はじめに

 先日、健康診断に行ってまいりました。相変わらず血圧は高く、やや身長が縮んだようです。年を経るごとに悪化の一途をたどっており、もはやこれまでという感じがします。病院の外の待合室では、一部の人が検診前に缶コーヒーを飲みながら煙草を吸っていましたが、大丈夫だったのでしょうか?

 

 さて、今回のタイトルは「虎と龍」でした。「○○と××」というタイトルの映画などは多々ありますが、おそらく2005年にTBS系列で放映されたテレビドラマ「タイガー&ドラゴン」に範をとったと考えられます。その和訳です。もちろん「虎」は直虎(役・柴咲コウ)で、「龍」は龍雲丸(役・柳楽優也)ということになりましょう。

 

 今回のドラマは、どうだったのでしょうか???

 

材木の重要性

 さて、今回の話の中心は、直虎が龍雲丸が率いる盗賊集団を領内に引き入れ、材木の伐採に従事させるということになりましょう。

 

 現在、外国産の安い木材が輸入され、日本の林業は厳しい状況にさらされています。しかし、それは最近(戦後)のことであって、もちろん前近代においては、材木は国内で賄われていました。日本は山林が多く、それゆえ材木が豊富にありました。

 

 前近代において、山林の入会権(山林資源を採取する権利)というのは非常に重要でした。材木はもとより、山菜や牧草などは、生活・生産に欠かすことができないものでした。特に、材木は燃料にもなりますので、調理をしたり、暖をとったりする際に不可欠でした。炭焼きも重要な仕事です。今のようにガスや電気が通っていないのですから当然ですね。

 

 それゆえ山はしっかりと管理され、伐採量も規制しつつ、同時に植林などを行っていました。つまり、むやみやたらに伐採すると資源が枯渇するので、厳重な管理が必要だったのです。ときに無断で村人などが材木を伐採すると、大きな問題となりました。

 

 材木(竹も含め)は寺社などの建築物を建てるときの材料となったのですが、戦争になるとさまざまな用途で使用されました。まさしく戦争がはじまると重大事で、材木は敵軍を防ぐための柵の材料になったり、弓矢や槍などの武器の材料にもなったのです。

 

 寺社では、付近で軍事行動が起こることを予想すると、大名に制札銭という手数料を支払い、禁制を入手しました。「禁制」とは。当該大名の軍勢が寺社などで濫暴狼藉を働くことを禁止したものです。多くの場合は、無断で材木や竹を伐採することを禁止する条文を含んでいます。

 

 ちなみに、天正3年(1575)の長篠合戦の際には、織田軍が武田軍の騎馬隊を防ぐために、馬防柵を作りました。屏風などで一見すると、貧弱なものに見えますが、実際のものは頑丈な丸太で作られたとの説もあります。そもそも馬は繊細な動物なので、馬防柵に体当たりしたとは考えにくいともいわれています。このように材木は、軍事物資として貴重だったのです。

 

 私が研究している播磨国で申しますと、戦国時代の播磨北部では鋸の生産が盛んに行われおり、それを使った材木の伐採が盛んでした。切り出された丸太は千種川を利用して、下流域に運搬されました。現在のようにトラックがないので、河川を利用した運搬は盛んだったのです。

 

 井伊谷も非常に山深いところであり、材木の伐採が盛んに行われたと考えられます。おそらく近くにある井伊谷川を利用して、下流域に材木を流したのでしょうか? ドラマの最後の紀行編では、天竜川の例を取り上げていましたね。

 

賭博はご法度

 直虎の呼び掛けに応じて集まった盗賊たちは、村人を交えて博奕をしておりました。村人はすっかり夢中になってしまい、盗賊団からカネなどを巻き上げられてしまったようです。いつの時代も博奕というのは、あまりよろしくないですね。直虎の抗議に対して、いったん盗賊団は了解しましたが、実は博奕というのは禁止されていたのが実情です。

 

 念のため「今川仮名目録」に博奕を禁止した条文があるか確認しましたが、見つけることはできませんでした。ただし、多くの武家家法には、博奕を禁止する規定が設けられています。たとえば、「六角氏式目」や「長宗我部氏掟書」などが該当しましょう。まとまった武家家法を持たない大名の場合は、単行法令の発布により、禁止していることもあります。

 

 博奕以外にも、双六、カルタなどを含めた勝負事は、禁止される傾向にあったようです。禁止される理由は、勝負に負けてカネがなくなったり、あるいは逆上して殺傷事件を起こすなど、さまざまなトラブルが予測されたからでしょう。

 

村人と盗賊集団

 盗賊集団は多士済々で、それぞれの出身地はバラバラですが、特殊な技能を身に付けた人々だったようです。材木の切り出しに際しては、手慣れた様子で、次々と作業をこなしていきます。直虎が思ったとおりに、どんどん作業が進んでいきます。

 

 直虎も自ら木を切ろうとしてチャレンジしますが、まったく初めての作業でうまくいきません。すると、見かねた龍雲丸が背後から手を貸して、鋸の引き方を伝授するではないですか。直虎の心臓はバクバクし、「女性の部分」がよみがえったようで、淡い恋心のようなものが目覚めたように思います。またまたラブロマンスですが、これが今後どうなることやらというところですね。

 

 得体のしれない盗賊集団が井伊谷にやって来ることにより、村人は言い知れぬ警戒心を示すことになります。今のように人々の移動がさほど盛んではなかったので、そういう気持ちはよくわかります。今でも人口の少ない地方に行くと、新参者が警戒されることがあり、村になじむまでに時間を要することがあるようです。一方で、いったん村人の信頼を勝ち取ると、大変親切にしてくれるのです。

 

 先述したとおり、博奕もトラブルとなる要因の一つでした。村人には初めてのことで、いささか刺激が強すぎたようですね(蔭でやっているといわれていましたが)。それだけでなく、村人の一人が大切に保管していたお酒が盗まれ、犯人は盗賊団ではないかと疑われます。また、盗賊団の一人は、村の娘を襲おうとしたと疑われてしまいます。あとで、こうしたことはすべて誤解であると判明するのですが、村人や井伊家の家臣は強い反感を抱きます。

 

 一方の盗賊団も事情は同じで、自分たちは別に悪いことを何もしていないのに疑われるので、強い不満を持ちます。井伊家の家中では、今後の措置をどうするのか話し合います。目付役の政次(役・高橋一生)は、盗賊団の材木を切り倒す技術をマスターし、彼らとの契約期間が切れたら、もうお払い箱にしたらよいと冷静な判断を示します。

 

 これを聞いた直虎は、使い捨てのようなことはしたくないと言い出し、盗賊団を何とか仲間にしたいと申します。その後、直虎は偶然、龍雲丸が木を盗もうとした仲間を問い質し、「そんなことをしていけない」と殴り倒します。むろん盗賊団の連中は、直虎が信頼できるといった龍雲丸についてきたのですが、実際には疑われることばかりでうんざりしています。

 

 この光景を目にした直虎は、盗賊団を招いての食事会を企画します。これが意外と大成功。飲食をともにし、腹を割って話をした村人と盗賊団は、互いに誤解があったことを認め、かえって強い結束を結んだようです。最後は酔っぱらった直虎が、龍雲丸に言い寄っていましたが、続きは次回のお楽しみですね。

 

おわりに

 話としては、直虎をはじめとして「善人」が多く、人を信じることの大切さを謳った教育的な配慮が十分になされていると思います。日本国内の問題とはいえ、外部から人が入ってくるわけですから、今でいえば移民の流入につながる話であり、異質なものを排除してはいけないという教訓的な要素があります。子供向けの教育番組でしたら最高でしょう。

 

 ただ、この時代は一方でかなり「えげつない時代」でもあり、殺伐としたことが平気で行われていました。「明」の部分のみを強調し、暗部を善意により隠してしまうのはいかがなものかと思っています。これは、この作品だけではなく、ここ十数年の大河ドラマに言えることですが・・・。

 

 今回の視聴率は、12.1%と少し下降しました。裏番組の「イッテQ」が20%を超える視聴率を獲得しているようです。テレ東の「世界卓球・全仏テニス」も影響しているのでしょうか?

<了>

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