はじめに


 6月25日(日)は、千葉県市川市で十六世紀史研究学会を開催し、鴨志田智啓氏に「古河公方足利義氏のおかかえ商人小池晴実について」と題してご報告いただきました。今、「おんな城主 直虎」では商人が大活躍ですので、時宜を得たテーマでした。小池晴実は武士的な性格を持つ商人として、古河公方足利義氏のもとで活躍していました。史料も少なからずございます。いずれ報告は論文化されると思いますので、楽しみに待ちましょう。

 

 その後の懇親会で、「おんな城主 直虎」が話題になりました。私のように「スケールが小さい」という感想の方もおられましたが、中世の生活が垣間見えるのでおもしろいという方もいました。要望としては、百姓は大小の刀を差していたので、ぜひ採用してほしいというものがありました。たしかに、私たちの常識では「百姓は武器を持たず丸腰」とい印象が強いのですが、必ずしもそうではありません。ぜひ、大小の刀を腰に差した百姓を登場させてほしいものです。

 

 さて、今回は「材木を抱いて飛べ」がサブタイトルでしたが、これは高村薫さんの『黄金を抱いて飛べ』(新潮社、1990年)がもとになっているのでしょう。日本推理サスペンス大賞受賞作でもあり、映画化もされた名作です。タイトルを考えるのも大変ですね。

 

 さて、今回のドラマは、おもしろかったのでしょうか???

 

ハメられた話

 井伊家が材木を伐り出し、なんとかゼニにしようとする話はこれまでも放映されてきました。運が良いことに、かつて龍雲丸(役・柳楽優也)らが伐り出した材木は、気賀に移ってきたばかりの成川屋なる商人が買い取ることになりました。この吉報を直虎(役・柴咲コウ)のもとにもたらしたのは、瀬戸方久(役・ムロツヨシ)です。さすがに「ゼニの犬」とまで言われた方久ですが、まさか後で大変なことになるとは、まったく知るよしもありません。

 

 直虎も商魂たくましくなっており、方久に高く売るように命じます。というのも百姓たちには多額の負債があったので、一刻も早く返済させたいという思いからでした。さらに木綿のほうも順調で、草木染で付加価値をつけるなど、すべてが順調にいっているようです。直虎は木材に「井」の字の焼印を押し、気賀の商人である中村屋に搬入しました。

 

 前回の話の続きで、今川氏は武田氏との関係を断ったため、「塩留」によって困らせようと画策します。しかし、今川氏の領内の商人には締め付けができるのですが、自由な気賀には影響力がありません。したがって、経済封鎖で困っている武田氏に塩を送り、儲けようとする商人は気賀へ流れ込んでくるのでした。これでは、「塩留」をしている意味がまったくありません。

 

 このままでは、今川氏も大弱りです。今川氏は気賀に城を築き、出入りする人々の身分を確認し、商人たちの自由な商売を妨害しようとしたわけです。その直後、今川氏は井伊氏が成川屋に売った材木が、三河に売られたことを知ります。三河は今川氏に敵対する、徳川氏の本拠です。今川氏はこれを好機到来とばかりに、井伊氏に謀反の疑いを掛けます。

 

 小野政次(役・高橋一生)は、今川氏の重臣・関口氏経(役・矢島健一)を連れ、直虎のもとにやってきます。氏経は直虎に謀反の嫌疑が掛かっているので、駿府まで申し開きに来るよう命じます。しかし、当の直虎には全然身に覚えがなく、なぜ自分に嫌疑が掛かっているのかわかりません。おそらく、頭の中を「?」が飛び交っていたことでしょう。

 

 氏経の代わりに政次が言うのには、井伊氏が売った材木が成川屋を通して、三河に流れていると説明されます。別に井伊氏が謀反を企てたわけではないのですが、運悪く材木が三河に渡ってしまったので、逆賊のように扱われたわけです。非常に理不尽な話ですが、これこそが今川氏の策略だったのです。直虎はたちまち窮地に陥ります。

 

材木を取り戻す

 家臣たちは、販売先まで責任を負えというのかと怒り狂いますが、もとよりこれが今川氏の策略です。悔しい気持ちは理解できますが、誠にいたしかたありません。ただ、直虎はいたって冷静で、今後、いかに対処すべきか一生懸命考えます。それは、今川氏に対して、忠義を見せるという意味合いも持っていました。そこで得られた結論は、次の3つです。

 

 (1) 成川屋から木材を買い戻す。

 (2) (1)がダメだったら、気賀で可能な限り材木を買って「井」の焼印を押す。

 (3) (1)も(2)ダメだったら、龍雲丸らに木材を取り戻す手助けを依頼する。

 

 直虎の家臣たちは、急いで成川屋に行きますが、すでにもぬけの殻。買い戻すことなど不可能でした。これで、作戦1は失敗です。次に、気賀で可能な限り材木を買おうと試みますが、こちらも難しい状況です。これで、作戦2も失敗です。最後は龍雲丸のもとに駆け込み、材木を積んで出港した船を探し出し、取り戻してほしいと懇願します。

 

 龍雲丸は井伊谷を去ったのち、気賀に本拠を定め、今でいうところの「便利屋」のようなものを経営し、ならず者たちの生活の糧としていました。

 

 むろん龍雲丸は、「そんなことは無理だ!」と断ります。現在ならば、人工衛星のデータなどを使い、特定の船を探し出すことなどは、お安い御用といえましょう。高速船を使えば、すぐに追いつけるかもしれません。しかし、当時はそんなことはまず不可能だったでしょうし、おそらく偶然に賭けるしかなかったと思います。

 

 無理だと言った龍雲丸ですが、できないとなると直虎が殺されると知り、すぐに船の探索に動きます。ところが、さすがはテレビドラマです! どんな方法を用いたかわかりませんが、龍雲丸は「井」の焼印を押した木材を運搬する船を探し出し、甲板に乗り込むと、あっという間に船を占拠してしまいました。これで、所期の目的は達したわけです。

 

 一方の直虎は時間稼ぎをすべく、あえて劇薬を飲んで高熱を出します。そんなことができるのかと思いますが(量を間違ったら死ぬのではないか?)、この目論見は成功します。病床の直虎のもとへ政次がやって来て、「もし策がうまくいかなかった場合は、井伊家を頼む」と申しました。政次は直虎のおでこに手を当て、「冷たいだろう」と申しますが、これはささやかなラブ・ロマンスなのでしょう。

 

 3日後、熱が下がった直虎は、家臣らとともに今川氏真(役・尾上松也)のいる駿府に向かいます。やがて、直虎は氏真と面会すると、次のように弁明します。

 

 (1) 成川屋が三河と通じていたことは、井伊も中村屋も知らなかったということ。

 (2) 新野家の桜が今川家の重臣・庵原朝利と縁談を結んだので、今川家に謀反を起こす理由がないこと。

 

 しかしながら、氏真は直虎を冷たくあしらい、かつての直親(役・三浦春馬)が謀反を起こそうとしたことに触れます。直虎は怒りに打ち震えますが、しょせんは相手が上ですから、反論のしようもございません。直虎は成川屋が三河と通じていたことに気付かなかったのは落ち度であるが、たったそれだけのことで、忠義をもって仕えてたものを失われるのかと申します。

 

 そこへ龍雲丸たちが、三河へ行くはずだった「井」の焼印を押した材木をすべて取り戻し、届けにやってきました。そして、直虎は「これこそが井伊家の忠義である」と言い放ちます。これでグウの音も出なくなった氏真は、直虎を許すのでした。

 

 今回の話は、史実であるか否かは判然としません。たぶん創作なのでしょう。

 

おわりに

 材木だけでこれだけ引っ張れるのは、さすがというところでしょうか。次回もまたローカルな話題のようですが、いったいどうなるやら・・・。

 

 今回の視聴率は、12.3%と横ばいでした。次に期待しましょう。

<了>


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