Rorcal/Creon

1. Πολυνείκης
2. Ἀντιγόνη
3. Αἵμων
4. Εὐρυδίκη


スイス産ポスト・ブラッケンド・スラッジ・ドゥーム・メタル/ポスト・メタルバンドです。
通算4作目。
Bleak Recordingsからのリリース。


RORCAL

2000年代後期に突入して以降、ヨーロッパのアンダー・グラウンド、とりわけ非商業主義を強く押し出し、前衛的な創造精神を特化させた芸術派HR/HMシーン最重要ジャンルと言えば、間違いなくポスト・メタルが当て嵌まります。

中でも、スラッジーな重圧感と閉鎖的な空間意識を強調したサウンドに、ブラック様式の病的な厭世観をブチ込んだ所謂"ポスト・ブラッケンド・スラッジ・ドゥーム・メタル"(以前弊ブログで紹介したPhantom Winterは正にこれです)は、Neurosisを全ての起源に90年代から脈々と受け継がれてきたアバンギャルド・スタイルを次世代型に調節させた新たなる姿だと言えます。

ただし、それらのバンド群は、シューゲイズ/ドリーム・ポップ手法による甘いメロディ及び大衆性を備えたブラックゲイズ勢とは趣を全く異にしている事実を付け足しておきましょう。

さて、今回の主役Rorcalは、10年以上のキャリアを持つ次世代型ポスト・メタル="暗黒激情系ポスト・メタル"界きっての重鎮バンドです。

初期作こそ、ポスト・メタル界の偉大なるレジェンド達Neurosis、ISIS、Cult Of Luna、Amenraへの憧憬が見え隠れする音像を演っていましたが、稀代の怪盤である前作3rd"Világvége"にて、殺人衝動的な獣性が爆発するハードコア要素、熾烈な邪気を撒き散らすブラック要素、キチガイ染みた反復を繰り返すドローン要素、宗教的な荘厳さを堪えたサウンド・スケープを大々的に融合させ、一躍世界を恐怖のドン底に突き落としました。


で、今作の話。

そのアルバム・タイトルが示す通り、ギリシャ神話の登場人物クレオーンやアンティゴネに纏わる暗黒悲劇をコンセプトに掲げているとのことで、曲名どころかブックレットまでギリシャ語表記(歌詞は英語)で面食らいましたが、音楽的に注目すべきは全4曲でトータル・タイムが約52分にまで及ぶという点。

つまり、単純計算では1曲あたりの平均時間が13分ということになります。

最も数字だけを見ると、ポスト・メタル、プログレ、ドゥームなどのジャンルに該当する作品としては特段珍しくはありません、問題は作風パターンです。

と言うのも、一般的に少ない曲数で大作を志向するメタルバンドは、1曲の中で静動/緩急を巧みに使い分けたドラマティックな展開を持ち味とするパターンか、冗談みたいなスロー・テンポに病的な重苦しさを被せて永遠と引っ張るパターンの大きく2つに分かれるものですが、今作はそのどちらでもないからです。

確かに、今作はスラッジーな重鈍さとブラッケンドな爆走を併せ持っているので、BPM上は相当な速度差がありますが、終末世界さながらのドス黒い濃霧が全編を覆い尽くしているが故、遅いパートと速いパートのコントラスト、静動の劇的な流動性などは皆無の仕上がりとなっています。

加えて、一寸の希望すら見出せない破滅的な音像が首尾一貫されており、コンセプト・アルバムらしいストーリー仕立ての起承転結を備えた曲構成も今作には存在しません。

しかし、それでいながら、バンドが元来持ち合わせているハードコア由来の暴力性や、情け容赦の無いブラスト・ビートが随所で苛烈な火花を散らしていて、フューネラル・ドゥーム/ドローンのような低速の反復に終始することもありません。

以上のことから、各分野の王道的な手法を真っ向から否定する反骨心剥き出しの創作精神が節々から感じ取られる訳ですが、そういう意味ではポスト・メタルバンドのあるべき姿を正しく提示していると言え、Rorcalが持つ二律背反性と強固な独自性を再認識出来ます。

地割れ系轟音スラッジ・リフ、醜悪なアトモスフェアを蔓延させる猟奇的フレーズは勿論のこと、巧みな匙加減で狂気のドローン・リフを盛り込みつつ、新たに背徳感タップリのトレモロを随所で注入してメロディを増強させたDiogo Almeida(Gt)、JP Schopfer(Gt)のギター隊、精密さよりもドロドロとした凶暴さを最優先させる激烈ブラスト・ビート、ミドル・テンポでシンバルを砕き割りながらヤケクソに叩き込むRon Lahyani(Dr)、筋肉質なグルーヴ感を強調したベース・プレイで低音域を支えるBruno Da Encarnação(Ba)と、ブラック要素が前作よりも格段に幅を利かせるようになったことで、ブラック由来の悪魔的な禍々しさとハードコア然とした粗暴さの両方が混ざり合い、サウンドに独特の陰影を生んでいるのが今作の魅力でしょう。

トレモロによる暗鬱メロディは、これまでのRorcalでは聴かれなかったダイレクトなエッセンスですが、音像の強迫観念的な緊張感を保ちつつ、バンド・サウンド自体の多様性を豊富にさせているので、自分はバンドの進化とポジティヴに受け取れました。

メロディの暗さがデプレの域にまで進出しているのも好印象。

無論、正統派ブラック勢(特に北欧産)とは相変わらず感覚がズレてはいますが、そのコンセプトと相まって、ある種の超自然的な崇高さを感じさせるのは流石です。

また、おぞましい憎悪に駆られた獣のような中高音スクリームを中心に、ドスの効いた野蛮なグロウル、邪悪なウィスパー・スクリーム、絶望に打ち震える咆哮を絡ませるYonni Chapatte(Vo)にも、そうしたバラエティ面の発展が表れていて面白い。

曲間を放棄してアルバム全体で1曲を形成していた前作とは違い、今作はそれぞれの曲が同一カラーで纏められつつも個別化が図られているのはポイントですね。

万人受けするカタルシスは希薄で、過剰な退廃性から開口はやや狭いものの、本格的に覚醒したバンドの魅力が新機軸と共に凝縮された怪作であります。

ポスト・メタル四天王(Neurosis、ISIS、Cult Of Luna、Amenra)のファン、グロテスクな崇高美に魅せられる変人、俗世から一刻も離れたいデプレ・オタクには、最高傑作と名高い前作3rd"Világvége"と合わせて強くオススメしたいです。



Rating: 8.5/10


Trees Of Eternity/Hour Of The Nightingale (2016)


1. My Requiem

2. Eye Of Night

3. Condemned To Silence

4. A Million Tears

5. Hour Of The Nightingale

6. The Passage

7. Broken Mirror

8. Black Ocean

9. Sinking Ships

10. Gallows Bird



フィンランド/スウェーデン産ゴシック・ドゥーム・メタルバンドです。

今作が1作目。

Svart Recordsからのリリース。



TREES OF ETERNITY



ゴシック好きの方達なら既にご存知の通り、HR/HM界において唯一無二の美声を魅せてきた"白光のナイチンゲール"ことAleah Stanbridge女史が、2016年4月18日この世を去りました。

彼女が初めてメタル・シーンに姿を現したのは、"北欧の破滅皇帝"Swallow The Sunによるゴシック・ドゥームの金字塔4th"New Moon"収録Lights On The Lake(父親が悪霊に取り憑かれた娘の魂の救済を試みる過程で、結果的に娘を殺めてしまったという悲劇的なストーリーを父娘2人の視点から描いた名曲)からです。

以降のSwallow The Sun作品群でも、その霊的なまでに美しい歌声をここぞという場面で儚く響かせ、バンドのドラマ性を異なった角度から飛躍させていました。

正式メンバーでこそなかったものの彼女の功績はとても大きく、Swallow The Sunが表現する音楽及び世界観には勿論、"カレワラの守護神"Amorphisとの共演を果たすなど、フィンランド産メランコリック・メタル界隈の影の立役者にまで上り詰めていたと言っても過言ではありません。

そんな彼女を見初めたSwallow The Sunのリード・ギタリスト兼作曲者Juha Raivioは、彼女のボーカリストとしての潜在能力を最大限に引き出すプロジェクトを立案、今回の主役Trees Of Eternityが誕生した瞬間でした。


で、今作の話。

結成当初は2人組ユニット形態だったものの、今アルバム製作時の段階では、"鬱神"Katatoniaの漆黒の意思を継いだスウェーデン産重鎮ゴシック・ドゥームOctober Tideで活躍しているFredrik Norrmanをツイン・ギター隊の片割れに、お馴染み実弟のMattias Norrmanをベースに、数々のバンドを渡り歩いて現在はNightwishでの活動で知られるKai Hahtoをドラムにへと、北欧メタル界において知らぬ者は居ない凄腕メンバー達を正式に迎え入れました。

これだけでも無敵状態なのですが、更に"ゴシック最高神"Paradise Lostが誇るメタル界のゴッホNick Holmes、Antimatterを率いる孤独な英国哲学者Mick Mossをそれぞれゲスト・ボーカルに招待、ミキシングに世界最高峰のエンジニアとして名高いJens Bogrenを起用、アートワークをフレンチ・ブラックゲイズ界の旗手Fursy Teyssierに依頼と、最早ゴシック/ダーク・ミュージック好きなら字面だけでメロイックサイン必至の錚々たる面子が揃い踏みしています。

さて、そんな今作の肝心の中身は、北欧ゴシックのスーパー・グループという前評判に違わない驚異的な完成度を備えた絶品に仕上がっています。

まず、全体的な作風として、楽器隊の魅せ方はSwallow The Sun7割+Katatonia3割といった印象を受けました。

Kai Haht(Dr)の徹頭徹尾スロー・テンポが貫かれた重厚なドラミング、 Mattias Norrman(Ba)の生き物が薄暗い部屋で蠢くようなベースと共に、黒々しい荘厳さを纏ったリフを叩き付けている様は、暗黒ゴシック・ドゥームを理想的な姿で演奏していると言えます。

そこに、Juha Raivio(Gt)専売特許であるフィンランド特有の土着的な霊気を宿した深遠なるアルペジオ、不気味な音空間でゆらゆらと浮遊する幽玄フレーズ、北欧フォーク/トラッド・ミュージック由来の繊細なノスタルジーを醸し出すアコギ、優美なメランコリーを含んだストリングスを巧みに絡ませて楽曲をドラマティックに彩りつつ、時折Fredrik Norrman(Gt)が得意とする冷ややかな寂寥感を帯びた鬱メロディを無慈悲な刻みの裏で添えさせるなど、近年のSwallow The Sunの延長線上にある音像を基盤としながら、初期Katatoniaのエッセンスを吸収して再構築させることに見事成功しています。

北欧ゴシックの特徴であるセンチメンタルな退廃美を描くギター・メロディを取ってみても、フィンランド人らしく民謡的な孤愁や幻想的な悲哀を滲ませるJuha Raivio(Gt)と、スウェーデン人らしく都会的な倦怠感を生み出すFredrik Norrman(Gt)のセンスの違いが明確に表れており、作品中で絶妙なコントラストとして活きているのはTrees Of Eternityならではの魅力でしょう。

そして、本プロジェクト最大の聴き所は、"白光のナイチンゲール"Aleah Stanbridge(Vo)の浮世離れしたボーカル・パフォーマンスに尽きます。

北欧の鬱蒼とした暗い森の中を彷徨う妖精のような不可侵の神聖さを堪えた、あまりにも美しく脆いウィスパー・ボイス、全てを悟り苦悩の先にあるものを見出したかのような霊妙ファルセット、女性特有の柔らかさと確かな輝きを放つ高音ボイスを中心に、俗世から離れた崇高美を紡ぐ彼女の歌声は筆舌に尽くし難いものがあり、その神懸かり的な透明感には涙を禁じ得ません。

本来ならばネオ・フォーク系に最適であろう彼女のボーカル・スタイルは、典型的なフィメール・フロンテッド・ゴシックと一線を画しているのが実に個性的で、これ見よがしな感情表現を用いるよりも、断然聴き手の心に深く浸透する味わいがあります。

Swallow The Sunよりも幾分か丸みのある音圧を駆使している点や、破滅的シアトリカリズムよりも聴き手をあちら側へゆっくりと誘っていく静謐な曲展開を全編に渡って繰り広げている点などからは、彼女のボーカル特性を完璧に把握しているJuha Raivio(Gt)の強い拘りが伺えますね。

Swallow The Sun、Katatonia及びOctober Tideでは聴くことの出来ない、一抹のポジティヴな空気感を発散する勇壮なメロディ展開も新鮮で面白い。

また、彼女は元々デュエットで頭角を現してきただけあって、強いカリスマ性を持つ大物ゲスト・ボーカリスト達との共演も素晴らしいものがあります。

聴き手に語りかけるような濃厚バリトン・ボイス、情感たっぷりの中高音ボイスを操るNick Holmes(Paradise Lost)の粛然とした存在感もさることながら、生前の彼女が最も尊敬するボーカリストとして挙げていたMick Moss(Antimatter/Sleeping Pulse)との悲壮過ぎるデュエットが実現した3曲目Condemned To Silenceは今作のハイライトの1つ。

Mick Mossは女性ボーカリストとの相性の良さには大変定評がある人物なので、今作のクレジットが先行公開された際には大いに期待を膨らませていたのですが、その想像を遥かに上回る仕事振りを魅せてくれました。

清廉なウィスパー・ボイスで高音域をエレガントに歌い上げるAleah Stanbridge(Vo)と、思わず胸が掻き毟られるほどソウルフルに熱唱するMick Moss、両者の持ち味が黄金比で混ざり合った同曲は、"個人的2016年度ベスト・ソング10選"へ軽々とランクインする出来栄えです。

アルバム全体のクオリティは、Swallow The Sun傑作群に匹敵するレベルの秀逸さを誇っており、遺書のような歌詞も含めて最高のゴシック・ドゥームを堪能出来ます。

Aleah Stanbridgeは未来の北欧HR/HMシーンを牽引していけるだけの実力とカリスマ性を兼ね備えた稀有な存在でしたので、早過ぎる死によってキャリアへ終止符が打たれたという事実は長年彼女に寄り添ってきたJuha Raivioは当然のこと、ファンとしても非常に大きな苦痛を伴うものです。

しかし、Trees Of Eternity、Swallow The Sunに残された唯一無二の歌声、我々に宛てた彼女のラスト・メッセージ───「自らの内なる闇に触れ、その闇に身と心を同化させるまでは、私達は人生のたった半分しか生きていないに等しいのです。」に基づいた深遠なる世界観が、聴き手の中で永遠に生き続けることもまた事実でしょう。




改めて、天に召されたAleah Stanbridge女史の平安をお祈り致します。



Rating: 10/10


Epica/The Holographic Principle (2016)


1. Eidola

2. Edge Of The Blade

3. A Phantasmic Parade

4. Universal Death Squad

5. Divide And Conquer

6. Beyond The Matrix

7. Once Upon A Nightmare

8. The Cosmic Algorithm

9. Ascension - Dream State Armageddon

10. Dancing In A Hurricane

11. Tear Down Your Walls

12. The Holographic Principle - A Profound Understanding Of Reality

13. Immortal Melancholy (Piano Version)



オランダ産シンフォニック・メタルバンドです。

通算7作目。

Nuclear Blastからのリリース。

13はボートラ。



EPICA



現在シンフォニック・メタル・シーンの頂点に君臨している四皇バンドと言えば、Within Temptation、Nightwish、Leaves' Eyes、そして今回の主役、"オランダの智女神"Epicaであることに最早疑いの余地はありません。

同郷オランダが誇る女性Voシンフォニック・ゴシック先駆者After Foreverの主要人物Mark Jansenが当時付き合っていたSimone Simonsと云々の説明は、今や不要であるほどビック・ネームに成長していますね。

そんなEpicaの魅力は何と言っても、壮麗絢爛なオーケストレーションやクワイア隊を全面的に駆使して、神話世界さながらのスケール感を封じ込めたシネマティックな楽曲展開を全面的に押し出しつつ、時には東洋の領域に踏み込むことも厭わない幅広い音楽手法を味付けし、それらをサウンドの骨格を担うエクストリーム・メタルへと絶妙な匙加減で融合させる稀有なセンスにあります。

加えて、Epicaはシンフォ系譜のバンド群において、最も知性的で高度な楽曲展開、最もメタリックなアグレッション、最も重厚で哲学的な世界観を武器としていることで広く認知されており、作品の完成度や芸術性という観点では同系統バンドとは比較にならない風格を備えている存在であると、主にヨーロッパ諸国や南米諸国を中心に熱烈な賞賛を受けています。

ただ、作品によって方向性を微妙に変えつつ進化を続けているタイプなので、まずは過去作の特徴を纏めた記事をチェックしてみてください。


で、今作の話。

前作6th"The Quantum Enigma"で久方ぶりに生のストリングス隊を全面解禁したEpicaですが、今作では代名詞のクワイア隊は勿論のこと、金管楽器や木管楽器に至るまで全てのオーケストレーション・パートが本物によって生演奏されています。

従って、キャリア史上最高に金襴緞子な環境で緻密且つ情熱的に制作された訳ですが、肝心の中身は転換作3rd"The Divine Conspiracy"以降のEpica流スタイルを網羅しながらも、どの過去作とも異なった印象を聴き手に抱かせる意欲作に仕上がっています。

まず、全体的な作風としては、スラッシーな粗暴さを一層美的に洗練させた疾走、ドッシリと構えて打ち付けるようなビートを繰り出す肉厚リズム・セクションの間を縫って、殺傷力満点の鋭利な刻み、程良くモダンな金属的硬質感を帯びたリフで切り込んでいくIsaac Delahaye(Gt)、首脳Mark Jansen(Gt/Vo)のギター隊は従来路線ながら、高度な変拍子をさり気なく用いてグルーヴィーな靭性を生み出すDjent様式リフ、メロデス直系の銀色に染まった単音突進リフ、アリーナ・ロック調の明快なノリが楽しいフレーズ、北欧ブラック顔負けの荒涼としたトレモロ、黎明期メタルコアに通ずるブレイクダウン、正統派メタル由来の豊潤なハーモニーやプログレ由来のムーディな雰囲気を強調するソロ、中近東直伝のシタールとパーカッションを用いた民族的な間奏パート、土着的なアコギをリフ裏で掻き鳴らすなど、近年のEpica流スタイルを更に拡張解釈させることに見事成功しています。

特に、Isaac Delahaye(Gt)による伝統的なソロ・パートの煽情力は過去作を凌駕する充実振りを魅せているのが頼もしい。

そんな中、今アルバムを過去作とは一線引いた作品たらしめているのは、全編を覆うSF的世界観に尽きます。

ホログラフィック原理───現在我々が見ている世界は3次元の現実ではなく、何処か遠くの場所や高次の存在より投影された2次元のヴァーチャル・ヴィジョンなのではないのかという学説(実在論及びシミュレーション仮説などと密接に関連している近年盛んな研究テーマの1つ)がコンセプトに定められているだけあって、巨大なスケール感を誇るシンフォ・アレンジを筆頭に、アレンジの一つ一つへ近未来的なエレメンツが塗されているのが非常に興味深いです。

例えば、生演奏オーケストレーションが描き出す旋律のキレが以前に増して冴え渡っている点。

これまでのEpica作品のオーケストレーションはもっと人間的で穏やかな音色が使用されていましたが、今作ではディストピア系SF映画さながらの非人間的で無慈悲な鋭さや不穏さを覗かせる音色が随所に取り込まれているのが新機軸で、バンドが掲げている世界観と完璧にマッチしていますね。

また、"アクティブなクラオタ坊主"ことCoen Janssen(Key)率いるクワイア隊の登場頻度が、作中ボーカル・パートの実に35%を占めるほどにまで増量されている点も見逃せません。

サビでは女性声特有の高音を絡ませたり、重々しい転調場面は厳かな男性声を強めたりと、相変わらず細かなクラシカル・ギミックが散りばめられますが、兎に角、クワイア隊の過剰とも言える大仰さは今作のスケール感を魔改造しています。

そうした壮大極まるシンフォ・アレンジが最良の形で融合した、今作屈指のプログレ的構築美を誇る4曲目Universal Death Squad、12曲目The Holographic Principle - A Profound Understanding Of Realityなどはオーケストレーションとの相乗効果を以って、宇宙規模のサウンド・スケープを創造させてるのが素晴らしい。

首脳Mark Jansen(Gt/Vo)の鬼才っぷりがどうしても目立ちがちですが、クラッシック畑出身ならではの豊富な音楽理論を活かし、1st"The Phantom Agony"からクワイア隊をずっと指揮し続けているCoen Janssen(Key)もまた並外れた才覚の持ち主でしょう。

Epicaの絶対的な象徴Simone Simons(Vo)は高音域を抑えていた前作と比較すると、3rd時代を彷彿とさせるパワフル且つ情感たっぷりの高音ボイスを復活させており、そこに近年彼女が獲得した母性的な慈愛と柔和さを感じさせる歌い回しや、夢心地のファルセットを存分に加え、メタル界を代表する歌姫らしい驚異的な歌唱力/表現力を遺憾無く発揮しています。

聖女のように清らかでいて、ロマンティックな艶美さをも兼ね備えた高音ボイスの頻度が高まったことで、サビ・パートのキャッチーさ/POP感が一段と向上しているのは今作ならではの魅力です。

代わりに、彼女のもう一つの持ち味であったオペラティック・ボイスは大分減退していますが、そこはクワイア隊が全面的にカバーしているので特に問題ないかと。

首脳Mark Jansen(Gt/Vo)によるデス声の登場頻度はやはり同系統のシンフォ勢と比べるとかなり高く、低音~中高音を野蛮に喚き散らす魔人グロウルを中心に、美の化身Simone Simons(Vo)と相反する醜の部分をしっかりと表現しています。

デビュー以来、決して類型的なボーカル・オリエンテッド・バンドには陥らず、Simone Simonsの清廉なボーカルをインテリジェンスな曲展開と同様、あくまで作品の世界観を構成する要素として配置しているのがEpicaの大きな特徴である訳ですが、今作でもそういった志向性が明確に引き継がれている辺り、Mark Jansenの職人気質な一貫性を伺わせます。

前作に引き続き、Jacob Hansenをミキシングへと起用していますが、90年代以前の緩やかな温かみを忘れずに、現代的なエッジを効かせたクリアな音へと昇華させる彼の手腕は、今後のEpicaにも必要不可欠だと思わせるほど相性が良いです。

華々しい求心力を備えたメロディでグイグイと引っ張る序盤、尋常じゃない引き出しの多さで作品の奥行きを与える中盤、Epica流のシアトリカルな構成術を惜しみなく注ぎ込んだ終盤と、アルバム全体の完成度や流れはやはり凄まじく優秀で、トータル・タイム70分超えの長尺を中弛み皆無で映像的に聴かせるコンポーズ能力には脱帽ですね。

4th"Design Your Universe"、前作と並ぶEpica渾身の大傑作にして、ここ2年間で最高のシンフォニック・メタル作品であります。


Rating: 10/10

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