smile2ショーちゃんペアを下した聡史と幸恵は、次に早川ペアを
迎え撃った。サーブが苦手な聡史は、幸恵に譲ろうとしたが、
幸恵は「お願い」と言う。しかし、そのサーブが入らない。
痛恨のWフォールト。幸恵は怒っているように見えた―― 

 短編集・マリアたちへ   第15話 
ボディショット〈4〉

 R18  ※この作品は純文学作品ですが、性的表現を含みます。18歳未満の方は、ご退出ください。
 ここまでのあらすじ  40歳でテニススクールに通い始めた海野聡史。同じクラスに、ライジングショットを得意とする有賀幸恵がいた。ラリー練習でそのショットをボディに受けた聡史は、その球筋にホレ、コーチから「くねくね打法」とからかわれるフォームに魅了された。その有賀幸恵には、夫がいた。それを教えてくれたのは、幸恵夫婦と学生時代からのテニス仲間だという早川亮だった。翌週、ラリー練習で幸恵とペア組んだ聡史は、豪球サーブの持ち主、17歳のショーちゃんペアと対戦した。見事なフォーメーション・プレーで相手ペアを下すと、幸恵が握手を求めてきた――
※この話は連載第4回目です。第1回目から読みたい方は、⇒こちらから、
  前回分から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。



 結局、「ショーちゃんペア」との対戦は、聡史たちの勝利になった。
 2ポイント目は、ショーちゃんのダブル・フォールト。
 ショーちゃんのサーブは強烈だが、正確さに欠ける。3ポイント目も、ファーストがフォールトとなり、緩くなったセカンドを聡史がパッシングで返したところを、拾ったショーちゃんの球がミス・ショットとなって、あっけなく3ポイント連取で決着がついた。
 そこまではよかった。
 ラリーは勝ち抜き戦だから、勝った海野・有賀ペアは残って、次のペアと対戦することになる。
 サーブ権は、勝ったチームに移る。聡史がもっとも苦手としているのは、サーブだった。聡史は、サーブを幸恵に譲って自分は前衛に回ろうとしたが、幸恵は、首を振った。
 「私、くねくね打法とか言われて恥ずかしいから」というのが、理由だった。
 仕方がない。ここは、男気を見せるしかない――と、聡史は肚をくくった。
 対戦相手は、早川亮と松下健一のペアだった。早川は、素直なストロークを打ってくるが、松下はスライス系のくせ球を打ってくる。まるで卓球のように手首を使って、ラケットをこねくり回してくる。気をつけるとしたら、その足元に緩い球を返してしまったときだ。

       クローバー

 1ポイント目は、珍しく聡史のファーストが決まって、サービス・エースを取った。
 2ポイント目は、ファーストが大きくオーバーしてしまい、かろうじて入れたセカンドを早川に強打された。
 早川のリターンは、幸恵のサイドを抜いてパッシングになりそうだった。聡史は、そのカバーに走った。しかし、幸恵は、そのリターンを拾った。
 しまった!
 カバーに走った聡史のサイドはガラ空きになっている。
 幸恵の返した球は松下の足元へと飛んでいき、松下はその球をドロップ・ショットでサイドラインぎりぎりに落とした。
 聡史も、幸恵も、一歩も動けなかった。
 「うまい!」とコーチの声が飛ぶ。
 「ごめん」と謝る聡史に、幸恵が「ドンマイ」と微笑みかけた。
 次のポイントは、何としても取らなくてはならない。サーブに向かう聡史の体に力が入った。それがいけなかった。
 ファーストは、大きくサービスラインをオーバーして、バックライン近くまで飛んでいった。
 いけない。弱くてもいいから、確実に相手のコートに入れなくては……。
 軽打しようと思ったのだが、ラケットに当てるだけになったボールは、力なく、ネットにかかって落下した。
 痛恨のダブル・フォールト。
 ポイント1-2。
 次のファーストも、フォールト。
 「あれれ……?」とコーチの声が飛んだ。
 もう、永久にサーブなんて決まらないんじゃないか……という思いが、聡史の体を支配した。
 トスアップする腕が縮こまり、トスの高さが足りない。よほど、やり直そうかと思ったが、3連続フォールトの後では、これ以上ぶざまな姿は見せられない。強引にラケットを振り下ろしたが、打点が低くなった。ボールは、勢いよくネットに突き刺さった。
 「あ~あ」
 コート・サイドから何人かが声を上げるのが聞こえた。

       クローバー

 テニスをやる人間にとって、ダブル・フォールトほどみっともないものはない。
 一緒にプレーするパートナーや対戦相手に対しても、これ以上失礼なことはない。それは、彼らから「プレーするチャンス」を奪ってしまう行為だからだ。
 有賀幸恵は怒っているに違いない。
 ベンチに下がると、聡史は幸恵に頭を下げた。
 「すみませんでした」
 「あ、全然。私もときどきやりますから」
 そう言いながらも、幸恵は目を合わせようとしなかった。
 そこへ、コーチのひと言が追い打ちをかけた。
 「有賀さんが、全然って言うときは、相当、怒ってるんですよ、海野さん」
 やっぱりな――と思った。
 最初のゲームで味わった至福の瞬間が、まだ聡史の手に残っていたその充実の感触が、次のゲームの「2連続ダブル・フォールト」で、霧となって消えた。ただ、消えただけじゃない。聡史の胸は、屈辱の黒い雲に支配され、足取りまでが重くなってしまった。
 レッスンが終わるときには、コーチがその日の練習で気づいたことをまとめ、今後の課題などを話して締めくくるのだが、その日、槍玉に上がったのは、聡史のプレーだった。
 「きょうは、すごくいいプレーとちょっと残念なプレーがありました。どっちも、海野・有賀ペアなんですけど、もう、ご本人はわかってますよね。最初のゲームでは、おふたりは素晴らしいフォーメーションを見せてくれました。ダブルスの場合は、ペアを組むふたりの間に、相手が打ち込むスペースを作らないように、常に、パートナーの動きに連動して動く判断力が必要になるんですが、海野・有賀ペアは、見事に息の合ったプレーを見せてくれました。常に、パートナーをフォローしようという気持ちが、ビンビンと伝わってきました。ダブルスのお手本のようなゲームでした」
 パチパチと、クラスの全員から拍手が起こった。
 「しか――し」と、コーチが続けた。
 「あれはいけませんでしたね、海野さん。ダブル・フォールトは、それだけでゲームが終わってしまうプレーです。パートナーも、対戦相手も、何もできないまま、ゲームが終わってしまいますから、絶対に避けましょう」
 「コーチがそんなふうに言うから、プレッシャーがかかるんですよ」
 からかうように、早川が言う。
 「試合になると、もっとプレッシャーがかかるんですよ、早川さん。ウインブルドンでも、ダブル・フォールトからゲームが崩れることがよくあるでしょ? ま、そういうわけなんでね、サービス練習のときから、とにかく2本のうち、確実に1本は決める。それを意識して練習するようにしましょう。ということで、きょうのレッスンは終わりにします。お疲れ様でした」

       クローバー

 とぼとぼと、コートを歩いてクラブハウスに戻っていると、パンと背中を叩かれた。
 有賀幸恵だった。
 「そんな、落ち込まないでよ。たかがダブル・フォールトぐらいで」
 「ありがとう。でも、たぶん、夢に出てくるかもしれない」
 「エーッ!? 夢にまで出てくるの?」
 「あと引くんですよね、ボクの場合」
 「夢見るんだったら、あっちのほうにしたほうがいいですよ」
 「あっちって……?」
 「ほら、ショーちゃんのロブを拾ってロブで返したあのプレー。あれ、感動的でしたよ」
 そんな話をしていると、後ろからやって来た早川が、幸恵を冷やかした。
 「あの声、色っぽかったし……」
 「ナニ? あの声って……?」
 「海野さん、お願~い! って叫んだでしょ。みんな、言ってたよ。有賀さんって、色っぽい声出すって」
 「もォ――ッ!」
 幸恵が手にしたラケットを振り上げたのを見て、早川は駆け出し、その後を幸恵が追っていった。
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