【1】はじめに

 

 有岡城を長く引っ張るなあ、というのが正直な印象である。これくらい時間と力を入れて、じっくりと取り組むのもよいのではないだろうか。あまりに展開が早くなると、ときどき訳がわからなくなる。ただ、だし(役・桐谷美玲)が危険を冒してまで、官兵衛(役・岡田准一)の身を案じるというのは、少々行き過ぎた演出というところか?

 

 私にとって、もう一つ関心があるのは、捕えられた官兵衛の頭が禿げるかどうかというところだ。一説によると、牢に閉じ込められた官兵衛は、膝が曲がって元に戻らず、頭が禿てしまったという。光の当たらない窮屈な土牢。そして、栄養不良が招いた結果であろう。

 

 今の時点において、官兵衛の頭が禿げていることはない。むしろ、剛毛のような髪の毛がたくさん生えていて、おやっ? と思う。おそらくではあるが、岡田准一さんは別に大河ドラマだけに出演しているのではなく、ほかのドラマやCMにも出演している。そうなると、禿げ頭にするのは少々具合が悪い。だから、髪の毛が抜けないのであろう。

 

 しかし、私はそれでも敢えて、官兵衛が禿げ頭になることを大いに期待したい。そうでないとがっかりするし、いささか感情移入ができないところだ。故・三国連太郎は、役作りのために、虫歯でもない健康な歯を抜いたという。それを考えると、禿げ頭くらいなんてことないじゃないか。岡田准一さんの役者魂を見てみたいものだ。

 

 閑話休題。

 

 今回もまた、突っ込みどころ満載でおもしろかった!

 

 

 

【2】竹中半兵衛死す

 

 これまであまり目立たなかったが、竹中半兵衛(役・谷原章介)がドラマを引き立てていたことはいうまでもないであろう。冷静沈着な姿は、なにげにカッコイイ。ところで、この半兵衛も「軍師」と称されているが、これまで多くの人が言っているように、戦国時代に「軍師」なる言葉は存在しないので、もちろん「軍師」ではない。

 

 やはり、彼も官兵衛と同じく、羽柴秀吉(役・竹中直人)の有能なパシリの一人だろうと思う。『信長公記』には、「羽柴筑前与力」と記されている。官兵衛よりも、格は高かったかもしれない。ちなみに半兵衛に関する史料は、非常に少ない。なので、ときどき竹中半兵衛の小説を見かけるが、何を素材にしているのかと疑問に思う。たぶん、想像が素材なのだろう。

 

 半兵衛が亡くなったことは、『信長公記』に「播州御陣にて病死」と記されている。天正6年(1578)6月22日条に記されている。代わりに、織田信長の馬廻衆を務めていた、弟の久作が播州に派遣された。わざわざ『信長公記』に記されているところを見ると、ひとかどの人物であったのはたしかなようだ。

 

 『竹中家譜』には、もう少し詳しい情報が記されている。半兵衛が亡くなったのは、三木城に程近い平井山の陣で、まだ36歳であったという。官兵衛よりも2歳年上であった。お墓は平井山にあり、今も訪れる人は絶えることがない。

 

 ちなみに平井山はぶどう園になっていて、小学校のときの遠足のコースであった。また、三木市の人は竹中半兵衛が「偉大な軍師」であると小さい頃から教えられ、強い親近感と尊敬の念を抱いている。秀吉は嫌われているかといえばそうでもなく、別所氏の滅亡後に三木を復興してくれた恩人と考えているようだ。むろん、家臣や領民のために命をなげうった別所長治とその一族も尊敬されている。

 

 

 

【3】匿われた松寿丸

 

 今回のハイライトの一つは、織田信長(役・江口洋介)が官兵衛が裏切ったと勘違いし、子息の松寿丸(のちの長政)を斬れ、と命じたことである。しかし、竹中半兵衛が機転を利かし、自らの所領のある今の岐阜県垂井町に匿う。これにより、松寿丸の命は助かった。

 

 「黒田家文書」によると、松寿丸が長浜にいたことはたしかである。ところが、その後、垂井町に行ったということは、『黒田家譜』にしか記されていない。

 

 実は、『黒田家譜』は全体的に竹中半兵衛のことを良く描いている。悪く描いているところはない。おそらく、半兵衛は何らかの方法によって、松寿丸を匿ったのであろう。それゆえ黒田家では恩義を感じて、半兵衛を良く描いているように思う。

 

 それにしても、光(てる)を演じる中谷美紀の潤んだ瞳を見ていると、こっちもウルウルとしてしまう。少し古いギャグであるが、「惚れてまうやろ」ってやつだ。

 

 

 

【4】最後に

 

 ここに来て、正直に言えば、ドラマの内容はものすごく良くなっているように感じた。2年前の大河ドラマ「平清盛」では、逸話やエピソードをかなり不自然な形で取り入れたため、残念ながらしらけてしまった。でも、今回の大河は逸話やエピソードを咀嚼して取り込み、自然な流れになっている。それは、回を追うごとに実感する。

 

 あとは、岡田准一さんが禿げ頭になって、役者根性を見せてくれるかどうかだ。

 

 今回の視聴率は、なぜか不明であった。いずれにしても、まだまだ上昇する可能性は十分にある。

 

 がんばれ「軍師官兵衛」!

 

 

 

〔参考文献〕

渡邊大門『黒田官兵衛 作られた軍師像』講談社現代新書

渡邊大門『黒田官兵衛・長政の野望――もう一つの関ヶ原』角川選書

渡邊大門『誰も書かなかった 黒田官兵衛の謎』中経の文庫

 

〔ご案内〕

 さて、私事になりますが、現在、黒田官兵衛に関する下記の講座を開講しています。ご都合があえば、ぜひご参加いただけると幸いです。

 

☆日本史史料研究会(練馬区)「『黒田家譜』から官兵衛の生涯を探る」

→こちら

http://www13.plala.or.jp/t-ikoma/page040.html

 

 

 

 




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