December 02, 2006

Proof of Love

彼女の家に入った後に、別の女性の家に入るなんて。
妙子にはとてもじゃないけど言えない。

1時間前に妙子の家で見かけた光景と同じように、
マリコさんも家に着くなり、部屋の電気をつけ、
バッグをベッドにおいて
床のクッションにどかっと座った。
さすがに隣に座るわけにはいかないので
テーブルを囲んで右横に座った。

そうめんを茹でる前に
二人とも無意識的に缶ビールを開けてしまったので
そのまま早速、僕は自供モードに入ってしまった。

今日1日のこと、これまでの自分と彼女のこと…。
マリコさんは黙ってタバコをふかしたまま
表情ひとつ変えずに僕の話を聞きつづけていた。
僕が一通り話し終えると、
ひと息の間を置いてからこう答えた。

「それはきっと甘えだね。」

ダメ出しなんだけど、
あまりにさらっと独り言のように言うので
ダメ出しとか説教って感じがしなかった。

「サトル君が、彼氏ってポジションに甘えてたんだよ。
 例えば男女が二人っきりで出かけたら、
 それはもうデートってことになる?違うでしょ?
 ってかそもそもデートをしたら、
 それで二人は両思いだってことになる?
 そんなんだったら
 恋愛で苦労なんてしないよ、っんとに。

 そんな保証はね、どこまで行っても無いのよ結局。
 SEXしてもコクられても籍を入れても、
 自分はこの人に確実に愛されてるなんて証拠は
 どこにも無いんだって。」

マリコさんのぽってりした唇から
薄色の煙が真っ直ぐふき出される。
少し遠い目をしたまま、更に続けた。

「結局はサトル君がそこに気づいて無かった、って
 それだけだよ結局。それだけ。」

「…、それだけ。か。」

「そ。それだけ。
 安心できる相手だからって、
 安心するのと油断するのは違うよ。甘えすぎるのも違う。」

「俺、甘えてたんだ…」

「あまあまだよ」

「彼女には、俺が甘えない男だって言われたんだけど」

「甘えないってのが、つまり甘えてるからでしょ?
 強がって気取って頑張らなくても
 このまま当たり前のように付き合って結婚して
 ずっと一緒に居るんだろう、って。
 当たり前のように付き合ってる奴ら、
 あたし一番嫌いなんだよね」

そこでまた、ある単語が僕の頭をよぎった。
しばらくは消えそうも無いこの言葉。
「思い上がってた」ってこと。

regopark_cafe at 01:43│Comments(0)TrackBack(0)clip!プチコラム小説 

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