女イメージ4未明の箱根山中での突然のガス欠。
麗子と達男を車内に残して、私は
峠のふもとのGSへ走る。振り返ると、
車のテールランプが揺れるのが見えた―― 


 ロマン派 《H》 短編集 
 第11話  喪失のドライブ〈2〉 走れ、エロス!
このシリーズは、管理人が妄想力を働かせて書いた、
Hだけどちょっぴりロマン派な、官能短編小説集です。

 R18  このシリーズは、性的表現を含みます。18歳未満の方はご退出ください。



 ここまでのあらすじ  「夜明けの富士を見に行かないか?」と言い出したのは、達男だった。合宿最終日の夜。私と麗子がお茶を飲みながら、合宿3日間の感想を語り合っているところへ達男がやって来て、「委員長の慰労もかねて、ひとっ走りしようよ」と提案したのだった。私を後部座席に、麗子を隣の助手席に座らせて、未明の山道を走り出した達男だったが、途中で、達男が「アレ…?」と声を挙げた。ガス欠だと言う。しんしんと冷えてくる山道で、私たちは毛布にくるまって、クルマが通りかかるのを待った――
⇒この話は、連載2回目です。この話を最初から読みたい方は、こちらからどうぞ。


 10分待ち、20分待ち、30分待ったが、クルマは1台も通りかからない。
 クルマの中は、氷室のように冷えてきて、毛布をかぶっていても、体がブルブルと震えてくる。

 「ダメだ、このままじゃ」と、達男が言い出した。

 「あのさぁ、長住クン。さっき、この道に入る分岐点のところに、GSがあったでしょ? あれ、たぶん24時間営業だったと思うんだけど……」
 「たぶん、そうだよ」
 「申し訳ないんだけどさぁ、あそこまで行って、ここまでガソリン運んでくれるように頼んでくれないかなぁ? ほんとは、ボクが行ければいいんだけど、だれか免許持ってる人間が残ってないと、まずいと思うから……」

 地図で確かめた達男が、「6キロちょっとだから、急げば1時間かからないかも」と言う。

 「わかった。ひとっ走りしてこよう」

 行こうとした私の顔を、麗子が不安そうな顔で見つめ、それから、意を決したように体を起こした。

 「長住クン、私も一緒に行く」

 それを、達男が引き止めた。

 「女の足じゃムリだよ。ヘタしたら、2倍近くかかってしまうから」

 引き止められた麗子の顔が、悲しそうにゆがんだ。

 「大丈夫。特急で戻ってくるから」
 「気をつけて。でも、早く戻ってきてね」
 「あ、でもさ、走っちゃダメだよ。ところどころ、アイスバーンになってるところがあるから、慎重に」

 ふたりに見送られて、山道を下り始めた。
 走れ、メロス! のような気分だったが、達男の言うとおり、未明の山道はところどころが凍っていて、うっかり駆け出すと足を滑らせそうだった。
 急ぎながらも、慎重に。このぶんじゃ、1時間で戻るのはムリかもしれない。
 しかし、早く戻らないと――。
 私にそう思わせたのは、麗子の身が心配だから、でもあった。

       バラ

 達男は、合同合宿の間じゅう、麗子にモーションをかけ続けていた。

 「疲れたでしょ? ちょっと散歩に出ない?」
 「ふもとの町にディスコがあるんだけど、ちょっと行かない?」

 参加者の中でただひとり、自分のクルマを運転して参加した達男は、それを武器に麗子を誘い続けた。しかし、麗子は首を縦に振ろうとしなかった。
 達男が言ってきたことがある。

 「伊勢田って、堅いよなぁ。長住クンも、ネラってるんでしょ、彼女? どっちが落とせるか、勝負しようか」
 「いや、ボクは、別にネラってるとかじゃないし、そういうことは、勝負の対象にするようなことじゃないと思ってるから」
 「じゃ、いいの? オレ、取っちゃうよ」

 言いながらほくそえんだ達男の顔を思い出して、私は、身震いがした。
 まさか、あいつ……。
 不意に込み上げてきた不安に、私は、下りて来た峠の上を振り返った。

 青い月の光の中に、達男のブルーバードの白いボディが見えた。
 月の光は、運転席と助手席に並ぶふたりを、シルエットにして浮かび上がらせていた。
 目を凝らして、私は、そのシルエットを見つめた。
 右のシルエットが、左のシルエットに近づいたように見えた。
 左のシルエットは、一瞬、もうひとつのシルエットから離れたように見えた。
 離れたシルエットを、もうひとつのシルエットが追った。
 ふたつのシルエットは、運転席の助手席側で、ひとつに重なったように見えた。
 ブルーバードの赤いテールランプが、上下に激しく揺らいでいる。
 私の心臓は、早鐘のように打ち始めた。

       バラ

 麗子は、クルマの助手席で体を震わせていた。
 モヘアのセーターの上からショールを羽織っただけの上半身も、ひざ丈のスカートも、0度を下回ろうかという冷気を防ぐことはできない。
 ガチガチと体を震わせる麗子を見て、達男がダウンのジャケットを脱ぎながら言った。

 「麗子さん、これ、ふたりで着よう」
 「ふたりでなんて、ムリよ」
 「大丈夫。落語の《ふたり羽織》って知ってる?」
 「ウウン。なに、それ?」
 「ひとつの羽織をふたりで着るっていう芸なんだけどさ、それをちょっとアレンジしてみようか。そっちの袖に、左腕を通してみてくれる?」

 達男は、脱いだジャケットを後ろ前にして右袖を麗子に渡し、そこに左腕を通せと言う。
 麗子が左腕を通すと、反対側の左袖に、今度は、自分の右腕を通そうとした。しかし、そういう着方をするには、ジャケットの幅が足りない。

 「やっぱり、ムリか……。麗子さん、細いから大丈夫かと思ったんだけど……じゃ、こうしようか? 麗子さん、ちょっと腰を浮かしてくれる?」

 麗子が腰を浮かすと、達男は、浮いた麗子の腰の下に自分の腰をすばやく滑り込ませた。
 その体勢のまま、ジャケットの左袖に右腕を通し、空いた左手を麗子の腰に回した。

 「いいよ。脚、開いてるから、そのまま腰を下ろして」
 「エーッ!? ここに……?」

 ためらう麗子の腰を、達男が左手で抱きかかえるようにして、自分の脚の間に導いた。

 「もう少し深く座りなよ。スキ間ができて、冷たい空気が入ってきちゃうから……」
 「だって、近すぎるわ、これじゃ。あっ……」

 麗子が小さな叫び声を挙げた。
 腰に回した達男の腕が、麗子の腹部を締め付けるように伸びてきて、麗子の体をグイと抱き寄せたからだ。

 「もう少し離れて。それじゃ、くっつきすぎでしょ?」

 麗子のでん部に、達男の股間のふくらみが当たっていた。
 そのふくらみが、むっくりと持ち上がり、硬くなっていくのを感じて、麗子は身をよじった。しかし、麗子がもがくほどに、達男の左腕の締め付けは強くなっていった。

 何をする! 放せ、富田!
 揺れるテールランプを見て、頭の中に浮かんだ妄想に向かって、私は胸の中で叫んだ。
 よっぽど、クルマまで戻って、麗子の無事を確かめようか――とも思った。
 しかし、クルマからは、すでに1キロ近く歩いてきてしまった。
 いまから戻っても、麗子の危機を救うには間に合わないに違いない。
 それに、何もなかったら……?
 自分が戻って来たことを、ふたりにどう説明するのか?
 ここは、急いでふもとまで下り、ガソリンを持って戻ることを急いだほうがいい。
 私は、頭に浮かんだ妄想を振り払って、山道に足を踏み出した。
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