はじめに
1月30日(土)に蕨市中央公民館で「戦国を学ぶ「信州の知恵者真田二代と大坂の陣」~NHK大河ドラマの主役に迫る~」と題して講演をしました。約50名の方が参加され、熱心にご聴講いただきました。中学生の方も参加していましたので、拙著を謹呈しました。
さて、ある筋からの情報によると、「今までの『平清盛』『軍師官兵衛』は辛口だったけど、今回は甘口じゃない?」とのお話しが。今回見る限りでは、「ちょっと辛口にならざるを得ないな」という感想を持っております。その点に触れておきましょう。
さあ、第4回「挑戦」はどうだったのでしょうか!
武藤喜兵衛のこと
冒頭から何か変です。織田の本陣で室賀正武が真田昌幸(役・草刈正雄)と鉢合わせになりますが、何やら自分が信長にチクったようなセリフを言います。普通は隠しておきたいことですがね。そんなに軽口を叩いてもいいのですか、と感じてしまいます。
今回は、昌幸が過去に「武藤喜兵衛」と名乗っていたことが明かされます。天文22年(1553)8月、昌幸は武田氏に出仕しました。7歳のときです。その後、昌幸は武田信玄の命によって、甲斐の名族・武藤家の養子になり、「武藤喜兵衛尉」と名乗りました。これが、昌幸が武田氏に重用されるきっかけで、奉行人として名を連ねることになります。
元亀3年(1572)10月、信玄は西上作戦を展開し、その中に昌幸も加わっています。昌幸は三方ヶ原の戦いで徳川家康(役・内野聖陽)と対戦し、見事に勝利を収めています。このとき家康は、あまりの恐怖に脱糞したと伝わっています。のちの戒めとして、自身の姿を絵に書かせています。これが俗に「しかみ像」(徳川美術館所蔵)と称されるものです。
天正3年(1575)5月、長篠合戦において、真田家は長男・信綱、次男・昌輝を戦いで失います。二人の戦死により、三男・昌幸が真田家の家督を継承しました。繰り上げですね。名乗りを「真田昌幸」と変えたのは、その後のことです。
ところで、ドラマでは三方ヶ原の戦いのことが盛んに取り上げられ、昌幸の軍功が話題になります。それは構わないのですが、家康から昌幸に、以前、昌幸が「武藤喜兵衛」と名乗っていたかを問い質すと、「さあ、知りません?」としらを切ります。そんな子供みたいな嘘が通用するのですかねえ???
このとき信繁(役・堺雅人)が昌幸に同行し、家康とたまたま会話をしますが、仮に家康とすぐにはわからないにしても、身なりや服装を見れば、それなりの地位にあるとわかるはずです。掛け合い漫才みたいになっているのが、非常に気になります(毎度のことですが)。それから本多忠勝(役・藤岡弘、)は、妙な気合が入り過ぎです。
許された昌幸
途中で穴山梅雪(役・榎木孝明)が登場し、裏切りの件があったので、自らの身上を心配します。そうした最中、昌幸は織田信忠との面会に臨みます。
信忠は2通の書状を示します。1通は織田信長(役・吉田鋼太郎)宛に味方になることを誓ったもの、もう1通は上杉景勝(役・遠藤憲一)宛に同趣旨のことを誓っています。ここで信忠は、織田と上杉に二股をかけていることから、昌幸が不忠であると激怒します。昌幸は「書状をよく読んでほしい。上杉には態度を決めかねていると申しました」と述べます。それを受けて家康が手紙を確認すると、たしかにその通りだという。
人の手紙くらいちゃんと読んでください。そんなに難しいことが書いてありますか? と思いました。いくら昌幸の身分が低いとはいえ、そりゃないでしょう。結果、昌幸は許されますが、小さなガッツポーズは不要です。ガッツポーズはガッツ石松が考えた(というか、とっさに出たポーズ)もので、当時はありませんでした。
ちなみに『信長公記』には、投降した諸将の様子が描かれていますが、昌幸の姿を確認することができません。許された昌幸は、信長に馬を贈ります。『信長公記』を読むと、各地の武将が馬を献上した記事が散見されます。昌幸が信長に馬を贈ったのは事実です(『長国寺殿御事績稿』)。
ところで、信長は黒いマントを羽織って、革靴を履いていましたね。しかも土足です。あれは本当なのか、非常に気になります。信長が出て来ると、必ず西洋風のいでたちで、ワインを片手に地球儀を回していますね。演じている吉田鋼太郎は、テレビ東京のドラマ『東京センチメンタル』のほうがいいですよ。
ドラマの最後のほうで、明智光秀が織田信長にボコボコにしばかれていました。この辺りは、多くの編纂物に2人の悪かった関係が書かれています。今回は、家康の饗応役を担当したものの、肴が腐っているということで、どつかれたわけではないようです。フロイス『日本史』によると、光秀は信長に対して口答えをし、それが原因でボコられたと書いています。あの描き方では唐突なので、原因がよくわかりませんでした。
『信長公記』によると、武田氏遺領の知行割が行われ、滝川一益が上野国、信濃国の小県・佐久の2郡を支配することになります。昌幸は一益の配下になったのですが、旧領のどの部分が安堵されたのかはわかっていません。
気になるもろもろのこと
言ったほうがいいのか、言わないほうがよいのか悩みますが、人から注意されなくなると、その人の人生は終わりだといいます。「勝手にやってください」と人から思われるとおしまいで、見込みがあるから注意するということです。ということで、いささか愛のムチを。
私は不要と思うのですが、小山田信誠とまつ(役・木村佳乃)のラブラブ・シーンが相変わらず出てきます。二人は密会しますが、これがコント仕立て。「危険を承知で」という緊張感がゼロです。幼稚なことこの上ない。結局、最後はきり(役・長澤まさみ)の機転により窮地を逃れますが、きりの「かかとがかさかさで潤いが欲しいわ」という現代的なセリフには驚倒しました。そんなセリフは不要です。
奇しくも信幸(役・大泉洋)が「猿芝居はよせ」と言っていますが、まさしくそのとおりです。
安土の城下町が描かれており、庶民が立ち飲み屋みたいなところで、ワインを飲んでおりました。ちょっとやり過ぎかなと思いました。
また、まつを信長への人質として差し出そうと検討する場面は、はっきり言ってコントです。まったく締まりがありません・・・。ただ、まつが人質として安土城に送られたのは事実です。
おわりに
やや辛口になってしまいましたが、ギャグ漫画的な要素が徐々に濃くなってきており、いささか見応えがないというのが正直な感想です。今回は生きるか死ぬかという場面ですから、もっと緊迫感、緊張感が欲しいものです。
ところで、今回の視聴率は17.8%と前回からさらに下がりました。そろそろ見応えのある歴史ドラマにするのか、単なる歴史コントにするのか、決めなくてはいけません。歴史コントにするなら、今のような中途半端なものではないほうがよいでしょう。「ギャラクシー銀河」を超えるものを作ってほしいものです。次回は、再度の20%台を期待しましょう! 夢よもう一度!
今日はこのへんにしておきましょう。では、来週をお楽しみに! 「ガンバレ! 真田丸」
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