2018年07月19日

ダウンジャケットと夏談話

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数日前のこと。



冬に着たままのダウンジャケットを洗おうと思った。
しかしながら洗濯機を使うとダウンが丸まるほか隅に寄ってしまうし、かといって手洗いは面倒。
ふと思いついた。コインランドリーならダウン用の洗濯機があって、もしかしたら大丈夫かもしれない。
淡い期待を抱いた。玄関のドアを開けっぱなしにして車に乗った。

最寄りのコインランドリーに到着した。
どうも先客がいたようだ。1人は右の椅子に座っている。もう1人は左の端でしゃがんでいる。
少し気まずさを感じた。縦と横に並ぶ洗濯機群を眺めた。少し古い機械だ。
値段と洗濯の種類の札からしておそらくこれだろうと洗濯機を決めた。600円。
持ってきたダウンジャケット2着、そしてダウンパンツ1着を入れた。
すると、左の隅でしゃがんでいたおばちゃんが声をかけてきた。「それだけですか?」

なぜそれを問うのか。少し戸惑い理解した。「・・・はい。」
妙に店に馴染んでいるとは思っていたが、よもや店員だとは思わなかった。
「それだけだと、この300円の方がいいですよ」
隅にある小さな洗濯機へ案内された。
「・・・ああ、そうなんですね。ありがとうございます。助かりました。」
感謝をするも、心中はあてが外れて少し残念な気持ちだった。
ダウンジャケットに適すると思われる洗濯機はこの店にはなさそうだった。
だが、声をかけられては黙って出ていくわけにはいかない。
「・・・そもそもジャケットに適した洗濯機なんてあるのだろうか。」
いらぬ非を認めてしまった。洗濯物を放り込み、100円玉3枚を入れ、おばちゃん特有の雑な指示通りにボタンを押した。
そしてそそくさと店を出た。洗濯と並行してスーパーへ出かけた。

その前にファミリーマートへ寄った。
楽天スーパーポイントをEdyに5000円分チャージして何も買わずに出た。
なんだか悪い気はするものの、コンビニにしか機械がないのだから仕方がない。少し気まずい。
そしてスーパーでの精算時はEdyで支払った。
・・・楽天スーパーポイントが補充されていなかった。
なんてことだ。反映には時間がかかるのか。何だよ、すぐには使えないのかよ。使えねーなー電子マネーってのは。
残高が0になったEdyを財布に戻し1,000円札を出した。うつむいてスーパーを出た。

コインランドリーに到着したのは30分後。洗濯時間ピッタリだ。
おばちゃん2人はまだいた。

相変わらず同じ場所と同じ座り方でぺちゃくちゃとお喋りしている。
それをよそに目を合わさず真っすぐ洗濯機へ向かい、今度は乾燥機に移そうとした。
「乾燥ですね!乾燥機はココですよ!」。おばちゃんというのは世話焼きなものだ。
しかしながら、助かっているのは事実。
「早く乾かさないとのいけないですよね」
その通りだ。羽毛を包むのは撥水性のある素材。一気に乾かさないとならない。心が通じ合ったと思った。
おばちゃんは乾燥時間の目安が書かれた自作の案内表を開いた。
しかし戸惑っていた。ダウンジャケットのみ洗濯した客は初めてなのだろう。
見かねて今度はこちらから申し出た。
「羽毛布団はどのくらいでしょうか。」「60分ですか。だったら30分くらいでしょうかね。」
客がそう言い出すのならば店は困らないだろう。
またしてもいらぬ気遣いをしてしまった。

湿ったダウンジャケットを胸に添え、ここだと言われた乾燥機に入れた。
小銭が無く、1,000円札を両替しようとした。
「両替はできますか?」と尋ねる。「ここですよ」とおばちゃん。「ああ、書いてありますね」と私。
コインランドリーにある両替機というものは、ランドリーグッズの販売と両替機能が合わさっているから非常に分かりにくい。

100円玉3枚を挿れた。直後、誤りに気づいた。
上の洗濯機に洗濯物を入れ、下の洗濯機にお金を入れたのだ。
返却ボタンを押した。だがお金は返って来ない。何度押しても返って来ない。
仕方なくおばちゃんに声をかけた。
上と下を間違えたこと、そしてお金が返却されないことを説明した。
しかしながら、おばちゃんはどうも不思議そうにしていた。
・・・なぜだ。それを不思議に思う私。

「だったら、下に洗濯機に入れてください!」
「あ、いや、上の乾燥機は『高速乾燥』と書かれてあり、下の乾燥機は『温風乾燥』と書かれてあります。」
直後、おばちゃんは笑いながら喋り、私は呆然とした。

「いやね〜、そう書いてあるけど実はどちらも同じなのよ〜。お客さんによく勘違いされるんですよね〜」「ぎゃははは」。
ぎゃははは。右にいたおばちゃんの大きな笑い声にビクッとした。いたのか。
「・・・ああ。そうなんですね」
頬を緩ませて愛想笑いを浮かべた。勘違い、か。
3度目の気遣いは笑顔が乾いていた。

開始のスイッチを押し、会釈して店を出た。
扉は締まる。「お客さんよく勘違いされるのよね〜」「ぎゃははは」。まだ笑ってる。
車の席に座り、ドアを開いたまま深い呼吸をした。
そしてドアを閉め、1人、胸の内に大きく呟いた。
「勘違いも何も、上は『高速乾燥』下は『温風乾燥』って書かれてあるじゃんかよう!」
勘違いとは何だろう。己が信じていた言葉の定義を疑った。

買い物は済ませた。用はもう無い。
一度家に戻ってあとで取りに行こう。
家に着いた。買い物袋を提げ玄関まで歩くと、ドアの内側の枠に1匹の小さなカエルが座っていた。
見ると喉が鼓動している。かわいい。  
微笑ましく、あえて振り払わず買ってきたものを冷蔵庫に入れた。

それから2時間後。
そろそろ取りに行こう。席を立つ。
玄関に出る。カエルはまだいた。おやおや。

サンダルに足を突っ込む。空は薄暗くなっていた。
再びカエルを見る。カエルはウンコしていた。

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・・・カエルがウンコしてる。
すぐに分かった。白いドアに黒い斑点はよく目立つ。

お〜い、ウンコって、そりゃ2時間以上もいたらさぁ・・・。
でも何してくれてるんよ・・・。
かわいさと子憎たらしさは、つまりかわいいと言えそうではある、が、そんなことよりも早く取りに行かないと。
荒い歩みに警戒したのか、カエルはぴょんと身1つ跳んだ。
直後、同時にスプラッシュされるおしっこを目撃した。
お前なぁ・・・。もはや言葉を失い車へ向かった。

おばちゃんはまだいるのだろうか。
いないことをどこか期待しコインランドリーに着く。
照明が付いた店内には誰もいなさそうだった。安心して店に入る。

テーブルに1つ、固いビニールの袋がある。メモが貼られていた。
取り出された洗濯物は通常、テーブルに畳まれて直置きされるものだと思っていた。おばちゃんはどうやら気遣いが上手な人のようだ。
メモを手に取る。どうやらまだ乾いていないらしい。
袋からジャケットを取り出した。たしかに湿っている。
小脇に挟み、30分では乾かないことを学んだ私はメモを置き、ありがとうと心につぶやいた。
最短距離で店を出た。

さて、明日は天日干しかな。目的は達成されず、再び家に着いた。
玄関にカエルはいなかった。居心地が悪くなったのだろう。
代わりに置き土産が用意されていた。またウンコしてやがった。

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とんだ気遣いだなおい・・・。
2粒のウンコに湿ったダウン。もはや拭き取ろう気力は無く、とぼとぼと家に入る。

物干し竿にジャケットを置き、湿り気を確認した。
わかっていた。ドラム式洗濯機は洗濯物が縦に落ち回るから余計にダウンとダウンが絡まる。
ジャケットの内側は過去最大に丸まっていた。
布に閉じ込められてはほどこうにもほどけない。布に閉じ込められては渇きは遅い。
楽をしてダウンジャケットを洗おうだなんて考えたのは間違いだった。
むしろ手洗いの方が楽ではないだろうかとの気がするが、もういい。終わったことだ。

思えば今日は不幸続きだった。
それもささやかな不幸。ダウンジャケット。電子マネー。カエルのウンコ。
もちろんささやかな幸せもあった。ただ、おばちゃんの「お客さん、よく勘違いされるのよねぇ〜」が「ぎゃはははは」とセットで耳から離れない。
なんて1日だ。でも、こんなささやかな日は悪くない。・・・のだろうか。
真顔で宙を見つめた。

次の日、良く晴れた日に天日干しした。遠くを眺めた。
ウンコはまだ残っていた。

(おわり)

 

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投稿日時: 2018年07月19日 11:23 | 記事URLコメント(0)
カテゴリ日々の雑感虫シリーズ
 
 

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