Heavenwood/The Tarot Of The Bohemians Part 1 (2016)

1. The Juggler
2. The High Priestess
3. The Empress
4. The Emperor
5. The Pope
6. The Lovers
7. The Chariot
8. Justice
9. The Hermit
10. The Wheel Of Fortune
11. Strength
12. The Hanged Man
13. Frithiof's Saga (Version MMXVI)


ポルトガル産ゴシック・メタルバンドです。
通算5作目。
Massacre Recordsからのリリース。
13はボートラ。


Heavenwood

今や北欧諸国、ゲルマン諸国と並び、ゴシック・メタルが栄えている地域と広く認知されているラテン諸国ですが、その隆盛の発祥地は日本の音楽メディアにも取り上げられる機会が多いイタリア、フランス、ギリシャなどではなくポルトガルでした。

そう、ポルトガル出身のバンド群(HR/HMに限定せず)において、最も偉大な成果を挙げた英雄的存在である"ラテン・ゴシック皇帝"Moonspellが彼の地で誕生したことが、ラテン諸国におけるゴシック・メタルの繁栄と多様化を急速に促進させたのです。

とまぁ、ここまでは界隈に通じている方達にとっては周知の事実でしょうが、実はMoonspellに次いで、ラテン諸国でのゴシック興盛に多大な貢献を果たした先駆者バンドがポルトガルにはもう1組存在します。 

それが、今回の主役Heavenwoodです。

初期と現在では幾らかの変遷を遂げていますが、音楽性としては一貫してParadise Lostの正統後継者と表現して差し支えがない伝統的な男性Voゴシック・メタルが基盤を据え、そこにラテン出身らしくエネルギッシュで土着的なメロディ、時としてオールド・スクールなハード・ロックを想起させる躍動感を融合させたものです。

つまりは、ラテン系男性Voゴシック・メタルの主流である"原理主義派ゴシック"に該当する訳ですが、その系譜の中ではかなり聴きやすい部類だと思います。

初期Paradise Lostを思わせるデス声主体の重厚な音像を耽美で温かみのあるラテン・メロディで包み込んだかのような1st"Diva"、Nick Holmes(Paradise Lost)直系の哀愁満点ハーシュ・クリーンの登場頻度を格段に増加させたことでメロディ面の充実度が飛躍し、ハード・ロック調の骨太感とゴシックのメランコリーを情熱的に融合させた2nd"Swallow"、デス・ドゥーム由来の鉛色に濁った重鈍な攻撃性を回帰させつつ、深みのある魔人系グロウル/スクリームと激渋ハーシュ・クリーンのバランスを整え、東洋的なメロディをスパイスに塗した10年ぶりの復活作3rd"Redemption"、後にPowerwolfとの仕事振りで知られる新進気鋭のクラッシック音楽作曲家Dominic Joutsenをゲストに迎え入れたことで過去最大のスケール感を演出するオーケストレーションを獲得、Heavenwood流の熱いメロディが息衝く"原理主義派ゴシック・メタル"へと融合させて音楽的に更なる深化を果たした4th"Abyss Masterpiece "と、飛び抜けた派手さや万人受け要素は見当たらないものの、原理主義派ゴシック職人らしい燻し銀な作品群をリリースしてきました。


で、今作の話。

去年の春頃からずっとブログで紹介しようと思っていたものの、気が付いた時にはリリースから1年以上経ってしまった訳ですが、その間にヨーロッパ諸国や南米諸国を中心としたゴシック系音楽メディア及びコミュニティ内で"Best Albums Of Year"へ選出されるなど熱烈な支持を集めていました。

バンド編成は、魔人スクリーマーErnesto Guerraと、ギタリスト兼メイン・コンポーザーで激渋クリーン・ボイスも一身に引き受ける首脳Ricardo Diasのオリジナル・メンバー陣を中心として、復活作3rd以降の楽器隊ですっかり馴染みの顔となったDaniel Cardoso(Anathema)を引き続きドラムに起用、同郷のオールド・スクール志向メタルコアバンドDemon Daggerで活動していたギタリストVitor Carvalhoを新たに正式加入させ、その他はセッション・ミュージシャン達を迎えています。

コンセプトには、中世フランスのカルト的なタロット占いを通し、人類が歴史で培ってきた人文主義と心霊主義の間で生じる思考の在り方を現代社会へ改めて問いかけるといったものが据えられているとのことで、今作はタイトル通り第1部です。

さて、そんな今作の肝心の中身としては、壮麗なシンフォ・アレンジを元来の骨太耽美ゴシック・メタルにミックスさせて、右翼バンド脱却へと迫った前作を多角的に発展させたものとなっています。

具体的には、激烈ブラスト・ビートと共に禍々しいうねりを封じ込めたリフの応酬へ映画音楽さながらの黄金オーケストレーションを施したシンフォ・デス要素、ヨーロピアンらしい陰鬱な重力を落とし込むドゥーム要素、中近東の妖艶な香りを漂わせる節回しやスキャットを駆使したオリエンタル要素、はたまた身のこなしが軽やかで鋭いフレーズとキャッチーなメロディを展開するハード・ロック要素など多彩な手法を、 2nd以降に開花させた悲劇的且つ情熱的なドラマ性を描くセンス、3rd以降に芽吹いた普遍的な王道パターンを踏襲しながらも、時に楽曲の表情を大きく動かす構成術の下に統合させた本格派ゴシック・メタルです。

新メンバーVitor Carvalho(Gt)の加入で、以前は聴かれなかった Irom Maidenを彷彿とさせる豊潤なツイン・ハーモニーや、メロディを重視した流麗なソロをギター隊が奏でられるようになった点はバンドにとって確実にプラスに働いていて、Paradise Lostよろしくメタルとしての完成度が異様に高い。

これまでのHeavenwood作品群では、どの楽曲もアルバム毎に同一のカラーで纏められていたのですが、今作ではタロット・カードを軸とした幅の広いコンセプトを中心に据えたことが功を奏してか、バラエティ面が過去作とは比較にならないほど充実しているのもポイント。

また、抑揚を絶妙に付加した貫禄のある魔人系グロウルをメインに、時折ブラック風の高音スクリームを魅せるErnesto Guerra(Vo)、情感豊かな歌声にエッジを効かせた正統派ゴシック式の激渋哀愁ハーシュ・クリーン、毛髪を犠牲にダンディな色気を帯びた中低音クリーンを魅せるRicardo Dias(Gt/Vo)と、原理主義派ゴシック界の主神Nick Holmes(Paradise Lost)を2人に分けたかのようなツイン・ボーカル隊は凡百のゴシック勢を突き放す迫力があります。

そして、今やバンドの強力な武器となった華麗でいて厳かな宗教的空気感を発散するシンフォ・アレンジを、今作では首脳Ricardo Dias(Gt /Vo)が手掛けていますが、前作発表から5年間ひたすら映画音楽を聴き漁っていたという彼の言葉通り、ある種の神々しさが宿っているのが素敵ですね。

デビュー以来、Heavenwoodは徹頭徹尾バンド・サウンド主体で勝負してきただけあり、骨格となる楽器隊の演奏技術、メロディ・センス、存在感、アレンジの豊富さが並みのシンフォ・メタル勢とは一線を画した成熟度合いなので、そこに映画音楽的なシンフォ・アレンジを肉付けしても全く喰われない点は、彼らのバンド・サウンドの説得力を再認識させてくれます。

1stのFrozen Images、2ndのSuicidal Letters、3rdのMe & You、4thのMorning Gloly Clouds (In Manus Tuas Domine)と、各アルバム毎に必ず一撃必殺級のキラー・チューンを収録してきた彼らですが、今作のThe Juggler 、The Empressは近年のゴシック・シーンにおいても最上級の出来栄えだと言えるでしょう。

何つーか、ゴシック系に限らずヨーロッパのバンドはアルバム全体の完成度を最優先する傾向が強いと思うんだけれども、このバンドは単体でも優れた曲を毎回作ってくるのがアメリカ的で面白い。

まぁ、その分中盤が若干失速してくるのはHeavenwood作品のお約束な訳ですが、今作はそこが殆ど気にならないぐらいに良く練られた作品でした。

彼らは本場ヨーロッパのゴシック専門メディアやコミュニティを中心に強固な支持層を築いてはいるものの、90年代にアルバム2枚を残して10年に及ぶ長い冬眠期間に陥ったことが相まってか、日本では知名度がサッパリな印象が残念ながらあります。

しかしながら、彼らが奏でる音楽の完成度は非常に高く、日本が"ゴシック不毛の地"ということを考慮した上でも充分にアピール出来得る、メタルとしての普遍的なカッコよさを備えているバンドですので、今回のレビューを読んで少しでもチェックして頂ければ幸いです。

Lacuna Coil、Evanescenceみたいなオルタナ・ゴシックなら知ってるよっていう初心者の方、 Within Temptation、Epicaのようなシンフォ・ゴシックは好きだけどガチ勢はちょっと… って方、Paradise Lost、My Dying Bride、 Moonspellみたいな本格派ゴシックこそ至高とする通好みの方などジャンル内で細分化しているファン層を特定せずに、ゴシックが持つダークで耽美な音像に惹かれる全ての人にオススメな逸品であります。

とりあえず、上記に挙げた一撃必殺級キラー・チューンを聴いてみてくださいね。

ちなみに、1stの曲をリメイクした13曲目のボートラは原曲を遥かに上回る出来栄えなので購入の際はボートラ入りをどうぞ。



Rating: 9/10


Opeth/Sorceress (2016)


1. Persephone

2. Sorceress

3. The Wilde Flowers

4. Will O The Wisp

5. Chrysalis

6. Sorceress 2

7. The Seventh Sojourn

8. Strange Brew

9. A Fleeting Glance

10. Era 

11. Persephone (Slight Return)



スウェーデン産プログレッシブ・メタル/プログレッシブ・ロックバンドです。

通算12作目。

Nuclear Blastからのリリース。



Opeth



プログレッシブ・ロックとメタルの融合。

60年代から活動する"プログレ創造神"にしてHR/HMシーンの勃興にも絶大な影響を与えたKing Crimsonから、90年代初頭のネオ・サイケデリック・シーンから頭角を表した後メタリックな攻撃性をいち早く吸収し、めっきり衰退して久しかった当時のプログレの未来を切り開いた天才Steven Wilson率いるPorcupine Tree、そして近年隆盛を誇る若手Djent勢まで、アプローチの仕方や年代こそ大きく異なれど、これまで数多くのバンドがそれを模索/実践してきました。

今回の主役Opethは、そんな"プログレとメタルの融合"を過去から現在に至るまで最も理想的な形で実現させた正真正銘のモンスター・バンドであります。

彼らに冠せられた"北欧の暗黒神"の異名が示す通り、北欧フォーク/トラッド・ミュージックに裏打ちされた陰鬱な世界観とメロディをフルに引き出しているのが大きな特徴で、英国、ドイツ、イタリア辺りの先駆者達のコピーに終わらない唯一無二の独自性を擁した類稀なる存在として英名を轟かせています。

世界的な影響力の強大さは当然尋常ではなく、劇的あるいは内省的な構成術を盛り込みつつアーティスティックな翳りを帯びた曲展開を持ち味とするバンドには何でもかんでも「Opeth風」と例えられる無茶苦茶な事態が発生してしまっているレベルです。

また、90年代以降にスウェーデンから出現したバンド群においては、Meshuggah、Katatonia、Dark Tranquillityなどと共に最も偉大なる存在として、あらゆる音楽関係者や評論家達から絶賛されていることでも有名で、"メタルの聖地"としての呼び声が高い彼の地においても文字通り頂点に君臨していると言えるでしょう。

元々は、80年代後半に隆盛を極めていたエクストリームなデス・メタル・シーンや、私生活でも親交が厚い盟友の"鬱神"Katatoniaの登場によって花開いた北欧ゴシック・メタル・シーンの流れを主に汲んで誕生したOpethですが、初期~中期の音像とメタルを脱却してプログレ路線へと傾倒している現在の音像を比較すると、決して大袈裟ではなく別バンドと見紛うほどの変貌を遂げているので、まずは過去作の特徴を纏めた記事をチェックしてみてください。


で、今作の話。

まず、今作の総体的な作風を述べると、やはり大方の予想通り過去の偉大なるバンド/ミュージシャンへの憧憬を包み隠さずに表しながら、絶対的なリーダーMikael Åkerfeldt特有の豊潤且つシニカルの効いたセンスを以って昇華させたプログレッシブ・ロック路線となっています。

要するに、"脱メタル化"という観点から判断すると、キャリア最大の音楽的変革を迎えた10th"Heritage"以降の方向性と捉えることが出来る音像です。

最も、10thはガチガチの音楽理論と類型的な方法論で塗り固められた良くも悪くもオマージュ色の強い作品であったので、正確に言うと今作の作風は懐古的な手法を充分に活かしつつも、本来のOpethらしい陰鬱なメロディと退廃的なドラマ性が息衝く世界観へと正しく導くことに成功した前作"Pale Communion"の志向を明確に引き継いだものとなっています。

無論、9th"Watershed"以前のOpeth作品群においてトレード・マークであったデス・メタリックなアグレッションとブルータリティは依然として殆ど無いに等しいので、そういった要素を期待する方達にとっては残念ながらスルー推奨気味であることは否めません。

さて、上述を色々と踏まえた上で自分の結論を先に言うと、今作は紛れもなく傑作です。

そう考える理由は主に3つあります。

1つ目は、メンバーが語る「ここ数作の中では最もヘヴィな出来栄えだ」という言葉通り、全盛期の頃とはまた異なった角度から重厚な音世界を創造している点です。

当然ヘヴィとは言っても、ハッタリ染みた表層的な重さを今更追求している訳では断じてなく、あくまで精神的に蝕んでいくような焦燥感と重苦しさを聴き手に感じさせるのがポイントで、その鬱蒼としたメロディの応酬や音の隙間を絶妙に活かした不可思議なアレンジの数々は、実にOpethらしいとやり方だと言えるでしょう。

そんな中、7弦ギターを巧みに駆使してヴィンテージ・プログレでは考えられないような重量感を持たせたリフを繰り広げたり、Martin "Axe" Axenrot(Dr)が久しぶりに荒々しく畳み掛ける乱打ドラミングを披露したり、ここ数作で一気に存在感が増したMartin Mendez(Ba)がこれまで以上に低音域を野太く強調したグルーヴィーなベース・リフを全面解禁したりと、大前提のプログレ・サウンド範疇内でメタル・バンドとしての姿に立ち返ったかのようなパフォーマンスを魅せてくれるのは今作ならではの新機軸です。

かつてのようなデス・メタリック的音像ではないけれども、程良く丸みを帯びた金属的なうねりが蜷局を巻いているような歪さは聴いていて純粋に楽しい。

2つ目は、10thで一時期的に失われてしまったオリジナリティが前作を経たことで再び舞い戻ってきている点。

"ヴィンテージ・プログレ路線"に舵を切ってからは、60~70年代に活躍した伝説的パイオニア達を比較対象に挙げざるを得ない状況が生じたことは最早周知の通りで、実際にパロディめいた遊び心のあるエッセンスは今作においても幾らか見受けられます。

例えば、相棒Fredrik Åkesson(Gt)が適所で挿入する流麗なソロ・ワークや、お得意の古典的なフレーズには過去作ほど露骨ではないものの、英雄Michael SchenkerやYngwie Malmsteenの残り香を漂わせる節回しがそれぞれ顕著に表れています。

しかしながら、前作で突如再生を果たした北欧暗黒叙情メロディの煽情力は今作で更なる飛躍を遂げており、センチメンタルな哀愁を帯びたアコギの響き、薄明の美を秘めるハープなどを巧みに交差させつつ、Mikael Åkerfeldt(Vo/Gt)流の陰影に富んだモノクロ・トーンが特徴の音空間を出現させる夢幻的ギター・フレーズ、ジャズ/フュージョン由来の濃厚なムードを醸しつつ、アシッド的な幻覚作用を刷り込ませたメロディ展開などは、新生Opethにしか成し得ない方法論として作品中でしっかりと確立されていますし、からりと乾燥したエスニックなアコギ、妖艶な旋律を奏でるストリングス、前任者を意識したかのようなMartin "Axe" Axenrot(Dr)の民族的パーカッションを融合させる中近東由来の手法は、音数を敢えて制限したことで一音一音丁寧に人間的な温かみが込められていることを考慮すると、凡百の本家中近東ミュージシャンよりも遥かに優れた完成度と独自性を実現していると言えます。

また、Mikael Åkerfeldt(Vo/Gt)によるボーカル・パフォーマンスの冴え具合も圧巻で、ここ数作で彼が好んで使用するハード・ロック然としたワイルドな角が印象的なハーシュ・クリーン、まるで真昼間の誰も居ない公園に彷徨う幽霊の囁きのようなファルセット、深みのある中音域を中心とした高貴で物憂げなジェントル・ボイスは、過去のプログレ史を顧みても群を抜いた存在感を発揮して非常に心強い。

プログレ・デス路線の頃のような静と動の急激な対比ではなく、音の僅かな隙間を最大限に引き出すという今までとは一味違った楽曲構築術は神業の域ですね。

デビュー以来一貫して、多種多様な音楽を首脳Mikael Åkerfeldtが統合させるという制作姿勢にブレはありませんが、今作では前述のようなバラエティに富んだ手法の数々を自己流に咀嚼/再構築するスタイルの練度がここに来てもう一段階向上しているので、結果としてオリジナリティ面が前作以上の充実を魅せています。

3つ目は、10thでは失われがちだったモダンさが絶妙なバランス感覚の下に回帰している点。

これも前作で兆候が見られた点ではありますが、今作では音造りが低音域に重点が置かれていることや、名手Joakim Svalberg(Key)がドイツ産エレクトロの始祖Kraftwerkを思わせるデジタリックな電子音フレーズを新たに導入したことで、その辺りが以前よりも発展しているように思います。

勿論、モダンとは言っても流行りのEDMやDjentに接近した訳では決してなく、あくまでクラウト・ロック直系の不穏でトリッピーなキーボード・アレンジとオーガニックな丸みのある音圧を駆使しているのがポイントで、Opeth流に導き出したモダンなアレンジによって結果的に楽曲のバリエーションの幅が大分広がっています。

これら3点が最良の形で混ざり合って化学反応を起こしたのが8曲目Strange Brewで、耽美派イタリアン・プログレの巨匠Il Paese Dei Balocchiに北欧の沈鬱な空気感と死の香りが加わったかのような幽邃としたキーボード、聴き手の心に形容し難い恐怖を植え付けるボーカル、俄かに柔らかい光が差してくるのも束の間、暴走する電子音と共に激流の如きアンサンブルが狂おしいハード・パートへと突如移行し、テクニカルで刺激的なソロ・ワークを放出し一寸の希望を見出せたと思ったら、再び序盤の退廃的な静寂パートに回帰してクライマックスはスロー・テンポで荘厳に締めるという、新生Opethの魅力を余すところなく全て詰め込んだ珠玉の曲展開は、過去のキャリアを振り返ってみてもバンドの新たな到達点であると強く実感出来ます。

序曲と終曲を同一のコンセプトでサンドイッチしているのは相変わらず通好みですが、全体的に白黒時代のカルト・ホラー映画を想起させる神経衰弱的な薄気味悪さとシュールさ(Mikael Åkerfeldtは60~70年代のホラー映画が製作時の重要なインスピレーション源になったと語っており、死という単語が頻発するダークな歌詞にはそこからの影響が発露しているとのこと)が充満しているのはとても素敵。

"ヴィンテージ・プログレ路線"にサウンドを変貌させてからは懐古主義的なイメージがどうしてもOpethに付き纏っており、そこが若い世代のメタル・ファンには否定的に映ってしまう要因であるのは事実です(自分は曲さえ良ければ気になりません)。

今作でそうした雰囲気が払拭されたと言えば嘘になりますが、少なくとも前2作(特に10th)よりは懐古主義に傾倒していないので、個人的には取っ付き易くなったと感じました。

"ヴィンテージ・プログレ路線"の作品群では今作が文句無しのベスト・アルバムであると自分は評価したいですし、これだけのキャリアを持っていながら未だに伸び代があるのはモンスター・バンドたる所以でしょう。

賛否両論は必至ですが、次作以降も楽しみにしています。


Rating: 10/10


プログレッシブ・メタルの究極型を完成させると共に、ジャンルの垣根を易々と超えた独自の音像で、その頂点に君臨している"北欧の暗黒神"Opeth

今回は、彼らの1995年~2014年のキャリアを振り返ってみようと思います。

最新作レビューはURLからご覧ください。



1st"Orchid"は、記念すべきOpethのデビュー作にして、HR/HMシーンに強い衝撃を与えた作品です。

今作に関しては後追いで知ったので(大多数のOpethファンも自分と同じだと思いますw)、駄作臭がプンプンする怪し気なアート・ワーク、20年以上前のデビュー作という事情も相まって正直侮っていた訳ですが、とんでもなく高い完成度を誇っています。

作風としては、Morbit Angelを彷彿とさせる禍々しさと知性を兼ね備えたブルータルなデス・メタル・サウンドを基盤に、NWOBHM直系の勇壮で流れるようなメロディ展開、Paradise Lostに代表される初期ゴシック・メタルを通過した重苦しい世界観、スカンジナビア出身にしか出せない北国の冷たさを感じさせるフォーク/トラッド由来の悲哀旋律、Camelを思わせる物悲しく繊細な叙情美などを多分に盛り込み、随所にジャズ/フュージョンの影響が伺える柔軟性と自由度の高いリズム・セクションを絡ませたものです。

それらを纏め上げつつ、当時黎明期にあったメロデス勢を凌ぐレベルの劇的なドラマ性、懐かしく情緒的なアプローチ、過激で破壊的なアプローチを、これまで存在しなかった形で融合させた彼らの功績は計り知れないものがあり、そこにOpeth最大の魅力である圧倒的にアート志向な楽曲構成を以って、革新的な音像へと昇華させています。

曲展開の巧みさは既に頭一つ二つ飛び抜けているのが印象的で、ひたすら攻撃的で情け容赦の無い暴虐パートから、俄かに哀愁パートへ移行する際に生まれるコントラストと落差は半端なものではありません。

1曲辺り10分越えという大作志向ながら、全く中弛みを感じさせない作曲能力も特筆に値するでしょう。

また、バンドの絶対的な中心人物Mikael Åkerfeldt(Vo/Gt)のボーカル・パフォーマンスは1stの時点で殆ど化け物のそれで、激情を燃え滾るエネルギーと共に吐き出すスクリーム、デス・ドゥーム調の深みのある魔人系グロウルなどをメインで駆使していますが、技術力、表現力、声量、全てが一級品です。

クリーン・ボイスに関しては、まだまだ発展途上感は否めませんが、しっとりと聴かせる能力はもう備わっています。

バンド全体の演奏力も笑ってしまうほど精巧で、さりげなく複雑な変拍子を魅せつつ、静と動の切り替えをスムーズに成し遂げるセンスはお見事。

今作をリアルタイムで聴いてた人は冗談抜きで腰抜かしたんじゃないでしょうか。

勿論、後の作品群と比較すると流石に劣りますが、彼らの並外れた潜在能力が存分に発揮されている逸品です。

ちなみに、今作から4th"Still Life"までは、音質を飛躍的に向上させた完全上位互換のリマスター盤をオススメします。

(Rating: 9/10)




2nd"Morningrise"は、HR/HMシーンに新たな可能性を提示した前作を踏襲しつつ、その身に纏う暗黒密度を濃くした作品です。

大まかな作風としては前作から引き続き、暴虐性の高い過激なデス・メタルと鬱屈としながらも何処か牧歌的な感触のある北欧フォーク/トラッド・ミュージックを、持ち前の芸術的なセンスで自由自在に融合させたプログレッシブ・デス路線ですが、幾つか変化があります。

まず、リフ・ワークにブラック・メタル様式のオカルティックな禍々しさとうねり、初期Katatoniaを彷彿とされる葬式ムードの北欧ゴシック・ドゥーム要素が加わったことで、そのアートワークが示す通り1stとは比べ物にならないほど暗黒性が深まった点。

それに伴って、NWOBHM由来のヒロイックな勇ましさを感じさせるメロディは明らかに減退しているので、デビュー当初の彼らに付いて回っていた"突然変異型メロデス"というジャンル括りは今作以降ナンセンスな表現と成り果てました。

次に、静パートと動パート、つまり、切々とアコギを奏でながら北欧の冬景色を表現するような感傷的な部分と、前述の暗黒デス・メタリックに攻め立てる部分の行き来が1stより頻繁に行われており、表情が楽曲の中で何度も変わるようになった点。

アコギで醸し出される寂寥感も1stより増加しており、盟友Katatoniaに肉迫するほどのメランコリーを獲得しているのはポイントです。

その辺りも手伝って、両パート共に闇成分が強く滲み出ているため日本人好みの単純明快なキャッチーさは後退していますが、これらの方法論が後に同郷から出現するShiningを筆頭とした所謂"自殺メタル"界隈へ多大な影響を与えることになりました。

最後に、大作志向に磨きをかけてきた点。

全5曲でトータル・タイム約66分という本格派プログレ勢顔負けの長尺な楽曲を全編に渡って披露する手腕はさることながら、中弛みしないように徹底してストイックに締め上げた力量は賞賛に値します。

Mikael Åkerfeldt(Vo/Gt)による人外の邪悪さを孕んだエゲツないスクリーム/グロウル、それらと対照的な紳士的なディープ・クリーンの使い分けも見事で、低音域をメロディックに支えると同時にファンクのようにフリーダムな飛び跳ねっぷりを魅せるJohan De Farfalla(Ba)のベースもまた今作の大きな聴きどころです。

20分超えの大曲Black Rose Immortalは初期Opethのベスト・チューンの1つなので、ファンの方なら是非チェックしてみましょう。

キャッチーさでは1stより劣りますが、総体的に判断すると自分はこちらの方が好みです。

(Rating: 9/10)




3rd"My Arms, Your Hearse"は、バンドの音楽的基盤を早くも確立させたターニング・ポイント的な作品です。

全体的な作風としては1stと2ndの間を突いている印象で、トータル・タイム約53分という彼らにしては短い仕上がりからも分かる通り、後にも先にもキャリア史上最高に即効性に秀でたエネルギッシュなプログレッシブ・デスを披露しているのが特徴です。

Mikael Åkerfeldt(Vo/Gt/Ba)による英国紳士的な格調高さを感じさせるクリーン・ボイスの頻度や練度も上がってる点、ギター・リフ/メロディから前作ほどゴシック・ドゥームの影響が見受けられない点、全編を通してスピーディなテンポで暴力的に進行するスウェディッシュ・デス的な手法を用いている点などから、ある種キャッチーとも表現出来る分かりやすい作品となっています。

そんな今作を語る上で絶対に避けては通れないのがメンバー・チェンジです。

前作を最後にファンクにも通ずるド派手なベース・ラインを持ち味としていたJohan De Farfalla(Ba)と、カッチリとしたメタリックなドラミングをプレイしていたAnders Nordin(Dr)が相次いで脱退してしまいました。

ベースに関しては後任者選びに間に合わなかったためリーダーであるMikael Åkerfeldtが急遽スイッチすることになりましたが、存在感という面では前任者と比べると若干のパワー・ダウン感は否めません。

しかしながら、ドラマーの座には後にHR/HMシーン最高峰のドラマーとして惜しみない賞賛を受ける名手Martin Lopez(Dr)が正式加入し、結果としてバンド・アンサンブルの劇的な進化へ直結しました。

元々HR/HMのみならず、ジャズ/フュージョン、アフリカ民族音楽など非常に珍しい音楽ルーツを持つ彼のドラミングは、正確さが故に良くも悪くも優等生感があった前任者とは大きく異なり、驚異的な手数を活かして豪快なタム回しと柔軟性に富んだリズム・パターンを全面に押し出すタイプです。

彼の加入によって動パートで地を揺るがすほどの強烈なダイナミズムが生まれると共に、曲展開のメリハリの付け方が断然向上しています。

特に、今作の肝であるスウェディッシュ・デスらしい荒々しい疾走感とギター隊が弾き出す重厚なリフのコンビネーションには、本来彼らが持ち合わせていなかった類の力強さが宿っていて面白い。

初期Opeth最高のダーク・バラードCredenceのようにケルティックな叙情メロディと北欧的な美的感覚を融合させたMikael Åkerfeldtのコンポーザー能力の成熟度もさることながら、今作最大の聴きどころはバンドに新たな血をもたらしたMartin Lopezの型破りなドラミングにあると自分は評価したいです。

(Rating: 8.5/10)




4th"Still Life"は、バンドが元来持ち得ていた尋常ならざるポテンシャルが遂に覚醒した作品にして、Opethの黄金期到来を告げる代表作です。

前作でバンドの音楽的基盤を完璧に固めた彼らですが、そこから19世紀のロマン主義に彩られた情感豊かな芸術性、抗うことの出来ない悲劇を文学的なストーリー仕立てで濃密に描き切るドラマ性、緩急に富んだアルバム全体の統一性など、ありとあらゆる面で飛躍的に成長を遂げ、一躍北欧HR/HM界の頂点を極めることに成功したのが今作であります。

具体的な作風としては、荒れ果てた情景を想像させる暴虐性とジメッとした不気味さを擁した強烈なデス・メタル・サウンドに、程良いヴィンテージ感のあるブルージーな土着性を含んだアコギを頻繁に絡ませつつ、Dark Tranquillityに代表される豊潤な北欧的メロディ、聴き手の焦燥感を煽るスローで禍々しいフレーズ、Porcupine Tree由来のサイケデリックに浮遊する妖しげなフレーズを加えたもので、それらを異常とも言えるレベルの起伏とコンセプチュアルな楽曲構成で遥か高みで昇華させたプログレッシブ・デスです。

Mikael Åkerfeldt(Vo/Gt)のジェントルな気品を感じさせるクリーン・ボイスの登場頻度も前作より更に増えており、抑え切れない激情に踠き苦しむ魔人のような人外スクリーム/グロウルとの落差は既にHR/HM界においても最上級の代物。

唐突に地獄のようなアグレッシブ・パートへと移行する際のボーカルの豹変ぶりは、心臓が悪い方には要注意と警告しなげればならないほど危険度が高いです。

また、ギター・メロディにしろ歌メロにしろ、とにかくメロディの煽情力が目覚ましい成長を遂げているのも今作の大きなポイントで、複雑な展開を次々と魅せていく長尺な楽曲群でそれぞれ必ず頭に残るメロディを配置している辺りからは、Opethのメロディ・メイカーとしての非凡な才覚を実感出来るでしょう。

前作に引き続き、怒涛の叩きっぷりを披露する名手Martin Lopez(Dr)の存在感は勿論のこと、今作から新たにベースの座に正式加入したMartin Mendez(Ba)の基本的に堅実でいながらも前任者より明らかに可動域が広く、メロディックなフレーズを弾くことも出来るオール・ラウンダーなベース・プレイも秀逸。

新生Opethのスタートとしてだけでなく、予てより超一級バンドに成長するであろう片鱗を見せていた彼らの潜在能力が最良の形で実を結んだ色褪せぬ名作です。

(Rating: 10/10)




5th"Blackwater Park"は、Opethの最高傑作の1つに数えられ、HR/HM界のみならずプログレ界をも震撼させた歴史的名作です。

まず、今作を語る上で避けて通れないのが、バンドの首脳Mikael Åkerfeldtと後にポスト・プログレの提唱者でKscope元帥となるSteven Wilson(ex Porcupine Tree)の邂逅について。

これまでの作品はブックレット記載のクレジットやコメントからも分かる通り、Opethは外部からのプロデューサーを招くことなく、全てMikael Åkerfeldtの頭の中でインスピレーションを生み出し(親友Jonas Renkseからの助言も度々あったようですが)、それをバンド・メンバーの卓越した手腕で音に具現化するというスタイルを採り続けてきました。

それは偏にMikael Åkerfeldtが持つ溢れんばかりの自信の表れに他ならず、既成事実としてOpethは殆ど彼の天才的な才覚一つでHR/HMシーンの可能性を切り開くことに成功しており、彼自身の世界観を完璧に理解出来ない外部のプロデューサーとの共同作業には意味を見出せなかったとの発言まであります。

しかし、そんな彼もSteven Wilsonとの奇跡的な出逢いを果たし考えを改めることになります。

サイケ、プログレ、POP、フォーク、HR/HM、ジャズ/フュージョン、R&B、エレクトロ、ファンク、アンビエント、室内楽、ヒップホップ、ドローンなど挙げ出したらキリがないほど多種多様なジャンルに精通している世界有数の音楽マニアSteven Wilsonは、Mikael Åkerfeldtが脳内で思い描いていた何十年単位で時代を往復する断片的なエレメンツを具体的に引き出すことが出来、尚且つ今までのOpethにとっては未知の技術であった録音方法を伝授するという、非常にクリエイティブ精神に富んだプロデュースをもたらしました。

そんなSteven Wilsonに対し、Mikael Åkerfeldtが覚えた感銘の意は想像に難くないですが、兎に角それが故、今作においてOpethは破竹の勢いで進化を遂げることになった訳です。

中近東的な音階を用いる情緒的なアコギと、邪心を持った化け物のようなオカルティックさを醸し出すデス・メタル的アプローチを組み合わせたMikael Åkerfeldt(Vo/Gt)、Peter Lindgren(Gt)のリフ・ワークは完全にOpethオリジナル方法論として確立していますし、David Gilmour(ex Pink Floyd)が北欧色に染まったような陰影のある空間浮遊フレーズ、酸性雨が降り注ぐ沈鬱なメロディ展開、名手Martin Lopez(Dr)の濁流のようなバスドラ連打と変拍子やタメを効かせた知的なリズムを重ねていくドラミング、モゾモゾと不気味に蠢くMartin Mendez(Ba)のベース・ラインから実体化される大蛇が獲物を見つけて這いずり回るようなグルーヴ感、絶望に踠き苦しむ魔王の咆哮を吐き出しつつ、朗々としながらも何処か窶れた雰囲気が印象的なクリーンの歌唱力/表現力を大きく向上させたMikael Åkerfeldt(Vo/Gt)のウェットなボーカル、そして、Opeth最大の魅力でありデス・メタルを芸術作品にまで押し上げた異常なまでの孤立感と憎悪、観念的なエロティシズムを描く珠玉の曲展開は今作で一つの完成を見せると同時に、プログレッシブ・メタルの究極型を構築させました。

極限にまで張り詰めた緊張感と抑鬱的な閉塞感を音で奏でるメロディ、逆鱗に触れた獣のように猛り狂うヘヴィー・リフの応酬から生じる静と動の対比、ここ数作から拡張解釈させた死をロマン主義的な悲劇として演出する世界観は、最早King Crimsonを喰い殺す域にまで到達していると言えるでしょう。

そこにSteven Wilsonがピアノの旋律、艶やかなバック・コーラス、アナログ式の録音手法を用いて一抹の英国式ヴィンテージ感を味付けし、伝統的な質感を暴虐の音に持たせているのも実にお見事。

アルバム全体の完成度も21世紀最高クラスで、静パートを巧みに駆使して焦らしながらクライマックスにおいて巨大なカタルシスを味合わせるという、所謂"Opeth流儀"の冴え具合は殺人級です。

一見敷居が高そうな作風ではありますが、蓋を開けてみると意外にも開口の広いキャッチーさを兼ね備えているのも魅力で、Opethというバンドを知るためには最適と言える作品でもあります。

Rolling Stone誌を始め、国籍を問わず数多の評論家筋や音楽誌が大絶賛を浴びせているのにも激しく同意出来る出来栄えです。

再生ボタンを押したら最後、絶対に後戻り出来ない暗黒世界が聴き手を待ち構えています。

(Rating: 10+/10)




6th"Deliverance"は、二部構成から成る巨大叙事詩の序章にして、Opethの"動"の部分に一層磨きをかけた作品です。

前作に引き続き、Mikael Åkerfeldtが敬愛する天才Steven Wilson(ex Porcupine Tree)をプロデューサー兼ゲスト・ミュージシャンに迎えて制作された今作。

前作が世界的な大成功を収めたことで商業的な方面に舵を切るよう各方面から迫られた彼らですが、そこはメタル界屈指のシニカル紳士Mikael Åkerfeldt、売れ線とは真逆の滑走路を突っ走るスタンスが全面的に貫かれた作品に仕上がりました。

そんな背景も相まってか、日本では一般的に"Opeth史上最もアグレッシブな作品"だの"初期作以上にデス・メタル要素が強く出た作品"だのと評価されている訳ですが、実際はそういった短絡的な作品ではありません。

全面的な作風としては、バンドの黄金期到来を告げた4th以降の暗黒叙情と陰惨な世界観が息衝くプログレッシブ・デス路線で、確かにデス・メタルらしい暴虐性が色濃く発露していますが、抑鬱的な闇を醸すギター・メロディや、Mikael Åkerfeldt(Vo/Gt)の全てを諦めて悟りを開いたようなクリーン・ボイスなどから、敢えて枠に嵌めるとすればデス・メタルよりも寧ろ北欧ゴシック・ドゥームとの類似点を多分に認めることが出来るでしょう。

要するに、"Opeth史上最もアグレッシブな作品"の謳い文句から連想される"デス・メタル的な音像=表層的な過激さやヘヴィさ"を追求した作品ではなく、より根源的な部分において様々な表情が交錯する中から分かち合えぬ苦悩を描き出す作風だと捉えられます。

具体的な音楽的アプローチに話を移すと、Peter Lindgren(Gt)とMikael Åkerfeldt(Vo/Gt)のギター隊が奏でるリフ・ワークやメロディ展開はいつになく北欧ゴシック・ドゥーム的(今作のオープニングを飾る名曲Wreathはモロ)で、それらの退廃的な切り口の間を不気味に埋めるサイケデリック/アシッドなフレーズや、Martin Mendez(Ba)お得意の地下を這い回るようなベース・ラインは完璧に漆黒に染まっています。

そんな焼き爛れたサウンドに生命感のある戦闘的なドラミングを加えて、今作の開口を押し広げている名手Martin Lopez(Dr)の仕事振りがまた実に素晴らしく、角張ったバスドラを乱射しながらフレキシブルに波打つグルーヴを生み出す彼の独創的なドラミングは、今作で完成されたと言っても過言ではありません。

盟友Jonas Renkse(Katatonia)を彷彿とさせる幽美なクリーン・ボイスの歌い回しからは想像もつかないMikael Åkerfeldt(Vo/Gt)の壮絶な破壊性を孕んだ怪物スクリーム/グロウルの2面性は、彼を名実共に世界最高峰の清濁両刀使いとして覚醒させています。

今作と対を成す次作"Damnation"と合わせて楽しみたい絶品です。

(Rating: 10/10)




7th"Damnation"は、前作"Deliverance"と対を成す巨大叙事詩の終章にして、Opethが持つ"静"の部分をキャリア最高潮にまで高めた作品です。

ここ2作から引き続き、天才Steven Wilson(ex Porcupine Tree)をプロデューサー兼ゲスト・ミュージシャンに迎えて制作された訳ですが、結果的に今作はOpeth史上最もSteven Wilsonの恩恵を享受したものとなりました。

まず、今作の全体的な作風として最大のポイントとなるのはメタルらしい攻撃的な手法を払拭し、所謂"脱メタル化"を果たしていることに尽きるのではないでしょうか。

これまでのOpethの作品群においても、静謐なパートは楽曲の情趣を深めるために効果的に使用されてきましたが、誤解を恐れずに言えば激烈なメタリック・パートと劇的なドラマ性を引き立てるためのアクセント的な役割を主に担っていたと思います。

しかし、今作では前述の通りメタル由来のアプローチ、即ちヘヴィなディストーションを施したギター・リフ、怒涛の叩きっぷりを魅せるドラミング、暴虐の限りを尽くす魔人グロウル/スクリームなどが徹底的に排除されているので、早い話、これまでアクセント的に使用されてきた静謐なパートをメインに据えた楽曲をアルバム全編に渡って繰り広げているのが特徴であると言えるでしょう。

従って、今作を語る上ではメタル的な視点からではなく、彼らのもう一つのルーツであるプログレ的な視点、もしくは北欧フォーク/トラッド的な視点から判断するのが妥当であると一般的には評価されていますが、僕個人としてはメタル目線で今作を聴いても充分過ぎるぐらいの魅力に溢れた作品だと考えています。

と言うのも、確かにあからさまなメタル手法こそ無くなってはいますが、ここ数作のOpethが明確な武器としている形容し難い閉塞感の漂う陰鬱な世界観がしっかりと継承されているからです。

Peter Lindgren(Gt)とMikael Åkerfeldt(Vo/Gt)による北欧フォーク/トラッド直系のノスタルジーと哀愁を帯びた格調高いギター・メロディ、切々と一音一音大事に紡ぎ出されるアコギ、Martin Mendez(Ba)の薄気味悪いメロディを付加したベース、ここに来て民族音楽への憧憬をアピールする名手Martin Lopez(Dr)の土着的でいて独特の酩酊感を宿したドラミング、Steven Wilsonによる70年代シンフォニック・ロック解釈を通した夢幻のメロトロンやピアノを極めてゴス・ホラー的な妖しいタッチで添えつつ、更に説得力を増したMikael Åkerfeldt(Vo/Gt)による厭世的な美を秘めたセンチメンタルなクリーン・ボイスを以って完成される、殆どデプレッシブ・ミュージックと化した空虚で沈鬱な音像は聴き手にこれまでとは一味違う悲壮感を与えます。

そういう意味では、デビュー以来北欧フォーク/トラッド・ミュージックの持つ翳りを抽出してきた盟友Katatoniaや、北欧圏で伝説的な評価を得ているSeigmen、カレワラの守護神Amorphisなどと多いに共鳴する部分があり、北欧のHR/HMシーンにおけるそれぞれの偉大さを再認識出来るというのものです。

深い森にある暗い湖の水面に投じた小石が俄かに沈んでいくような、鬱屈とした心象風景が思い浮かぶ絶品です。

(Rating: 10/10)




8th"Ghost Reveries"は、Opethの最高傑作に数えられる作品にして、プログレの名の下にリリースされた傑作群の中でも最も秀逸なクオリティを誇る歴史的名作の1つです。

ここ数作の作風の変化に伴ってキーボードの必要性を強く感じたMikael Åkerfeldtは、同郷のストーナー・メタルバンドSpiritual Beggarでの活躍で知られ、70~80年代シンフォニック・ロックへの造詣も深いPer Wibergを専任キーボーディストの座に迎え入れ、サウンド・プロダクション面では盟友Katatoniaとの仕事振りで一躍勇名を馳せたHR/HM界最高峰のエンジニアJens Bogrenを起用して今作は製作されました。

全体的な作風としては、前2部作でそれぞれ極限にまで研ぎ澄ますことに成功したOpethのアグレッシブ・サイドとメロウ・サイドを完全融合+新メンバーPer Wibergによる多種多様な電子音アレンジを加えて、Opeth流の超芸術派プログレッシブ・デスを再構築したものとなっています。

具体的な音楽要素に話を移すと、直感的なブルータリティよりも精神的な重圧感を優先させたデス・ドゥーム的リフ、陰鬱な退廃美を放散させるゴシック的メロディ、数学的な変拍子を巧みに駆使したインテリジェンスな刻み、Porcupine Tree直系の薄暗いトリップ感を放つフレーズ、70年代のハード・ロック的なキャッチーさを感じさせる求心力抜群のギター・ソロ、中近東調の土着性を塗したアコギなどをOpeth流に咀嚼した、最早彼らにしか作り得ない独自性の非常に強いギター・ワークが全編に渡って披露されており、そこに低音域を不気味に支えつつトリッキーに躍動し、時にはMikael Åkerfeldt(Vo/Gt/Key)のボーカルに呼応したシンクロを果たすMartin Mendez(Ba)のベース、荒波が次々と押し寄せるようなグルーヴ感を持つ激動のドラミングを中心に、アフリカの民族打楽器を用いてトライバルな念を込める名手Martin Lopez(Dr)と、熟練技能とアーティスティックなセンスが冴え渡る唯一無二のアンサンブルを組み合わせています。

そして、前作までとの決定的な違いは、上述のバンド・サウンドと新メンバーPer Wiberg(Key)が持ち込んだ多種多様な鍵盤アレンジの絶妙な混ざり具合に尽きます。

Opethの面々も敬愛する伝説のジャーマン・プログレバンドPopol Vuh直系のオリエンタルな妖気を辺りに充満させる神秘的なフレーズや、Klaus Schulzeを彷彿とさせる深遠なる幻想世界を描く内省的なフレーズ、はたまたイタリアン・プログレの代表格Banco Del Mutuo Soccorsoが持ち得ていたクラシカル解釈を北欧流にアップ・デートしたシンフォ・フレーズなど、とにかく異常なまでに芸の細かい彼の鍵盤アレンジは、Opethの音楽性の幅を確実に押し広げると同時に、究極に孤高の存在としてバンドを進化させました。

一見取っ付きにくい印象があるかもしれませんが、演奏自体には不思議と難解さは殆ど無く、あくまで芸術的香気に重きを置いているのが実にOpethらしく、その崇高さには更なる磨きがかかっています。

Mikael Åkerfeldt(Vo/Gt/Key)のボーカル面では、これまでの作品群(全編クリーンの7thは別として)では魔王のようなスクリーム/グロウルと紳士然としたクリーンの割合は7:3ぐらいでしたが、ここ数作における彼のボーカルの劇的な成長も相まってか、今作では5.5:4.5にまでクリーンの頻度が増しているのもポイントで、その色気すら醸し出すようになった濃厚な歌声は鳥肌モノです。

また、様々な国のメロディ・ラインや音階をミックスさせて特定の地域性を感じさせないミステリアスなイントロから不穏な表情を維持したまま、シアトリカルなドラマ性に満ち溢れたストーリー仕立ての曲展開にも一層の進歩が見受けられ、70年代プログレ勢のコンセプチュアルな傑作群に匹敵するほどの超凡さが感じられる点はやはり特筆に値するでしょう。

作品全体の完成度は5thすら上回っており、海外の音楽誌や専門家達からは"21世紀最高の音楽作品"の1つと評されていますが、素人耳でもその評価は至極当然であると感じてしまうほどの威徳と覇気が備わっている稀代の超傑作です。

レビューを読むよりも実際に手に取って、ご自身の耳で今作のどこまでも奥深く、ロマンティックなOpethの暗黒退廃世界を堪能してください。

(Rating: 10+/10)




9th"Watershed"は、北欧フォーク由来の翳りを堪えた芸術的な感性を基軸に、艶かしいクラッシック・スタイルのプログレ音像と、激甚なまでにエネルギッシュでいながら毒々しい色彩を帯びたメタル音像を、キャリア史上最もダイナミックに融合させた超傑作です。

まず、今作を語る上で欠かせないのは、前作での新加入を除いては実に10年振りとなるメンバー・チェンジが発生したことでしょう。

脱退したメンバーは、デビュー作以来、全ての作品群でMikael Åkerfeldtと数々の名演を繰り広げてきた辣腕ギタリストPeter Lindgrenと、3rdから加入して以降、その柔軟性溢れる独創的なドラミングでOpethのリズム・セクションを劇的に進化させた名手Martin Lopezです。

前者は学問の道を歩み始めていたことが原因で音楽に対する創作意欲を喪失してしまった為、後者は健康面の問題が著しく悪化したのでMikael Åkerfeldtによって解雇された為と伝わっています。

後任者には同郷の重鎮ハード・ロックバンドTalismanの活躍で知られるギタリストFredrik Åkesson、ドラムの座にはデスラッシュ・バンドWitcheryの活躍で知られるドラマーMartin "Axe" Axenrotがそれぞれ正式に選出されました。

さて、そんなメンバー・チェンジを経て制作された今作の中身として、全体的な作風は3rdのキャッチーな躍動感、6thの北欧流のフォーキッシュな寂寥感、前作の高雅な暗黒性と退廃性をミックスし、更に過去作では聴かれなかった類のオーセンティックなハード・ロック要素、ヘヴィ・メタル要素が新たに盛り込まれたものとなっています。

伝統的な様式美が随分と増量した背景には、新加入のFredrik Åkesson(Gt)、Martin "Axe" Axenrot(Dr)のプレイ・スタイルが前任者達のそれと比べると、明らかに正統派HR/HM色が強い点が挙げられます。

具体的な話をすると、Fredrik Åkesson(Gt)のパフォーマンスは、伝説の神ギタリストMichael SchenkerやYngwie Malmsteenを英雄視している辺りからも察せる通り、古典的なハーモニーやギター・ソロを重視しているのが特徴で、過去作では見受けられなかった流麗極まるツイン・リードをMikael Åkerfeldt(Vo/Gt)と共に炸裂させたり、はたまた変拍子を使ったテクニカルなフレーズにファンク調の躍動感を加えたりと、前任者よりも遥かに引き出しの多いプレイを以って、Opethの新境地開拓を実現しています。

彼が持ち込んだ華々しいプレイと、Mikael Åkerfeldt(Vo/Gt)お得意の悪魔的な重圧を孕んだドゥーム・リフや、ゴシック由来の陰鬱なメロディ展開との落差は正に殺人級で、バンドが元来持ち味としてきた二律背反性がまたもや飛躍を遂げているのは驚嘆に値するでしょう。

Martin "Axe" Axenrot(Dr)のドラミングも前任者とは全く異なり、ジャズ由来の自由奔放さや民族音楽的な土着性よりも、断然メタリックで正確無比なプレイを全面的に披露しているのが特徴で、バンド・アンサンブルのタイトさを徹底的に強化しています。

Opethのキャリア史上初となる激烈ブラスト・ビートの導入も、彼の卓越した演奏技術が成せる業だと言えますね。

そういった伝統的なアプローチをOpeth流に巧く咀嚼したことで、彼ら最大の魅力である曲展開にも新感覚のドラマ性が生まれており、バラエティ面の豊富さでは現在に至るまで最高の充実度を誇っているも今作ならではの魅力です。

また、前作にてバンドの芸術性を魔改造させたPer Wiberg(Key)の神業的な鍵盤パフォーマンスはますます冴え渡っており、まるでProcol Harum直系の望郷の念を誘うセピア色の幻想世界にPorcupine Treeの幽暗な薫りが加わったかのようなフレーズや、呪術的恐怖を宿した鬱シンフォニック・アレンジ、往年の名キーボーディスト達に匹敵する超絶技巧ソロなどは圧巻の一言。

ボーカル面では、Mikael Åkerfeldt(Vo/Gt)のデス声とクリーンの割合が遂に4:6と逆転しているのも今作のポイントで、エッジを極自然に効かせたハーシュ・クリーンを新機軸として魅せつつ、一層寂寞とした雰囲気を醸し出す彼の歌声には聴き惚れてしまいます。

思わず背筋が凍ってしまうほどに儚く美しい煽情性を秘めた歌メロには、7thに匹敵するほど北欧フォーク/トラッド要素が色濃く反映されているのも今作の魅力で、バンド初の試みとなる女性ボーカルとの優美なデュエットは聴き手の心を揺さぶります。

過去作と比較するとバリエーションの幅が広く、化け物染みたスクリーム/グロウルの頻度が減退しているので、Opeth入門にも最適と言える親しみやすさを持ち得ているのも今作ならではの強みですね。

それでいながら、普遍的なメタルらしい痛快なアグレッション、静と動の劇的なコントラストが描き出す崇高な世界観を兼ね備えているのだから、これ以上はもう何も言えないです。

個人的には、前作と今作がOpethの圧倒的2強だと思っています。

(Rating: 10+/10)




10th"Heritage"は、過去最大の賛否両論を巻き起こした作品にして、Opethというバンドの決定的な転換点となった重要作です。

ここ数作ではプログレッシブ・デスの枠組を超越したアーティスティックな方向性を極めながら進化を遂げてきた彼らですが、今作で遂に"完全なる脱メタル化"を果たします。

まず、全体的な作風としては、過去作においてOpethのトレード・マークとなってきた残虐なデス・メタリック手法、つまり、過激に歪ませたヘヴィなリフ・ワーク、熾烈なアンサンブルを繰り広げるリズム・セクション、Mikael Åkerfeldtの魔王のようなデス声などは跡形も無く消失しています。

それらを捨てた代わりに全編に渡って噴出したのは、Mikael Åkerfeldtが愛して止まない60年代~70年代の音楽、特にプログレ、ハード・ロック、シンフォ・ロック、ジャズ、フォークなどを、彼ならではの芸術的な感性で混合させた懐古的なアプローチの数々です。

Yes由来の躍動感のあるPOP感を宿しつつ、King Crimsonばりの変拍子をふんだんに駆使して複雑な展開、Pink Floyd直系のサイケデリックな空間意識を反映させた、時代錯誤なほどに古典的なプログレ音像が音楽的な基軸に据えられています。

そこに、ブルージーな埃っぽい角を多分に残しつつクラシカルな節回しが印象的なDeep Purple風のリフ・ワーク、Wishbone Ash風のツイン・リードによるスリリング且つ立体的なハーモニー、Camel風の息を呑むほど美しい叙情旋律、中近東の香りを帯びたエスニックなアコギ、はたまたBlack Sabbath顔負けの重苦しいストーナー・リフなどを披露するMikael Åkerfeldt(Vo/Gt/Key)、Fredrik Åkesson(Gt)のギター隊のパフォーマンスは、かつてないほどに先人達からの影響を晒け出しており、それらを正にごった煮状態で次々と弾き出す姿は、聴き手に70年代のスピリットを強く実感させます。

前作ではオーソドックスなHR/HM様式のドラミングを魅せていたMartin "Axe" Axenrot(Dr)も持ち前のタイトはそのままに、今作では前任者とはまた違った趣きのフリー・ジャズ的な酩酊感や、アフリカンな土着的パーカッションを取り入れるなど、ブラック・ミュージックからの洗礼を強めているのもユニークで、凄まじい横揺れグルーヴ感を全面に押し出して過去最高の存在感を発揮するMartin Mendez(Ba)のゴリッゴリなベースとの新感覚なリズム・セクションを味わえます。

同郷を代表するジャズ・ピアニストJan Johanssonに影響を受けたという嫋やかでメランコリックな銀盤運び、フェンダー・ローズやハモンド・オルガンを駆使した情感豊かで奥ゆかしいフレーズ、Faust風の恐怖オーケストレーションを施したアレンジを展開するPer Wiberg(Key)の働き振りも見事です。

ケルト民謡のように震えながら響くフルートの導入方はJethro Tull風で素敵。

お馴染みSteven Wilsonによる70年代の温かみを蘇らせたヴィンテージ感溢れる音造りもまた、今作をMikael Åkerfeldtが脳内で思い描いた方面へ正しく導いていると言えるでしょう。

さて、デス声やディストーションを排除した点から、自身のルーツである北欧フォーク/トラッド・ミュージック要素をピンポイントで抽出した7thが今作との比較に持ち出されることが多い訳ですが、ここまで読んで頂ければご察しの通り、実際には方向性が全く異なる別物です

誤解を恐れずに表現すると、今作は過去の偉人達が創り上げた方法論を積極的に拝借した"オマージュ色の非常に強い作品"であるからして、全盛期Opethが備えていた神懸りの独自性は残念ながら見受けられず、その辺りが結構な致命傷であるとは思います。

しかしながら、それぞれが全く異なった方法論及び膨大な情報量を違和感無く綺麗に纏め上げたMikael Åkerfeldtの手腕は相変わらず秀逸で、何より作品自体の完成度が優れているのは確固たる事実です。

メタルを過剰に意識しなければ、細部まで良く練られたヴィンテージ・プログレ作品であると映るのではないでしょうか。

Mikael Åkerfeldtの一抹の胡散臭さ塗したダンディな歌声に魅せられた方々にもオススメ。

(Rating: 8.5/10)




11th"Pale Communion"は、脱メタル化を果たしプログレッシブ・ロックバンドとして活動を本格化させたバンドの意気込みが凝縮された逸作です。

前作の製作後、Opethが持つ芸術性の幅を格段に広げると共に、バンド全体のレベルを引き上げることへ絶大な貢献を果たした名キーボーディストPer Wibergが音楽的な方向性の違いからまさかの脱退をしてしまいました。

しかし、キーボーディスト無しでは現在の音楽性を維持することは最早困難であると判断したMikael Åkerfeldtは、すぐさま後任者にYngwie Malmsteenとの華々しい共演実績を持つオールド・スクール志向の敏腕プレイヤーJoakim Svalbergを加入させました。

さて、全体的な作風としては、"完全なる脱メタル化"を果たしてヴィンテージ・プログレに舵を切った前作の延長線上にあるものと捉えて間違いはありませんが、作品一枚を通して得られる印象は前作とは大分異なっています。

前作はMikael Åkerfeldtが持つ60年代~70年代への憧憬が爆発したハードなごった煮アルバムだったのに対して、今作では懐古的な部分は依然として引き継ぎつつも、より北欧出身らしい陰影と神秘性に富んだ作品に仕上がっているのが大きな特徴で、先人達の音楽理論を徹底的に模倣し切り貼りしていた前作と比較すると、全盛期に近いレベルのオリジナリティとシリアスさが戻っています。

加えて、前作よりも心なしかモダンなアレンジを楽曲に施しているのも特徴的で、その辺りも含めて新生Opethとしてのあるべきスタンスを遂に確立させた印象もあります。

例えば、"大人の北欧フォーク"をとことん掘り下げて再構築した4曲目Elysian Woes、ゲルマンの荘厳さ、中近東の妖艶さ、ラテンの軽やかさ、スラヴの耽美さと全く異なる地域の音楽的アプローチをMikael Åkerfeldt特有のセンスで螺旋状に発展させた新生Opeth流プログレ・ロックの集大成7曲目Voice of Treason、全盛期Opethのトレード・マークであった内省的で鬱蒼とした北欧の原風景を艶麗なストリングスと共に描き切った今作のラストを飾る名曲Faith in Othersなどは、そういったスタンスの変化とMikael Åkerfeldtの作曲能力の更なる深化が如実に反映されている良い例でしょう。

"ヴィンテージ・プログレ路線"という括りで判断すると前作と同じベクトルを向いているように映るかもしれませんが、上記の理由から本質的には別のベクトルを指している印象を受けます。

新加入のJoakim Svalberg(Key)のパフォーマンスは前任者ほどオルガン・ロックとイタリアン・プログレ色が強くなく、幾分か落ち着きのあるプレイを披露しているように思えます。

ここ数作のOpethのトレード・マークであったオリエンタルな美旋律は勿論、Van Der Graaf Generatorを想起させるブリティッシュな陰鬱さを帯びた暗黒フレーズを多用したり、音の隙間を幻想的なメロトロンで敷き詰めたり、はたまたアンティークな柔らかさが聴き手を優しく包み込む情緒的なオルガン・アレンジや、サイケデリックに踊り狂う奇天烈な電子音を適材適所で使用したりと、名キーボーディストであった前任者と並べても全く引けを取らない仕事振りが凄まじい。

Mikael Åkerfeldt(Vo/Gt)は、80年代プログレ・ハードを思わせる生々しいハーシュ・ボイスや、中近東風の揺らぎを取り入れた節回しを効果的に取り入れつつ、ナルシスティックな虚脱感と静かなる情熱を帯びた歌声を聴かせてくれ、今作のミキシングを担当したお馴染みSteven Wilson含むバック・コーラスとのゴージャスなハーモニーも一層の冴え渡りを魅せています。

Fredrik Åkesson(Gt)による往年の名ギタリストが憑依したかのような熱量を秘めた燻し銀ソロ・ワークが、前作以前よりOpethのサウンドに深く溶け込んでいるのも今作の美点でしょう。

メタリックなアプローチは殆ど皆無なので直感的な手応えは前作と同様に思えるかもしれませんが、Opeth本来の持ち味が最大限に活かされているのは紛れもなく今作の方で、作品としての完成度、深遠なる世界観のストーリー性もこちらが格段に上であると個人的には評価したいです。

(Rating: 9.5/10)



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