Слот/Septima (2016)

1. Реинкарнация 
2. Мочит, Как Хочет! 
3. Русская Душа 
4. Ctrl+Z 
5. Зал Ожидания 
6. 4 Шага 
7. Туда, Где Небо... 
8. Я Знаю 
9. Круги На Воде 
10. Стёкла Розовых Очков 
11. Страх И Агрессия 
12. Верю / Не Верю 
13. Платно


ロシア産ニュー・メタル/オルタナティブ・メタルバンドです。
通算7作目。
М2БАからのリリース。


СЛОТ

"ロシアのメタル・シーン"と言われても政治的/社会的な背景も絡んでか、我が国日本ではハッキリとした情報を得ることは結構難しい訳ですが、幸い自分の周りにはネイティヴのロシア人達がいるので、その状況を活かして彼らと積極的にコミュニケーションを取りつつ、素人なりに調査()をした結果、一つの見解を出せました。
それは、ロシア国民の間ではメタルという音楽はあまり浸透していないということです。
正直言って、日本のメタル・シーンの方が盛り上がっているように思います。
事実、ロシア出身のメタル・バンドと言えば、我々外国人からするとロシアン・メタルの始祖Ария、そしてArkonaを筆頭とするフォーク・メタル勢がダントツで、もっと掘り下げればブラック、メロデス、ブルデス、スラッシュ、メロパワ勢が有名な印象ですが、ロシア国内ではそれらのバンド(無論、Арияは別格なので除く)は限りなくマイナーに近く、キツい言い方をすれば2流3流ミュージシャンぐらいにしか扱れていないようです。
そんなロシアですが、実は10数年前から唯一メジャー・シーンの中核で大活躍しているHR/HMジャンルがあります。
それはニュー・メタルです。
かつて空前のブームを引き起こしながらもアメリカに切り捨てられてしまったニュー・メタルですが、奇しくもそれをロシアが拾い、更に国内で独自進化/発展させた結果、全盛期のアメリカ産のニュー・メタル勢を軽く凌ぐほどの勢いとクオリティを実現させることに成功し、その熱気がロシアを飛び越え、旧ソ連圏を覆うまでの状況になっています。
そうした流れを作り出すことに大きく関与したのが、ロシアン・ニュー・メタルのパイオニア7000$、そして今回レビューするロシアン・ニュー・メタルの皇帝Слотです。
7000$はLimp Bizikitからの影響をダイレクトに受け、それをロシア語にアップデートしたかのような所謂"典型的ニュー・メタル/ラップコア"といった音楽性でしたが、Слотはラップを取り入れつつも、初期から一貫してメロディに比重を置き、そこにインダストリアル・ゴス由来のサイバー・パンク的でダークな世界観、それとは相反するロシアン・カントリー・ミュージック由来の有機的な質感と穏やかさの同居、コマーシャル性の高いPOP感と、ロシア国民の趣向をある意味真摯に反映させたダンス・ミュージック要素の大胆かつ柔軟な導入、その他多岐に渡る音楽要素を貪欲に吸収したことによる驚異的な引き出しの多さ、そして最大の肝である男女ツイン・ボーカルによるドラマティックな掛け合いや重厚なハーモニーを武器としており、Арияを含む過去のロシア産バンドには殆ど皆無だったオリジナリティをいち早く確立させたバンドであります。
デビュー以降、アルバムを出す度にロシア国内及び旧ソ連圏で人気と知名度を着実に獲得していき、現在ではネイティヴのロシア人に
「ロシア人でСлотを知らないヤツはいない。」
とまで言わしめる、文字通り国民的人気バンドにまで成長しています。
ただ、ロシア産な上に、歌詞はオール・ロシア語(稀に英単語を使用)ということもあり、アメリカや日本では中々アルバム紹介をされることのない希少種バンドでもあるので(実際、彼らのCDを日本で入手するのにはそこそこの資金が要ります。しかし、ロシア国内で買えば日本円でたった700円前後w)、今回はまず過去作から振り返ってみようと思います。

1st"Slot 1"は当時のロシアの音楽シーンに大衝撃を与えた作品です。
ヒップホップから多大な影響を受けたニュー・メタルなんだけど、Limp BizikitともLinkin Parkとも違う、唯一無二の個性がこの時点で既に確立されています。
前述の両バンドとの具体的な違いはズバリ、近未来的でありながら何処か寂しいサイバー・インダストリアルな響きと、時折ダンス・エレクトロ調の軽快な響きを混ぜ合わせるという、実にロシア人らしいサンプリング・センス、ロシアン・カントリー・ミュージック風の温かみを堪えたメロディとアコギ、そして何よりタイプが全く異なる男女ツイン・ボーカル隊を擁する点でしょう。
ただ、今作での女性ボーカリストは現ボーカリストのНукиではなく、オリジナル・メンバーのTeka(Vo)が担当しています。
Teka(Vo)のボーカル・スタイルはНукиと比較すると、そのルックスの通り非常にガーリッシュでキュートなのが特徴です。
何か香水の匂いが漂ってきそうなほど甘ったるくセクシーなクリーンと、キュートながらも逞しいエッジを効かせたハーシュ・クリーンを魅せており、表現力もかなり高いです。
クール・ビューティー系の現ボーカリストНукиには希薄な女性特有の可愛らしさがある上に巨乳なので、未だに結構人気があります。
ロシアが誇る天パ界の超絶イケメンにして、バンドのリーダー兼メイン・コンポーザーを務めるКЗШ(Vo/Programming)は主にラップとドスの効いたシャウトを披露。
このラップがまた妙に巧いw
白人のラップは声が細くて軽いのが弱点だと思うんだけど、彼の場合は元の声質がディープな低音イケボなので、その点は全く問題なくクリアしていますし、彼が90年代に在籍していたプログレッシブ・スラッシュ・メタルバンドのEnd Zoneほど露骨ではないものの、かなり野太いシャウトを被せてくるので非常に個性があります。
そして、この2人の掛け合いもツイン・ボーカル隊を擁するバンド群の中でも突出して優れています。
特に、КЗШ(Vo/Programming)のカウンターの入れ方は同系統のボーカリスト達の中でもトップ・クラスに巧みだと思う。
楽器隊は実にニュー・メタル然とした縦ノリ感を重視しながらも、インダストリアル直系のマシーンみたいな精密性と、フォーキッシュな有機性を同居させており、やはり個性的。
唯一問題を挙げるとすれば、今作はロシア国内でも入手超困難な作品ということでしょう。
モスクワでも手に入らないので、持っている人はラッキー!
当時ロシアのMTVで、彼らのデビュー曲にして超名曲Одниが6カ月間もヘビー・ローテーションされたことはあまりにも有名な話です。

2nd"Две Войны"は前作から格段に成長を遂げた、ニュー・メタル史に残る傑作です。
基本的な路線は前作の作風を踏襲したニュー・メタルですが、"カザフスタン人っぽい"ID(Gt)の縦ノリ・ヘヴィ・リフの質やキレ、アコギによるオーガニックな叙情性、"タトゥー・ハゲ"Mixeu4(Ba)のバッキバキに鳴るベース(時折Kornリスペクトなスラッピングも披露!)、"モミアゲ・イケメン"Дуду(Dr)のシンプルかつパワフルなドラミング、КЗШ(Vo/Programming)の超ハイ・センスなサイバー・パンク・プログラミングと、ゴス・エレクトロ調の物悲しいプログラミング、文字通り全ての面で進化しています。
また、Tekaの脱退を受けて今作から弱冠17歳で新加入したНуки(Vo)のボーカル・パフォーマンスはこの時点で世界最高峰の激強っぷり。
ルックス通り、前任者より幾分もクールで落ち着いたクリーンと、柔和で綺麗なクリーン、冗談抜きで全盛期Linkin ParkのChester Benningtonに匹敵するウルトラ・ハーシュ・クリーン、そしてその延長線上のシャウトを武器にしています。
このハーシュ・クリーンがもう本当に勇ましく、そこら中にパワーをブチ撒ける圧倒的な迫力を堪えています。
また、Chester Bennington以上に感情的なのも大きな特徴で、冷たさ、柔らかさ、激情という全く異なる表情を魅せる、何ともミステリアスな面を持ったボーカリストだと思います。
Нуки(Vo)の貢献度は尋常じゃないほど高く、このバンドがロシアの国民的人気バンドにまで成長出来たのは、間違いなく彼女の凄まじいボーカルとКЗШ(Vo/Programming)の天才的なコンポーザー能力にあるでしょう。
前任者のTekaもかなり良かったけど、やはりНуки(Vo)の方が断然優れてる。
そんなメタル界屈指の女傑とタッグを組んでいるКЗШ(Vo/Programming)は、あくまでНуки(Vo)の持ち味を最大限に引き出すよう脇役に徹しながらも、至る所で印象的なラップとシャウトを披露。
1stから妙に巧かったラップ・スキルは今作で遂に本職ラッパー並みのレベルに成長しており、ニュー・メタルバンド群の中では最高クラスに位置しています。
通常、ニュー・メタルバンドが使うラッピングはオーソドックス・スタイルですが、彼のラップは何と型破りな変則タイプ!
どこまでオリジナリティを追求したら気が済むんだって話ですが、スラヴ系のラッパーは変則系ラップが異様に上手いので何か納得しました。
野太いシャウトもむちゃくちゃカッコいいですし、2人のボーカルの掛け合いは相変わらず黄金比と言える充実振り。
彼らに初めて触れる人は、今作から入るのが最適だと思います。
ただ、一つだけ注意事項があります。
それは2006年盤を買ってはいけないこと。
実は2006年盤で女性ボーカルを務めているのはIFという美人さんなんですが(Tekaが初代、IFが二代目、Нукиが三代目です)、彼女のパフォーマンスはНуки(Vo)と比較すると誰が聴いても明らかに役不足です。
2007年盤は女性ボーカル・パートを全てНуки(Vo)に差し替えられたものなので、買うなら絶対こちらをどうぞ。
今作からの代表曲は、2 войны、X-Stream、Пуля、7 звонков、Пластика、Нет、Здесь и теперь、День закрытых дверейなど。

3rd"Тринити"は前2作でロシア国内での地位を不動のものとした彼らが、本格的にその名を世界に轟かせることに成功した力作です。
2ndでニュー・メタルを極めたと言っても決して過言ではない彼らですが、今作は主にボーカル面と楽曲のバリエーションをより充実させ、これまで以上に幅広い層にアピール出来る音像に進化しています。
前作で全露を驚愕させたНуки(Vo)のボーカル・パフォーマンスは更なる飛躍を遂げています。
持ち味のウルトラ・ハーシュ・クリーンと激熱シャウトは全盛期Chester Benningtonを超えるほどの覇気がありますし、とにかくあの華奢な身体(体重30kg代らしいです)からは想像もつかないほどの爆発力とエネルギーを放っており、実に痛快です。
また、単純に歌唱力と音域が向上したことで、彼女のトレード・マークである"攻め"のスタイルとは違う、もっとソフトで優しく、それでいて儚げなクリーンで聴き手を癒します。
あと、Слот流ラップコア・チューンの代表曲Они убили Кенниのサビ部分での彼女のボーカルはお茶目で面白いw
どんな歌い方をしても、とにかく情熱的なのが実にロシア女性らしいと言えますし、色んな意味でロシアを代表する素晴らしいボーカリストに成長しました。
Нуки(Vo)の大奮闘を傍で支えるКЗШ(Vo/Programming)のボーカル・パフォーマンスは一見やや地味に映りますが、彼も確かな成長を遂げています。
まず、普通に歌が上手くなったこと。
これまで彼はほぼラップとシャウトに絞っていましたが、今作では持ち前のイケボを駆使して何とも色気のある歌声を披露しています。
それと、シャウト/スクリームのスタイルが変わりました。
野太くて機械的な印象が強かった彼のシャウト/スクリームは、今作ではより感情的になっており、彼の多面性が顕著に表れているように思います。
ただ、それらの成長を遂げた反動か、ラッピング・パートは影が薄くなりました。
ラップ頻度が下がったのは残念と言えば残念ですが、それよりも両者共にボーカル面でのレベル・アップを果たしただけに、彼らの武器である掛け合いはもっとアメージングに。
特に、1stのОдни、2ndの2 войныに続いて彼らの代名詞となった超名曲Мёртвые Звёздыでのラストのドラマティックで激情的な掛け合いは昇天必至です。
楽器隊も前作と比べるとやはりパワー・アップしており、中でも"モミアゲ・イケメン"Дуду(Dr)のニュー・メタルとインダストリアル・メタルの良い所取りをしたかのようなパワフル・ドラミングはお見事。
КЗШ(Vo/Programming)の近未来的なサンプリング・センスも相変わらず抜群に良いです。
何でしょうね、彼のサンプリングには他国のミュージシャンとはまるで違う空虚さが感じられます。
そこがまた個性的ですね。

4th"4ever"は前作以上に楽曲のバリエーションを豊富に進化させた作品で、商業的にも過去最高の成功を収めた(この作品以降、毎回記録を更新)傑作です。
前作ではニュー・メタルから一歩先に進んだ作風でしたが、今作でその変化を決定的なものとし、ジャンル=Слотと表現出来る唯一無二の音楽性を遂に確立します。
勿論、土台となっているのはこれまで通りのインダストリアル・メタル的解釈とカントリー要素を含んだロシアン・ニュー・メタルですが、POP、ハード・ロック、ダンス・ミュージック、メタルコア、果てはロシアン・フォーク・ミュージックなど、多岐に渡る音楽要素を貪欲に吸収して昇華させた音楽性に変貌を遂げています。
過去作でも兆候は幾らかありましたが、やはり今作からその圧倒的な引き出しの多さが顕著に表れてきたと思います。
中でも、ニュー・メタル+メタルコアの方法論などは完全に時代の先取りと言えるもので、欧米諸国では"時代遅れ"のレッテルを貼られていたニュー・メタルを、いつの間にか独自進化させていたロシア人の"凄味"を感じることが出来ます。
Нуки(Vo)の鮮烈なボーカル・パフォーマンスは、名実共にロシアを代表する歌姫として君臨するだけの神懸かりを魅せています。
元々広かった音域はまたもや広がり(今作以降、毎回広がります)、純粋にエッジを効かせるハーシュ・クリーンから更に先へと進んだ、Нуки式歌唱法(とでも言いましょうか)を創造することに成功し、LIVEでの異常な安定感も考慮した上で、長年比較されてきたChester Benningtonを完璧に突き放す前人未到の領域に突入しました。
歌メロの充実度も尋常ではなく、ロシアン・フォーク・ミュージック的な"純ロシアン・メロディ"を多用するようになったのも今作からです。
特に、Слот史上最高のバラードであるЗеркалаでの彼女の歌声には感動のあまり泣きました(自分が死んだことを認められない女性のことについて書かれた歌詞も悲し過ぎる…)。
灼熱のシャウト/スクリームも素晴らしい。
音楽とは関係ありませんが、今作以降彼女のルックス面での暴走が始まりますw
КЗШ(Vo/Programming)もそのボーカル・スタイルを今作で遂に確立させました。
前作辺りから、俄然"歌う"ことに念頭を置き始めた彼ですが、今作ではその傾向に拍車が掛かっており、持ち前のラッピングは歌心溢れるものに変化しています。
そして、歌がむちゃくちゃ上手くなったw
地声の質が大変良いだけに、今までもハッとするような場面が多々ありましたが、今作では歌唱力が大幅に強化されたことで彼のパートの魅力が相当高まりました。
また、前作から感情表現が豊かになったシャウト/スクリームの切れ味も改良されており、狂気染みた叫びを聴き手に突き付けます。
彼自身もこの強烈なシャウト/スクリームに自信があるのか、アグレッシブなパフォーマンスの頻度も上がっています。
相棒ボーカリストとしては、この時点でLacuna CoilのAndrea Ferroと共に世界2強となったと言えるでしょう。
"カザフスタン人っぽい"ID(Gt)のギター・プレイはニュー・メタル的な重厚なリフは勿論、ハード・ロック的でノリの良いフレーズや、メタルコア由来の激重ブレイク・ダウン、カントリー調の穏やかなアコギ、無機的な感触と有機的な感触を両立させた高い煽情力を誇る独自のメロディ展開など、シングル・ギター編成の弱さを微塵にも感じさせない職人技的パフォーマンスを魅せています。
新加入の"永遠の新米"(顔が童顔過ぎる)ことNiXoN(Ba)も早速バンドに馴染んだタイトかつアグレッシブなベース・プレイを魅せており、地味ながら巧みだった前任者に匹敵するパフォーマンスを発揮しています。
КЗШ(Vo/Programming)のサンプリングは作風に伴って、過去最高に多様なアレンジを加えており、インダストリアル由来のサイバーでクレイジーな電子音や、東欧然とした独特なストリングスが印象的です。

5th"F5"はバンド史上最もオルタナティブな音像を打ち出した作風が特徴で、"Слот最高傑作の1つ"と評されている作品です。
前作で確立させたジャンル=Слотという完全無欠のオリジナリティを誇るニュー・メタルを、今作ではより拡張解釈させることに成功しており、ロシアを背負うバンドとして一層強固となった彼らの凄味/貫禄を遺憾なく発揮しています。
これまでの作品で魅せてきた音楽的要素全てが大きく洗練されているのも今作の特徴で、90'sから培われてきたニュー・メタルというジャンルを、ロシアという国から一つの究極形を提示した作品でもあります。
前作から幅を利かせるようになった"純ロシアン・メロディ"は、今作では遂にアルバム全編で聴けるほど彼らにとって重要な要素となっており、ロシア出身バンドとしての矜持を猛烈にアピールしているのが素晴らしい。
しかし、同郷のフォーク・メタル勢のように過度でこれ見よがしな土着性や芋臭さを押し出している訳ではなく、ロシアン・フォーク・ミュージックを現代版にアップデートしていると表現出来得る、民族性とモダン性、つまり、全く正反対のフィーリングを同居させるといった神業を魅せています。
また、デビュー以来、常に彼らのサウンドを彩ってきたКЗШ(Vo/Programming)の手掛けるエレクトロ要素は、今作で一気に先進性に富んだものへと魔改造されており、彼らが持つ捻れたシアトリズムは最高潮に到達しています。
そんなエレクトロ要素の魔改造の中でも、ダブ・ステップからの影響を取り入れているのは、こいつら本当に未来に生きてんなぁ、って感じで、ヘヴィ・ミュージック+ダブ・ステップの先駆けとなった感のあるKornよりも早くに両ジャンルの邂逅を図っているという事実には、流石に驚きを禁じ得ません(ただし、Kornほど振り切ってはいない)。
前作に引き続き、先見性において欧米諸国がまたもやロシアの1バンドに敗北した瞬間だとも捉えられます。
これぞ、おそロシア。
そんなロシアの歌姫Нуки(Vo)は、最早留まることを知らない神懸かり的ボーカル・パフォーマンスを魅せています。
前作で前人未到の領域に歩み始めた彼女ですが、今作ではお家芸である天空を貫くНуки式ウルトラ・ハーシュ・クリーン、燃え滾るシャウト/スクリーム、艶やかさとロシア人らしい逞しさを兼ね備えたクリーンに加え、新たに、メンヘラっぽい猫撫で声や、聴き手の不安を煽りまくる緊迫感と情念に満ち溢れたパフォーマンスを披露。
ロシア国民のツボにズバズバ入る"純ロシアン・メロディ"の表現はこの歳にして既にベテラン歌手の風格を感じさせるほど成熟していますが、今作で最も大きなインパクトがあるのは、やはり激情クリーンでしょう。
胸が張り裂けるような痛みを、超人的な歌唱力で表現しています。
前作でボーカル・スタイルを確立させた相棒КЗШ(Vo/Programming)は、Слотの全作を通して最高のパフォーマンスを披露。
ついでに、テンションも今作が断トツで高いです。
歌唱力/表現力は更なる成長を遂げており、闇を描く男性ボーカリストとしては世界でもトップクラスの実力者に進化しています。
ここ2作は若干影が薄かった変則系ラッピングは完全復活を果たしており、Сумерки、R.I.P.では持ち味の異様に巧いラップを魅せてくれます。
また、歌の出番も俄然多くなり、特に超名曲Одинокие людиでのパフォーマンスは彼の長年のキャリアでベストなものを出せた言えますし、所々で出てくる躁鬱的な不安定さを堪えたクリーン、シャウト/スクリームは怖い。
そんな2人のボーカルの掛け合いは、シネマティックと言っても差し支えがないほど映像的なもので、特に、僕の中で"Слотベスト・チューンTOP3"に食い込むKill Me Baby One More Timeの狂気と哀しみが渦巻く男女ツイン・ボーカル・パフォーマンスは、世界を見渡してもLacuna Coilぐらいしか比肩出来得る存在がいません。
あと、"カザフスタン人っぽい"ID(Gt)のギター・プレイは個人的に今作が一番好み。
バネみたいに伸びるニュー・メタル的ヘヴィ・リフや、ロシアン・オルタナ的アルペジオ、繊細でダークなメロディ展開、インダストリアルっぽく鋭く切り込んでくる無機質なフレーズなど、基本的にどれもシリアスなのがアメージング。
"モミアゲ・イケメン"Дуду(Dr)と、"永遠の新米"NiXoN(Ba)による、無慈悲で攻撃的なリズム隊の絡みも良いね。

6th"Шестой"はバンド史上最もバラエティに富んだ作風が特徴で、前作と並んで"Слот最高傑作の1つ"と評されている作品です。
ここ数作でジャンル=Слотという、誰にも真似出来ない独自性を確立した彼らですが、6作目となる今作では類型的なニュー・メタルから完全脱却し、真の意味でオルタナティブなメタルバンドとしてシーンに君臨することを決定付けました。
彼らのサウンドの骨格となっている"発展型ニュー・メタル"的な方法論は散見されますが、それらの要素と、アリーナ・ロックとダンス・ミュージックを融合させるという、俄然コマーシャルな手法を大胆に用いているのが何ともユニークで、HR/HMファンは元より、日常的にロックを聴かない層までファンに取り込むことに成功しています。
4th辺りから彼らの強い武器となってきたシリアスなメロディが肝のオルタナ・ロックを展開したり、オールド・スクール調のラップ・メタルにハードコア的な荒々しい爆走や、ビート・ダウンパートを盛り込んだり、弾けるようなPOP感やダンス・ビートを前面に押し出したり、70'sロック風の愉快な疾走感を加えたり、カントリー調の穏やかで何処かノスタルジックな陽性メロディを漂わせたり、はたまた前作の超名曲Kill Me Baby One More Timeを彷彿とさせるゴス・ホラー的旋律を取り入れたダークな世界観を描いたり、とにかく信じられないぐらいバリエーションの幅が広いです。
そして、これだけ膨大なジャンルに手を出しているのにも関わらず、独自のフィルターを通して自分のものに昇華させることが出来ている点も、半端ない。
非常に高度な応用技術及び、コンポーザー能力が求められるので、並大抵のバンドにはとても実現出来得ません。
ちなみに、バンド史上最大のシングル・ヒットを記録したHR/HM史に残る超名曲Ангел или демонは今作に収録されています。
歌姫Нуки(Vo)は、作風の変化に伴い過去最高に振れ幅のあるボーカル・パフォーマンスを披露。
声量と音域がまたもやパワー・アップしたことで、トレード・マークのНуки式ウルトラ・ハーシュ・クリーンが放つ物凄い熱量のエネルギーと覇王色の覇気は更に進化を遂げていますし、悲痛な感情を時に鮮明に、時に儚く描き出す美声クリーンは前作よりももう1段階大人びた感じになりました。
また、何とも嫋やかな響きのラップや、過去作でもちょくちょく見受けられた、幼くて子供染みた歌い回しなども披露していて面白い。
POPな曲では爽やかで可愛らしく、シリアスな曲では激情的なパフォーマンスを魅せるなど、ボーカリストとしての表現の多彩さが一層磨かれた印象です。
メロディ・ラインは前作以上に"純ロシアン・メロディ"の趣きを増しているので、普段ロシアの音楽に触れていない方には慣れないだろうとは思いますが、個人的には最高です。
世界最強の女性ボーカリストの1人として、その素晴らしい実力を存分に発揮しています。
相棒КЗШ(Vo/Programming)は異常にテンションの高かった前作と比べると普段通りのテンションに戻っていますが、ここ数作で覚醒させた歌心はやはり大変秀逸です。
彼らのカントリー調・バラードの最高傑作であるКачелиでは珍しくサビ・パートを担当していますが、これが本当に良い。
過去作と比較すると、彼が持つ器の大きな父性が明確に出ているのも今作の魅力です。
躁鬱っぽさを孕んだ不安定なクリーンやスクリームは今作ではほぼ封印されていますが、代わりに、体感速度はそれほど速い感じないけど実は速いという持ち味の変則系ラッピングが、ここ数作では最も前面に押し出されています。
2人のボーカルの掛け合いは前作ほどシアトリカルではないものの、安定したドラマ性を醸し出しており、ツイン・ボーカル体制の強味を最大限引き出しています。
超柔軟なプレイを展開する"カザフスタン人っぽい"ID(Gt)と、"モミアゲ・イケメン"Дуду(Dr)のパワフルで手数の多いドラミングの貢献度の高さは相変わらず圧倒的ですが、"永遠の新米"NiXoN(Ba)のエゲツなくグルーヴィーで伸びまくるプレイは、過去のどの作品のベース・パートよりも優れていてアメージングです。
地味にСлотの大きな武器であるКЗШ(Vo/Programming)のプログラミングからはバンド・サウンドの強化に伴い、初期作品を象徴していたサイバー・インダストリアル色は消失してしまいましたが、EDM調のキラキラとカラフルなアレンジや、有機的で壮大なデジタル・アレンジ、ゴス・ホラーなピアノ・アレンジなど手広く展開しています。

で、今作の話。
まず、4th以来安定していたラインナップに変更があります。
モミアゲ・イケメン"Дуду(Dr)、"永遠の新米"NiXoN(Ba)の脱退を受けて、バンドは新たにНикита Муравьев(Ba)、Ghost(Dr)を迎えて今作を制作しました。
NiXoN(Ba)はともかく、Дуду(Dr)は実質的にオリジナル・メンバー並みのキャリアがあり、スティックをやたらとクルクル回す"魅せる"ドラミング・スタイルを持ち味にしていたことも相まって、ヴィジュアル的にも存在感的にもかなり重要なメンバーだったので、正直ショッキングでした。
元々、メンバー・チェンジが激しいバンドではありましたが、Дуду(Dr)は絶対に辞めないと信じていましたし、個人的にもとても愛着がありました。
そう…この感覚はLacuna Coilの脱退劇に似ている…。
まぁ、それはひとまず置いておくとして、今作に関して率直な感想から言わせてもらうと、"キャリア史上一番地味な作品"であるように思います。
ただ、それはメンバー交代に寄るものではなく、実際、新メンバーの2人は前任者達のパフォーマンスをほぼ完全再現出来ています。
バンドの結束力については分かりかねますが、少なくとも技術面でのダメージは0と言っていいでしょう。
では、何が今作を"キャリア史上一番地味な作品"たらしめているかと言うと、ズバリそれは"楽曲の画一化"、つまり、過去作と比較すると"バラエティに欠けている"という点にあると思います。
全体的にどの楽曲も同一のカラーで描かれており、今作を聴いていてバラエティ面で驚愕するような場面は殆ど無かったです。
前作が異端過ぎたと言われれば確かにそうですが、3rdや4thと比べてもバリエーションの幅が狭くなった印象を受けました。
このバンドは前述の通り、異常な引き出しの多さを武器としてきたので、その部分に焦点を当てるとパワー・ダウン感は否めません。
特に、ここ数作はバラエティの充実っぷりが半端なかったので、余計にそう感じました。
しかし、ここで重要なのが、それが作品全体のマイナスに繋がるかと言われると必ずしもそうとは限らないということです。
何を言いたいのかと言うと、要するに"楽曲の画一化"は裏を返せば、"統一性が高まった"とも表せるって訳です。
このバンドは色々な方面に手を出しながらも、とっ散らからないギリギリのラインを攻めていましたが、他のミュージシャンの作品に目を向けてみると、「バラエティは豊富だけど散らかっていて、結局気に入った曲は数曲しかない。」とか、「嫌いな曲はスキップして好きな曲だけ聴いてる。」なんてこと、結構あると思います。
多様性を追い求めるがあまり、統一性を欠き、"派手な駄作"と化してしまった作品は数多く存在するので、今作において彼らが採った路線、つまり"統一性を重んじる"作風は、実は悪い策ではないのです。
ただし、そうなると、"作品全体のクオリティ"が今作の評価を分ける最大の鍵となる訳ですが、結論から言えばクオリティ面は大変優れています。
最も、このバンドに関してクオリティ面での心配は今までしたことがなかったのですが、今作からの先行トラックМочит, как хочет!が想像以上に売れ線ダンス・ポップしていて、遂にダンス・ミュージックからの影響が悪い方向に進んでしまったか、と超不安でした。
しかし、いざ腰を据えて聴いてみると、Мочит, как хочет!は驚くほど真っ当な曲だったんだなぁ、と実感しましたし、"統一性を重んじる"作風である今作から全く浮かずに、それでいながら明確なアクセントとして作用していることを理解出来たので、俄然この曲への再評価が自分の中で高まりました。
ダサ過ぎるMVのせいで当初は印象が悪かったのですが、こんなに重要な曲だったとは。
全体的な作風としては4thに一番近い感触ですね。
Lacuna Coilが誇るCristina Scabbia、Andrea Ferroコンビと並んでHR/HMツイン・ボーカル界の頂点に君臨するНуки(Vo)、КЗШ(Vo/Programming)が程良く翳りのある"純ロシアン・メロディ"を中心に据えた独自の歌メロと、変則系ラップを放ち、そこにタイトかつアグレッシブ、グルーヴィーなリズム隊と、どんなスタイルも簡単にこなす天才プレイヤーID(Gt)が掴み所のない無国籍なメロディとヘヴィ・リフを被せ、同時に随所で5th以降の近代的で先進的なプログラミング/エレクトロで彩りを添えるといった、Слот流"大人のニュー・メタル/オルタナ・メタル"を展開しています。
また、今まで全ての作品に必ずあったオーソドックスなラップ・メタル・チューンは今作では無くなっており(強いて言えば、4 шагаがその役割を担っていなくもないですが、直情的な攻撃性は希薄で抜群にメロディック)、今まで以上にメロディとモダン性に強い拘りを見せていると言えます。
4thでボーカリストとして完成されたかのように思われたのに、その後アルバム毎に神懸かった進化を続けているロシア最強の歌姫Нуки(Vo)は音域がま〜た広くなり、遂にホイッスル音域にまで到達しています。
ここまで来たら、もう聴き手はただただ唖然とするしかなく、実際、同性には攻撃的な傾向が強いロシア女性達も「Нукиはね…彼女は特別だから…。」と揚げ足すら取れない状況が生じるぐらい凄いです。
Слотの象徴と化したНуки式ウルトラ・ハーシュ・クリーンの圧倒的なエネルギーは勿論、驚異的な音域をフルに活かした天空を突き刺すようなハイ・ピッチ・クリーン、妖艶な色香を纏ったセクシー・ボイス、凛としながらも儚い中高音域美麗ボイス、子供のような幼い声、消え入るような寂しい囁き、狂気を孕んだファルセット、燃え滾るシャウト/スクリームなど、様々な声を必要に応じて自然に使い分けています。
表現力も最早まるで当たり前かのようにパワー・アップしており、中でも、4th収録のСлот流バラード最高傑作であるЗеркалаに匹敵する今作屈指の超名曲Круги на водеでの絶唱は本当に本当に凄まじいです。
現世に生きる僕達の元を去ってあの世に逝ってしまった人々に想いを馳せることについて歌った曲なのですが、2、3年前、狂人に首をナイフで刺され危篤状態に陥ったものの、持ち前の生命力、そしてメンバーとファン達の神への祈りも功を奏してか、奇跡的に後遺症も全く残らずに死の淵から蘇るという壮絶な出来事を体験した彼女だからこそ、歌える曲です。
ここ数作で世界最高峰の相棒ボーカリストに成長したКЗШ(Vo/Programming)もやはり素晴らしいボーカル・パフォーマンスを魅せてくれます。
熟練のオーラを増したディープ・クリーンの安定感と煽情力は相変わらず感動的なものがありますし、時折魅せる激情に駆られたパフォーマンスもアメージング。
今作を象徴する名曲Реинкарнацияでのヴァース、ラスト・サビの被せ方、今作で最も激しい名曲Ctrl+Zのシャウト/スクリーム、サビ・パートでの掛け合い、モダンな名曲Зал ожиданияのクライマックスのブリッジでのエモーショナルな歌唱が特に素晴らしいです。
あと、お家芸の変則系ラップは今作でも尋常じゃないほど巧いです。
特に、アルバムのラストを飾る小品的な楽曲Платноでのラッピングは、本職スラヴ系ラッパーの中でも最高レベルに位置するぐらいテクくて、正直ドン引きしました。
そして、このツイン・ボーカル隊の絡み合いはこのバンドの最大の武器だなと、改めて納得出来る激強っぷり。
ボーカリストとしてそれぞれレベル・アップをしていながらも、バランスを崩していないのは神業と言えますね。
天才プレイヤーID(Gt)は、ニュー・メタル由来のダークで無機質、そして不可思議なフレーズや、何処かオリエンタルなアトモスフィアを醸す幽玄のアルペジオ、ニュー・メタル要素を取り入れたメタルコア的なモダンなヘヴィ・リフ、アリーナ・ロック直系のノリが良い刻み、温かみのあるメロディを堪えたフレーズ、オーセンティックで流麗なソロなどを主軸に展開しています。
前述の通り、今作ではメロディックな側面が目立っているので、彼のメロディ・センスが存分に発揮されています。
このバンドはいつ聴いても、とてもシングル・ギター体制とは思えない。
デビュー以来、1人で2人分の仕事をキッチリとやり遂げるロシアが誇る超有能社畜ギタリストであります。
新加入のНикита Муравьев(Ba)と、Ghost(Dr)は前任者達の何の遜色もない優れたパフォーマンスを披露。
Djent並みにモダンでグルーヴィーなНикита Муравьев(Ba)の"攻める"ベース・プレイと、某"モミアゲ・イケメン"並みに一発一発にパワーのあるGhost(Dr)の堅実かつアグレッシブなドラミングは、Слотのサウンドに完璧にフィットしています。
ただ、やっぱりヴィジュアル的な存在感はДудуとNiXoNには敵わないですね〜、2人とも個性的な顔してましたから。
慣れるには少し時間がいるかな。
КЗШ(Vo/Programming)の超ハイ・センスなプログラミングは、弾け転がるようなダンス・ビートと、過去最高に北欧的なストリングスをメインに、バンド・サウンドの表情を豊かにしています。
ミキシングは5th以降の過剰でない程度にモダンなものが施されており、やはり絶妙にハマっています。
流石にここは外しません。

という訳で、"キャリア史上一番地味な作品"でありながら、バンドの魅力が凝縮された逸品です。
前述の通り、"楽曲の画一化"が図られている上に、アグレッションやブルータリティは前作以上に薄くなっているので即効性は低いですが、聴けば聴くほど味が出る所謂"スルメ・アルバム"的な作品だと思いました。
地味なので今作から入るのはオススメしませんが、ロシアン・ニュー・メタルの皇帝としての絶対的な貫禄を魅せてくれる満足度の高い作品に仕上がっています。
ただ、このバンドのメロディ・ラインは極めてロシア的なので(特に5th以降)、普段からロシアの音楽を聴いていない人には少々取っ付きにくさを覚えるかもしれません。
まぁ、それは仕方ないし、僕は聴き込んで慣れろとは絶対に言いません。
ロシアの音楽は楽しめる人だけ楽しめばいいと思っていますし、実際そういった神秘性がありますから。
最後に、このバンドへの入門については、2nd"Две Войны (2007ver)"か、4th"4ever"が最適だと考えています。
1st〜4thの曲を集めたベスト盤も出ていますが、選曲がちょっと微妙ですし、何よりオリジナルと比べると音が粗悪過ぎて楽曲の魅力が半減してしまっているように思います。
英語版のベスト盤もありますが、選曲はともかく(4th曲が過多気味)、ロシア語じゃないのでやはり魅力が大きく減退していますし、彼ら自身も英語の発音に不慣れ感がヤバいです。
ついでに、音もオリジナルより軽い。
なので、2ndか4thをオススメします。
日本では殆ど触れられることのない幻のニュー・メタルバンドСлот、しかし、その実力は欧米のパイオニア達と匹敵するほど強大なものです。
彼らの魅力を発見出来る人が増えることを影で願っています。
近年はメタルコア、デスコア勢力が勢いを増してきているロシアですが、Слотは国民的人気バンドとして不動の地位を築いているので、先は非常に明るいです。
次作でどう出るか本当に楽しみだ、Слотの未来に乾杯!