はじめに
 

 5月は大変忙しく、千葉県市川市内の公民館で二つの講座を持っています。うち一つは、大河ドラマ「真田丸」にかかわるもの。例のごとく、「『真田丸』をご覧になっていますか?」と皆さんに尋ねたところ、ほぼ全員の方が見ているとのこと。誠に慶賀の至りと思っております。

 

 過日、久しぶりに黒澤明監督、仲代達也主演の映画「影武者」(昭和55年・1980年)を見ました。武田信玄の影武者を主人公とした映画です。信玄に影武者がいたかどうかはわかりません。存在しても具体的な活動などはわからないことでしょう。したがって、映画の内容は、まったくの想像の産物と言っても過言ではないはずです。

 

 この映画の魅力は、仲代達也が演じる一野盗が信玄に似ているという理由で影武者に取り立てられ、やがて信玄そのものとなっていく姿にあります。しかし、最後は正体がばれて武田家から追放され、天正3年(1573)の長篠合戦で武田騎馬軍団が敗退を喫するというラストで締めくくっています(仲代達也が演じる野盗も死ぬ)。個々の役者が迫真の演技をしており、非常におもしろい映画です。

 

 たとえそれが架空の話であったとしても、「こんなことがあったのかなあ?」と思い込んでしまい、われわれを映像に引き込ませる何かがあります。役者の演技やストーリーがたしかだからでしょう。画面はやや古びていますが、今のようにCGなどは一切なし。迫力があります。まあ、そこは今と比較しても気の毒ですが。

 

 今回の「真田丸」は大変申し訳ないのですが、「ほとんど論評に値しない」と申し上げてよいのかもしれません。大河ドラマは先の長い話なので、いろいろと途中で「仕掛け」が必要なのでしょうが、それも度が過ぎると、まったくリアリティーに欠けて、共感するものが乏しくなります。今回は誠に残念ながら、「トンデモ」としか言わざるを得ず、厳しい論調に戻らざるを得ないところです。

 

 以下、その点を踏まえてお読みいただけると幸いです。

 

茶々のこと
 

 茶々(淀殿、役・竹内結子)は生年不詳。浅井長政とお市の方(織田信長の妹)の長女として誕生しました。天正元年(1573)、長政は信長に攻撃され自刃。お市の方は、信長の重臣・柴田勝家のもとに嫁ぎます。しかし、天正11年、勝家は羽柴(豊臣)秀吉(役・小日向文世)によって越前・北庄で滅ぼされます。遺児となった茶々は、秀吉のもとで養育されるわけです。茶々が秀吉の側室になったのは、天正16年(1588)頃と言われています。

 

 ドラマの中の茶々はかなり奔放な女性で、好き放題にやっています。「男好き」なのか、わざわざ権三なる架空の人物を登場させ、色目を使っておりました(その後、権三は加藤清正[役・新井浩文]によって井戸に投げ込まれ殺された)。そもそも、なぜ秀吉が権三なる男を茶々の側に置いたのか不審です。そして、秀吉は二人の関係に注意を払い、一人で嫉妬に狂っているのですから、何か変態チックな性癖の持主のように描かれています。

 

 次に、秀吉はあえて(?)信繁(役・堺雅人)を茶々の側に置きます。茶々はなぜか信繁を気に入ったようで、これまでも秀吉に気兼ねなく、ちょっかいを出してきました。そんなことが、実際にあったかどうかわかりません。たぶん、なかったのでしょうが、あえてここまで創作する必要があったのか、疑問に思えてなりません。そして、今回は蔵への連れ込み事件(実際は信繁が連れ込まれた?)です。

 

 信繁が茶々を蔵へ連れ込んだ話は、たちまち噂になります。なぜか、加藤清正が信繁に強い敵対心を抱きます。清正の人物設定も妙な感じで、チンピラの舎弟のようになっています。焦った信繁は秀次にとりなしを頼みますが断られ、ついに石田三成(役・山本耕史)に泣きつきます。

 

 私には、なぜこのような「痴話」が必要なのかわかりませんでしたが、最後になってわかりました(見ている人はわかったと思う)。要は大坂の陣で信繁が豊臣家に味方し、運命をともにするわけですが、この時点から茶々と信繁の関係があったよ、とあやを付けたかったのでしょう。かなり強引でありましたな。

 

 最後は、秀吉が信繁と茶々の仲を疑い、厳しく信繁を叱責します。しかし、それは秀吉もあらかじめ茶々が信繁を誘惑していることを知っていたでしょうから、誠に妙な話です。そして、急に秀吉は茶々にプロポーズをします。それが受け入れられ、大喜びです。信繁はポカーンとするしかないのでしょうが、それはドラマを見ている私たちも同じです。

 

忠勝の息女・稲のこと
 

 今回は女性の活躍が多いですな。稲(役・吉田羊)は本多忠勝(役・藤岡弘、)の娘で、天正元年の誕生。稲が真田信之(役・大泉洋)と結婚したのは、天正15年(1587)以降と言われていますが、諸説があり定まっていません。政略結婚であったのは、もちろんいうまでもありません。このとき稲は16歳。吉田羊さんとの実年齢とはかなり離れていますが、それはしょうがありません。

 

 こちらの結婚の顛末も、毎度のことながらのドタバタ喜劇です(申し訳ないが、書く気もしない)。真田としては、この政略結婚に命運がかかっているわけです。そうした緊張感は一切なく、単なる好き嫌いや自分の都合が優先しているのが、誠に残念でなりません。

 

 このなかで唯一まともなのが昌幸の弟・信尹です。信尹のいうとおり、政治的な観点から言えば、まったく断る理由は見当たりません。受けざるを得ないのです。そこにコントが入ってくるので、しらけてしまうわけですね。非常に残念であると言わざるを得ません。

 

 また、付け加えると、本多忠勝を妙なキャラにしているので、人物像が異様としか言いようがありません。こうした異様な人物が多数出て来るのも魅力を半減させます。

 

おわりに

 

 最近は、現代人が過去にタイムスリップして(その逆もある)、戦国武将と関わるような時代劇(?)も増えてきました。SFチックな内容にして、若い人に関心を持ってもらおうとしているように思います。それはそれで結構ではないかと思っております。

 

 ただ、NHK大河ドラマは日本のテレビ史上において、「時代劇の王様」というべき存在です。相撲で言えば、「横綱」です。「横綱」が品位を問われるごとく、NHK大河ドラマにも「時代劇の王様」としてプライドを持っていただき、余計な小細工はほどほどにしてほしいように思います。王道をしっかり歩んでほしいと思うのは、私だけでしょうか? 淀殿が草葉の陰で泣いているように思います。

 

 結論を言えば、大河ドラマ「真田丸」はフィクションなのでしょうが、めちゃくちゃでも何でもよいということではないと思います。あくまでリアリティーを追求してほしいと願うとともに(史実かどうか別にして)、ドタバタコメディーとトンデモからは決別してほしいと思います。

 

 これまでも申しておりますとおり、「おもしろい」と思っている方に、私の意見を押し付ける意図はありません。私の意見に共感いただける方は、拍手ボタンを押してください。

 

 ところで、今回の視聴率は17.0%と2.1%下降しました。裏番組でバレーボールのオリンピック予選を放映していたからでしょうか? がんばれ「ニッポン」、そして「真田丸」。

<了>    

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