司会者「前回のodolに引き続きインタビュー企画をお送りします」

レジー「今回は8月2日にデビューアルバム『他に好きな人ができた』をリリースする恋は魔物の2人のインタビューをお届けします」

恋は魔物アー写


司会者「先日公開されたリード曲「美しくってばかみたい!」のMVが話題を呼びました」



レジー「なかなか衝撃の展開なので未見の方はぜひ。今回のアルバムにはDADARAYのえつこが参加していたり、あとは小田和正やSuperflyの作品も手掛けているエンジニアの方が関わっていたりと、今のインディーシーンには比較的珍しい大文字のポップスとして機能しそうな音楽をやっているバンドです。ただ、そういう間口の広さとは対照的に、彼らはロックバンドとしてのアイデンティティを持って活動していて、そういうところにユニークさがあるのかなと思います。今回のインタビューではバンド名の由来といった基本的なところから2人のミュージシャンとしてのルーツ、このバンドのテーマとなっている恋愛というものの切り取り方などについて話を伺いました。ちなみにこの記事が初めてのインタビューとなります。それではどうぞ」


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「名前に引っ張られて変わっていった」

---今回がグループとしては初めてのインタビューということですので、基本的なところからお伺いできればと思います。まずはお2人が一緒に活動するようになったきっかけから教えてください。

いづみさとー(以下いづみ)「恋は魔物として活動する前に私がやっていたバンドがあったんですけど、そのバンドのローディーやカメラマンを彼がやっていたんですよね」

田中ひろゆき(以下田中)「高校時代からの友人がそのバンドにいて、流れで手伝うようになりました」

いづみ「そのバンドは結構ぐちゃぐちゃして解散しちゃうんですけど・・・それで精神的に凹んだりもしたんですが、そのときにいろいろ相談に乗ってくれたりしていたのが彼だったんですよね。そういう中で、じゃあ一緒にやってみようかという感じで私から誘いました」

田中「ちょうど僕もバンドがないタイミングだったので、またゼロから始めようかなと」

---どんな音楽をやるかのイメージはあったんですか?

いづみ「いや、全然なかったですね。今は「恋の悲しい歌」っていう方向性が固まってきていますが、最初からそういうことをやろうと思っていたわけではないんです。名前に引っ張られて変わっていった感じですね」

---恋は魔物、インパクトのある名前ですよね。「魔物」って言葉を辞書で引いてみたんですが・・・

いづみ「(笑)。引いたことないです」

---「人をたぶらかす妖しい力を持つもの」。

いづみ「まさにですね。恋ですね、それは」

---(笑)。バンド名自体が強烈なメッセージになっているというか。

いづみ「でも最初は好きじゃなかったんですよ!ツイッターアカウントを作るときにも、「恋は魔物、って・・・」と思いました(笑)。今の2人と以前メンバーだったドラムの3人でバンド名を決めようってなって、私は「これ!」っていうアイデアがあったんですが、あとの2人が嫌だって言ったんですよね。じゃあもう何でもいいよ、好きにすれば?って感じで・・・」

田中「すでに彼女が詞も曲も作っていて、そこにあるダークな雰囲気とかがバンド名になったらいいなと思っていたんですよね。「恋って怖いよね」みたいな話もしたと思うんですけど、そういうところから「魔物」って言葉が出てきました。初めは確かにちょっと恥ずかしかったんですけど(笑)、彼女の持っている世界観に合っている言葉だと思うし、このバンド名にしようってなった時の感覚は間違ってなかったんじゃないかなと」

---なるほど。ちなみにリスナーとしてはこれまでどういうのを聴いていたんですか?

いづみ「ほんとにいろいろなんですけど・・・やっぱり歌がいいアーティストが昔から好きでしたね。ボニー・ピンク、ラブ・サイケデリコ、中島美嘉とか。あとは高校生になってチャットモンチーに出会って「女の子でもこんなにかっこよくできるんだ!」って思って感動して、そこからバンドものを聴くようになりました。父がプログレ好きだったり、母がビッグバンドのボーカルをやっていたりローリング・ストーンズのコピーバンドに入ったりしていて、音楽は昔から自分の身近なところにありました」

田中「うちの親も音楽が好きで、車の中でずっとボサノバが流れていましたね。リスナーとしては基本なんでも聴くんですけど、中学3年生の時にギターを買ってからは洋楽、海外のロックがメインです。高校で軽音楽部に入った時にやっていたのはレッド・ツェッペリン、ミスター・ビッグ、ヴァン・ヘイレンとかのハードロック、あとはオアシス、レッチリ(レット・ホット・チリ・ペッパーズ)、ブリンク182・・・マイケミ(マイ・ケミカル・ロマンス)とかもやっていましたね。大学に入ってからはブラックミュージックのバンドをやっていたし、日本の音楽だとはっぴいえんどとかシュガーベイブとか、あと松任谷由美さんや鈴木茂さんもすごい好き。雑食です」

---最近聴いたやつで何かいいのありました?

田中「今ライブ見たいのが、11月にバンドで来日するMitskiさん。去年のライブも行きました。アラバマ・シェイクスとかボン・イヴェールとかも好きですよ」



いづみ「最近だと・・・ラジオで聴いてやばいなと思ったが、乃木坂46の齋藤飛鳥ちゃんとコラボしているMONDO GROSSOの曲ですね。なんだこの病気になりそうなやつは!って思いました(笑)。ああいう中毒性のある曲に弱いです」




「携帯のメモ帳に、常に歌詞が1000件くらいある」

---楽曲作りにおける役割分担としてはいづみさんが作詞作曲、田中さんがアレンジという理解でいいですか?

田中「まず彼女が歌詞とメロディを作ってきて、それを僕が打ち込みでアレンジする場合とバンドのメンバーそれぞれがデモを聴いてアレンジを持ってくる場合があります。今回の曲だと「あなたとの関係」は2人で完結させた曲で、「あなたには関係ない」は今ライブをやっているメンバーで全部アレンジした初めての曲です」

---「あなたには関係ない」はバンドっぽさがありますよね。アウトロがかっこいいなと思いました。

田中「ありがとうございます」

---いづみさんの曲作りのプロセスについて教えていただきたいんですが、何か参照元があってロジカルに曲を作るタイプなんですか?それともイメージがふいに降りてくる感じなんでしょうか。

いづみ「あの・・・根がポエマーなんですよ(笑)。携帯のメモ帳に、常に歌詞が1000件くらいあるんですよね。だから歌詞に困ったことはないです。楽器を弾いて「このコードいいな」ってなったときに、その中から合うものを探すことが多いですね。このバンドを始めるまで作曲はやったことなかったんですけど、自分が歌いたいものを歌うには自分で作った方がいいのかなと思って始めました」

---いづみさんとしてはご自身で作った曲が他の人によって肉付けされていくという形になると思うんですが、アレンジの方向性に関しては曲ができた時点で何かしらイメージ感はあったりするんですか?

いづみ「そうですね、バンドサウンドになったらどうなるかを意識しながらデモを作っているつもりではいます。その時のイメージからギャップのあるアレンジが出てきたことはほとんどないので、そのあたりの感覚は信頼しています。前にやっていたバンドは私が書いた言葉に違う人が曲をつけていたんですけど、言っちゃ悪いんですが表現の純度が下がるなと感じていて・・・今は自分で曲まで作ったものを他の人に肉付けしてもらっているんですけど、純度が下がると思ったことは全くないですね。伝わりやすくなっている、力を貸してもらっているなと」

田中「いづみさんのデモはコード感が特徴的で、不協和音の使い方とかからやりたいことが何となく見えるんですよね。その方向性を意識しつつ、そこに自分のやりたいことを盛り込んでいく感じでアレンジをしています。曲自体に度量があるからいろいろ遊びを入れられて楽しいんですけど、何よりも優先されるのは歌と言葉なので、そこが際立つように最近はシンプルなアレンジをするように意識しています。シンプルにしていく中でどんな面白いことができるかを考えたいです」

---さっきアラバマ・シェイクスの名前が出てなるほどなと思ったんですけど、恋は魔物の音楽って最近のポピュラーな若手のバンドよりも音がざらついているなという印象が僕の中にあって。歌ものだけどキラキラしているわけじゃない、重心の低い感じがユニークだなと思いました。

田中「いづみさんのキャラクターとか歌声、ルックス含めた存在感がすごくポップだと僕は思っているんですけど、やっぱり僕らのバンドは「ロックをやりたい」っていうのが強いんですよね。そういう意識が音の感触に出ているのかもしれないです」

---なるほど。お2人が志向されている「ロック」というのはサウンド面でのものなのか、それとも何かしら精神的な部分なのか・・・

いづみ「なんだろうな・・・「夜の国道にて獣を轢く」って曲があるんですけど、あれは対バンをビビらせるために作った曲なんですよね。そういう自分の中での尖っている部分を出していく、っていうのがロックってことなのかな」

田中「ライブで自然と拳をあげちゃうような、そういう衝動がロックなんだと僕は思います。恋は魔物の音楽でもそういう感覚を追求していきたいんですけど、一方ではいづみさんの表現が物事の核心にズバッと迫ってくる強いパワーを持っているので、そのバランスをとるのも自分の役割だと思っています」

いづみ「私が結構突っ走っちゃうんで、彼は止める役です」

田中「止めないにしても方向を変えるとかね。いいコンビネーションなんじゃないかなと思います」

いづみ「・・・(笑)」

田中「・・・いいコンビネーションなんじゃないかなと思います(笑)」

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(『他に好きな人ができた』ジャケット画像)


「ハッピーなラブソングを聴いてわーいって言ってる場合じゃないよ、あなたは何人見殺しにしてきたの?」

---さっき「歌詞が1000件ある」とおっしゃっていましたが、テーマは全部恋愛ですか?
 
いづみ「はい、ほとんどが」

---やはり恋愛に関することからインスピレーションがわくんでしょうか。

いづみ「そうですね・・・なんやかんや自分の心を動かすのって「好きだな」って気持ちだと思うんですよね。人に対してじゃなくても、たとえば音楽に対してでも「好き」っていう感情は恋だと思うから。そういうふうに感じたことを言葉に残したくなります」

---なるほど。恋愛とか「好き」という感情って本来は幸せなもののように思えるんですが、「恋は魔物」ってバンド名もついちゃうくらいだし、いづみさんにとってその感情はあまりハッピーなものではないのかなと思ったんですけど・・・

いづみ「(笑)。確かにそうですね」

---世の中にハッピーなラブソングもたくさんあると思うんですけど、それとはまた違う側面を切り取っているのはどういう思いからなんでしょうか。

いづみ「うーん・・・私がこれまで生きてきた中で、人をすごく傷つけてきたなあっていう実感があって。見殺しにしてきた人もたくさん・・・」

---「見殺しにしてきた」。なかなかインパクトのある表現ですね(笑)。

いづみ「(笑)。相手が泣いていても無視して帰っちゃったりとか、そんなことをすごくたくさんしてきて・・・そういう過去にあったことひとつひとつを忘れるべきではないと思っているんですよね。誰ひとり傷つけずに生きてきた人なんていないじゃないですか。だからみんなもそれを思い出してほしいっていう気持ちはあります。悲しみにもっと身をうずめてほしいというか・・・ちゃんと向き合ってほしいんですよ。「ハッピーなラブソングを聴いてわーいって言ってる場合じゃないよ、あなたは何人見殺しにしてきたの?」って。そんなことを考えながら曲を作っていると、結局悲しいものばっかりになっちゃいますね」

田中「前は贖罪みたいな言葉を使ってたよね」

いづみ「贖罪だね、歌うことは。「生まれながらにして罪」みたいな考え方って正しいと私は思っていて。償うために歌う、っていう気持ちもあります」

---じゃあ幸せなときは表現しようとは思わないってことですかね。

いづみ「あんまり幸せなときがないんですが(笑)、でもそうですね。表層的にハッピーなものは敬遠しちゃう。羨ましいっていう気持ちもあるんですけど」

---わかりました。歌詞を見させていただいて、僕が気になったのが「美しい」という言葉なんですけど。「美しくってばかみたい!」で始まって、最後の曲の「夜の国道にて獣を轢く」も<こんな恋は美しくないなぁ>で終わりますよね。いづみさん的に恋愛における美しさって何なんだろうなって。

いづみ「確かに最初も最後も「美しい」ですね・・・今気づきました(笑)。まず、誰かを好きになるっていうことがすごく尊い、それだけで美しいと思っています。「美しくってばかみたい!」は、すごく相手のことを好きになった、それは美しい感情なのに最後は裏切られて終わった、なんかばかみたいだな、っていう帰結なんですけど」

---「夜の国道にて獣を轢く」もすごく好きな人の話ですが・・・

いづみ「あの曲で歌っているのは、傷つけることで好きな人の心を動かしたいっていう偏った愛情についてなんですよね。やっぱり好きな人の心って揺らしたい、だけと傷つける以外に術がないからそれしか選べなかったっていう。それって「好き」という感情ではあるけど、決して美しくはないなって」

田中「横で歌詞を聴いている立場としては、今いづみさんが話していた感情の動きみたいなものだけじゃなくて、そういう出来事が起こった様子を俯瞰して美しいとかって表現しているのもあるのかなと思いますね。映画のワンシーンっぽいというか、調和しているものが破綻することの美しさ、みたいな」

---なるほど。エネルギーが発露する瞬間の危うさ、それゆえの美しさ。

いづみ「暴力的な情景と美しさっていうのはわりとテーマになっているかもしれないですね。「美しくってばかみたい!」でも、灰皿を蹴飛ばしてそれがきれいに飛び散るさまに美しさを感じていたりします」



「わかってくれなくてもいい、好きだって思ってほしい」

---初めて全国流通の作品をリリースするにあたって、こういう人に届いてほしい、こんなふうに聴いてもらいたいとかってイメージはありますか。

田中「もちろん多くの人に聴いてもらいたいとは思っています。恋愛に興味のない方、たとえば年配の方とかにはどう思われるかわからないんですが・・・」

いづみ「骨になるまで恋愛に興味はあるよ」

---・・・名言出ましたね。

いづみ「(笑)。私は、わかってくれなくてもいい、好きだって思ってほしい、という気持ちです。人間って分かり合えないことが前提だと思っているので、その人なりに解釈をしてもらって、それで好きだなって言ってもらいたいですね。誰かの中で私たちが思っているのとは全く違うキャラクターの恋は魔物が生きているっていうのもわくわくするので、好きにしてもらっていいです」

田中「僕はずっと洋楽を聴いてきたんで、リスナーとしては言葉よりもサウンドに力を感じてきました。彼女の言葉の強さや歌の良さと合わせて、バンドとしての演奏の良さも伝わるといいなと思っています。ミュージシャンって芸術的なものを作る人のことだと思うんですけど、「芸術」って新しい価値や意味を気付かせていくものなんだと思うんですよね。自分たちがそういうものを提示して、誰かの人生に新しい色を加えるようなことができたら嬉しいです」

---わかりました。じゃあ最後、いづみさんに締めていただけますと・・・

いづみ「なんだろう、難しいな・・・(笑)。私たちは悲しみを歌っているんですけど、それを聴いて泣いてくれるあなたはすごくきれいでかわいいよ、ってことを言いたいです」

---この先も期待しています。ありがとうございました。

2人「ありがとうございました!」


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司会者「インタビューは以上になります」

レジー「2人とも言葉が強くて面白かったです。いづみさんがわりと直感的な表現を使うのに対して、田中さんはロジカルに状況を切り取る感じで、確かにいいバランスだなと思いました。音としては普遍性があると思うし、一方で言葉はかなりパーソナルな領域に入っていくようなものになっているし、どういう形で支持されていくのか楽しみです。改めましてありがとうございました」

司会者「わかりました。次回は」

レジー「ちょっと一旦未定でお願いします。また一つ大きめのネタを仕込み始めたのでそちらの話もそのうちできれば」

司会者「できるだけ早めの更新を期待しています」