はじめに

 6月10日(土)は上総大多喜城立葵の会の主催により(於:大多喜町立中央公民館)、「おんな戦国城主・井伊直虎の実像」と題して講演をしてまいりました。大変熱心に聞いていただき、誠にありがたかったです。参加者からは「NHKにはしっかりと史実を踏まえたドラマを制作してほしい」というご意見もありましたが、視聴者を楽しませることを優先しているので、いろいろな難しい問題があるのでしょう。

 

 なお、上総大多喜城立葵の会では、大多喜町にゆかりの深い本多忠勝・忠朝を主人公とした大河ドラマの放映を実現すべく、熱心に誘致活動をされています。皆様もぜひ応援してください。私への講演依頼も大歓迎です。

 

 今回のタイトルは「盗賊は二度仏を盗む」でしたが、これは小説「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(ジェームズ・M・ケイン作、1934年)をもじったものでしょう。この作品は3度も映画化された名作で、小説のほうもかなり売れたようです。ちょっと文字数が合わなかったですね。

 

 さて、今回のドラマは、おもしろかったのでしょうか???

 

盗賊をめぐる問題

 前回(22話)では、直虎(役・柴咲コウ)の配慮によって酒宴が催され、井伊谷の村人と盗賊たちが腹を割って話をしたので、誤解が解け仲がよくなりました。話の終盤、酒を飲み過ぎて酔っぱらった直虎は、さかんに龍雲丸(役・柳楽優也)対して「家来になれ」と迫ります。しかし、翌日酔いがさめた直虎は、そんなことをすっかり忘れています。勝手なものです。

 

 当時のお酒は清酒ではなく、いわゆる濁り酒でした(ビールやウイスキーはないですよ)。私の亡くなった祖父は和菓子を製造していましたが、当時でいうところの密造酒を作って飲んでいました(家で飲む分は法律違反ではない)。亡父に聞くと、それが一番うまかったとのことです。今のお酒はいろいろな混ざりものがありますが(安い日本酒には、醸造用アルコールが混じっています)、当時はそうしたものがなかったので、そんなに悪酔いしなかったかもしれません。

 

 ところが、井伊谷三人衆のひとり、近藤康用(役・橋本じゅん)は、以前、盗賊らが領内の木を盗んだことを根に持っていました。すると、グッドタイミング(?)というべきか、近藤氏の菩提寺の本尊が盗まれ、その犯人探しをすることになります。康用が犯人を捜していると、盗賊が井伊家のもとで普通に働いている噂を耳にし、政次(役・高橋一生)に確認をします。

 

 結局、井伊家が盗賊を匿っていたことが露見し、政次はただちに盗賊を引き渡すと約束をします。康用は政次を伴って、すぐに直虎のもとへと向かいました。菩提寺の本尊が盗まれたという話を聞いた直虎は、自分が匿っている盗賊を弁護しますが、康用は容易に引き下がりません。積年の恨みと申しますか、武士の意地とでも言えましょう。

 

 政次のスタンスというのは、いつもわかりづらいものですが(敵か味方かよくわからない)、康用の「考えがある」との言葉を聞いて、盗賊を引き渡すよう話をつけようとします。直虎は諦めて盗賊を引き渡すことを約束しますが、直之(役・矢本悠馬)を先に盗賊のもとに向かわせ、逃がすように指示しました。案の定、康用らが到着しましたが、すでに盗賊の姿はありませんでした。

 

 その後、康用は全力を挙げて盗賊を探しますが、もちろん見つかるはずがありません。まあ、これで一件落着かといえば、そうでもありませんでした。

 

 以上の話が史実であるか否かは、まったく判然としません。おそらく創作であるように思います。普通に考えると、他領に逃亡した盗賊を領主自らが匿うとは考えられず、いささか現実味のない話のように思います。犯罪者を引き渡す引き渡さないという話も、妙なことだと思います。普通は、速やかに引き渡すように思うのですが・・・。

 

本尊はあった

 相変わらず本尊は見つからず、直虎が逃がした盗賊もどこに行ったのかわかりません。そこで、南溪(役・小林薫)はあることを提案します。それは、本尊が盗まれた康用の菩提寺に本尊を寄進するというものでした。盗賊も逃げてしまったので、本尊を寄進することで仲直りしようということでしょう。直虎にはいささか不満の色が見えますが、致し方なく同意したというところですね。

 

 南溪と直虎は康用のもとに向かい、本尊を寄進する旨を申し出ますが、康用は「本尊の代わりは簡単にはきかない」などと嫌味を散々にいいます。これには直虎もムカッとしますが、代わりに南溪が頭を下げて、何とか話をまとめようとします。不満の表情が顔に出ることは、社会人としては失格ですが、当時も同じだったのでは? かなり幼いような気がします。

 

 南溪は本尊をお祀りするので、ぜひ収めていた仏壇を見せてほしいと要望します。仏壇を開いてみると、なんと本尊があるではないですか! 康用も住持もしどろもどろになりますが、要は自分たちで本尊をしまい込んで仏壇を空にし、「本尊がなくなった!」という狂言もしくは自作自演が事件の真相といえましょう。さすがに南溪は大人ですので、「ご本尊が帰ってきたのですな」と一言。これで一件落着です。

 

 帰り道で、南溪は直虎にことの顛末をすべて話します。つまり、康用らが本尊を隠して、「なくなった」と騒ぎ立てていることはすでに知っていたようで、龍雲丸が先回りして、隠してあった本尊を仏壇に安置していたのです。当然、康用らはびっくりということになりましょう。

 

 こういうことを言ったらいけないのかもしれませんが、「いったい何がおもしろいのか」とか、「こうした場面がどうしても必要なのか」という疑問を感じざるを得ません。小学生の学芸会くらいなら、子供たちは大喜びかもしれませんが、大人の私たちはどう反応したらよいのかわかりません。こうしたコントまがいの演出はこれまでもたくさんありましたが、少しは「大河」の名にふさわしい緊迫感や重厚感ある演出をお願いしたいものです。

 

盗賊を家臣に

 南溪は、盗賊たちは井伊谷に戻ってこないだろうと言っていましたが、なんと帰ってきているではないですか。これには直虎も大喜びですが、やはり龍雲丸に恋心を抱いていたのでしょうか? 盗賊たちは、もとのとおり材木を切る仕事に従事していました。

 

 盗賊の処遇について、井伊家で話し合いが行われます。直之と瀬戸方久(役・ムロツヨシ)は、盗賊らを家臣にしてはどうかと提案します。最後は政次だけですが、直虎は政次のもとに向かい、意見を聞きます。政次は「お好きなようになさっては」と答えます。

 

 直虎は材木を切りだしている現場に行って、龍雲丸に家臣になる気持ちはないか質問します。ただ、龍雲丸は今一つ反応が鈍く、態度が明確ではありません。龍雲丸が手下たちに「家臣にならないか」と勧誘された話を披露すると、手下たちは龍雲丸についていくと賛意を示します。

むろん直虎は大喜びで、その様子を見た高瀬(役・高橋ひかる)と祐椿尼(役・財前直見)は、「まるで乙女のようだ」と感想を話していました。

 

 ところが、いざ龍雲丸に井伊家の家臣になるのかを確認すると、なぜか断りを申し入れるではありませか! これには直虎も盗賊の手下も驚きです。理由は判然としませんが、龍雲丸は侍の柄ではないと言うだけでした。結局、手下も龍雲丸について行って、ジ・エンドです。

 

おわりに

 ここしばらくは話に山がなく、観ていて眠くなってしまいます。「次はどうなるのか!?」という期待感もあまりありません。ほとんど惰性で見ているようなものです。今回は残念ながら、深く掘り下げるトピックスすらありませんでした・・・。

 

 TBS系列の「小さな巨人」を見ていますが、こちらは演出がやや過剰ながらも(香川照之の演技も歌舞伎みたいでかなりのオーバーアクション)、観ていておもしろい。さかんにどんでん返しがあるのには閉口しますが、それなりに作品作りの苦労の跡が見えます。

 

 現代劇ですら生きるか死ぬかの迫真のドラマになっているのですから、時代劇こそそうあってほしいと思います。「朝ドラ」の延長では視聴者も満足しないのでは、と。

 

 今回の視聴率は、12.3%と少しだけ上昇しました。裏番組の「世界卓球・全仏テニス」が終わったのですが、視聴者は帰ってこなかった模様ですね。

<了>

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