April 12, 2007

ちょっと時期がずれちゃいましたが、
桜をお題にSSを一本書いてみました。
ではどうぞお楽しみください。
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セーフハウスの裏手には満開の桜が咲いていた。
ここは新浜でも古いエリアに佇む大学の裏地で、
その桜は大学病院の脇に何本も植えられている。
入院患者達を和ませる為に植えられたのであろうその樹は、
セーフハウスのあるビルで宅地側からの視界を遮断しており
外部からは殆どその優美な風景を見ることが出来ない。
この季節においては、ある意味特別な場所だ。
ほんの少し足を延ばせば、桜で有名な公園があるのだが、
どうせ酔っ払いと見物客でごった返してるので、
この時期は公園まで足を延ばすことは無い。


一人でその眺めを占領するのは勿体無いと思う程、
誇らしげに咲き誇っている無数の淡い花弁。
既に満開がピークに達したその樹から、
ひとつ、またひとつと花びらが舞い落ちる。


その昔、桜が美しく咲く理由は、
その下に死体が埋まっているからだという話があった。
桜の樹には魔物が棲む、という話もあったっけ。
御伽噺などを信じる輩は居ないこのご時世、
こんな風景を眺めていると、段々とそんな昔話が
あざやかに脳裏を過ぎるのを不思議に思う。


ふわりと心地良い風が耳元を吹きぬけると、
風にのって1枚の花びらが私の鼻の頭に舞い落ちた。
それを慎重に手でつまみ上げ、薄紅色したそれを凝視する。
微かに見える植物の証が、花びらの表面に見えた。

こんな、無限にありそうな花びらの一つ一つに
この証があるのだと思うと、自然はつくづく不思議だ。


「おい、追加の酒持って来たぞー」

後ろから男の声が聞こえた。
昼間からバトーと共に、桜を肴にしこたま飲んでいるのだった。

二つのリクライニングチェアの周りには、二人だけで飲んだとは
思えない量の空き缶や空瓶が散乱している。

最高の天気と最高の景色。
これで何もしないのはむしろ変だとばかりに、
乾杯のシャンペンから始まり、ワイン、ビール、ハードリカーに
日本酒、焼酎まで、まるで酒屋の大盤振る舞いである。
サイボーグだから出来る芸当といえばそれまでだけど、
きっと生身だったとしても同じような事をしていたに違いない。


「もうあらかた飲みつくしちまって、これが最後だぞ」
リクライニングチェアにドサリと座りながら、
右手に持つ白い陶器の瓶を私に見せた。
「あら、こんなお酒、ウチあったかしら?」
「俺が買ってきたんだよ。ちょっとおもしれーぞ、これ」
「なあーにー?」
「隣の大学で売ってたんだ。大学のオリジナルブランドだと。
・・なになに、戦前の黒麹菌が大学の標本コレクションからから
真空状態で見つかり、それを現代に蘇らせた『幻の泡盛』、だと」
「ふーん・・・何が違うの?」
「通常市場に出回っている泡盛に使ってる麹菌は、
全て戦後にバイオ技術で新しく作られた麹菌なんだと。
昔ながらの麹菌で生き残っているのはこの菌だけで、
繊細な分、発酵作業にエラく手間が掛かるんだとさ・・・」

などと言いつつ、こういったウンチクが大好きなこの男は、
酒箱に同封されてあったパンフレットを熱心に読んでいる。
そんなバトーを尻目に、私はその白い陶器瓶に手を伸ばして
栓を開けた。瓶の中からは、まるで花のような薫りが漂った。
「期待できそうな泡盛ね」
「もう開けたのか?」
すこし呆れたような咎め口調で、
私に向けたバトーの顔が可笑しかった。
酔っ払っていて、とてもいい気分で、
何でも可笑しく感じてしまう。
お酒って不思議だ。


グラスにたっぷり氷を入れて、透明な液体を注いだ。
陽光の熱で上品な薫りが立ち上り、
瞼を閉じてその薫りを堪能する。
まるで白梅か、それこそ目の前に咲き誇る桜の様な薫りがした。

視線で乾杯の合図を送り、無言でそれに口を付ける。
期待に違わずその味はまろやかで、
とても新酒と思えない『深み』があった。
「・・・おいし」
「・・・美味いな」
思わず私達の顔に笑顔が溢れる。

「こんな美味しいものが大学で売ってるだなんて、
隣の大学もまんざら悪くないわね」
「大学なんざガリ勉が通う、俺達とは縁遠い所だと思ってたがな」
「で、そんなあなたが何でこんなものを発見したのよ?」
すると、彼らしい答えが返ってきた。
「駅からここに来るのに、大学ン中突っ切った方が近道なんだよ。
たまたまキャンパスの中で売店があって、
約束の時間までちょっとあったし、
中に入ってみたらこれが売ってたって訳だ」
「なるほど、あなたらしいわね」
「・・・褒めてんのか?」
「勿論よ。しかもこんな美味しいものなら
何時でも大歓迎だわ」

普段なら絶対に見せない笑顔でバトーにそう答えた。
酔っ払いの特権だ。
すると彼は突然ボリボリと頭をかいて、
少々戸惑った様な表情を見せながら
「こんなんでよけりゃ、いつでも買ってきてやるよ」
と、ボソリと呟いた。
「照れてるの〜?」
「・・・もう酒いらねーのか?」
ひょいと白い瓶を私の横から奪いながら
ムッとした顔をするバトー。
「カワイイ〜〜」
彼を指さしながら、私はケタケタと笑い出した。
とても気分が良くて、可笑しくて。
こんな日は滅多にないから、
ついちょっかいを出したい気分になる。


絶対普段はこんな事しない。
桜の花と、美味い酒がこの上なく私を上機嫌に
してくれるのだ。自分じゃもう制御不能。


自分でも、ものすごい笑顔をしているんだろうなという
顔をしながら、空いたグラスをバトーに向けて掲げた。
彼は『しょーがねーなー』という顔をして
「あとちょっとだけだぞ」
と言いながら、既に空になっている私のグラスに
花の薫りがする透明な液体を注いでくれた。
「場違いな場所を通って、わざわざこんな美味しい
お酒を持ってきてくれたバトー君に感謝」
「なんだそりゃ?」
ちょっと困り顔をしているバトーの顔を
更に困らせたくなって、
自分の方に引き寄せて軽くキスをし、
再びグラスに口付けた。

「・・・・・・」
呆気に取られたバトーの顔を見て、
私はまた笑った。



春の陽気と桜は、
本当に楽しいものね。



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作中に出てくる泡盛は実在する「幻の泡盛」で、
『御酒(うさき)』という名前で売っています。

どの大学で売っているかは、検索掛けて探してみて
くださいね♪(結構意外な、でもなるほどね〜と
思える大学で売っております・・・)
ちょっと高めですが、納得の味ですよ♪



コメント一覧

1. Posted by 課長   April 15, 2007 07:47
ほー、東○大学かw
桜の季節もそろそろ終わりだが、微笑ましいSSを拝見でき感謝する。

劇場版でボートの上の酒盛りでは(押井監督の志向が強いから)静かな、陰にこもったような雰囲気だったし、GIGラストの桜シーンでも(酒盛りはないが)心ここにあらずな少佐の姿になにか吹っ切れない思いを抱いた。

今回の桜SSは、コミック初めの「やなこった へへーん」な少佐ほどヤンチャではないが、バトーとの酒盛りで楽しんでいる少佐がとても生き生きしており、読んでいて嬉しくなってきたよ。ワシもご相伴にあずかりたいなwww

>自分じゃもう制御不能。
少佐にもそんなときがあってもいいだろう。

Rei殿、素敵なSSをありがとう。

そして、もしよろしければリンクを張らせて頂いてもよろしいかな?
2. Posted by クロマ   April 15, 2007 20:48
堪能させてもらいました。
いやぁ〜、ホントいいSSですね〜。

ひょっとして、Reiさまの実体験に基づいてるんですか??
とてもリアリティあります。

アニメ本編ではなかなかこういた一面まで描かれることはないけど、
攻殻のキャラで書かれて楽しい内容であることは間違いないから、
そういったものが、ネットを介して読むことが出来るのは、嬉しいですね〜♪

それで、少佐がとっても可愛い。
バトーが世話してる感じだけど、バトーも嬉しいんだろうなぁ。

また素敵なSS読ませてくださいっ。
3. Posted by Rei   April 18, 2007 13:08
課長様>
またお立ち寄りくださり光栄です。
酔っ払いの戯言程度の軽いノリで書いてみたのですが、
お気に召された様で嬉しいです。

リンクの件ですが、喜んでお受けいたします。
私も是非とも課長様のページをリンクさせて
頂きたいのですが、このブログにどの様に
リンクを作れるのか分からず、私のページでは
課長様のページをご紹介出来ないことを
ご了承下さい。大変申し訳ありません。
(でもいつか必ず・・・)

クロマ様>
新学期はいかがお過ごしでしょうか?
無駄に現実味溢れる内容で失礼しました(笑)
・・・夫婦そろってお酒は好きですが、
酒瓶を床に転がすまでは飲みませんので
ご安心を(?!)

以前お話したリンクの件ですが、課長様にも
お伝えした様に、未だリンクの作り方が分からず
クロマ様のページをご紹介する事が出来ません。
本当に申し訳ありません。テクノロジーに
からきし弱いので・・・
4. Posted by 課長   April 19, 2007 00:48
5 リンクの件、ありがとう。早速つなげさせて頂こう。

>課長様のページをご紹介出来ない。。。
いやいや、お気遣いなく。ここのような素敵ブログからオタブログにリンクすると、遅効性ウイルスが感染するかもしれないのでwww

相互リンクでなくても心は繋がっているので(オイオイ(ーー;))今後ともよろしくお願いするw
5. Posted by クロマ   April 19, 2007 07:01
リンクの件、前に一度説明いただいてたのですが、
そういうことだったのですか。
自分の理解力が足りないばっかりにうやむやに…
申し訳ないです。

ではでは、こちらからリンクしてもよろしいんですね?
さっそく繋げさせてもらいます〜(共有化w)
6. Posted by Rei   April 24, 2007 12:01
課長様、クロマ様>
リンクを張ってくださってどうもありがとうございます。
(こんなマイナーなページに・・・感謝いたします)
Livedoorブログだと、無料ブログではリンクを張ったり
するのが難しいみたいで、もうちょっと説明ページを
読み込まないと駄目みたいです(涙)

いつかリンクの張り方が判明した暁には
是非是非相互リンクさせてくださいませ。
7. Posted by 課長   April 28, 2007 02:04
うむ、許可するww

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