まぁ、頑張りまっか

自分が気に入ったバンド/ミュージシャンの感想文付きディスコグラフィを作ります。 このブログで掲載しているものは実際に音源を購入した作品に限ります。 なお、無断転載はお断りします。

カテゴリ:ディスク・レビュー > M

Motus Tenebrae/Deathrising (2016) 

1. Our Weakness
2. Black Sun
3. For A Change
4. Light That We Are
5. Faded
6. Deathrising
7. Haunt Me
8. Grace
9. Cold World
10. Cherish My Pain
11. Desolation


イタリア産ゴシック・メタルバンドです。
通算5作目。
My Kingdom Musicからのリリース。


MOTUS TENEBRAE

暗黒/闇音楽の一つの終着点であるゴシック・メタルはイギリスを発祥としていることはメタラーなら誰しもが知っている事実だと思いますが、まず一番最初に火が付いたのはクラッシック音楽の聖地であるドイツで、実はイギリスではそれ程大きな盛り上がりを見せずに現在に至っているのもまた事実です。
ドイツが主戦場と化した後、ゴシック・メタルの大きな波はヨーロッパ全体を着実に飲み込んでいき、遂にはラテン諸国にまで押し寄せました。
そのラテン諸国の中でも特にイタリア、ポルトガル、ギリシャ、フランスは世界最大級のゴシック大国として知られていますが、今回レビューするMotus Tenebraeはイタリア出身の5人組です。
さて、イタリア出身のゴシック系バンドと言えば、Lacuna Coil、Novembre、The Foreshadowingなどが有名所ですが、全体として見るとモダンでオルタナティブな音楽性を武器とするバンドと、文字通り原理主義的ゴシック・メタルを演るバンドの2つに分けることが出来ます(そういう意味ではNovembreは例外ですね)。
そんな中、このMotus Tenebraeは極めて保守的な原理主義派ゴシック・メタルバンドにあたります。

で、今作の話。
実はこのバンドの過去の作品はどれもデジタル媒体でしか聴いたことがなく、CDを手に腰を据えてじっくりと聴くのは今回が初めてです。
なので、過去作との比較は一切ナシでレビューしようと思います。
肝心の中身ですが、前述の通り正真正銘"本物のゴシック・メタル"を鳴らしています。
以前のレビューで、The Foreshadowingを原理主義的なゴシック・メタルバンドと捉えましたが、彼らMotus Tenebraeはその傾向が更に強く、さながら生きる化石のような超正統派で保守的なゴシック・メタルをアルバム全編に渡って魅せています。
ゴシック・メタルを本当に愛している人向けの実に玄人好みなサウンドだとも言える。
デス・ドゥームからの影響を色濃く残した鬱屈とした重厚なリフ、これまたビターで暗鬱なギター・メロディ、寂寥感を煽るアルペジオ、ナルシズムと耽美さを堪えたディープな男性ボーカル、ドゥーミーなタメを効かせながらもノリの良さと起伏にも富んだドラム、低い重心を維持しながら動くベース、主張し過ぎない程度にシンフォニックで神聖なアレンジを加えるキーボード、厭世的な歌詞、枯れた音作り、全てにおいて徹頭徹尾"ガチ"のゴシック・ワールドが貫かれています。
専任キーボーディストが在籍していながらも、楽曲展開やメロディ展開はあくまでギター主導で行うという完全に時代錯誤で硬派な手法を採っているのも凄味がありますね。
影響元として公言されているのはParadise Lost、My Dying Bride、Type O Negative、Moonspell、The Vision Bleakという、何と言うか予想通りのガチ勢な顔触れが並んでおり(The Vision Bleakだけ明らかに浮いていますがw)、ソロが異常に冴えている点も含めてParadise Lostの後継者的な雰囲気とカッコよさを持っているバンドという印象を受けました。
全体的な作風として90'sの流れを引き継いでいるのも特徴で、正統派ゴシック・メタルの新たな手本に成り得る、非常に高品質なゴシックを奏でています。
ともすれば、どうしても上記のバンドのフォロワー感が出てしまい、実際このバンドならではの個性は正直そこまでないのですが、強いて言えばイギリス産には出せないイタリア産独自の湿り気や退廃美を持ち合わせています。
何より、"マスター・クラス・ゴシック"を自称するだけあって、ゴシック・メタルバンドとしての誇りと威厳に満ち溢れた退廃的な世界観/音像を最高レベルで創造しているのがこのバンドの最大の魅力です。
Luis McFadden(Vo)はParadise LostのNick HolmesとMy Dying BrideのAaron Stainthorpeを融合させたかのような、男性ゴシック・ボーカリストとして正に理想的なボーカルを披露。
元々の声質はAaron Stainthorpeを彷彿とさせる粘着質でディープなもの(無論、あそこまで病的な幽霊声ではありませんが方向性は近いです)で、歌唱スタイルや歌い回しはNick Holmesをほぼ完全再現しています。
やたら濃厚なダンディ・ボイスと、エッジを効かせた貫禄のある激渋ハーシュ・クリーンをメインで使っており、ごく稀にグロウルとスクリームも導入。
上記のゴシック界の英雄達の良い所取りをしているだけに、歌唱力、表現力共に最高峰のパフォーマンスを発揮しており、その圧倒的な存在感も特筆に値します。
歌メロ自体はサラッと聴くとやはりParadise Lost的ですが、聴き込めばそこまで露骨に真似ている訳ではなく、意外とオリジナリティがあるのが分かると思います。
サウンド同様、保守的なメロディを多用する上にアクも結構強めなので、普段から本格的にゴシック・メタルを聴いている人でなければ少々敷居の高さを感じる可能性もありますが、彼の内省的な闇と壮大なスケール感を兼ねたボーカルは相当魅力的で素晴らしい。
メランコリックな中にもどこか希望を感じさせる、そんな歌声です。
Daniele Ciranna(Gt)は前述の通り、"本物のゴシック・メタル"然としたプレイを魅せています。
重たく引きずるドゥーミーなリフや、ミドル・テンポでの灰色がかった刻み、鬱なアルペジオを連発するなど、ボーカルと同じく敷居の高さは否定出来ない保守的なプレイを展開していますが、実はメロディ・センスが抜群に良く、ある意味キャッチーと表現出来る音色を奏でています。
特にメランコリックなフレーズや、泣きのギター・ソロの煽情力の高さは尋常ではなく、闇成分を滲ませながらも取っ付きやすさ/分かりやすさに富んだプレイが魅力的です。
シングル・ギター編成なのは謎ですが、それを補えるだけの優れた才能を持ったギタリストだと思います。
リズム隊の内、Andreas Das Cox(Ba)はサウンドの骨格をタイトかつ怪しく支えるベース・プレイを、Andrea Falaschi(Dr)はIcon、Draconian Times期のParadise Lostのようなドゥーミーなタメを充分に効かせながらも、時折疾走感を加えてリスナーを飽きさせないバリエーション豊かなドラミングを披露。
どちらも古き良きゴシック・メタル然としているのがアメージング。
そして、このリズム隊の絡み合いを聴くとやはりドゥーム・メタルとの明確な差異を感じずにはいられません。
Harvey Cova(Key)は出番は少ないものの、ここぞという所でシンフォニックなフレーズや、美麗でヨーロピアンらしいピアノの旋律、デジタルなエレクトロ・サウンド、教会の鐘の音など多彩なアレンジでバンド・サウンドを強化。
派手さはないけど、随所でしっかりと存在感をアピールしているのがナイス。
アルバムの流れも非常に秀逸で、特に中盤以降の荘厳かつダークなカタルシスは大御所ゴシック勢に匹敵するほどの充実ぶり。
今年でキャリア15周年を迎える中堅バンドですが、既にベテランの風格を醸し出しており、"マスター・クラス・ゴシック"を自称するだけの確かな実力があります。

という訳で、ゴシック初心者が迂闊に手を出すと返り討ちに遭うことは明白ですが、ゴシックに深い思い入れがある方には是非とも聴いて頂きたい超一級品に仕上がっています。
あと、楽曲は平均4分台に収まっているので、ドゥーム系が苦手な人にもオススメ出来ます。
とりあえず、ゴシック系が好きな人は黙ってMVになっているDeathrisingとOur Weaknessをようつべなどでチェックしてみて下さいね。
時代の流れに全く左右されない芯の通ったゴシック・メタルを堪能出来ますし、こういった保守的なバンドが淘汰されている昨今の風潮が個人的にはあまり気に入らないので、そういう意味でも大変心強く頼もしいバンドであります。
今年は女性Voを擁するゴシック系バンドに次々と災難が降りかかっていますが、その反面、男性Voを擁するゴシック勢は気味が悪いほど好調な流れを作り出しているだけに、これはもしかしたらゴシック原理主義派の陰謀…おっと誰か来たようだ。


Mantar/Ode To The Flame (2016)

1. Carnal Rising
2. Praise The Plague
3. Era Borealis
4. The Hint
5. Born Reversed
6. OZ
7. I, Omen
8. Cross The Cross
9. Schwanenstein
10. Sundowning


ドイツ産ブラックンロール・スラッジ・メタルバンドです。
通算2作目。
Nuclear Blastからのリリース。


MANTAR

約20年ほど前から、あらゆる音楽要素をクロスオーバーさせた所謂"突然変異型バンド"が現れ始めて久しいHR/HMシーンですが、ここ数年はデジタル媒体の大普及に伴い、その傾向により拍車が掛かってるように思います。
今回レビューするこのMantarは、近年の特殊なバンド群の中でも飛び抜けてユニークで斬新なサウンドを鳴らしているバンドです。
バンドと言ってもメンバーはHanno(Vo/Gt)とErinc(Dr)の2人しかいません。
ただ、その辺のブラック系orゴシック系ユニットとは違い、ライブでもサポート・ミュージシャンやゲスト・ミュージシャンを招くことなく、たった2人で轟音を叩き出しています。
性質としてはゴア・グラインド系バンドと近いかもしれません。
そんな彼らの音楽性は自称"ブラック・メタル・ドゥーム・パンク"。
僕は"ブラックンロール・スラッジ"と例えましたが、つまりブラック、ドゥーム、パンク、ロックンロールを融合させたキメラ的なものです。
ブラッケンド・スラッジやブラックンロールなどは他のバンドが既に実践していますが、ブラック、ドゥーム、パンク、ロックンロール全てを内包した上でダイレクトに反映させているバンドは、僕が知る限りこのMantarが初めてです。
2014年の1stアルバム"Death By Burning"で華々しいデビューを飾った彼らですが、同作は荒削りな部分がありながらも(むしろそこが魅力でもある)、圧倒的なパワーとインパクトを持ち合わせており、彼らが標榜する音楽性を完璧に表現した作品でした(最も彼ら自身はパンクやロックをルーツとしているためメタルにあまり明るくなく、"ドゥーム"というジャンルを後になって知ったようですが)。

で、今作の話。
基本的な音楽路線は当然前作を踏襲したものです。
しかし、全ての面で前作より格段とパワーアップしている印象を受けました。
まず、ロックンロール要素の質を強化したことで、楽曲におけるフックの効かせ方やドライヴ感、そしてメリハリの付け方が相当向上しています。
また、曲展開の仕方も実に上手く練られており、終盤に向かうにつれてダークで重苦しい雰囲気が支配していた前作よりも、断然バリエーションが豊富に進化しており、何より抜群にエネルギッシュです。
比較的一貫してヘヴィネスに重点が置かれていた前作と比較すると、軽快なキャッチーさが前面に出ていてかなり取っ付きやすい。
例えばサビ・パートは今作においては明確な聴かせ所となっています。
単純にコマーシャルなサウンドになったと言えなくもないけど、それが100%プラスに働いていますね。
この手のジャンルとしては珍しい成功例です。
ライブ方式でレコーディングするという前時代のアナログ的な手法も、このバンドに関しては吉と出ています。
この手法によって、最近のバンドにありがちなPC処理過多orオーバー・プロデュースによって生じる"作り物感"を聴き手に与えず、ある種味わい深い生々しさとプリミティヴな感触を先行させ、それを基盤に強大な臨場感とカタルシスを創造することに成功しています。
彼らの大きな武器の一つであるリフも前作以上に魅力的なものになっており、聴き手の身体を激しく揺らす縦ノリ感を重視しながらも、随所で闇の世界の住人らしい暗黒リフや冷ややかなメロディも展開しています。
しかも、そのどれもがオールド・スクール的というのも若手らしからぬ渋さが際立っているように思います。
ブラック系やスラッジ系のように空間を埋め尽くす訳ではなく、このバンドの場合は2人編成という利点を上手く活かして、音の隙間を効果的に使うという方法論を採っているのが面白い。
このやり方はメタルというより、ロックやパンクのそれですね。
そして個人的に一番評価したいのが、彼らの音楽にはシリアスな空気が全体を覆いつつも、誤解を恐れずに言えばどこか憎めないお茶目さや可愛らしさが見え隠れしている点です。
Mantarのサウンドには、彼らがビック・リスペクトを寄せる音楽に対する愛と好奇心は勿論のこと、Hatebreedとも通づるようなポジティヴでピースフルな破壊的衝動が溢れているように思えるのです。
殺伐とした世の中に生きる人々の尻を蹴り飛ばして、良い意味で暴力的な活力を与えるパワーがある、そんな彼らの音楽は我々日本人にとっても素晴らしく映るのではないでしょうか。
とりあえず、彼らの魅力の全てを一曲に封じ込めた8曲目の一撃必殺キラー・チューンCross The CrossのMVを見てもらうとその辺りを含めた彼らの特性がよく分かると思います。
Hanno(Vo/Gt)のボーカルは相変わらず怒りまくっててスカッとしますね。
前作では不安定さも相まって少々病的な負の感情が感じられた彼のボーカルですが、今作では俄然安定感をビルドアップしており、ハードコア・パンク的な血の気の多い怒りを荒々しくブチまける漢らしいマッチョ・スタイルに成長しています。
ある程度慣れるまではブラックっぽい声質や歌唱法に注目しがちですが、実際はブラックほど鬱屈と歪んだ邪悪さはなく、むしろ活発なパンク・キッズが"パンク目線"で社会に対してピュアな憤怒をハイ・テンションかつ凶暴に吐き出しているといった趣きが特徴です。
所々で聴き手を鼓舞する掛け声を挟んでいるのも実にパンク的。
前作でも高いオリジナリティを備えた光るモノを持っていた彼ですが、数多のライブを闘い抜いてきた成果が如実に表れているように思います。
ボーカリストとして頼もしい存在感を魅せつつも、まだまだ伸び代を感じさせる素晴らしいボーカリストです。
また、Hanno(Vo/Gt)はギタリストとしても着実に成長しました。
ロックンロール由来の軽快かつノリノリなリフは煽情力がグッと上がりましたし、ブラック由来の寒々としたブリザード・トレモロ、ドゥーム由来のドス黒く打ち付けられる重量感のあるリフまでお手の物です。
彼の奏でるギター・サウンドは暴力的なのと同時にキャッチーなのがミソで、まず第一に聴き手のテンションを本当にブチ上げてくるのが非常にポイント高い。
また、彼らはベースレス・バンドですが、ちゃんと骨格となるパートも下地に導入しているため音の厚みは充分です。
というか好き勝手にギター・パートの音圧を上げているので、トリプル・ギター編成並みにヘヴィで笑っちゃいます。
それでいながら各パートのギター・サウンドがハッキリと分かるという離れ業を披露。
そんなHanno(Vo/Gt)の暴走を止めるでもなく、彼と一緒に仲良く暴走しているErinc(Dr)のドラミングは地味に今作において一番パワーアップしてるんじゃねえの?ってぐらい良い仕事しています。
とにかく、尋常じゃないぐらいパワフル。
脳筋とかそういう次元じゃないぐらいの馬鹿力で暴れているため、ドラム・パートがあれほど主張の激しいギター・パートに全く引けを取っていないぐらいヘヴィでこれまた笑っちゃいます。
スロ〜ミドルを主軸にしているので何となく雰囲気的にはあの元KornのDavid Silveriaの中期以降のスタイルを彷彿とさせますね、それぐらい一発一発に化け物染みたパワーがあります。
ただ、Davidはジャズを土台に持っていましたが、Erinc(Dr)のスタイルは完全にロックンロールとパンクのそれなので、そこが決定的に違いますね。
しかもこの男、ブラスト・ビートまで叩き込んできます。
速度はダートラぐらいですが、彼の方が圧倒的にパワーがある。
さっきからずっとパワーばっか言っていますが、本当にあり得ないぐらいパワフルです。
変則的な小技や手数の多さを魅せる場面はほとんどありませんが、ここまでパワーとシンプル・イズ・ベスト論に特化してブチかましてくれると、聴き手としては晴れ晴れとした気分になれます。
Hanno(Vo/Gt)が掻き鳴らすロックンロール直系のドライヴ感を、彼のドラミングによる程良い疾走感で増強させている点も見逃せません。
また、最近の若手バンドのドラマーと言えば、PCを駆使して良くも悪くも一寸の狂いもないドラミングを聴かせるコピペ・マシーン野郎ばかりですが、彼はそんな時代の流れに逆行している、まさに生きる化石のような超ラフ・プレイを魅せており、個人的に好感度が高いです。
ぶっちゃけ、若手バンドのドラマーの中では世界TOP5に入るくらい魅力的だと思う。
若手と言いながら37歳だけど…。
アルバムの流れも良く出来ています。
暗めの曲と明るい曲を交互に配置しており、最後は暗めの曲で締める辺り、あくまでダーク・ヒーローっぽさをアピールしているように思います。
個人的にはもっとお茶目なヒーローだと思いますがw
ミキシングは音の分離の良さと音圧の高さを両方兼ね備えていてアメージング。
爆音でも各パートがクッキリとしています。

という訳で、バンドとして飛躍的なレベルアップを実現した力作です。
もし「最近のHR/HMバンドで面白いヤツらいない??」と尋ねられたら、僕はこのMantarを推しますね。
ダブル・ミーニングで面白いバンドだと思います。
バック・グラウンドが広いため、ファン層を特定しないところも彼らの強みかな。
超名門Nuclear Blastに電撃移籍を果たしたことで、アングラ界に留まっていた彼らの素晴らしさがようやく広く世に知れ渡り始めましが、僕は彼らの躍進はまだまだこれからだと信じていますし、もっと多くの人に彼らの音楽を触れて欲しいと思っています。
そして、彼らが何故2人組編成になったのかという理由を考えると、もっともっと売れて欲しいですね。
三十路を超えた親友がタッグを組み、本気を出して始動させたキメラ・バンドMantar、10年後は世界で最も有名なメタル・デュオの一角を担っているかもしれません。
そんな明るい未来に思いを馳せずにはいられない、そんな一枚です。


Myrath/Legacy (2016)

1. Jasmin
2. Believer
3. Get Your Freedom Back
4. Nobody's Lives
5. The Needle
6. Through Your Eyes
7. The Unburnt
8. I Want To Die
9. Duat
10. Endure The Silence
11. Storm Of Lies
12. Believer (KARAOKE)
13. Storm Of Lies (KARAOKE)


チュニジア産シンフォニック・オリエンタル・メタルバンドです。
通算4作目。
VeryCordsからのリリース。
12、13はボートラ。


MYRATH

カラオケ民族の為にわざわざカラオケバージョンを用意してくれたんですねー、何て粋な計らいだー。
それはさておき、現在最も中東出身で勢いがあるメタルバンドと言っても過言ではないでしょう。
前作3rdは、良い意味でのメジャー化を果たした中々の好作でした。
2ndまでの(と言っても、僕は1stはちょろっとしか聴いていませんが)所謂"中東色"、"アラビアン・テイスト"をより洗練させて、メタルとの一体化に成功し、一気に垢抜けたという印象を抱いています。
チュニジア出身のオリエンタル・メタルということで、中には「中東色が強いのはちょっと…」と思う方もいるかもしれませんが、驚くほどメタルとの融合を上手くしていますし、メタル辺境の国にありがちなサウンドのチープさも皆無なので変に構える必要は全くないです。
逆に、このバンドにガチの中東色を期待している人は少し肩透かしかもしれませんね。
つか、そういう人は別にメタルに拘る必要ないと思うので、普通にそっち系のバンド聴きましょう、いっぱい良いバンドありますから。
ちなみに個人的にそっち系のバンド/歌手でメロディの質が高いのはぶっちぎりでトルコですね、イスラエルとかエジプトは意外とつまらない。
そう、実は僕は中東自信ニキ!!!(適当

で、今作の話。
基本的には前作3rdと同路線ですね。
というか、更にメジャー化を進めてきた感じです。
しかし、僕はこれで「こいつらもセルアウトに走ったか、つまんね」といったネガティヴな印象は全く抱きませんでした。
何故なら、肝心のクオリティがエゲツないほど高いからです。
前作を軽く凌駕する良質なメロディがそこら中に溢れ出しています。
また、持ち前のアラビアン・テイストとメタルの融合をこれ以上ないくらいに完璧に仕上げています。
結論を先に書きますが、これは間違いなく過去最高の出来栄えです。
本当に言葉通り全ての面で大幅にパワーアップしています。 
アートワークのメンバー写真も含めて。
こいつらやってくれましたね、本当にアメージングなバンドだ!!!
まず、Zaher Zorgati(Vo)のボーカル。
2ndから3rdで飛躍的な成長を遂げた彼のボーカルは、今作で更にパワーアップ。
あのKamelotの元ボーカル、Roy Khanに影響を受けたと語る彼のボーカルには、確かにRoy Khan色(特に語尾のアクセント)を感じさせる所がありますが、それでも彼のボーカルは完全にオリジナル。
至る所で聴ける中東人ならではの独特なアラビアン節回しや、燃えたぎるようなアツさと胸を締め付けるような哀愁が同居した彼のボーカルはとにかく本当に本当に素晴らしい。
本人はどう思うか分かりませんが、まさに"中東のロイ・カーン"とも言える凄まじい表現力です。
正直、彼の表現力はメタル界でも最高峰に位置すると言わざるを得ません。
Myrath最大の武器が他の西洋のバンドでは味わえないオリジナリティ溢れるメロディであるのは、今更言うまでもありません。
そのメロディの大部分を担う"歌メロ"の良さは彼の実力があってこそ。
前作でもエクセレントな歌唱を聴かせていた彼ですが、今作の歌メロの充実っぷりは特筆に値します。
次に楽器隊。
これまた実に良い働きぶり。
これまで7弦ギターでひたすら野太い音を出していたMalek Ben Arbia(Gt)のギターは、ここにきて鋭利でシャープな音作りに変化。
過去最高にMyrathの劇的なサウンドとマッチングしています。
正直、今までの彼のギターの音はMyrathのサウンドには不釣り合いなぐらい野太く浮いていたので、この変化には大賛成です。
ミキシングをあのJens Bogrenが担当しているのも、大きな要因になっているとは思いますが。
とにかく、次作以降もこんな感じの音を貫いて欲しいですね。
ギターパートにおいて中東出身ならではのメロディというものは、一聴した感じあまり強くはありませんが、良く聴けばギターソロの所々にそれらしいメロディを聴くことが出来ます。
個人的にはもっと中東らしさを主張しても良いと思うのですが、それでも納得の出来栄え。
あと、彼スキンヘッドになっちゃいましたね、前作の時点でかなりデコがキテましたから仕方ありません。
というか、彼の場合ハゲの方がカッコいいという。
しかし、元ロン毛がお洒落眼鏡坊主になっているので、ジャケ写真を見た時は誰か分かりませんでした。
リズム隊、特にドラム/パーカッションは前作に引き続きやはり素晴らしい。
前作から加入したMorgan Berthet(Dr)のエスニックな要素の強いドラミングは、Myrathサウンドのオリジナリティをかなり高めていると思います。
頻繁に導入されるパーカッションはやはり最高ですね、ジャンルは違いますがIll Ninoを思わせる民族調のポカポカ音は聴いていて爽快。
また、彼は今作でむちゃくちゃ垢抜けました、ルックスが。
前作ではまるでど素人のようなルックスだった彼ですが、今作ではアイシャドウ、胸や下腹にタトゥーを装備してかなりカッコよくなっていたので、お洒落坊主と同じく、最初誰か分かりませんでした。
とにかくジャケ写真から、彼らが売れているのは充分伝わったので嬉しい限り。
Elyes Bouchoucha(Key/Vo)は過去最高に多彩なアレンジでMyrathサウンドを強化しています。
ピアノ、ダンスミュージックっぽいピコピコ音、インダストリアル・メタルバンドのようなデジタル音など、とにかく幅広いアレンジ。
ただ、中東人はやたらダンスミュージック調のピコピコ音を好んで使いますが、正直アラビアンなメロディと絶望的に相性悪い気がするんだよなぁ……。
物珍しいのか何なのか分かりませんが。
このバンドの場合は隙間にねじ込んで、空気を変えるぐらいにしか使っていないので、全然許容範囲なんですけどね。
そして、今作で大進化を遂げたシンフォ・アレンジ。
もちろんシンフォ・アレンジとは言っても、ヨーロッパ的なクラシカルな旋律ではなく、アラビアンな旋律です。
前作でも使われてはいましたが、今作で爆発的にスケールアップしました。
Malek Ben Arbia(Gt)の主張の激しいギター・サウンドや、Morgan Berthet(Dr)のエスニックなリズムもあってか、とにかくMyrathはバンド・サウンドが強いだけに、シンフォ・パートを大増量しても全く問題なく、しかもアラビアン・テイストなシンフォなだけにオリジナリティをぶち上げています。
あの物悲しいアラビアンな旋律を聴いて「これだよ!!これ!!!」と叫んでしまいました。
Myrathサウンドここにあり!!!と高らかに宣言するような頼もしさ。
メジャー感を高めると共に、オリジナリティをも高めるという荒技をやってのけた彼ら。
これにはヨーロッパの一流バンド達もビックリではないでしょうか。

という訳で、Myrath最高傑作が誕生しました。
今作のポイントはやはり前述の通りメロディですね。
主に歌メロとアラビアン・シンフォ・アレンジ、この2点が思わず聴き惚れてしまう程素晴しい。
前作はやや中弛みした印象もありましたが、今作は徹頭徹尾非常に高いクオリティとテンションを維持しています。
個人的にはKamelot的な美旋律を聴ける3曲目Get Your Freedom Back、11曲目Storm Of Lies、サビメロを全てアラビア語で歌う、今作で最も中東色が強い4曲目Nobody's Lives、悲壮なメロディが最高に冴えまくる8曲目I Want To Die、9曲目Duatが非常に気に入りました。
今作を聴いた人なら感じると思いますが、意外と中東の音楽のメロディは暗いものが多いです。
だから、陰気の僕は中東の音楽を好んで聴く訳なのです。
ところで、このバンドは政治や宗教については決して題材として扱わないらしいのですが、1曲目の壮大なインスト"Jasmin"はどう考えてもアレだよね…。
"Get Your Freedom Back"も。
まぁ、政治について語っても仕方ないのであまり触れないでおきます。
あと、アメリカの大作ファンタジー・ドラマGame Of Thronesのキャラクターについての歌詞もあって笑いました。
この手のバンドは本当好きなんだな、あのドラマ。
かなり良く出来てるんだけど、濡れ場シーンがガチ過ぎて家族とは絶対見れないっていうね。
ちなみに原作(英語)を読むにはかなりの英語力が必要なようです、普通に英語を話しているカナダ人が読めないって言ってました。
ハリポタの比じゃないみたいですね。
色々脱線してしまいましたが、今作、本当に良いアルバムです。
中東の音楽に興味ない人にも是非チェックすることを激しくオススメします。
Kamelot好きは勿論、メロディックなメタル好きならマスト!!!

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