smile2キャンプの帰り、「寄って行くか?」と言う満の誘いに、
ボクはハンドルを切った。部屋には、ヘップバーンの
ピンナップが貼ってあった。満のおかずはこれか?
ボクたちは、恐る恐るおたがいの体に手を伸ばした―― 

 短編集・マリアたちへ   第14話 
明かりが窓に灯るまで〈5〉

 R18  ※この作品は純文学作品ですが、性的表現を含みます。18歳未満の方は、ご退出ください。
 ここまでのあらすじ  ボクは15歳で家を出て、下宿生活を始めた。受験校として知られるA学園に通うためだった。A学園は男子校だった。同じクラスに及川満という、目のクリッとした少年がいた。おたがいの部屋を行き来するうち、ボクの心は、この少年に惹かれていった。ある日、満がボクの下宿に泊まっていった。ひとつ布団で雑魚寝するうち、ボクの体は満の体の変化に触れて、つい、手で触れてみたくなる。満とボクと満の中学時代からの友人だという西田。それに森本が加わった4人で、ボクたちは、夏休みの直前、40キロほど離れたS市のK川にキャンプに出かける。「砂金採りに行こう」という目的だったが、結局、「砂金」は、ガセだった。その夜、テントで眠り込んだ満の股間に、西田が手を伸ばした。帰り道、満は、怒ったように自転車を飛ばし、分かれ道に来ると、ボクを部屋に誘った――
※この話は連載第5回目です。第1回目から読みたい方は、⇒こちらから、
 前回分から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。



 満の部屋のベッドの脇には、それまで見たこともないものが貼ってあった。
 たぶん、雑誌か何かから切り抜いたのだろう、オードリー・ヘップバーンの写真だった。

 「おっ、これ、『ローマの休日』やないか。おっ、こっちは『麗しのサブリナ』やな。なんや、ヘップバーンをおかずにしとんのか?」
 「おかず……? なんぞ、それ?」
 「つまり、アレをするときの……その……イメージ補助ゆうたらええか……」
 「アレ……って、こないだ、おまえがゆうてたことか?」
 「そうや」
 「きのう、西田たちがしたような……あれのことか?」
 「ああ……」
 「おまえも、自分でやりよん?」
 「ときどき……」
 「やっぱり……手でやるん?」
 「なんぞ。そんな細かいこと訊くなや。よう言わんがな、そんなん……」
 「な……」

 満の声の調子が、ちょっと変わった。
 ひそひそ話をするような秘密のトーンになった。

 「して見せてくれん?」
 「ナ、ナニ――ッ!?」
 「ワシも一緒にやるけん、おまえもやれや」
 「ア、アホな……」
 「な、してみせや……」

 言いながら、満の手が股間に伸びてきた。
 少しムズムズしていたボクのふくらみを確認すると、満はジッパーに手をかけた。
 もしもその手が、ボクにキェルケゴールや『新約聖書』や『共産党宣言』の魅力を説いた男の手でなかったら、ボクは即座に払いのけていただろうと思う。
 もしその指が、頬を紅く染めながら青春の意味を問う美しい少年の指でなかったら、ボクはツバを吐き捨てて、その場を立ち去っていただろうと思う。
 しかし、恐る恐るボクのジッパーを下ろしていくその指を、ボクは拒まなかった。

       クローバー

 ジッパーの中から取り出されたそれは、満の手に包まれたとたんに、ビクリと驚愕し、ためらいながらもムックリと充満していった。
 ボクも、手を伸ばした。
 満のジッパーを下ろし、ブロードのパンツの中に手をしのばせると、満の手も侵入者に驚いたようにピクリと反応した。
 「こういうふうにするんだよ」というつもりで、ボクは、硬くなっていく満の分身の、硬直のスジをなぞった。満の体が、ブルン……と震えた。みるみる充満していく満のそれが、少し愛しく感じられた。ボクはその充満を手のひらにそっと包み込み、ゆっくりと圧迫し、圧迫しながら上下に動かした。
 満も、同じようにボクを包み込み、恐る恐る手を動かした。
 ベッドサイドに貼られたヘップバーンが、大きな目を見開いて、ボクたちの行為を見ていた。
 最初は、その目を見つめ返していたが、やがてボクは、その目を満に移した。
 満の目は、ボクに向けられていた。
 目と目が合うと、満は照れくさそうに目を閉じた。
 おたがいの手の動きが速くなった。
 満の吐く息が荒くなり、やがてその体は、ボクの体に寄りかかり、顔と顔の距離が縮まり、そして、ボクたちは……。

       クローバー

 禁断の行為による悦楽が灰色の虚無へと転落していく中、ボクの虚ろな意識は、自分たちの行為の意味を自らに問いかけていた。

 これは、おぼれてもいい快楽なのか?
 それとも、禁じられるべき愉悦なのか?
 でなければ、本来の欲求の代用行為として笑ってすませる程度の、単なる遊戯なのか?

 そうだ、そうに違いない。そうでなければならない――と、ボクは思った。
 たまたま仲よくなった、手の届くところにいた及川満という少年が、少年にしては切なすぎる吐息を吐き、美しすぎる目でボクを見つめたがために、ボクの心が揺らいでしまっただけのことなのだ。
 そもそも西田たちが、ああいうふるまいに及ばなければ、自分も、満も、おたがいの体に手を伸ばしたりはしなかっただろう。
 そう思おうとした。
 しかし、満が発した言葉は、ボクが設定しようとした境界線を飛び越えてきた。

 「おまえのこと……好きやで、ワシ……」
 「何、言いよんぞ、お前……」

 言いながら、ボクは満の頭を撫で回した。
 撫で回しているうちに、また、あれがムズッ……となった。
 いかん――と、ボクは立ち上がった。

 「ワシ、帰らな。門限過ぎてしまう」
 「泊まっていけばいいやん」
 「うちの大家、うるさいんじゃ。無断外泊なんかすると、下宿、追い出されてしまうわい」
 「引っ越せや」
 「エッ……!?」
 「引っ越したらいいやん。いまのおまえの下宿、ワシ、ちょっと行きにくいし。もっと、自由に出入りできるところ、あるやろ?」

 考えてもいなかった提案だった。
 確かに、一般家庭の一部を間貸ししているいまの下宿は、自由を満喫したいボクにはちょっと窮屈だ――と、前から感じていた。
 ただ、その提案には、期待と同時に不安もあった。
 もし、そういう部屋に引っ越したら、ボクと満の関係はどうなるんだろう?
 きょうのようなことを、ボクたちは繰り返すことになるんだろうか?
 それは、許されることなんだろうか?
 しかし、ボクは結局、引っ越しを決断することになった。
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