随筆

2013年10月30日

「知りません」

電気を消すと青いランプが目に入った。
ゆっくりとまばたきをするような点滅を繰り返すそれは、Nintendo 3DS。
しばらく触っていないそれを眺める度にいつも思い出すことがある。

以前にこのゲーム機を「半年以上は貸すわー」と言って人に貸し、そのとおり半年以上あとに「返して」とメールを送信した。
このゲーム機で使えるSDカードの紹介記事を書こうとしたために(その記事を書いてないけれどもさ)。
なかなか返事が来ないので1日おきに同じ文面を1通ずつ送信したら、3日目にようやく返信があった。
2日後に返す、だってさ。
なんで2日後なん?って送信したら、返信は来なかった。

その2日後。
ゲーム機は玄関の内側にあった。
お礼のメールを受け取った。

受け取った袋の中には3DSの充電台がなかった。
充電台がないと充電しにくくなる。わしはこれを嫌がり部屋中をくまなく探した。
その前に「充電台を返し忘れてない?」とメールを送ろうとしたが、充電台を貸したかどうかは定かではないことに加え、探す前から他人のせいにするのはどうだろうと思い、さしあたり小1時間、部屋中をあさった。
ない。
後日、心当たりのありそうな場所をしらみつぶしに探し、かごの中の雑多なものをひっくり返しかき分けた。
ない。

「部屋中を探しても充電台が見つからない。返し忘れとらん?」といった内容のメールを送った。
数時間後。

「知りません」

5文字のメールの文面を繰り返し読んだ。
「知りません」
知らないの対象語がなく、何を知らないのか、いく通りにも解釈できる。
充電台というものを知らないのか、充電台を見ておらず借りたのかわからないのか、そんなものはどうでもいいのか、そっぽを向いているのか。
頭に疑問符を浮かべつつ考えたが、「知りません」を正確に読解できなかった。
ここ半年間、これほど不明確な返答を受けたことは記憶にない。

その後、わしは新しい充電台を購入した。
彼にはメールを送っていない。また読み手を困らせる文面と渋る返信を予想できるため、手っ取り早く金で解決することにした。
価格は600円程度。大した価格じゃないし、人によりどうでもいいものかもしれないけれども、わしにとっては充電台はなくてはならないもの。たかが充電台。されど充電台。

しかしながら、この始末はどうもきまりが悪い。
もはや電源を入れることもなくなった3DS。そのコバルトブルーを眺める度に、彼が言う「知りません」を思い出す。
つい首を傾げてしまう。



投稿日時: 2013年10月30日 03:24 | 記事URLコメント(2)TrackBack(0)
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2013年10月10日

美味しいお味噌汁

税理士さんのところへ行った。
前日にお昼を一緒に食べようとおっしゃっていたので、12時に到着する。
目的の源泉徴収票を受け取り、世間話をしながら徒歩3分、小さな居酒屋の前に立つ。

のれんを払い戸を開ける先生を、大将が威勢のよいあいさつで迎えた。
続いてわしが入り、戸を閉める。
こじんまりとしたお店だった。
カウンター席の椅子に座ると、今日のメニュー表がテーブルに立て掛けられている。
6種あったのでどれにしようか迷っていると、先生がとんかつ定食にしよう、とおっしゃい、気になっていた魚の煮物を諦めた。

価格は600円。とても豪華な食事だった。
ころもが控えめなとんかつとキャベツの千切り、ごはん、お味噌汁、漬物、焼き魚、白子と酢醤油。
仕事より雑務が忙しいとの話を受け答えつつ箸をすすめる。
まず、めったに食べない白子に手をつけた。
次に小さな鯛の入ったお味噌汁を片手に、沈んだ味噌をかき混ぜゴクリと飲む。
すごく美味しい。
箸がすすむ順番は、焼き魚、ごはん、お味噌汁、ごはん、漬物、ごはん、お味噌汁。    
気づけばとんかつは、とんかつの姿のままだった。

そういえばとんかつ定食を頼んだんだよな、と思い出し一切れを口にした。
先生からごはんをおかわりしたら、とのお言葉に甘え、よそってもらったすぐあとに、先生が突然、もしもしと声を上げ店の外に出た。
コショウがほんのりと効いたとんかつを味わっていると、大将がお茶をつぎにやってきた。
そのついでにわしは、「お味噌汁を一杯、おかわりできますか?」と聞いた。
大将は「嬉しいなぁ」とおっしゃった。

1ヶ月前にストウブという鍋を購入したわしは、簡単なものだけれども、以前より料理を作る回数が増えた。
だからよくわかる、このお味噌汁はほんとうに美味しい。
鯛と出汁と味噌の、しっかりとしていつつも柔らかいこの味は、自分では出せない。
そう伝えると、また「嬉しいなぁ」と大将がおっしゃる。わしも嬉しくなる。

先生が困った顔をして戻ってこられた。
我の強い遺産相続者と電話されていたそうな。
最後にお茶をひと口飲み、手を拭いて店を出る。

来た道を戻り、電話の最中にお味噌汁をおかわりしたことを伝えると、大将は東京の料亭で板前さんをやられていたと聞いた。
なるほど、料亭といえば和食、和食の基本となるものは出汁、出汁は汁物に最も活かされる。
それで喜ばれたのか、と納得し、別れる前に、今日はおごっていただいてありがとうございました、とお礼を言う。
あのお味噌汁、また飲みたいなぁ。次のお昼のお誘いを楽しみに車のエンジンをかけた。



投稿日時: 2013年10月10日 21:58 | 記事URLコメント(2)TrackBack(0)
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2007年07月09日

嘘の螺旋

利己のため嘘をつく。

嘘に理論を重ね正当化していく。

反論できないまでに行き着いた嘘は真実に置き換わる。

この場合、真実は嘘なのだから、真実は嘘だと判断される。

しかし、反論はできない。

反論できないがしこりが残るならば、一方的に真実を遮断する。

そして、騙されないように警戒する。

だが、警戒しただけでは真実の接近を抑えることはできない。

どうするか。

程度はどうであれ、自分の嘘を構築するしかない。



投稿日時: 2007年07月09日 03:39 | 記事URLコメント(6)TrackBack(1)
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