◆神社の年収の実態

 承前となるが、神社の基本的な収入源がわかったところで、気になるのは、神社の具体的な収入金額、宗教法人としての年収だろう。

 前回紹介した神社本庁編『「神社・神職に関する実態調査」報告書』(2016年発行)には、まさに神社の年収に関するアンケートもある。そのまま引用させていただく。

 

〇神社の最近1年間の収入合計は、以下のうちどれですか。1つ選んで下さい。

 なし 2.6

 10万円未満 8.99

 10万円以上100万円未満 28.24

 100万円以上300万円未満 21.35

 300万円以上500万円未満 8.96

 500万円以上1000万円未満 9.44

 1000万円以上5000万円未満 11.35

 5000万円以上1億円未満 2.45

 1億円以上 2.4

 

 具体的な数値を書き込むものではなく、選択式なので、この集計からは、神社の平均収入という数値は出せない。しかし、ある程度の数字は読み取れる。

 まず一番回答が多かったのは「10万円以上100万円未満」で28.24%、次が「100万円以上300万円未満」で21.35%。

 ここで「300万円」をひとつの指標としてラインを引くと、「なし」「10万円未満」「10万円以上100万円未満」「100万円以上300万円未満」とをあわせて、全体の61.18%にあたる神社が「年収300万円未満(収入ゼロも含む)」ということになる。

 神職の給与や社殿の維持・管理費を捻出しなければならないことを考えれば、300万円未満という年収は、悲観的にならざるを得ない数字ではないか。

 

◆現実はもっと深刻か

 もっとも、このアンケートについては、留意しておかなければならないことがある。

 ひとつは、これが、神社本庁傘下の神社の宮司(宮司代務者も含む)のほぼ総数と思われる1310人を対象として行われたものながら、その回答者は6196人で、回答率は60.1%にすぎなかったということである。

 新聞・マスコミがよく行う政治に関する世論調査では、回答率が5060%程度というのはままみられることだが、この場合の調査対象は、「全国の有権者」から無作為に抽出された人々であり、いってみれば、市井の一般人である。それに対して、この神社本庁のアンケートは、神社本庁と直接的なつながりを有しているはずの「宮司」を調査対象にしたものである。

 また統計学の用語でいえば、世論調査というのは、調査対象の一部を抜き出して調査しその結果から調査対象全体の性質を推測する「標本調査」だが、それに対して、神社本庁が宮司に対して行ったアンケート調査は、調査対象を残らず調べる「全数調査」を企図して行われたものである。

 こうしたことを考えると、この6割という回答率は、決して高いものとはいえないだろう。想像するしかないが、このアンケートに回答しなかった宮司には、神社活動にあまり積極的ではない人、あまり関心がない人が多い、とみるべきではないか。

 もしそうだとすれば、そうした消極的な宮司がつかさどる神社は年収も低い場合が多いと考えられるので、神社本庁包括下のすべての神社の年収を正確に調査した場合には、300万円未満の割合は、前述のアンケートの61.18%よりもさらに大きな数値を示すことになろう。

 もうひとつ注意しておきたいのは、このアンケートのデータは、原則として、宮司の「本務神社」に関するものであるということだ。

「本務神社」とは、「その宮司が主に務めている神社」という意味で、具体的には、宮司が常駐している神社をさす。つまり、現在の神社界では、神社の宮司が、その神社つまり本務神社の他に、神職が常駐していない他の複数の神社を兼務しているケースが多くみられるのだが、この神社本庁のアンケートのデータは、基本的には、宮司が常駐している神社に関するものであって、宮司が常駐していない小規模神社(兼務神社)は除外されている、ということだ。

 そうした「本務神社」以外の小規模神社の多くは、あまり積極的な活動が行われていないと考えられるので、当然、収入も少ないものになってしまうだろう。

 したがって、もし「本務神社」以外の小規模神社についてもアンケートの対象とするならば、おそらく、年収を300万円未満とする神社の割合は、より一層増えてしまうことになろう。

 一方で、このアンケートによれば、割合としては2.4%、数にして149の神社が、年間1億円以上もの収入を挙げていることがわかる。

 このようなデータからも、神社格差、神社界の富の偏在が厳として存在し、かつ多くの神社が経済的・経営的に苦境に立たされているであろうことが推測できよう。

 

◆どうすれば神職になれるのか

 さて、つぎに気にかかってくるのは、神社運営に直接たずさわっている神職の収入であろう。

 いったい、神職の年収はいくらなのか。

 前出のアンケートには、「宮司(兼業・兼務等を含め)の年収はどれくらいですか」という質問があるのだが、その答えを紹介する前に、現代において、どうすれば「神職」という職業に就けるのか、ということについて簡単に触れておきたい。

 僧侶や神父、牧師もそうだが、現代日本において、宗教者に関する国家資格や公的な認証制度というものは存在しない。したがって、宗教者に関する資格は、それぞれの宗教団体が任意に定めることになる。

 神社本庁では、「神社本庁庁規」のなかで「神職は、階位を有し、且つ、神社神道を信奉する者のうちから任用する」(第87条)と定めている。「階位」とは、上から浄階(じょうかい)・明階(めいかい)・正階(せいかい)・権正階(ごんせいかい)・直階(ちょくかい)の5階級からなっていて、検定試験に合格するか、規定の講習を修了もしくは養成機関を卒業することで取得できる。これらの階位は、宮司・禰宜といった神社内の役職とは全く別個の、神職としての職階である。

 つまり、神社本庁傘下の神社の場合では、「階位」を授与されるということが、イコール神職資格の取得、ということになる。

 では、どうすれば階位を取得できるのか。その方法は複数あり、意外に複雑なのだが、現在では概略、つぎのようになっている。簡便な方法から順に並べてみよう。

 

①検定講習会:各都道府県の神社庁や國學院大学(東京都)・皇學館大学(三重県)では適宜、1か月程度の階位検定講習会を開いていて、受講して修了すれば「直階」が授与される。

②神職養成機関(非大学系):全国には、神社本庁が承認する神職養成のための専門教育機関がある。志波彦(しわひこ)神社鹽竈(しおがま)神社神職養成所(宮城県)、出羽三山神社神職養成所(山形県)、神宮研修所(三重県)、熱田神宮学院(愛知県)、京都國學院(京都府)、大社國學館(島根県)の6つである。これらは原則全寮2年制で、所定の課程を履修すれば、修学後、正階が授与される。また、通信教育機関として大阪国学院(大阪府)があり、これも原則2年制で、修了後、正階が授与される。

③國學院大学・皇學館大学:所定の神職課程を履修して卒業すれば、正階が授与され、さらに神社に奉職して一定の条件を満たせば、明階が授与される。

④神道学専攻科:國學院・皇學館両大学には4年制学部とは別に1年制の「神道学専攻科」がもうけられていて、修了すれば正階授与、神社に奉職して一定の条件を満たせば、明階授与となる。一般の4年制大学の卒業者で、神職を志望する人向けの特別コース。

 

 上記のうち、①②④は、原則として神社庁長や神社の宮司からの推薦状が必要となる。推薦状は、実家が神社という人、あるいは親戚に神職がいるという人、つまり神社界にコネがある人間でなければ、得るのは容易ではない。実際、③の國學院・皇學館両大学も含め、神職資格の取得をめざす人は、神職子弟が大半を占めるというのが実状である。

 神職の資格制度は、非神職家庭出身の一般人を決して排除しているわけではない。しかし、概して神職は、コネがないとなりにくい職業、コネがある人が優先される職業だということはいえるだろう。

 

◆神職の大半は年収300万未満

 さて、話を神職の年収に戻そう。

『「神社・神職に関する実態調査」報告書』によれば、「宮司(兼業・兼務等を含め)の年収はどれくらいですか」という質問に対する回答は、次のようになっている(回答数は6196)。

 

なし 5.49

100万円未満 29.66

100万円以上300万円未満 25.26

300万円以上500万円未満 18.69

500万円以上1,000万円未満 14.07

1,000万円以上2,000万円未満 2.92

2,000万円以上 0.44

無効値 0.11

無回答 3.36

 

 これも選択式の回答なので、平均年収の金額は出せないが、いちばん多いのは「100万円以上300万円未満」で全体の約4分の11565人)を占める。ちなみに、上記回答のうちの「なし」とは、「年金や外部からの経済的援助もない」状態が想定されていて、貯蓄の取り崩しなどが行われていることが考えられるという。

 そして300万円で線を引くと、年収300万円未満が60.41%で全体の過半数となる。奇しくも、年収300万円未満の神社の割合(61.18%)と、ほぼ同じ数値である。

 500万円で線を引くとなると、500万円未満が79.1%を占める。

 神社の年収を反映してか、神職の収入も、厳しい現実を示している。

 また、ここで注目すべきは、これらの数値は、正確には「神職の収入」ではなく、「宮司(兼業・兼務等を含め)の年収」となっている点だ。

 後述するように、神社の宮司には、神職以外の職業を兼業して神社に奉職しているケースや、本務神社以外の小規模神社の神職(宮司)を兼務しているケースが多くみられるのだが、このアンケートの回答は、そうした兼業・兼務を含めての数字なのだ。したがって、もし兼業における収入を含まない純粋な神職としての年収、あるいは兼務における収入を含まない本務神社だけの年収を集計するならば、そしてすでに強調したように、アンケートそのものの回答率も考慮するならば、300万円未満あるいは500万円未満のパーセンテージはさらにぐっと上がってしまうことが推測されるのだ。

 しかも、これは、神社のトップである宮司に限っての数字である。いわば社長の給料である。もちろん神職は宮司以外しかいないという小規模神社が珍しくないのが実態ではあるが、一般企業の「従業員」にあたる宮司未満の神職の年収はどうなってしまうのだろうか。

 第1回でも紹介した有名神社に奉職経験のある関東のある神社の宮司によれば、今から30年ほど前、最初に務めたA社は神職が50人もいるような大所帯だったが、年収は300万円程度。その次に奉職したB社は神職数人程度の中堅どころの神社だったが、年収は230万円ほどだったという。家族がいたら、食べていくのもままならない金額であろう。おまけに、いずれも休みは月に3~4日程度だったという。

 この宮司の体験談は今から30年ほど前(バブル経済時代)の話になるが、神社運営の現状を特集した『週刊ダイヤモンド』2016416日号によれば、「神社の規模にもよるが、20代で年収200万円台、30代で300万円台というのが相場」だというので、上記のアンケートの回答も踏まえれば、今も30年前も、神職の年収水準はあまり変わらず、低レベルなまま、ということになりそうだ。

 

◆低収入がもたらす神職の兼業問題

 このような経済的な事情から、神職の多くは兼業を余儀なくされてきた、とよくいわれてきた。その実態はどうなのか。

 くだんのアンケートによれば、「神職以外の兼業(神社付属施設・神社庁等を除く)はありますか」という質問に対し、「神職専業」つまり兼業はしていないと回答した宮司は63.96%(3963人)で最も多い。2番目は「その他」の職種との兼業で10.15%。以下、農林水産業7.99%、会社員5.44%、公務員2.78%、教員(私立)2.61%と続く。

 この数値をみると、思いのほか神職専業が多く、兼業神職は36.04%で、少数派ということになる。

 ただし、繰り返しになるが、6割程度の回答率を考慮すると、そもそもアンケートに回答しなかった宮司は、神職とい仕事と現実的な関わりが薄く、兼業である可能性が高いと思われるので、36%という神職兼業率は、さほど信用のおける数字にはならないだろう。

 また、宮司ではない神職の兼業については統計的なデータはない。しかし、先に記したように、年収が200万円台、300万台であれば、一般神職であっても副業をしていてもべつだん不思議ではない。前出の宮司によれば、「給料が安いので、神社に黙ってタクシーやトラックの運転手などのアルバイトをしている神職は多い」という。

 

◆兼務が当たり前という神職事情

 神職を取り巻く問題で、「兼業」と合わせてよく話題になるのが「兼務」の問題である。

 すでに記したように、神社本庁包括下の神社をみると、約8万の神社数に対して、宮司は約1万人で、各神社に必ず1人置かれなければならない宮司の人数は、圧倒的に足りていない。そのため、1人の宮司が、本務神社の他に、神職が常駐していない神社の宮司をいくつも兼務しなければならない状況が、常態化している。そしてそのことが、祭祀の衰微、氏子・崇敬者離れ、ひいては神社の衰退や神社格差の拡大を招く要因になっているとも指摘されている。

 単純計算では、宮司1人につき8社を兼務していることになるが、現実はどうなのだろうか。

 前出のアンケートには「宮司としての兼務社登録は何社(法人)ありますか」という質問があり、これに対する回答は、一番多いのが「5社以下」で41.53%(2573人)、以下、「ない」が20.74%、「610社」が17.61%、「1120社」が13.28%、「2130社」が4.05%という風にならんでいる。「ない」が2割というのは意外に多い気もするが、やはり兼務する宮司が多数となっていて、兼務が当たり前であることは浮き彫りとなっている。また、驚くべきことに「兼務社51社以上」と回答した宮司が21人(0.34%)もいる。

 しかし、この宮司の兼務問題は、単純な人手不足の問題ではなく、経済的な問題も深くからんでいるように思われる。

 これまで見てきたように、本務神社だけの年間売上は300万円未満とするのが過半数である。したがって、本務神社だけの収入では経済的に苦しいというのが、多くの宮司の本音であろう。そうであれば、不足する収入を補おうとする宮司に残された選択肢は、ひとつは神職以外の職業を兼業することであり、もうひとつは、無人の神社の宮司を兼務して、そこから氏子費なり祭礼費なり賽銭なりを得るという方法であろう。

 つまり、経済的な問題が、宮司をおのずと兼務に駆り立て、兼務社の存在を担保しているのではないか、ということである。本務神社の仕事で手一杯で、かつ本務神社の収入が十分であるならば、あえて兼務の道を選ばないだろう。

 逆に言えば、もし仮に宮司が8万人いて、全国の神社11社に常駐の宮司がいたとしたら、なおかつ全体の6割以上の神社が年収300万円未満だとしたら、宮司や神職の大半は、経済的な苦境から兼業を余儀なくされる、という事態に陥ってしまうだろう。そう考えると、兼務ができるからこそ、かろうじて宮司もやっていける、兼務もできなければ経済的にはとうていやっていけない、という側面もあるのではないか。

 

◆氏子減少と収入減少がもたらす悪循環

 もちろん、氏子が少ないという現実に向き合いながら、いくつもの小規模神社の奉祀にはげんでいる篤実な宮司もいるだろう。たとえ社頭収入が少なくとも、自身の副業収入や年金でやりくりし、氏子と協力しながら神明に奉仕している、気骨ある宮司もいるだろう。

 しかし、現実はどうだろうか。宮司といっても、年に1回、祭礼のときだけ神社に来て、氏子たちが整えた祭壇の前で祝詞をあげ、お祓いをしたら、お金をもらって帰ってしまう。――宮司が常駐していない、「兼務」宮司をいただく神社では、そんなケースも珍しくないという。これでは、派遣神職、やとわれ宮司と揶揄されても、仕方のないことだろう。

 総じていえば、氏子・崇敬者の減少が神社収入の減少を招き、神社収入の減少が宮司の兼務を促し、1人で複数の神社を維持・運営しなければならないという負担が個々の神社の維持・運営の質の低下を招き、さらなる氏子・崇敬者離れ、神社収入の減少を招く――そんな悪循環に現代の小規模神社の多くは陥っているのだ。

 おそらく、宮司の兼業についても、神職に専念できないという意味において、神社の維持・運営の質の低下の要因となるわけだから、同じようなことが言えるのだろう。

 そしてさらには、兼務・兼業でも経済的な状況が改善せず、「これではもう食えない」ということで、神職の道そのものをあきらめてしまう人が頻出するような事態に至ったとしても不思議ではない。現実に、地方では、宮司(代表役員)が欠員状態になっている神社、すなわち「兼務宮司」すら存在しない神社(いわゆる不活動神社)が見受けられるようになっている。

 このような現実をみていくと、第1回で紹介した「このまま何にも手を打たなかったら、あと1020年で神社は消滅してしまうのではないか」という、現場をよく知る宮司が放った危惧の声は、決して大げさなものではなく、強いリアリティを帯びて聞こえてくるのだ。

洋泉社歴史総合サイト
歴史REALWEBはこちらから!
yosensha_banner_20130607