を作った後の「やりたいことがどんどん増え続けている」っていう状態が今はもっと加速していて、やっていることが考えていることが追い付いていない感じです。次はもっとすごい作品作ります」
---今後に向けて、今現在の興味関心でいうとどのあたりにありますか。
森山「これはバンドとしてというよりは僕の個人的な話と言った方が正しいかもしれないんですけど、僕らは「5人のアーティスト集団」じゃなくて「5人組ロックバンド」だと思っているんですが、なんで「自分たちはロックバンドで音楽をやろうとしているんだろう?」っていうのが・・・「本当に一番やりたいことにはロックバンドというフォーマットが最適なのか?」ってことについては正直まだ自覚的にはなれていないなと思っていて。もちろん楽しいからやっているんですけど、それだけじゃなくてちゃんと言語化できたらもっと面白いものができてくるんじゃないかと思っていて。結局ロックバンドって何なんだ?って話なんですけど、そういう根本的な話から何か新しいことが生まれてくる気がしていて。そのあたりはもっと考えていきたいと思っています」
---「ロックバンドであることの意味」っていうのは、今の時代にバンドをやっている人たちみんな考えざるを得ないことなのかなと思います。今はギターがなくても曲は作れるし、ひとりで作ったものをネットにアップすれば発信もできるし、そういう形で世の中に点在している音楽の中にもかっこいいものはたくさんありますよね。そんな中であえて5人集まって楽器を鳴らして、スタジオ借りて練習して、ライブハウスとってライブやって、っていう一連の流れに何の意味があるのかとか。あまり好きな言葉ではないんですけど、「コスパのいい音楽」ではないですよね、ロックバンドって。
森山「はい」
ミゾベ「それはよく話します」
---「別に音楽やりたいだけならバンドじゃなくても良くない?」って言われたときにちゃんと返答できるバンドかどうかっていうのはこの先すごく重要になってくる気がしていて。それこそ、森山さんは自分で曲を作れるし、ミゾベさんだって歌えるし、もしもバンドがなかったとしても音楽をやることはできるじゃないですか。それでもやっぱり、ロックバンドでありたいっていうのはあるんですかね。
森山「・・・本音ではわかんないんですよ。だからそこをちゃんと考えていきたい。5人でいること自体は楽しい、じゃあその5人で表現する活動をしよう、っていうときに、たとえばDJ集団だったらどうなんだとか。たぶんみんなが本気でやっていればそれも楽しいと思うんですよね。ただ、今5人がロックバンドを選んでいるというところには何かしらの理由があると思っているので。そこを探って、音に落とし込んでいきたいですね」
---わかりました。では最後に、今回のアルバムや今後に向けて、意気込みや言い残したことがあればお願いします。
ミゾベ「これの次の作品はもっとすごいものを作らないといけないから大変だ、と思うくらいのアルバムができたと思っているので、たくさんの人に聴いてもらいたいです」
森山「『odol』と『YEARS』も結構違うと思うんですけど、この先も「前の作品を少しバージョンアップした」みたいなものを作るつもりはないので、またしばらくしたら新しいodolをお見せできると思います。それまで『YEARS』を聴いて、期待して待っていてください」
---今後の活動も楽しみにしています。ありがとうございました。
2人「ありがとうございました!」
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司会者「インタビューは以上になります」
レジー「今回のアルバムほんとにいいからね。2人ともほんとにいいのができた!って感じだったけど、そこに嘘偽りはないと思います。特に面白かったのは最後の話題かな。なぜロックバンドをやるのか?っていうのは哲学的な問いだけど、ぜひそこに何かしら決着をつけてそれを作品にアウトプットしてほしいですね。改めてお2人ありがとうございました。なかなかライブ行けてないので近々行きます。今回はこんな感じで」
司会者「わかりました。次回は」
レジー「インタビュー企画もう1バンド残っているのでそちらで。お楽しみに」
司会者「できるだけ早めの更新を期待しています」