はじめに
 

 2月7日(土)に私が裏方を担当する十六世紀史研究学会が開催され、中脇聖さんに「天正期一条内政の政治的立場 ―『石谷家文書』に見る渡川合戦を通して―」と題して、ご報告をいただきました。大盛況で私も安堵いたしました。厚くお礼を申し上げます。

 

 そのとき多くの歴史に詳しい方が集まったのですが、やはり話題は「真田丸」へ。詳しいだけに「甘口」の方はおらず、レトルト・カレーの「LEE 辛さ×20倍」くらいの大辛でした。それは裏返せば、大河ドラマへの「大きな期待」があるからでしょう。

 

 さあ、第5回「窮地」はどうだったのでしょうか!

 

神君伊賀越え
 

 今回の見どころは本能寺の変でしたが、そこはあっさりと流し、「神君伊賀越え」をメインに据えて、真田昌幸(役・草刈正雄)の決断を描こうとしていました。天正10年(1582)6月2日、本能寺の変が起こったとき、徳川家康(役・内野聖陽)は堺を見物していましたが、滞在先の四条畷でどうやって逃げるのか判断を迫られました。

 

 結局、家康は山城国、近江国を経て、伊賀国から伊勢国を抜けて、何とか三河国にたどり着くわけです。実は、家康は京都に行って、自害しようとしたと言われており、本多忠勝(役・藤岡弘、)らの説得によって「神君伊賀越え」を決意したといわれています。「神君」とは家康のことです。

 

 「神君伊賀越え」に関しては、たしかな史料により、すべてを裏付けることができません。一説によると、服部半蔵(正成)が安全に通行できるよう、あらかじめ手配していたといわれています。ドラマでは登場しませんでしたが、商人の茶屋四郎次郎が難を避けるべく、お金を配っていたとの説もあります。

 

 ということで、命がけの逃避行だったわけですが、これがはっきり言って「てなもんや三度笠」のような歴史コントでした。ただひたすら「突撃! 突撃!」と繰り返すのみで、「緊張感ゼロ」。逃げ方もドタバタ・コントそのものです(たしかに転んだりしたのでしょうが・・・)。どうせ助かるのはわかっているのですが、手に汗握る工夫がほしいところです。

 

 家康の描き方が悪い。かなり間の抜けた人物になっており、忠勝との会話は「掛け合い漫才」そのもの。互いの口についた握り飯のご飯粒を、取り合って口に放り込むなど、たぶんしないでしょう。

 

 なお、穴山梅雪(役・榎木孝明)の死については、二つの説があります。切腹とするのが『家忠日記』と『信長公記』、家康から遅れて移動していたとき「落武者狩り」に遭い殺されたとするのがフロイス『日本史』。家康と別ルートを採用したという説は、『東照宮御実紀』に書かれていますが、真相は闇のなかでしょう。ただ、梅雪の無残な最期はドラマで描かれることがなく、残念でした。殺害シーンはほとんどないのですが、各方面への配慮でもあるのでしょうか(家族ドラマに反する?)?

 

どうする昌幸!
 

 こう書くと「朝まで生テレビ」みたいですね。織田信長(役・吉田鋼太郎)の死を受けて、再び昌幸は悩みます。そこへ明智光秀から昌幸に書状が届きます。書状の内容は、「義により信長を討ち果たしたので、味方になってほしい」というものでした。ちらりと見えた光秀の書状は、きちんと花押を写し取っていました。さすがに芸が細かったです!

 

 八木書店から刊行された『明智光秀【史料で読む戦国史③】』で確認すると、昌幸に宛てた書状は掲載されていませんでした。しかし、同年6月2日付で光秀が西尾光教(美濃国安八郡野口城主)に書状を送り、「信長・信忠の悪逆は天下の妨げになるので討ち果たした」と書かれています。おそらく、この内容を「義」と解釈して創作したのかもしれません。

 

 光秀の昌幸宛の密書が、あったのかなかったのかはわかりません。仮に存在しても、のちのことを考え、処分した可能性は大いにあります。実際、変後に残っている光秀の書状の多くは、山城国、近江国の寺社に宛てられた「禁制」です。寺社の人々は兵火を逃れるため、乱暴狼藉を禁止した禁制を入手すべく、制札銭を払って光秀から与えられたのです。

 

 ところで、昌幸の妻・薫(役・高畑淳子)があらわれて、信長なんか死んでよかった、神仏も恐れないようことをするので天罰が下った、という趣旨の発言をしておりました。そもそも嫁ハンがこんなことを言うのか疑問ですが、それはさておき信長は神仏を恐れていなかったのでしょうか。

 

 信長が城郭を築城する際、石仏を敷石に使ったことは有名です。ゆえに、信長は神仏を恐れなかったといわれていますが、必ずしもそうではありません。石仏を敷石に用いるのは仏の加護を願っていることで、ほかにも類例や傍証があります。信長が神仏を恐れていなかったとは言えないかもしれません。

 

 昌幸が悩むのは理解できるのですが、役柄上か間延びした声で「半狂乱」のようになるのはいただけません。結局、上杉景勝(役・遠藤憲一)に与しようと決断します。天正9年(1581)以降、景勝は信長と敵対関係にあり、一時期は柴田勝家に越中国まで侵攻されるありさまでした。翌年には越中国を完全に制圧され、窮地に陥っています。そこへ本能寺の変が起こったわけです。

 

 それにしても景勝は謙信と同じく、「義を重んじる性格であった」となっていましたが、本当なのですかねえ。敵が弱っているときだから攻め込まない、なんて理屈は通用するのでしょうか? そんなお人よしはいたのかしら? その後、景勝は北信濃へ侵攻しますが、どういう理屈で攻め込むのか期待いたしましょう。

 

 安土城に目を転じると、信繁(役・堺雅人)が姉のまつ(役・木村佳乃)を救出すべく奔走します。このあたりが、史実であるか否かは不明です。信繁は安土と京都を何度も往復して、情報を入手しようとします。そこで信長の死を知り、光秀の軍勢が安土城に入ると予想し、姉の救出に動きます。

 

 さあ、ここから問題です。姉だけ救出しようと思ったら、まつは「ほかの人質も助けて」と呑気なことを言います。信繁は「良い人」なので、何とかしようと考え抜け穴を見つけます! 「真田の抜け穴」はどうせ出て来るのでしょうが、「もう出たか」と困惑。人質たちは逃亡に成功します。

 

 めでたし! めでたし!

 

おわりに
 

 「ホームドラマ」と「ドタバタ歴史コント」はこれまで述べたとおりで、もはや変更の余地はないようです。また、少し書き洩らしましたが、滝川一益が「信長が平和な世を目指している」ような発言をしておりましたが、これは本当かと? そういえば、2年前も「軍師官兵衛」で同じような発言がありました。

 

 これは「平和史観」とでも言うのでしょうが、正直言うと困惑します。

 

 それから滝川一益には、「湯治場くらい自分で探せ。わざわざ人を呼び出すな」と言いたいものです。

 

 ところで、今回の視聴率は19.0%と少し浮上しました。次回は、再度の20%台を期待しましょう! 夢よ、もう一度!

 

 今日はこのへんにしておきましょう。では、来週をお楽しみに! 「ガンバレ! 真田丸」

<了>

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