Katatonia/The Fall Of Hearts (2016)

1. Takeover
2. Serein
3. Old Heart Falls
4. Decima
5. Sanction
6. Residual
7. Serac
8. Last Song Before The Fade
9. Shifts
10. The Night Subcriber
11. Pale Flag
12. Passer
13. Vakaren
14. Night Comes Down


スウェーデン産ダーク・メタルバンドです。
通算10作目。
Peaceville Recordsからのリリース。
13、14はボートラ。


KATATONIA

北欧ゴシック・メタルの開祖にして、暗黒鬱音楽の最高神Katatoniaの新譜です。
僕が宇宙一好きなバンドでもあります。
思い入れがあり過ぎるぐらい崇拝しているバンドなので、上手くレビュー出来るか分かりませんが頑張りますw
音楽的には初期と現在では完全に別のバンドってぐらい変わりましたが、音楽性が変わってもデビューから現在まで全ての作品で貫ぬかれている"鬱"、"闇"、"悲哀"、"絶望"、"倦怠"などというネガティヴなテーマに独自の美学を見出す姿勢は常に不変です。
HR/HM界に与えた影響力も絶大なもので、あらゆるジャンルにおいて現在台頭している暗く美しい音楽を演っているバンドの影響元にはほぼ間違いなくKatatoniaがいます。
日本のバンドで言えばDir en greyなども例外ではありません(特に最近の作品群からはKatatoniaの影響が伺えます)。
ぶっちゃけた話、暗い音楽を奏でているバンドは大体「Katatoniaっぽいね」と言えば通じちゃうぐらい強いです。
そんな暗黒鬱音楽のパイオニアたる彼らですが、前述の通り音楽性はかなり変化しているバンドなので過去の作品群を4つの時代に分けて振り返ってみようと思います。


【第1期】
1st"Dance Of December Souls"でKatatoniaはアルバム・デビューを飾ります。
北欧ゴシック・メタルの礎を築き、また所謂自殺メタルにも強大な影響を与えた重要な作品です。
作風はゴシック最高神Paradise Lostが歴史的名作"Gothic"で提示したサウンドに、北欧出身ならではの冷ややかで鬱屈とした解釈を加えたオリジナリティ溢れるものです。
ドゥーミーなスローテンポ一辺倒には終わらず、アコギやキーボードでの美旋律を効果的に駆使して変化を付ける曲展開にも、彼らが既に高いソング・ライティング能力を持っていたことが伺えます。
Anders "Blackheim" Nyström(Gt)のギター・メロディのセンスもこの時点でかなり良いです。
また、トレモロやJonas "Lord Seth" Renkse(Vo/Dr)の躁鬱的な激情スクリームなどブラック・メタル由来のアプローチも目立ちます。
Jonasの怨念の塊のような自殺系スクリームは本当に強烈で、後のメタル界に与えた影響は計り知れないと思います。
荒削りな部分も多少目立ちますが、当時10代であった彼らがこれほどの作品を作り上げた事実には驚きを隠せません。
オリジナリティだけでなく単純に質自体も高いですし、また、Jonasの呪いの断末魔が聴ける最初で最後の作品でもあるので、ファンの方は是非入手をオススメします。
なお、このアルバム以降7thの"The Great Cold Distance"までほぼ全ての作品が音質を飛躍的に向上させたリマスター盤としてボートラ付きで再発されているので、どうせ買うなら完全上位互換のそれらが断然良いです。

2nd"Brave Murder Day"は1stの路線を更に推し進めたゴシック・ドゥームの金字塔的な名作です。
ボーカル面では、自殺的なパフォーマンスで喉を酷使し過ぎたJonas Renkse(Vo/Dr)の代わりにメンバーの大親友であるOpethのMikael Åkerfeldtがゲスト参加してメイン・ボーカルを務めています。
Jonasは今作ではクリーンでのみの参加、まぁドラムも務めていますが。
Mikael Åkerfeldtのパフォーマンスは完全にバケモノなので、この代役は間違いなくパワーアップになっていると思いますが、個人的にはJonasの躁鬱スクリームの方が好みではあります。
Anders "Blakkheim" Nyström(Gt/Ba)の北欧の閉塞感や悲哀を感じさせるギター・メロディの煽情力は更に成長を遂げており、沈み込むような鬱世界を作り上げています。
更に今作から長年バンドを支え続けるFredrik Norrman(Gt)が加入しています。
彼が持つ闇のフォースもとい根暗オーラはKatatoniaに新たな風を吹き込んでいます。
また、Jonasの深い哀しみを堪えた歌声とアンビエント由来の浮遊感をフィーチャーしたバンド史上初のオール・クリーン・鬱バラードのDayはアルバムのベスト・トラックです。
このDayが後の彼らの方向性を決めるきっかけとなったという意味でも、Katatoniaの代表曲と言っても過言ではないと思います。
アルバム全体を聴いてもDayの出来栄えがブチ抜けてますね、BraveやRainroomも素晴らしいですが。
これらたった2枚の作品で彼らはゴシック・メタル界における地位を絶対的なものとすることに成功します。
以降、彼らはデス要素を廃し、典型的なゴシック・メタルからの完全脱却を図ります。
この作品でKatatoniaの1つの時代に区切りが付きました。


【第2期】
3rd"Discouraged Ones"は2ndのDayで魅せたJonas Renkse(Vo/Dr/Gt)のメランコリックな歌声を前面に押し出し、またゴシック、オルタナ、プログレ、アンビエント要素を融合させ、それらをコンパクトに纏め上げたKatatoniaの新時代の到来を告げた意欲作です。
彼ら自身が過去を振り返った際に、今作を彼らのターニングポイントと位置付けているぐらい重要な作品でもあります。
Jonasのボーカルは実にダウナーかつ独特の浮遊感があり、既にカリスマ的な異彩を放っています。
Anders Nyström(Gt/Key)とFred Norman(Gt)のギター隊はデス由来のヘヴィなディストーションを削り、よりオルタナ的なサウンドに変化。
メロディも繊細かつ耽美的な雰囲気を押し出しています。
ロック寄りの親しみやすくノリの良いリズムを兼ね備えている点も面白い。
第1期作品群で魅せた、まるで野も山も枯れ果て、身も凍るような冷たい風が吹き荒れる破滅的な暗黒世界というよりはむしろ、人間の心の奥底に潜むある種の暖かさを感じさせるノスタルジー的な要素と、鬱屈とした倦怠感を生み出すトラウマ的な要素が混ざり合ったかのような完全独自の鬱世界を構築しています。
以降、この唯一無二の世界観が彼らが表現する音世界の最大の特徴であり魅力となったという意味でも、今作はKatatoniaを語る上で絶対外せない一枚だと思います。

4th"Tonight's Decision"は3rdの路線を更に強化した作品です。
実験的な側面がやや強かった3rdを全ての面において進化させることに成功しており、第1期作品群とも比較出来るゴシック由来の陰鬱なメロディも強化されている傑作です。
それらに加え、フォーク由来の土着的なメロディを大胆に取り入れている点も新鮮です。
特に名曲A Darkness Comingで顕著に表れていると思います。
Jonas Renkse(Vo)のボーカルは持ち前の圧倒的なカリスマ性はそのままに、より感情表現が豊かになり、ただただダウナーなだけでなく耽美さや内省的な哀しみをダイレクトに聴き手に放っています。
音域の面でも3rdと比べるとかなり広がっており、ボーカリストとして、表現者として確かな成長を感じさせます。
Anders Nyström(Gt/Key)とFred Norrman(Gt/Ba)の描き出すギター・メロディは前述の通り、ある意味原点回帰とも言える鬱屈としたものです。
まぁ、厳密には原点回帰とは全く違うのですが、第1期作品群にあった冷ややかでメランコリックなサウンドを奏でているため、雰囲気的には共通点があります。
超名曲For My DemonsやBlack Sessionなどでは、3rdで培ったオルタナ要素とそれらのダークな要素の完璧な融合、ロック的なノリの良さ、そしてそれらをコンパクトに纏める彼らのソング・ライティング能力の高さが顕著に表れている思います。
巨匠Travis Smithが手掛けたアルバムのアートワークが示す通りの鬱世界を堪能出来る一枚となっています。
なお、今作以降Katatoniaの全ての作品のアートワークはTravis Smithが手掛けています。

5th"Last Fair Deal Gone Down"は第2期Katatoniaの最高傑作です。
作風的には3rdと4thの中間を行っていると言えなくもないですが、そんな一言では片付けられないほど、極めて高い完成度を誇っています。
カリスマJonas Renkse(Vo)の感情表現はここに来て更に進化しました。
最早ここまで来ると静かに泣きながら歌っているとも表現出来ますね。
彼の心の奥底にある行き場のない絶望的な哀しみが突き刺さります。
1stで魅せた躁鬱的な苦しみとは全くベクトルが違う、まさに"鬱"な苦しみを感じさせる歌声です。
Anders Nyström(Gt/Key)とFred Norrman(Gt)のギター隊は3rdで魅せたノスタルジックなメロディを進化させることに成功しており、とにかく冴えまくっています。
また、今作からFred Norrman(Gt)の実弟Mattias Norrman(Ba)とDaniel Liljekvist(Dr)が正式加入し、キャリア初のバンド体制になっています。
彼らの貢献度は凄まじく高く、特にDaniel Liljekvist(Dr)のアグレッシブさと官能美を兼ね備えたドラミングはKatatoniaを新たな次元へと導きました。
全曲名曲ですが、特にDispossesion、Teargas、Tonight's Musicは超名曲で、彼らのライブの定番曲となっています。
Tonight's Musicほど泣いてる曲を僕は知りません。
あまりにも美しく、そして哀しい一枚です。
今作は類型的なゴシック・メタルから脱却し、"ダーク"、"鬱"なサウンドといった一貫したテーマの下に数々の新たな要素を取り込み、ジャンルレスな前人未到のサウンドを構築する第2期Katatoniaを象徴する作品にして、集大成的な作品とも言えます。
今作でKatatoniaの2つ目の時代は幕を降ろしました。


【第3期】
6th"Viva Emptiness"はKatatoniaがこれまで以上に変化を恐れず、新たなダーク・ミュージックの領域を開拓することに成功した意欲作にして超傑作です。
第2期作品群で培ったオルタナ要素を減退させ、新たに非常に陰鬱でサイケデリック、ホラー的な要素を大々的に押し出した作風が特徴です。
音像は過去最高に先進的なものでありながら、アルバム全体を何とも形容し難い不穏なオーラが覆い尽くしており、更なる成長を遂げたJonas Renkse(Vo/Key)によるボーカルは聴き手に恐怖すら与える表現力を身に付けています。 
歌メロ自体もかなりサイケデリック、そして鬱なもので、不安感を煽るものが多いです。
第2期作品群においてJonasは絶望的な哀しみを表現していましたが、今作はそこから色んな意味で一線を超えた感があります。
また、それら闇の要素と同時に第2期作品群で開花させた郷土愛溢れるフォーキッシュな要素がハッキリと表れており、彼らの音楽背景の深さ/広さがよく分かります。
Anders Nyström(Gt/Key)とFred Norrman(Gt)のギター隊はより硬質でモダンなリフ・ワークを魅せており、第2期作品群のトレードマークであったノスタルジックなメロディに代わり、圧倒的に暗鬱なメロディを展開しています。
Mattias Norrman(Ba)とDaniel Liljekvist(Dr)のリズム隊もこの変化に従い、荒々しさとタイトさ、更に怪奇的なリズムを兼ね備えたプレイを披露しています。
この作品辺りからDaniel Liljekvist(Dr)の怪物ドラミングが際立ってきたように思います。
キーボードも実に効果的にフィーチャーされており、楽曲が持つ鬱のアトモスフェアを増強させている点も見逃せません。
実験的な性質も持っていますが、現在でも彼らの代表曲としてセットリストに入っている超名曲を多数収録しており、何よりアルバム全体のバランス感覚やクオリティの高さに重きを置いている点に彼らの拘りが伺えます。
前作までとは明らかに違う雰囲気を纏った今作から新たなKatatoniaの時代が幕を開けました。

7th "The Great Cold Distance"は6thの路線を飛躍的に進化させた超傑作で、彼らの最高傑作の1つと評されている作品です。
哀しみや絶望という表現すら生易しいぐらいの圧倒的な鬱要素は今作で遂に最高潮に達しており、彼岸の領域と言ってもいいレベルで暗いです。
曲調は基本的にミドルテンポを主体とし、全曲コンパクトに纏め上げていながらもアルバム全体を覆う自殺的な雰囲気が今作の特徴です。
Jonas Renkse(Vo/Key)のボーカルは最早全てを受け入れた先にある悟りの域に突入。
鬱だとかダウナーだとかそういうレベルを超えた、この世の物とは思えないほど穏やかで美しい歌声を披露しています。
しかし、その穏やかさの裏側で見え隠れするオーラは紛れもなく暗黒世界の住人のもので明らかに"死"を連想させる非常に危険なものです。
歌メロは6thで魅せたサイケデリックな雰囲気を踏襲しつつも、より化け物染みた美しさを感じさせるものに進化しています。
Anders Nyström(Gt/Key)とFredrik Norrman(Gt)のギター隊は6thより更に重さが増しており、かつ随所クリーン・トーンによる洗練された鬱メロディを展開しています。
繊細に紡がれるメランコリックなアルペジオと叩き斬るような切れ味抜群のヘヴィなリフのバランスが最高に秀逸で、これぞまさに暗黒鬱音楽の皇帝たる存在感を存分に発揮しています。
Mattias Norrman(Ba)とDaniel Liljekvist(Dr)のリズム隊の成長ぶりも特筆に値します。
動き回るというより、まるで生き物のように蠢くベース、荒々しさと繊細さのギリギリのラインを綱渡りする緊張感のあるドラミング、全てが完璧です。
キーボードも6th以上に効果的な使われ方がなされており、Katatoniaが形成する鬱アトモスフェアを強力に援護しています。
実験的な性質も6thに引き続き確認出来ますが、バンド史上最大のシングル・ヒットを記録したMy Twinを始め、Katatoniaの魅力をギュッと凝縮させた超名曲クラスの曲を多数生み出しており、"Katatoniaの最高傑作の1つ"と評されるのも納得のいく超絶ハイ・クオリティを備えています。
過去最高に暗い作風でありながらアメリカ進出を確かなものとした作品でもあり、この手の音楽にやたらと疎い我が国日本においてもそこそこ話題になりました。
また、彼らの主戦場であるイギリスやドイツを含むヨーロッパ諸国でも当然軒並み大絶賛されており、そういった点からもKatatoniaの入門アルバムに適しているように思います。

8th"Night Is The New Day"はKatatoniaの最高傑作であり、盟友Mikael Åkerfeldtをして"ここ10年間の音楽界で最高の作品"とまで言わしめた歴史的名作です。
6th、7thでの実験的な要素は今作において遂に完成され、それらの要素と今までのKatatoniaが持ち合わせていたダークな要素が完全融合を果たしており、まさに暗黒鬱音楽の究極進化形とも言える成長を見せています。
7thで聴き手を暗黒世界に導く案内人となったJonas Renkse(Vo/Key)はさながら"死の天使"とも表現できる世界最高峰のボーカリストに進化を遂げました。
決して聴き手に闇や死の世界を強要する訳ではなく、聴き手本人が自主的に暗黒面に誘い込まれてしまう、そんな極めて危険度の高い、ある種悪魔的でいながら神々しささえ感じさせる表現力を手にしています。
Anders Nyström(Gt/Key)とFredrik Norrman(Gt)のギター隊は同郷のMeshuggahばりの激重リフを導入。
Mattias Norrman(Ba)の暗闇で蠢く不気味なベースと共に過去最高の重低音とグルーヴィーなサウンドを叩き出しています。
しかし、そこはダーク・メタルの皇帝Katatonia、重厚な攻め一辺倒に陥ることなどは皆無であり、むしろ過去最高にメランコリックなメロディやアトモスフェアに重きを置いている印象です。
異常なまでのメロディの充実ぶりと同時に、70'sプログレ由来のレトロな雰囲気も効果的に取り入れるなど確かな新機軸を魅せています。
楽曲構成や曲展開にもプログレ的な知性を感じさせる場面が誰にでも分かる形で増えてきたのも今作からだと思います。
Daniel Liljekvist(Dr)による電子ドラム音も時折挟まれており、楽曲の世界観に絶妙にマッチしています。
また今作における彼の過去最高に官能的で美しいドラミングは特筆に値します。
曲展開が彼を中心に行なわれているという点でも、アートなドラミングとは何たるかを提示しているように思います。
また、キーボードの存在も過去最高に重要なものとなっている点も新機軸です。
威厳と荘厳に溢れるアレンジや、あまりにも儚く美しいアレンジ、レトロな電子音など幅がかなり広がっています。
Katatoniaとキーボードの親和性は1stから一貫して高いですが、今作においては必要不可欠なものとなったと言えます。
全曲が代表曲クラスの超名曲達で固められており、アルバム全体の完成度と共に"Katatoniaの最高傑作"たる所以がダイレクトに伝わる、素晴らしい出来栄えです。
僕個人の中でも、今まで数多のアルバムを聴いてきましたが、今作を超すどころか匹敵する作品すらありません。
音楽メディアでも軒並み超絶賛されており、まさに"暗黒鬱音楽の終着点"、"究極の芸術音楽"といった趣きがあります。
Katatoniaの魅力の全てが今作に詰まっています。
ただ、今作を最後に長年バンドに多大な貢献をしてきたFredrik Norrman(Gt)とMattias Norrman(Ba)のNorrman兄弟が音楽的な相違から友好的に脱退してしまいました。
そういう意味でも彼らの3つ目の時代の終幕を華々しく飾った作品と言えます。


【第4期】
9th"Dead End Kings"では8thで完成させた暗黒鬱音楽から離れ、現代的なアプローチとアンビエント要素、ポスト・ロック要素を全面に押し出しており、Katatoniaが新たな音楽探求の旅に出ることを告げた意欲作であり超傑作です。
過去最高に硬質でモダンな音作りと全面的に押し出されたキーボード・アレンジが特徴で、"ダークなプログレッシブ・メタル"とも表現出来る作風です。
彼らの尽きることのない探究心が表れた、実に先進的で実験的なサウンドを奏でているため、一部のファンからは戸惑いの声が上がった作品でもありますが、よく聴き込めば彼らの確かな成長を感じることが出来ると思います。
Jonas Renkse(Vo/Gt/Key)の悟りを開いた表現力はそのままに、どこか希望を求めているように聴こえるボーカルは非常に印象的です(全く明るくはないですが)。
緩急の付け方にも彼の懐の深さが表れており、より円熟味を増しています。
世界最高峰のボーカリストである彼による唯一無二の歌メロは今作の魅力を相当高めています。
Anders Nyström(Gt/Key)と新たに加わったPer Eriksson(Gt)のギター隊はゴリッゴリの激重ギター・リフを中心に展開しており、過去の作品群で魅せてきたメランコリックなメロディは確実に減退しています。
メタリックな質感の強いアグレッシブな刻みや、これまではそこまで前には出て来なかった派手なギター・ソロなどを積極的に取り入れている点が新鮮です。
Per Eriksson(Gt)と同じく新加入のNiklas Sandin(Ba)のプレイは前任者と比べると断然プログレ・メタル的な立体感のあるもので、Daniel Liljekvist(Dr)の圧倒的な手数を誇る捻りの効いたドラミングと絶妙にマッチしていて素晴らしい。
前任者のような不気味に蠢くベース・ラインではありませんが、非常にタイトなプレイを魅せており、個人的にもお気に入りのベーシストです。
そして、何と言っても過去最高に主張しているキーボード・サウンドが今作を象徴していると思います。
アレンジは全て現代的なものですが、洗練されて都会的な音色、アンビエント色の強い浮遊感のある音色、ジャズ由来の軽やかな音色、孤独感の漂う音色など非常に柔軟性のあるキーボード・サウンドがバンド・サウンドを包み込んでいるのが特徴です。
全曲が超名曲クラスの素晴らしい出来栄えで、アルバムの全体の完成度も8thに次いで高いです。
鬱成分がかなり減退し、普遍的なメタルとしての攻撃性や分かりやすさ、同時にプログレ的な曲展開が増えた為、より広いファン層にアピール出来るようになっている印象です。
個人的には8thの次に気に入っています。

"Dethroned & Uncrowned"は9th"Dead End Kings"の新たな可能性を見出した彼らがアコースティック・アレンジで同作を再構築した作品です。
正式にはフル・アルバムではないものの、メンバー達は今作をあくまで独立した作品と捉えているほど重要な作品でもあります。
Jonas Renkse(Vo/Gt/Key)のボーカル・パートはオリジナルの9thのものをそのまま流用していますが、ヘヴィなギター・パートが土着性とノスタルジーを兼ね備えたアコースティック・ギターに取って代わられてたことにより、更に美しさやメランコリーがハッキリと伝わるようになっています。
音の隙間を効果的に活かすことにより、オリジナルとは全く違う表情を見せている点が興味深いです。
ドラム・パートはほぼパーカッションに代わっており、それがバックの音に溶け込んだ結果、まるで静寂の中で流れる川のような何とも幻想的な音世界を形成していることも見逃せません。
アコースティック・アレンジになったことで断然プログレ色、そして彼らが第2期作品群以降密かに持ち続けていたフォーク色が増していることも実に面白い。
オリジナルよりこちらの方が好きというファンも結構いるので、ファンなら是非購入をオススメします。
僕はどちらも同じぐらい好きです。


で、今作の話。
まず、今作では新たに同郷のゴシック・メタル界の重鎮もとい後輩のRoger Öjersson(Gt)とDaniel Moilanen(Dr)が正式加入、"Dethroned & Uncrowned"及び、アコースティック映像作品"Sanctitude"で全面バックアップをした通称"パーカッション・モンキー"ことJP Asplund(Percussion)が参加しています。
JP Asplund(Percussion)のレコーディング参加に関して、彼は"Dethroned & Uncrowned"や"Sanctitude"で実に素晴らしいプレイを魅せており、個人的にもかなりお気に入りのミュージシャンだったので、続投されたのは嬉しい驚きでした。
中身ですが、"Sanctitude"のドキュメンタリーで語った通り、9th"Dead End Kings"を進化させた作風となっています。
要するに路線的には前述の"第4期Katatonia"サウンドの流れを汲んでいると見て間違いはないのですが、ちょっとそれだけでは説明出来ないぐらいの恐竜的進化を遂げています。
第4期作品群で魅せたモダンで都会的な趣を感じさせるアンビエント要素、ポスト・ロック要素、ジャズ要素を拡張解釈させており、更には前作で減退したメランコリックなギター・メロディは再び復活を果たしています。
また、第2期作品群から積極的に導入したフォーク要素、70'sプログレ由来のレトロかつ知性的な楽曲構成力を大胆に反映させています。
特にプログレ要素を過去最大に押し出している点が今作における最大の特徴でしょう。
彼らは第2期作品群からプログレ要素を取り入れてましたが、ここまでダイレクトに提示したのはキャリア初です。
この変化は尺にも顕著に表れており、何と6〜7分台の楽曲が5つもあります。
第2期以降、ほとんどの楽曲を4〜5分台に収めていたので、彼らが6〜7分台の楽曲を作るのは20年ぶりとなります。
勿論、ドゥーム路線に回帰したということは全くありませんが、これは正直かなり新鮮です。
そして、今作で提示したプログレ要素が最強にハマっています、"完全融合"という言葉では表せないぐらいのハマりっぷり。
70'sプログレ要素を全面に押し出しているメタル・バンドと言えば、彼らの盟友Opethが第一人者として君臨していますね。
従って、おそらく今作を聴いた人はまずOpethを想起すると思います。
今作におけるOpethとの共通点についてJonas Renkse(Vo/Gt/Key)はインタビューで

「俺達はあいつ(OpethのMikael Åkerfeldtを指して)と同じような音楽を好んで聴いて育ってきた。だから今作についてOpethとの類似点があるという意見があるのは良く理解出来る。ただ、Opethはもっとプログレ・マニアって感じで、俺達はもっとアトモスフェアに重きを置いている。」

と発言しています。
なるほど、と納得しました。
彼の言葉がKatatoniaとOpethとの決定的な違いを示していると思います。
まぁ、それでも敢えて強引に比較するなら、ぶっちゃけ現代的なサウンドとの融合、またアトモスフェリックな空間支配力という点では完璧にOpethを超えてしまっています。
楽曲構成力は引き分けって感じですね。
少々、話が逸れてしまいましたので戻します。
要するに今作において彼らが実践したのは、単に前作の路線の延長に留まらず、第2期以降の全ての作品群を総括した上で、70'sプログレ要素をより明確に取り入れたということです。
更に今までの作品群には無かった、何とも表現し難いポジティヴな空気感が漂っている点が非常に興味深いです。
それはJonas Renkse(Vo/Gt/Key)のボーカルにも顕著で、ある種力強さをも感じさせるような陽性エネルギーが出ています。
これを単純に明るくなったと捉えるか、自殺を考えると気持ちが楽になる現象によるものと捉えるかは聴き手に委ねられている訳ですが、それを含めても、僕は確かに今作で彼ら、というかJonasの"生きること"へのポジティヴな姿勢を感じました。
そして、お国柄を強く感じさせるフォーク要素が、彼らの奏でる音楽により一層個性と長年聴き続けられる柔らかさ/親しみやすさを与えていると思います。
彼らの"美"の追求は決して作為的なものではなく、遺伝子レベルから来ているものだと僕は信じて疑いません。
意識的に作られた"美"というより無意識のうちに、あるいは極めてナチュラルに創造されたもの、と言うのが正しいかも。
やはり民族要素の上に成り立っている音楽は、ポッと出のインスタント音楽には皆無の歴史的な趣きや、深みを確かに実感出来ますし、上手く言えませんがとにかく心の中に沁み渡るんですよね。
この辺は中々アメリカ出身のバンドには出せない部分で、まさにヨーロッパ出身のバンドの最大の武器ではないかと思います。
今までの集大成的な印象を感じさせることも相まって、絶望や闇を否定せず認めた上で前に進む、さながら自分探しの旅のような雰囲気を醸し出しているように思います。
Jonasが紡ぐ歌詞も然り。
と、まぁ音楽と関係のないことも書いてしまいましたが、彼らの音楽はそういったテーマとは切り離せないように僕は思えるのです。
肝心の質は正直彼らの最高傑作の8th"Night Is The New Day"と匹敵、下手したらそれを超えているぐらいの高さを誇っています。
神の域を超えてしまった感すらあるぐらい。
これは本当に凄い、凄すぎる。
冗談抜きで10年に1度レベルの歴史的傑作だと思います。
非常に強いファースト・インパクトを持ちながらも、聴けば聴くほど新しい発見が出来、味が出る。
素晴らしい、などでは言い表せません。
彼らの内面から溢れ出る芸術性、ジャンルに囚われない自由奔放な創造性、流行に全く左右されず、しかし先進的な審美眼、知的な楽曲構成術、内省的な心象風景を描き出す歌詞、そして唯一無二の世界観、それら全てが確かな成熟を遂げた作品です。
悟りを開いた男Jonas Renkse(Vo/Gt/Key)のボーカルは更なる進化を遂げました。
悟りを開いて以来、男性ボーカルでありながら"Angelic Voice"と評される前人未到の表現力を手に入れた彼ですが、最早どこまで行ってしまうのか見守るしかないぐらいのレベルです。
単純な歌唱力と言うより、芸術的な表現力が神懸かっています。
まさに"天空の声"って感じですね。
前述の通り、今までには無かった力強さや漠然としながらも、どこか希望を感じさせる彼の歌声には魂が浄化されます。
歌メロ自体は正に今までの集大成といった感じで、アンニュイで浮遊感のあるメロディや、フォーキッシュなメロディ、まんま第3期作品群のホラーでサイケな歌メロまで選り取り見取り。
そして、その全てに強烈な叙情性を持たせている点もエクセレント。
あの独特な"揺らぎ"や"タメ"も健在です。
本当に凄まじいボーカリストです、これは思わず崇めてしまう。
流石、ミスター世界最高峰。
Anders Nyström(Gt/Key)のギターは今まで以上にプログレッシブなアプローチを魅せています。
前作より幾分もディストーションを削っており、柔らかさや土着性に富んだプレイを聴かせており、叙情的なメロディの煽情力も相変わらず異様な高さを誇っています。
トレードマークのメランコリックなアルペジオも最強に冴えてますし、シューゲイズを通過したポスト・ブラックからの影響を感じられるクリーン・トーンでのトレモロもさりげなく披露しています。
所々で魅せるAmorphis顔負けのスオミ的なリードや、靭性に富んだリフ・ワークもかなりユニーク。
Jonas Renkse(Vo/Gt/Key)と共に卓越したソング・ライティング能力、楽曲構成力がピッカピカに輝いていますね。
Roger Öjersson(Gt)は数曲でリード・ギターを務めており、そのどれもが高クオリティ。
特に12曲目Passerでの荒波のようなソロ・パートは秀逸です。
そして、今作で非常に重要な役割を果たしたリズム隊。
Niklas Sandin(Ba)の前任者の存在感に引けを取らない超立体的なベースは前作で証明済みですが、今作でも極めて貢献度が高い。
プログレッシブな曲展開をあらゆる角度から支える彼のベース・ライン、本当に大好きです。
新加入のDaniel Moilanen(Dr)に関しては前任者Daniel Liljekvistがメタル界屈指の神ドラマーだったので、正直かなり不安でしたがそれも杞憂に終わりました。
やたら官能的なドラミングを魅せていた前任者とは全くタイプが異なる、パワフルでプログレ・デス的なドラミングですが予想を遥かに上回るほど素晴らしい。
タイプ的にはOpethのMartin "Axe" Axenrotに近いと思います。
ルックスは残念ながら前任者に大きく劣りますが、音楽的な存在感はかなり良い勝負しています。
JP Asplund(Percussion)の民族的なパーカッションもやはりアメージング。
結構ガッツリ見せ場があるので、同郷のSoen的なエスニックさを感じさせ、北欧的叙情性とアフリカンなポカポカ・シャカシャカ音の調和が何とも無国籍で唯一無二の世界観を構築していますね。
キーボード・パートは前作ほど主張が激しくありませんが、ジャズ由来のレトロで軽やかな旋律、彼らの独自のアトモスフェアを形成するアンビエントなアレンジ、古き良き懐かしさとノスタルジーを与えるメロトロンが心地良いです。
特に、メロトロンの使い方は第2期時代を彷彿とさせ、彼らが持つ何処か浮世離れしていて非現実的な世界観を象徴するものとして作用しています。
ミキシングは名手Jens Bogrenが担当しています。
6th"Viva Emptiness"以来、4回目のタッグとなりますが、Katatoniaのサウンドを熟知している彼が手掛けるミキシングは言うまでもなく完璧にマッチしています。
今作の特徴である暖かさやレトロ感を出すため、ここ数作の音作りとはかなり異なる仕上がりにしないといけない訳ですが、やはり彼は最高のエンジニアの1人だと痛感しました。
4th"Tonight's Decision"以来、Katatoniaの全ての作品のアートワークを手掛けている巨匠Travis Smithによる抽象的で美麗なアートワークも毎度毎度スーパー・ハイセンス。
彼は本当に外しませんね、流石巨匠です。
全曲が超名曲というだけでなく、アルバムの流れも最高と言えるもので、イントロ無しでいきなり始まる一曲目にして今作を象徴する曲Takeoverからラストまで、まるで目的地のない旅に出ているような時の流れ、そして移ろいを感じさせます。
彼らの楽曲製作方法の秘訣である、"色付け"にも当然抜かりはなく、1曲1曲に明確な個性を持たせ、しかしそれらを繫ぎ止める統一性のある色によって今作は描かれています。
最強ですね。

という訳で、ここ数年僕が聴いてきた音楽作品で最高の作品です。
ハッキリと断言しますが、この作品以上のものは2016年には出ないです。
"Night Is The New Day"がKatatoniaの"陰"の最高傑作なら、今作は"陽"の最高傑作ですね。
まぁ、"陽"とは言っても彼らはダーク・メタルの皇帝なので、一般的なメタル・バンドよりも暗いのですが、それでも鬱成分は9th以上に薄いように思います。
ある意味開放感があるとも言える。
結成25周年という節目を迎えた彼らの円熟味が最高の形で伝わってきます。
なお、今作ではお得意のボーナス・トラックばら撒き作戦をやっていますが、その中でもキャリア史上初の母国語曲Vakarenがダントツでベストです。
というか、あれは本編の一部として聴いてますw
それぐらいブチ抜けた出来栄えです。
他の曲も全て集めましたが、やはりこのバンドのボーナス・トラックは異常にクオリティが高い。
オマケという域を完全に超えてますからね。
是非ともBサイド/未発表曲集をCD媒体でリリースしてもらいたいです。
いずれにせよ、今作は僕の中で永遠にマスターピースとして残り続けるでしょう。
究極の芸術音楽が今作には詰まっています。
やっぱり僕はKatatoniaが一番好きなんだ、と再認識させてくれました。
本当に本当に素晴らしいバンドです。
メタルからプログレに移行したバンドとしてはOpeth、Anathemaが最高峰ですが、僕の中ではKatatoniaはそれらより更に上を行く存在ですね。
ガチな意味でどストライクに入っているのだと思います。
最後に、Jonas Renkse(Vo/Gt/Key)はKatatoniaが奏でる音楽は彼自身を含むある特定の人々を癒し、救うことが出来ると確信しているそうです。
そして、それは正しい。
少なくとも僕はそう思っています。


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