February 21, 2007

神掛かった様な静けさの中で

先日影ながら尊敬する(バト素SSで有名な)
比左子さんへSSの捧げモノしたのですが、比左子さんのHPでは
頂き物のページが無いという事と、私のブログで発表しても良いと
ご許可を頂きましたので、この場で発表させて頂きます。
(映画版の二人を、バトーのモノローグ的に書かせて頂きました)
お楽しみいただければ幸いです。


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『ねえバトー、あんたの体、どのくらいオリジナルだったっけ?』

缶ビールを回しながらそう言った時のお前の眼、
酒で回っている様な顔をしているくせに、
その紅い瞳だけは爛々としていたのを
俺は今でもよく覚えている。



<神掛かった様な静けさの中で>



「人形使い」
この名が事件簿ファイルに出てきてからというものの、
9課の動きがにわかに慌しくなった。

ペルソナ・ノン・グラータである、マレス大佐の逗留先にそいつが現れるという
情報を得て、24時間監視していた俺達の前に現れた「人形使い」は、
うわさに違わず「人形」を寄越してきやがった。
そいつはゴーストに難なく進入して、ターゲットの記憶を上書きし、
上書きされた人物は、自分が偽モノの人格に支配されている事すら気づかずに
新しい自分に身を委ねて行くことすら可能である。

清掃局に勤める哀れな加害者兼被害者は、
存在する筈の無い「娘」を溺愛し、彼女の親権を取り戻す為に翻弄していた。
嘘の記憶を消し、本当の記憶を返してもらいたいという彼の願いは、
現在の技術力では成功例があまりにも少なく、
とても勧めることは出来なかった。

記憶とはすなわち、自分というものを形成する「礎」である。
経験と環境が違うなら、例えDNAが同じでも違う個性が出来上がる
という事は、前世紀から証明されている。
取調室で涙に暮れる被害者をドア越しにながめていたお前は
無表情を装っていたが、その瞳はまったく別の感情をはらんでいた。


俺が気づかないとでも思ったのか?


いつも心のどこかで『自分は存在しないモノ』と呟き、
まるで自分を追い詰めるかの様に、鬼神のごとく敵と向かい合い、傷付く。
その痛みが彼女の個性を形成する為に必要不可欠な要素になっているのでは
ないだろうかと思うほど、あいつは自分の物理的身体(要は義体だ)に対して
あまりにも無頓着だった。

戦いの中では常に先陣を切り、出す指示は明確。
義体が壊れようが、最後まで戦い抜くその気概は並々ならぬもので、
その雰囲気だけで近づく人をより分ける位だ。
少数精鋭である9課のメンバーは皆、そんな彼女に「近づける」類の人間のみで
構成されている。イシカワに次いで俺があいつとの付き合いが長く、
かれこれ10年近くが経とうとしていた。

初めは、笑いもしない何の面白みも、いや、本当に人間なのか?
と思うほど感情を見せない女だった。
『お姫様』とイシカワがあいつを呼んでいた理由も今じゃよく分かる。
世間知らずで、自分の興味の対象以外にはとんと無頓着。
笑い方すら知らないんじゃないだろうかという位だった。
それは後に彼女独特の処世術であることは分かったが、
それでもあいつの笑顔を見るまでに随分と時間が掛かった。
本格的にあいつのポイントマンというポジションに入ってから、
ようやく色々な表情を見ることが出来るようになった程だ。
しかしこの1,2年、笑顔を見ることは殆どなくなり、
憂いを含む表情を見る時の方が多い日々が続いた。


自分を含め、9課メンバーが使用する義体は政府からの借り物で、
辞める時はつつしんで政府に返却する必要がある。
残った「自分」と呼べるものはごく僅かで、
全身義体であるあいつの場合はそれこそ脳細胞数個、
と言っても過言ではないかもしれない。
それは常々彼女自身が言っていた事でもあるし、
それ故、彼女はアイデンティティ・クライシスに陥っていた。

「ばかばかしい」
俺はエレベーターからから降りる際に、
その一言で彼女の話を切り上げた。
俺は器用じゃねえから、他の言葉が思い浮かばなかった。
何か他にいい言葉があったなら今でも教えて欲しい位だ。
あいつには余計なことを考えないで欲しかった。
「自分」がいる現実を見て欲しかった。
自分という人間がそもそも存在していなかったなんて
思って欲しくなかった。

誰よりも強烈に意識せざるを得ないお前の存在は、
汎用性義体に入っていても、同種義体に入っている他の誰よりも
生気に溢れ、クールで、熱い。
常に前だけを見、後ろを振り返らない女。
そんなお前が「作られた人格だ」と言うなら、
他のやつらは存在していることすら可笑しいくらいだ。
しかし幾ら言ってみても、時に態度で示してみても、
生身の体だった記憶が俺の様に殆どないあいつには、
無駄なお節介だったのだろう・・・


あの船の上で俺に投げかけた彼女の言葉は、
生身のパーツなんて、なまじあるとこの世に未練が残るわよ
とでも言いたげで、そのくせ俺に向けていたその眼差しは
好奇心に溢れている様な、そんな生気溢れる瞳だった。


それともあいつは、
現実と虚無の狭間で揺れ動いていたのだろうか?




お前が「2501」という数字だけ残して消えてから数ヵ月後、
久しぶりにお前が乗っていたクルーザーの停泊するマリナーに行った。
たまに動かしてやらなきゃ錆びも付くだろうし、何より船が可愛そうだ。
マリナーを出ると、夏も終わりなのか少し肌寒い秋風が海面を走る。
程なくしていつものダイビングスポットに船を停泊させ、
デッキに寝転がってあのときの会話を思い出した。

にぎやかな摩天楼の風景はすぐそこに見えるのに、
不気味なほど辺りは静まり返り、時折波が弱くクルーザーの船底に
ぶつかる音だけが聞こえる。ガラスの壁の向こう側に取り残された様な、
そんな感覚さえ覚えた。


『サイボーグがダイビングだなんて、いい傾向じゃないぜ』
『違うわよ。沈むんじゃなくて、浮かび上がる時が好きなの』
『似たようなもんだろ?
今担いでいるフローターが作動しなかったらどうする?』
『Sanks for your kindness. But I'm totally fine.』
『・・・イヤ味か?』
『フフ・・・』

はぐらかすような笑みを浮かべながら、
あいつの視線はほの暗い海面へと向けられ、
暫くして俺の方に振り返った時にあの言葉が出た。
物理的制限から解き放たれたお前のあの言葉は、
今となっては色々な意味を含む。
こんな、生身のパーツが少ない俺の体だが、
そのわずかな生身が、恐ろしいほど太くて強い楔となって
この世界に引き止める。
そしてこの世界からお前を求め続ける。
それは痛く、苦しい。
しかし何時かそれすらも慣れるのだろうか?
何度も繰り返される疑問に、
この静寂な空間はあまりにも重かった。


『俺の傍にいてくれるだけでいい』
たったそれだけの言葉すら言えなかった自分。

この静けさの中で、
あの時の自分の迷いをずっと責め続けるかの様に問いかける。





『なあ、せめて教えてくれ。
お前は今、幸せか?』


fin.


コメント一覧

1. Posted by 比佐子   February 27, 2007 22:00
ありがとうございます。
ブログからのリンクを張らせていただきます。
ぶしつけなお願いをきいていただきありがとうございました。
2. Posted by Rei   March 01, 2007 02:37
こんにちは。このたびはこちらこそ甘えて
しまってスミマセンでした。
バト素熱は当分冷めそうにありませんが、
今後ともどうぞよろしくお願いいたします♪

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