Happy Days/Save Yourself (2016)


1. Dwell In The Insanity

2. Die To Forget

3. Serenity Theft

4. Will We Make It?

5. One Can Dream

6. Let Me In...

7. Malicious Callous

8. Freedom Of Silence

9. Your Starchild

10. Save Yourself



アメリカ産デプレッシブ・スーサイダル・ブラック・メタルバンドです。

通算5作目。

Talheim Recordsからのリリース。



Happy Days



"発狂魔人"Shiningがこの世に産み落とされて以降、世界各地の地下シーンで今尚疫病の如く蔓延している厭世的HR/HMミュージックの決定版: デプレッシブ・スーサイダル・ブラック・メタル、通称"自殺ブラック"。

今回の主役Happy Daysは、その界隈において最もキャッチーなメロディ・センス、極端にエグくなり過ぎずに程良くバランスの取れた発狂要素、王道パターンを徹底的に踏襲したオーソドックスな楽曲展開を組み合わせた音像で、ガチな暗黒性や絶望感よりも、ある種サブカル的な親しみやすさを武器としているバンドとして知られています。

ただ、一口にバンドとは言っても、実質的にはドラム以外の全パートを1人で演っているA. Morbitのソロ・プロジェクトに限りなく近いので、彼のコンポーザー能力がHappy Daysが奏でる音楽の全てであると言っても過言ではありません。

鬱メロディの煽情力と曲展開の退廃的なドラマ性が爆発的に向上したことで、我が国日本を含む世界にHappy Daysの名を広く知らしめた飛躍作3rd"Happiness Stops Here..."、A. Morbitの人生観を描いた2枚組コンセプト作品で、彼自身がこれまでのキャリアの集大成と位置付けた最高傑作4th"Cause Of Death: Life"と、"自殺ブラック"入門にも最適な分かりやすさが魅力の作品群をコンスタントにリリースし、遂に界隈の代表格にまで上り詰めました。


で、今作の話。

今から思えば、妙に前向きなタイトルと、いつになく色彩豊かなアート・ワークに少しばかり違和感を覚えていたのですが、まさかこうなるとは…。

正直に告白すると、本当にあのA. Morbitが前作から4年の歳月を費やしてまで(スプラット作品は除き)今作を製作したのか疑ってしまうほど劣化してしまっています。

色々と気になる部分はありますが、端的に纏めるとするならば重大な欠陥が主に3点あります。

まず1つ目は、音質が過去最悪な点。

以前の作品群の音質がハイ・クオリティであったとはお世辞にも言えませんが、それは"自殺ブラック"の宿命でもありますし、しっかりとメタルらしい重さが感じられたので全く気にならなかったです。

しかし、今作のサウンド・プロダクションは低音域が丸ごとゴッソリと削がれており、もう笑えてくるほどスカスカ。

プリミティブ・ブラック勢のように邪悪さを最重視するが故、全パートの音を判別不能に歪ませている訳ではなく、ちゃんと各パートの分離を良くしようと努めたのが伺える上でスカスカなのも非常に質が悪い。

オーディオ・プレイヤーの低音域を最大出力にして、ようやく真面に聴けるレベルです。

2つ目は、楽曲展開がビックリするほど単調になった点。

これまでの作品群、特にここ2作においては流石にShiningほど崇高な芸術性はないものの、クライマックスに配置された絶望パートや最後の最後で断末魔を上げるカタルシス・パートを含めて、しっかりと起承転結が練られており、良い具合に鬱屈とした叙情メロディのバリエーションも豊富でした。

しかし、今作においては退廃美に浸れるメロディや絶望パート、カタルシス・パートが皆無で、ひたすら同じ様なトレモロを緩急を無視して垂れ流し、気付いた頃には曲が終わっているというパターンが最初から最後まで繰り返されてしまっています。

4曲目Will We Make It?なんかはその象徴で、Shiningリスペクトな枯れたイントロで聴き手の心を掴んだのも束の間、ずっと似たり寄ったりなトレモロのゴリ押しで引っ張り、ラストで今作屈指の煽情力を堪えたソロが来たと思ったら俄かにフェード・アウト、結果的に何のカタルシスも生まれないという曲展開の壊滅的な破綻具合には、妙なインテリジェンスに目覚めて迷走中のデス・メタル勢も真っ青な出来栄え。

ちょくちょく前作を思わせるキャッチーなメロディがあるのだから、それを軸に強引でも構わないから絶望パートに雪崩れ込めたら少しは良くなったのに…。

トレモロのネタ切れ感も嫌に目立つので、前作のAbigailみたいに映画の悲痛なセリフをサンプリングしてぶち込んだ方が幾分もベターでしたね。

ブラスト・ビートとバスドラ連打に頼りっきりな新メンバーMaelstrom(Dr)のドラミングも楽曲展開の弱さに拍車を掛けており、ミドル・テンポではリズム・パターンの引き出しの少なさが露見してしまっています。

また、ペラッペラの音質も相まってか、唯一の持ち味であろう精密なブラスト・ビートがまるで打ち込みドラムと化してしまってるのも相当キツい。

ミドル・テンポでの微妙なドラミングは兎も角として、単純なテクニック面だと、ブラスト・ビートが苦手だった前任者達より優れているように思えるので、この殺され具合はちょっと勿体無さ過ぎます。

Kanashimiとのスプリット作品で見せた正統派ブラック・メタルへのアプローチが悪い方向へ作用してしまった印象もありますね。

3つ目は、これまでの作品群には必ず宿っていた禍々しい怨念が微塵にも感じられない点。

Happy Daysのトレード・マークを担っているA. Morbit(Vo/Gt/Ba/Key)のボーカル・パフォーマンスからは、かつてのような自殺衝動に駆られた悍ましい邪気が完全に消失しており、まるでブラック・メタルの教科書からそのまま抜き出したかのような没個性的ハイ・スクリームに終始してしまっています。

"自殺ブラック"というサブ・ジャンルのボーカル面において生命線となるキチガイ染みた奇声や金切り声は皆無、ついでに彼が3rdの頃に得意としていた半泣き絶叫も10曲目Save Yourselfを除いて(それもラスト一声のみ)跡形も無く消え去っています。

元々、彼の高音スクリームは声質的な理由から並外れた個性がない代わりに、そのあらん限りの感情表現で補強して戦ってきた節があるのですが、今作での感情表現を失った発声練習さながらのスクリームは正に淡白の極み。

この手の音楽に聴き手が求めるのは、リフの良質さやテクニックの巧さなどではなく、どれだけ陰惨な情念(仮にそれが演技の産物であったとしても)が込もっているか、どれだけ心に突き刺さる叫びがあるかに尽きると自分は考えていて、早い話それさえあれば、例え音質が劣悪で曲展開が弱かったとしても、充分評価に値するとも考えています。

特に音楽におけるボーカルというものは、人体から直接発される天然の音楽ツールであるからして、そういった感情的な部分がストレートに反映されやすいので、この手の音楽の良し悪しを判断する上で、大変重要且つ明確なファクターとなり得ると自分は捉えています。

しかしながら、そういった観点から今作を聴いてみると、自分の耳というか心には全く響きませんでした。

悪い意味で機械的なドラミングもボーカルの淡白さに輪を掛けているように思います。

勿論、そこは人それぞれ解釈が異なるので自分の意見を正当化する気は毛頭ありませんが、一個人としてはこの点が今作の致命的な欠陥と映ってしまいました。

辛うじて好意的に捉えられるのは、1曲目Dwell In The Insanityでのメランコリックなピアノの旋律から炸裂するスカンジナビアンなトレモロ、3曲目Serenity Theftでの中盤に出てくるサイケなアルペジオ(一瞬で終わります)、6曲目Let Me In...での全編ダウナー・クリーンで歌うという新機軸(ただし、歌メロの鬱度合が弱く助長)、全盛期に近い勢いを感じさせる10曲目Save Yourselfぐらいですね。

今作が好きな方には申し訳ありませんが、自分の中では前2作の方が遥かに素晴らしい作品でした。

決して売れ線や流行りのブラックゲイズ路線に走った末の劣化ではない辺りも、かなりマズい気がします。

あ、歌詞に関してはとても進歩していました。

前作でもその兆候は見受けられましたが、3rd以前のようにシンプルな単語による自己憐憫一辺倒ではなく、My Dying Brideにも通ずるヨーロピアン文学的なストーリー(あそこまで完成度は高くないものの)が綴られていたのは好印象。

だからこそ、楽曲の残念さが余計に際立ってしまうという皮肉な事態に…。

個人輸入してまで買った作品をそのまま放置するのはアレなので今回は消化しましたが、ある程度視聴してから購入する大切さを改めて学んだ気がします。

まさか、先行トラックのタイトル曲がハイライトとなるとは誰が予想出来たでしょう。

頼む生き返ってくれ、A. Morbid!



Rating: 5/10


Toluca/Darvo (2016)


1. Eligos

2. Beleth

3. Marbas

4. Haures

5. Andras

6. Paimon

7. Aim

8. Malphas



ロシア産ポスト・ブラッケンド・ハードコアです。

通算2作目。

Tokyo Jupiter Recordsからのリリース。



Toluca

 

東欧の最大国家ロシアにおけるポスト・ハードコア・シーンで、今最も注目を集めている新進気鋭の若手バンドTolucaの新作です。

毎度お馴染みネイティヴのロシア人の助けを借りてロシア国内のコミュニティ会員数を調査したところ、今は亡き叙情ハードコアの雄Takenとフレンチ・ブラックゲイズ二大巨頭の一角を担うLes Discretsの2倍、ご存知ブラック・メタルのパイオニアEmperor 、同じく重鎮ミリオタ・ブラックMarduk、今や世界最高峰のアンビエント・バンドに上り詰めたUlver、更には世界的な人気を博す大御所メタルコアLamb Of God、Ateryuと殆ど同値を叩き出すという尋常じゃない盛り上がりっぷりを見せています。

流石に一般的な認知度ではアンダー・グラウンドの域は出ておらず、以前レビューした"ロシアン・ニュー・メタル皇帝"Слотと比べると2桁ほど落ちますが、2014年デビューのド新人バンド、しかもエクストリーム・ミュージック畑ということを考慮すると、この数字は正に破格ですね。

と言うことで、不要な前置きはこの辺にして本題に移りますが、デビュー作はデジタル媒体でしか聴いていないので、今回は1stとの比較はナシでレビューを進めようと思います。


で、今作の話。

まず基本的な音楽性としては、中期以降のThe Devil Wears Prada直系のスラッジーな重圧感を纏った激情ハードコアを主軸に、Deafhaven由来のほんのりと温かみのあるブラックゲイズ要素、ロシア出身らしい寂寥感を醸し出す美麗メロディをミックスさせているのが特徴で、ジャンルの枠に囚われないハングリー精神を感じさせる本来の意味のポスト・ハードコアとなっています。

ここまでだけ読むと、ロシアン・メロディを除いては、近年のヨーロピアン・ポスト・ハードコア界隈で割りとスタンダード化されている音楽を演っている印象を持たれるかもしれませんが、彼らの場合は熾烈なブラスト・ビートを乱発したり、冷たく黒々しいトレモロを頻繁に展開したりと、ブラック・メタル要素の度合いが同系統のバンド群と比較すると強いのもTolucaの特徴です。

最近流行りのポスト・ブラック的なアンビエンスが醸す知性よりも、荒々しいバンド・サウンドを全面に押し出す獣性に重きを置いている彼らの音像は、近年目覚ましい発展を遂げているネオ・クラスト勢との類似点が見受けられますし、フレンチ・ポスト・ハードコアの代表格Celesteや、同郷の先輩Состояние Птицを思わせる暴力的な暗さが感じられるのは個人的に好印象です。

そんな中で、このTolucaはエモーショナルな叙情パートにおける悲哀を最重視しており、メロディ・ラインに独特の多幸感が備わっているのも武器だと言えるでしょう。

曲展開に関しては、意外にも若手らしい勢いに任せたカオティックさは薄く、儚いイントロに導かれて俄かに弾ける激情パート→鬱屈とした美を帯びたアルペジオと共にフラストレーションを溜め込む叙情パート →序盤を遥かに上回る激情を爆発させるカタルシス・パート→多幸感のあるアウトロ、という"叙情/激情ハードコアの王道パターン"を忠実に踏襲しています。

しかしながら、前述の通り、このバンドは激情パートでブラック・メタル由来のブラスト・ビートやトレモロを多用するので、同系統のバンド群が用いる"叙情/激情ハードコアの王道パターン"よりも断然カタルシス量が膨大なのがポイント。

特に実力派Slava(Dr)のドラミングの存在感は抜群で、静の部分を担う叙情パートでもタメを効かせずに、手数の多さを活かしたハードコア然としたリズムを構築しつつ、動の部分を担う激情パートでは怒涛のブラスト・ビートをぶちかましてくれます。

Artur(Gt)、Ruslan(Gt)によるギター・プレイの冴え具合も今作の聴きどころで、濁った暗闇の中にも微かな光が差すようなメロディを、スラッジーな圧のある粗暴なリフに絡み付かせたり、ブラックゲイズ様式の手法をロシア流に解釈したトレモロを量産出来るセンスはナイスです。

Slava(Dr)の苛烈なドラミングと、トレモロを駆使した緩やかなメロディの波を作り出すギター隊とのスピードのギャップには唸らされますね。

そして、個人的に今作で一番気に入ったのが、絶望の中で希望を掴み取ろうとするような趣きがエモくて素敵なDima(Vo)のボーカル・パフォーマンス。

ポスト・ハードコア界を代表する名ボーカリストMike Hranica(The Devil Wears Prada)を彷彿とさせる胸が張り裂けるようなヤケクソ・ハイ・スクリームから、野太い声を震わせながら泣き叫ぶ感涙必至のミドル・スクリーム、不安定な節回しを使った悲痛な嘆き声、厳ついグロウルを必要に応じて使い分けることが出来、新人とは到底思えないポテンシャルの高さを伺わせます。

発狂寸前にまで感情的なDima(Vo)のボーカルが、このバンドの魅力を相当高めていると言っても過言ではありません。

全編ロシア語で歌われているのも実にナイスですね、今作きってのキラー・チューンである2曲目Belethでの"Я не нашел слова..."連発には思わず涙腺が…。

今作のコンセプトに関しては、「悪人・性犯罪者による犯罪関与の否認、犠牲者への攻撃から生じる犠牲者と犯罪者の形成逆転」、「自らの誤った行為を受け入れず、同情を得るために毎回自身の役割を変える人間の特性や、我々人類自らの手による破壊行為を神や友人、社会、愛する者へ責任転嫁する罪深さ」が据えられているとのことで、ハードコア・バンドらしい鋭い目線からの現代社会に対する批判は、今作に渦巻く激情の説得力を確かなものとしています。

ロシア産ということで、おそらく日本では知名度が限りなく低いバンドではありますが、普段このブログで紹介している一流メジャー・バンドの作品群と比較してもそれほど劣らない完成度を魅せる作品です。

曲展開にバリエーションが増えるともっと良くなったかもしれない。

情感たっぷりの嘆き声をクリーン・ボイスに応用するか、ブラックゲイズ度を増量してトレンドに接近するか、はたまた曲を長尺化、構成を練り直してポスト・メタル化するか、何れにしても今後の活躍に注目していきたい有望バンドであります。



Rating: 7.5/10


Sirenia/Dim Days Of Dolor (2016)


1. Goddess Of The Sea

2. Dim Days Of Dolor

3. The 12th Hour

4. Treasure n' Treason

5. Cloud Nine

6. Veil Of Winter

7. Ashes To Ashes

8. Elusive Sun

9. Playing With Fire

10. Fifth Column

11. Aeon's Embrace

12. Aeon's Embrace (French Version)



ノルウェー産シンフォニック・ゴシック・メタルバンドです。

通算8作目。

Napalm Recordsからのリリース。

12はボートラ。



Sirenia



Trail Of Tears(RIP)、Tristaniaと共に新世代フィメール・フロンテッド・ノルウェージャン・ゴシック御三家の一角を担っているSirenia。

元々はTristaniaの主要人物だったゴシック界きっての辣腕コンポーザーもとい独裁者Morten Velandが作詞作曲+全楽器+スクリーム/グロウルを1人で担当し、そこにメイン・ボーカルとして女性シンガーを据えるという実質的にソロ・プロジェクトに近い経緯で誕生したバンドで、結成から6年の間に幾度ものボーカル・チェンジを経験している忙しないバンドとしても知られています。

音楽性としては初期と現在で若干質感が異なるものの、基本的には同郷の先駆者Theater Of Tragedyや、今やヨーロッパを代表するオランダの女神Within Temptationの流れを受けた、本来のゴシック的な陰鬱さを完全に消失させ救済的でキラキラとしたメロディと豪奢なオーケストレーションを多用するシンフォニック・ゴシックを演っており、世界屈指のスウィート・ボイスの持ち主Ailynが専属ボーカリストとして加入した2000年代後半以降は上記のバンド群の中、というか世界中のフィメール・フロンテッド系メタル勢を集結させても群を抜いてPOPかつキャッチーな音像を押し出しているのが最大の特徴です。

ポップ・ユニットでも活躍していたAilynを迎え入れたことでボーカル・パートの甘ったるさとPOP感が飛躍的に強化されたSireniaのターニング・ポイントにして、本人達が望むにしろ望まないにしろ今話題の"アイドル+メタル方法論"を恐らく世界で初めて全編に渡り披露した4th"The 13 Floor"、同時期のシンフォ・ゴシック勢に倣ってアメリカナイズを果たし一段とストレートになった楽曲展開と眩暈が起こるほどの激甘POPメロディが幅を利かせる5th"The Enigma Of Life"、正式に声楽を学んだことで持ち前のスウィートな声質はそのままに歌唱力を爆発的に向上させたAilynのボーカルに伴い、バンド史上最も壮大かつ重厚な作風となった6th"Perils Of The Deep Blue"、壮麗なシンフォ・サウンド、男性声が強めの厳かなクワイア、北欧産らしい光沢を帯びたデジタリック・シンセを巧みに駆使しつつ、アグレッションを以前より強化して新世代シンフォ・ゴシックの王道を突き詰めた7th"The Seventh Life Path"と、Ailynが加入して以来、比較的作風を一貫させつつコンスタントに進化を遂げています。


で、今作の話。

初期の頃は女性ボーカリストを取っ替え引っ替えして遊んでたMorten Velandもここ数年はようやく落ち着いて、Sirenia=Ailynのイメージがすっかり定着していた矢先、まさかのAilyn脱退劇に見舞われました。

Ailyn特有のスウィート・ボイスは勿論のこと、Sireniaのボーカリスト史上在籍年数最長となる彼女の離脱に、どれほど多くのファンが嘆き悲しんだかは想像に難くないと思いますが、後任者にはフランス出身でクラッシック/声楽畑の実力派Emmanuelle Zoldanを正式に迎えて制作されました。

そんな今作の全体的な路線としては大方の想像通り、ヨーロピアン様式のスケール感が俄然広がったことで神聖な美を際立たせた6th以降の王道シンフォニック・ゴシック路線となっています。

細かい部分に話を移すと、Morten Veland(All Instruments/Vo)によるギター・リフやリズム・セクションに80年代の正統派ヘヴィ・メタル式のキレと疾走感が加わっており、時として初期In Flamesを想起させるような哀愁ギター・ソロを炸裂させるなど、これまでの作品群よりも"メタルとしての普遍的なカッコよさ"が前に出てきているのが印象的です。

サウンド・プロダクションの面でも、ここ数作と比較的するとジャーマン・パワー・メタルさながらのボトムの厚さを減退させ、よりシャープに洗練させた音造りがドラムを中心に施されているのもポイントでしょう。

Morten Veland(All Instruments/Vo)による絢爛豪華なシンフォ・アレンジ、優雅でロマンティックな叙情性を醸し出すピアノ・アレンジなどは普段通り秀逸な出来栄えで、ちょくちょく入ってくるスウェーデンのポップ・メタル勢を意識したようなEDM調のエレクトロ・アレンジも、前作よりも違和感なく溶け込んでいます。

さて、楽器隊に関しては今までと同様一流シンフォ・ゴシックに求められる及第点を軽々とクリアしているので、今作を評価する上で最大の焦点となるのは、やはり新加入のEmmanuelle Zoldan(Vo)のボーカル・パフォーマンスに尽きる訳ですが、まず最初に純粋な歌唱力についてはSireniaの歴代ボーカリスト達の中では文句無しの最強で間違いありません。

激甘だった前任者とは打って変わり、何処となくTarja Turunen(ex Nightwish)を思わせるキリッとした顔立ちからも察せる通り、地声はクールでお堅い雰囲気ながら、艶麗な品格を堪えたメゾ・ソプラノ・ボイスを中心に、柔和でしっとりとしたファルセットを挟みつつ嫋やかな歌い回しをしたり、豊かな声量を活かしたパワフルな高音ボイスや、ジャズにも通づるアンニュイな中高音ボイスを出したり、はたまたバリバリにオペラティックな芯の強さを感じさせる格調高いソプラノ・ボイスを放ったりと、表現のバリエーションが多彩な上に、そのどれもが最高級という凄まじい存在感を発揮しています。

ただし、HR/HM界において比肩出来得る存在が見渡らないレベルのスウィート・ボイスを武器としていた前任者Aylinほどズバ抜けた独自性は残念ながらなく、その一点が原因で賛否両論が生まれることは否定出来ません。

事実、僕個人としてもAylinの個性的なボーカルを寂しく思う気持ちは当然あります。

しかしながら、懐古的な感情を抜きにして今作を聴いてみると、クオリティ面では4thや6th並みの充実振りを魅せており、中盤以降は曲展開のワンパターン感が若干目立つ傾向があった過去作と比べると、Emmanuelle Zoldan(Vo)の引き出しの多さが相まってか、楽曲アレンジの幅が明らかに向上しているのは今作ならではの強みでしょう。

ここ数作(特に前作7th)では美醜の対比を強調する手法として多用されていたMorten Veland(All Instruments/Vo)の野蛮なスクリーム/グロウルの登場頻度は減退していますが、過去作ではそこまで頭に残らなかった美しい歌声とスクリームのドラマティックな掛け合いも今作では聴き所として活きています。

従って、デス声頻度の減退はEmmanuelle Zoldan(Vo)のお披露目を意識しているというより、彼女の持ち味を充分に活用するための試みが反映された結果と捉えることが出来ますね。

トータル・タイムが前作から10分以上削られているのも中盤以降の失速を払拭するためのチャレンジであると言えますし、相変わらず抜群に優れたPOPさと、Emmanuelle Zoldanの貢献によって新たに生まれたエレガントさ、それらの上に成り立つ絶妙なバランス感覚が功を奏してバンドの欠点であった中弛みを見事に防げているのもまた今作の強みです。

今作を「Sireniaの最高傑作だ」と語るMorten Velandですが、これまでのファンの方なら彼の言葉を多少なりとも納得出来るのではないでしょうか。

最初は今作におけるボーカル・チェンジ(実際は本来のスタンスに戻っただけなのですが)に戸惑う可能性は少なからずあるものの、掛け値無しでSireniaの新時代の到来を告げる力作であると個人的には評価したいです。


Rating: 8/10

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