1. Our Weakness
2. Black Sun
3. For A Change
4. Light That We Are
5. Faded
6. Deathrising
7. Haunt Me
8. Grace
9. Cold World
10. Cherish My Pain
11. Desolation
イタリア産ゴシック・メタルバンドです。
通算5作目。
My Kingdom Musicからのリリース。
『MOTUS TENEBRAE』
暗黒/闇音楽の一つの終着点であるゴシック・メタルはイギリスを発祥としていることはメタラーなら誰しもが知っている事実だと思いますが、まず一番最初に火が付いたのはクラッシック音楽の聖地であるドイツで、実はイギリスではそれ程大きな盛り上がりを見せずに現在に至っているのもまた事実です。
ドイツが主戦場と化した後、ゴシック・メタルの大きな波はヨーロッパ全体を着実に飲み込んでいき、遂にはラテン諸国にまで押し寄せました。
そのラテン諸国の中でも特にイタリア、ポルトガル、ギリシャ、フランスは世界最大級のゴシック大国として知られていますが、今回レビューするMotus Tenebraeはイタリア出身の5人組です。
さて、イタリア出身のゴシック系バンドと言えば、Lacuna Coil、Novembre、The Foreshadowingなどが有名所ですが、全体として見るとモダンでオルタナティブな音楽性を武器とするバンドと、文字通り原理主義的ゴシック・メタルを演るバンドの2つに分けることが出来ます(そういう意味ではNovembreは例外ですね)。
そんな中、このMotus Tenebraeは極めて保守的な原理主義派ゴシック・メタルバンドにあたります。
で、今作の話。
実はこのバンドの過去の作品はどれもデジタル媒体でしか聴いたことがなく、CDを手に腰を据えてじっくりと聴くのは今回が初めてです。
なので、過去作との比較は一切ナシでレビューしようと思います。
肝心の中身ですが、前述の通り正真正銘"本物のゴシック・メタル"を鳴らしています。
以前のレビューで、The Foreshadowingを原理主義的なゴシック・メタルバンドと捉えましたが、彼らMotus Tenebraeはその傾向が更に強く、さながら生きる化石のような超正統派で保守的なゴシック・メタルをアルバム全編に渡って魅せています。
ゴシック・メタルを本当に愛している人向けの実に玄人好みなサウンドだとも言える。
デス・ドゥームからの影響を色濃く残した鬱屈とした重厚なリフ、これまたビターで暗鬱なギター・メロディ、寂寥感を煽るアルペジオ、ナルシズムと耽美さを堪えたディープな男性ボーカル、ドゥーミーなタメを効かせながらもノリの良さと起伏にも富んだドラム、低い重心を維持しながら動くベース、主張し過ぎない程度にシンフォニックで神聖なアレンジを加えるキーボード、厭世的な歌詞、枯れた音作り、全てにおいて徹頭徹尾"ガチ"のゴシック・ワールドが貫かれています。
専任キーボーディストが在籍していながらも、楽曲展開やメロディ展開はあくまでギター主導で行うという完全に時代錯誤で硬派な手法を採っているのも凄味がありますね。
影響元として公言されているのはParadise Lost、My Dying Bride、Type O Negative、Moonspell、The Vision Bleakという、何と言うか予想通りのガチ勢な顔触れが並んでおり(The Vision Bleakだけ明らかに浮いていますがw)、ソロが異常に冴えている点も含めてParadise Lostの後継者的な雰囲気とカッコよさを持っているバンドという印象を受けました。
全体的な作風として90'sの流れを引き継いでいるのも特徴で、正統派ゴシック・メタルの新たな手本に成り得る、非常に高品質なゴシックを奏でています。
ともすれば、どうしても上記のバンドのフォロワー感が出てしまい、実際このバンドならではの個性は正直そこまでないのですが、強いて言えばイギリス産には出せないイタリア産独自の湿り気や退廃美を持ち合わせています。
何より、"マスター・クラス・ゴシック"を自称するだけあって、ゴシック・メタルバンドとしての誇りと威厳に満ち溢れた退廃的な世界観/音像を最高レベルで創造しているのがこのバンドの最大の魅力です。
Luis McFadden(Vo)はParadise LostのNick HolmesとMy Dying BrideのAaron Stainthorpeを融合させたかのような、男性ゴシック・ボーカリストとして正に理想的なボーカルを披露。
元々の声質はAaron Stainthorpeを彷彿とさせる粘着質でディープなもの(無論、あそこまで病的な幽霊声ではありませんが方向性は近いです)で、歌唱スタイルや歌い回しはNick Holmesをほぼ完全再現しています。
やたら濃厚なダンディ・ボイスと、エッジを効かせた貫禄のある激渋ハーシュ・クリーンをメインで使っており、ごく稀にグロウルとスクリームも導入。
上記のゴシック界の英雄達の良い所取りをしているだけに、歌唱力、表現力共に最高峰のパフォーマンスを発揮しており、その圧倒的な存在感も特筆に値します。
歌メロ自体はサラッと聴くとやはりParadise Lost的ですが、聴き込めばそこまで露骨に真似ている訳ではなく、意外とオリジナリティがあるのが分かると思います。
サウンド同様、保守的なメロディを多用する上にアクも結構強めなので、普段から本格的にゴシック・メタルを聴いている人でなければ少々敷居の高さを感じる可能性もありますが、彼の内省的な闇と壮大なスケール感を兼ねたボーカルは相当魅力的で素晴らしい。
メランコリックな中にもどこか希望を感じさせる、そんな歌声です。
Daniele Ciranna(Gt)は前述の通り、"本物のゴシック・メタル"然としたプレイを魅せています。
重たく引きずるドゥーミーなリフや、ミドル・テンポでの灰色がかった刻み、鬱なアルペジオを連発するなど、ボーカルと同じく敷居の高さは否定出来ない保守的なプレイを展開していますが、実はメロディ・センスが抜群に良く、ある意味キャッチーと表現出来る音色を奏でています。
特にメランコリックなフレーズや、泣きのギター・ソロの煽情力の高さは尋常ではなく、闇成分を滲ませながらも取っ付きやすさ/分かりやすさに富んだプレイが魅力的です。
シングル・ギター編成なのは謎ですが、それを補えるだけの優れた才能を持ったギタリストだと思います。
リズム隊の内、Andreas Das Cox(Ba)はサウンドの骨格をタイトかつ怪しく支えるベース・プレイを、Andrea Falaschi(Dr)はIcon、Draconian Times期のParadise Lostのようなドゥーミーなタメを充分に効かせながらも、時折疾走感を加えてリスナーを飽きさせないバリエーション豊かなドラミングを披露。
どちらも古き良きゴシック・メタル然としているのがアメージング。
そして、このリズム隊の絡み合いを聴くとやはりドゥーム・メタルとの明確な差異を感じずにはいられません。
Harvey Cova(Key)は出番は少ないものの、ここぞという所でシンフォニックなフレーズや、美麗でヨーロピアンらしいピアノの旋律、デジタルなエレクトロ・サウンド、教会の鐘の音など多彩なアレンジでバンド・サウンドを強化。
派手さはないけど、随所でしっかりと存在感をアピールしているのがナイス。
アルバムの流れも非常に秀逸で、特に中盤以降の荘厳かつダークなカタルシスは大御所ゴシック勢に匹敵するほどの充実ぶり。
今年でキャリア15周年を迎える中堅バンドですが、既にベテランの風格を醸し出しており、"マスター・クラス・ゴシック"を自称するだけの確かな実力があります。
という訳で、ゴシック初心者が迂闊に手を出すと返り討ちに遭うことは明白ですが、ゴシックに深い思い入れがある方には是非とも聴いて頂きたい超一級品に仕上がっています。
あと、楽曲は平均4分台に収まっているので、ドゥーム系が苦手な人にもオススメ出来ます。
とりあえず、ゴシック系が好きな人は黙ってMVになっているDeathrisingとOur Weaknessをようつべなどでチェックしてみて下さいね。
時代の流れに全く左右されない芯の通ったゴシック・メタルを堪能出来ますし、こういった保守的なバンドが淘汰されている昨今の風潮が個人的にはあまり気に入らないので、そういう意味でも大変心強く頼もしいバンドであります。
今年は女性Voを擁するゴシック系バンドに次々と災難が降りかかっていますが、その反面、男性Voを擁するゴシック勢は気味が悪いほど好調な流れを作り出しているだけに、これはもしかしたらゴシック原理主義派の陰謀…おっと誰か来たようだ。