January 08, 2007

Psychotherapist

さっきまで一緒に缶ビールを飲んでいたマリコさんが
いつのまにかキッチンに立っていた。
かと思えば手早くそうめんを茹で上げてこちらへ戻ってきた。

温かいそうめんを「にゅうめん」と言うことを
今日始めてマリコさんから知った。
薄口で懐かしいダシの味としなやかで柔らかい麺が
胸元に突っかかっていたトゲトゲやモヤモヤを温めて
つるっとした喉ごしと一緒に流し去ってくれたような気がした。

「これが、こないだ大辛の冷麺を作ったのと
 同じ人とは思えないな」

「それは褒めてくれてんの?」

「もちろん。料理上手いっすよね」

「麺茹でただけだよ(笑)。
 彼女だってこんくらいするでしょ?」

「いや、うちの彼女は料理しないんだ。
 生ゴミが嫌いなのと…」

「のと?」

自分で言うのも恥ずかしいのだが、
気づいた頃には言いかけてしまったのでそのまま続けて答えた。

「それと、せっかく一緒にいるのに
 料理作ってる間ひとりになるのがイヤなんだって。」

マリコさんの表情が一瞬止まった。
止まったまま僕の目を見つめていた。
そこで互いの目が語っているものを互いが察知した途端、
僕らはぶわっと大声で笑い出した。

「一人んなるのがイヤって!!!」

「だろ!?もう3年だぜつきあって!!」

さんざん下品な声で笑いあった後、
呼吸を整えながらマリコさんがさらっと尋ねてきた。

「はー、あーあ。でも別れないんでしょ?」

「はー、あー?
 …んー、そうだね。別れたくないね。」

「ん。それ言えれば十分だよ。
 そんな生ゴミ女に対してさ」

「ぶわぁはっ!!生ゴミ女って言うな!!」

「きったな!ツバとばさないでよもう!!」


マリコさんってのは、
どうしてこう人を笑わさないと話が出来ない人なんだろう。
荒治療ではあるけど確実に一発で直してくれる医者みたいだと思った。

regopark_cafe at 23:17│Comments(0)TrackBack(0)clip!プチコラム小説 

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