はじめに


 年の暮れも押し迫ってまいりまして、すっかり寒くなりました。夏は「暑い暑い」と文句を言っていましたが、冬は「寒い寒い」と愚痴をこぼすばかりです。いずれにしてもインフルエンザが流行しているので、ご注意いただきたいところですね。

 

 今年は大河ドラマ「おんな城主 直虎」の講演をたくさんいたしました。受講生にうかがうと、「おもしろい」という方もいれば、「おもしろくない」という人もいます。むろん、そのことについて意見を強要しようとは思いません。ただ、私も初老になったせいか、「昔のほうが良かった」と思うことがたびたびです。でも、かつての名優は鬼籍に入った方も多く、もうどうしようもありません。

 

 ところで、今回のタイトルは「石を継ぐ者」でした。元ネタは、クリストファー・パオリーニのファンタジー小説『エラゴン 遺志を継ぐ者』(2003年)のサブタイトルをもじったものでしょう。2006年には映画化もされましたが、私は見ていません。こうした元ネタ探しも、今回で終わりかと思うと、非常に寂しい限りですね。

 

 いよいよ、涙、涙の最終回だったのですが、果たしておもしろかったのでしょうか?

 

本能寺の変後


 前回、織田信長(役・市川海老蔵)は本能寺であっけなく討たれてしまいました。三河に戻った家康(役・阿部サダヲ)は狸親父ぶりを発揮して、早速、武田氏滅亡後の甲斐や信濃に色気を見せます。狸親父と申しましたが、豆狸くらいですかねえ・・・。

 

 一方、直虎(役・柴咲コウ)は、光秀(役・光石研)の遺児・自然(じねん)を守るため、慌てて井伊谷に帰ることになりました。光秀に自然なる子息はいたようなのですが、詳しいことはわかっていません。一説によると、居城の近江坂本城で亡くなったともいわれています。自然を出すことによって、ドラマを盛り上げようとしたのですが、いかにも「不自然」です。

 

 一方、光秀が討たれた一報を耳にした今川氏真(役・尾上松也)は、万千代(役・菅田将暉)に対して、自然を何とかしないと謀反に加担したと疑われると忠告をいたします。これにより、万千代は自然を徳川方に引渡そうとしますが、直虎は逆に隠れ里に匿おうとします。ここで、万千代と直虎は自然の扱いをめぐって、口論になってしまいます。

 

 万千代は自然を殺害すれば、家は安泰だと考えたようですが、直虎は頑として受け付けません。傑山(役・市原隼人)も直虎に加担をします。と、そこに織田の軍勢があらわれて、子供を渡せと迫ります(自然とはまだ気づいていない)。

 

 そこで、直虎は機転を利かし、この子が信長の遺児であること、証拠として信長から与えられた茶碗と書状があると主張します(機転というよりも準備していたかも)。そして、信長の遺児を殺したとなれば、タダでは済まないと脅しをかけます。本当に信長の遺児であるか確認のしようがないこともあり、織田の軍勢は引き上げました。

 

 ともあれ、何でこんな場面を無理に作る必要があったのか、いささか疑問に思うところではあります。また、織田の軍勢も自然が信長の遺児と聞かされて、すごすごと帰っていきますが、あまりに無策と言えましょう。確認の手段があったのでは? 確認の手段がないならば、わざわざ探しに行く必要もないでしょうしね。

 

直虎死す


 結局、自然には「悦岫(えっしゅう)」という名がつけられ、無事に出家を果たします。「悦岫」には、何事にも縛られることなく喜んで自然に生きることを選ぶという意味があるようです。

 

 これで八方丸く収まったかと思ったら、そうは問屋が卸しません。この頃から直虎は、妙な咳が出るようになり、なかなか治りません。病名は不明。直虎は病身ながらも、近藤康用(役・橋本じゅん)のもとを訪れます。近藤が言うには、井伊と近藤の関係を強化するため、高瀬(役・朝倉あき)を万千代の妻にしてもらえないかということでした。おまけに近藤は、高瀬が井伊家の血を引いていたことを知っていたようですね。

 

 また、直虎は寺だけを残して、井伊家は止めてしまうと言いました。直虎が言うには、徳川に天下を獲らせたいとのことですが、これは直政(=万千代)が「徳川四天王」の一人となって、家康を支えることを前提とした作りになっているのでしょうね。ただ、見ている人からすれば、随分とおこがましいと思ったかもしれません。

 

 結局、直虎の病は良くならないのですが、死に至るまではファンタジーです。どこからともなく笛の音が聞こえ、直虎は例の井戸の近くにやって来ます。すると、子ども時代の亀や鶴がいるではないですか。直虎も「おとわ」の姿に変わっています。ついでに、なぜか子供の頃の龍雲丸もいるではないですか! オールスター勢ぞろいです。そして、4人は井戸の中を覗き込み、「皆様、参りますぞ。いざ」と叫びます。

 

 涙、涙の直虎の死です。遺骸は丁重に葬られ、村人たちも嘆き悲しみます。

 

万千代の大活躍


 私の感覚で言えば、あとはおまけみたいなものです。直虎の死によって、万千代は腑抜けのようになり、榊原康政(役・尾美としのり)から叱責される始末。そこへ南溪(役・小林薫)があらわれ、井伊の魂とは何ぞやと問います。それは民には竜宮小僧のように尽くし、泥にまみれることもいとわず、しかも戦わずして生きる道を探るということになりましょう。

 

 南溪がそういうのは、その直後に万千代が自ら立候補して、信濃や甲斐の国衆らと和睦に臨んだからでした。まさしく面倒な仕事で、しかも戦いを避けなくてはいけません。万千代は家臣らと協力し、見事にこの役割を果たしました。

 

 結果、万千代の優れた業績が認められ、家康から元服を認められ、「直政」という名前が与えられます。井伊の通字である「直」、小野の通字である「政」を取ったと解説していましたね。こうして直政は家臣たちを従え、さらに武田氏遺臣の赤備えも加えて、侍大将に取り立てられます。

 

 これで、めでたしめでたしというところですが、実は直政に関する史料は、ここから一気に増えていきます。個人的には、ここから大河ドラマにしても良かったのにと思いました。

 

おわりに


 最後の締めくくりなので、毎度のことで大変恐縮ですが、私の大河ドラマの要望について書いておきたいと思います。

 

 基本的にドラマなので、別に脚色があっても仕方がないと思います。ただ、その脚色が唐突なおもしろおかしいものではなく、「もしかしたら、本当にあったのかしら?」と思うような真実味がほしいところです。そのためには、もっと脚本家の先生に歴史の本を読んでいただきたいなと思います。今回は本能寺の変でありえないトンデモ説を採用しましたが、ああいうのはお止めいただきたい。

 

 また、出演する俳優についても、意外性が欲しいところです。イケメンや美女ばかりでは、ほかのドラマと変わりがないので、渋い役者を発掘してほしいものです。実質的にスポンサーのいない大河ドラマであるからこそ、可能ではないかと思います。

 

 大河ドラマのホームドラマ化にも辟易としています。ドラマの舞台を現代から過去に移しただけで、中身は現代的な価値観を反映させた現代劇そのもの。これでは、時代劇を見ている値打ちがないように思います。ときに残酷なこともあるでしょうが、そういうきわどい部分もしっかりやっていただきたい。

 

 また、ここ何年かは原作がなく、脚本だけでドラマを作っていますが、これでは作品のモチーフというか、ドラマを突き抜ける一貫性がないように思います。かつての大河ドラマでは名作を下敷きにして、多くの作品を世に送り出しました。こうした点の見直しもお願いしたいところです(来年は原作があるようですが)。

 

 そして、テーマも幕末や戦国ばかりでなく、ぜひ近現代史の闇に斬りこんでもらいたい。NHKは近現代史のドキュメンタリーでは、他の追随を許さない優れた業績を残しています。日露、日清戦争や第二次世界大戦などをぜひ取り上げてほしいというのが最後のお願いです。

 

 最終回の視聴率は、12.5%と0.5%上昇しました。1年間の平均視聴率は12・8%で、2015年「花燃ゆ」の12・0%、12年「平清盛」の12・0%に次ぐ歴代ワースト2位とのことです。実際にはBSで視聴している人もいるので、これより高いのかもしれません。

 

 最後に、毎週読んでいただいた読者の皆様、そして原稿チェックなどでお世話になった洋泉社歴史REALWEB編集部の皆様に厚くお礼を申し上げます。そして、大河ドラマの出演者の皆様、制作関係者の皆様、誠にお疲れさまでした。批評が少々辛口で、誠に申し訳ございませんでした。

<了>
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