花火1 R18 
本作品は性的表現を含みます。
18歳未満の方はご退出ください。


「死」を決意した少女と、
「死」を宣告された老人。
ふたりの旅の行き着く先は――?


 連載・遅すぎた花火   第6章 

父親に性的虐待を受け、母親に
「泥棒猫」呼ばわりされた少女は、
「てめェの力で稼いでみやがれ」と、
夜のバイトを強要されていたという。
事情を聴くため、里見は少女の友人、
野上ユキに接触した――。





クローバー この話は、連載6回目です。最初から読みたい方は、⇒こちら から、
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 ここまでのあらすじ  14歳の少女が姿を消した。同じアパートに住む65歳の男も姿を消した。少女は男に連れ去られたのではないか? そんな報道が飛び交い始めた頃、県境の河川敷で少女が保護された。男はすでに死んでいた。その男、篠原明彦は、生活保護受給中の身、しかも末期がんに冒されていた。そんな男がなぜ? 疑問に感じた『週刊リベラ』の宇田は、連れ去られた少女・八潮唯美とその母親、篠原明彦が住んでいた「コーポ松鶴」の管理事務所を訪ねた。しかし、そこで聞いた話は、「そんな人には見えなかった」という篠原に関する評判と、八潮一家についての黒い噂だった。宇田の部下・上村は、八潮唯美の中学校を訪ねた。そこで聞いたのは、唯美の母親・香奈のモンスターぶりだった。そして、もうひとつ気になったのは、唯美と仲がよかったという野上ユキの口から出た「唯美のバイト」という言葉だった。翌日、夕刊紙がスッパ抜いた《連れ去り少女、人気デリ嬢だった》の記事に、宇田は、八潮一家のアパートに飛んだ。その住人たちから語られたのは、唯美の父親が娘の体に手を伸ばしていた、という話だった。母親は、そんな娘をかばうどころか、「泥棒猫」となじった。行き場を失くした少女に、やさしく声をかけていたのは、連れ去り犯とされた篠原明彦だった――。


 校門から10メートルほど離れた電柱の陰で、上村里美は野上ユキの下校を待った。
 その間も宇田とは携帯で連絡を取り合って、八潮唯美が父親から性的虐待を受けていたこと、それを知った母親の香奈が娘の唯美を「泥棒ネコ」呼ばわりし、「テメェの力で稼いでみやがれ!」と、唯美に夜のバイトをさせていたことを知らされた。
 なんて親たちなんだ。
 聞けば聞くほど、体の中から怒りが込み上げてきて、里美は、何としてもこの親たちを告発してやる――という気持ちになっていた。
 しかし、親たちを告白するということは、娘である唯美が受けた仕打ちを、世間に公開することにもなる。そのことで、傷つくことになるかもしれない娘・八潮唯美の心情を思うと、胸は痛んだ。
 そんな思いでいるところへ、野上ユキが、スポーツバッグを担いで校門から出てくる姿が見えた。

 「ユキさん。野上ユキさん」

 里美が呼びかけると、ユキは、里美の体を避けて、通り抜けようとする。里美は、その前に回り込んで、肩に手を当てて押しとどめた。

 「離してください。わたし、何も話すことないし……」
 「あのね、ユキさん。違うの。私たち、唯美さんのアルバイトのことを書き立てようとか、思ってないの。ただね、唯美さんの家のことを、何か知ってたら、教えてもらえないかな、って思って。あのね、私たち、唯美さんって、もしかしたら親にいじめられてたんじゃないかって思ってるの。仲のよかったあなたなら、何か聞いてないかなぁ――って思ってさ……」

 ユキは、何かを探るように里美の目をのぞき込んだ。
 あんたたちおとなは、ウソをつくから――。
 その目がそう言っているように見えた。

 「協力してくれない? 私たちね、ほんとのことを知りたいの。そのほんとのことを書いて、悪い人はこらしめたいし、いい人は守ってあげたいの。このままじゃ、唯美さんはいけない子と思われたままになっちゃうでしょ? ユキさんも、それはいやでしょ?」

 挑戦するように里美を見ていた目が少し緩み、その首が上下に小さく動いた。

       

 「あの子……親に、イヤな仕事、やらされてる――って言ってた」

 野上ユキが、ボソリと口にした言葉は、宇田が聞き出したアパート住人の証言と符合していた。

 「ね、そのイヤな仕事って、もしかして、新聞に書いてあったような?」
 「新聞? それ、知らない……。なんかね、お店とか手伝わされてたみたい」
 「お店?」
 「あの子のお母さんが働いてたお店。そこで……酔っぱらったおじさんの相手とか、させられたりするって。あの子、チョーいやがってた」
 「そこってさ、どんなお店だって言ってた?」
 「お酒を飲ませる店。でもね、ときどき、クルマに乗せられて、どこか連れて行かれることがあるんだって」
 「どこか……?」
 「男の人の部屋とか……」
 「エッ!? じゃ……彼女、男の人の部屋で、エッチの相手とか、させられてたんだ?」

 野上ユキは、小さくうなずいた。
 話から想像されることは、唯美がふだんはホステスまがいの接待をさせられた上で、必要に応じて、宅配サービスにも回されていた――ということだ。
 まだ15歳にもならない実の娘を、そうして性的サービスに差し出す母親。里美には、八潮香奈という女が「鬼」に感じられた。

 「ね、いま、唯美さんは、どうしてるのかなぁ? 家にはいないみたいなんだけど……」
 「なんかね、お父さんのところにいるとか言ってた」
 「お父さんのところ? ね、ユキさん、唯美さんからお父さんのこと、何も聞かなかった?」
 「ウーン……」
 「何か、言ってたのね?」
 「ウン」
 「アパートの人たちがね、そのお父さん、唯美さんにイヤなことをしてたって言ってるんだけど、そのこと、ユキさんも聞いたことある?」
 「エッチなことばっかりさせる――って。ブッ殺したいって思うって。でも、それでも親だから……って。唯美、よく、泣いてた」

 それでも親だから――。
 唯美が発したという言葉が、里美の胸に突き刺さった。

       

 八潮唯美は、母親にフーゾクの世界に売り飛ばされ、いまは、自分に性的虐待を繰り返す父親の元にいる。
 では、母親は?
 そこから先の事情は、野上ユキにはわからないと言う。
 もう、こうなったら、直接、本人と会うしかない。

 「ね、ユキさん。いまも、唯美さんとは連絡とってるの?」
 「たまに、メールとか……」
 「おばさんさ、何とか唯美さんを助けたいんだけど、唯美さんと会うことってできないかなぁ?」
 「ウーン……わたしがどこかで会おうって言えば、もしかしたら、出てくるかもしれないけど……」
 「それ、メールとかで伝えられないかなぁ。あ、じゃ、こうしようか? ユキさんが唯美さんと会うことにして、私がそこにお邪魔するとか。偶然、会ったことにしてもいいし……」
 「いいよ、そんなの。わたし、だまし討ちするようなことしたくないし。だから、ショージキに話して、出てきてもらう」

 野上ユキは、まっすぐな女の子だった。
 里美が考えたおとなの知恵は、たちまち却下されてしまった。
 ユキはその場で携帯を取り出してメールを打ったが、すぐにはレスが返ってこなかった。
 親の目を盗んでメールするからなのか、いつも、返信には時間がかかるのだと言う。
 「メールが返ってきたら連絡する」と言う野上ユキに、携帯の番号とアドレスを渡して、里美はいったん、編集部に帰ることにした。
 『週刊リベラ』の1折(ニュース面)の締切まで、50時間と迫っていた。
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